神のうっかりによって空から落とされたものの、二人は無事着地することができた。
神の加護のおかげでゆっくりと落ちていく。
「はー、びっくりした」
「大丈夫、そうだな…いっつ」
ハセヲが嶺の方を向くと、嶺は無事に立っている。
ハセヲの方は突然ゆっくりになったことでバランスを崩して尻餅をついて仰向けに倒れていた。
「えっと、私の方は嶺です。よろしくおねがいします」
「…ハセヲだ。別に敬語じゃなくてもいいぞ」
嶺は手を差し出して、ハセヲの右手をつかみ起き上がらせた。
ハセヲは立ち上がると衣服に付いていた石ころや砂を手ではたき落とている。
「じゃあ普段どうりにさせてもらうね?」
「あぁ、いいぜ」
周りを見渡すと、何処かの路地裏で普通の現代と変わらない街並だった。嶺達の服の方も現代に合わせたものであり、一般市民から見ても怪しくない服装だった。
自分たちの武器の方はいつでも取り出せるようになってある。
「俺たちの世界と変わらないみたいだな。それと嶺、神様から着いたら携帯を確認するようにって」
「そうだね。携帯を見れば良いんだっけ?」
嶺は携帯を開いて指令を確認した。
指令の内容は敵組織の討伐だけと記されてはいるがその敵組織がどんななのかはまだわからない。
ひとまず、その組織がいずれ襲ってくることを嶺は理解した。
そしてもう一つは、この世界の魔法についてやジュエルシードの概要がメールに記載されている。この世界に散らばっているジュエルシードは暴走すれば大規模な破壊の原因となるために指令よりも先にそれを済ませた方を勧めていた。
だが、ジュエルシードと言っても誰かが封印しなければならないために協力者を探さなければならない。
「ふーん。とりあえず、街を探索しようか。拠点を作らないといけないみたいだし」
「だな、流石に野宿は勘弁だ」
「だよね」
話しながら路地裏を出ると、目の前に二人の女の子が黒い車に乗せられ、走り去っていく。
一人は金髪、もう一人は紫色の少女が複数の男に強行されて 、無理矢理乗せられた。
黒い車はそのまま去っていった。
「「…」」
見ていた二人は驚いていたが、互いの顔を見合わせ
「先に、あっち行くぞ」
「流石に見過ごせないよね?」
二人を助けるために行動に出た。ハセヲ達は携帯のマップを確認すると黒い車がいった先が港にある倉庫だった。距離は遠く、徒歩では無理であるためにハセヲがバイクを出せるかどうか困っていた。
嶺が携帯をつついていると
「なんか出た」
「携帯一つでバイクも出せるのかよ…」
ハセヲのバイクが突如出現し、二人乗りして黒い車の元へと向かった。
黒い車の方は既に停車しており、倉庫は黒いスーツのした人達が厳重に守っている。
「ここみたいだね。準備はいい?」
「んじゃ、行くか」
「「せーのっ‼︎」」
二人は武器を準備し、正面からハセヲと嶺は乗っているバイクで突破した。突破すると同時に正面で見張っていた連中は吹き飛ばされて倒れ込んでしまう。警備していた連中の身に何が起こったのか自分自身分わかってない。外にいる全員が突然倉庫で騒ぎがあったことに驚いて、倉庫に戻っていく。
嶺は彼らを背後から峰打し、受けた連中は何があったのかもわからずにバタリと倒れてしまった。
ハセヲが突破する際に大きな音が鳴った。
*****
「な、なんだ!もうあいつらが来たのか⁉︎応答しろ!何が起きた‼︎」
「し、侵入が入ってき…グワッ⁉︎」
「そいつらめちゃくちゃつよ、うわぁぁあぁぁっ⁉︎」
なにも用意していないのに既に本拠地に警察が入ってきたのかと思っていた。しかし、警察ならパトカーのサイレンが鳴ったりや複数人で侵入している可能性がある。
「役立たずが!どうなっている⁉︎」
ボスが舌打ちをすると同時に、ドアが爆発する。
「な、ちょっと⁉︎」
「きゃっ…」
爆発によって部屋にいるボスの部下の大半が吹き飛び、気絶している。残っているのはボスと彼の近くにいた部下だけ。
「おい!何が起こっている!」
「爆発してるよー」
「みれば分かってい、なっ⁉︎」
返事を返した方を見ると知らない男女の二人組みが離れた場所に立っており、人質になっていたはずの二人の少女を抱えて立っている。
「おい、ばれたじゃねーか」
「いや、話しを返した方がいいかと」
「貴様ら何者だ!夜の一族じゃないな!」
出てきたのは警察でもなく、彼らの言っている夜の一族でもない。
助けに現われ出てきたのは黒い車を追ってきた嶺とハセヲだった。
「誘拐の目撃者その1?」
「じゃあ俺はその2か?つーか、夜の一族ってなに?」
「知らない」
ハセヲは嶺に尋ねるが嶺自身もこの世界について来たばかりなのでいきなり夜の一族だとか言われてもわからないため首を傾げている。
「おい、早くこいつらを始末しろ!」
「やっちまえ‼︎」
部下の方は二人だけならどうにかなると思い、武器を用意する。ボスの方は部下だけではなく機械の人形まで出現させて、その人形でハセヲと嶺に襲う。
「結構出てきたな?どうする?」
「スキル援護の方よろしく。この二人守らないといけないし」
「いけるか?」
「らくしょーまぁ、みててよ」
ハセヲはアリサとすずかの二人を彼の背後にじっとさせ、嶺は鎌を構えている。まず部下よりも先に機械人形がチェーンソーや刀を振り回して襲ってくる。
「邪魔」
横に振り下ろされた鎌は人形の身体ら両断され、機械人形は残された両腕で起き上がろうとしても嶺は鎌から双剣に切り替えてバラバラにする。さっきまでいた人形は全滅だった。
「次、どうするの?」
機械人形をアッサリ倒した相手に部下が臆していたが、
「お、女一人に何をやっている!さっさと潰せ!」
ボスが拳銃を構えて脅している以上、動かざるおえなかった。部下は嶺の周囲を囲って襲うが、双剣で殺したりせずに柄で腹を狙って穿ち、一人ずつ気絶させる。
「はい、おしまい」
「くっ、くそっ‼︎こうなった「レイザス‼︎」ごふぁ⁉︎」
ボスは拳銃で嶺を殺そうとするものの、ハセヲがレイザスの魔法で吹き飛ばす。ボスは銃を手放し、嶺はその銃を破壊した。
「なぜ、なぜそいつを助ける⁉︎何なんだお前達は‼︎」
「力があって目の前で誘拐されているの見たら助けるでしょ」
「こういうクズは見過ごせねーしな」
後残りはボス一人だけ、彼の周りに守ってくれる人はおらず逃げるだけだったが、すずかを見て余裕の表情を見せた。ボスはすずかに指差して叫んだ。
「あ、あの女は人間じゃない!助ける価値なんてない!化け物なんだぞ‼︎この際だからお前達に教えてやる!」
「⁉︎やめてぇぇっ‼︎」
「こいつの正体は、吸血鬼だ!」
すずかの一家は夜の一族という、人ではなく吸血鬼として彼女は生きていた。少女は人間じゃないことが他の人に明るみになったことで大泣きしていた。このことについては他の人には知られてはいけないものであり、特にすずかにとってはアリサという親友の眼の前で知られてしまった。
「吸血鬼…」
アリサは友達が吸血鬼だということを知らなかった。すずかの方は自分の秘密が明るみになったことで座り込んでなくしかできなかった。
「あぁ、そうだ!バカなお前は何も知らずに素性を隠した奴を親友だと本気で「だから…だから何よ!私にとってすずかはすずかよ!吸血鬼って知ったとしても、私はすずかのことを私の親友だと思ってるんだからっ‼︎」⁉︎お前!自分の言っていることが分かってんのか‼︎
こんな人外と一緒にいるのが気持ち悪いと思わないのか‼︎こんな女、身代金にする方がよっぽどマシだ!」
しかし、アリサはボスの言葉に聞く耳を持たない。
「全然気持ち悪くなんかない!今日初めて秘密を知ったけど…それでも、私にとってはかけがえのない友達なの!
吸血鬼だからってそんな理由で差別しない!あんたなんかのような奴に振り回されない!すずかは私の大事な親友よ‼︎軽蔑なんか絶対にしない‼︎」
「アリサ…ちゃん!いいの?」
「良いも何も、一緒にいた仲でしょ」
ボスは仲の良い二人のことを諦め、今度は嶺達の方に期待を向ける。
化け物だと知った以上、すずかのことを放っておいてくれるに違いないと期待していた。
だが、
「親友…ハハッそんな化け物の方がいいってか?ならよ!お、お前達はどうなんだ⁉︎」
「え?だから?」
「お前のようなクズよりはマシだろ?」
嶺の方はその話を聞いても全く動じず、二人ともたとえ鈴鹿という少女が吸血鬼だとしても何とも思っていない。もう立ち向えるための手段がなく、この場から逃げようとするが
「オイオイ…逃げんなよテメェ」
ボスが逃げて行く先にハセヲが道を塞ぐ。
最早彼に逃げ道はなかった。
「じゃあ、ガタガタ震える準備はいいかな?」
「クソッ!こ、こうなったら最終兵器だ!」
彼のポケットからスイッチを取り出し、それを押すと何かが動くような大きな機械音と揺れが生じる。ガチャンという音が鳴り、出てきたのは3メートルくらいの機械人形だった。
だが、人形はその場で止まる。
「ん?」
嶺の携帯の着信音が鳴り、携帯を開くとうげっと顔になる。
ボスの方は巨大な機械人形を見て高らかに笑っていた。
これさえあれば、あの二人を一網打尽にできると。
「さっきの人形とは一味違う!さぁい「とりあえずしずんで」ぐはっ⁉︎」
ボスが言い終える前に嶺が腹に掌底を食らわせて、柱に括り付ける。
その間に止まっていた機械人形の様子がおかしくなった。
変な音が漏れ出していた。
「こいつ止める奴気絶させてどうすんだよ。それにあの機械人形、おかしくなってねーか?」
「うん、暴走寸前だよ。やったね、敵の強化フラグだよ」
「は?」
嶺は人形に指をさすと、機械人形の中に青い宝石みたいなものが埋め込められていた。携帯で連絡していたジュエルシードというものがなぜか機体の動力源となって稼働している。
「こいつの動力、ジュエルシードってやつ」
「…ちょっと待て。それって、メールの知らせで、暴走しすぎたら町が破壊されるってやつだよな?」
「うん」
「うんってうれしくねぇー」
止まっていた人形が動き出し、本格的に暴走している。5人を敵認識し、嶺達の方向に身体を向けた。
「あ、アリサちゃん…私達どうなるのかな」
「大丈夫よ!あの二人ならきっとどうにか、なるよ…」
アリサとすずかは怯えつつ互いを抱きしめている。すずかはずっと泣いており、アリサの方は不安になりながらも二人を信じることしかできなかった。
「とりあえず、ぶっ壊そうか?」
「やるしかねーな。なんで来て早々にこんなことになるんだ?」
機械人形は右手をチェーンソーに変形し、左手をミサイルへと変形させた。遠くにいる嶺達を始末するために左手のミサイルで乱射してきた。
「なるようになれだね?」
「来るぞ‼︎」