ギルティクラウン~The Devil's Hearts~   作:すぱーだ

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とりあえず現時点の練習の成果
投稿が予定より遅れて、少し前の絵になっちゃいましたけど。
色々な動画やサイトを見漁って、勉強しながら描いてました。

まだまだ違和感のある絵ですので満足には程遠いです。要練習!

半魔人の集とかダンテとか、もうちょっとちゃんと描いてみたい。

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#44攪乱-②〜election〜

 

 

 「初回の前進、終了しました。…今頃、壁の内側はニュースを見てパニック状態でしょう」

 

 ローワンの態度に尖った避難の色が混じるのを、嘘界は面白く感じていた。盲目に従う道具の鏡では無く、疑念と嫌悪を秘めているのがなんとも言えなく良い。

 

 「ローワン君かつてギリシャの都市国家を滅ぼしたものが何か知ってますか?2文字で」

 

 「…あいにく物理学専攻で」

 

 「デマですよ」

 

 嘘界はローワンに携帯の画面を見せる。するとたちまちローワンは不快感で顔を歪める。嘘界はローワンの理想的なリアクションに満足そうに笑みを浮かべる。

 

 「ジャミングを解いてあげたら、真っ先に始まったのがコレです。そして…」

 

 嘘界はある文面を打ち込むと掲示板への投稿した。

 

 「さぁ…どう反応しますかね?」

 

 「悪趣味ですね」

 

 相変わらず不快感に歪んだローワンが、避難を隠そうともせず言う。嘘界は椅子を回して心底楽しそうに笑いながら、振り返る。

 

 「ーーあまり褒めないでください」

 

 ローワンはまた“良い表情”で顔を歪ませた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 アルゴと大雲は古い屋敷の一室で使いが来るのを、ソファに腰掛けて待っていた。

 門前払いされる覚悟だったが、意外にもすんなり中へ通された。

 ナイフや銃は取り上げられたが、拘束される事も無く、防弾ジャケットも着たままで許された。

 ノックと共に両開きの扉からスーツ姿で、日本髪の少々奇妙な出で立ちの女性だった。不釣り合いな組み合わせだったが、不思議とさまになっている。

 

 「こちらです」

 

 軽い会釈を済ませると、女性は二人を屋敷の奥へ案内する。

 さっきまで自分達が待たされていた部屋の扉とは、明かに作りの違う厳かな扉の前に立った女性は丁寧な仕草でノックした。

 

 「入れ」

 

 低いしわがれた老人の声が聞こえ、女性は扉を開き二人を中に招き入れた。供奉院の翁は和服に杖を付き、正面から鋭い眼光で二人を見ている。ただ見られているだけで、アルゴは気圧されそうになった。

 

 「助かったぜ爺さん。逃げ回るのも限界だったんだ」

 

 「この恩にはどう報いれば?」

 

 翁はふむと頷く。

 

 「茎道の就任と同時に都内との連絡と輸送手段が完全に絶たれたが、まだ沢山の人間が生き残っておるはずーー助けたい」

 

 「喜んで協力させてもらいます」

 

 会釈する大雲に倣って、アルゴも頭を下げる。

 この爺さんが善意や正義感で人助けするたまとは思えない。間違いなく裏がある。綾瀬とツグミを《レッドライン》の中に残して来てしまった上に、涯といのり、それに集の安否も分からないままなのだ。

 

 「利用するされるはお互い様だ」

 

 「ああ」

 

 部屋に戻った二人はとりあえずシャワーを浴びて、臭いを落とす事にした。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 集はレディとトリッシュそしてルシアと共に、ダンテから昨夜のアリウスとの会話の内容を聞くために学校の屋上に集まっていた。

 早朝の学校の屋上はまだ肌寒かったが、トリッシュが来た頃には時間帯もあって少しずつ苦にならない気温になりつつあった。

 

 「ファングシャドウの本物の核…ね…」

 

 アリウスからのゲームと称した挑戦状。ダンテが外に出さないための足止めなのは明かだ。

 

 「本当に、そんな物がこのマチにあるの?」

 

 ルシアが言う通り、アリウスがわざわざダンテを塞き止められる数少ない手札の弱点を教えるメリットは一切ない。

 しかし、ダンテはある種の確信を持った表情だ。

 

 「その心配はしなくていいと思うぞ?」

 

 「どうして?」

 

 「前も言わなかったか?奴がご執心なのは俺よりもーー」

 

 「狙いは…僕…か」

 

 「貴方を試してるつもりなんでしょうね」

 

 「“この世界が行き着く結末の答え”…だっけ?ずいぶん買われてるとは思ったけど…」

 

 「過剰評価にも程があるよ…」

 

 以前アリウスがレディに言ったという言葉を思い出す。最初は自分で聞いて呆然としながらも、笑い飛ばす気力があった。

 しかし、アリウスは真面目だ。本気でそう信じている。

 

 「いずれにせよ本物の核とやらが見つかっても、俺にはもう奴を殺す事が出来ねえ。雷の攻撃も前回の戦いで覚えられちまった」

 

 シャドウは覚えた攻撃は完全に無効化してしまう。つまり奴がまだ未経験の武器で攻撃しなければならない。圧倒的なパワーでもまさに絡め取るように捕らえてしまう。そうなってしまえば、後は貪り食われてしまうだけだ。

 

 「……ヴォイドの斬撃は効くのかな…」

 

 「やってみないと事には、こればっかりは判断しようがないわ」

 

 トリッシュはふぅとため息をつく。

 

 「とにかくーーシュウ、核が見つかるまで貴方は極力戦わないで。もし、どうしてもって時でも、魔力だけは使わないようにしなさい」

 

 トリッシュの言葉に集は自分の右腕を見つめる。

 アラストルの力もまだ十分に引き出せてはいない。もし戦うとなれば、自身の魔力を解放するしかない。

 しかし、集の魔力は集自身の寿命を削る事になる。

 それを知らず使用して来た今までの対価が、どれ程のものかは測る術はない。

 一番最初に魔人化を確認したレディでは気付く事は出来なかった。彼女はその事をひどく悔やんでいたが、悪魔の事に詳しくても魔力の核については分かっていない事の方が多い。

 人間であるレディはともかく、ダンテやトリッシュでないと違和感に気付けなかっただろう。

 ルシアに関しては、まだ自身の悪魔としての魂に目覚めていない状態だ。ルシア自身も今は自分が悪魔であるという実感があまり持てないと言っていた。

 集のサポート役であるアラストルが手助けしてくれるかまだ微妙な所だ。対話出来ていない現状は、集を酷く不安にさせている。

 

 「ーー気に入らないわね。アイツらは好き放題やってるのに、こっちの手札はどんどん引き抜かれてる」

 

 苛立つようにレディがそう呟いた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 校舎を祭と二人で歩いていたいのりは、廊下の壁に『臨時生徒総会のお知らせ』という張り紙が目に入った。

 張り紙には書いていないが、ローカルネットの掲示板には建設的な意見が出せない生徒会長を糾弾する声が、新生徒会長を選出する話題に変わりつつある。

 

 「本当なのかな…高円寺のことって…」

 

 「……分からない」

 

 「どうなっちゃうんだろ。この学校も……」

 

 「………」

 

 祭が不安そうに呟くと、震えを抑えるように片腕をグッと握る。

 それを見ていのりは安心させるように微笑む。

 

 「ハレは私が守る。シュウだって何かあればきっと…」

 

 そう言うと祭の表情が明るくなり、頬に赤みが刺した。

 

 「じゃあ、もし集といのりちゃんが怪我したら、私のヴォイドで必ず治してあげるね?」

 

 「……ありがとう」

 

 ふと祭が上を見上げる。

 見上げても廊下の天井があるだけだが、彼女が見ているのはこの校舎の屋上だろう。

 朝から集とルシアが屋上でダンテ一行と今後の方針について話し合うと言っていた。

 街中に悪魔が放たれたと言っていたが、そうなら自分達にも関係がある話だと思うのだが、集は悪魔の事に関してあまり自分達を関わらせたくないようだった。

 

 「集は自分がリーダーになろうとは思わないのかな?」

 

 「え?」

 

 集がリーダー?といのりは思った。

 あまり誰かに命令して指揮を取るという印象が彼に対しては無い。

 

 「むいてると思うんだけど…」

 

 「そう?」

 

 いのりが疑問符を浮かべると、祭は自信満々に大きく頷いた。

 

 「だって凄かったんだよ?いのりちゃんを助けに行く時の集…みんなに指示を出して、どんどん悪魔達を倒しちゃったんだもん!」

 

 「そうだったんだ…」

 

 「集なら…きっとなれると思うなーー王様に」

 

 「王…様?」

 

 なぜ唐突にそんな例えが出たのかよく分からず、いのりは再び疑問符を浮かべる。祭は「なんでもない」と照れたように笑うと深呼吸する。

 

 「えっと…まだ掛かりそうだね、気分転換にお散歩に行こ?」

 

 「うん」

 

 祭の提案にいのりは頷く。

 いのりの胸の中に僅かに湧き上がった寂しさを残しながら、二人は中庭へ向かった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 ダンテ達との会合を終え、階段を下りていた集とルシアに谷尋が慌てた様子で駆け寄って来た。

 

 「集!ヤバイことになったぞ!」

 

 「どうしたの谷尋?」

 

 息を切らしながら谷尋はネクタイを緩めて一息つく。

 

 「掲示板に書き込みがあったんだ!ここに隠れてる葬儀社を突き出せば無事に出られるって。三年の難波って奴が煽って、葬儀社探しを始めやがった!」

 

 「まさか!解放なんてするはずない!」

 

 「あいつらはそれを真に受けてる…」

 

 「いのり…!綾瀬!ツグミ!」

 

 集は谷尋を押し除け、駆け出した。

 その後を追おうとしたルシアを谷尋が止め、分かれて探すように指示する声が聞こえた。

 

 校舎から出た瞬間、少し離れた場所から怒鳴り声と女子生徒の悲鳴が聞こえて来た。

 

 「ーーっ!!」

 

 焦燥感が集を支配する。

 いのりか綾瀬では無い事を祈りながら、悲鳴が聞こえた場所に向かう。

 そこには数人の男子生徒とーーブレザーを脱ぎ捨て、ブラウスのボタンに指を掛けているいのりがいた。

 

 「いのりちゃん!お願いです、もうやめて!」

 

 いのりを囲った生徒の中に羽交い締めにされた祭が、涙を流して叫んでいる。

 

 

 

 ーー頭痛がした。

 

 

 「おい」

 

 ブチ切れそうな理性をなんとか抑え、いのりの真正面でニヤニヤ笑う三年の男子生徒に声を掛ける。

 

 「ああ?なんだテメェ」

 

 集に声を掛けられた、ピアスのリーダー格らしいその生徒が集に凄んでくる。しかし、一切動じない集に僅かに怪訝な表情を浮かべた。

 

 「集!助けて!」

 

 「…シュウ?」

 

 いのりが顔を上げる。かすかに目に涙を浮かべ、顔を赤くしーー片頬を腫らしていた。

 

 「ーーっ!!」

 

 限界だった。もう冷静な思考など出来ない。

 穏便に場を収める選択肢が綺麗に頭から消え去った。

 

 「ーー全員ここから消えろ」

 

 「はっ?ーーぱがっ!?」

 

 リーダー格のピアスが何か言う前に、鼻っ柱に裏拳を叩き付けた。

 完全に不意を突かれたピアスは、地面に仰向けで倒れ白目をむいた。いのりを辱めようとしていた他の生徒達は金縛りのように固まり、地面に倒れたリーダーと集を交互に見比べていたが、すぐに怒りに満ちた表情に変わる。

 

 「なんだコラ!舐めたマネしやがって!」

 

 「お…おいコイツ、文化祭の時にあの化け物をーー」

 

 集を取り囲もうとしていた生徒達はそれを聞いた瞬間、再び金縛りに掛かる。

 

 「消えろと言ったんだ。もう次はないぞ」

 

 殺気を剥き出しにする集に、生徒は小さく悲鳴を上げ押し黙る。

 祭を捕まえている生徒を睨むと、その生徒達は泡を食って逃げ出した。他の生徒もその後に続く。

 

 「いのりちゃん!ごめんね、私が捕まっちゃったから!」

 

 祭が泣きながらいのりに駆け寄る。祭を人質に取られたせいで、いのりは抵抗出来きず、一方的に相手の言いなりになってしまっていた。祭はそれを酷く気負ってしまっている。

 いのりが首を横に振る。

 

 「約束したから」

 

 「いのりちゃん…ありがとう」

 

 「大丈夫?いのり」

 

 「うん…顔を殴られただけ。ありがとう」

 

 集は地面に落ちていたブレザーをいのりに羽織らせる。

 頬が腫れている以外に外傷は見当たらない。もう少し早く来ていれば彼女に怪我をさせる事もなかったのに…集の胸の中のそんな悔しさが湧き上がって来る。

 

 「なんでこんな事に…」

 

 「葬儀社を差し出せば、壁の外に出れるって噂が流れたんだ」

 

 「そんな…!」

 

 「綾瀬とツグミを探しに行こう」

 

 三人は急いでその場を離れ、綾瀬とツグミを探しに出たが、見つける事が出来なかった。

 そうこうしてる間に生徒総会の時間が早まり、集達はひとまず体育館に向かう事にした。

 

 「集っ!」

 

 「谷尋!綾瀬とツグミを見かけた?」

 

 「いや、お前が見つけてるものだとばかり…」

 

 体育館の端に谷尋と颯太が居たが、綾瀬とツグミの姿は無かった。

 ダンテ達の姿も見あたらない。何処かで様子をうかがっているのだろう。

 

 「皆さん!デマに踊らされてはいけません!耐える事こそが、今私たちがすべき事なのです!」

 

 壇上では亜里沙が全校生徒に向かって必死に叫んでいる。

 

 「もうその姿勢じゃ、みんなには届かないだろう…」

 

 「何言ってんだよ!」

 

 谷尋の言葉に颯太は噛み付いたが、現に生徒達の中でまともに亜里沙の言葉に耳を傾けようとする者はいない。

 

 「シンプルに行こぜ会長さんよ!みんなが聞きたいのは、どうすれば虐殺から逃れられるかだろうが!」

 

 数籐の言葉に何人かの生徒がそうだと声を上げる。

 

 「葬儀社を差し出せば、俺たちはみんな助かるんだ!」

 

 「デマです!それに、この学校に葬儀社がいる根拠もありません!」

 

 「それが居たんだよ」

 

 壇上の舞台袖から、両手を拘束され、布を噛まされた綾瀬とツグミが難波と数人の生徒と共に現れた。

 

 ーーその中にダンテとルシアの姿もあった。

 

 「ーーー……ナンデ?」

 

 集がようやく絞り出したのは、そんな間の抜けた言葉だった。

 

 「皆さん。彼女達は俺たちの学校の制服を着ていますが、誰か一人でも彼女達に見覚えはありますか?」

 

 生徒達はザワザワとざわめいている。難波はダンテの方にも目を向けた。

 

 「それにこの男。誰がどう見ても、まっとうな一般人とは言い難い!」

 

 「おやめなさい!」

 

 「お忘れですか?会長。彼ら葬儀社は例え子供でも容赦がない!皆さんも覚えているでしょう!命星学園に葬儀社が何をしたかを!」

 

 難波の言葉に数人の生徒が息を呑んだ。

 葬儀社は命星学園をGHQが直接管理していたという理由で、爆破テロを起こし、数人の生徒と教師を巻き込んで学園を破壊した。

 それが一般的な解釈だったからだ。

 

 「そうよ…葬儀社のせいでヒヨリは!」

 

 女子生徒の泣き叫ぶ声が聞こえた。命星学園からの転校生だろう。

 その悲痛の叫びを皮切りに、生徒達から怒声が上がり始める。

 

 「葬儀社のメンバーには、背中にタトゥーが刺してあるって聞いたぞ!」

 

 その言葉に数籐を筆頭とした数人の生徒が壇上に上がり、綾瀬とツグミを取り囲んだ。亜里沙がなんとか止めようとするが、逆に集団から押し出され壇上に倒れてしまった。

 

 「…ダンテ?」

 

 そんな混沌とした状況になっても、ダンテはその様子を静観するだけだ。集はてっきり綾瀬とツグミを守るためにワザと捕まったものだと思っていた。

 だが、違う。むしろ助けに入ろうとするルシアを押し留めてさえいる。

 その時、ダンテと目が合った。

 

 そこでようやく、集はダンテの意図を察した。

 

 ーーお前はどうする?ーー

 

 そう問い掛けている。暴力に訴えて、綾瀬とツグミを助けるのは簡単だ。集が他の生徒が傷付く事を厭わず、綾瀬達を救出する事を選べば容易く実現する。だがそれでは、誰も話を聞かなくなってしまうだろう。

 そうなれば、全員生きて脱出など夢のまた夢だ。

 

 (ーー涯、君ならどうする)

 

 誰も傷付けず、綾瀬達を助け、葬儀社を差し出しても除染作戦は止まったりしない事を証明する方法。

 

 「………」

 

 「…集?」

 

 壇上に向かって歩き出す集を、祭は心配そうに見つめる。

 

 「一人の犠牲で皆が助かる!それはとってもーー素敵な事だろうが!」

 

 抵抗する綾瀬を押さえ付け、数籐は綾瀬の制服に手を掛けた。

 

 「待って!!」

 

 吠える様な集の声が、体育館中に響き渡る。

 周囲の生徒は静まり返り、壇上に歩み寄る集から距離を取った。

 

 「おい、…エンドレイヴと一緒に、あの怪物を倒した奴じゃないか?」

 

 そんな囁き声と共に、こいつも葬儀社か?と疑念に満ちた表情を集に向ける。

 

 「そうだ…僕は葬儀社だ」

 

 あっさり集は認めた。周囲の空気が一気に張り詰める。

 

 「ははっ、認めやがったぞコイツ!」

 

 「まずは皆、落ち着いて。話を聞いて欲しいんだ」

 

 「俺が捕まえる!俺の手柄だ!」

 

 興奮する数籐に静かにそう言うが、取り巻きの一人が鉄バットを片手に集に襲い掛かって来た。

 集は左腕を盾にして、振り下ろされた鉄バットをわざと受けた。

 ミシリと生々しい音が、集の腕から聞こえた。周りの生徒達から悲鳴が上がる。

 

 「……っ!」

 

 集は痛みに耐え、右手で鋭い手刀を取り巻きの首に当てた。

 

 「ーー話を聞けって言ったでしょ。僕に考えがあるんだ」

 

 昏倒する取り巻きを尻目に、集は壇上の難波と数籐を睨み付けた。

 

 

****************

 

 退屈な任務だとダリルは思った。

 ダリルが()()するゴーチェの周りには、近付く者を慈悲なく殺すG部隊が静かに墓石の様に並んでいる。

 医療チームの治療を受けていたダリルは、少し遅れてG部隊記録を見た。愛が無い殺し方だと思った。

 新開発された無人機とは聞いていたが、それを裏付けるように動きも単純で個性がなかった。

 

 (気に食わないなあ…)

 

 桜満集を含めた数人の葬儀社が、学校の生徒を連れて壁に向かっているという情報が入り、ダリルは桜満集や葬儀社メンバーからの抵抗を受けた場合における対処のために配置された。

 

 (…ほんとに来るのか?)

 

 顔無しこと、桜満集ともう一度戦う機会が訪れたのは、願ってもない事だ。命令を受けて喜んで参加したが、G部隊をここまで不気味に感じるとは思わなかった。なぜと聞かれても困るが、生理的に受け付けないと言う他ない。

 ふと、信号がずっと赤く点滅している交差点を曲がり、一台の車が現れた。どこかのバカが性懲りもなく無謀にも壁を越えようとしているのかとダリルは呆れてため息が出た。

 

 しかし、車はラインの数メートル前で止まり、ドアが開くと男子生徒が出て来た。

 

 「う、撃たないでくれ!」

 

 見覚えがあった。確か数籐とかいう三年の生徒だ。

 潜入している時にカツアゲして来たので、許可が出た時に真っ先に殺してやろうとリストを見たので印象が強かった。

 

 「葬儀社の連中を連れて来た!まだ学校には感染してない生徒がたくさんいるんだ!コイツらを差し出せば、助けてくれるんだろ!?俺もまだ感染してねえ!線の外に出してくれ!」

 

 数籐が後部座席を開けると、まず最初に桜満集が篠宮綾瀬を抱き上げる形で降りて来た。

 車椅子に乗っていたあの女が、シュタイナーのパイロットだろう。

 

 「ーー!!?」

 

 その後から降りて来た人物を見て、ダリルは驚愕した。

 

 (ちんちくりん!?あいつ葬儀社だったのか?)

 

 てっきり楪いのりが降りてくるとばかり思っていたダリルは、黒髪猫耳の少女を見て引き金から指を離した。

 しかし、子供がテロリストという話は珍しい話では無い。この程度の事で動揺するほどの事でもない。

 

 「おい、行けよ」

 

 数籐が顎でゴーチェ達を指し示す。

 

 「まっーー!」

 

 レッドラインに踏み込もうとする彼女を見て、咄嗟に出そうになった言葉に自分で驚いて、慌てて口を閉ざした。

 その時、何処からともなく現れた黒い影が、刃の様な爪で三人の身体を瞬きする間にバラバラに引き裂かれた。

 

 「……あっ!」

 

 レッドラインに触れる事すら無く、崩れ落ちる肉塊がやけにスローモーションに見えた。

 ダリルは自分の口から漏れた声が何を意味するものなのか、自分でも分からなかった。

 気付くと崩れ落ちた肉片に、大量の悪魔が彼らを隠すように群がっていた。その光景はまさに、死骸にたかるカラスやハゲタカだった。

 

 「ひ、ひい!!」

 

 数籐がその光景に悲鳴を上げて腰を抜かす。

 

 どくんと心臓が激しく動悸した。胸の中が得体の知れないドロドロしたものに満たされていく。ぐらぐらと足元が揺れるような今まで経験したことがないような不快感だった。

 なんだこれは、こんなの知らない…。ダリルは胸に走る強い痛みを感じ、胸をおさえる。

 

 「こ、これで俺たちは外に出れるんだろ?な?そうなんだろ?」

 

 数籐は汚らしい笑みを浮かべながら、ゴーチェを見る。

 

 「このクズ野郎があああああ!!」

 

  ダリルは絶叫し、数籐に向けてトリガーを絞る。手足が千切れ飛ぶ端から、銃弾がミキサーのように塵に返していく。

 悲鳴など上げる間すら与えず、近くに居た悪魔ごと数籐を細切れにした。

 

 『よく見てください。少尉』

 

 嘘界の声に我に返る。見ると、彼らが惨殺されたはずの場所には、血の跡も服の切れ端ひとつ無かった。

 

 『おそらく、誰かのヴォイドでしょう。遠隔操作可能な肉眼では判別不可能なレベルの精巧なダミー人形を作り出す能力、といった所ですかね』

 

 「じゃあ、アイツらはまだ生きてるって事か?」

 

 『ええ』

 

 不思議と騙されたという怒りは無かった。

 むしろ、胸の中に巣食っていたドロドロが一瞬で消えるような、不思議な脱力感が押し寄せて来ていた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 「ナゼだ!?葬儀社を差し出せば全部解決のはずだろう!いったいどういうことなんだよ!」

 

 壇上で難波が狼狽えて叫ぶ。

 ふゅ〜ねるから送られた映像には、ツグミのハンドスキャナーのヴォイドの能力で作り出されたコピーの集達が引き裂かれる様子がはっきり映し出されていた。

 自分のコピーが蜂の巣にされる様子を目の当たりにした数籐も、先程までの勢いが消えて、青い顔で立ち尽くしている。

 

 「これで分かったでしょ?彼らに僕らをここから出す気は一切無いって…」

 

 取り乱す難波に、集は冷静に語る。

 

 「それに、集の力も見たでしょ!?」

 

 集を睨む難波に追い討ちをかけるように、ツグミは言う。

 彼女が幼少期に孤独の寂しさから、遊び相手の人形を想像上の友達にしていたらしい。彼女のヴォイドはそんな想像力を反映したのだろう。

 

 

 「僕には皆んなが色んな事が分からず、怯えているように見えた。だからひとつ事実をはっきりさせた。GHQはあてにできない。彼らはもう、僕らを生きた人間として見てない。だけど慌てないで。皆には落ち着いて欲しい」

 

 全ての生徒が固唾を呑んで、集の言葉に真剣に耳を傾けている。

 ただし難波はそうでは無かった。

 

 「インチキだ!皆、変だとは思わないか!?あの化け物だって何かのトリックに決まってる!だって、あんな訳の分からない奴が実在してる訳ないだろ!!」

 

 しかし、誰も賛同の声を上げない。数籐ですらスクリーンを凝視している。

 スクリーンには数籐のコピーが撃ち殺された地面を、悪魔達が血肉を求めて長い舌で舐め取っている様子が映し出されている。

 その様子に気付いた難波は、プロジェクターの電気線を引き抜いた。

 

 「そう思うなら、今すぐ外に出て握手でもして来ればいい」

 

 「ーーっ!!……イ…イカサマだ…。あの化け物も、政府の発表も、お前の力も…全部インチキだ!!」

 

 難波が銃を懐から抜いた瞬間、集は壇上を一蹴りで難波を肉薄した。

 

 「っ!!?ーーなっ、ち…畜生!!」

 

 一瞬で目の前まで迫った集に、難波は一時硬直するがすぐに我に返り、集の額に銃口を擦り付けた。

 

 「集!!」

 

 綾瀬が叫ぶ。生徒達からも悲鳴が上がる。

 ーーだが、弾はいつまで経っても発射されない。

 

 「は、離せ!!」

 

 難波のグリップを握る手に重ねるように、集の指もグリップを掴んでいた。それだけではない。グリップと引き金の間に指を挟み、引き金を引けないようにしていた。

 集はそのまま弾倉を抜き捨て、スライドし銃身に残っていた弾も排出すると、スライドカバーを引き抜き、僅かに尖ったカバーの先端を難波の首筋に押し当てた。

 

 「ひっーー!?」

 

 切れ味など無いに等しいが、それでも難波は本物のナイフを押し当てられているような息が詰まるような恐怖を感じた。

 集は難波を解放すると、壇上から生徒達を見据える。

 

 「僕らには、戦うための武器がある。皆にも可能な限りの知識や、技術を教えます。この先、皆にも戦ってもらう事になる。自分と大切な人を守る為には、自分が強くなるしかない…それを忘れないで。これからリーダーになる人は真剣に考えてください…皆が助かる方法を」

 

 集は亜里沙を引きずり下ろし、自分がリーダーになろうとしていた難波に一度視線を向ける。

 

 「誰がリーダーになっても、僕は全力でサポートします」

 

 集は大きく深呼吸する。こんなに大勢の前でこんなに長く喋ったのは初めてかも知れない。

ダンテと目が合うが、彼は肩をすくめるだけだ。彼の中でこれが正解なのか及第点なのかも、よく分からない。たぶんダンテ自身もそこに基準点など、設けてはいないだろう。

 とにかく、自分に出来るだけの事はやった。

 

 「まてよ!集」

 

 壇上から下りようとした集に谷尋が駆け寄る。

 

 「なあ、みんな!集の言うことももっともだと思う!じゃあ訊くが、ここにいる人間で、一番リーダーに相応しいのは誰だと思う!?」

 

 桜満集っ!と誰かが声を上げた。

 

 「新会長に桜満集が就任することに賛成の者は拍手!」

 

 谷尋の言葉を合図に、割れんばかりの拍手が体育館中に鳴り響く。

 

 「谷尋、なにをーー」

 

 「俺もサポートするからやってみろ。誰かに使われる道具じゃなくて、お前が武器を取るべきだと俺は思う。皆もそれを望んでる。これが今お前がやるべき事だと思わないか?」

 

 見れば、祭やいのりも手を叩いている。

 ダンテを見ると、彼は今まで見た事がないような真剣な表情をしていた。それを見て、自分が背負わなけばならない重みが、少し恐ろしくなってしまった。

 出来るのだろうか?自分に、涯と同じように皆を導く事が…。

 

 ーー後は任せた。お前の好きにやってみろーー

 

 涯の言葉が頭の中に蘇り、胸の中に熱いものが込み上げて来るのを感じた。

 集は谷尋に頷き、未だ鳴り止まない拍手に向けて応えるように、降参するように手を上げた。

 

 

 




次は…例のあの回か……。

たぶん、ここからこのSSで最も大きな改変が出ると思います。
ご容赦ください。








ウルトラマンZくそおもろいでございます。


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