Justice前章:Labyrinth 嶺編   作:斬刄

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20話霊帝と因縁

一人きりの嶺は、殺者の楽園を倒しつつも逃げていた。村に戻るかナツたちのところに合流しようと思っても、後から付いて来ている追っ手に巻き込まれてしまう可能性がある。

 

一旦身を潜み、見失ったところで目的地へと移動しようと考えていた。

 

(なんか数多いな、何体撃破したんだっけ?)

 

敵を倒しては、色んな武器を拾っていたがRPGでありきたりな武器ばかりであった。

大したことない武装で襲っているということは、嶺を用心深く見ずに一人相手なら数の暴力でなんとか出来ると彼らは思い上がっていた。

 

次から次へと、考え事をしながらも刈り取っていた。

 

 

*****

 

 

「…村人から送り込んできた魔道士がまさかお前だったとはな。

知ってて来たのか、それとも偶然か」

「霊帝リオン、知り合いか?」

 

ナツ達だけではなく、霊帝の味方も知り合いだった事に驚く。

 

「早く行け、ここは俺一人で十分だ」

「させるかよっ!」

 

リオン達の仲間である三人が村を消すよう向かう。ナツは行かせまいと動くが、リオンの魔法で彼の周りを冷気が漂い、一瞬にして氷魔法で身体を固められてしまう。

 

 

「ハッピー、ルーシィを連れて逃げろ!」

「あい!」

「えっ⁉︎なんで」

 

このままだとナツを含め全員が氷漬けにされてしまうと考え、グレイはルーシィに顔を向ける。ルーシィは逃げるのか分からない様子だったが、このままだと全滅され村を守ることもできなくなると聞き、ようやく理解した。

 

二人にできる事はこの場から離れて逃げるしかなかった。

「隙を作って女と猫を逃したか、まぁいい。

奴ら如き…シェリー達達じゃ止められんだろう。

いや、あの連中も目障りだと動くか?」

「フェアリーテイルの魔導師を甘く見てんじゃねぇぞコラーっ!」

 

氷で身体があまり動けなくともナツは声を張って出すが、グレイは黙ったままナツを蹴って逃がした。

彼は転がって、落ちていく。

「相変わらず無茶をする、仲間じゃないのか?」

「あれはその気になれば氷ごと破壊できる魔法だろ」

「それで俺の魔力の届かない所へやったわけか…やればできるじゃないか!」

「いい加減先輩ズラするのやめてくれねぇかっ…リオン。

お前はもう、ウルの弟子じゃねぇ!

それに、仲間はあの三人だけじゃない…背後に誰かいるだろ」

 

霊帝と一緒にいた人達だけではなく、他に組織と手を組んでいると聞いていた。

 

「お前が知る必要はないだろ。

それに弟子じゃないのはお前もさ、グレイ。

ウルはもうこの世にはいないのだからな」

「デリオラを封じるために命を懸けて封じたんだ!ウルの残そうとしたものをテメェは壊そうとしてるんだぞ!」

「…記憶をすり替えるな、ウルはお前が殺したんだ。

 

 

よくおめおめと生きていたものだな、グレイ」

兜を取り外し、グレイに顔を見せた。それを持ったまま、もう片方の右手の掌でグレイに向ける。

 

「…ウルを殺したのはお前だ。名前を口に出すのも烏滸がましい!

 

アイスメイク・大鷲(イーグル)っ‼︎」

 

リオンは魔法を展開し、何羽もの大鷲がグレイを襲った。

 

「アイスメイク・(シールド)‼︎」

 

それをグレイは造形魔法の盾で攻撃を防ごうとする。咄嗟の判断で造形魔法を使ったが、リオンの作り上げた大鷲はそのまま突っ込むわけではなく盾を避け、頭上や横といった防御出来ない場所を狙った。

 

「お前は物質の造形が得意だったな。

だが、俺の造形は生物を作り上げる。

 

動き回るアイスメイクだと忘れたか‼︎」

「ぐっ…⁉︎まただっ!」

グレイはまた新しく別のものを作り上げた。

飛びかかってきたグレイを見て、リオンも自分の身を守るために魔法を発動する。

 

「アイスメイク・大鎚兵(ハンマー)っ!」

「アイスメイク…大猿(エイプ)

 

次にリオンが作り出した造形魔法は鳥のような回避ではなく、大猿で防がれる。グレイのハンマーを簡単に崩すほどに硬かった。

 

「話にならんな。

両手で造形魔法を使うのも相変わらずだ」

「ウルの教えだろ…!片手の造形は不完全でバランスも良くねぇ」

「俺は特別なんだ、ウルの力もとうに越えてしまった」

 

グレイの攻撃は防がれ、防御しようにも防げない箇所から狙い撃ちされる。彼はウルの、師匠の教えよりも自分のやり方でグレイを凌駕していた。

 

「自惚れるなよっ…」

「その言葉、お前に返そう。一度でも俺に攻撃を当てた事があったかな?」

「あの頃と一緒にするんじゃねぇ!

氷間欠(アイスゲイザー)っ‼︎」

 

両手に込められた魔力を地面に突きつける。

リオンのいる場所から鋭い氷の柱を隆起させ、リオンを閉じ込める。が、

 

「一緒だ。俺はお前の兄弟子であり、お前より強かった。

 

俺は片手で造形魔法ができたが、お前は出来なかった。何も変わらん…互いの道は違えど俺達の時間はあの頃のまま凍りついている」

 

リオンにはいまひとつにしか効かなかった。

氷の柱は砕かれ、苦しんでいる様子もない。

それどころかリオンの造形魔法、アイスメイク・雪龍(スノードラゴン)でグレイは吹き飛ばされてしまった。

 

「だから俺は氷を溶かす…塞がれた道を歩き出す為に。

 

ウルは俺の目標だった。

ウルを越えることが、俺の夢だったんだ。

 

しかし、その夢をお前に奪われた。

もう二度とウルを越える事は出来ないと思っていた。

 

ウルでさえ倒すことが出来なかったあのデリオラを倒すことが出来たら…俺はウルを超えられる。夢の続きを見られるんだよ!」

 

リオンの造形魔法に吹き飛ばされていたグレイは立ち上がり、怪我をして苦しみながらも止めようとする。

 

「正気か…そんな事が目的だったのか。デリオラの恐ろしさはよく知っているはずだ…止めろ、無理だっ!」

 

前と変わらずに、グレイはデリオラを倒す事は事はできないと言う。しかし、リオンはグレイの耳を傾ける事はない。

彼は師を超えることにしか頭にない。

「止めろ、無理だ…だと?忘れた訳ではあるまいな…お前がデリオラなんかに挑んだからウルは死んだんだぞ!

お前がウルの名を口にする資格は無い!

消え失せろ‼︎」

 

*****

 

グレイは敗北し、倒れ伏していた。リオンの造形魔法で完膚なきまで叩きのめされ、彼の魔法は通用しなかった。

 

リオンが生きてるまでは、一緒に弟子として訓練されていた。彼女が氷となってデリオラを封じ込め、二人の歩む道が枝別れてしまった。

 

グレイは妖精の尻尾(フェアリーテイル)に、リオンは師匠を超えるため、彼の仲間もデリオラの復活に手を貸している。

 

二人は成長し、相見えることとなった。

道は違ってもリオンを止めることができなかった。

 

そんな彼にナツ声を出して近づく。

ナツはぎごちながらも、何とか動かせる両手両足で移動していた。

 

「起きろグレイ、だっせーなー。

派手にやられやがって」

「ナツ、お前何でここに…」

「村がどっちか分かんねぇから高いところまで登ったんだよ。行くぞ!」

 

ナツは蹴飛ばされたところから、グレイのところまで登っていった。

そこに行けば、森で道に迷うよりもマシだったからだ。

 

「まて、歩ける…リオンはどうした?」

「知らん。

誰もいなかったし、儀式も終わってた。

くそっ!嶺だけじゃなく、ルーシィまで見失っちまったし。これで二人がいじめられたら、俺たちのせいだぞ」

 

悔しながらも怪我をしているグレイを連れて、村まで行こうとする。

 

「ナツ…」

「なんだよ」

「オレにはお前のこと…言えねぇ…何も言えねぇ……」

 

リオンを止めようとしたのに、止めることができずに負けて悔しかった。ナツ達には勝手なことさせるなとマスターにそう言われたのに、グレイも人の事が言えない。

 

無理だから出来ないと幼い頃に師匠のウルに止められ、ナツにもS級クエストだから無理だと止めた事を思い出す。

ナツも、リオンを止めることもできず、自分の事も引き下がれずにこの事件に関わってしまった。

敗北した上にグレイは悔しい思いでいる。

それでも、

「負けたくれぇでグジグジしてんじゃねぇ!

俺達は妖精の尻尾だ!

止まる事を知らねぇギルドだ‼︎」

 

ナツはグレイに怒鳴りつける。

その言葉は厳しくも、いつも喧嘩相手になっているナツなりの励ましでもあった。

グジグジするより、進めと。

 

*****

 

「んー、いつまで続くんだろう…」

 

嶺は敵を巻いて、隠れている。仲間よりも遠い場所に移動し、村に行きたくても行けない状態になっている。そこで待てば少なからず、ナツ達の誰かとは出会えるが殺者の楽園が大勢森の中で探し回っているせいで思うように動けない。

 

(ハァ…遠回りするしかないかー)

 

嶺がナツ達と合流するのはまだまだ時間がかかりそうだ。

 

 


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