嶺達が帰ってからも、なのはの家に突然現れでてきたアトリについて、今度はすずか家全員に説明するのは大変だった。彼女が嶺とハセヲの二人と同じような目にあい、一緒にいることとなっている。
「私達の仲間なので、安心してください」
「そうですか…貴方達と同じ境遇の人がまた」
アトリは既にハセヲと同じように一般人(リアルの姿)に変えて住むという手続きをし、こうして3人で話している。
ハセヲは三崎涼、アトリは日下千草としての姿になっている。アトリの方は、なのはの家で状況を話していたとはいえ納得できるかどうかは二人も不安だった。
(さてと、アトリは大丈夫かな…)
いきなり知らない世界に転移されて、ハセヲという関係者がいるだけでも多少彼女の心が落ち着いているが、実際は元の世界に帰れるだろうかと内心では心配でならないと、そう嶺は思っていた。が、
「…二人ともここまで大変だったんですね」
(あれ?アトリってこんなに落ち着いてたっけ?)
「一応聞くが、お前は大丈夫なのか?」
これからのことを考えてしまう恐怖よりも、彼女にとって嶺とハセヲの二人がいることに信頼感が寧ろ上回っている。
「え?何がですか?」
「いや、そりゃお前こんな場所に転移されて」
「確かに怖いです…もし知らない世界に一人きりだったら怖くて、一体どうすればいいか本当に震えて泣き叫んでたかもしれません。
でも私は、少なくとも一人じゃない。
ハセヲさんも、嶺さんも一緒にいる。
それに言ったじゃないですかハセヲさん、ゆっくりと歩いていけば良いって」
今の彼女の目は真っ直ぐで、弱音を吐いていなかった。そんな様子を見てハセヲも安心したが、ずっと聞いていた嶺は安心というよりは、首を傾げてきょとんとした顔をしていた。
「あれ、ハセヲはともかく私ってアトリに信頼される要素なんてあったっけ?」
「だって当たり前じゃないですか!ハセヲさんと一緒に私のことを」
「こいつと一緒に?どういうことだ?」
一緒にいたっけかとハセヲも考え込んでしまった。アトリのことで助けに行ったのはちゃんと覚えていたのに、その場に嶺も一緒にいたのかさえもハセヲにはわからなかった。
「んーそれならさ。覚えている記憶だけでも話してくれないかな…もしかしたらその話を聞いて思い出せるかもしれないから。例えば私との…出会いとか?」
「なんで疑問形なんだよ…」
そこで嶺は、二人が特に嶺との印象に残っている場面を話してくれれば何か閃くのではないかと提案した。
「確か…最初は嶺がメカグランディを弄ってた時に出会ったのは覚えてて」
「私は、どうにもならないくらい暴走してたところを嶺さんとハセヲさんに助けてもらったのは覚えてます」
が、嶺はその話を聞いても、やっぱり何も覚えがなかった。うーんと、考え込こもうとしても何も出てこない。
「えーっと…ごめん。やっぱり二人の話を聞いても…」
「そんな訳ないじゃないですかっ!弟さんのことだって話してくれましたし!」
「おい嶺…『the world』で俺達と共に行動した記憶はあるか?大したものでなくても、些細なものでもいい…覚えてるかどうかが重要だ」
「うーん…君達の物語とゲームのルールくらいしか知らないかな。ハセヲ達の話を通して分かったことは…もしかしたら私も一緒に手伝ったかもしれない。でも、その先の…どう行動したのかについては全く見に覚えがないってことだよね」
ハセヲとアトリ、この二人とも嶺に関することが断片的に記憶が欠けている。嶺との思い出も、一緒に戦ったこともこうして忘れてしまった。
(俺達よりも一番重症なのは、どう考えても嶺だよな…本人も全く記憶にないって言ってるし。ってことは『The World』における嶺自身が何をどうしていたのかが記憶喪失をしてたってわけか…俺達も嶺のことについてのほとんどが消されてるし。
どうなってんだこれは?)
ハセヲも神とかというふざけた存在が急に出てきて驚きはしたものの、嶺という存在だけでも彼自身は知っている。少なくともハセヲ達の仲間だったということは確かではあった。
なのに、アトリを助けるという肝心な場面に、その場所に嶺が居たかどうかが分からない。
「今のままだと情報が少な過ぎるし、このままだと迷宮入りになるからこの話は中断でいいかな。ハセヲとアトリだけじゃなくて、他の仲間も来るかもしれないって神様も言ってたし、何人か来てから話そうよ。
あと…アトリも大丈夫なら手伝うことって出来る?」
「はい!私もハセヲさんと嶺さんのお力になれたら、是非協力しますっ!
私も実の姉がその弟と戦うなんでダメですし、とゆうよりどうして戦ったんですか!
こんな血縁関係同士が血の争いなんて、何の解決なんてしませんよっ!」
「えーっと…とにかく、弟の方に電話するね?」
アトリの半分納得して半分説教じみた解釈に嶺は動揺しながらも携帯の電源を付ける。こうして正輝と連絡が取れるようになったので、夜に次の日はどうするつもりなのかとすぐに正輝に聞いた。すると、
「もしもし…嶺なんだけど。そっちはジュエルシード集めはどうなった?」
『あーうん。心配しなくとも、もう集めるのは終わったよ。とりあえず詳しい話は明日、なのはの家に集合してからいいか?
俺の方は翠屋に行くからさ』
「え?…早っ」
電話の内容から、もう既にこの件は正輝達の手によって解決済みだった。ジュエルシードの回収を全て終えた正輝からの報告に、あまりの早さに唖然とはしていたが街に被害なく事態を収拾できたのなら今後はよっぽどのことが起こらない限りもうあんな化け物が街中に出ることはもうない。
『これでジュエルシード然り、フェイトの事情も解決したから…それで良いよな?』
「そっか、分かったよ。じゃあ切るね」
正輝がさっさと回収していたお陰で、ジュエルシードによる影響はもう無くなった。その後にどうなったからまた正輝に聞かなければならないが、もうなのはとフェイトが戦って争うこともない。事を穏便に済ませ、平和的に解決しようとした。
(正輝がジュエルシードを、フェイトの家についてどう解決したかは、明日聞いてからじゃないとわかんないかな)
「それにしても案外早かったね、終わるのが…」
「え、終わる?ジュエルシードのことか?」
「うん、もう済んだって」
ハセヲも正輝の対応の早さに驚いた。ユーノからジュエルシード集めを頼まれて1週間も立っていない。むしろその方が今後なのはが危険な目に合うことも、海鳴市に危険が及ぼすこともない。
「…それじゃあ、なのはに電話で連絡するか?」
「んー明日集合する時にいいよ。もう暗いし」
「良かったですね!無事解決できて‼︎」
(だと良いんだけどなー…)
アトリは喜び、ハセヲはもう終わったのかと事の呆気なさに窓の外を眺めている。
嶺は終わったのに、何かもう一つ厄介な存在がいたことに引っかかっていた。確かにジュエルシードの問題解決もやらねばならないことだが、新たな脅威が迫っていることも正輝も嶺もまだ知らない。
【殺者の楽園】という敵組織の存在を。
*****
『というわけで、正輝が翠屋に向かいます。
なのはとユーノの二人は家で待機、もし出会ったら私の方に電話してねー』
「はい、分かりました」
正輝達でジョエルシードを終わらせたことになのは達もまた驚いていたものの、終わるまでの過程とどう決着を付けたのかが分からないと二人も納得できない。連絡も終え、こうして嶺達が着く前に正輝とアーチャーが翠屋でケーキを買ってからなのはの家に向かっていた。
インターホンを鳴らし、ちゃんとなのはの
「正輝さんですよね…」
「おはよう。連絡はうちの姉から聞いてるよな?」
今日は休日なため、なのはだけではなくその家族も家にいる。正輝達は自己紹介をしているものの、アーチャーについては前に料理のことで散々指摘され、その仕返しとしてなのはが家族に二人のことを紹介する前に
「あ。この二人は嶺さんの弟の正輝くんでもう一人は「黒沢です。」ほえっ⁉」
「どういうつもりだ…」
「まさか。ここでアーチャーですって訳にもいかないだろ?」
アーチャーは呆れた顔をしているが、その名前にはちゃんとした意味(笑)が込められている。表面的には家族に対する紹介として、誤解されやすいものではなくそういうニックネームにしたのだと相手側は納得するが、ついさっき作ったばかり。なぜなら、
K=黒い
U=嘘を真実に塗り替える。(例:ロリコン疑惑)
R=ろくでなし
O=恐ろしい子!
S=ドS
A=Attacker(攻撃者)
W=Worst(今の俺の中で)
A=ああ、頭痛い。
といったような名称だから、深い意味などない。アーチャーも子供(なのは)の目の前で怒ることなく半笑いという大人な対処をしつつ、彼の内心ではどのように正輝を料理の次は新たな手段でいじり倒してやろうかと頭の中で多少怒りながらも考えていた。
「名前はちゃんとしなくちゃ駄目だよ?アーチャーなんて他の人が聞いたら疑っちゃうしな。」
「了解したマスター…地獄に落ちろ」
「にゃははは…」
そう簡単な紹介をしつつ、なのはの部屋へと向かっていく。詳しい話は嶺達が来るまで待たなければならないが、なのはの方はどうしてもフェイト達に会いたい気持ちで一杯だった。
(寂しそうな目をしてたあの子、本当に大丈夫なのかな…)
フェイトの事情のついては聞こうとしても、その頃のフェイト達にはジュエルシード集めで焦りに焦っていたためなのはの話なんて聞くわけがない。
「あのっ!嶺さん達が来る前に話したいことがあるんですけどいいですか!」
「え、何?」
なのはから申し出た。
嶺が来るのを待ちきれずに、二人は正輝にある条件を言い渡す。それは、
・なのはとフェイトがこれで敵対関係じゃないことを明白にすること。
・ジュエルシード事件の解決に、何があったのかを包み隠さず全てを話すこと。
この二点については聞いても正輝達側はウンウンと頷いて、何も問題なかった。話しさえすればなのは達も納得がいき、落ち着いたフェイトとちゃんと向き合って話し合うことが出来る。そうして、二人とも仲良くなれるのだから何も問題はない。
しかし、第3の条件については正輝は断った。
なぜなら
「フェイトちゃんに会わせてください!」
「…いやちょっと待てや。フェイトの家に行ったら何で家の場所知ってるのって警戒されるでしょうが。
話し合いが終わった後にフェイトに会ったところで、はっきり言って逆に嫌悪されるぞ。あの子については今日はなのはと面会したことはまだ話してないし、そもそも何で自分達の家が知られたのかってな。
敵対関係になりたくないっていう一つ目の条件を自分で破ることになっちまうぞ」
「う、それもそうだけど」
「とにかくあの子に会うのは、また今度で頼む。フェイトだって家の事情がやっと解決して気持ちの整理がついてないんだから。
今日のところは許してくれ」
なのは達が突然家の素性がバレて、行こうとしたら必ず警戒してしまう。なのはが友達になりたくても、それが裏目に出て危険な流れを防ぐ為に正輝が止めた。
「次に会うことになったら。フェイト達も落ち着いて、ちゃんと話せるよ」
「そっか、それなら良いかな」
なのはは納得すると、嶺の約束通りに正輝達が家に来てくれたことを電話で報告する。
『あ、もしもし』
「嶺さん。私の家まできてくれませんか?」
『いいよー。昨晩電話して、そーゆー約束をしてたから。ハセヲも言いたいことがあるし。ユーノも納得がいかないところがあるんでしょ。』
こうして、嶺達もまたなのはの家へと向かっていく。お互いが、なのはとフェイトに同行して、これまでの間何をしていたのかを語る為に。
*****
「よし、これで集合かな?それじゃあこれまでのことを話そうか、正輝」
やっと嶺とハセヲ、アトリの三人がなのはの部屋に入っていく。人数分の座布団が用意され、大団円で囲んでいる状況だった。
が、相手が嶺の弟とはいえ
「…おい。そう約束しておいて、実は力ずくで奪うんじゃないのか?」
「こうやって囲まれてる以上、白昼堂々と襲ったりしないよ?ジュエルシードを解決したのなら戦って争う必要もないからね」
約束と言っても口約束なだけに、実は約束は嘘でジュエルシードが欲しいとのことで隙を狙って懐に入ってきたのではないかという線を考えつつも、ハセヲは警戒しながらそう言っている。それを聞いた正輝は、えーまた戦うの?とドン引いていた。
「いやいや、人を襲うって根端はお前と同じだろ」
「いや、お前と一緒にするんじゃねえよ!お前の方が死の恐怖の頃の俺よりもよほど凶悪だからな!」
ジュエルシードを止めようとなのはが向かった時に、妨害しようとしたあの幾多の銃火器を容赦なくぶっ放している。前まで相対していたとはいえ、幼すぎるなのはにあの仕打ちはユーノとハセヲの二人が異議を問えても満更おかしくなかった。しかも、加減していたとはいえ多少宝具を使おうとした部分もあったから一歩間違えればオーバーキルになりかねなかった。
「やめて下さい二人とも!今は話し合いです!こんなところで喧嘩したら話になりません!」
そこにアトリが間に入って、二人のいざこざを止める。
彼女自身、喧嘩は良くないですと二人だけではなく他の人との揉めあいにも入ってくる。
他の人なら部外者はすっこんでろと叫んでいるが、ハセヲだとアトリのことはよく知ってる為にもうこれ以上は言わない。
正輝も、肝心なことを言わずにズルズルと長引かせても嶺に叱られるのを鑑みてやめた。
「…確かハセヲってウチのセイバーとやり合ってたっけ?帰った後に無茶したことも含めて散々怒られ、説教されたわ。フェイト達は許せても、あいつだけは駄目だったよ。だってあいつ騎士で堅物だし…後から文句は言われると思ってたけどさ。
取り敢えず襲うかもしれない云々は、長引いたらややこしくなるからもう終わりでいいよな?」
「そうだな…それじゃあ本題に移ろうか」
こうして、約束通り正輝がどう解決したかを順々に話していった。
なのはが気になっていたフェイトが何故寂しそうになったのはまず家族の問題があったこと。その家族には娘を亡くし、母親はジュエルシードという奇跡の物を使用することで蘇生への道を開こうとした。ずっと復活させるための研究に時間を費やしている。
フェイトは母親の手伝いのために、使い魔ことアルフと共に一生懸命頑張っていた。
「そう、だったんだ…でも、フェイトちゃんに会いたいな」
「その時が来たら合わせてやる」
この話し合いで決着をつけた後に、二人で争うことなくゆっくりと話し、仲良くすることができる。
「その子の事情はよく分かったよ。ならジュエルシードはどうしたの?」
ユーノがそう聞くと、正輝が首に横を振った。ジュエルシードを何に使ったのかも、嶺はこの時点で察してしまった。
(すぐに解決したってことは…やっぱり)
「ジュエルシードは、死者蘇生に利用した。母親とフェイトも仲良くなって幸せに暮らしてる」
(だよねー…)
散らばったジュエルシードは、もうなのは達しか持っていない。アトリはジュエルシード集めを全て終えて、フェイトの母親とも和解したのかとてっきり思っていたはずが、まさかジュエルシードを使いきって死んだ人間を復活出来たことに驚いている。
ハセヲは正輝の返事を聞いてため息をついて、すぐさま状況を整理した。常識的に考えて、死者を蘇らせたから家族の問題は解決しましたなんて言われても納得できるわけがない。
「あー悪い…もう一度言ってくれないか?」
「だから、死者蘇生だ」
「そんなのは聞いたら分かってる、分かってるんだけどさ…」
ハセヲも納得したくても、家族の一員が事故で死んだけど生き返ったことでなんとかなったという、いまいちピンとこない終わり方に動揺している。しかも、ユーノは正輝の突拍子のないことに、目を丸くしている。死者を復活させること自体、どんな便利な魔法を駆使してもそれは不可能だった。
「死者を復活させた⁉そんなことできるはずがない!それがどういう意味か分かっているのか!だいたいジュエルシード自体そんな力はないはずだ!あり得ない!そんなことをしたら時空管理局がきてもおかしくないはずだ!!」
「どうやって死者蘇生をしたかと何故その後に時空管理局が来なかったかっつーのは…こればっかりは秘密だ」
【死者蘇生】
その言葉を信じるなんて、まず常識的に考えてあり得ないだろう。もしジュエルシードを行使した場合、複数の次元多数発生してすぐさま管理局が飛び込んでくる。仮に気付かれなかったとしても、未知のロストロギアを使って死んだ人間を生き返らせること自体、まずそんな効力があったのか、どうやったのかすら到底理解できなかった。
正輝からは詳しい話をするとは言っていたのに、ユーノを納得させる説明もないまま。
(言っても無駄なのか、それとも…)
「僕にはこの人たちを信じることは「もういいよユーノ君」なのは…」
ユーノは困惑しつつも、なのはの方は話を聞いて理解した。
「話、聞けてよかった。本当はフェイトちゃんに聞きたかったけど…なんだか悲しい目で理由を聞いても躊躇ってたから…やっぱり理由があったんだね。死者蘇生なんてあり得ないかもしれないけど、正輝君がここに来て今更嘘を言っても意味ないと思うかな…だってほら正輝君の両手。結構の量の包帯で巻かれてるよ」
手以外にも身体のいたるところに切り傷があった。その傷はつい最近できたものであり、BLUEも死者蘇生用のための手当てと防御の並列で使用していたため使っていない。
「心配されたでしょ?」
「心配かけまいと思ったらすぐ気づかれてな…フェイト達もセイバー達も心配して手当してくれたからな」
「酷い…ですね」
手の方が酷く傷まみれになっており、応急手当てだけで済ませている。
(悪い姉さん。ちょっと念話で話すけどいいか?)
(ん?何?)
(なのはの方は友達にさせてもいいけど…時空管理局に関しては俺の本心としては入って欲しくないんだ。その組織がヒュードラ計画をフェイトの母親であるプレシアに押し付けて、アリシアを事故死の原因にもなったんだ。もし管理局の事実を知って、自分のやってたことに絶望することになったら…そう思わせたくない。
とはいえ俺は完全な保護者ってわけでもないし、入っちゃダメだなんて強く言えないけどな…)
(ん、極力協力しとくよ。結局はなのは達自身で選ぶことだからね)
嶺と正輝の二人が念話で会話しつつ、なのは達に手の怪我を見せ終えた後、また包帯を巻きつける。しかし、こんな怪我をしてもユーノには受け入れなかった。
「ごめん…まだ納得出来ない。死者蘇生なんて実際見たわけでもないし…考えたくないけど嘘だってことも」
「いやいや…ここまで来て、俺が嘘言ったところで意味ないだろ」
それでも死者蘇生をして家族の一人を蘇生したと聞いても、結局は言葉だけで納得してくれという話なだけで、実際にその証拠が全く無い。ましてや彼はジュエルシードが何十個か無くなったのも、アリシアの死者蘇生も実際に見ていないのだから正輝の言葉が未だに信じられていないのだ。
(ここまできて嘘じゃないかもしれないけど…それでも)
とはいえ、正輝がなのは達の目の前で嘘を言ったところで意味なんてないのも彼も頭では分かっている。
だから、ユーノは苦悩していた。
「あのさ、ユーノ。正輝もこんなこと言ったら、納得できないってことも承知の上で来てるから。
それにそっち側で存在していた魔法のことを、一切見せずに『魔法があるから空を飛んで移動できるよ』って普通の一般人に説明するのと一緒なんだよ?
はい、じゃあなのはに質問。
ゲームや占い等程度で魔法って言葉は使われるよね?それじゃあ物作りとか、病気とかも治せれるのはそれが魔法だからで済む。
それを聞いた人は信じられると思う?」
「ふぇっ…え、ええっと…」
嶺は、混乱しているユーノではなくなのはに質問を投げかける。お伽話やゲーム等での架空の話なら納得もいくが、実際にそれが実在したと聞いても本当にあったかどうかなんて釈然としない。
「もう知ってる嶺さんに、亮さんと千草さん、私やユーノ君…事情を知っちゃった家族と友達ならともかく…知らない人とかにそんなこと言っても信じられないかな…」
嶺は非現実的な魔法の力というのを人に説明して、それが存在していると口だけで納得できるのかと反論した。なのはも魔法にもし関わっていなかったら、【魔法で解決しました】なんて言われても困惑していただろう。
どの道、信じられない内容でも仮にそれが事実なら受け止めるしかない。
「だからねユーノ。私が保証する。
仮に嘘を伝えたのなら、そんなことしてもセイバーが黙ってないからね?」
「ご…ごめんなさい…」
正輝が仮に嘘を付いてなのは達を騙してたらアーチャーがセイバーにこのことを報告しており、今度は鬼のような真っ赤な顔でずっと正座させられているのが嶺には目に見えていた。
(さてと、それじゃあ連絡先と…同盟のやり方も教えてもらったし)
こうして正義側同士で出会うことが出来たために、お互いの連絡先交換だけではなく同盟も結んだ。
「それじゃあジュエルシードによる交渉成立と同盟成立だね。正輝は投影した武器を送って、私は攻撃魔法の呪符を送れば良いんだね」
「そうだよ姉さん。」
こうしてジュエルシードに関わることが結局少なかったので、正輝のお陰で何とかなった。なのはの家でようやっと話し終え、正輝達が家に出たその時、誰かの叫び声が聞こえる。
「うわぁぁぁぁぁ!!‼助けてくれぇぇぇ‼‼」
何かに襲われていることを理解し、手遅れになる前にすぐさま正輝達と嶺達は叫んだ方向へ走っていく。
「行くぞ黒沢君っ!」
「狙撃するぞ貴様」
「え?そんな人いたんですか?」
「アーチャーって黒沢君なの?」
そんな話をしつつたどり着くと、そこには世紀末でよくある奇抜な戦闘服とモヒカン、両肩にはミサイル砲、電撃をまとった槍を装備している大男がいた。
一般人の姿は見当たらない。
「…おっと、転生者用の結界を張るのを忘れていたな」
こんな色々と目立っている人物が街の中で何故か武装している。こんな人物が本来のこの世界には存在しない。
正輝と嶺と同じ転生者ではあり、そして二人の敵でもある。
「あのなっさけねぇ奴のように、このデントロ様の槍に殺されることを誇りに思えよ!」
(もっとマシなのに会いたかったー!)
正義側二人にとって最初の敵転生者であり、そして嶺が表舞台で戦う最初の敵でもあった。なぜなら、
「あばよー姉さーん!そいつに絶対勝てよな!」
「すまない。この貸しは必ず返そう」
「え、ちょっ、逃げるなー!」
今この場で戦いたくない正輝が煙玉を投げて戦線離脱をしたからだ。彼は鳴っていた携帯を確認し、急遽フェイトのところへと向かおうとしている。
(不味いなっ…急がないと!)
とはいえなんの理由も言わずに、この場からとっとと去ろうとしている正輝は戦いたくないということでしか嶺達には分からない。嶺本人もこんな敵と本心では戦いたくないとはいっても、どの道敵は襲ってくるので戦わざるおえなくなった。
「正輝達のやつ、行ってしまっ…嶺?」
(後で逃げた弟に天誅してやる…)
電撃を帯びた大槍を平然と振り回しているデンドロの恐怖よりも、この場から逃げた正輝をどうするかを考えていた。
(…絶対俺達の話も聞いてねぇなこれ)
(マ、マスター!変身を!)
「え、あっ…う、うんっ!」
なのはもその奇抜な格好をしたデントロという男に対して何も言えずに身を引いたが、レイジングハートが呼びかけたことで、そのまま変身して戦う姿勢を取っている。
ユーノもフェレットのままなのはと嶺達の支援をする。
あんなふざけた大男でも、無関係な一般人を襲おうとする敵であると分かったのだから。
*****
おまけ
正輝(そういえば、アトリって子の声…セイバーに似てる気がしなくもないんだけど)
アトリ
「喧嘩は良くありませんっ!みんな仲良くしましょう!」(平和主義)
セイバー「アルトリア・ペンドラゴンが受けて立つっ!」
(好戦的)
正輝「うん。声は似てても、性格は…まぁ、うん、ありえねー」