ナツ達は津波に巻き込まれ、流れに流れ着くと目的の島にたどり着いた。全員生きてこの島についたが、乗っていた船は津波で破壊され、もう街に戻ることはできなくなった。
「…あれっ、嶺さん」
「あ、目覚めた」
嶺は既に起きて、ルーシー達が眼を覚ますのを待っていた。起きるまでの間、ずっと周囲を見張っている。
「これってガルナ島に着いたの?」
「そうみたい…津波で打ち上げられたわね」
ナツとハッピーが元気に、グレイは疲れ気味で起き上がった。津波に巻き込まれても全員生きており、かつ目的の島にたどり着いたのは本当に運が良かった。
「あのおじさんなんだったのかしら、それにあの腕のことだって…悪魔の呪いって言ってたけど」
「少なくとも、あの島に住んでいたならよく知っていたはずだと思うよ。突然いなくなったから、聞けなくなっちゃったけど」
ここに住む島の住民に会うということは、ほとんどはその呪いに毒されているということとなる。
連れてきてくれた、船乗りのように。
「気にすんなー!この島の探検に行こうぜみんなーっ!」
「あぃっ!」
「依頼内容からして最も気にすべきことじゃないかしら…」
あの船乗りが言っていたことを推察するよりも、ナツ達は気楽に何も知らない島を取り敢えず探検して、どんな島かを調べていくこととなった。
単純だが、今ある情報では足りなすぎる。
「まぁ、そこら辺はこの島に住む誰かと接触しないと進展しないし」
「ハァ…それもそうねー」
(また、逸れないようにしよー)
依頼内容を深く知るには、この島についてよく知っている人か、あるいは島の歴史が記されてるといった情報を辿るしかない。ルーシーが地図を持っており、依頼主のいる場所を依頼書で探している。
「この島には村が一つあるらしいんだけど…そこの村長さんが今回の依頼主よ?まずはそこを目指しましょ」
「ちょっと待ちな、俺も連れて行け」
グレイが声をかける。帰る船も無くなり、もう止めようとする気もない。
「…あれグレイ、行くの止めないの?」
「まぁな。船は壊れて、もうお前らをギルドに連れ戻すことすらままならねぇ。
それに、お前らだけ先に二階行くのも癪だし、破門になったらそれはそれでつまらん。
仕事しっかりやってのけりゃ、爺さんも文句言えねぇだろ」
これでナツ達を連れ戻そうとやってきたグレイも、彼の気が変わってS級クエストに参加する。
「それじゃあ行くか!」
まず、この島にある村へ事情を聞くことから始まった。
*****
夜頃
島に流れ着いた時に明るくなった空も、村にたどり着く頃には暗くなっていた。門は大きい柵で作られており、看板にはKEEP OUTと記されている。
「あのーすみませーん!
開けてくださーい!」
嶺がまずそう叫ぶが、返事が返ってこない。
誰も人はおらず待てないナツは壊してはいろうとするが、ダメとルーシーに注意される。
上から見張る人が声を上げた。
「何者だ!」
「魔導士ギルド、フェアリーテイルの者です!」
「依頼が受理されたとは聞いていないぞ!」
(ですよねー)
マスターの許可なくナツ達が勝手に行ったのだから、受理が処理されているわけではない。
「いや、あのっ…」
「何かの手違いで遅れているんだろう!」
ルーシーは返事できずに困惑したが、それをグレイが遅れたという形でフォローする。
「全員紋章を見せろ!」
嶺達はフェアリーテイルとして刻まれた紋章を見せる。見せる前まではずっと怪しいと警戒していた彼らだったが、ギルドの人達が本当にやってきたとざわつく。
村の住民はナツ達のことを納得し、門を開ける。
「怪獣の口の中に入っていくみたい…」
「やなこと言わないの…」
お出迎えに来た村の人達は、薄汚れたフードを被っている。
この村を収める村長がまず前に出る。
「わしがこの島の村長、モカです。早速ですがこれを見ていただきたい…皆の者!」
村の一同が一斉にフードを脱ぐと、彼らもまた悪魔の呪いで身体の一部が怪物みたいに変貌していた。
「船のおっさんと同じだな…」
「すっげぇもみあげ‼︎」
「いやいや、見るところそこじゃないよナツ」
人間の肌から月の光に照らされることで突然変異し、完全に姿が化け物となっている。
珍しく嶺がナツにツッコンだ。
「この島にいる者すべて、人だけじゃなく犬や鳥まで例外なくこのような呪いにかかっております」
「言葉を返すようだが…何を根拠に呪いだと?流行病だと考えねぇのか?」
呪いである確証もなく、病という形であればその病原菌が村全体に及び、原因で身体の一部が化け物のようになってもおかしくない。
「何十人という医者にも見てもらいましたが、このような病気はないとのことで…そんなことになってしまったのは月の魔力が関係しておるのです…」
元々は、昔から月の光を蓄積し、島全体が月のように覆われて美しい島だった。が、何年か前に、突然月の光が紫色に変わり始めた。
「あ、紫の月だ!」
「呪いです…これが月の魔力なのです」
雲に隠れていた紫の月が出てくる、その時に一部だけ化け物の身体を持っていた彼らが、苦しみながら体全体が変化していく。
「驚かせて申し訳ない」
「こいつは…どういうことだこりゃ」
人間の姿をしたものは誰もおらず、全員月の光によって化け物となっている。
「そんなっ」
「なんて…なんてかっこいいんだぁぁっ!
良いなー!角とか棘とか!
かっこいいなぁっ〜!」
「そ、そんな風に言われたのは、初めてだ…」
ナツだけが嬉しく思い、意外な反応に驚く村の人達。ナツ達はこの呪いを解決するためにやってきたのに、感動している場合じゃなかった。
「あのねぇ…みんなはこういう姿になって困ってるの!」
「マジか、悪い悪い。じゃあどうにかしなくちゃな」
「やっと理解したね」
「空気読めっての」
この呪いは紫色の月が出ている間、人間の姿から完全に悪魔の姿へと変貌してしまう。朝になれば元の姿に戻るが、心までは元に戻らない人も出てきている。
朝になればみんな元に戻るが、心を失って魔物に変貌してしまう人もいる。村はそうなってしまった人が、他の誰かを襲わないために、
「殺す他なかったのですっ…!」
「元に戻るかもしれないのにかっ⁉︎」
「放っておけば、皆がその魔物に殺されてしまう!閉じ込めても、牢を破壊する…だから、私の息子を殺してしまった」
村長が大事に持っている写真は、ガルナ島まで連れて行ってくれた船乗りが写っている。
彼らは死んだこととして扱われていたが、この島に行く前にナツ達は既に彼と出会っている。
「えっ、でもその人…私達昨日」
「しっ…!あのおっさんが消えちまった訳がようやく分かった。
そりゃあ…浮かばれねぇわな」
(まさか…幽霊っ⁉︎)
(…お気の毒に)
もしも、さっきまで喋っていたのが既に死人だとするなら、幽霊となってナツ達をこの島に導く亡者だったのだろう。
村に息子の墓があることが、その印だ。
「どうかこの島を救ってください!このままでは、全員心を奪われて悪魔に…」
「そんなことにはならねぇ!俺達がなんとかする!」
ギルドのみんなには何も言わずにS級クエストを密かに受け、ナツ達で達成する。
その為に、この島へとやってきた。
「ワシらの呪いを解く方法は一つ…月を、月を破壊してください…!」
月の破壊。頭上で紫色に光っているその月は、村人達を怪物にし、心までも変異させる脅威へと成り果てさせる。ひとまず宿は村には空きのテントがあるため、そのテントで四人一緒に寝ることとなった。
「一応、詳細が聞けてよかったね」
「見れば見るほど不気味な月だね」
「ハッピー、早く窓を閉めなさいよ…村長さんも言ってたでしょ?次の光を浴びすぎると、私達まで悪魔になっちゃうのよ」
窓を閉め、月の光を遮る。あの村人達と同じように、月の光によって化け物に変わってしまうと村長に教えてくれたのだ。
「でも、流石に月を壊せっていうのはな」
「何発殴ったら壊れるのか…検討もつかねぇ」
「壊す気かよっ!」
「そうね…どんな魔道士でもそれはできないと思う」
「または、この島限定で特殊な何かが用意されて、そこの住む人達があぁなった、か」
月の破壊のことと、島の呪い。この二つには関連性があるが、月が壊せないとして逆にその呪いを別の方法で解けるかも分からない。
結局詳細を聞いても、打開策が見つからない以上いくら考えても案は見つからない。
もう少し島のことを調べる必要があった。
「ナンパして一日歩いて、流石に疲れたぜ」
「何故脱ぐ…?」
みんなして、寝る準備をする。
「だったら明日は島を探検だ!今日は寝るぞ!」
「考えるのは明日だ」
「それもそうだねー。疲れてるし」
「そうね…私も眠いし、寝よ」
風呂もなく、このまま用意された布団で床に寝ることとなるが、ナツとグレイのいびきがうるさい。
「こんな獣と変態の間でどうやって寝ろと⁉︎」
「ルーシー、耳栓あるけど使う?」
ジュネスで買った耳栓をルーシーに渡す。既に嶺が枕の近くに自分用の耳栓を用意しており、代用の耳栓を渡す。
「あ、ありがとう!…嶺さ「さん付けはしなくていいよー」それじゃあ、嶺でいい?」
「ん、いいよ」
フェアリーテイルとして働きながらも、嶺はまず同じ新人のルーシーと仲良くなっていった。煩い二人の声も、耳栓のお陰でグッスリと眠れた。
*****
次の朝
耳栓のお陰で嶺とルーシーは快調だった。
ナツとグレイは寝癖が悪くて疲れていた。
「さぁ出発よ!」
「行こっか」
「「はい…」」
まず、森の中を進んでいく。月を壊さずにすむ方法も探さないといけないと、仮に月を壊したら限定の食べ物が食えなくて困るとそんな何気ない会話を嶺は聞いていた。
「月見ができなくなるだろうが」
「そっか!フェアリーテイル限定の月見特製ステーキが食えなくなっちまうのか!」
(月が無くなったら、夜が不便そうだなー)
ナツとグレイ、嶺はそのまま歩いていくが、ルーシーはホホロギウムという精霊を召喚していた。彼女は時計の中に入ったまま、精霊に移動を任せてるのは呪いを恐れているからだ。
それに対し二人は
「流石S級クエスト!燃えてきたぜ!」
「呪いなんて凍らせてやる。ビビることはねぇ」
「『ほんとあんた達バカね。それになんで嶺まで平気なのー?』と、仰っております」
(…呪詛とかの呪い系統にも耐性あるよーなんて言えないし)
リリなの世界での正輝の空間耐性だけではなく、呪いの耐性も生前から持ってある。
「そういえば、嶺って闘えるのか?
見たことねぇけど」
「うん戦えるよー」
「どんなものが使えるんだ?」
「ん、えーっとね…」
嶺が持ち物を確認して、見せれる範囲の武器やアイテムを見せようとした時、背後から大きいネズミが現れた。ナツ達も驚き、ネズミは目を光らせて襲ってくる。
「早くやっつけなさい、と申しております」
(先手必勝…)
「アイスメイクっ…」
グレイが氷魔法を出す前に嶺はすぐさま呪符を取り出し、ネズミを撃破した。取り出した呪符は風(ザンローム)と水(リウクルズ)の二重攻撃で上に吹き飛ばされる。
(…やべ、いつもの癖が出ちゃった)
巨大ネズミは勢いに負けて気絶し、嶺の強さにナツ達が驚く。
「すげーっ!何だあれ⁉︎」
「い、今…水と風を同時に使わなかった、か?」
「あ、えーっと…」
呪符を使ってネズミを倒したが、質問に答える時間はそんなになかった。今度は地響きが鳴り、大量の大岩が転がってくる。
「今度は何⁉︎、とおっしゃっております」
「うわっ⁉︎こっちに向かってくるよ‼︎」
精霊は危険だと座に戻り、ルーシーは時計の中から出てしまった。
「だったらぶっ壊しちまえばいいだろっ‼︎」
ナツとグレイは、その大岩破壊しようと魔法を展開する。しかし、
「何っ⁉︎」
「この岩、炎が効かねぇ!」
炎と氷魔法が全く通用しない。炎は消え、氷は館単に砕かれ、岩は傷一つつかない。
「くそっ、あそこまで逃げるぞ!」
「あ、ちょっと待っ…」
周りがよく見えず、ナツ達はその神殿へと走って逃げる。嶺も追おうとしたが、大岩に遮られてあまり動けない。彼らが逃げ出した先は、この島にある神殿だった。
「えっ⁉︎」
「う、嘘だろっ!」
「いやァァァッ!」
ナツ達は神殿に勢いよく入ったせいで、老朽化した床は崩れていった。
「おい!みんな大丈夫か⁉︎」
「あれ?嶺は?」
「いない…まさか、逸れちゃったの?」
ナツ達が見渡すと、背後をついてきていた嶺の姿が全く見当たらない。
「上まで登るか?
もしあいつがもし敵に接触したら」
「でも、あそこまで上がれないよ〜」
いくらハッピーでもナツ達を持ち上げて、元に戻ることはできなかった。彼らは嶺抜きで、見知らぬ洞窟を探索するしかない。
*****
「あれだけ亮には仲間とは逸れるなって言われたのに…」
ナツ達を追っていたのに、巨体ヤギと大岩のせいで逸れてしまったのだ。近くにある神殿に入ってたかと思えば、床は崩れて底に落ちていた。
「えぇ…なんか床が崩れてる。ナツ達も見当たらないし、最下層にいると思うけど…やっぱり逸れちゃった…」
雑兵を差し向け、草木に隠れながら嶺の動向を見ている。ガルナ島にいるのは、嶺だけではなく殺者の楽園も既に介入している。
彼女を双眼鏡で監視している男が、身を潜めて尾行していた。
「標的は、たった一人で彷徨っております。
如何なさいますか?」
「放っておけ。表の方でウリドラを溶かすのに動いている霊帝って連中がいるだろ。島に流れ着いたフェアリーテイルが今頃邪魔しているはずだ。
あの女が手助けする時に妨害すればいい。
仕掛ける時は、指示を出す」
「か、かしこまりました!」
表では零帝達がアイスドシェルを月の雫で溶かす彼らが動き、その裏にいる殺者の楽園は計画の邪魔をする者や異端者を葬り、最後には全てを奪おうと企む。
森に大岩を用意したのは彼らだった。火と氷の耐性を罠用の岩で実験し、効果かがあるかを見た結果、予想通りに上手くいった。
「ククク…俺は初代のようなヘマはしない」
この島に潜みつつ、時を待って好機を狙っている。兵を従えている男の姿は金属製の鎧に、全身に仕込まれている武器、まるで一人で大軍と戦っても余裕な表情を見せれるくらいの重装備を兼ね備えていた。
「時が来れば、まず島中にあるものから略奪すればいい。フェアリーテイルとやらも、ウリドラも、無用心にノコノコとやってきた正義側も
…全ては世界を支配するこの俺の糧となる‼︎」
この島に潜む殺者の楽園のボス、首領クリーク・2世と呼ばれていた。
裏話
*大波に巻き込まれ、ガルナ島でたった一人嶺だけが眼を覚まし、何をしていたのか
嶺「ミストガンって人が確かみんなを眠らせて…私だけ眠りの効果が効かなかったんだよね。
装備見てみ、あっ…」
防具用素材:不眠ドリンク
効果ー睡眠無効(攻撃等含む外側からの睡眠効果を無力化する。ただし身体及び精神的疲労による睡眠は例外)
嶺「あーうん。そりゃ、起きちゃうよね…」