ソードアート・オンライン ~少女のために~   作:*天邪鬼*

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今期のアニメは何を見ましょうか?

くまみこ、坂本ですが?、ジョジョ、テラフォーマー、暗殺教室、などなど。
個人的には豊作なんじゃないかと思っています。


106話 夢

 

 

俺は迷い、悩み、考え抜いた。

スグが帰って来て木綿季と一緒にシャワーを浴びてもらっている時も。

俺の番になりシャワーの熱い水を頭から被っている時も。

木綿季とスグが一緒の部屋で寝静まった時でさえ、俺の頭は今日一番の回転力を魅せていた。

俺が睨んでいるのは小さな箱。

パソコンを備え付けられたちょっと近未来系の机の中心にある悩みの種。

この中にはとある宝石がプラチナのリングに美しく施されている。

これを手に取った時は"この世にこれ以上の物はない"と本気で思っていた。

しかし、今この時に限って言えば"何故こんなのがあるんだ?"と若干思ってしまう。

これをいつ、何処で、どのように渡せばいいのか。

こんな見た目ちっぽけでも凄まじい意味を持った箱と中身があるからこそ、俺はそんな単純かつ無理難題なことに人生を賭けなければならないのだ。

もういっそのこと無かったことに出来ないのだろうか?

 

「……………」

 

そして、あさが来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『人生は~♪紙飛行機~♪』

 

一階に降りてみると昔放送されて平均視聴率が23.5%を記録した大人気連続テレビ小説の再放送を見ている母さんがいた。

ソファーに寝転びながら半開きの瞳で必死に睡魔と戦っている。

どうやら一挙放送らしい。

仕事で疲れているなら一度寝れば良いものの、母さんは寝ずにこれを観ようとしたようだった。

対して俺はどうだろう。

一睡もしていないのに何故か逆に頭が冴えている。

アドレナリン全開だ。

俺は母さんの邪魔をしないようにそっと台所に回って棚の上にあるバナナの束から1本バナナをむしった。

俺はバナナを持って部屋に戻ることにした。

 

「………誕生日おめでとう」

 

すると、母さんは突然階段を上がろうとしていた俺に祝福の言葉を向けた。

 

「お、おう………」

 

最初から気づいていて、誕生日のことも覚えていてくれたらしい。

俺は小っ恥ずかしくなって生半可な返事をしてしまう。

でも正直、とても嬉しかった。

ただ、母さん。

顔がゾンビみたいになってるから怖いです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、どうやって渡そうか。

俺は昨夜と同じ体勢で同じことを考える。

まずは逆に俺がこれを貰う側だったとしよう。

ノリが悪いなど言われるかもしれないが、俺の場合どうやってでも良いし何処でも良い。

まぁ、ゴミ捨て場で地面に打ち付けながらだったり、森の中で熊に追い掛けられながらだったりだと流石に俺でも嫌になってしまう。

兎に角、一般常識の範疇なら何でも良いということだ。

しかし、これはあくまで俺のこと。

一緒に育ってきたからといって木綿季も同じ思考とは限らない。

ずっと一緒にいた人物でも他人の心を100%正確に読むのは不可能なのだ。

 

「………」

 

然り気無く渡すか、豪華に堂々と渡すか、ドラマのように渡すか。

どれが木綿季の望むシチュエーションだろう。

はたまた、どれが木綿季に一番似合うだろう。

人にサプライズで贈り物をする時。

結局は自分が心の中で思い描いたその人物の身勝手な妄想が嬉しがるだろうシチュエーションで渡すことになるのだ。

自己満足でしかない。

よって結論、相手に聞くしかない。

 

「そんなことできないよな………」

 

ここで最初に戻る。

相手にどんな風にこれを貰いたいって訊ける訳がない。

訊いたら感づかれてしまうし、その相手が木綿季という身近で恋人なら尚更なのだ。

無限ループに思考が入ってしまっている。

いったい何回同じ思考を繰り返しているのだろうか。

もしかしたら100回は軽く超えているのかもしれない。

誰か!!俺に刺激を!!何でも良いから刺激を!!!

 

「最初から考えるか………」

 

さて、先ずは俺がこれを貰う側だったとしよう。

………分かっているのに止められない。

でも、もう一度考えれば答えが出るかもしれない。

最後にそう思ってしまうからこのジレンマが続いてしまうのだ。

 

「和人~」

 

刺激が来た!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら、ましろ。実家だよ」

 

「ニャ~」

 

ましろが入ったキャリーバックを膝に乗せて木綿季は白い建物を懐かしむように眺める。

横浜の総合病院で俺と木綿季が大変お世話になった場所だ。

特に木綿季は先日までこの病院で入院をしており、今でも頻繁に通院している。

今日も定期検診ということで木綿季は俺とましろを連れてやって来たのだ。

 

「何でましろも連れてきたんだ?」

 

「最近リハビリとかで相手してあげられなかったからね。里帰りみたいな感じだよ」

 

我が家の愛猫はここの病院で産まれた。

俺は寝てたから詳しいことは知らないが木綿季が生後間もないましろに一目惚れをして猫の管理人に直談判したとか何とか。

他にも猫はいたようだからましろの兄弟か姉妹がいるかもしれない。

心なしかキャリーバックのましろもテンションが高い。

 

「それじゃ、ボクは倉橋先生の所に行ってくるから和人はましろを見てて」

 

「ああ、ならいつものベンチにいるよ」

 

俺は木綿季からましろを預かると木綿季と別れて裏庭に向かった。

中々広い庭なので裏庭には2羽鶏がいる。

それと、散歩する患者さん達に腕に包帯を巻いている坊主頭の男とツンデレそうなロングヘアーの女。

残念だが、木綿季の方が1グーゴルプレックス倍以上つまりグラハム数並みに可愛くて綺麗で可愛くて綺麗だ。

俺どんだけ木綿季のこと好きなんだよ。

ちなみに、検索サイトGoogle(グーグル)は10の100乗googol(グーゴル)のスペル間違いで生まれた言葉らしい。

間違いが無ければ今頃俺達はググるではなくグゴるを使っていたのかもしれない。

 

「間違えても歴史に名を残せて逸話にもなるって凄いよな」

 

俺はましろをキャリーバックから出すと青々とした芝生の上に下ろした。

家では寝てばかりなましろだ。

たまには運動もさせないといけない。

俺は走り回るましろを想像しながらましろを見つめた。

すると、ましろは想像通り走り出したかと思ったら俺が座ろうとしていたベンチにかけ上がって丸くなってしまった。

 

「そこまで寝たいか」

 

ましろちゃんはいつもけだるげ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空が青い。

高いところから地上を見下ろすと吸い込まれそうになるのと同じような気分になる。

ただ、高所と違って俺は地上にいるので安心感が半端ない。

俺は点々と浮かんでいる雲にこう言いたくなる。

"ヤーイ、ヤーイ。ここまでおいで~!どうせこれないんだろ?風に流されるしかない水っけの多い綿飴が!!"

しかし、俺も大人だ。

雲が可哀想だし思ったことを直ぐにペラペラと口にするわけではない。

安心しなよ雲。

 

「で、お前は動かないよな」

 

俺の横で丸くなる小さな雲。

ではなく、ましろ。

折角、産まれ故郷に来たというのに帰巣本能というのは無いらしい。

家と変わらずただ寝ている。

こいつが自然に放されたら一瞬で狼などの猛獣に淘汰されるに違いない。

 

「ましろはここに居たときから寝てたからね」

 

「あ、木綿季の検診終わったのか?」

 

「うん、倉橋先生が和人によろしくって」

 

俺は携帯を取り出して時間を見てみる。

丁度、12時を回った時だった。

どうやら、空を眺めていたら時間が思いの外早く過ぎていたみたいだ。

 

「よいしょっと」

 

木綿季は足腰を踏ん張って車椅子からベンチへと移ってきた。

少しハラハラしたが、毎日のリハビリで大分筋力は戻っているようで難なく移動出来ていた。

俺、ましろ、木綿季の順番にベンチが埋まってましろはどう思うのだろう。

 

「いやー、ボクの夢が1つ叶ったよ!」

 

「夢?」

 

「そう、こうして和人とましろを挟みながらこのベンチに座ること。実はましろを連れて来たのもこれがしたかったから」

 

木綿季はチロリと舌を出して笑った。

その木綿季にとっては何事でもない自然な仕草に俺の心臓は高鳴ってしまう。

木綿季の夢に俺が加わっていたことでさえ嬉しいのにそんな表情をされてはたまらない。

俺は照れ隠しにましろを撫でた。

ましろは大きなあくびをして気だるそうに体を動かして撫でる場所を指定する。

ふてぶてしい奴だ。

 

「1つってことはまだあるのか?」

 

「勿論!!プールに行きたい、遊園地に行きたい。海に行きたい、山に行きたい。ロシアはどんな所があるのかな!?色んな所に行きたい!!」

 

木綿季は両手を合わせて体を震わせる。

そして、どんどん候補を口にしてく。

木綿季にとってこの世界は輝いてみえるのだろう。

数年も病院から1歩も出られず、ほとんどのことが初めての経験。

好奇心がそそられるものばかり。

木綿季の心の中はそれだけで一杯だ。

凄く嬉しいが恋人の俺でもその一部にしか過ぎない。

俺が入り込める隙は先の先になりそうだ。

 

「あとは………」

 

「まだあるのかよ………世界一周でもするか?」

 

「お、お嫁に行きたい………」

 

時が止まった。

俺の視界には頬だけではなく顔全体を朱に染めて恥ずかしそうに口元を両手で隠す木綿季の姿。

別に木綿季が何を言っているのか分からない訳ではない。

ラノベ特有の難聴主人公のように声が聞こえなかったこともなく、意味を理解出来ないほど馬鹿でもない。

嬉しさや驚きと恥ずかしさと衝撃と様々な感情が脳裏をせめぎあっており、どんな表情でどの言葉を発せればいいか分からないでいるのだ。

 

「と、当然。和人の………」

 

木綿季のだめ押しの1発。

俺が反応しないせいで言ったようだ。

お陰で木綿季も限界なようで目が渦巻き状にぐるぐるなっている………ような気がする。

刺激はたしかに欲しいと言った。

しかし、ここまで強いものだとは言っていない。

気かっけだけでよかったのに幸運の神様は何をミスったのか一生分の幸運を今に注ぎ込んでしまったらしい。

これからの人生が不安でしかない。

 

「ま、まぁ、それなら今からでも叶えられるかな」

 

「え?」

 

俺はズボンのポケットから紺色の箱を取り出して木綿季に見せた。

木綿季はそれをみると目を大きく見開いて瞳を潤わす。

そして、俺は震える手でゆっくりとその箱を開いた。

 

「木綿季の夢を全部叶える為には必要みたいだし………その………えっと」

 

 

 

 

「俺と結婚して下さい」

 

 

 

 

俺は胸ぐらを引っ張られて前のめりに倒れた。

しかし、想像していたような衝撃はなく寧ろ柔らかな感触が唇に加わっていた。

俺が木綿季とキスをしているんだと分かったのは俺と木綿季の間に挟まれたましろがフシャー!!と威嚇の声をあげたときだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちゃんと見えてる?」

 

『和人様と木綿季様、バッチリです』

 

『ラブラブです!!』

 

『撮影も完璧じゃ』

 

ここは裏庭のとある小屋。

院内で飼われている猫を飼育する為の事務所だ。

 

「ありがとうございます」

 

「いいのよ。あの子のお姉さんと親戚さんのお願いなんだからね」

 

猫の飼育する役員の古株のお婆ちゃんは懐かしそうに幸せ真っ只中の2人を見ているのだった。




っしゃ~!!
結ばれた!!!!
長かった!!長かったよ!!
和人と木綿季が幸せになりますように!!

では、評価と感想お願いします!!


この小説も残り2、3話で終了となります。
最後まで何とか着いてきてくれたら嬉しいです!!

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