ギルティクラウン~The Devil's Hearts~   作:すぱーだ

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初投稿です。







#40-①共鳴〜resonance〜

ーーーーーーーーー

 

ダン・イーグルマンは突然の出来事に頭の整理が追いつかなかった。

仲間たちは絶叫しながら、次々に歪な像へ変わって行く。

当然それはダンも例外ではない。

 

「ぐう、なんだこれは!」

 

ダン同様ヤン少将も秘書と抱き合いながら、周りの状況に困惑の表情を浮かべている。

その時、金属が軋む異音と共に窓ガラスが激しくゆがんだ。

 

音のする方へ振り返ると、一機のゴーチェが中を覗き込むかの様にこちらを見ていた。

誰が乗っているのかと考える間も無く、ゴーチェはダン達に銃弾を浴びせる。

 

ダンの悲鳴はその轟音に掻き消される。

 

銃弾の雨は生き残っていた兵士達を次々に葬っていく。

ダンに直接弾丸が触れることは無かったが、肩の近くを通過した衝撃波が容易に皮膚と肉を裂いた。

 

「ぐぁあっ!」

 

ナイフで切られた様にパックリ切れた傷を抑えて、ダンは床に崩れ落ちる。

 

「テ、テロリストか?要求はなんだ!」

 

離れたところで同じく銃弾から生き延びたヤン少将が声を上げる。

その声に反応したゴーチェは1枚のプレートを少将の目の前に突き付けた。

 

『僕の機体番号…この番号に見覚えはないか?』

 

「は?」

 

突然の問いに少将は眉をひそめる。

パイロットの声が息子であるダリルだとすら気付いていない。

 

『”機体番号823“僕の誕生日と同じだ……

分からないのか?本当に?』

 

ダリルの声は震え、抑え込んでいた怒りが爆発した。

 

『汚らわしいんだよあんた達はああああ!!』

 

クロスファイアを発して、バリバリと銃口の内側が剥がれ落ちるのではないか思う程、派手な音を立てて銃弾を浴びせた。

少将は隣で寄り添っていた秘書と、区別ができない程細かい肉塊に変わる。

悲鳴を上げる間など無く骨と肉を同時に砕かれ、管制塔に四散した。

 

『ひとつになりたかったんだろ?望み通りにしてやったよ…』

 

ダリルは息を切らして見分けがつかなくなった二人分の遺体を見ながら、吐き捨てる様に言うと、ダリルは無意識にコックピットで次々に流れ出る妙に塩辛い雫を拭い取った。

 それが何の雫かダリルは考えようともしなかった。

 

 

管制塔の扉が開き、兵士を引き連れた茎道が現れた。

兵士に両脇を捕まえられた春夏も一緒だ。

 

「これは……なんて事を…」

 

春夏は吐き気を抑えるために、手で口を抑え背中を丸めた。

嘘界は四散した少将と秘書の死体に興奮を隠そうともせず、携帯からシャッターを切り始める。

茎道も一切の動揺を見せず、マイクに手を伸ばした。

 

「私は特殊ウイルス災害対策局長、茎道修一郎だ。

テロリストの攻撃により、ヤン少将が戦死した。軍規に則り、臨場している最先任士官である私が全指揮を取る」

 

春夏は茎道の言葉に奥歯を噛む。

 

「卑劣にもテロリストは東京全域に大規模なウイルステロを仕掛けて来た。全軍はアンチボディズの指揮下に入れ。

これは第一級非常事態である」

 

ゴッと後頭部に拳銃を突き付けられた。

春夏はヒュッと息が詰まる感覚を感じた。

 

「貴女にも手伝っていただきますよ。桜満博士」

 

嘘界が銃口を突き付けながら、そう言った。

薄ら気味の悪い笑みを浮かべていた嘘界は、

 

「うおおおおおお!!」

 

突然の雄叫びと共に突進した巨体に吹き飛ばされた。

ダン・イーグルマンだ。

春夏は弾かれる様に動くとタブレット端末を持ち、管制塔から逃げ出した。

 

「無抵抗な女に銃を向けるとは見損なったぞ、スカーフェイスっ!!」

 

ダンは半身をキャンサーに覆われながら、嘘界に馬乗りで拳を浴びせる。しかし嘘界は顔面を打ち付けられながら、薄ら笑いをやめなかった。

 

「今さらですねえ。私は最初から貴方を見損なってましたよ」

 

まるであくびでもする様な口調で言いながら、ダンの腹部に銃口を押し当てた。

 

銃弾の炸裂音が背後から聞こえても、春夏は振り返らなかった。

 

「行かせても良かったのですか?」

 

「どうせ何も出来んさ」

 

地面に伏し、電極を刺したカエルの様にヒクヒクと痙攣するダンの頭に嘘界は銃弾をぶち込んだ。

 

「肉親の情…て所ですかな?」

 

「……移動するぞ」

 

茎道は背を向け、管制塔から立ち去る。周りの兵士もその後に続く。

 

「おっと」

 

嘘界もその後を続こうとし、思い出したかの様に踵を返すとダンの死体のそばにしゃがみ込んだ。

 

「あなたへの記念に」

 

携帯でダンの弾けた頭部を撮ると管制塔から去って行った。

 

 

 

**************

 

 

 

「どうしたんだよ集。

休んでたかと思ったら急に呼び出すなんてよ」

 

「防疫警報が出てるの知ってるよね」

 

「………」

 

颯太と花音が問いを投げるが、集は即答出来ない。

訝しげな目で亜里沙、心配そうに事の成り行きを見守っている祭。

 

「みんなごめん…大変な時だっていうのは分かってる。

だけど、僕はどうしても羽田に行きたいんだ」

 

「はぁ!?おい頭おかしくなったか!羽田って言ったら、葬儀社がテロ中の超危険地帯だろ!」

 

「桜満くんどういう事?」

 

「羽田に助けたい人がいるんだ。

それにみんな誤解してるよ葬儀社はウイルステロなんか、絶対やらない!!」

 

 

『 あっったり前でしょ !!』

 

 

突然のシャウトに全員同時に部室の出入り口に振り返る。

そこには卵の様な物体を抱えた谷尋が立っていた。

 

「谷尋?」

 

「谷尋くん!?」

 

集は目を見開いて谷尋を見る。祭や花音は驚きと戸惑いの声を上げた。

谷尋の服装は集と最後に会った時と変わっていなかった。

あちこち破れ、ほつれ、汚れていた。後ろから見ただけだったら、彼だと気付かない程、風体が変わっていた。

追われる要因である弟を失ったあの後も、ずっと同じ生活を続けていた事は容易に想像出来た。

 

「ーーっ」

 

集の胸に痛みと途方も無い悲しみが押し寄せて来た。

 

ふと、足元に触れる物があった。

 

「“ふゅ〜ねる”?」

 

足を触れたのは、見知った物だった。

卵型の胴体から4本の脚。その内の殆どが壊れ、千切れかけている。

 

瞬間、ーー

 

『集のバカちんっ!!』

 

「ぶげっ!!?」

 

怒声と共に“ふゅ〜ねる” が跳ね上がり、集の顎にクリーンヒットした。集は受け身も取れず地面に仰向けに倒れる。

 

「その声…つぐみ?」

 

ふゅ〜ねる は倒れた集に乗り掛かり、胸ぐら掴んで揺する。

 

『なんで来なかったの!

あんたが来なかったせいで…みんなが、みんなが!

涯とも連絡取れないし、四分儀と研二は復活したアンチボディズに捕まっちゃうし。

このパンデミックもあたし達のせいになるし…』

“ふゅ〜ねる ”を通して、ツグミの嗚咽が聞こえる。

 

「ツグミ…」

 

「校門の前をヨロヨロ走り回っててな、

見てられなくなったから連れて来たんだ」

 

「谷尋…」

 

「……また他人を道具にするつもりなのか?

集っ」

 

「なんだよ道具って」

 

「さあな、集なら教えてくれるんじゃあないか?

なあ、集さんよぉ」

 

颯太の問いに谷尋は皮肉を込めて返す。

出来るものならやってみろ。そんな態度だった。

 

「……祭っ」

 

「うん」

 

集は祭の目の前に立ち、彼女と目線を交らせる。

 

「これから君に少し怖い事をする。でも、僕を信じてほしい」

 

「大丈夫。ずっと前から信じてるよ」

 

集は祭の言葉を受け、集は祭の胸へ右手を伸ばす。

途端に激しい動悸におそわれた。息がつまる吐き気と叫び出したくなる程の強い恐怖感に苛まれ、集は倒れそうになった。

 

「ーー大丈夫。集なら助けられるよ」

 

ハッと顔を上げた。

 

「私を見て。

信じて…私が集を信じてるのと同じくらい」

 

「……ーーっ」

 

集は一度深く息を吸い、はいた。

そして真っ直ぐに祭の目を見る。祭も真っ直ぐに集を見つめ返した。

右手が光を発しながら、祭の体内に沈み込む。

 

「んっ」

 

祭の口から声が漏れた。それでも祭は集に身を委ている。

 

集の動悸が激しくなる。

今すぐ手を引っ込めたい衝動が襲うが、祭がたえているのに自分が逃げる訳には行かなかった。

 

周りのみんなが息を呑んでいるのが伝わる。

谷尋以外の全員が驚愕し、身を乗り出してこの信じがたい現象を見守っていた。

 

「ーーっ!」

 

遂に集は祭から何かを掴み出した。

 

掴み出された物体は、銀色の光を放ちながらその形を現していった。

長く平べったい形状をし、ふわふわと柔らかく集の右腕の周りを漂っていた。

 

「包帯…?」

 

集の代わりに花音が呟いた。

 

気を失った祭を支えながら、

集は“ふゅ〜ねる”へ《包帯》を放った。

 

包帯はゆらゆら揺れながら、スルスルと滑る様に“ふゅ〜ねる”を包み込む。

一瞬柔らかい光に包まれ《包帯》が離れると、

今にも分解しそうだった“ふゅ〜ねる”が、壊れた脚どころか細かい傷まできれいに治り新品の様な姿になって嬉しそうに走り回る。

 

「治った!?」

 

颯太が大声で叫ぶ。

他も声こそ出さなかったが、概ね颯太と同じ反応をしていた。

 

「これはヴォイドって言うんだ。

僕の右手には他人の心を読み取って、道具や武器に変える力がある」

 

「心を読み取る?」

 

「トラウマ、コンプレックス、趣味や夢。

そういったものを読み取って、その人に一番合った形を取り出してそれぞれに特別な力があるんだ」

 

集は治す能力を持った《包帯》のヴォイドを祭に戻す。

祭は小さく声を漏らすとふっと目を開けた。

 

「ん…集?」

 

「ありがとう。祭らしい優しいヴォイドだったよ」

 

集の言葉に祭は嬉しそうに微笑んだ。

祭が立つと集も立ち上がり、改めてみんなと向かい合った。

 

「忘れてるとは思うけど、颯太と谷尋それに供奉院さんからも出した事あるよ。

勝手に心を覗き見する様なことしてごめんなさい」

 

「へ!?」

 

「わたくしからも?」

 

頭を下げる集にどう返せばいいのか分からず、颯太と亜里沙は戸惑った。

 

「僕はこの力で涯やいのり達に協力してたんだ」

 

「え!?」

 

「ちょっと待て!なんでここでいのりさんの名前がーー」

 

「なんでもなにも…、そういう事だ颯太」

 

「ーー僕といのりは葬儀社のメンバーだ」

 

「なっーー!」

 

集の言葉に颯太は絶句した。

 

「僕はいのりとルシア…涯達みんなを助けたい。

でも僕一人の力じゃ無理だ。みんなの力を借りたい!」

 

「ルシアちゃんまで…?」

 

「………」

 

「……そこにツグミさんがいるって事は、綾瀬さんもなんだね?」

 

『…うん』

 

「…そっか…」

 

あまりの事に全員口を閉じ、沈黙が流れる。

 

「…涯は人が実験動物同然に扱われる今の状況を変えたかったんだ。みんなが思ってる様なテロリストじゃない。

谷尋は知ってるでしょ?」

 

「…………」

 

谷尋は舌打ちして目を伏せる。

 

「なにがありましたの?」

 

「谷尋の弟は発症してたんだ。それで兵士に殺されそうになって…」

 

「そしてお前に殺された」

 

「ーーっ!!」

 

「違うわ!弟さんを殺したのは軍のロボットだよ!

集は谷尋君と弟さんを庇いながら、必死に戦ってた!嘘だと思うなら録画だってあるわ!」

 

祭は叫ぶ様に谷尋の言葉を否定する。

 

「こいつは”守る“と言ったんだ!

だが弟は死んだ。こいつが殺したも同然だ!」

 

「その理屈で言うなら、貴方が弟さんを殺したという事にならない?」

 

「…なんだと?」

 

谷尋は亜里沙を睨み付けた。

 

「だってそうでしょう?話を聞く限り、彼は親切心で貴方達兄弟を助ける事に名乗り出た…。

でも、一番弟さんを救う責任を負うべきなのは誰?

貴方なのではなくて?」

 

「てめえ…!」

 

まさに一触即発の空気だった。

颯太と花音は初めて見る谷尋の激昂を固唾を飲んで見守っている。

その緊張を断ったのは集だった。

 

「…谷尋、あの日の事を全部話してもいい。

…でも今はダメだ…。僕はみんなを助けに行かなきゃいけない」

 

谷尋は集を睨み付ける。

しかしすぐため息をつくと柱にもたれかかる。

 

「……いいさ…」

 

「…ありがとう」

 

集の感謝の言葉を受ける気が無いと言う様に、

谷尋は再び目を伏せる。

 

『あ〜一応纏まったところで、私が話していい?』

 

ツグミの声の“ふゅ〜ねる”が足を上げる。

集が頷くとありがとさんと軽く返す。

 

『そもそもアポカリプスウイルスは人間にしか感染しない。

日本は他の大国が薬を作るための実験場なの。

貴方達が普段摂取してるワクチンはデータを取るために投与されてるに過ぎないわ』

 

「でもそのおかげで俺達はこうして発症せずに済んでるんだろ?」

 

『話は最後まで聞けバカ。

そんな中で私達は対抗手段を見つけた。

それがいのりんよ。

どういうわけかいのりんの声には特定波長のメロディでウイルスの活性化を抑える効果があるって分かったの。

それが《EGOIST》。

だから私達は歌の配信をし続けたの』

 

「あの歌にそんな意味が……」

 

集は初めて聞かされる事実に胸を締め付けられる思いになった。

自分達は知らず知らずの内にいのりに守られていたのだ。

 

『これを見て』

 

"ふゅ〜ねる“の眼からホログラム映像が映し出される。

人々のキャンサーが一気に広がり、倒れ砕ける姿に全員恐怖を覚える。

 

『連中はあたし達の仕業にしてるけど、冗談じゃないわ。

長年のクソッタレな研究の成果。

バイオウェポンよ。

あの歌もどきを止められるのは、集…あなただけよ。

んっで、その集が力を借りたって言ってるのよ』

 

ホログラムを閉じるとキッと全員に目を向ける。

 

「お願いだみんな力を貸して」

 

「……私は行くわ。もう決めてたもの」

 

最初に踏み出したのは祭だ。

 

「俺も行くぞ!俺だっていのりさん助けたいし」

 

颯太。

 

「わたくしもご一緒させていただくわ。生徒会長としてこの学校を守る為ですもの」

 

微笑みながら優雅に踏み出す亜里沙。

 

「……」

 

パンっと派手な音を立てて谷尋は集の背中を叩く。

 

「 いぎっ !!」

 

突然の激痛に涙目になりながら谷尋を見る。

 

「谷…谷尋?」

 

「とりあえずこれでチャラだ。俺だって誰が本当の敵かくらい分かる」

「……!」

 

谷尋は前と同じ様に集に笑いかける。

全て忘れるという意味では無いことは分かる。それでも集には嬉しかった。

 

「ありがとう…」

 

「ふん」

 

そして最後の一人。

完全に出遅れた花音に全員の視線が刺さる。

 

「あーもー、話半分も分からないし、怖いし。

〜〜でも行く!私も行く!」

 

涙目になりながら花音は必死に手を上げた。

 

 

 

 

最も若く幼い英雄は、ーー

 

「よし、行こう!」

 

ーーこうして最初の一歩を踏み出した。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

集「しまった…大事なこと忘れてた」

 

ツグミ『なに?』

 

集「悪魔の事…」

 

ツグミ『あー…』

 

亜里沙「どうかなさいましたの?」

 

集「いえ、連中が生物兵器って名目で使ってる物なんですけど…」

 

亜里沙「生物兵器?ウイルスの事では無くて?」

 

集「いや、もっとでかくて怪物っぽい」

 

祭「怪物って…あの氷みたいな?」

 

集「うん、あれもそのひとつ」

 

颯太「なんだよ。勿体ぶらずさっさと言えよ」

 

集「いや、多分見た方が早いと思うよ?」

 

花音「…なんだろうロクな事にならない気がする…」

 

谷尋「………」

 

 

 

 




今回から分割でやってみます。
次は出来るだけ早めに上げます。

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