頑張って他も今年末に投稿しようかと考えましたができませんでした…皆さん、良いお年を
「昼飯が出来たぞー」
「はーい」
嶺は改造札の整理と資金のやりくりをしていた。
改造札は同じ魔法を三重に使う札と異なる魔法の二重に使う札とされている為、改造室で生成したはいいものの見た目が同じ札でもたまに嶺ですら分からない時もある。
もし札をごちゃ混ぜにしたら取り出した札が結局何なのか分からなくなる時があるため、生成して使用する際は分かりやすく名前を変更したりするか、マークを付けていくか考えていた。
(仮に印が不要になりそうだったら、声とか、スクリーン表示でアイテムを選んで取り出す技術も必要…なのかな?
どっちが見やすいか後でグランディと亮に相談しようかなー)
転生された際は手動でアイテムを取り出したりしていたが、どんな機能が便利か無駄手間を無くすために色々と模索している。
お金は物語攻略による報酬と一部殺者の楽園討伐によって多額を手にしている。しかも、まだ船員が三人のみな為、ある程度の貯蓄も可能な程に。
何故、資金のやりくりをしているのかといえば
(金額には余裕はあるけど最低でも二人は増えるよねー。特にナツとか生きてる環境が違うし、そもそも説得って簡単に言うけど上手くいくのかな?説得事態私に出来るのかな?
あれーなんか不安になってきたなーでも船に入れられなかったら二人の世界丸ごと楽園に回るのはちょっとなー)
規約にてメール連絡があった主人公を船に引き連れる必要があったこと。
ナツ・ドラグニル、鳴上悠。
生きている文化も、その価値観も二人は異なる以上、仮にこの二人が船に乗ったとしても、今後のことを管理すると考えると遠い目をする程に大変なのが目に見えている。
そもそも自動車や携帯もないあのフェアリーテイルの人物達を連れて行くということは、殆どの電化製品や現代のマナーから始めなどいけなくなる。
色々な問題を考えて溜め息をしつつも、リビングへ向かと。机の上には食事が置かれており、千草がエプロンをつけて待っている。
「私、肉じゃがと野菜うどんを頑張って作っておきました」
「おー、すごーい!」
船に来た当初は肉丼のような簡潔で偏った食事しか作っていなかったが、嶺がいない間にずっと料理の練習をし、その成果が実っている。
「ん、美味しかったよ。また新しい料理作れるのを楽しみにしてるよー」
「はい!今後も新しい料理もできるよう努力していきます!」
*****
【正輝同盟によるトレード】
「そろそろ来る頃かな」
食事を終え、グランディの部屋へ向かう。
正輝からのアイテムが届き、それを嶺が物色している。取引のアイテム回収は嶺側だとグランディを通して支給される。
「お荷物が届いたブヒ。
今から前に出現させるから、離れるブヒよ」
「ん、了解」
グランディの目の前に複数ものスーツケースが出現し、
嶺は自室から持ってきた箱とペンを用意し、それを区分けしていく。
「あの…お前、何やってんだ?」
「今さっき取引の物資が来たから、箱に入れてる。
宝石とルルブレが入ってるよ」
(え?宝石?ルルブレ?
ってかルルブレって何?)
同盟関係を結んだことで、リーダーがその世界へ向かわなければ手に入ることのない貴重な武器や宝、用具といった物々交換が可能となった。
「特にルルブレは刺さったら危険だから取り扱いは気をつけてねー。あ、グランディ。警告文の紙とかあるならそれ貰いたいんだけどある?
誰かが誤って触れたら不味いと思うし」
(嶺のやつ、宝石を貰って…取引相手には何を渡したんだ?)
一つの宝石を貰うだけでも価値が高く希少なのに、その希少に見合ったものを渡しているのかと亮は内心心配していた。その他にルルブレはムカデのように刺されたら危険な物であることだけは、分かった。
「その取引って…嶺以外に確認はできるんだろうな」
「最低限グランディには見せてるよ。
取引交換の査定は私とグランディが管轄してるからね」
「なぁ、ちょっとそれ見せてもらっていいか?」
「いいよー」
貿易用のスーツケースを開くと、如何にも触れたら確実にヤバそうな鋭利なナイフと横には多量の宝石の入っている。
(ヤクザの裏取引⁉︎)
「どうかしたー?」
「なぁ嶺…こんな物騒なものを交換し合ってるのか?」
「そだよー」
「そ、そうなのか…宝石って高価なんだよな?等価交換ならそれに見合ったものを…そもそも、こんなに貰って大丈夫なのかよ」
膨大な宝石を見て、後先考えずに取引したのではないかとマイペースの嶺に貿易を任せて良いのかと。
「弟の連絡だと救援要請を請け負ってくれたから、宝石の殆どはプレゼントみたいなもんだから良いよーって。
もし危険だったら、グランディにストップされてるし。因みに、取引で渡したのは改造札と各種アイテムだけだよ」
「成る程な。でも取引物は今後俺にも見させてくれよ。
万が一お前がいなかったら」
「あー、確かにそうだね。カナードのギルドマスターでの経験もあるし、それなら大丈夫かな。
私が不在でも問題がないように教えておこっかー」
以降、取引での物々交換には亮も加わり、嶺がいなくとも問題ないようにやる事を教えていく。嶺がいなくとも、中間管理職の亮が少しずつ姉の仕事をこなしていく。
「ところで私がいない間、何か変わったことってあった?」
「最近、千草が猫みたいに引っ付いてくるんだ。部屋の中までお邪魔するし」
「ふーん、そっかー」
「いや、ふーんじゃないだろ」
千草が亮の部屋だけではなく、付き纏っていた。過去の亮は何も知らずに打ち解けることもなかった頃はハッキリと鬱陶しいと突き放していたが、今となっては千草の本心をちゃんと受け止めている。
「私がいなくても、船の管理はグランディが統治してるのかなーって」
「プライバシーまで統治されたら流石に支障をきたすから各々で解決してってことだ。
つーか、あいつに管理なんて誰もされたくねーだろ」
心のケアについてグランディが買ったに口を出すわけにもいかず、長く一緒にいたわけでもないので、長いこと付き合っていた仲間達で話すのは最良という判断だった。
「じゃあ、亮は千草がしつこく付き纏うのが嫌なの?」
「いや、じゃないけどさ…そういうことじゃなくて。
なんか、あまりに様子がおかしいから」
(まぁ、この環境に適応出来ないのもあるのかもね)
人殺し云々以前に、無事に元の世界へ帰ることができるのだろうかと不安を抱えてるというのも考えている。
(なんか、思い詰めてる?)
千草も亮も船にいる間、ある悩みを抱えている。敵組織である殺者の楽園の退治の殆どは嶺がやっているが、もしその彼女ですら殺害、もしくは再起不能になったら自分達はどうなってしまうのかと。
「わりぃ、ちょっと…話に行ってくる」
「私もついて行った方がいい?」
「お前相手でも話づらいこともあるだろ…必要だったら、俺がお前を呼ぶ」
*****
千草は料理を作り、食事した後は部屋に篭っていた。
(元の世界に戻っても…生きて帰って来れるかどうかすら分からない。
今は嶺さんが一人で頑張ってるけど、その均衡が崩れたら。船だって今後もし人が増えるのなら、こうして亮さんと二人きりになれるのって今だけなんじゃ…思い残すことがないようにしないと)
嶺が討伐に向かっても、二度と帰ってこれないことが起きたらどうなるか。そうなれば残るは千草と亮の二人だけがこの船にとどまることもある。
生きて帰れる保証がもしなくなったら、せめて。
「入っていいか?」
「あっ…いいですよ」
ノック音と亮の返事に反応し、ドアが開かれる。
元気のない顔をした千草が出ていた。
「お前…最近おかしいし、顔色悪いぞ。
どうしたんだ?」
「ちょっと、疲れてたみたいで」
「…なら話してみろよ。
嶺に話しにくいものなら、俺が聞くから」
「そんなにおかしかった、ですか…」
亮に様子が変だという事を見抜かれ、千草も黙っていた事を口に出す。一息つきつつ、壁に寄り添って座り込みつつ話した。
「ハセヲさ…亮さんと二人っきりになるのも、こういうことはもうないんじゃないかって思ってたから。
嶺さんは一人で大丈夫って言ってくれてはいるんですけど…私、疑ってるわけじゃないんです。信じて嶺さんの無事を祈ってるんですけど、それでも怖いんです。
私達も無事に元に帰れるかどうかも…みんな、死ぬことになったら…
ごめんなさい…変なこと言いました。
こんなこと言ってたら迷惑、ですよね。
寄り添うのも我儘で」
相手の気持ちも考えずに寄り添う。嶺が倒れ、役割が二人に回ったときに息絶えることとなったらと不安を抱えている。
その答えに、亮は即答する。
「いや、千草のは我儘じゃねぇだろ」
「え?」
「弱音を吐いたって良い、心配すんな。
お前は迷惑でも、我儘でもない。俺達がそういう不安を持っても、何もおかしくねーよ。
つーか、俺もお前と同じこと考えてたしな。
あいつが、嶺がもしいなくなったら….一体どうなるんだろうなって。まぁ嶺の方からは仲間は増えるって言ってたけど。
少なくとも、寂しいっていうなら隣にいてやる。
前にも言ったろ、一人で抱え込むなって」
「亮、さん…」
「俺だけじゃない。嶺だってあんな呑気でも俺達のために命懸けに頑張って守っている。
なら、俺達は心配しないようただ守られてるだけじゃなくてアイツの背中を守っていけるよう頑張んねーとな」
「は、はい」
亮の励ましに、千草は元気を取り戻す。
殺人だけではなく船の管理も併せてやっていくとなると過労で今後に支障が出ることもある。だからこそ、亮達が嶺が生きている間、戦わない代わりに出来ることに精進していくことだった。
*****
2人が話を終え、嶺を探していると改造室でグランディと何か作っていた。
「それ…お前何やってんだ?」
「え?亮達が話してる間に今度はメガネとバイクの改造を試してるかなー。グランディと話しながらマップ機能搭載させてるよー。
あと地雷も作ってたー」
「…は?え?じ、じら…あぁうん、もう何もツッコマねーぞ…」
この船の施設である改造室は札以外に改造できるなら、この様子だとアイテムも武装も乗り物ですら何でも出来るんだなともう思考停止して何も言うことはなかった。
「でも…一人だけで介入して戦っているんですよね。だとしたら私達二人も一緒に」
「大丈夫だよ。私も、何も一人で戦ってるわけじゃないし。
その介入先で仲間がいるから問題ないよー」
「なら、お前は迷惑をかけないよう迷子を治すようにな」
「えー(棒読み)」
「えーじゃない」
こうして、千草の蟠りは解消し、姉は新しく用意し改造物を用意しつつ介入前に準備を整える。
そして、転移放置へと向かう。
亮達は嶺を送り迎えし、
「それじゃ、今日も行ってきまーす」
「おう、気をつけてな」
嶺はフェアリーテイルの世界へ戻っていくと、そこは自室にたどり着く。
日付を確認すると家を用意した次の朝になっており、ヘタリアに向かった影響は少なかった。
「よし、早速クエストボード見るかー」
ギルドへ向かい、依頼を掛け持ちしつつも別の街へと仕事をこなしていく。
ー依頼内容は魔物退治、道の邪魔になる障害物の除去、街の清掃活動、猫探し、洞窟散策。
(まるで何でも屋だけど、この世界のギルドってこんなものなんだろうなー)
マップ機能のおかげで散策関連は簡単に達成し、障害物や魔物退治は正義側結界を展開して改造した札とバイクで蹂躙していく。
トントン拍子に小さな依頼をこなしつつ、コツコツとお金も稼ぐ。
順風満帆にその世界で生きていた。
ーそんなある日のこと
宿屋の主人である依頼人の元へ向かい、達成したことを報告するとお金とある紙を手に入れた。
紙にはくじ引きと書かれている。
「あの、これ貰って良いんですか?」
「あんたこの街に来れて本当に運がいいわね。箱の中に折り畳まれた紙が入ってあるから、開封するんだよ。
開封した紙には何等か書いてあるから!
その福引券をあげるし、帰りに寄って行きなさい。
場所はここだよ!」
「ありがとうございます。
それじゃお言葉に甘えて、寄らせていただきますね」
嶺は、街の大広間にあるくじ引き抽選会場へと移動する。たった一枚程度で当たるわけがないと、商品券や日用品の物だけを遠目で凝視している。
期待しないまま箱に手を入れて、紙を取り出して開くと
「あ、当たった」
「おめでとうございまーす!一等、一人4泊5日のアカネリゾート券が当たりました!」
(え、えぇ…一等?使い道無いし、ルーシー辺りにでも渡そうかなー)
興味が無さそうな顔をしつつ、旅行券を受け取る。くじ引きの中でハズレよりも一番興味のない旅行券が当たるとは思ってもなかったのだから。
この世界で旅行に行きたいなんて考えておらず、向かった依頼先の街のくじ引きに何の気持ちも抱かずに参加して、一等が当たるとは思ってもなかった。
だが、その旅行券が次にナツ達に会う前まで、このくじ引きが後の物語に関与するきっかけを与える事になるともまだ知る由もない。