Justice前章:Labyrinth 嶺編   作:斬刄

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25話日常その1(船)

船内の乗組民には、嶺を合わせた三人と一匹(ブタ)が住んでいる。

 

「亮と千草、おはよー」

「おはよう」

「おはようございます」

 

嶺は眠たそうにし、二人が先に料理を作っている。二人の代わりに殺者の楽園を討伐している以上、それ以外のことでやる事を頑張っていた。

 

三崎亮は副管理に任命され、嶺の世話役と体調不良時に代理責任者として任されている。

嶺が船にいない場合は彼が指揮系統になるが、いるときの場合の殆どは嶺の保護者的ポジションである。

 

嶺の行動を見放すと、何をしでかすか分からないから逐一話を聞けば聞くほど、頭を悩ませてばかりだった。今のところ敵対組織の殺しは嶺、それ以外は二人が補っていた。

 

「おい…夜遅くまで改造室にいたんじゃないよな」

「すぐに部屋に帰ったよ。これ以上は無理そうだったから」

『改造や部屋の拡張には上限があると伝えております。その上限を開放するには、いくつか種類があります』

 

主な条件解除は

 

・指定金額の支払い

・物語の進行状況

・特別な任務

 

それら三つを成功させる事で、船の設備とシステムが向上する。船内の広さについては仲間が追加されるごとに拡張されていく。

 

『フリーエリアはPKもドッペルゲンガーもおりません。安心して向かって下さい。

携帯だけだと見えづらいので、掲示板にも送信しておきますね』

 

神から嶺の携帯にメールで任務を提示され、ハセヲ達にも見れるように掲示板も更新する。

 

『エリアボス三体の撃破』

『チム玉50匹確保、ラッキーアニマルと接触と効果を10体分得ること』

『レア宝箱を10個見つける』

(デイリーミッションのようなものかな)

『嶺さんを除く二人は一般人の身体能力と同じなので、そのまま行くのは危険です。

行くのはthe worldでの姿に変身してからでお願いします」

「確かに、このままは不味いしな」

 

仲間も多く集めずに戦うのだとしたら、いざという時のためにアイテム回収も、レベルを上げて力をつけないといけないということは分かっている。

 

「よし、それじゃレベル上げも兼ねてアイテム取りに行くよ」

「まぁそれくらい手伝わないとな」

「私もサポートします!」

 

亮達はthe world時の姿に変身し、クエストへと向かう。

 

(…できるのはデルタとオメガサーバーかな)

 

レベル1〜100までのエリアが解禁され、ロストサーバーは隠されし禁断の聖域のみしか行けない。

エリアワールドの検索には『仮面ノ』と『御伽話ノ』が追加され、それを選択するとエリアにも影響する。仮面は雪子の城と完二の温泉迷宮を形成するが、御伽話はフェアリーテイルのハルジオン街のみの再現だった。

 

*****

 

ハセヲ、アトリの二人でフリーエリアに向かう。『the world』でのレベル基準では、嶺、ハセヲとアトリの3人は初期が90くらいの強さになっている。

最初は草原で敵モンスターを倒す。

飛行タイプのヒヨーコ系と硬いゲイズナイトが宝箱を守り、エリアをウロチョロしていた。

誰かの邪魔もないから、三人ともモンスターに集中して戦える。本来はコントローラーで操作するゲームだが、ハセヲ達にとっては身体を用いてのVRゲームをやっているかのようだった。

 

「なんだかPKがいないのって平和ですね」

「風景や出てくる敵は似ていても、結局あくまでこの場所はネットじゃねーからな」

「その代わりネットじゃない分、怪我も疲れもするから気をつけて」

 

各場所を転々とし、アイテムを稼いでいく。

ミッションを達成すると忘れないようにメールの通知が入ってくる。

宝箱を回収し、エリアボスと出会う。

バイソントータスという、四足歩行に硬殻の二つの鋭利な角を四つ顔につけてあるボスモンスターが近づいてきた。

 

「ボスはデンドロのようなすばしっこいわけでも、特別強いわけじゃない。

取り敢えず、甲羅はハセヲの大剣で粉砕して。アトリは二人の支援、私も削七連で出来る限り削らせておくから」

「わかった、無理すんなよ」

「分かりました!」

 

 

敵の動きは鈍く、後ろに回ったハセヲは大剣・大百足でチェーンソーのように切り刻む。殻にヒビが入ると、その小さい隙間から嶺の削七連が炸裂する。

 

殻がなくなり、よろめいて剥がされた後、生身が露わになったのを見た嶺は神威覚醒を発動させる。

 

ーーー錬刃演舞

 

所持していた双剣が青く光り、バイソントータスを切り裂いた。ボスモンスターを撃破した。

 

「はい、おしまい。それじゃあ船に帰る前にエリアで残ってるものがあるか探そっか」

「後はラッキーアニマルだったな。

まだ見つかってねーけど」

「それじゃあ探しましょう!」

 

その後もエリア内を探索すると、

 

『蹴った蹴られたあんたは早い!

オイラのへそくり分けてやる!』

 

ラッキーアニマルを何体か発見した。

 

きんさんこが高額を支給し、きんうが宝箱をレア宝箱に変えてくれた。本来ゲームでは一エリアにラッキーアニマルは一体のみだが、船でエリアを選ぶとラッキーアニマルが複数出てくることもある。

 

ただし、追加されるアニマルが端っこや見えにくい位置にいたりするため、たまにしか発見することはできない。

最初のミッションだったため、トントン拍子に達成し、楽に進んでいった。

 

*****

 

船には初期のアイテムのみ用意されていたが、こうしてエリアへの散策で宝箱や敵のドロップアイテムで新しいものも入手していく。

ミッション達成も併せた結果は、

〈平癒の雨〉

〈匠の気魂香〉

〈快速のタリスマン〉

〈剣士の魂〉

〈法皇のタロット〉

〈隠者のタロット〉

〈夢見木の葉〉

〈呪判・生命の奔流〉

〈呪判・害毒の退散〉

〈呪判・五感の解放〉

 

味方全体の回復アイテムと戦闘補助、素材アイテムに新しい攻撃、スペル習得アイテムも獲得した。これらのアイテムも、手に入れたと同時にショップにも更新されていく。

 

解毒スペルを得るのも、今後とも他の世界で毒や麻痺を相手にする機会が出てくるかもしれないから、他の仲間に呪判のアイテムも覚えさせるのには貴重なものだった。

 

「豊作豊作。もう昼かな?

昼飯を持ってきたよー」

「コンビニ弁当か」

「汁物も用意するから、待ってて」

ペルソナ世界で保存していた冷蔵庫から持って帰り、二人に配る。嶺は弁当の隣にお椀を用意し、味噌汁を作ろうと台所へ向かう。

 

「ねぇ、神様。チム玉は何に使うの?」

『転移装置の向上と、家電製品のような機械系の改造か主ですね』

「手に入れたアイテムもショップに自動更新されるけど、ギルドショップのように高くつくの?」

『いえ、the worldの買値を基準にしてます。

非売品アイテムの場合でしたら…余りに高性能、高品質であると5000からの金額になりますね。

 

買い溜めしても構いませんが、ご購入は計画的にですよ?』

「ふーん」

 

嶺が味噌汁用の具材を用意している間に、神に質問する。ワカメ、ネギ、がんもどき、豆腐の入った汁をお椀に注いでいく。

水を用意し、三人は食事した。

 

「明日、またフェアリーテイルのところへ向かうから。今日は船に残るけど、明日も船の管理頼んだよ」

「…そうか、頑張れよ。

こっちは千草の料理を教えたりするから」

『では明日に備えてくださいね』

「ん、了解。

二人とも食べ終わったら、自由にして良いよ。ある程度はこっちでやっておくから」

 

弁当を食べ終え、亮達はゆっくりする。嶺も船の状態とアイテムを確認し、やり残したものがないか確認する。

 

次の日

 

嶺は、出かける前に早朝に起きる。

更新されたアイテムの購入と船の改装を指示し、介入の支度をしてから朝食の準備をする。

 

カレーを用意し、まだ二人が疲れて寝ていたので書き置きを残した。

 

「じゃ、グランディ。二人が起きたら伝えといてね。

行ってきまーす」

「行ってらっしゃいブヒ!」

 

今度はフェアリーテイルの依頼をこなすために、また介入するのだった。 

 

 




ーー小話
[嶺とグランディの取引]


「グランディー、呪符一枚で三回分の発動に変えることってできる?デンドロって敵の武器を拾ったんだけど、使えないからさー。
解体しても大丈夫なの?」
「解体しても素材を手に入れるし、新しいアイテムを装備すれば、もしかしたら使えるようになるかもしれないブヒ」
(匣は詮索すれば使えると思うんだけど、この槍なんて全く使わないしなー)

デンドロの槍を正輝に渡そうかとも考えていた。敵の落とした武器はどう扱えばいいか、根掘り葉掘り聞いている。
「ねぇ、この槍を罠に作り替えることって可能?」
「…は?えっ?罠ブヒか?」
「例えば、猪とか畑を荒られるのを防ぐために、電線を張ったりするじゃん。この槍ならかなりの蓄電出来そうだし、敵の武器をリサイクルした方がマシかなと。
槍から素材に変えて、武器に付加させても良いけど…罠の方がやりやすいかなーって。

呪符の改造ならタロットとか戦闘補助系アイテムを合成して、呪符発動と同時に敵の身体能力を低下させたりとか。
あと、設置地雷とか機雷とか考えよっか」
(す、末恐ろしいブヒ…というか話を聞いてると嶺は一体何処に向かってるブヒか…?)

The worldのアイテムも、敵の落とした武器でさえも、グランディの、この船の機能で実現可能なものがあれば、迷うことなく利用する。

嶺は魔改造の開拓に、また前進するのだった。

[何故ハセヲこと三埼亮が保護者化したのか?]

亮がいつも嶺につきっきりでいることに、千草は気になっていた。

「あの、亮さんって…どうして嶺さんに付き添ってるのですか」
「…あー、それはだな」

数日前
『ごめーん、道迷った。
場所はここだから迎えに来てー』
『船の地図ダウンロードするの忘れてたー。助けてー』
嶺が亮にいつも助けてと電話する。
この後、亮はめちゃくちゃ嶺に道案内した。

「いや…だってあいつ、この小型船でさえ道迷うからな…これで人なんて増えだしたら絶対また迷子になるし」
「そんなこと…あー、確かに嶺さんなら。
私、誤解してました…てっきり」
「つーか、本来は嶺がちゃんとしなくちゃいけねーんだけどな」

本当なら船を管理する嶺が船内の構造を把握すべきだが、基本的に改造室とフロントしか行かないから他のところに行くと道に迷う。

恋愛感情は無かったが、それでも放っておいたら危険だからと見失わないようにしている。船と彼女に関しては嶺本人よりも副リーダーこと亮の方がしっかりしていた。

(ま、あんな能天気でも…俺達の仲間だしな)



[ご飯担当は?]
「今後の冷蔵庫の管理はどうする?船の管理も亮と私だけじゃ厳しいかもしれないし。
千草って料理できる?」
「はい!私、これでも料理得意なんですよ!」
「千草っ⁉︎おいちょっとま」
千草が用意した三品は、ボリューミーのある食事が用意されていた。
肉、肉、肉。
亮はやっぱりこうなったかとため息し、嶺の目が点になる。これでもかというくらいの肉が積もった牛丼が用意され、沈黙が降りていた。
「えーっと…これは?」
「牛丼です」
「あのー…いや違う、そうじゃなくて野菜は?」
「野菜…ですか?玉ねぎと長ネギだけですよ」
「あーっ…うん。凄くスタミナがつくね」
(私も、料理は大雑把に作る時もあるけど…まぁご飯に洗剤を入れるとか流石にそこまで酷い無かったのは安心…いやいや、安心できないって…ハセヲと私が倒れたら、肉料理しか出てこないのは不味いって。
せめて胃に優しいうどんと豚汁ぐらいは作れるようにしてもらわないと)

料理はできるけど、肉料理しかなかった。
千草本人が野菜は苦手とのことで、そんなに入れていない。

「じゃあ基本的に私か亮が作って、千草はそのサポート…取り敢えず千草は豚汁、うどん、野菜炒めを作れるように頑張ろうか」
「は、はい…」

調理室は自由に使っていいとのことだったので、時間のある時に千草は料理勉強に奮闘していた。

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