ヨハネが一番好きな自分です!!
高く、広く、白い天井をボクは眺めていた。
周りから聞こえてくる忙しない足音や話し声も今のボクにとってはどうでもいいことだった。
それぐらい今、ボクの心は高鳴っている。
ただ、公共の場でこの心の高鳴りを表現しようものなら辺りの人達から白い目で見られてしまうだろう。
なので、ボクはこうして天井を見上げることで表情を隠していた。
ここは空港。
日本と世界を繋ぐ入り口だ。
ボクは視線を天井から地上へ戻し、周りを見渡した。
トランクを転がしながら腕時計を見ている人、スマホで電話をしながら歩いている人、部下を荷物持ちにして堂々と空港に入ってくるOL。
今日も日本人はせっせと仕事に勤しんでいます。
海外出張は当たり前、上司の命令があれば何処へでも飛んで行く。
世界の人から時折"働き蜂"と日本人が呼ばれるのはこれが由縁かもしれない。
しかし、日本人全員が働き蜂という訳ではない。
「はぁぁあ………」
ボクは甘ったるい声を吐きながら視線を天井に戻した。
そして、真っ白く反った天井に左手を軽く掲げてみる。
ボクは掲げた左手、正確にはその薬指に着けられた黄金色に輝く宝石をいとおしく見つめる。
透き通った光を発するこの宝石は2ヶ月程前に突然ボクの部屋に入ってきた和人が、出すだけとなった婚姻届と一緒に持ってきた物。
ハートインダイヤモンド
メモリアルダイヤモンドとも呼ばれるこのダイヤモンドは自然界では決して作り出されることがない人工のダイヤ。
毛髪や遺骨、身体の中にある炭素を利用して自分だけのオリジナルなダイヤモンドだ。
和人が製造方法を照れ隠しなのかその場でそれも早口で捲し立てていたけど、正直よく分からなかった。
分かったのは照れた和人が可愛いということ!
それと、このボクが着けているダイヤモンドは和人から作られたということ。
和人の髪の毛から作られたダイヤモンド。
何だか、和人が常に一緒にいるようで見ているだけで顔がにやけてしまう。
というか、にやけてしまっている。
自分が少し危ない人に見えるのは自覚している。
けど、どうしてもにやけずにはいられなかった。
「何してるんだ?」
「和人!」
ボクが掲げていた左手に音も無く現れた和人が自分の左手を乗せてきた。
どうやら、荷物を無事預けることができたらしい。
ボクは重なる左手を顔の正面まで下ろした。
和人は首を傾げて"どうした?"と不思議そうにしている。
「一緒だね………」
ボクは和人の左手薬指を見ていた。
そこにはボクと全く同じ物が着いている。
違う所は1つだけ、和人のダイヤモンドにはボクの髪の毛が原料となっていること。
ボクには和人の、和人にはボクの。
この指輪を着けるようになってから少し経つが、やはり嬉しいものは嬉しい。
「ボクって幸せ者だ………」
ボクがしんみりと心の声を吐露した。
すると、何を思ったのか和人が急にボクの身体を抱き締めてきた。
頭1つ分程、もしかしたらそれ以上の身長差があるためにボクの小さな身体はすっぽりと和人の腕の中に入ってしまう。
でも、それが返って良かったのかもしれない。
恐らく、今周りにいる人はボク達のことを見ているに違いない。
アメリカやイタリアなどの外国ならまだしも、日本でこんなことするのは相当の勇気が必要だ。
嫉妬、冷やかし、好奇心に物珍しさ。
種類はともかく、そんな視線の中心にいるのは耐えられない。
ボクの顔が和人の胸に隠れていて良かった。
「なにしてるのよ、この馬鹿夫婦!!」
「あなた達ね………いくら仲が良いとしても、空港で抱き合うとか漫画じゃあるまいし」
「まぁ、まぁ、シノのん。折角の日なんだし」
「でも、夫婦ですしねぇ」
手荷物検査の受付前、ボク達は手頃なベンチに座って笑い合っていた。
ボクの親友アスナ、和人の親友シノン、そしてボクの姉で和人の妹であるスグちゃん。
この3人が今日、ボクと和人の旅立ちを直接見送りに来てくれていた。
他の皆は予定が合わず、お母さんとお父さんに至っては今日も仕事。
あの人達ブラック企業にでも勤めているのかな?
でも大丈夫。
旅立ちパーティーは前日にALOで盛大に執り行われた。
スリーピングナイツの皆もボクを応援してくれている。
気がかりだったのはジュンが頬を膨らませていたことぐらいだ。
虫歯かな?
兎に角、医療の発展によってギリギリだけど余命を延命している人もスリーピングナイツの中にはいる。
皆が頑張っているのだからボクも頑張らなくちゃならない。
がんばルビィ!!
「いや、木綿季が凄く儚げに見えちゃって………」
「全く………ボクは側を離れないよ。お嫁さんだからね!」
ボクはにんまりと笑みを浮かべながら和人に寄り掛かる。
隣のアスナや和人の隣に座っているシノンからは呆れたような溜め息が聞こえてきた。
シノンの奥に座っているスグちゃんは逆に嬉しそうに笑っている。
「分かってる。あの時約束してくれたもんな」
そう言って和人はボクの頭に手を乗せた。
あの時、それはボク達の結婚式の時だ。
ボク達の結婚式、実を言うとボク達の結婚式は意外にも質素に執り行われた。
エギルのダイシーカフェを貸しきりにして家族とアルゴノートのクエストに挑んだメンバーにシノン、倉橋先生とナツキさん、神代さん、そして和人は不満そうだったけど菊岡さん。
このメンバーで狭いながらも確りとウェディングドレスも着て結婚指輪の交換もして誓いのキスもした。
その時に和人が言った"ずっと、俺の側に居てくれるか?"
ボクは何の迷いもなく"はい!"と答えた。
ついでに嬉しすぎて涙も出てしまい、和人を困らせたのはいい思い出。
「あの結婚式は良かったよ。絶対に忘れない」
「まぁ、お兄ちゃん達の結婚式だったら2回目の方も凄かったよね」
「「あー………」」
いい感じで結婚式の思い出に浸っているとスグちゃんが変な思い出を混ぜ込んできた。
しかも、ボクは心の中で確かにと思ってしまった。
ボク達の結婚式2回目、それはALOだ。
そこでは現実と売って変わってそれはもう豪華に行われた。
ユグドラシルの真ん中で恥ずかしいけどALOで最強と言われるキリトとボクが式を挙げているもんだから関係ないプレイヤーもわんさか訪れて、ユージーン将軍やシルフとキャットシーのトップであるサクヤとリーシャまでもが顔を出した。
結局、何故か種族対抗バトルトーナメントが開催されてキリトが他のプレイヤーを蹴散らして優勝したりした。
多分、あのバトルトーナメントで本当の意味の優勝者は賭けを実施したリズとクライン、飲み物を売りさばいたエギルの3人だ。
悪い笑顔を浮かべて親指立てあっていたし………
「良くも悪くも忘れられない結婚式になったじゃない。それは良いことよ」
「だな。やっとここまで来たって感じだけど………俺はまだここって感じもする」
和人の顔を覗けば遊園地を目前としたワクワクドキドキが止まらない小学生のような表情だ。
確かに、和人にとって今から行く場所は遊園地………ではない。
それ以上、自分と同等の天才2人と世界に誇れる大研究の始まりなのだ。
もしかしたら、SAOを作っていた時よりもときめいているかもしれない。
クリエイターの性だろう。
ボクはそんな和人を支える。
和人の精神が壊れかけた時に宣言した通り、一緒に抱えることは無理でも抱えている和人を支えるんだ。
「和人………時間だよ」
「ああ、本当だ」
ボクは時計を見て和人に促す。
和人は思い出したかのように手荷物を持った。
「じゃ、皆。またな」
「お土産楽しみにね!」
ボクと和人は意を決して立ち上がった。
ALOにログインすればいつでも会うことはできる。
でも、現実では当分会うことは出来なくなってしまう。
それを考えるとやはり悲しくなってくる。
「木綿季!!」
「アスナ………」
アスナが泣きながらボクを抱き締める。
力強く、苦しくなるぐらい強く抱き締めてくる。
そしてその力強さのまま言った。
「キリト君………絶対に木綿季を幸せにして!!絶対にだよ!キリト君にはやりたいこと、やるべきことが沢山あるかもしれないけど………木綿季を大切にして!!」
「アスナ………」
ボクは驚いて顔を上げる。
アスナは意思を持った瞳で和人を捕らえていた。
その眼差しにボクは声を失う。
嬉しくて嬉しくて堪らなかった。
アスナが………お姉ちゃんのような力を持ったアスナがこんなにもボクを思っていてくれていたなんて。
嬉しいに決まっている。
「ああ、絶対に幸せにする!!」
ボクをもう泣き出してしまいそうだった。
大好きなアスナにこんなにも思われて、愛している和人にこんなにも想われている。
2人には申し訳ないが、今この時が人生で一番幸せかもしれない。
「うん、なら良し!」
アスナは嬉しそうにボクを和人に預ける。
和人は大事そうにボクの肩に手を置いた。
「キリト、たまにはGGOにも来なさい。レンも待ってるし、あんたを殺すのは私なんだからね」
続いてシノンが和人の眉間を狙って人差し指を立てる。
あの人差し指が和人の心臓を狙っていたらどうしようと考えている自分が恥ずかしい。
シノンが発していたのは悪意のない殺気。
獲物を狩る前の黒豹のよう。
しかし、和人も負けじと殺気を放つ。
こちらは王者の貫禄があるまるでライオン。
「望むところ!」
相変わらず2人には謎の信頼関係があるようだ。
少なからず嫉妬してしまうのは仕方無い。
ライオン対黒豹。
今度ボクもGGOにログインしてみようと思う。
「お兄ちゃん!木綿季ちゃん!」
そして、最後。
スグちゃんがボク達2人を両腕で大きく抱く。
「元気でね!!」
名一杯の笑顔でスグちゃんは言った。
親が死んでしまって桐ヶ谷の子となった。
そうして、ボク達一切血の繋がらない3兄妹が誕生した。
笑い合って時には喧嘩もして日々を過ごしてきたボク達。
いきなり出来た妹と兄に驚きもして悩んだりもしただろう。
親を除けば一番苦労を掛けてしまったスグちゃん。
感謝しても感謝しきれない恩がある。
そして何者にも何事にも切ることは出来ない絆がある。
「スグも元気でな!」
「ボクは大丈夫だよ、
「「ありがとう!!!!」」
ボクと和人は日本を飛び出し世界へ行く。
2人の天才が待っている。
ロシアへと。
『私も飛行機に乗りたかったです!!』
『駄目ですよ、ユイ。私達はAIという生き物。パパでも完璧には理解できていないんです。もしものことで飛行機に影響が出たらどうするんですか』
『ただ、まぁ。わしらが飛行機に乗れる日も近いじゃろう。パパ殿が黙っていないじゃろうしな』
『『『早くこないかなぁ………』』』
3人は暇そうにカーディナル図書館で2人の親の到着を待っていた。
お久しぶりです!!
まだ、受験は終わってませんが一応ひと段落。
投稿するする詐欺をしてすみませんでした!!
そして、悲しい事にこの小説も何と次回で最終回。
意味の分からない展開だったでしょう、回収していない伏線もあるでしょう。
しかし、今まで読んでいただきありがとうございます!!
まぁ、次回の投稿がいつになるかは分かりませんが、どうか気長に待っていてください。
では、評価と感想よろしくお願いします!!