ギルティクラウン~The Devil's Hearts~   作:すぱーだ

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今回、半オリジナルな悪魔が登場します。
原作無印のあいつの強化固体です。


過去の話はダイジェストにする予定だったのに……。
気付いたら殆ど描写してしまった…。




#42-②再誕〜the lost christmas〜

黒く渦巻く雲と瓦礫の中を真紅の影が切り裂く。

異常な光景の中に平然と飛び込む影こそ、際立って異質だった。

 

ズドンッと豪快な音と土煙りを立ててダンテは着地した。

 

「ほら、これで満足か?」

 

ダンテに抱えられていた涯は意識が朦朧としながらも、しっかり自分の足で着地した。

 

「ここに…シュウといのりが?」

 

「…おそらくな…」

 

ルシアが危うげな足取りの涯の隣に立ち、異形な塔を見上げる。

 

「どこから入れば…」

 

「悪いがお嬢ちゃん。悠長に入り口を探してる余裕は無さそうだぜ?」

 

ダンテの声に振り向くと、大量の悪魔が地面から瓦礫の隙間から湧き上がる様に出現していた。

 

「あの男…」

 

「アリウス!」

 

その軍勢の中心に貴族風の服装が見え、ルシアはギリッと歯を砕けそうなほど強く食いしばった。

 

「またお会いましたな」

 

「俺の事務所荒らした悪魔と同じ匂いが染み付いてやがる…。

お前が俺の魔具を盗んだ奴の親玉って訳か」

 

「“魔剣士ダンテ”。この目で見る日をどんなに待ち望んだことか…。私はアリウス。御察しの通り君の魔具を奪ったのは私だ」

 

「ハッ素直なヤローだ。今ならレンタル料に利子つけて返しゃあ見逃してやるよ」

 

ダンテは背中のリベリオンを握り、勢いよく引き抜いき威嚇する。

 

「断る。勝てる勝負でなぜ降伏する必要がある?」

 

「そうかい、ならお仕置きだ…っな!!」

 

言うが早いか、ダンテは涯とルシアが立つ背後の壁にリベリオンを振り抜いた。

ゴオオオオオオオ!!という轟音と共に途轍もない衝撃が剣から放たれ、塔の壁をいとも容易く砕いた。

 

「行きな。こっちは俺の個人的な用事だ。

テメェらは自分の事に集中してりゃいい」

 

言いながらポッカリ空いた塔の穴に顎をしゃくる。

 

「常識が通用しない奴だ…。

だが恩に着る」

 

「…ありがとう」

 

ルシアは最後にアリウスを睨むと、涯を追って穴に駆けて行った。

ダンテは振り返らず、肩越しで手をヒラヒラ振って二人を見送る。

 

「さて、お前は俺の足止め役ってとこか?」

 

「そんなところだ」

 

その言葉と同時に目の前の悪魔達が一斉にダンテへ飛び掛った。

ダンテは剣で目の前まで迫った数体の悪魔を地面に串刺しにした。

 

「…前菜は飽きたが、付き合うさ。

ウチのバカ弟子と遊んでくれた礼だ」

 

そして腰からエボニー&アイボリーを抜くと、迫り来る軍勢に弾丸を浴びせた。

 

 

 

****************

 

 

地面から引っ張り上げられながら立ち上がった集は、未だ呆然としながら涯の顔を見た。

 

「涯…ルシアまで、どうやってここに?」

 

「話すと長い…」

 

涯の視線を追って天井を見上げると、人間一人なら余裕で通れそうな穴が遠目に見えた。よく見ると、天井の中途にワイヤーがぶら下がっている。

あれを使って降りて来たのだろう。

 

「あ〜…なる程、大体分かった」

 

「理解が早くて助かる…」

 

穴の向こうから、微弱ながらダンテの魔力を感知して、集は呆れ半分で頷いた。

 

「シュウ、大丈夫!?」

 

「うん。僕は平気…」

 

集はルシアに頷くと、背後の階段を見上げた。

拘束されたいのりの両脇に謎の少年と茎道が集を見下ろしている。

 

「まさかその身体でここまで粘るとは思いませんでした。恙神涯」

 

「…お前達と戦うために今まで生きて来たんだ。

ここで折れてたまるか…!」

 

涯は弾を再装填した銃を少年に向ける。

 

「では敬意を払い名乗らせていただきます。

私はダァトの“ユウ”。覚えて頂けると幸いですね」

 

「いのりを返して下さい!!」

 

「“返す”?この娘は元から我々のものだ」

 

そう叫んだ集に茎道は軽蔑の視線を向けた。

 

「貴方が“楪いのり”と呼ぶものは、マナと意思疎通を図るためのインターフェース用インスタントボディ。

ーー我々が作った人工生命体です」

 

「作った…だと?」

 

「いのりが…わたしと同じ?」

 

集とルシアは驚くよりも困惑で顔を歪めた。

正直、突然得体の知れない人物から聞かされても半信半疑でしかなかった。

しかし、ーー

 

「ーー事実だ」

 

集がもっとも信頼する人物の一人である男が、あっさりと認めた。

 

「なっ…涯!?」

 

「…だが、まだ重要な事がある。もっと上を見てみろ」

 

「え?」

 

戸惑いながらも、涯に言われるがまま階段の最上部を見上げた。

 

ーー誰かいる。

知っている顔が、たった今思い出した大切な人が。

 

最上部には桃色の髪の少女が眠っている。

一糸纏わぬ姿で紫色の光の中で膝を抱え宙を漂い、その周りにはどんな用途で使うかも分からない機械が少女を覆っている。

 

「マナ!?」

 

守られている様にも、捕らわれている様にも見える機械の中で最愛の姉が静かに眠っている。

 

「マナは石に触れ、『アポカリプスウィルス』の第一感染者となり、肉体を失った。彼女の魂は新たな肉体に注がれ、今再びこの世に舞い戻る」

 

「何を…言ってるんだ!」

 

「そして、古き世界は終わりを迎え。新たな世界が始まる。私はその証人にならなければならない」

 

茎道は一方的に集に言葉をぶつける。

まるで人間では無いかの様な残虐性と狂気的な不気味さを感じた。

今まで出会って来た、悪魔に魂を売った者たちと何も変わらない邪悪さを茎道は纏っていた。

 

対話も交渉もコミュニケーションの通じないと、集はほぼ本能的に感じ取った。

 

戦うしか無い。

 

 

 

ーーだが、足りない。

今のままでは…あまりにもーーー

 

 

 

涯が集の肩を掴む。

 

「…集…!」

 

「…ねぇ、涯はトリトンなんだよね?」

 

「…………」

 

涯は一瞬驚いた表情を見せると、ほんの少し間を置き応えた。

 

「そうだ…」

 

「全部知ってたの?」

 

「そうだ」

 

「なら、教えてくれ。

あの日…ロストクリスマスの日に何があったんだ?」

 

「どうやら、まだ全てを思い出した訳では無い様ですね」

 

ユウが少し落胆した様に溜息をはく。

 

「お話してあげてはどうですか?待ってあげましょう。

彼には知る権利がある。…いや、知らなければいけない義務がある」

 

涯はユウを鋭く睨んだ。

 

「…あいつに賛同する訳じゃないけど、それが僕に関係がある事なら、それが解決のために重要な事ならーー」

 

「…分かった。

話してやる。あの日マナに、俺に、お前に起こった事をーー」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

ーーマナは優しい女だった。

しかし、彼女は変わってしまった。ーー

 

ーーあの日の大島で、マナがお前に迫る所を、そしてあの忌々しい黒い斑点を俺は見てしまった。ーー

 

 

 

「ウィルスでしょ?その顔の斑点はあの≪石≫のウィルスでしょ?

父さんが言ってた。それは人を狂わせるって」

 

あまりにも真っ直ぐ訊いてしまった。

 

「君はシュウをどうする気なの?」

 

その瞬間、真名は豹変した。

雷雲の轟に負けない叫び声を上げ、トリトンに襲い掛かった。

簡単に組み伏せられ、縛り上げられた。

 

「あなたを生き返らせたのは私。ならあなたをどう使おうが私の自由にしていい、そうでしょ?」

 

真名はトリトンの喉を掴み上げて言った。

 

「私はね、シュウと結ばれるの。誰の邪魔もさせないわ」

 

「……僕は、シュウに言いつけたいんじゃない……確かに僕はマナに命を救われた。…僕に命を吹き込んでくれた」

 

トリトンは後ろ手に縛られていた腕を無理矢理振り解き、真名の手にそっと触れた。

 

「だから救いたいんだ!ねぇ、どうしたら君を助けられるの?確かに僕はマナに命を救われた。…僕に命を吹き込んでくれた」

 

トリトンの喉元を掴む真名の手が僅かに緩んだ。

 

「生き返らせてくれたのが君だから、僕はもう一度生きたいと思えた…。僕は君のために生きる。僕がマナを…元に戻してあげる」

 

トリトンは優しく、しかし強くマナの手を握った。

 

「……何言ってるの?私の騎士にでもなったつもり?」

 

しかし、その温もりが真名に届く事は無かった。

 

 

 

ーーその日から、お前が見ていない所で俺は毎日マナから暴行を受けた。だが、全てはウィルスのせいだ。

マナはずっと戦っていた。お前の前では変わっていく自分を見せまいと…最後まで良き姉であろうとした…。ーー

 

ーーそしてあの日、2029年12月24日。俺達は新しい母、桜満春夏に連れられて東京に来ていた。

俺はお前にマナの身に起こっている真実を話すため、お前を教会へ呼び出した。ーー

 

ーーしかし、そこに来たのはお前では無かった。ーー

 

 

教会の入り口には血の様に赤い目の真名が立っていた。

 

「トリトン?私はあなたが好きだったのよ?」

 

その瞬間、花火の様な音と光が一瞬トリトンの五感を奪った。

頭蓋を地面に打ち付ける直前、トリトンは自分が撃たれた事に気付いた。

脇腹から血を吹き出しながら、ゴッと鈍い音を立て身体は地面に倒れた。

 

「……私を、助けるんじゃなかったの?」

 

硝煙が漂わせ、真名は意識の無いトリトンを冷たく見下ろしながら言った。

その時、集が来た。

 

「何やってるの?お姉ちゃん」

 

「ううん。なんでも無いのよシュウ?」

 

「…トリトン?ーートリトン!!」

 

集は真名を押し退けトリトンに駆け寄った。

しかし、身体の下から流れ出た血に凍り付いた。

 

「なんだよ…これ…っ!」

 

「ぶっ、ごほ!ごほ!」

 

当たりどころが良かったのか、トリトンは集の声に反応して意識を取り戻した。

 

「トリトン!」

 

「なんだ…まだ生きてたのね?」

 

真名は狂気に満ちた微笑みを浮かべ、ハシゴのあや取りを集に差し出しながら歩み寄った。

 

「さぁ…取ってシュウ?わたし達の遺伝子で、新しい世界を作りましょう!」

 

「お前は…誰だ…」

 

真名の髪から結晶に覆われた頰が見えた。

広がっていた。結晶をボロボロ落としながら、それは成長していた。

 

「大丈夫。怖がらないで?楽しい事をしましょう…」

 

「真名お姉ちゃんのふりをするな!

ーーこの化け物!!」

 

集は真名を突き飛ばした。

真名はバランスを崩し、膝から地面に崩れ落ちた。

 

キャンサー化して行く人間を、初めて目の当たりにした少年にとって、まさしくそれは姉の姿をした別の生き物に見えた。

 

「あ…ぁ、違うの…ごめんなさい…ごめんなさい…」

 

我に返った真名がフラフラと立ち上がると、縋る様に集に両手を伸ばした。

 

「ごめん…ごめんね…シュウ」

 

真名が歩く度に彼女の身体から結晶が零れ落ちる。

流れ落ちる涙すらも結晶だった。

 

「けど怖がらないで…お姉ちゃんも怖いの!…怖いのよ!このままじゃ私が私でなくなる!助けて…助けてえええええええええええええ!!!」

 

叫びと共に恐ろしい規模のエネルギーが共鳴を起こし、街そのものを()()()()()()()()()()

 

その規模は街一つに留まらず、日本全体へ拡散し干渉した。

 

それが、ロストクリスマスの真実。

しかし、これだけでは終わらなかった。

 

 

 

「う……」

 

燃え盛る教会の中で、トリトンは目を覚ました。

 

「シュウ…?」

 

トリトンと集の目の前で、真名は砕け散った。

親友の身が心配だった。

嫌な想像が脳裏を過ぎる。

 

「シュウ!」

 

彼女と同じ末路を辿っていない事を祈りながら、鉛のように重い身体を動かし地面を這う。

 

「ーーがぁっ!?」

 

突然、左手の甲に激痛が走った。

ミシミシと骨が軋み、トリトンは瓦礫を退かそうとした。

 

触れたそれは、人間の足だった。

 

足の主を見ようと、トリトンは顔を上げた。

 

「ーーっ!?」

 

そこに鼻の無い顔を鱗で覆われた怪物がいた。

 

「ーーシュウ!!」

 

その腕の中に集が抱えられていた。

集は気を失っているのか、力無く手足を垂れ下げていた。

 

人間に似た怪物は爬虫類の様な眼で、トリトンを一瞥すると集を抱えたまま教会の出口へ去っていく。

 

「待て…っ!」

 

動かない身体が煩わしい。いっそのこと言う事を聞かない足など切り落とした方が動けそうな気がする程だ。

 

「シュウ…シュウウウウウウウウっっ!!」

 

教会の天井が崩れ落ちる。

自分の名が呼ばれた気がしたが、怪物と集の姿は炎に舐め取られ、もう何処にも見えなくなっていた。

 

 

 

ーーその日少年達は、大切なモノを全て失った。ーー

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「…思い出した…」

 

涯の話を聴き終わった瞬間、過去の映像が鮮明に脳裏に蘇った。

 

「…姉さんは…僕達に助けを求めてた…。だけど、僕達はそれに応えられなかった……」

 

「集……っ」

 

涯が言葉を続けようとした瞬間、アポカリプスウィルスの結晶が壁の様に集と涯の間から現れた。

 

「なっ!」

 

「涯!ルシア!」

 

集は拳で壁を叩くがビクともしない。

 

「ただの壁です」

 

「お前……」

 

背後に降り立ったユウを、集は沸き上がる怒りを抑えられずに睨む。

 

「桜満集。貴方はイヴの記憶を全て取り戻し、アダムたる資格を確固たるものにした…」

 

「……豪華賞品でも貰えるとでも言うのか?」

 

「まさしくその通りです。イヴを…マナを救えるのは貴方だけ」

 

「救…える?」

 

「貴方が彼女の意思を汲めば、彼女は目覚め黙示録の再来となる。…今度はこの国に留まらず、世界中にアポカリプスウィルスによる淘汰が始まる」

 

ユウは集にダンスに誘うかの様に手を差し伸べる。

 

「我々《ダァト》は貴方を高く評価しています。貴方自らの手で人類を次なる進化へ導くのです。脆弱な肉体を捨て、新たな世界へーーーー」

 

「ーー もういい、黙れ ーー」

 

ユウの言葉を遮り、集は凄絶な怒りを静かに言葉に秘めた。

全身から真紅の光が感情を表す様に激しく溢れ出す。

 

蒸気の様に漂うそれを、集は腕に纏わせ、背後の壁に強く叩きつけた。拳が裂け血が飛び散るが、集の眼はユウのみに向けられていた。

同時に壁の向こうから、ルシアの小刀が壁を貫いた。

外と内からの攻撃に、壁はガラス細工が割れる様にヒビ割れた。

 

「お前には…お前達には、いのりもマナも絶対…渡さない!!」

 

その時、集の足元にヴォイドエフェクトが輝いた。

だが、いつも見るエフェクトよりさらに巨大で複雑だった。

 

「ーーっ!なんだ?」

 

エフェクトから発せられるエネルギーが背後の壁を跡形も無く吹き飛ばした。

 

「集、時間が無い。取り出せ俺の心を!そして、取り出したヴォイドを俺に渡せ!」

 

「ヴォイド…渡す?ヴォイドを抜かれたら気を失うんじゃ…」

 

涯は集の手を握った。

 

「今のお前になら出来る!この手を離さず、ヴォイドを抜け!」

 

集は頷き、腕を涯の胸に向かって伸ばした。

 

「うっ…」

 

涯が呻く。

いつもと同じ、人の内側に直に触れる感覚。しかし前より遥かに強く相手の存在を感じられた気がした。

 

腕を抜くと、黒く輝く巨大な銃が現れた。

涯は気を失わなかった。集は言われた通り、涯に銃を渡した。

 

「ライフル…。それが、涯のヴォイド…」

 

「そうだ。行くぞ集、ルシア!いのりを取り戻せ!」

 

「ああっ!」

 

「うん!」

 

その光景を段上から見下ろしながら、ユウは眼を細めた。

 

「記憶を奪還して次のステージへ昇りましたか…。桜満集…」

 

人知れず呟いた声は誰の耳にも入る事は無かった。

 

 

 

 

*************************

 

 

剣を振る度、肉と骨が断ち切られる。

薬莢が排出される度、弾丸が悪魔の頭を弾け飛ばす。

 

ダンテが腕を振る度に異形な骸が積み上がって行く。

 

『ガアアッ!!』

 

大きく裂けた顎を持つ悪魔が飛びかかって来た。

ダンテはその悪魔の口に腕を突っ込み、顎が閉じられる前に引き金を引く。

 

後頭部がスイカの様に破裂し、大きな風穴を開けた。

ダンテは悪魔の口に手を突っ込んだまま、ドンッドンッドンッと次々に弾丸を撃ち出した。

弾丸は後頭部の風穴を素通りして、薄ら笑いで戦いを傍観していたアリウスの眉間に吸い込まれて行った。

 

しかし、突如アリウスの影が大きく波打ち弾丸を呑み込んだ。

 

「お前を守れる奴はそいつが最後か?」

 

「やれやれ…もう少し時間を稼げると思っていたんだが。やはり、そう甘くはないか…」

 

アリウスは髭を撫でふぅと溜め息を吐いた。

 

「致し方ない。君に対して出し惜しみは無意味だ…切り札を出させてもらうよ…?」

 

「好きにしな。何が来ても結果は同じだがな」

 

アリウスが杖を強く突くと、辺りに石突の音が響いた。

それを合図にアリウスの影だけでは無く、その周囲の悪魔達、更には周囲の瓦礫やダンテの影すらも大きく歪み、うねった。

 

「あぁ…?」

 

ダンテは自分の影が液体に垂らした様な、不定形な形になるのを不審げに眺めた。

それらの影はアリウスの足元へ流れ込み、徐々に立体となって行く。

 

低い唸り声が辺り一面に響く渡り、ダンテに覆い被さる。

普通の人間なら一歩も動け無くなるほどの恐ろしげな声も、ダンテは飄々と受け流す。

 

声の次に、影から二つの眼が殺意を滲ませながらダンテを見た。

 

「そいつが切り札か?」

 

ダンテは思わず落胆の声を漏らす。

というのも、現れた悪魔はダンテが何度も狩った経験がある『シャドウ』という悪魔だったのだ。

しかしアリウスは余裕を崩さずクククと喉から声を漏らした。

 

「確かに…彼では君には勝てないだろう…」

 

「………」

 

「ーーだが、君はこのシャドウに勝つ事は出来ても、殺す事は出来ない」

 

ダンテは改めて、現れたシャドウを観察した。

通常のシャドウはライオンや虎、豹などの猫科の大型動物の特徴を持って出現する。体躯もその枠を超えない。

 

しかし、目の前のシャドウの体躯は軽自動車ならば丸呑みに出来そうな巨体だった。

獅子の様なたてがみを持ち、虎の様な模様には血管の様に赤い魔力が絶えず流れ、上顎には巨大な牙が二本生え、それに劣らぬ鋭利な棘が手足と背中に背びれのごとく二列に並んでおり、尾も異常な長さだった。

 

「名付けるならば、そうだな…

ーーー《ファングシャドウ》…とでもして置こうか?」

 

「はっ面白え。ちったぁ楽しめそうじゃねぇか…」

 

ダンテはリベリオンを肩に担ぐと、どんな猛獣に負けない凶暴な笑みを浮かべた。

 

ダンテを主を仇なす敵とみなしたファングシャドウが、大地を揺るがす程の咆哮を上げた。

 

 

 

 

 

 


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