リッカの
”ブラッドレイジ、発動!!”
あの声が自分の中で凄く好きです!!
「起きましたか?」
「ま、まだ寝てるよ!!」
アルゴー船のとある一室。
今回の長時間クエストで疲れた時に使うこの寝室には早速1人の少年がぐっすりと眠っていた。
ボクは彼の寝顔をもう1時間ほど眺めていた。
和人は見れば見るほど綺麗な顔立ちなので嫉妬してしまう。
ボクは顔を近づけて頬を膨らましてみる。
そんな時に、アイちゃんが寝室に入ってきたのでボクは背筋をピンっと伸ばして誤魔化した。
彼氏の顔に嫉妬するか、彼女ってどうなんだろね?
「腕が治らないのは不思議だけど、ただ寝ているだけだよ。………妖精さんは?」
「大丈夫ではあるんですが………常にオロオロしているのでサチ様1人が付いてもらっています」
和人がお姉さん妖精から必死で逃げながら連れて(誘拐して?)きた女の子の妖精さん。
和人に何が起きたかを知ってると思ってボクが質問すると妖精さんは半泣きで、ごめんなさい!っと何故か謝られてしまった。
ボクは結構ショックを受けたので、そのショックを癒すために和人の顔を見つめていたのだ。
「それにしても3人おいてきちゃったね」
有名なヘラクレスさん、巨人さん、それに美少年さんを思い浮かべながらボクは申し訳ない気持ちになってしまう。
「問題無いですよ。現実の神話でもおいてきてますしね」
「そ、そうなんだ………」
アイちゃんは素っ気なく答えた。
余りの素っ気なさに少し引いてしまうほど。
和人>友人>知り合い>他人
からかったり悪戯したりするけど、結局は和人絶対主義者のアイちゃんにとって3人はどうでもいい人達なんだとボクは思う。
まぁ、ボクも和人絶対主義なんだけどね。
『あと1時間ほどでトラキアに到着する。各自用意をするように』
いきなりのイアーソーンの放送で和人を眺めながら呆けていたボク達は見合わせた。
「皆の所に行こっか!!」
「そうですね」
ボクはアイちゃんに手を差し出した。
アイちゃんもボクの手を取って笑ってくれた。
娘と手を繋いでボクは皆が居る部屋に行く。
ボクの当面の目標、
”アイちゃんにボクの事をママと呼ばせる!!”
このクエスト中には呼ばせて見せる!!
ボクは握る手を強めながら心に決めた。
トラキアの街はイルオルコスよりも田舎ぽかった。
スラムって訳ではないけど豪華でもない。
木造の建物が多くある事でそう感じさせているのかな?
そんな、トラキアのお店にはキラキラ光る置物が幾つも売られていた。
「キラキラですね」
「これは、金細工かしら?」
目を輝かせているシリカちゃんを隣にアスナが呟いた。
指輪にペンダント、それに動物のアンティーク。
全部が金色に光っていて眩しいくらい。
サチ、リズ、それにアルゴまで金細工を眺めている。
それもそのはず、こうゆうアクセサリーとか置物はボク達女の子にとって凄く魅力的。
………でも、その女の子の気持ちを全く分かってない男性陣が
「女の子はこんなキラキラしているのが好きなのか?」
現実よりも耳が長いうさぎのアンティークをじーっと見ながらクラインが考え込んでいる。
何が良いのか全然分かっていないみたい。
だから、振られちゃうんだよ!!
「俺はどうしても商売の事を考えちゃうな」
エギルは顎に手を当てて店に並んでいる金細工を1つ1つ見比べている。
顔は商人の顔になっていて現実で言う目利きをしてるんだと思う。
クエストから帰ったら売る気だね。
「キリトならそんな事言わずに”綺麗だね”ぐらいは言えるよ!!」
ボクは我慢ならず地団太を踏んで2人に言った。
和人はトラキアに着くまでに目を覚まさず今もベットの上で寝ている。
このままあの時みたいに目を覚まさないかもしれない?って心配になったけど、…………ねこまたん………こんな寝言を言われたら心配したボクが馬鹿みたいだよ………
どんな夢か気になったけど。
「あいつの価値観は少し女の子に似ているからな」
「うっ………」
クラインの返しにボクは言葉を詰まらせる。
だって、本当なんだもん。
昔からケーキが好きだし動物好き。
アイちゃんによれば現実で和人はずっと家の事を全てこなしていたらしい。
専業主
「マ、キー坊はカッコイイ所もあるからナ。女性、男性、キー坊ダ!」
ニャハハハ!!っと鼠の天敵である猫の笑い方でアルゴは笑った。
違いねぇっとクラインとエギルもわっはっはっはっと笑う。
この3人仲良いね。
「あ、あの………」
「ん?」
そんな時、ボクは裾を引っ張られて隣を見た。
長すぎるローブで歩きにくそうになっている黒髪ロングの少女、正体は和人が連れてきた妖精さん。
寝ている和人以外にボク達プレイヤーが居ない船にイレギュラーの妖精さんを1人にするのはどうかと思って連れてきちゃった。
常にアイちゃんが側に居るから安心だしね。
因みに和人の部屋には鍵が掛かっているし、鍵もボクが持ってるからそちらも安心。
妖精さんと和人を一緒にするのもちょっと心配だしね。
どちらもコミュ障だし………………
妖精さんの隣にアイちゃんは少し嬉しそうにニコニコしている。
「人間の性別は女性と男性ですよね………?キー坊と言う性別は無い筈ですが………」
「冗談!冗談!キー坊はあだ名だよ。ほら、妖精さんを連れてきた男の子」
ボクは少ししゃがんで妖精さんと同じ顔の高さで答えた。
元々身長が低いボクは本当に少ししゃがんだだけで顔が同じ高さになる。
なんか悲しいよ………
「なるほど、冗談ですか」
妖精さんはフムフムと頷いて納得していた。
必要無いとは思うけど一応着る事になったローブがピクピクと動いた。
背中の羽が犬の尻尾のような仕組みで感情を現してるみたい。
「そこ!!さっさと行くぞ!!」
ずっと前を歩いているイアーソーンがボク達に一喝した。
イアーソーンの愚痴を溢しているリズを宥めながらボク達は前に歩きだす。
「頼む………わしを助けてくれ………」
「うわぁ………」
イアーソーンに連れられて来たのはトラキアに立てられた大きなお城。
外観はとても綺麗なお城でネズミーランドにあるお城に少し似ていた。
しかし、中に入るとボクはガッカリした。
ボクだけじゃなく女の子皆はもちろん、男性2人も流石に拍子抜けだと肩を落としている。
城の中は窓が殆どなくて廊下では蝋燭の火が不気味に揺れていた。
そして、今ボク達と他に数人のNPCがいる王の間では蝋燭ではなく、まるでキャンプファイヤーのような大きな火が燃え盛っていた。
王の間はお化け屋敷みたいで怖い。
「あの人誰?」
そんな中、恐怖を物ともしないリズが金色の王座に座るヨボヨボのお爺さんを指差して言った。
「ピーネウスですね。ご飯を食べる時にある事が起きてご飯を食べられないんですよ。まぁ、原因はあるんですが………」
アイちゃんが教えてくれた。
「ご飯を食べられない?そりゃ大変だろうな」
「原因はなに?」
クラインがうへぇ~っと同情するようにヨボヨボ王を見ていた。
クラインはほっておいてボクはアイちゃんに訊いてみた。
「ピーネウスはアポロンから予言の力を授かった預言者なんです。でも、あまりにも予言をし過ぎてゼウスの怒りを買ってしまいましてね。ご飯を食べる時になるとハルピュイアがピーネウスのご飯を食べに来るんです」
ボクはアイちゃんの話で何故この城に窓が無いのか納得した。
ヨボヨボ王のピーネウスはどうにかしてそのハルピュイアから自分のご飯を守ろうとしたんだ。
「そして、ご飯を食い散らかした後、残りカスに糞を落として帰っていくんです」
「そ、それは………」
「やりすぎです………」
ボクとシリカは後退りをしてしまう。
調子に乗って沢山予言してしまったのは悪いけど………さすがにその罰は………
「酷い話ね~、そう思わない?アスナ………ってアスナ?」
「ゴメン、私今回何も出来ない………」
リズは苦笑いをしながら後ろにいる筈のアスナに言った。
が、アスナはこの中で一番たくましいエギルの後ろで震えていた。
何かに怯えているようすだ。
「どうしたんですか?」
アイちゃんがアスナに尋ねた。
妖精さんもアイちゃんの隣で心配そうにアスナを見ている。
……………姉妹!!
「ちょっと雰囲気がね………」
アスナは指でお化け屋敷のような王の間全体をクルクル指し回した。
エギルは美人さんにあんな形で頼られているのに照れもせず困った顔をしている。
「もしかして、アスナってお化けとか駄目?」
「ッ!!」
アスナは肩をビクッと震わせた。
そして、完璧に涙目になりながらボクに向かって頷いてくれた。
アスナにも弱点がある事が分かった貴重な瞬間だね!!
「へ~!アスナにも怖い物があるんだ!!」
「内緒だからね!!」
アスナは顔を真っ赤にしながら必死にボク………と言うかこの場の皆に訴え掛けた。
よくよく考えると、何層か前にゴースト系のモンスターが出てくる迷宮区があったけど、その時アスナを一度も見なかった気がする。
「怖い物は誰にでもありますよ。私もお化け嫌いですから」
サチがアスナをフォローしようと笑顔でアスナの肩に手を置いた。
けど、全く怖がっていないサチの言葉はこれっぽっちもフォローになっていない。
「フォローになってないよ!!」
アスナはボクと同じ事を考えていたらしくサチに向かって叫んだ。
サチはポワポワと笑っただけだった。
「つまり、王のご飯を囮にして襲ってくるハルピュイアを撃退すればいいんだナ」
アルゴがイアーソーンの無駄に長い説明を簡単にまとめて言った。
「本来は別の方法です。戦うのでは無く追跡して襲わないと約束させるだった筈なんです………」
アイちゃんは申し訳なさそうに妖精さんをチラ見している。
予想とは違って戦闘することになってしまい、アイちゃんは妖精さんに罪悪感を抱いている。
ボクはアイちゃんの頭を撫でて言った。
「妖精さんはアイちゃんがしっかりと守ってあげるんだよ!!」
アイちゃんは妖精さんを心配させないようになのか、ボクの言葉で勇気を貰ったのか分からないけど、胸を張って答えた。
「はい!!」
妖精さんは小さく、ご迷惑をお掛けします………っと今にも消えそうな声で小さく礼をした。
そこで、
「お?旨そうな料理が運ばれて来たぞ。やっぱ、SAOの料理は短縮化されまくってるな」
クラインはボク達が入ってきた大きな扉が開く音に誰よりも速く反応した。
扉からは沢山の豪華な料理が黒服の執事が押す台によって運ばれてきた。
「あれって、クリスマスとかのパーティーに出されるローストチキンだよな?」
「………何で鳥ばっかなのかしら?」
エギルとアスナが誰に言うのでもなく自分の疑問を呟いた。
ボクは次々と運ばれてくる料理を1つ1つ見てみる。
アスナの言う通りどれも鳥ばっかりの料理でデザートにさえ鳥が入っている。
「あ~、悪足掻きと言いますか………多分ハルピュイアに対する嫌みですね」
アイちゃんが王座にヨレヨレと座っているピーネウスを悲しそうな目で見ている。
「そもそも、ハルピュイアってなんなの?」
リズが愛用のメイスを野球のバッターのように振り回してアイちゃんに訊いた。
リズの後ろではエギルがリズと同様に斧を豪快に振っている。
迫力が違う………
「え?あ、すいません。分かりにくかったですよね。ハルピュイアはハーピーの事です」
「ハーピー?あの頭と胸は女性で後は鳥の?………あぁ、だから鶏肉ばっかりなんだね」
ボクはハルピュイアがハーピーだと知りピーネウスの鶏肉料理の意味が分かった。
「共食イ?………にゃはははは!!!」
「ちょっと、アルゴさん!!聞こえちゃいますよ!!」
アルゴの猫笑いをシリカちゃんが慌てて止めようと頑張ってアルゴに詰めよっている。
でも、アルゴの気持ちは分かる。
鼬の最後っ屁にすらなっていない無駄な抵抗。
哀れだよ………愚かだよ………男ならガツンと堂々としていなよ………
「戦闘用意!!」
料理のセッティングが終わってイアーソーンが叫んだ。
ピーネウスは左手にフォーク、右手にナイフを持っていつでも料理を食べられる状態にあった。
このままガブッと目の前にある豪華な鶏肉達を食べられる気がした。
だけどその時、
「AAAAAA!!!!」
「来た!!」
The 怪物っと呼ぶべき叫び声が響いた。
ボク達はさっきまでの、のほほんとした雰囲気から一変して、全員が戦いの為に頭を切り替える。
ボク、エギル、クラインが前衛。
アスナ、サチ、リズが中間。
短剣使い3人組のアイちゃん、アルゴ、シリカちゃんが後衛。
そして一番後ろに妖精さんがいる。
まずは、未知の怪物の攻撃パターンを解析するからこの陣形をキープしていく。
ボク達は王の間の扉に集中した。
ドカアァァァン
「「AAAAAA!!」」
2体の怪物ハーピーが扉を無遠慮に破壊しながら王の間に飛び込んで来た。
ほぼ想像通りの姿。
色は、一方は青い羽を持っていてもう一方は赤い羽を持っている。
しかし、予想外の部分が一部あった。
「「「「「「「「「顔怖!!!!」」」」」」」」」
「いやぁぁぁ!!」
ボク達はハーピーの恐るべき顔に鳥肌が立ち思わず叫んでしまった。
後ろの妖精さんが泣きだしてしまう程の恐ろしさ。
「「AAAAAA!!!」」
”Glacies Harpyia” ”Flamma Harpyua”
ボスの名前が読めないよ………
遅くなりました~!!
本当にすいません!!
では、久しぶりに…………
評価と感想お願いします!!