ソードアート・オンライン ~少女のために~   作:*天邪鬼*

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少し、投稿が遅れましたね。
すいませんでした。

数学のテストが予想よりいい点数だったぜ!!


13話 最低な奴

  はじまりの街 広場

 

「此処は~、広場か?」

 

「みたいだな」

 

俺とクラインは強制転移され、はじまりの街の広場にいた。

 

「え、何?!」

 

「どうなってるんだ??」

 

「ログアウト出来るのか?」

 

辺りを見ると大勢の人が同じ様に転移されていた。

ログアウト出来ないのを知ってる者や何も知らないで転移された者もいる。

 

「キリト、これってやっぱりログアウトの事で集められたんだよな?」

 

「普通に考えたらそうなるな」

 

一応、肯定はしておく。

しかし、俺は全く違うと思っている。

だがこんな事態だ、確証もない俺の考えを言うべきではないだろう。

 

「おい!上を見ろ!!」

 

誰かが上を見上げ皆に向かって叫ぶ。

俺もその言葉につられて上を見る。

そこには何か赤い半透明のパネルの様な物が1つだけ点滅していた。

 

「なんだありゃ?」

 

横のクラインが呟いた瞬間、1つだけだったパネルが全方位に広がり一瞬で空を全て赤く染めた。

何とも不気味な雰囲気だ。

さっきまで夕日に照らされてた広場も今は赤い光りに満ちていて周りは驚くほど静かだった。

皆、急に起きた事で混乱しているのだ。

だが、驚くのはまだ早かった。

一部分のパネルの間から血の様な液体が流れ出てきたのだ。

その液体は形を変え色を変えて広場の上空にローブの巨人を作り出した。

しかし、

 

「中身が無い?」

 

そう、横でクラインが言うように中身が無いのだ。

ローブと手袋が浮いて何となく人の形を保っている。

 

「ようこそ、私の世界へ」

 

「!!」

 

聞き慣れた声だった。

その声の人物は勿論、

 

「私の名前は茅場昌彦、今やこの世界をコントロール出来る唯一の人間だ」

 

茅場さんだった。

しかし、その口調は俺の知る茅場さんでは無かった。

普段よりさらに冷たい声音だ。

 

「え、マジ?」

 

「本物!?」

 

「スゲーな!!」

 

そんなことわかるはずもない他のプレイヤーは思い思いに喜んでいる。

 

「諸君らの大半はもうすでにメニューからログアウトボタンが消滅しているのにきずいていると思う」

 

茅場さんの声がするローブの巨人は左手でメニューを開く。

ゲームマスターだけが持つ、特別なメニュー画面。

 

「しかし、これはゲームの不具合ではない。繰り返す、これはゲームの不具合ではなくソードアート・オンライン本来の仕様である」

 

この時、俺の予想は的中してしまう。

茅場さん、あんたは本当に……

 

「諸君らは自発的にログアウト出来ない、また、外部の人間がナーブギアを停止または解除も有り得ない。もし、それが行われた場合ナーブギアが発する高出力マイクロウェーブが諸君らの脳を破壊し生命活動を止める」

 

生命活動を止める、この言葉で辺りのプレイヤーはざわつきだす。

冗談だと思って笑う者、早く現実に帰りたくて悪態付ける者、今の言葉を本当の事だと信じる者は恐らく俺だけだ。

 

「何言ってんだアイツ?頭可笑しいんじゃねーの?なあ、キリト」

 

クラインが笑いながら俺の方を向く。

その声と目には不安が若干混じっているのがわかる。

 

「食べ物や飲み物を温める時、クラインは何を使う?」

 

急な質問に戸惑いながらもクラインは答える。

 

「え、あ~、普通なら電子レンジじゃねえのか?」

 

俺は頷く、クラインの声と目には不安はもう無かった。

が……

 

「同じなんだよ、信号素子のマイクロウェーブは電子レンジと、リミッターを外せば人間の脳の限界、42℃なんて簡単に突破して焼くことが出来る」

 

しかも、電子レンジは水分子を振動させて熱を出す。

人間の脳は85%水で出来ていて人体の中で1番水分を含んでいる場所だ。

豆腐をレンジでチンしているのとほぼ同じだ。

 

「そんなの電源を切っちまえばいいだろ?」

 

「ナーブギアの内蔵バッテリーがある」

 

クラインの案を俺が切り捨てる。

クラインの目に今度はハッキリと不安が現れる。

 

「で、でも無茶苦茶だろ!なんなんだよ!」

 

そんなものこっちが聞きたい事だ。

俺はクラインに少々の怒りを抱きながらも茅場さんを見る。

 

「残念ながら私の忠告を無視した家族や友人がナーブギアを強制的に外そうとした例が少なからずあり、213名のプレイヤーがこの世界と現実世界から永久退場している」

 

「213人も……」

 

「信じねーぞ俺は!!」

 

クラインはうつ向きながらも叫ぶ。

他のプレイヤーも嘘だ!、ドッキリなんだろ!、と叫んでいる。

しかし、茅場さんはメニュー画面で現実世界でのニュースを皆に見せる。

 

「多くの死者が出たためこの事をあらゆるメディアが報道している。よってナーブギアが強制的に解除される可能性は低くなっていると言っていい。諸君らは安心してゲーム攻略に励んでほしい」

 

「ゲーム攻略だと……」

 

こんなに混乱しているなかでゲーム攻略?

何となくオチが見えてきたぞ。

 

「だが、今後、プレイしていく中であらゆる蘇生手段は機能しない。HPが0になった瞬間、諸君らのアバターは永久に消滅し同時に諸君らの脳はナーブギアによって破壊される」

 

広場にいた多くの人々、恐らくSAOの全プレイヤー1万人が言葉を失った。

予想していた俺でさえ改めて言われると言葉がでない、それどころか息が荒くなる。

 

「諸君らが解放される手段はただ1つ、このゲームをクリアすればよい、今いる1層から頂上の100層にいる最終ボスを倒せばクリアだ」

 

「クリアだと?おいキリト、βテストじゃ何処まで行ったんだ?」

 

クラインは茅場さんの言葉を本当の事だとわかってきたようだ。

 

「2ヶ月で8層までだ、しかも、何回も死にながらだ」

 

「そんな、100層なんて無理に決まってるだろ!!」

 

そうだ、2ヶ月で8層しか進めなかったんだ、そこにHPが無くなれば現実でも死ぬだと?

何年掛かると思ってるんだ。

俺は心の中で思った。

死ぬことではなく時間の心配をしたのだ。

 

「最後に1つ私からのプレゼントが送られているはずだ、受け取りたまえ」

 

とりあえず、メニューを開くと確かに1つ送られてきていた。

送られてきた物をタッチしてオブジェクト化させる。

 

「手鏡?」

 

これが何の役に立つんだ?

全く意味がわからない。

すると、強制転移の時と同じで青いライトエフェクトが全身を包みこんだ。

 

「くっ!」

 

その光の中で俺は違和感を感じた。

まるで、全身が少し縮む様な感覚。

 

「いったい何が……」

 

「キリト、大丈夫か?」

 

「ん?ああ、だいじょ…………誰だ?」

 

そこにはクラインの声の野武士顔の男が立っていた。

年齢は20代だろうか?

とにかく、知らない人だった。

 

「お前こそ誰だよ」

 

男が俺を指を指して聞いてくる。

いや、初対面だし誰だと言われても……

俺はオブジェクト化した手鏡を見た。

現実と同じ顔の俺がいた。

しかも、身長などの体格も同じだ。

 

「これって……」

 

少し長めの前髪に白い肌、女の様な線の細い体型。

現実でのコンプレックスだった女顔に戻っていた。

 

「現実の顔……まさか、クライン!?」

 

「んじゃ、お前がキリトか!!」

 

俺達はお互いに指を指して叫ぶ。

 

「マジかよ、普通に女だと思っちまったぜ」

 

「うっせ」

 

俺は女と言われるのが嫌で周りを見渡し会話を止める。

酷い光景だった。

現実の顔に戻されたため、イケメンだった男が中年男性になったり、痩せていてスタイルバツグンの女がデブになったりとしていた。

さらには、男が女の装備をしているのがちらほらいる。

 

「皆現実の顔に戻されてんな」

 

「ああ、そうだ……な……ッ」

 

ヤバい!ヤバい!ヤバい!

今さらだが、現実の顔に戻された事で対人恐怖症が発症してしまう。

ある程度回復していた俺だが、命の危険性が非常に高いこの状況で逆に悪化してしまった様だ。

俺は両手で頭を抱え、その場にうずくまる。

頭の中が恐怖で埋め尽くされる、周りの声が雑音となり頭に響く。

うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!

 

「おい、キリト、大丈夫か?」

 

「うるさい!!」

 

クラインが心配して俺の肩に手をやってくれたが思わず振り払ってしまう。

 

「あ、いや、ごめんなさい……そんなつもりじゃ……」

 

やってしまったと思い顔を上げて謝るが上手く謝れない。

俺はそのまま視線を下に落とした。

 

「キリト……」

 

クラインから見て俺はどう見えるのだろうか。

男がしゃがみこみ頭を抱えて震えているのだ。

本当に情けない。

俺は思いっきり目を閉じた。

 

「あ~、キリトよ、とりあえず壁際に行かねえか?そっちの方が落ち着くだろうしな」

 

「え?」

 

俺は思わず顔を上げる。

驚いた、クラインは何も聞かず俺の心配をしてくれたのだ。

俺は一応頷きクラインに連れられ広場の壁際に向かう。

 

「ごめん……」

 

「何謝ってんだよ、ダチを助けんのは当たり前だろ?」

 

ダチ、友達か……俺とクラインは友達。

SAOに入って初めての友達。

俺は壁まで来ると壁に背中を当てズルズルとそのままへたれこむ。

 

「でも、なんで自分の顔に出来たんだ?」

 

クラインは誰に言うのでもなく茅場さんを見た。

 

「スキャンだ……」

 

「え?」

 

俺は視線は下に向けたまま答えを言う。

 

「ナーブギアは高密度の信号素子で顔を覆っている、だから顔の形がわかるんだ」

 

「でもよ、身長や体型はどうすんだ?」

 

「ナーブギアを初めて着けたときのキャリブレーションってのをしただろ?その時の情報から推測したんだ」

 

これも簡単に答える。

 

「でもなん__」

 

クラインの言葉を遮って茅場さんが話始める。

 

「諸君らは今、何故?っと思っているだろう。私の目的は既に達成されている。この世界を作りだし観賞するためだけに私はソードアート・オンラインを作った。」

 

「茅場さん……!!」

 

俺は少しだけ顔を上げ、茅場さんを睨む

 

「以上をもってソードアート・オンライン正式サービスのチュートリアルを終了するプレイヤー諸君、健闘を祈る」

 

すると、茅場さんの姿が霧の様になり始める。

 

「最後に、この中にいるはずの1人の少年に伝える」

 

俺は何も言わずただ霧化していく茅場さんを睨み続けた。

 

「騙してた事を謝罪する。しかし、君なら生き残れるはずだ。頑張りたまえ」

 

それを最後に茅場さんは最初出てきた様にパネルの隙間に消えていった。

同時に空を覆っていた赤いパネルも消えていき、空は夕日に照らされていた。

 

「いや……いや~~!!」

 

広場に女の悲鳴が響いた。

 

「ふざけんな!」

 

「出せよ!」

 

「この後約束があるの!」

 

悲鳴がトリガーとなり広場は悲鳴や罵声の嵐となった。

その時、1つの言葉が俺に聞こえた。

 

「もう1人はどうしたんだ!!」

 

「……ッ」

 

体が強張る。

茅場さんの最後の言葉、あれは俺に向けられた言葉だ。

 

「キリトよ、最後のって多分もう1人の天才に言ったんだよな?」

 

「恐らくな」

 

クラインはまさか、それが俺の事だなんて思いもしないだろう。

俺がそのもう1人の天才だって言った瞬間、俺は持っている情報を強制的に言わされ多くのプレイヤーの前で処刑だろう。

絶対に自分は悪者だと考えてた俺は次のクラインの言葉にまた、驚かされる。

 

「んじゃよ、もう1人の天才も被害者じゃねーか、まったく、今何を考えてるんだろうな?…………って何だキリト?俺の顔に何かついてんのか?」

 

俺はクラインを見て目をパチクリしている。

責めるのではなく心配。

 

「クラインはいい奴だな」

 

「何だよいきなり」

 

本当にいい奴だ。

こんなに周りは混乱しているのに自分の心配よりも人の、しかも騙されたとは言えこのゲームを作った人を心配したのだ。

 

「なんでもない、それよりこれからどうする?俺は次の町に行こうと思っているけど」

 

今頃、大半のβテスター達はこの先生き抜くためにレベルを上げながら次の町”ホルンカ”に向かっているだろう。

俺も少し遅れてだがそれに続くつもりだ。

 

「とりあえず、俺は他のゲームで知り合った奴等を探そうと思う」

 

「そうか、ならこれを渡しておく」

 

俺はメニュー画面をだしメールでクラインにある資料を渡す。

 

「こ、これってβテストの時の情報か!?」

 

「1層のだけだけどな、2層に行けるようになったらまた渡す」

 

一気に渡すとゴチャゴチャになるだけだ。

まさか、

βテストの時、俺が整理しておいた情報が役に立つなんて思ってもいなかった。

 

「それの、使い方はクラインに任せる、ただし、情報源が俺だって言うなよ」

 

「わかってんよ、お前がβテスターだってことも言わないでおいてやる」

 

「助かる、……よっと」

 

俺は立ち上がると広場を見渡した。

こんだけ人がいるんじゃわかんないな。

 

「クライン、1つ頼みがあるんだがいいか?」

 

「ん、いいぜ」

 

俺は1回大きく深呼吸をする。

この世界では呼吸は必要ないが精神的な面では1番これが落ち着く。

 

「もし、女の子でユウキって子に会ったら俺に伝えてくれないか?」

 

「ユウキ?どんな子だ?」

 

「背は俺の胸辺りで、髪は腰の少し上ぐらいまである、あと自分の事をボクって言う」

 

本当はもっと言えるが止まらなくなりそうなので止める。

 

「わかった、もし会ったら連絡する」

 

「ただし、」

 

「ん?」

 

「俺の事はユウキに言わないでくれ」

 

「は?」

 

そうなるよな、普通。

でも、俺はまだあいつには会えない。

 

「え、つまり、お前はそのユウキって子を探すけど直接は会わないってことか?」

 

「そうなるな」

 

クラインが俺を見てくる。

俺はつい、視線をクラインから外す。

 

「ま、人には事情ってもんがあんだろ。深くは聞かねーよ」

 

クラインは広場を見渡す。

 

「俺は行くよ」

 

俺はクラインに背を向け、広場から出ようと門に向かう。

 

「キリト!」

 

振り向くとクラインが腰に片手をあて笑っていた。

 

「おめー、案外可愛い顔してるんだな、結構タイプだぜ」

 

俺もまた笑顔を作り言った。

 

「お前もその野武士ズラの方が100倍似合っているよ!!」

 

俺は走り出す、広場を出て町の外を目指す。

 

「何が、友達だ……」

 

俺は走りながら自分を責める。

本物の友達なら、ここに残ってクラインと一緒にクラインの仲間を探すべきだった!

本物の友達なら、黙ってないで俺がこの世界のカーディナルシステムを作った事を言うべきだった!

本物の友達なら…………共に戦うべきだった……

俺はまた、逃げ出したんだ。

失う事を恐れその場から逃げ、守る事を選ばなかった。

木綿季の事だってそうだ、この世界でなら守れるとか思っていたのに、デスゲームになった瞬間、失った時の悲しみを少しでも小さくするために逃げたんだ。

そして今、完治するかもしれないと言われたのに、逆に死ぬ可能性を作ってしまった事への罪悪感からも逃げ出そうとしている。

でも、俺自身は死にたくないと思っている。

俺は本当に最低な奴だ……

 

はじまりの町を出ても俺は走るスピードを落とさない。

すると、前方に狼のモンスターが現れる。

俺は背中から剣を抜く。

狼は全力疾走し続ける俺に飛びかかってきた。

 

「ハアアッ」

 

俺は剣を構える。

すると、剣からは青いオーラが機械音と共に出てくる。

そして、すれ違う瞬間、剣を右上から左下に降り下ろす。

ソードスキル”スラント”

狼は空中で静止しポリゴンとなり砕け散った。

俺は狼の最後を見届けずに走る。

 

「くっそ~~~!」

 

俺は夕日が沈みかけているフィールドで叫んだ。

走り去った跡には、小さな雫が地面に落ちていった。




ユウキとキリトの再会を待ち望んでいた皆様、本当にすいませんでした!!
キリトも原作とだいぶ違いますね……
でも、ちゃんとキリト×ユウキなので安心してください!!

では、評価と感想お願いします!!!

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