ギルティクラウン~The Devil's Hearts~   作:すぱーだ

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初代DMCがニンテンドーswitchでDLにて発売!!

いやー。
携帯ゲーム機でDMCが出来るとは、いい時代になりましたなぁ。

さっそくDLして遊んでます!
なんか5のくせが悪い方に働いてしまってるww

久々だとムズイっす!



今回のギルクラの過去話なんですけど、若干ダイジェストで行きたいと思います。
ちゃんと知りたい人は原作のアニメか漫画か小説でチェックしてください。

すみません



#42-①再誕〜the lost christmas〜

周囲を目を焼かんばかりの閃光が広がり、涯は思わず顔を顰めた。

その光が消えると、集も裂け目も消えていた。

 

「行ったか…」

 

「……ねぇ、今のはだれ?

しゅうはどこへ行ったの?」

 

ルシアが崩れ落ちそうになる涯の身体を支えながら、しきりに尋ねる。

その時背後の扉が開き、春夏が駆け寄ってきた。

 

「ルシアちゃん!涯くん!」

 

「!」

 

「あんたか…」

 

「集は?いのりちゃんは?

何があったの!?」

 

ルシアの投げ掛けた疑問を春夏は繰り返す様に畳み掛けた。

涯は顔を顰めたまま春夏の正面に向いた。

 

「…“コキュートス”。そこに二人はいる」

 

「それはーー」

 

何?と春夏が続けようとした時、大きな風が三人を覆うように吹き荒れた。

しかし、春夏が口を閉じたのは風のせいではない。

 

屋上にさらにもう一人人間が現れたのだ。

身長は涯の頭一つ分も違う、大柄な男だった。

 

「つまり、死にそうな面のお前なら…シュウの居場所が分かるって事だな?」

 

その男は顔に巻き付けてあった、布を鬱陶しげに取りながら不敵な笑みを浮かべている。

 

「何者だ…」

 

「だ、ダンテさん!?」

 

「久し振りだなハルカ。ヘアースタイル変えたか?」

 

「なぜここへ?ーーっというかいつ日本に!?」

 

「ちょっと前からな」

 

混乱している春夏にダンテは肩をすくめた。

涯は顰めていた顔にさらに眉間を寄せた。

 

「ダンテ…?

まさか集に戦う技術を教え込んだ…」

 

「ハハッ!…俺も有名になったもんだ。

そういうお前がガイって奴だろ?」

 

ダンテは心底楽しそうに涯に歩み寄る。

無意識にダンテの強大さを把握出来たのか、ルシアは近付いて来るダンテにビクッと肩を震わせ緊張する。

 

「そっちのお嬢ちゃんは?」

 

「…ルシア…」

 

「よろしくな。

シュウにも“変わったお友達”がいたもんだ…」

 

「…!?

…分かるのか?」

 

先刻のアリウスとの遭遇を思い出し、涯は思わずダンテに詰め寄る。

一目見でルシアが人間でない事を見抜いたダンテは、飄々と何でもないかの様な態度だった。

 

「この世界にも長いんでね…。

そんな事より、そろそろ本題に入るとするか」

 

ダンテはため息を吐き、涯に向き直る。

 

「シュウがどこに消えたか知ってんのか?」

 

「…六本木だ。

もっとも、今は違う物になっている様だがな…」

 

涯の視線を追って、ダンテは六本木のある方向へ顔を向けた。

そこに誰もが思い浮かべる様な街の原形は無く、建物の全ては今も無秩序に破壊され、中央に形成されつつある塔の材料になっている。

 

街そのものが、悪意を持って蠢く生物にも見える。

 

「そんな…」

 

「ハハッ!そう来なくちゃな!

ここまで来た甲斐があったってもんだぜ!」

 

顔色が蒼白になる春夏とは対照的に、ダンテは興奮気味に声を上げる。

 

「行き先は決まったな。

さっさと片付けるとするか」

 

「待て!ーーグゥ!!?」

 

涯は屋上の縁に足を掛けるダンテを追おうとしたが、突然の刺す様な激痛に胸を抑えて地面に手を着いてしまった。

 

「大丈夫!?」

 

ルシアと春夏が涯に駆け寄り背中をさする。

 

「俺も行く…!」

 

「怪我人は引っ込んでな。お呼びじゃないぜ」

 

「行かなければならないんだ!!」

 

涯の血を吐く様な必死の叫びに、ダンテはしばらく無言になる。

 

「あそこには…俺の全てが、ここで行かなければ俺に生きる価値など無い!!」

 

「……色々知ってそうだな?」

 

「涯くん。何を知ってるの?それは集に関係する事なの?」

 

「……………」

 

涯はしばらく目を閉じて考え込むが、すぐに目を開き春夏を見る。

 

「…おお有りさ…。

あの六本木で集を待っているのは、『アポカリプトウイルス第一感染者』“桜満 真名”(おうま まな)ーー」

 

そしてダンテの顔を睨む様に見る。

 

「ーー()()()()…」

 

「そんな…ありえないわ!あの子は死んだ!

ロストクリスマスの日に!」

 

「死んではいない…“まだ”、な」

 

春夏は息を呑んだ。

頭を振ってなんとか混乱から脱しようと考えているのが分かる。

 

「いいさ。そこまで言うなら、連れて行ってやるよ」

 

ダンテはため息まじりにそう言うと涯の軽々と持ち上げ、涯の腕を肩に掛けた。

 

「トリッシュ!」

 

ダンテが上空に向けて呼び掛けると、金色の雷が屋上に()()した。春夏の悲鳴を上げるのも忘れ、落下した雷光の中から現れた人物に目を丸くした。

 

「ととと、トリッシュさん!?」

 

「ハアーイ♡」

 

一度に様々な事が起こり、春夏の頭はオーバーヒート寸前になった。

 

「…もう、何がなんだか…」

 

「ふふ、すぐに説明してあげるわよ。

理解出来るかは保証しないけどね」

 

「トリッシュ」

 

「分かってるわよ」

 

頭を抑えて昏倒しそうになる春夏を、トリッシュは軽く持ち上げる。

 

「ーーへ?キャッ!?」

 

いわゆるお姫様抱っこの形で持ち上げられた春夏は、一瞬何が起きたか分からず何度も瞬きする。

 

「はい、お一人様ごあんな〜い」

 

「と、トリッシュさん!恥ずかしいです!」

 

騒ぐ春夏をよそに、涯は無線機をツグミに繋げる。

 

「ツグミ、聞こえるか。今すぐ全員に退却信号を送れ」

 

『涯!?無事だったの!?』

 

「現時刻を持って≪葬儀社≫は全ての活動を停止する。

一刻も早くここを離れて身を隠せ…」

 

『え?待ってよ、涯!』

 

「……生き残れ。これが最後の命令だ」

 

一方的に告げると、涯は通話を切った。

 

「もう、いいのかい?」

 

「……伝えるべき事は伝えたさ」

 

「オーケー、なら結構。

時間がおしてる」

 

改めて六本木に向き直ったダンテの服を、誰かが掴む感覚がある。

見下ろすと裾を掴むルシアと目が合った。

 

「…わたしも…」

 

「好きにしな。ただ、来るからには自分の身は自分で守ってもらうぜ。

足手まといは一人で十分だ」

 

「…耳が痛いな…」

 

もし彼女がただの人間ならば、ダンテも躊躇いなく手を振りほどいていただろう。

 

ルシアは瞳に闘志を灯し、ダンテの目を見る。

 

こいつは折れない。

万が一置いて行こうものなら、両足が千切れ飛んでも追ってくるだろう…。

そんな執念を感じたダンテはため息をつくと、ルシアの襟首を掴み猫の様にひょいと持ち上げると自分の首を抱かせた。

 

「……落ちたら死ぬぜ?」

 

「ん」

 

ダンテがそう言うと、ルシアは首を抱く腕に少し力を込める。

 

「待って!涯くん!

あなた“トリトン”よね!?」

 

春夏はトリッシュの肩越しに涯を呼び掛ける。

 

「……さっきも言っただろう。そんな奴は知らん」」

 

しかし、涯は春夏に振り返らず冷たく言い放った。

ダンテは長話にウンザリした様子で首を振り、涯の身体をしっかり掴む。

 

「おしゃべりは終わりだ。行くぞ」

 

「ああ…頼む」

 

涯が言い終わらない内にダンテは屋上の縁を蹴り、冗談みたいた速度で空中で疾走していく。

 

「う…そ」

 

「それじゃあ、私達も行きましょう?」

 

「え?え?じょ冗談でーー」

 

「口閉じないと舌噛むわよ?」

 

軽い口調で言った直後、トリッシュは春夏を抱えたまま躊躇いなく屋上から飛び降りる。

春夏の絶叫が未だ災禍の止まぬ曇天に響き渡って行った。

 

 

 

**************

 

 

波の音が聞こえる。

 

潮の香りがする。

 

生命の息吹を感じるこの場所で今、目の前で命が失われようとしていた。

 

小麦色の髪を持つ少年だ。自分より一つか二つ年下の少年が浜辺に打ち上げられ、仰向けにグッタリ倒れ込んでいる。

 

最初は人形かと思った。

少し近付いて、ようやくそれが生きた人間だと気付いた。

 

「大変!!」

 

真横から姉の“マナ”が少年に駆け寄る。

遅れて自分もマナの後を追った。

 

マナは少年の胸と鼻に耳を当てると、慌てて両手の平を交差させ濡れた服の上から心臓マッサージをした。

 

心臓が動いていないのだ。

その事に気付き、背中に冷たい汗が垂れた。

 

必死に心臓マッサージを繰り返すマナを見て、何も出来ない…しない自分に焦燥感とそれを恥じる感情が徐々に増していく。

 

こんな事なら昨日の人命救助の特番をもっと真面目に見とくんだったと、見当違いな後悔まで芽生え始めた。

 

「ゴボッゲホッ、ゴふ!」

 

少年が水を吐き出すのに気付いて我に返る。

マナは大きく安堵のため息を吐いた。

 

「よかった…」

 

「おい。大丈夫か?」

 

少年の目が薄く開き、自分とマナを交互に見ている事に気付き声を掛ける。

 

「あっ…え…」

 

「オレはシュウ、オウマシュウ。こっちはマナお姉ちゃん。

でっ、お前の名前は?」

 

「…え?な…まえ…」

 

集が畳み掛ける問い掛けに、少年はしどろもどろになる。

見かねた様子のマナが自分に叱り付ける。

 

「こらシュウ。ダメじゃない怖がらせちゃ!」

 

しかし自分は大して反省せず、ヘイヘーイと適当な返事をして姉の小言を受け流す。

 

「…なまえ…」

 

ふとマナは少年の様子がおかしい事に気付き、不安な表情で少年を覗き込む。

 

「もしかして、名前ワカンない?」

 

無遠慮な問いにマナがまた怖い顔になる。その表情に気押されて数歩後ずさりした。

姉はいつもは優しいが怒るとすごく怖い。

 

「……」

 

「…“ トリトン ”」

 

呟いたマナに少年はハッと顔を上げる。

 

「海から来たから“トリトン”。素敵だと思わない?」

 

「おぉ!いい名前じゃん!

よし、今からお前の名前はトリトンだ!」

 

「………」

 

「よろしくな!トリトン!」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「何故、桜満集にこだわる」

 

階段の下からの声にユウは天井から視線を外し、階段を登る男を見た。

 

「おかえりなさい。シュウイチロウ」

 

茎道は不機嫌そうにユウを、そして空中の結晶体の中で眠る集を睨む様に見る。

 

「あの男はどうしました?」

 

「嘘界なら帰したさ。奴にここまで見せる義理は無い」

 

「結構…。では今しばらく彼を待ちましょう」

 

「…質問には答えられないと言う事か?」

 

ユウは失敬と頭を下げる。

 

「彼が記憶を失ったのは不幸な事故でした」

 

「事故だと?」

 

「ええ、彼が魔界の住人に拉致された後、()()()()()()()()()()()()()()()()()()。招かれざる客によって不当に破壊されてしまったのです」

 

「それを知りながら。何故、指をくわえて見ていたのだね?」

 

「魔界は我々からすると未知の領分でした。下手に手が出せなかったのです。だから、我々は奴らの世界の住人を利用する事をしたのです」

 

10年前、ダァトは桜満集を拉致した悪魔討伐を成し遂げようとした。そのために最高の要因に目を付けた。

 

ーー魔剣士ダンテ。

 彼に例の悪魔へ導くため、直接的な被害に遭っていた何も知らない一般人にダンテの情報を流し、依頼を出すよう誘導した。

結果、見事ダンテは悪魔を討ち、桜満集の救出に成功した。

 

しかし、問題はここからだった。

桜満集は以前の記憶一切を欠落していたのだ。

さらに彼は“悪魔を引き寄せやすい”という厄介な体質にまで目覚めていた。

 

しかし、幸か不幸か集の身柄はダンテが預かる事となった。

ダァトはそれから観測を続け情報を集めた。

 

そして数年掛けて、ようやく完成させたのだ。

 

「彼にはここに連れて来る前、ある物を“移植”しました」

 

「ある物?」

 

「ーー『魂の複製』とも言えるでしょうか?

彼が生まれてからの経験、感情、人格。

それらを真名から、そして本人から()()しました」

 

「…君達がその様な技術を?」

 

「もちろん完璧な再現とまでは行きませんでした。

ですが数年掛けて十二分のものが完成しました」

 

「後は切っ掛けさえ与えれば…か」

 

茎道は憮然とした表情のまま、桜満集を見上げる。

 

「あなたの熱意は理解しているつもりですシュウイチロウ。

ですが、あくまで“アダム”を決めるのは“イブ”である真名です」

 

「…今さら言われるまでも無い…」

 

「ならばそれが問いへの答えです。

例え記憶を失っていたとしても、まだ彼は資格者の権利を失った訳ではない」

 

ユウは背後の階段へ振り返り、その頂上へ視線を向ける。

 

「慌てずとも答えは出ます。

もう間もなく…」

 

集を包んでいる結晶体に亀裂が入る音を聞き、ユウは口元を歪めた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

それから少年は、集の弟になった。

家に招き夏の大島で日々を共に過ごした。

 

遊び相手が真名しか居なかった集には、毎日が新鮮で楽しい物だった。

 

今までろくに男友達も居なかった集は、トリトンと遊ぶのが楽しくてしょうがなかった。

集はいつも彼を連れ出し、山や森や川や海やと毎日違う場所に連れて行った。

 

トリトンはいつも息を切らしながら必死に集に着いて行った。

 

 

ーー集はこの光景を不思議な感覚で見ていた。

客観的な様であり、主観的だった。

 

ただ二人の子供が遊ぶホームビデオを見る気分でもあり、追体験している気分でもあった。

 

 

「なんだアレ?」

 

ふと過去の自分が海の彼方を指差し、声を上げた。

 

「トリトンあれ見ろよ!」

 

「?どうしたのシュウ」

 

集も過去の自分が指差す方向を見るが、特に気になる物は無い。

 

「あれ!すげぇデケェよな!」

 

「あの大きい船の事?確かにあんなの見るのは初めてだね」

 

「は?違うって!」

 

過去の自分は興奮気味にタンカー船を指差す。

 

「トリトンは見えねぇのか!?

あそこのデカイ蛇!!」

 

それを聞いた瞬間、集は心臓が凍り付くような錯覚を感じた。

慌てて大型船を見るが、霧に包まれているせいでよくは分からないが何度確認しても少し錆びているだけのただの大型船だ。

 

しかし、集にはある種の確信があった。

 

(…まさか…)

 

現在の自分にハッキリとした爪痕を刻み込んだ。

恐怖の象徴。

 

世界中で多くの人々を拉致し、喰らった魔物。

 

ーーー()()()()()()が、ーー

 

 

「おっかしーな…」

 

「シュウ!浜辺以外の場所から海に入っちゃダメだって!」

 

過去の自分が無用心に海の中へバシャバシャ入って行く。

トリトンの制止も聞かず、あの船…いや、蛇へ近付こうとする。

 

今の自分が見ても蛇の影すら見る事は出来ない。

なぜ過去の自分と、今の自分の認識が食い違っているか分からない。

しかし、そんなことはどうでもよかった。

 

『ダメだ!!戻れ!!』

 

声を出そうとも、手を伸ばそうとも、目の前の映像には一切反映されない。当然だ。

元からこの場には居ないのだから。

 

「わぁああああああ!!」

 

過去の集が突然絶叫し海の中へ倒れ込み水しぶきを上げる。

 

「シュウ!!」

 

トリトンが海の中へ駆け寄る。

 

グッタリと抱き起こされる過去の自分を見届けると、集は慌てて船へ目を移した。

そこにはもう最初からそうであったかの様に何も無かった。

 

 

 

集を助け起こしたトリトンはほぼ同じ背丈の集を背負い身体のあちこちに擦り傷を作りながら死に物狂いで家へとたどり着いた。

 

二人は驚く春夏と真名に介抱されリビングのソファに集を寝かせると春夏は電話を掛けに何処かに行ってしまった。電話の先は病院と父親である桜満玄周(クロス)の様だ。

 

リビングに残された集は熱を出し荒い呼吸で眠っていた。トリトンと真名はそれを見守っていた。

 

「大丈夫よトリトン。きっとすぐに良くなるわ」

 

マナは集の額に冷水で濡らしたタオルを乗せながら言った。

トリトンは俯いたまま小さく頷くだけだった。

 

 

 

ーーー刻印だーー。

 

横になる自分の足に巻かれた包帯。

その下に真っ黒な痣があるのを見た。

 

どんなに不気味な形でも、知識が無ければそれを痣としか思わない。

病院の医者でもおそらく同じように言うだろう。

実際時間が経てば痣は消え、痛みも無い。

 

だが、それは見せかけだ。

 

刻印は獲物を選り好む悪魔や知能の高い悪魔が行う。

いわゆるマーキングの様な物だ。一度こういった物を身体に刻まれると何処にいても相手に筒抜けになってしまう。

 

集もダンテに助けられた後、『刻印の残り香』が持つ数多の悪魔を引き寄せる性質のおかげで大変苦労させられた。

 

(…ロストクリスマスの前から、目を付けられてたって訳か…)

 

今は済んだ事とは分かっていても、改めて背筋が寒くなった。

 

暗い思考を紛らわすため、集は自分を見守る二人に意識を移した。

自分の姉であるマナ。

見れば見る程いのりに似ている。

しかし、このマナがいのり本人で無いのはすぐ分かった。

彼女と いのり の年齢の計算が合わないという事以外根拠はないが、彼女の纏っている空気はいのりとはまるで違う気がした。

 

そして、似ていると言えばもう一人。

トリトンという少年。

性格はまるで違うがその面影はやはり……。

 

 

 

集は翌日にはすっかり回復し、ケロっとした顔で家族の前に現れた。

春夏とマナは呆れながら微笑み、トリトンは涙を流しながら喜んでいた。

それからは蛇の事も痣の事もすっかり忘れ、あいも変わらず騒がしくも平穏に時が過ぎて行った。

 

 

 

ーーそしてある日、小さな異変が起きた。ーー

 

その日は朝からどしゃ降りの雨が降り注いでおり、とてもじゃないが外で遊べる様な天気ではない。

今日はトリトンも居ないので、大人しく本を読んで時間をつぶしていた。

 

「ねぇ、シュウ…」

 

本にもそろそろ飽きて来た頃、マナが音も無く集の隣に座った。

 

「なに?」

 

顔を上げ隣の真名を見ると、真名はふふと優しく微笑む。

 

「シュウは私の事好き?」

 

「きゅ急になんだよ!」

 

突然で直球な問い掛けに、集は変に焦ってしまった。

弟の初心な反応に真名はクスクス笑う。

 

「私はシュウの事大好きよ?ねぇ、シュウはどうなの?」

 

「……俺も好きだよ?

お姉ちゃんの事…」

 

改めてはっきり口にすると凄まじく照れる。

自分の顔が赤くなっている事を自覚して、今この場にトリトンや春夏が居なくて良かったと思った。

 

「ほんと!嬉しいわ!」

 

「……?」

 

真名の喜び様に正体は分からないが違和感を感じた。

次の瞬間、真名は集を覆いかぶさる様に強く抱きしめた。

 

「わ!お姉ちゃん!?」

 

「………」

 

暴れるが全く振り解ける気配がない。

 

「く苦しいよ!」

 

「……トリトン。あいつね私こと大人の目で見てくるの…」

 

「えっ?」

 

「ーー気持ち悪い」

 

「お…姉ちゃん…?」

 

初めてだった。

あの優しい姉が、誰かの事を悪く言っている所を見るのは。

ましてやその相手が集とマナの弟であるはずの少年だ。

 

マナが集から身体を離し、微笑む。

 

「だけどシュウは良いのよ?大人の目で見てくれて…」

 

雷鳴が轟く、その直前の閃光が薄暗い室内に過剰なまでの光を入れた。

マナの髪に隠されていた物が一瞬見えた。

フジツボか何かの様に、マナに寄生でもするかの様に不気味な紫色を反射する宝石にも似た結晶。

 

 

 

 

 

ーー愛してるわシュウ。ーー

 

 

 

 

 

混乱した。

なぜウイルスのキャンサーがマナの体に発症しているのか。

まだロストクリスマスは起きていない。

それなのになぜマナが感染して居るのか、訳が分からない。

 

「……まさか…」

 

ふとひとつの可能性が集の頭の中に浮かんだ。

認めたくない。だが、もうこれしか考えられない。

 

「姉さんが…アポカリプトウイルスの第一感染者…」

 

涯が言っていた“はじまりの石”と接触し感染したという少女。

それがマナなのだとすれば、つじつまが合う。

合ってしまう。

 

「そんな、…嘘だ…」

 

だとすればあのパンデミックの原因はーー、

 

「ぐあっ!!」

 

瞬間、頭を焼く様な激痛が走った。

視界が…いや最早、眼の中と表現した方が良いかも知れない。

様々な場面を無理矢理頭の中に詰め込まれた気分だ。

 

一場面が過ぎ去るごとに、自分の記憶にしっかり組み込まれている。

夏が過ぎ、秋が過ぎ、そしてついに冬が訪れた。

 

 

そして突然、ひとつの場面に集は放り込まれた。

 

教会だ。

 

何処のかは分からない。少なくとも大島の教会ではない事は分かった。

真横には巨大なクリスマスツリーが鎮座している。

 

 

そして集の目の前に、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「ーーなっ」

 

絶句した。

トリトンはうつ伏せで倒れたまま、ピクリとも動かない。

そして地面に倒れ伏したトリトンを、真名は冷たい眼で見下ろしていた。

 

その眼から優しい姉の面影など、もうどこにも感じなかった。

真名は何かを言っているが、何も聞こえない。

 

 

 

唐突に景色が暗点した。

電源でも落としたかの様に、集は突然真っ暗な空間に放り出された。

 

そして、その暗闇は音を立てて割れた。

 

「うわっ!?」

 

その途端、集の身体は思い出したかの様に重力に引かれて落下する。

咄嗟に身体を捻り体勢を整え、着地した。

 

「ここは…?」

 

見た事がない様な空間にいた。目の前には巨大なガラスの階段、周囲には血の池に満たされ、不気味な紫色の結晶が柱を形成している。その孤島に集は立っていた。

 

「っ!!ーーいのり!!」

 

巨大な階段の中途にいのりが立っていた。

いや、立っていたという表現は間違いだ。いのりの身体は結晶の枝に絡みつかれ、宙に浮いていた。

まるで花嫁のように床まで届く白いヴェールを頭に被り、項垂れている。気を失っているのだ。

 

いのりの両脇に二人の人影が立っていた。

 

一人は髭を整えた男性。雑誌やテレビで見た事があった。

茎道修一郎。

そしてもう一人は、突然現れいのりを拉致したあの少年だった。

 

「無茶をする……。

桜満集に何かあったら、あなたも困るでしょうに…」

 

少年が話し掛けているのは自分にではなかった。

 

「立てるか?集…」

 

「……涯?」

 

集が振り返ると、目の前に涯が手を差し伸べていた。

何か考える前に集の手は涯の手を取る。

 

涯は集を立たせ、いつものように自信に満ちた笑みを浮かべて言った。

 

「来い。いのりを助けるぞ!」

 

 

 

 

 

 

 




今朝テレビ点けたらルーベンさん映っててビビったw
(*3、4、5ダンテの中の人)


令和はじめてのウルトラマン始まりましたね。
前回のルーブは訳あってリアルタイムで見れなかったので、今回のタイガはちゃんと追えるといいなぁ…

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