ソードアート・オンライン ~少女のために~   作:*天邪鬼*

100 / 109
ボンジュールモナーミ!!

モンデュー!?
インフルで寝込んでいたら投稿が遅れたでござる!!
ま、まぁ、皆も怒って無いようで結果オーララでござる!


む、難しいでござる………フラン語。

ダコール!!!


100話 危惧

 

 

「本当のことを言うと………初め見たのは()()()としてのSAOだけでした」

 

「それってデスゲームじゃないってことか?」

 

「はい………」

 

アイが力無く体重を俺にかけてくる。

それに、俺の左腕を抱き締めるようにしながら鼻ををすする。

目元はまだ若干赤くなっていて、瞳そのものが今にも洪水しそうな程に潤んでいた。

まぁ、それも当然で先程までアイはダムの決壊並みに号泣していたのだから仕方ない。

数年間溜め込んだ涙を一気に流していたのか、声が大きすぎて流石に他プレイヤーが来ないか心配になったぐらいだ。

しかし、泣きながら腕に抱き付かれて"ごめんなさい!ごめんなさい!"と言われればどうすることも出来ないのは当然で、俺は結局泣き止むまで待つしかなかった。

そして、やっと泣き止んだのがついさっき。

アイは数分もの間絶えず涙を流していた。

 

「ゲームの仕様やモンスターの初期グラフィック。ナーブギアが対象者の頭に送る信号データのまとめなど色々な情報がアーガスの共通データバンクにはありました。けれど、1つだけ足りなかったんです」

 

「それが、カーディナルシステム」

 

「そうです………シナリオ、バトル形式、日常の多様性。どれも高いクオリティでしたが、茅場様が目指す"完全な異世界"に必要な核がありませんでした。それは素人の私でも分かりました。………人間のメンテナンスを一切必要としない完璧なメインプログラム。SAOに携わる人達は皆、茅場様の要求する不可能に近い代物を実現させようと必死だったようで、試作品も多く見られました。まぁ、どれも不備ばっかりでカーディナルシステムの足下にも及びませんが」

 

「それでアイはこっそり俺の事を茅場さんに紹介したのか」

 

アイは躊躇いがちに頷いた。

つまり、アイはまだこの時点でSAOがデスゲームだったと知らないことになる。

でも確かに、アーガスの共通データバンクにSAOをデスゲーム化させるプログラムがあったらアーガスに勤める誰かが気付くかもしれないし、そんな大事な物をアーガスに置いている筈がない。

そんなことしたら茅場さんが須郷なんかと同レベルになってしまう。

恐らくは個人のパソコン、あの山奥にある隠れ家にでも隠していたのだろう。

 

「茅場さんは最初どんな反応を?」

 

「そりゃ、驚いてましたよ。本当に世界初の完璧な人工知能なのか確認するべく遠隔操作の可能性とか色んな可能性を吹っ掛けてきました。全部証明してみせましたけどね」

 

アイがひきつった笑みを浮かべる。

泣き疲れたのかアイには覇気が無く腕にかかる体重も少しずつ重くなっていた。

俺はアイと出会って驚いた時の茅場さんの顔を想像して見た。

が、どうしても驚いた顔を思い浮かべることが出来ない。

恋人である神代さんからも朴念仁と揶揄されているのだから表情のバリエーションがよく分からないのだ。

微笑なら見たことあるのだが、驚きの顔は勿論のこと悲しい顔や怒った顔も………というか怒ったり泣いたりしたことが無いんじゃないかと思えてくる。

 

「………で?いつからデスゲームだと知ったんだ?」

 

俺はアイが答えにくいだろう質問を訊いた。

答えやすいよう気軽に優しく怒気を含ませない口調にしたつもりだ。

それでもアイは一瞬体を震えさせて答えるのを拒んだように見えた。

だが、答えなければ話は進まない。

認めているのに正確なことを話さないのは野暮すぎる。

ここで答えなければまた怒ることになりそうだった。

幸い、アイは決心したのか話してくれた。

 

「和人様と茅場様が初めて会った日です。"これはゲームであっても遊びではない"って茅場様が呟きながら出てった後にすぐ茅場様自身から私だけにメッセージが届いたんです。そこで全てを知ることになりました」

 

「え………じゃあ、あの言葉は」

 

「和人様にヒントを与えたかったのも否定はしませんしあると思います。ですが、あれは私に伝えたかったのかもしれませんね」

 

俺は既に太陽が完全に沈みかけている紫とオレンジ色の空を仰いだ。

ALOの一番星が太陽に負けじと光っているのを見つけて気が抜けてしまう。

茅場さんは僅かにだが、ヒントを残していたのだ。

多分、途中経過の会話にも送られた資料にもヒントはあった。

しかし、俺は見落としていたのだ。

浮かれて周りに目を向けていなかった。

 

「気付くことは出来たのか………」

 

「和人様のせいではありませんよ。………私はその時浮かれる所か思い上がっていましたから」

 

「は?」

 

俺は思わず聞き返してしまった。

思い上がりなどアイからは微塵も感じたことのない感情だったからだ。

 

「私はあの時"まぁ、私なら止められる"って思っちゃったんです………!!」

 

アイは歯を噛んで悔しそうに言う。

後悔なんて生温い、まるでその時の自分を蔑むようにした口振りだった。

俺はアイにそんなことを思える時期があったということよりも、今のアイに驚いてしまう。

アイは今まで物事に対して反省をすることはよくあったが、ここまで過去の自分に本気で怒り心から否定したことは無かった。

 

「"和人様も尊敬している人だしゲームは完成させるけど計画は阻止しよう"って………でも!!結局、計画は実行されてしまった!!私はプログラムを消去して阻止したと思い込んでいたんです!!ですが、茅場様は私の考えていることを見透かしたように別に隠してあったデスゲーム化させるプログラムを私に悟られずSAOへ埋め込んでいた!!それも私が聞かされていたSAOの内容と全く別の物に!!」

 

アイは自分に言い聞かせるように言葉を吐き捨てた。

聞いているだけで辛くなるアイの叫びに俺は黙って耳を傾ける。

アイの叫びは続いた。

 

「私は焦りました。自分の犯した過ちにやっと気付いたんです!!だから、私はカーディナルシステムにハッキングを試みました!でもカーディナルシステムは完璧過ぎたんです!!和人様が造ったとしても所詮は人の作ったプログラムと思っていたのに侵入しようとすればするほど強固になっていくセキュリティに絶望しました………!!私は………和人様のことも茅場様のことも自分より下に見ていたんですっ…………!!!」

 

再度、アイの涙腺が崩壊して大粒の涙を下に落とした。

泣き叫ぶ訳でもなく、過去の自分が犯した罪を恥じて申し訳なく思い決して許されることでは無いことを改めて確認したようにただ、涙を流している。

 

「和人様のように騙された訳でもない!カーディナルのように半分昏睡状態で意識が無かった訳でもない!私は………全てを知っていた上で自分は凄いと思い上がって失敗し、4000人の人を殺してしまった!!!挙げ句の果てに私はその事を忘れようとして、最近では本当に忘れていた!!!…………本当に最低な奴なんです………私は」

 

俺が面を食らっているといつの間にかアイは俺の腕から離れていた。

ベンチから立ち上がって夕陽を見つめるアイは今にも消えてしまいそうな程儚く俺の目に写っている。

俺はそれが怖くなって思わず手を伸ばした。

しかし、アイは振り向いて言ってしまう。

 

「私………和人様の所を出ていこうと思っています」

 

「な!?」

 

「私は最低な奴なんです。思い上がりで多くの人を殺してしまった………だから、今さらですが和人様と一緒に居るべきじゃないんです」

 

アイの顔は寂しそうだった。

同時に諦めの表情も伺えた。

当然、俺は考え直すよう説得する。

俺も茅場さんのヒントに気付けなかった、アイが居なければSAOをクリア出来なかった、気休めにもならない………もしかしたら傷つけるようなことを言ってしまったかもしれない。

俺は死に物狂いでまくし立てた。

だが、アイは一向に考えを変えてはくれない。

 

「実は結構前から考えていたんです」

 

俺はそれまで吐き出していた無意味な説得の言葉を止めた。

アイがいなくなってしまうという現実に打ち負けそうになっていたのだ。

そこにアイはだめ押しの一発を無慈悲に加えてくる。

 

「木綿季様の病気が治った時から考えていたんです。この先私と和人様の間には決定的な溝が生まれるって」

 

「そんなことない!!」

 

「ありますよ。………和人様はこれから木綿季様と文字通り一緒に生きていくんだと思います。数年経てば結婚までいくでしょう。………そして、子供が産まれる。元とは言えHIVに感染していた木綿季様が産む子がHIVに感染しているのかは分かりませんが、今の医学は優秀です。感染してたとしても普通の生活は送れます。兎に角、子が産まれると言うのは同時に溝が生まれることでもあるんです」

 

現実味があるアイの話に俺は押し黙ってしまった。

漫画の主人公とかならここで"そんなことない!!"とでも言うのだろうが、生憎俺にはそんな無責任なことを言える勇気は無かった。

アイの想像は()()()()将来必ずやって来る未来を言い当てているのだ。

これはアイに限ったことではない。

ユイとカーディナルにも言えること。

つまり、絶対的な人間とAIによる種族の壁だ。

 

「私が………私達がいる限り家庭は気まずくなりますよ。更に言えばAIはネットワークさえあればどんな所でも生きていける。ずっとずっと、居ることになります。どこかで溝が決定的になってしまうのは目に見えています」

 

しかし、俺はアイに言っていなかったことがあった。

アイが危惧する未来の根本から覆してしまう重要で重大な内容だ。

あまりに衝撃が凄くて俺も未だに嘘なんじゃないかと思っている。

 

「今日は良い機会です。私のような最低な奴が消えるんですから和人様も出来ることなら安心して下さい。それと、ユイとカーディナルはちゃんと考えるよう言っておいてくださいね」

 

「アイ………」

 

俺は後ろから聞こえてくる足音に気付き意識しながら言った。

 

 

 

 

「俺と木綿季の間に………子供は産まれない」

 

 




どうなる次回!?

再度言いますが、ハッピーエンドなのでご安心を!!

では、評価と感想お願いします!!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。