2年F組と書かれたプレートのある教室の前で、僕は少しだけ躊躇していた。
遅刻なんてしてきて、皆に悪い印象を持たれたりしないだろうか。
嫌な奴や恐い奴や痛い奴はいないだろうか。
今後一年間を共に過ごす仲間がどういった人たちなのか、不安でたまらない。
「なんて、考え過ぎかな」
たかが遅刻程度で僕は何をネガティブな事を考えているんだか。
そうだよね、相手は皆クラスの仲間。
何も心配する必要なんかないさ!
寧ろ何で遅刻したのか、僕の体調を心配してくれるはず!
良し、大丈夫。
何も心配はいらない。
信じよう、コレから共に過ごす仲間達を。
そう思って、僕は勢いよくドアを開けた。
「アウトォッ‼」
「セーフッ‼」
「「よよいのッ――――――」」
――――――ピシャッと、僕はドアを閉めた。
・・・・・・え、何今の?
なんかパンイチのむさ苦しい野郎共がテンションMAXに猛り狂ってたんだけど!?
「疲れてるのかな・・・・・・」
そうだ、そうに違いない。
昨日、夜遅くまで祐一と進級祝いという名の飲み会という名のゲーム大会やってたから目が疲れてるんだ。
そうだよ、学校にパンイチの男なんている訳無い・・・いや、1人いたか。
「まぁ、けど祐一以外いる筈ないよね」
なんかパンイチどころか全裸の野郎がいたような気もするけど、それも含めてきっと気のせいだ。
そう思って、僕はもう一度勢いよくドアを開けた。
「上田ァッ! テメェの負けだぜぇぇぇーッ‼」
「お前は裸エプロンの刑だぜェィ! ヒャッハァァァァァーッ‼」
「クソッタレエエェェェェェェーッ‼‼」
現実だったよクソがッ‼
「違う! 僕が信じた仲間達と、この光景は180度真逆なんだ‼」
「おー、明久じゃねぇか。遅かったな」
言って裸エプロンで僕に近づいてくる、縮れ毛みたいな黒い天パに死んだ魚の様な目をした、覇気のない締まりのない顔をしたダメ人間。
「ゴミ野郎!」
「朝っぱらから俺に喧嘩売るたぁいい度胸だ」
「あ、ちょ、止めて!? その拳は僕に効くッ‼」
思わず土下座で拳を引くように頼み込んでしまったけど、そうじゃない!
「祐一! 何で平然と裸エプロンなんてしてるのさ!? 絶対おかしいでしょ!?」
下手しなくても虐めじゃないか!
「ああ、明久もそう思うか?」
祐一も、自分の身を唯一隠すエプロンに手をやりそう言う。
やっぱり、祐一もおかしいとは感じているみたいだ。
「今さっき雄二にも言われたわ――――――『お前に裸エプロンは死ぬほど似合わねぇ。キメェ』って」
「僕が『おかしい』って言ったのはそういうことじゃない‼」
「あぁ? 服装の話じゃねぇのか?」
「いや服装の話だけど! 似合う似合わないの話じゃないでしょ!?」
「・・・・・・何が問題なんだ?」
「問題しかないよッ‼」
なんで祐一はいつもいつも微妙に話が通じないんだ!
全くこれだから馬鹿は困る‼
「どうも話が通じねぇな。全くこれだから馬鹿は困る」
「僕の台詞なんだけど!?」
「おい、雄二からも何か言ってやれ」
え? 雄二もこのクラスにいるの?
まぁ、アイツもバカだからこの学校の最底辺クラスにいても不思議じゃないけど。
祐一の視線の方向へ目を向ける。
雄二が畳の上で全裸で倒れてた。
「雄二イイィィィィーッ!?」
何で雄二が全裸なの!?
しかも何か白目剥いて口から泡吹いてるんだけど!?
「何だ、まだ気絶してやがんのか。俺の裸エプロンを笑うから、俺にボコられて身包み剥がされるんだよ」
「祐一のせいじゃないか!?」
自分でシメといてなんて太々しい‼
「おいムッツリーニ、雄二を叩き起こせ」
あ、ムッツリーニもいるんだ。
言って祐一は、足元にうつ伏せで転がっている男子生徒を、つま先で転がして仰向けにした。
鼻血を垂らし、血色を失った
「ムッツリイイィィィィィーニッ!?」
どういう事!?
何でムッツリーニまで瀕死の状態で倒れてるの!?
「・・・・・・あ、明久・・・・・・」
「しっかりしてムッツリーニ! 傷は浅いよ‼」
ムッツリーニはフルフルと手を痙攣させながら、指さす。
「・・・・・・お、オレの代わりに。カメラの、シャッター・・・を・・・・・・(ガクッ)」
「ムッツリイイィィィィィーニッ‼」
クソッ! 一体誰がこんなひどいことを!?
ムッツリーニが差した先に、そいつはいる筈だ!
一体誰が――――――
「むぅ、何故わしがバニーガールの衣装なんぞ着ねばならんのじゃ」
――――――バニーガールの秀吉が、そこにいた。
「(ブシャアアァァァァァァァーッ‼)」
「明久よ、何故お主は登校早々鼻血を噴き出して倒れておるのじゃ!?」
いや、それは秀吉のせいだよ・・・・・・。
こ、こんな教室で僕は1年を過ごすのか。
・・・・・・生きていけるか、自身が無い。
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