ギルティクラウン~The Devil's Hearts~ 作:すぱーだ
何人いるんだろ?
今回ちょっと短いかな?
第六話です。
集は出来るだけダリルや白服達に近付こうと懸命に脚を踏み出した。
ダリルは集を不機嫌そうに見ると、
白服の兵士達に向け、手の平をついっと集の方に振った。
そしてダリルは集に向け発砲した。
それに続き、後ろの兵達も集に銃弾を浴びせた。
「 がっ…ああ!! 」
ダリルの弾丸は集の左手手首から少し上の位置に命中した。
集の左手から鮮血が吹き出す。
集が痛みに身をよじるとそれが幸いし、周囲に兵達が放った銃弾が掠め、集の体のあちこちを削った。
肩、腰、脇腹、左肩からも血を流し集は倒れた。
地面に倒れた集にダリルが近付いた。
「なんだよ、お前…」
倒れた集はダリルを睨みつけた。
ダリルはそれを見てこめかみにシワを寄せると、爬虫類じみた恐ろしい顔で憤怒した。
「なんだよその目は!! 」
叫んだダリルは集の腹に思いっきり蹴りを入れた。
集に強烈な吐き気が襲う。
「 ……っぷ !! 」
「お前さあ…今っ…僕の事、
おまえって呼んだよなあ…。」
ダリルの体が怒りで身を震わす。
「…っはは、気に食わなかった?」
集は痛みに耐えながらも、なんとか笑みを作ったがその額からは汗が噴き出していた。
ダリルは集の言葉にさらに怒髪天を衝いた。
ダリルの目は血走り、額に青筋が立っていた。
その顔のままダリルは何度も集を踏みつけた。
集は痛みに耐えながら、この状況を挽回する方法を練っていた。
( まだだ…まだ待て…っ!)
集は耐えながらチャンスを待った。
ーーーーーーーーー
「 や め ろ お お お !!
、 お ま え え え え !!! 」
「 シュウ !! 」
突然叫び声を上げて飛び出した集にいのりは、反応出来ず…、集はそのまま白服達に向かっていった。
「 ダメッ!シュウッ!!」
『いのり、持ち場を離れるな!!』
いのりも飛び出そうとしたが、涯の言葉に足が止まった。
幸いまだ兵達の死角にいた。
いのりは建物の影から集の様子を見守った。
白服達は集に銃口を向け、
発砲した。
次の瞬間、集は地面に崩れ落ちた。
「 ……っ!! 」
いのりはまた飛び出そうになるのをなんとか抑え踏みとどまった。
いのりの隠れている壁の周囲を流れ弾が削り取った。
だが、いのりは集から目を離せなかった。
ダリルに蹴られ、踏まれる集を見ながらいのりは願った。
「…っシュウ… 。」
彼の無事を…。
何処も悪いところが無いはずのいのりの胸がザワザワと騒いでいた。
ーーーーーーーーーー
『 っ!!』『っな!?』『…うおっ!』『ちょっと、何してるのよあいつ!!』
突然響いた少年の声に葬儀社の面々は、驚き戸惑った。
『ダメッ!シュウッ!!』
「いのり、持ち場を離れるな。」
その後に飛び出そうとしたいのりを涯は制止した。
「涯っ、全員配置完了しました。」
涯の横にいる、銀髪ロングで眼鏡の男 四分儀 が声をかける。
「全員そのまま待機と伝えろ。」
「 はあ、しかし…ーー。」
四分儀の言葉の途中で葬儀社のメンバーが息を飲むのを感じた。
見るとモニターに倒れ血を流し、ダリルに踏み付けられる集の姿が映った。
身動ぎするため生きてはいるが、あれでは時間の問題だろう…。
「作戦に変更は無い。」
しかし、涯は冷たく言い放った。
「よろしいので?…彼がこの作戦の要では…。」
こうしてる間にも、
『クッソ涯まだかよ!』『あいつ死ぬぞ!』『涯っ!!』っというメンバーの騒ぐ声に涯は…ー
「 うろたえるな!!これは奴自身の勝手な行いにより招いた事 !!」
ー…一喝して黙らした。
「奴の責任は奴自身にとってもらうっ!!」
「繰り返す、作戦の変更は無し!このまま各自別命あるまで待機待機」
『…………ーー。』
メンバーの中に言い返す者は居なかった。
「 …さてっ…。」
涯が呟くと、集といのりの無線機に繋いだ。
「 桜満集っ、こちらは助けない…お前自身がとった行動だ。」
「 せめて、奴らに目にもの見せて…
、 一矢報いてみせろ… 。 」
涯はそう言うと無線機を切り、事の成り行きを見守った。
ーーーーーーーーーーーーー
右耳に付けた無線機から涯の声が聞こえた。
" 一矢報いろ。"とやはり堂々とした口調で涯はいった。
確かに勝手な行動をとったのは、自分だ…だからそれに見合うだけの事をしろと、涯は言って居るのだ。
ダリルは息を切らしながら、ボロ布の様になった集を見下ろした。
「 もう、壊れちゃった?」
ピクリとも動かなくなった集にダリルはまた蹴りを入れた。
集の口から声が漏れる…。
「 よかった、まだ壊れてないみたい…
もっと苦しませないと僕の気は晴れないからね…。」
咳き込む集にダリルは楽しそうに言う。
そこに…近付く男がいた。
「 ほお、これはこれは誰かと思えば…。」
声のした方向を見れば、いのりを連行したグエンが立っていた。
「何?知ってんのこいつ…」
ダリルが胡散臭そうな目でグエンを睨みつける。
「つい数時間前に、ちょっと…。」
集を見下ろし、グエンは話し続ける。
「"桜満集"だったか…、君はあんな目にあってまだ教育し足らないらしい…」
グエンは全面レンズのサングラスをクイッと持ち上げながら言った。
「まったく、呆れた学習能力の低さだよ君は…。こんなところにも首を突っ込むとはね…。」
グエンは鼻で笑う。
「 まさか" 浄化 "作業中に飛び込んで来るとは…。」
グエンの言葉に……ーー
「 何が…" 浄化 "だ…。」
集は黙ってられなかった。
「 こんなの、ただの虐殺だ !! 」
ダリルが集の腹を蹴り黙らせる。
グエンは心底残念だと言わんばかりの顔で、悶える集に話しを続ける。
「 やれやれ傷付くな…、これは君達のためを思ってやっていること…。
我々だってイヤイヤながらこなして居るのだ…。」
「 ……ははっ。」
グエンの言葉を集は嘲笑った。
「…イヤイヤな割には、皆さん随分と楽しそうですよね…。」
グエンの眉間にシワがよる。
「…本当は弱いものイジメが楽しくて仕方がないんじゃあないんですか? ほんと命をなんだとー…。」
グエンは力任せに集を蹴り上げた。
咳き込む集にグエンは怒りに声を震わせた。
「 いいだろう…、そんなに死にたければ、君も今ここで処分してやる…! 」
「 …ちょっと待ってよおっさん、自分一人で楽しまないでくれる? 」
傍観に徹していたダリルが声を上げた。
「 こっちはまだやり足りないんだけど…? 」
ダリルはグエンを睨み付ける。
「 了解しました。では少尉が担当していた母と子は私が…」
グエンは銃を抜きながら先程の親子の所へ歩いて行った。
あの母親が子供に覆い被さり、子供を庇っているのが見えた。
「 そうゆう事、お前の命は無駄になったね。」
集はこの様子を見ながら、概ね自分の狙い通りになっている事に安堵した。
集は、ダリルに踏まれてる間に考えついた策があった。
それは作戦と呼ぶには余りにお粗末で、穴だらけな、言ってしまえば非常に頭の悪い作戦だった。
ほんの少しのミスや目論見違いが自分と人々の命を奪う…。
この場合集は撃たれるのは、ダリルでもグエンでもどちらでも良かった。
結果的にダリルになって良かったかもしれない…。
少尉という階級がどの程度上にあるか、集には分からなかったが、二人の言動からしてダリルの方が立場が上の様な気がした。
それでも、もしダリルが自分を撃つ前にグエンが親子を撃ってしまったら…、集の一筋の光であるこの策はあっさり崩壊する。
集はもう一手打つ事にした。
「 …?、なに笑ってんのお前…。」
ダリルは集が笑みを浮かべている事に気付いた。
「いや…、大した事無いんですけど…。
心配なんですよ…。」
ダリルは集の言葉を笑いながら言った。
「 お前がどんなに心配しても…、お前もここにいる奴ら皆殺しだから心配するだけ無駄だよ。」
「いや…、僕が心配してるのは…あなたの事なんですよね。」
集の言葉にダリルはまゆをひそませた。
「どういうこと…?」
「…だってさ、貴方が引き金なんか引いたら…ー。」
集は精一杯あざける顔をして、ダリルを見上げる。
「折れちゃうでしょ?
そんなモヤシみたいな指じゃ…。」
ダリルの顔が般若の様に歪む。
ダリルは集を三回程蹴ると集に銃を向ける。
「 死ね 。」
これで間違い無くダリルは先に撃つ…。
集は体の力を抜き、ほぼ無傷な両足と右手に力を蓄えた。
後はあの時のものが幻聴の類いでは無い事を祈るだけ。
集は目を閉じ、意識を耳の神経に集中した。
ダリルが引き金に力を込めているのが聞こえる…。
引き金と連結した歯車が耳障りな音を鳴らす…。
先程はこの音が鳴った瞬間に飛び出した。
だが今度はもっと待つ。
歯車の動きに合わせて撃鉄が薬莢を弾こうと引き絞る…。
…まだ待つ。
ッキン っという音と共に最大まで引き絞られた撃鉄が解き放たれた。
それと同時に最大まで蓄えられた両足の力を、集は解き放つ。
集はダリルのもとに跳び上がると、右手でダリルの銃を持つ手に掴みかかり、銃身をあさっての方向に向けた。
既に撃鉄が解き放たれた銃は弾丸を止める事が出来ずに、放たれた弾丸はグエンの銃を構える右手首に命中した…。
「 ・・・ぐっ、ぎゃあああアアア !! 」
グエンは一瞬何が起こったか分からず固まっていたが、数秒後に絶叫を響き渡らせた。
グエンの手から発砲されずに終わった銃がこぼれ落ちる。
グエンの手に銃弾が当たったのは、偶然では無く集が事前にダリルの腕を向かせる方向を決めていたのだ。
かなりギリギリのタイミングだったが、なんとか成功させる事が出来た。
叫ぶグエンと救護班を呼ぶ兵達…。
集はようやくあの親子や人々を救えた事を実感し、思わず安堵のため息が出る…。
「 お前さ・・・・。 」
ダリルの声が聞こえた。
集がそちらを見ると、ダリルが集に掴まれた自分の手を見ていた…
血でべっとり濡れた集の手が・・・
「 なに汚れた手で触ってんだああアアア !!! 」
ダリルが叫んだ瞬間、集の視界はメチャクチャに回転した。