ギルティクラウン~The Devil's Hearts~   作:すぱーだ

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今回、最初は冒頭の描写をもっと細かく書いてましたが
文字数がえらいことになったので一から書き直しました。

そのせいでダンテをはじめとしたや他キャラの絡みが若干薄くなってるかもですけどご容赦の程を

それと今後アニメ版と小説版を混ぜた描写になっていくと思います。
その点もご容赦を




#43学園-①〜isolation〜

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 旧六本木の消滅から約二週間が過ぎた。

 

 悪魔の気配も無く、軍も地区の封鎖以外目立った動きも無いままだった。人々はそれぞれ最も近い避難所に避難し、封鎖が解除されるのを待っている。

 テレビもネットも通ずラジオも“間も無く封鎖は解除される”と毎日の日課のように同じ放送を繰り返すだけだ。

 

 しかし、葬儀社のメンバーである集といのりと綾瀬やツグミ、それに痛い目に合わされた谷尋はその放送を真に受けたりはしなかった。

 

 「いのりちゃん今日はどこ?

またいつもの場所?」

 

 「荒らしすぎたから、今日から変えるって」

 

 いのりが言うと、祭はあははと苦笑いをもらした。

 現在二人はパンデミックの中心地であるクレーターに向かっていた。

 正確に言えばクレーターに近い無人のビルに向かっていた。

 

 災害の中心地という事と二次災害でビルが倒壊しているため、クレーター周辺に近付く人間はいない。

 もっともビルの倒壊の本当の理由が二次災害による物では無い事を、二人は知っているのだが…。

 

 唐突に近くの建設途中のビルの一部が轟音と共に崩れ落ちた。二人はしばらく無言で崩れ落ちる瓦礫を見送った。

 

 「………」

 

 「………」

 

 「……あそこ?」

 

 「……うん」

 

 祭の苦笑いは引き攣った笑みに変わっていた。

 

 

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 あの戦いの直後、ーー

 

 涯を失った集といのりは六本木の跡地であるクレーターの前で、しばらく身を寄せ合って泣いていた。

 

 ひとしきり泣いた後、ルシアの目覚めを待っていざ移動しようとした矢先。集の身体に異変が起きた。

 突然胸を抑え苦しみ出しうずくまると、そのまま意識を失ってしまったのだ。

 後に致命傷に近い傷を何度も負い、その度に無理矢理半魔人の治癒力にものを言わせていた為に反動が出たのだと集は結論付けた。

 

 急いで誰かと合流しようとした時、現れた男こそ集の師であるダンテだった。

 

 いのりは前触れ無く空から降って来た男に面食らった。

 ルシアは既に会った事があるらしく、すぐに警戒を解いていた。

 

 会話もそこそこにダンテは意識を失っている集を担ぎ上げると、2人について来るように促した。

 いのりはダンテの怪我人を全く気遣う様子のない態度に、憤りを覚えながらもダンテの言葉に従った。

 

 ダンテに連れられて行くと綾瀬にツグミ、祭や谷尋と花音に亜里沙と颯太、さらには大島で遭遇したレディがいた。

 ツグミが“ふゅ〜ねる”で祭達を自分達の所へ誘導して合流したと話していたタイミングで集が目を覚まし、取り敢えず一番近い集のマンションに全員で泊まる事になった。

 

 流石にあの人数が部屋に押し寄せるとかなり窮屈だった。

 

 一晩を集の家で過ごし、食料と水を出来るだけ持ち出して学校へ向かった。学校なら元々避難所としての機能のおかげで、水や食料だけで無く自家発電機もあるしワクチンの蓄えも十分だと判断したからだ。

 

 集のマンションもそれなりに蓄えもあったが、ワクチンの予備は無く保存食の蓄えもたかが知れていた。

 電気と水道などのライフラインが全て止められていたが、マンションの各部屋に備え付けられていた蓄電機と貯水槽を利用して何とか1日誤魔化した。

 

 当然だがモノレールも動いていなかったので、徒歩での移動を余儀なくされた。

 

 学校に移動して三日目にいのりとルシアは集を呼び出し、ルシアの正体とアリウスという男について話した。

 最初は集も驚きを隠し切れなかった様だが、色々合点がいったらしくすんなり受け入れた。

 

 日本人本来の気質からか、一度パンデミックを経験してるからか人々は殆どパニックになる事無く少しずつ今の状況に慣れつつあった。

 

 “すぐに元の生活に戻れる。”

 

 一部を除いて誰もがそう信じて疑わなかった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 「おばっぁ!!?」

 

 何度目か分からない地面をバウンドする痛みに、集は思わず声を上げた。口の中に少し砂が入ったのか歯にジャリと不快な感触を感じた。

 全身が砕けるような激痛に襲われ悶える。実際一部の骨が砕けていた。

 

 「もうへバッたのか?」

 

 集は痛みにしかめっ面を浮かべながら、身体を起こしダンテを見た。

 ダンテはゼーゼーと肩で息をする集に肩をすくめる。

 

 「ちょっと…今の洒落になって無かったよ?」

 

 「“出来るだけ本気で”って言ったのはどこの誰だったか忘れたか?」

 

 「………」

 

 ダンテの言う通りこの鍛錬を申し出たのは、他ならぬ集自身なのだ。

 黙り込む集にダンテはため息をついて柱にもてれ掛かる。

 

 「ーーでっ…どうだ?()()()とは仲良くなれたか?」

 

 「会話もしてくれないよ…」

 

 集はそう言って杖のように立てた剣を見る。

 雷の魔剣『アラストル』。

 ダンテがトリッシュと初めて会った時にマレット島で手に入れた物だ。

 かなり強い能力を秘めた悪魔が魔具となったもので、ダンテが見つけた時は石像に突き刺さっていたと集は聞いている。

 そして、どの様な形で契約したかも聞いている。

 

 自身の今後の生存のためにも、絶対に必要な壁なのは分かるが、さすがに心臓を貫かれる事にはかなり恐怖心がある。

 

 ダンテから出された課題はアラストルに”(あるじ)“として認めさせるというもの。当然の事だが口で言うほど簡単なことでは無い。

 

 この一週間で出来た事と言えば、刀身に雷を纏わせる事くらいだ。

 とてもじゃ無いが本来のポテンシャルを引き出せてるとは言えない。

 しかし集には強力な武器という以上に、アラストルの存在が必要だった。

 

 一週間前にトリッシュが一時戻って来たので、二人の前で半魔人を見せた。とたんにトリッシュは顔を曇らせた。

 そして彼女は“二度と半魔人を使うな”と集に告げた。

 

 最初何を言っているのか分からなかった。

詳しく聞くと集が魔力を発した後の疲労具合が異常で、それが普通の悪魔やダンテのような半魔が当たり前の様に持っている気管を、集は持っていない事が原因だと言うのだ。

 

 それこそが魔力の“《(カク)》“だ。

 

 悪魔達の第二の心臓と言っていいそれは、人間界では未知のエネルギーである魔力を生成する気管。

 それが無いのであれば、当然何処からか引っ張ってくるしか無い。

 

 しかしどんな理由があろうと、到底受け入れ難い忠告だった。

 あれだけ大量の悪魔がこのまま何も無いまま終わるとは到底思えなかった。

 ダンテもレディも既に集がアリウスという奇怪な男に目を付けられた事を知っている。

 見た事も聞いた事も無い人間に執着を持たれるのは、集としても何ともぞっとしない話だが、どちらにせよ此処で引き下がる気はサラサラ無かった。

 

 トリッシュも集の頑固さと彼目掛けて降り注ぐような脅威を理解し、ため息をついて代案を出した。

 それが意志を持つ魔具に、集の補助兼ストッパーをさせるというものだったのだ。

 

 そこで()()()()()()で従順な性格であるアラストルを集の手に渡される事になったのだ。

 都合上アラストルと仮契約する形になったのだが、アラストルはダンテに未熟者の人間のお守りを任された事に腹に据えかねているのか、集の声には一切答えない。

 さらに追い打ちをかける様に、“()()()”でダンテから前述の課題を出されたのだ。

 

 トリッシュはアラストルとの“繋がり”がある程度安定したら、主契約に踏み切る気でいるようだ。

 

 「複雑に考え過ぎなんだよテメェは…そんなナリでも悪魔なんだ。テメェの方が強いってとこ見せりゃ文句もでねぇよ」

 

 「……それは、そうだけど…」

 

 集がモゴモゴ口籠っていると、足音が聞こえた。

 

 「ーーシュウ」

 

 「うわ〜…、こ…こんにちは…」

 

 「いのり、ハレ」

 

 「おっ、来たかお嬢ちゃん達」

 

 見ると荒れ放題(荒らしたのは主にダンテだが)の建物にいのりとその後ろから恐る恐るといった感じで祭が入って来た。

 ダンテは二人を笑顔で迎えるが、いのりは元の性格故か無言で返し、祭もまだダンテに慣れない様子でいる。

 

 「またボロボロ…」

 

 「これでも怪我は減った方なんだけどね…ダンテが限度を知らないから…」

 

 「ハッーー甘ちゃん坊主が。文句があるなら、もうちょっとマシになるんだな?」

 

 ダンテは鼻で笑いながらギターケースに入ったリベリオンを背負う。

 

 「先に戻ってるぜ」

 

 「あっ…うん分かった」

 

 そう言いながら去って行くダンテの背中を見送ると、祭に向き直った。

 

 「さっそくだけど、ハレっお願い」

 

 「う…うん」

 

 集は祭からヴォイドを抜き、祭に手渡した。

 祭は「えい」という掛け声と共に包帯を操り、集の身体を囲んだ。

 包帯は柔らかい光を放ち集を包み、怪我も打撲も骨折も服の損傷もアッと言う間に治していく。集は立ち上がると何事も無かったかの様に治癒された身体の調子を確かめる。

 

 「いい調子。ありがとうハレ」

 

 「どういたしまして。

えっと…どうしたら仕舞えるんだっけ?」

 

 「ヴォイドを離して、戻れって強く念じるんだ」

 

 祭が集の言う通り包帯を放ると、包帯は銀の糸状に解けて祭の胸に吸い込まれた。

 あの戦いでの涯の時と同じく、他の人間からヴォイドを出してもその人間が意識を失う事が無いだけで無く、その人間が自分のヴォイドを操れる様になっていた。

 涯はこの力の事を知っていた様だが、ヴォイドや王の力についてもいくら気になっていようがもう聞く事は出来ない。

 どれだけ泣いても悔いてもそれが現実だ。辛くても受け入れ、先の事を考えるしか無い。彼が生きていればきっとそう言うはずだ。

 

 「じゃあ帰ろうか」

 

 「うん」

 

 「そうだね」

 

 集の言葉に二人は頷いた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 涯が死んだと言う事実を綾瀬は少しずつ受け入れつつあった。

 しかし、押し寄せる後悔と胸に空洞が出来たかの様な虚無感がいつまで経っても心に食い込む。

 集達と共に天王洲第一高校に避難して来たが、敵も状況も全く動く気配が無い。何もする事が無く、その気力も沸かない。

 

 ふと視線を落とすと薄汚れたスニーカーが打ち捨てられているのを見つけた。

 その瞬間、涯に救われる前の脚が動かなくなったばかりの自分がフラッシュバックした。

 そこに落ちているのが自分の足のような気がして、無意識のうちにそのスニーカーを拾おうと手を伸ばしていた。

 

 「きゃあ!」

 

 バランスを崩してその場に転倒した。横倒しになった車椅子の車輪がカラカラ音を立てて回る。

 

 「馬鹿みたい…」

 

 こんな誰かに捨てられただけのスニーカーを拾った所で、何になると言うのだろう。

 擦り剥けた膝がズキズキ痛む。怒りをぶつける様にスニーカーを掴み上げ、校舎の壁に投げ付けた。それは壁を跳ね返って地面に転がって誰かの足にぶつかった。

 

 「おやおや穏やかじゃ無いね。大丈夫?」

 

 そこには集と同じ黒い制服を着た二人の男子生徒が立っていた。

 襟章を見る限り二人とも三年生だ。眼鏡を掛けた方と、ピアスを空け茶色く染めた髪を後ろに束ねたいかにも不良といった風貌の生徒だ。声を掛けて来たのは眼鏡の生徒だが、二人とも卑下た薄ら笑いを浮かべて舐め回すように綾瀬を見る。その視線を感じで綾瀬は目を吊り上げる。

 

 「そんなに警戒しないでよ。助けてあげようとしてるだけなんだから」

 

 「…頼んでないわ」

 

 「君はあれかな?一人で出来るもんみたいな人かな?」

 

 眼鏡の生徒が目の前にしゃがんだ。男の顔は数十センチの位置まで近付く。

 

 「克己心があるのはいいけど…やっぱり親切を無下にされるとムカつくよな」

 

 眼鏡の生徒の口調がガラリと変わった。

 

 「手を貸すって言ってんだから、ありがたく受けろよ」

 

 「余計なお世話よ」

 

 「んな事言わないで仲良くしようぜ?」

 

 そう言いながら不良風の生徒が手を伸ばして来た。その瞬間、誰かがその手首を掴んだ。

 

 「イデででであああああーー!?」

 

 「な!?」

 

 チンピラ風の生徒は叫び声を上げ、手首を振り解こうと必死に暴れ出した。眼鏡の生徒も何が起きたか分からず、不良の手を掴んだ主を呆然と見た。

 

 「女の子(レディ)には優しく接するモンだぜ?火傷したくなけりゃな」

 

 「あんた…」

 

 綾瀬は生徒の手首を掴み上げるダンテを見上げる。ダンテは相変わらず自信に満ちた不敵な笑みを浮かべている。

 

 「ぎゃあああ離せ!!離せっての!!」

 

 ダンテは喚く不良から手を離す。

 不良は手首を摩りながら息を荒くし、ダンテを睨み付けた。

 

 「てめぇ…」

 

 「ヘイ、ーーお嬢ちゃん。怪我は無いか?」

 

 「別に私一人でどうにかなったわよ」

 

 自分の存在をすっかり忘れて会話を始める二人に、不良は顔を真っ赤にしてブルブル震えた。しかし、流石にダンテの握力と長身を見て無謀に挑む気は無かった。

 眼鏡の生徒もすっかりダンテに気圧されて、後退りしていた。

 

 「みさいるぅ〜…」

 

 間抜けな声と共に二つの影が男子生徒達に一直線に迫った。

 

 「ーーしっ!!」

 

 「ーーきぃっく!!」

 

 ルシアが不良をツグミが眼鏡の生徒に蹴りをお見舞いした。

 「ぐえ!?」「ぐふぅ!!」

 生徒二人は身体をくの字に曲げて地面に転がった。

 

 「あんた達!綾ねえに何しようとしてんのさ!このド変態!」

 

 ツグミは不良達にビシッと指を突きつけた。ルシアも目を細めて二人を睨む。

 

 「ざけんなクソチビ共!」

 

 「ネイ!まだまだ発展途上なだけよ!」

 

 拳を握って立ち上がる不良に眼鏡の生徒が、「おい」と声を掛けて顎をしゃくった。騒ぎを聞き付けて生徒達が何事かと集まって来ていた。不良は舌打ちをして「憶えてろよ」と捨て台詞をしてそそくさ立ち去って行った。

 その背中にツグミがアッカンベーと舌を出した。

 

 「どうしたの!?」

 

 二人が見えなくなったタイミングで布で包んだ剣を背負った集に続いていのりと祭が駆け寄って来た。

 

 「おっそいよ集!マジで遅刻!」

 

 そんな集にツグミはこれでもかと怒鳴ると、綾瀬に向き直る。

 

 「綾ねえ…大丈夫?」

 

 「うん…」

 

 ツグミの言葉には今さっきのことだけでは無い、この二週間の事も含まれていた。綾瀬もそれを感じ取り目を逸らす。

 

 「何があったの?」

 

 「別に、マナーのなってない馬鹿が居たってだけだ。気に止める程の価値もねェよ」

 

 集とダンテの会話が聞こえ、綾瀬は目だけ向けた。二人を視界に収めた瞬間から嫌な痛みが胸に広がった。

 事の顛末は集といのりとルシアから聞いている。しかしーー思わずには居られない。

 

 涯は自分では無く、集とたまたまそこに居合わせたに過ぎない初対面のダンテと共に戦う事を選んだのだ。

 仲間のはずの自分を頼ってくれなかった。その思いがずっと胸の中に巣食っていた。

 

 撤退命令を出されてすぐに自分は涯の所に向かおうとした。しかし、ツグミと集が連れて来た学友が悪魔に襲われているのを無視出来るはずが無かった。いずれ悪魔に嬲り殺しにされるのは目に見えていた。

 すぐに救出に向かい悪魔達の追跡を必死に振り払って、あれよあれよとしてる合間に、気付けば戦いが終わっていた。

 

 集の家で彼は六本木で起きた出来事について全員に話した。

 黒幕の茎道が“はじまりの石”を使ってパンデミックを起こし、涯が自分の命と引き換えに石を破壊したという説明だった。

 綾瀬は集の話に特に違和感は感じなかった。

 

 でもだから何だと言うのだろうか、アポカリプスウイルスは未だに人々の中に巣食い続け、GHQの支配も一切の揺らぎも無い盤石なものであり続けている。事態は何も好転していない、むしろ涯を失った分悪くなっている。

 涯は希望だった。

 日本を暴虐から救おうと抗うレジスタンスのリーダー。彼そのものが“葬儀社”だと言っても良かった。それは組織の誰もが思っていた事だ。

 

 「ーー綾瀬、大丈夫?」

 

 集が心配そうな顔で屈み込む。その声に綾瀬はハッと顔を上げるが、すぐに視線から逃げる様に顔を背けた。

 

 「……別に…親切ぶって絡んで来ただけよ。もう行ってくれる?」

 

 「え?でもーー」

 

 「手伝おうって言うならお門違いよ。言ったでしょ?よじ登る姿はエレガントじゃないから見られたく無いって!」

 

 「………」

 

 「ーー行こ」

 

 ツグミが集の袖を引っ張る。

 

 「ほらいのりんも。ルーちゃんも行くよ」

 

 ツグミが集達を押すように去って行く。少し遅れてダンテもその後に続く。一瞬、視線を感じた。

 その視線に顔が入らないように綾瀬は顔を背けた。

 

 ダンテが去ると集まっていた生徒達も散って行った。

 誰も居なくなった事を確認すると、綾瀬は車椅子によじ登った。こういう時ほど自分の身体が重く感じる事は無い。

 綾瀬は車椅子に座り曇り空を見上げて、息を吐いた。

 

 ツグミが涯の死に悲しんでいる様に見えたのは、1日だけだった。

 その事を薄情だと思いそれをつい口に出してしまった。

 

 「だって人っていつか死ぬものでしょ…。涯にその順番が回って来た。それだけの話でしょ?割り切るしかないじゃん…」

 

 綾瀬は何も言い返せなかった。それを頭で分かっていても実際に出来る人間がどれ程いるだろうか。

 

 ツグミの何がそうさせているか分からない。

 知らないのだ。彼女の過去を…。

 彼女だけでは無い。お互いの過去は詮索しないのが暗黙のルールだった。お互いを家族と呼び心の底から信頼し合っていても、心の中の全てを曝け出す仲間なんか誰一人居なかった。

 自分だってそうだ。

 

 「ーーああ…私って、一人きりなんだ…」

 

 空から落ちた雨は、雨とは別の雫と混ざり合い頬を伝い落ちた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 「ありゃ相当参ってるてるな〜」

 

 「本当に放っといて大丈夫なの?」

 

 頭の後ろに腕を組むツグミに集は尋ねた。

 

 「大丈夫な訳ないじゃん?好きな人が死んだんだよ?バカなの?」

 

 「…………」

 

 呆れ顔で集を見るツグミは強がっている様には見えなかった。彼女は本当に二週間足らずで涯の死を割り切っているのだ。

 

 「アルゴさんや大雲さんからの連絡は?」

 

 「さっぱりよ。広範囲をジャミングされてるせいでこっちから呼びかける事も出来ないし。多分今頃は涯の言い付け通り身を隠してると思うんだけど」

 

 「…そうか、無事だといいけど」

 

 集は組織の仲間の顔を思い出し、俯く。

 

 「ところで外の様子はどうだったの?」

 

 「ん?ああ…やっぱり今日も何も居なかったよ。悪魔の痕跡も無かった。ダンテも何も感じて無いみたいだったし」

 

 「嵐の前の静けさってやつ?」

 

 「…かもしれない」

 

 そのダンテも気付けば後ろから消えていた。

 ただでさえ自由奔放な性格の上、暇を持て余してるのだ。それに此処にはダンテの好きなピザもストロベリーサンデーも無い。

 

 心なしか日に日に修行のバイオレンス感も上がってる気がする。

 実力に応じて上がっていると、好意的にも取れなくはないが集はそこまで楽天的では無い。

 

 生徒会室のドアをノックし、開いた瞬間凄まじい炸裂音と少量の紙吹雪が集の顔に浴びせられた。

 

 「イッエーイ!」

 

 馬鹿みたいにハイテンションな声もセットだ。

 しばし、生徒会室に沈黙が流れた。

 

 声とクラッカーの主である颯太が何か言う前に、集の指が颯太の顔面をガシッと掴んだ。

 

 「ーー颯太?クラッカーって人に向けて良いものだっけ?」

 

 「ごごごごごめんなさーーい!」

 

 「すまん集、止めたんだが…」

 

 アイアンクローに悲鳴を上げる颯太の後ろで、谷尋が申し訳なさ半分呆れ半分といった表情でため息をついた。

 

 「お…おかえりなさい皆さん」

 

 「はい、すみません。仕事押し付けて」

 

 集は颯太を解放して生徒会室に入る。普通の教室や部室の流用したものでは無く、サナトリウムの様な雰囲気の広々とした部屋に中央には少しオシャレな白いラウンドテーブルが置いてあり、その周囲を長いソファが囲っている。

 部屋には亜里沙と谷尋と颯太の他に花音もいた。

 

 「ただいま戻りました」

 

 「…ただいま」

 

 「ありさビスケット!」

 

 集とツグミの後に続いていのりと祭、ルシアが入る。

 

 「そういえばルシア、レディさんは?稽古付けてもらってたよね?」

 

 「ん?」

 

 集が尋ねるとルシアはビスケットをハムスターのように頬張りながら首を傾げた。どうやら今はどこに居るか分からない様だ。

 よく見ると身体のあちこちに絆創膏がある。集程ではないにせよルシアも相当にしごかれたようだ。

 

 「で?颯太、さっきのは何?」

 

 「今日は…ヤケに気が立ってるな…」

 

 「ダンテさん今日は特に厳しかったみたいで…」

 

 祭と谷尋の会話を背中で聞きながら、集はジトーとした視線を顔をさする颯太に送る。

 

 「いや、最近みんなストレス溜まってるみたいだからさ…ーー」

 

 「たった今誰かさんのせいで爆発したよ…」

 

 「ちが、そうじゃなくて!閉じ込められて学校のみんな不安だろうから元気付けようって事!」

 

 「…つまり?」

 

 「学園祭だよ!パーッと騒ごうぜ!」

 

 颯太は息を吸って自信満々な表情で言った。

 

 

 




アラストルを集に持たせるというのは、
割と初期から決めてました。

いい相棒になれるといいですね(他人事)


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