ソードアート・オンライン ~少女のために~   作:*天邪鬼*

40 / 109
横浜に住んでいる友達が、
俺も教室が理科室だった!!
って言った。
一方、東京の友達は、
俺はPCルームだ!!廊下にはウォータークーラーがあるんだ!!良いだろ~!!

これは差別なのか?


40話 反撃

黒い大理石のような台に、水色に光るキーボードが浮かんでいる。

俺がよく知っているパソコンのキーボードだった。

何故このキーボードが浮かび上がったのかは分からない。

 

「ユイは分かるか?」

 

俺はこの世界の一部であるユイに訊いてみた。

記憶などが曖昧でも何か分かると思ったからだ。

ユイがトコトコと一番後ろから前に歩いて来た。

 

「これは…………ッ!!」

 

「ユイ?」

 

ユイが黒石に恐る恐る触った時、ユイがいきなり黒石から手を引いて数歩後ず去る。

そして、頭を抱えてしゃがみ込んでしまった。

いきなりの事で一瞬、皆の動きが止まってしまう。

 

「ユイちゃん!?」

 

逸早く硬直を解いた木綿季が急いでユイに駆け寄った。

アスナとサチも後から駆け寄る。

俺を含めた皆が思わず黒石から一歩引き下がってしまった。

 

「あぁ………あぁ………」

 

ユイがその小さな体を小刻みに震わせながら呻く。

どう見ても異常な状態だった。

 

「何なんだよあの石………」

 

エギルが自分の斧を力強く握りしめている。

あの黒石に触れたユイがこうなってしまったのだから警戒するのは当たり前だろう。

 

「いや、少なくとも俺達プレイヤーなら触っても大丈夫だ。現に俺が触れても何とも無かった」

 

つまり、この黒石はユイがAIだった事が原因でユイに何等かの影響を及ぼしたのだ。

俺は然り気無くアイの前に出て庇うように立った。

 

「ありがとうございます………」

 

アイが俺にだけ聞こえるように言った。

俺は振り向いて笑いながら頷く。

この時、アルゴがアイを庇う俺を見てウンウンと何回も首を縦に振っていたのは無視する。

 

「ユイは大丈夫か?」

 

「まだ少しだけ震えています」

 

俺は木綿季に背中をさすってもらっているユイの方を見た。

最初よりは落ち着きを取り戻してはいるけど、完全回復まではもう少し掛かりそうな様子。

ユイの状況からして今すぐにでもこの場を離れるのが先決だ。

皆に船に戻ろうと言うべきなのだ。

しかし、俺はそれが出来ないでいた。

 

(何かある筈なんだ。あのキーボードが浮かび上がった黒石には何かがある筈なんだ)

 

冷静に頭の中を回転させる。

ユイの異常な状態はあの黒石が原因。

黒石に大きな怒りを心に宿しながらも俺は考えた。

それはアイも同じなようで背中からアイの独り言が聞こえてくる。

だけど、流石に情報が少なすぎる。

幾つかの予測は思い付くのだけど、どれも信用性と根拠がない。

俺達2人はイアーソーンの設けた”少しの間”と言う不確定なリミットに焦りを感じ始めた。

 

「コンソールです………」

 

「「え?」」

 

俺達が焦っていると不意に後ろから声がした。

俺が声がした方を向くとユイが木綿季に支えられていた。

まだ、調子が悪そうで無理して立っているのが分かる。

 

「ユイちゃん、コンソールって何?」

 

アスナが姿勢を低くして目線をユイの高さに合わせた。

ユイは頷いてから説明に入った。

 

「あの石はコンソールと言ってゲームマスターが緊急時、システムにアクセスする為の物です」

 

「システムにアクセス……………って事はここからSAO全プレイヤーをログアウト出来るのか!?ユイちゃん頼めるか!?」

 

クラインが期待を込めて言った。

しかし、ユイは顔を下に向けてしまう。

 

「無理です。私はバグの塊のような物。システムにアクセスした時点で即刻削除されてしまいます」

 

ユイの声は震えていてとても悔しそうだった。

自分の事をバグの塊と言ったユイは黒石に触れて何を思い出したのだろうか?

俺の疑問はアスナが尋ねてくれた。

 

「ユイちゃんは何を思い出したの?」

 

「………この場所と私の事です」

 

ユイは未だに下を向いたまま答えた。

言うのを躊躇っているように見えるユイ。

けれども、何かを決心したのか顔を上げて語り始めた。

 

「まず、この場所………と言うよりこのクエストその物がバグなのです。溜まったバグを一気に片付けようとカーディナルシステムはクエストと言う形で消化しました」

 

(バグって………ただ削除したり修正すればいいんじゃないか?カーディナルが溜め込む程のバグって何だ?)

 

俺はユイの言ったバグに疑問を抱いたので独りでに考えた。

顎に手を当てながら考えられるバグを頭の中に並べていく。

………カーディナルが溜め込むようなバグは無いと思うが。

 

「私はMental Health Counciling Program。プレイヤーの精神ケアを行うカウンセリング用のAIでした。しかし、SAOが開始された直後私はプレイヤーとの接触を禁じられました………」

 

「…………誰からだ」

 

思わず冷たい言い方でユイに訊いてしまった。

ユイがMHCPだと言うことは予測していたけど、その後の接触を禁止命令が気になったのだ。

皆静かにユイの話を聞いていたので俺の声は一段とよく響いた。

 

「キリトさん?」

 

「キュル…………?」

 

シリカが俺の事を呼んだ。

ピナも俺を呼んだ気がした。

怯えているのは明らかだった。

今の俺は相当怖い顔をしているのだろう。

怒った時のアスナとは別種の怖さだと思う。

 

「茅場 昌彦です。カーディナルシステムが命令した訳ではありません」

 

「…………ごめん。続けてくれ」

 

今のユイの返事で分かった事がある。

ユイは俺の事を知っている。

恐らくアイの正体も見破った。

カーディナルが俺の娘だと分かっていたからユイは、カーディナルシステムでは無い、っとわざわざ言ってくれたんだ。

その証拠にユイの頬が一瞬緩んだのを俺は見逃さない。

 

「SAO開始時の異常な負の感情。プレイヤーの前に現れて心のケアをしなければならないのに、接触を禁止されているという矛盾。この矛盾がバグとなってしまったんです」

 

「負の感情がバグに………」

 

負の感情がバグになる。

考えずらいがそれが真実。

そして、バグは溜まり続け遂に限界が訪れた。

人の感情バグを削除するのは人。

それがカーディナルの結論だったのだろう。

 

「俺の腕が戻らなかったのはバグのせい。時々現れる高性能AIはバグの影響って事か」

 

「はい。腕を治せたのはバグを私に移したからです」

 

俺は顔をしかめ、拳を握る。

腕を再生させた代償がユイのバグを増幅させる事と分かり自分が許せなくなった。

いくら知らなかったとはいえ、只でさえバグが溜まっているユイにそんな負担を掛けてしまうなんて………

 

「クエストがクリアされたら。ユイちゃんはどうなるの?」

 

ユイを支えている木綿季が口を開いた。

 

「同時にバグ処理完了って事で削除される、または最初と同じようにシステムの中でバグを溜め始めるかです」

 

ユイは木綿季に向かって哀しそうに言った。

負の感情を溜める事がどのような事なのか、俺には分からない。

けれど、それはMHCPのユイにとって物凄く辛いことであるのは分かる。

 

「そんなッ!!」

 

「どうにか出来ないの!?」

 

常にほんわかしているサチが口に手を当てながら涙を滲ませる。

リズはユイに必死で問い詰めた。

 

「私が助かる方法はありません。それに皆さん、私は()()()AI。今話している言葉、今浮かべている表情は偽物なんです………」

 

ユイは涙を流しながら再度顔を下にした。

瞳から零れ落ちた涙がユイの足元に落下していく。

 

「偽物なんかじゃない!ユイちゃんが向けてくれた笑顔をボクは偽物とは思わない!!」

 

木綿季はしゃがんでユイの肩を掴んだと思うと大きな声で叫んだ。

その叫びにアスナが続く。

 

「そうだよ!買い物中のユイちゃん、心から楽しそうだったじゃない!!」

 

ユイは驚いた様子で顔を上げた。

涙を流し終わっていないのでユイの目からは涙が流れ続けている。

 

「理解出来ません………」

 

ユイは両手で必死に涙を拭きながら呟いた。

 

「私は只のAI………全てが偽物なのに………何で優しいんですか………?私が………皆様の前から消えるのは………決まっている事なのに………何で………?」

 

「決まって何かいないよ!」

 

木綿季が泣いているユイを抱き締めて宥める。

皆、どうにかしてユイをこのシステムから救いだそうと考えている。

勿論、俺もだ。

そこで、俺はある事を思い付いた。

 

「アイ、ちょっといいか」

 

「何で___」

 

俺はアイが返事の最中にも関わらず思いっきりアイを抱き締めた。

寝ている時は起こさないように優しく抱き締めていたけど、今は起きているので力の限りギュ~~~!!!ってした。

ギュ~~~!!!って!!

 

「ちょ、え!?パ……和……キリト様!?」

 

俺の突然の行動にアイは勿論の事、真っ赤になっているアイの声で俺を見た皆が唖然とする。

まぁ、端から見れば単なる変態行動に見えるのは俺も理解しているからな。

 

「ん~………よし!!」

 

俺は満足した所でアイを離した。

アイを見てみると口を鯉のようにパクパクさせながら目を回していた。

 

「よしっテ………キー坊はこんな大事な場面で何をしてるんダ?」

 

「充電かな?」

 

苦笑いをして俺に尋ねたアルゴに向けて、不敵に笑ってやる。

そして俺はユイの側に近づいた。

 

「なぁユイ。ユイがあのコンソールでシステムにアクセスしたら、どのくらいで削除される?」

 

「え?えっと………2分程です」

 

訊かれたユイは慌てながらも答えてくれた。

 

「か………キリト?」

 

不思議そうにしている木綿季に頬笑みを向けてから、俺は大きく深呼吸をする。

森の影響なのか、いつもより空気が美味しく感じた。

 

「俺を信じてくれるなら、ユイを助けられるかもしれない」

 

「私をですか………?」

 

木綿季やアスナ、他の皆の顔が一気に明るくなった。

しかし、俺は皆の明るい顔を暗くしてしまうかもしれない。

 

「システムにアクセスした瞬間、カーディナルシステムとユイのデータを切り離す。その後にユイのデータを俺のナーブギアのローカルメモリーに保存する」

 

「キリトのローカルメモリーに?そんな事出来るわけ無いでしょ。あんたね、真面目に考えなさいよ!」

 

俺の考えていた通り、皆の顔が暗くなってしまった。

最初よりも更に暗くなってしまう。

希望が見え、その希望が無くなると元の時より落ち込むのは人として当たり前。

だけど、木綿季、アイ、アルゴ、サチ、そしてユイ。

俺の事を知っている奴は暗くなったと言うより驚いて戸惑っている。

まぁ、俺も正直言いたくないけど言わないと試させてもらえないだろうからな。

それに、アイで充電したから多少の重圧は大丈夫………だと思う。

 

「出来るさ、俺が造ったシステムなんだからな」

 

俺の突然の告白に静かな時間が訪れる。

森の木々が風で揺れる音しか、俺には聞こえない。

視界に入るのは驚きを隠せない仲間達。

え?嘘でしょ?冗談でしょ?な顔と、あのコミュ障が自分で言った!!の2種類の驚き方が見てとれる。

 

「………あ、あのコミュ障が自分で言っタ!?」

 

「おい」

 

アルゴが失礼な言葉で沈黙を破った。

しかも、俺の考えていた事と全く同じ驚き方だったので逆にこっちが驚いてしまう。

いつかアルゴの大っ嫌いな犬を使ったドッキリを決行してやる。

 

「おい、キリトがこのシステムを造ったって?それが本当ならキリトがもう一人の天才なのか?」

 

当然の疑問を大人のエギルが俺に訊いてきた。

俺は黙って頷く。

エギルはありがたいことにそれ以上は訊いて来なかった。

今の確認だけで色々と察してくれたらしい。

これが大人の対応かと感心してしまう。

次の質問はアスナからだった。

 

「にしても、歳がおかしくないかしら?キリト君は何歳の時にシステムを造ったと言うの?見たところ十歳半ばでしょ?」

 

アスナの視線が厳しくなった。

冗談を言わないで!今なら許してあげるわよ、と視線で言っている。

以前の俺なら光の速さで逃げ出す所だった。

俺は成長したのか?

と言っても、精神HPはアイのバフを受けていてもガリガリと削られていく。

 

「おかしくない。俺はカーディナルシステムを14歳の時に造りあげたんだ」

 

俺は正真正銘14歳の時にカーディナルシステムを造った。

不思議がられても他に言うことが無い。

 

「アスナ、本当の事だよ。ボク、アイちゃん、アルゴが証人」

 

「私も知ってるよ」

 

木綿季の説明にサチが言い加える。

サチを見てビックリしていた木綿季だったけど、すぐに笑った。

アスナは何故か溜め息を吐いた。

 

「キリトさんが………」

 

「コミュ障のあんたがねぇー…………」

 

シリカとリズが俺の足から頭までをジーっと観察してきた。

じわじわと精神HPが減少していってしまう。

今の精神HPは丁度半分を切ったぐらい。

 

「ま、キリトのコミュ障を考えるとそりゃ隠すよな。茅場へのイライラをキリトに向ける奴も居ただろうし」

 

世界中の人間がクラインぐらい心が広ければと思ってしまう。

犯罪なんて無くなって平和な世界が訪れるであろう。

………平和だけど駄目な世界になりそうだ。

ん?前にも同じ事を考えたような…………デジャブか。

 

「意外とすんなり信じるんだな」

 

クラインは信じてくれると思っていたけど、リズとかが普通に信じるとは思わなかった。

軽く一悶着あるかと思っていた。

なんと言うか………信じてくれて嬉しい。

 

「キリトがそんな大嘘をつく度胸が無いのは分かってるのよ」

 

「リズ様はよく分かっています。キリト様がへたれである事を」

 

「うっ………」

 

アイから倒置法での罵倒が結構心にぐさりとくる。

やばい、HPが1割ぐらいになった。

アイの攻撃がどんな精神攻撃よりも堪える。

物理的にも精神的にも強いアイって本当にチートだと思う。

 

「とにかく!ユイが信じてくれれば可能があるって事!」

 

俺はユイに言った。

そもそもユイが俺を信用してくれなければ元も子もない。

 

「親を信じない子供何ていません!!」

 

ユイは涙を拭き取ってかっこよく俺を見つめた。

うん、親なら子供の期待に答えなければならないよな。

 

「よし、本気出すか」

 

久し振りのPC。

腕が鈍ってないか心配だが、そんな事考えている場合じゃない。

やらないといけないんだ。

 

「それとユイを切り離すのは多分出来る。俺はその後に試したい事があるんだ」

 

「試したい事?」

 

可愛らしく首を傾げる木綿季に俺は真剣な表情で伝えた。

 

「全プレイヤーをログアウトさせるのは不可能だけど、ログアウトアイテムを出来るだけ製作する」

 

はい、今日2発目のビックリ発言にまたもや沈黙の時間がやって来た。

今回のは流石のアイも驚いたようで口をぽけーっと開けて固まっている。

そんな自分が作った沈黙の時間を自ら解いてあげた。

 

「でも、作れたとしても数は分からない。1個かもしれないし10個かもしれない。それにログアウトアイテムなんてイレギュラー過ぎるからすぐに使わないと削除されると思う」

 

本当なら全プレイヤーをログアウトさせて茅場さんの計画を破壊したいのだけれど、ハッキングのようにシステムにアクセスするのでカーディナルが見過ごす筈がない。

 

「キリト君………無理はしないでね。それのせいでキリト君が消されちゃうのは嫌だよ」

 

アスナの目は潤んでいた。

皆も同じ気持ちなのか心配そうに俺を見てくる。

 

「大丈夫。その………と、友達を悲しませたりはしないから………」

 

何で俺はこんな事を言ったんだろう?

俺は言ってる最中に小っ恥ずかしくなってそっぽを向いた。

しかし、向いた先が間違いだった。

ニヨニヨアルゴとおめめとおめめがこんにちはした。

 

「さ、早速やるぞ!!」

 

俺は全力で誤魔化した。

自分でも何を誤魔化したのかは分からないけど、とにかく誤魔化した。

 

「はい!!」

 

黒石の前に向かった俺の後ろをユイが付いてきた。

アイをもう一度ギューってしたい………

出来れば木綿季も………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんにゃろっ!」

 

ユイをシステムから切り離す作業は想像以上に難しかった。

普通に切り離そうとしたらユイのデータがロックされていたり、ロックをすり抜けようとしたら危うく強制的に排除されそうになったり。

まぁ、それでも難しいだけで無理では無い。

俺は毒を吐きながらも作業を進めた。

 

「移して………ってどうだ!!」

 

エンターキーを押してユイのデータを俺のナーブギアのローカルメモリーに移す。

空中に出ている画面にゲージが表示される。

10%、20%、30%と着実にユイのデータが転送されているのが見て分かる。

ゲージが青に染まっていく。

 

「次は………!!」

 

100%になるまで待てる訳もなく俺はアイテム製作ツールを開く。

現時点で残るタイムリミットは1分を過ぎたところ。

打っていると分かるがやっぱり鈍っている。

 

「スゲー………」

 

後ろからクラインの声が聞こえた。

俺のキーを打つときの速さに驚いたのか?

でも、俺にとっちゃまだ遅い。

速く、もっと速く、指のグラフィックが俺の動きに付いて来れなくなるぐらい速く!!

 

「デザインはランダムにしてー………!!」

 

デザイン、耐久性、大きさ、など細かい物は全てランダムにする。

これで超でかいスライム型のアイテムになってもログアウトが出来るなら致し方無し!!

残り30秒。

 

「データ転送完了!アイテム化を実装………!!」

 

丁度、ユイのデータがローカルメモリーに移ったのと同時にアイテム化が始まる。

もう、こっからは俺の出来る事は何も無い。

カーディナルにアイテム化を止められるまでアイテムは作り出され続ける。

強いて言うなら出来るだけ遅くに気付けと祈る事が俺に今出来る事。

 

「頼むぞ………」

 

俺は真後ろに倒れこんでしまった。

ハッキング擬きの状態でこんな作業をするなんて考えたことがないからな。

 

「っと、お疲れさん!」

 

「後は待つだけか」

 

俺はクラインとエギルの男2人組に支えられた。

疲れ過ぎて第1層の雑魚モンスターにさえ勝てそうもない精神状態なので凄く助かる。

 

「パパ、私は………」

 

「俺がログアウト出来たらユイも同時にSAOから出られるよ」

 

俺は何となくピースサインを出してみた。

ユイは満面の笑みになって近くにいたアスナに飛び付いた。

あれ?ユイに一番近かったのは木綿季だった筈じゃ………

 

「凄いよ~!!」

 

「のあっ!?」

 

背中からやって来た謎の抱擁を受けて俺は前につんのめる。

何とか転びはしなかったけど心臓が飛び出るかと思った。

 

「キリトはやっぱり凄いよ!!」

 

後ろから抱き付いて来たのは木綿季だった。

身長差を考えてジャンプして飛び付いたらしい。

それにしても相変わらず男性への警戒心が無さ過ぎる。

胸のプレートが無ければ木綿季の大事な物が背中に押し付けられていただろう。

 

「後はログアウトアイテムだけ」

 

「そうだね!!」

 

顔が近かった。

木綿季の息が耳元に感じる。

ここが現実だったら俺の心臓はどうなっていたのだろう?

もし、この場に俺と木綿季しか居なかったとしたら迷わず押し倒していたかもしれない。

…………………想像するな妄想するな考えるな押し倒した時の木綿季のイメージ映像を頭から削除しろ!!

これはのみのぴこのすんでいるねこのごえもんのしっぽふんずけたあきらくんのまんがよんでるおかあさんがおだんごをかうおだんごやさんがおかねをかしたぎんこういんとぴんぽんをするおすもうさんが____

 

ビィー、ビィー、ビィー

 

俺が煩悩を振り払っていると黒石の上に浮かんでいる画面から警報が鳴った。

遂にカーディナルがハッキングを発見してハッキングの強制終了を開始したらしい。

それと同時に黒石の前に幾つかの小さな光が現れた。

ログアウトアイテムだ。

 

「えっと………」

 

俺は地面に落ちた光の欠片を確認する。

形はエメラルド色をした丸い宝石だった。

大きさは幸いにも手のひらサイズ。

この豊かそうな森にピッタリなアイテムになっていた。

しかし、

 

「9個だけ………」

 

数が足りない。

俺が作り出したかったのは10個。

このクエストメンバーだけでもログアウトさせたかったのに………

ログアウト用アイテムを作り出す事に成功した喜びもつかの間、1個足りないというベタな展開に俺の膝は折れた。

 

「………このアイテムって持って帰れないんだよね?」

 

木綿季が抱き付くのを止めて俺の隣にしゃがんだ。

反対隣にはアイが静かにしゃがむ。

 

「ああ、早く使わないとカーディナルシステムに消される可能性が高い。とてもじゃないけど持って帰るのは………クソッ!!」

 

俺は地面に拳を叩き付けた。

俺がもっと速くユイのデータを移す事が出来れば、俺がもっと速くアイテムを製作出来ていたなら、残りの1個を間に合わせる事が出来た筈だ。

自分の力の無さに腹が立つ。

 

「1人残るんだったラ、これは使わない方が良いナ」

 

「そうですね。ちょっと残念ですけど、1人置いていくくらいなら」

 

皆同じ意見。

ここのメンバーは絶対に仲間を見捨てない。

何があってもだ。

なら、自分から離れればいい。

 

「いや、俺が残る。皆が使ってくれ」

 

「おい、キリト!!」

 

俺は感情を圧し殺して言った。

止めてくれようとしているのはクラインかな?

正直言うと戻りたいという気持ちはある。

だけど、それよりも木綿季を助けたい、アイを助けたい、友達を助けたい。

その気持ちが遥かに上回っている。

ユイには迷惑を掛ける事になるけどそこは妥協してもらうしかない。

すると、木綿季が宝石から俺の方を向いた。

 

「次、そんな事言ったらボク達絶交だよ」

 

「ッ!!」

 

木綿季の声と視線は凄く冷たかった。

いつもの木綿季からは考えられない声音。

木綿季の変貌に俺は息をするのさえ忘れた。

 

「ボクを1人にしないでよ………」

 

っと思ったら木綿季の目が潤み始め、声が弱々しくなった。

木綿季が俺の手を握る。

この時、俺は木綿季との約束を思い出した。

第4層の夜にで交わした約束。

あの大切な約束を忘れてしまっていたなんて………

 

「でも…………」

 

「私が残るわ」

 

俺は驚いて後ろを振り返った。

後ろではアスナがユイの頭を撫でながら笑っていた。

撫でられているユイも驚いて目をまんまるにしている。

 

「駄目よアスナ!このアイテムは使わない方が良いわよ!!」

 

アスナの親友が当然止めに入った。

しかし、アスナは表情を変えない。

 

「キリト君。もし、10個作れたとしても私はここに残るつもりだったよ」

 

「な……んで?」

 

俺は訳がわからずアスナに問い掛けた。

 

「だって、いきなり攻略組の中でもトッププレイヤーのキリト君達が急に居なくなったらおかしいでしょ?事情を説明しないと混乱が起こるわ」

 

「………」

 

考えてもいなかった。

何がなんでもここに居るメンバーだけを助けようとして他のSAOプレイヤーの事を想定していなかった。

深縹の舞姫、従者、閃光、それに風林火山のクラインだっている。

攻略のペースが落ちるに決まっているじゃないか。

 

「正直言って、ここに居るメンバーの中で一番立場が高くて発言力もあるのは私よ。無理矢理にでも納得させてやるわ。それに、このアイテムを使わないなんて勿体無いじゃない」

 

アスナは的確に正論を言ってきた。

正論過ぎて反論が出来ない。

感情論で対抗しても無駄だろう。

 

「でも、それだとアスナが………」

 

結局、感情論さえも言えず口を濁すだけになってしまった。

反論出来る者がこの場には居ない。

 

「それに、キリト君達には外から私達を救って欲しいの。中からは私、外からはキリト君達がこのゲームを攻略するの。勿論、私は死ぬつもりないからね」

 

既にアスナが残る事を前提に話が進められていく。

もう、止められない所まで来ているのを直感する。

 

「………本当に死なないよな?」

 

「キリト君も分かってるでしょ?私は閃光よ!」

 

アスナの顔を見て安心してしまった。

自信たっぷり死ぬ事なんて有り得ない。

外から俺達が何らかのチャンスを与えてくれると信じている。

 

「エギル、アイテムを纏められるアイテム持ってたよな?」

 

「ああ、持ってるぜ………ってキリトお前まさか!?」

 

俺は立ち上がって背中にある2本の剣を外した。

そして、ずっしりと重い2つの剣を鞘に納まったまま地面に突き刺した。

 

「この剣を攻略組の誰かに渡してくれ。絶対に役に立つからさ」

 

「………ならボクはこれをアスナにあげる!!」

 

木綿季は腰にぶら下がっていた剣を外してアスナに差し出した。

 

「部類的には片手剣であって細剣でもあるからアスナのソードスキルも使える筈だよ。残念ながら絶剣スキルは使えないだろうけどね………」

 

「では、私はこの剣を攻略組の誰かに。所有者によって属性が変わるので注意してくださいね」

 

アイも自分の愛剣を俺と同じように突き刺した。

 

「~!!本当は反対なんだけど仕方ないわね!私からはこれよ。そこらのハンマーよりは性能が良い筈よ」

 

リズがメニューから出したのは鍛治用のハンマーだった。

銀色に輝くハンマーは業物を沢山作ってくれそうだ。

 

「んじゃ、俺はこの刀だ!!」

 

クラインはかっこよく愛刀を地面に刺した。

普段だったらカッコつけるなよとか言うのだが、今は本当にかっこいいので言わない。

 

「ったく、ほらこの布の上に乗せろ。纏めて運べるからよ」

 

エギルが大きな布を取り出した。

魔法が存在しないSAOの中で数少ない魔法みたいなこのアイテム。

上限はあるけど、上限内ならどんな荷物も軽く運べる優れ物。

 

「オレっちからはこいつをやろウ。オレっちが知っている全ての情報ダ。悪い事には使うなよナ」

 

物凄い量の紙束がオブジェクト化した。

アルゴが自分で全てを書き留めていたらしい。

想像も出来ない程の価値がある物だ。

 

「す、すいません。私からも何か差し上げたいのですが………私は何も持ってなくて………」

 

「キュルル………」

 

「残念だけど、私も………」

 

シリカが申し訳なさそうに頭を下げるとピナもそれに合わせて首を下げた。

サチも残念そうにしている。

 

「気持ちだけでも嬉しいよ!!」

 

アスナが2人の手を握った。

シリカとサチ、ピナは嬉しそうに顔を上げた。

 

「アスナさん、頑張って下さいね!!」

 

「うん!頑張るよ!!」

 

ユイの応援にアスナは両手で可愛くガッツポーズをした。

一時の別れが少しずつ近づいてきている。

まだ、俺が残った方が良いのでは?と思う気持ちがあるけど、俺には現実からこのゲームを終わらせないといけない。

 

「そろそろだな」

 

俺が言うと皆は黙って頷いた。

最後に俺達はアスナへ全財産を送った。

9人分の全財産はそれはもう大金だろう。

家にあるコルも使えたら使っていいと言ったのでそれはもうヤバイ。

俺達がログアウトしたらどうなるか分からないけど、使えたらいいなと思う。

 

「使い方はログアウト!って言った後に自分の名前を言うだけだ」

 

アスナ以外の皆にエメラルド色の宝石が渡り、いよいよという空気が流れる。

 

「ログアウト後はどうにかして俺が連絡するから待っててくれ。勿論、連絡が貰える状況だったら何らかの行動を起こしてもいい」

 

「そんなのあたりまえでしょ!」

 

リズに怒られてしまった。

でも、これは確認だ。

行動を起こさない奴なんていないだろうしな。

 

「キリト君、信じてるからね」

 

「………俺だけじゃないだろ?」

 

「うん、そうだね。皆、あの茅場昌彦をギャフンと言わせよう!!」

 

アスナが拳を天に突き上げた。

俺達も合わせて拳を突き上げる。

そして、俺は言った。

 

「反撃の開始だ!!」

 

「「「「「「「「「「おう!!!!」」」」」」」」」」

 

「ログアウト!キリト!!」

 

あの時みたいに俺を青い光が包み込む。

一瞬の浮遊感。

意識が段々薄れていく感じがある。

 

「頑張ってね。キリト君」

 

薄れていく意識の中で俺は笑って俺を見ているアスナが目に入った。

俺は不敵に笑ってアスナを見た。

アスナが俺の事を見えたかは分からない。

俺の意識は途切れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を覚ますとナーブギア越しに白い天井が見えた。

事故から目が覚めた時を思い出す。

俺がログアウト出来たんだ、他の皆もログアウト出来たに違いない。

俺は筋肉が落ちて動かし辛い右腕を天井に伸ばした。

 

「反撃の開始だ!!」




誰がこの展開を予想出来ただろうか!!
数あるソードアート・オンラインの二次創作でこの展開は自分が初めての筈!!
凄くね!?これ考えた自分を褒めたい!!
まぁ、読んで下さる皆様が楽しんでくれたかは分かりませんが、楽しんで下されば嬉しいです!!
では、次回からSAO現実編!!
果たしてキリト君はどう動くのか?アスナさんはどう攻略を進めるのか?こうご期待!!

そして、評価と感想お願いします!!

過去最多文字数!!
初の一万以上の文字数!!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。