ギルティクラウン~The Devil's Hearts~   作:すぱーだ

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お待たせしました。

今回が一番大変だった気がする。







…というか、



新作DMC5キターーーー(*≧∀≦*)/ーーーー

今年一番ニュースでしたよ!ホント!

もしかして、5の内容如何で内容変える必要出てくる?
そこまで擦り寄る必要ないか…?







#39誓言〜TheDesire Declaration〜

なぜ父は自分の誕生日の日に急用が出来るのだろう。

父は立派な人だ。そこらの人では父の前では頭が上がらない。それだけでなくとも彼は忙しい毎日を送っているのだ。

 

そう、だから仕方ない。ーーー

 

そうやって必死に自分を抑えて居たのに。

 

「薄汚いバイキンが……」

 

見てしまった。

あの女と一緒にいるところをーー。そこまではいい、彼女と父は仕事柄一緒に働いている事が多い。

 

しかし、さっきは様子が違った。

明らかに仕事としてでは無く、男女の距離感だった。

何より、自分を見る父の目は棚に溜まった埃を見る様な邪魔者を見る目だった。

 

それで理解した。

父には自分に対する愛情などカケラも残ってないのだと。

なら、いい。

それならやるべき行動は決まっている。

 

「……浄化してやる…」

 

ダリルは自分でも気付かないうちに、僅かに涙を流しながら口元に深い笑みを浮かべていた。

 

******************

 

 

「はぁ…」

 

シャワー室から出た いのり は、まだ湯気の立つ身体をタオルで拭う。

もうすぐ『はじまりの石』奪還作戦が開始される。結果がどうであれ、あらゆるものが大きく変わるだろう。

 

任務が失敗し石が完全に敵の手に落ちれば、この国もここで暮らす人々も未来は無い。

集もハレも部活の仲間も全員、死に絶える。

 

机の上に立て掛けているディスプレイには、大島でみんなと撮った写真が表示されていた。

 

「私が守る…シュウも、

彼が守ろうとした人も…みんなーー」

 

いつもと違う白い衣装を身に纏った いのり は、白いリボンで桃色の髪を2つに束ねる。

夏祭りの日に集がくれたリボンだ。

 

いのり にとってそれが集との絆を表すものだ。

少女は髪に結ばれたそれを優しく撫でる。

 

おそらく彼の事を想って居られる時間もこれで最後だ。

集がもう戦わなくてもいい世界に、笑って生きていける世界に変えてみせる。

この命にかえても成し遂げて見せる。

 

不意にドアをノックする音が聞こえた。

時間だーーー

 

 

******************

 

「ーーダン…テ…?」

 

ありえない、今この国にこの場所に彼がいるなど。なぜよりによってこの時に来てしまっているのか。

 

「なんだ、久々の再会が嬉しくねぇのか?」

 

「えっ、あ…」

 

本気で幻覚を疑いたくなるような、あまりにも唐突な再会。

ダンテの後ろには腕を組むトリッシュの姿もある。

会いたかった、だが今一番会いたく無かった人物が突然目の前に現れ、集の口から言葉が出ない。

ダンテと目を合わせる事が出来ず、自然と目が伏せる。

 

「元気そう…じゃあねぇな…ーー」

 

そんな集からなにかを感じたのか、ダンテの目がスッと細まる。

 

「あっーー」

 

「なにがあった」

 

「ーー僕は……

ついさっきまで“ 葬儀社 ”だったんだ……。

でも、みんなが思ってるようなテロリストなんかじゃない」

 

「………」

 

「みんなが…あそこにいる多くの人は

平和に生きて行きたい、ただそれだけを願っているんだ」

 

そこで涯と出会った。

綾瀬と出会った。

ルシアとツグミにアルゴにーー

 

そして彼女と出会った。

 

「大切な人達が…たくさん増えた」

 

無意識のうちに爪が皮膚に食い込む程、強く拳を握り締める。

 

「ーーその人達を守れる力も手に入れた…なのに!!

結局はたった一人の人間も救えなかった!

前とは違うって思ってたけど、結局は何もーー1歩も前に進めてなかった!!」

 

最初からヴォイドも悪魔の力も手にすべきでは無かった。涯の様な明確な目標が見えている訳でも無い。ただ誰かの見ていたものと同じものを見ようと息巻いていただけの、身の程知らず。

それこそが桜満 集という人間の姿だ。

 

「僕は……ダンテみたいに……」

 

気付けば視界が滲み、涙が流れ出ていた。

それ以上、言葉が出ない。

 

「……」

 

「…お前に何が起こったか、よく分かった…」

 

ダンテがため息まじりにそう言った。

 

「お前はもう下がってろ。生き残ることだけを考えな」

 

あぁ分かってる。ダンテが無力で小さな子供を鍛えていたのは、戦うためでは無く、生き残るためのものだ。

 

「ーーお前はよくやった」

 

労いの言葉。だが別の意味がある。

 

“ 戦力外 ” もう戦場に関わるなと、そう言っている。

その証拠にダンテは既に立ち尽くす集から背を向け、

立ち去ろうとしている。

奮い立たせる事も、慰める事も無い。

ただ労うだけ。

 

今まで戦ってきた事への賛辞。だがそれだけだ。

 

勝手に火に飛び込んで、勝手に死ぬなと告げている。

ダンテがみせる不器用な優しさだ。

 

(分かってる…)

 

すでに彼の目立つ赤いコートすらも、視界に捉えるのも難しくなっている。

 

(…分かってるさ……)

 

彼は集に死んでほしく無い。

集にも彼が戦いから引き離そうとしている事くらい、勘付いていた。

 

(だけど…だけどさ……)

 

でもだからこそ、認めさせたかった。

一人前の戦士として成長した所を見せたかった。

 

“ ーーお前に任せるぞ ーー ”

 

失望して欲しかった。

『お前を信じていたのに』とそう言って欲しかった。

そうであれば少なくとも、

あの言葉がただの言葉では無いことが証明された。

 

叱って欲しかった。

まだ家族も知らなかったあの頃の様にーー。

 

集は金網を背に蹲るように膝を抱えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

背後から物音がした。

 

「?」

 

金網越しに背後の廃墟に目を凝らした。

子供だ。

まだ幼い少年だ。

 

まだ距離があったが、その子供と目が合ったのが分かった。

 

「あっ」

 

慌てて涙と鼻水で汚れた自分の顔を、袖で拭く。

 

「おにいちゃん!」

 

「え?」

 

「この前、こわい人から

ぼくとママとパパを

助けてくれたおにいちゃんでしょ!?」

 

言われて気付いた。

最初にいのりや涯や葬儀社のメンバーと遭遇した時、

ダリル・ヤンに殺されそうになっていた子供だ。

 

ダリルが引き金を引く瞬間に飛び出し、代わりに自分が撃たれたのだ。

 

「あぁ…君か!」

 

ようやく記憶と合致し、子供の顔をまじまじと見つめる。

 

「うん!」

 

「パパとママは元気?」

 

「元気だよ。パパとママもおにいちゃん達にお礼いってた」

 

「そっか、よかった」

 

「…ねぇ、どうしておにいちゃんは一人でいるの?」

 

「え…どうしてって」

 

「おにいちゃんも “ そうぎしゃ ”なんでしょ?

パパがいってたもん」

 

「っ!!…それは…」

 

ここに来て自分を振り返れと言われた気分だ。

この子は自分をヒーローだと思っている。

数日前の自分なら、胸を張っていたのだろう。

 

「僕は…やめたんだ。

もう彼らの仲間じゃない」

 

「え、なんで?ケンカしたの?」

 

「僕が…絶対にしちゃいけない失敗をしたんだ。

そのせいで沢山の人が傷ついた。

…傷付けてしまった」

 

「………」

 

「ひどい奴なんだよ僕は。

何も出来ないくせに出しゃばって、

そのくせ大切な人の大切な人を守れないで」

 

 

『どこにも、行かないでね』

 

 

ずっと一緒にいる。

それすらも出来なかった。

 

「弱虫でかっこ悪い。

ーー自分にとって大切な約束も守れなかった。

憧れた人になりたい、それだけを考えて生きて来たんだ」

 

幼い子供に話しても分かるはずのない独白。

それでも集は止められなかった。

 

理解し妥協してそれでも手を伸ばさずには居られなかった。

 

「でも、無理だった。

僕なんかが、ダンテの代わりになる訳がない。

分かってた筈なのに…」

 

金網越しの子供に懺悔をする様に項垂れる。

枯れたと思っていた涙が再び溢れ出る。

みっともないと僅かに残った羞恥心が頭をもたげるが、

それでも頭を上げる事が出来ない。

 

零れ落ちた涙が地面に落ちる。

 

情けない、恥ずかしい、くやしい、くやしい。

こんなに恥ずかしくてくやしいのに、何も出来ない。

 

 

 

「ーーぃちゃん。おにいちゃん!」

 

子供の声にようやく気付き、顔を上げる。

 

「あのね。これ、あげる」

 

「え?」

 

子供が金網の穴から、丸められた紙を集に差し出した。

集はその紙を広げてみる。目の前の子供が描いた物であろう絵が描かれていた。

 

クレヨンで描かれたそれは、

数人の人と太陽などで彩られていた。

 

「ボクとパパとママとおにいちゃん」

 

それぞれ指で差しそう言う。

優しくしてくれたオネエちゃんと言い。

髪を2つに束ね、ピンクに塗られた人を指し示した。

いのり の絵だとすぐに分かった。

 

「ボクはおにいちゃんみたいになりたい!」

 

「えっ」

 

「ーー助けてくれて、ありがとう!」

 

集はしばらく呆然と子供の顔を見つめる。

 

「僕みたいに?」

 

子供は頷く。

 

「なんで…こんなに情けない所を見せたのに。

君に泣き付いたりなんかして」

 

「だれがなんて言っても、

ぼくを助けてくれたのはおにいちゃんだよ!

それにママ言ってたもん。

何かをしんけんにやろうとして流したナミダはカッコいいだよ。

だからぜんぜん恥ずかしくないんだって!」

 

「ーーっ!」

 

「だからぜんぜんカッコ悪くない!

だって、おにいちゃんはぼくのヒーローなんだから!」

 

「………」

 

再び絵に目を落とす。

今まで自分が助けた人間の事を考えたことがあるだろうか。

 

助けられなかった人達の事は片時も忘れた事は無かった。

 

だが助ける事が出来た人間は?

その先の幸せを願う事くらいはしたかも知れない。

しかし、思い返す事はほとんど無かった。

 

「ーーあぁ…。そうだよな…」

 

目の前のこの子に対しても、家族と共に葬儀社に保護された後どうしていただろうか。

 

「ヒーロー…そうだな、ヒーロー」

 

この子に限らず、自分をどんな目で見ているか考えてもみなかった。

 

集が立ち上がる。

消えたと思っていた闘志が燻り始めた。

 

「じゃあ、君をガッカリさせる訳にはいかないよね」

 

「おにいちゃん?」

 

「ごめん、行かないと。

パパとママによろしく。

それと、これも貰っていいかな?」

 

「うん!」

 

「ありがとう」

 

集は駆け出す。

 

(まだ、遠くには行ってないはず)

 

とにかく追い付こうと必死に走った。

全力で数十秒間走り続けて、

ようやく彼等の姿が見えた。

 

「 ダンテ ぇ ! !」

 

二人の背後に向けて叫ぶ。

二人は立ち止り集に振り返る。

 

集は走るのをやめ、ゆっくりダンテに歩み寄る。

 

「……ごめん、僕はまだ諦められない!

僕が守った人達のためにも。

これから守らなきゃいけない人達ためにも。

僕の幸せを願ってる人達のためにも。

まだ、やめる訳にはいかないんだ!!」

 

「………」

 

「失ったものばかり考えていた。

救うべきものを失ったものに重ねて、また同じ事になったらどうしようとばかり考えていた。

“ ダンテだったらもっと ”って自分をおさえつけて。

それで強くなれる気でいたんだ」

 

それでしか強くなる術を知らなかった。

そうでならないと強くなれないと思っていた。

 

「それが間違っていたとは今でも思わない。

でも、どんなにそれを重ねても僕はダンテにはなれない。

『桜満集』は『桜満集』にしかなれない!」

 

だからーー、

 

 

ゼーゼーと切らしていた息を深く吸い込むと、

指を力強くダンテに指し叫ぶ。

 

「だから、僕はあんたに憧れるのをやめる!!

あんたよりもっと強くなる!!悪魔を超える!!魔界を隙間も残さず永遠に封じる!!」

 

「 ーーみんなの力で、

僕を甘く見たあんたを超えてみせる!! 」

 

「ーーーーっ」

 

ダンテは黙って集の言葉に耳を傾けていた。

 

「はーっはーっ」

 

しばらく沈黙だけが流れる。

正確に言えば、集の息切れだけが延々と垂れ流されていた。

 

 

 

「くく……ぶはははははは!!」

 

突如その沈黙を大きな笑い声が破った。

 

「 “俺を超える ”の前の一言が余計だっての」

 

笑いながら片手を頭に押し当て、

やれやれといった感じで首を振る。

 

「しょ…しょうがないだろ。

僕が何年修行したって、ダンテに追い付ける訳がないんだから…」

 

集は顔を赤くして、大声で笑うダンテから気まずげに顔をそらす。

「ハイハイ。

それで ” みんなの力で “ねーー」

 

「あぁ…守るんじゃない。

仲間と一緒に守って戦うんだ」

 

「はっーー。

で、そう決めて次はどうする?」

 

「…みんなを助ける。

いのり や 涯達をーー」

 

集の言葉を聞き、ダンテはニッと楽しそうに笑う。

 

「ジャックポットだ。

いいんじゃないか?お前らしくて。

見せてみな。

俺を超える男になるってならな」

 

「ああ見せてやる。

それで今度こそ胸を張って言ってやるーー」

 

集もダンテと同じ様に笑いながら、

こぶしをダンテに向け誓った。

 

 

 

 

「 “ 桜満 集は、ーー

 

最強のデビルハンターの一番弟子だ ”って !」

 

 

 

 

ーーどんなに間違っても、

もう諦めないと。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

「行ったわね」

 

「あぁ…」

 

「随分と成長したんじゃない?」

 

「あぁ…」

 

「予想以上だったんじゃない?」

 

「まあな…」

 

「ちょっと、ちゃんと会話する気あるの?」

 

素っ気ない返事ばかり返すダンテに業を煮やし、

トリッシュはダンテを睨み付ける。

 

「あ〜〜〜っ、そう怒んなよ」

 

「全くシュウが絡むと何時もこうよね。あんた」

 

「いいから俺たちも行くぞ」

 

「仕事の時間ね。いいわ暴れたくてウズウズしてたし」

 

トリッシュは髪をかきあげ、妖艶に微笑む。

「…さっさと来いよ。

じゃねぇと見せ場、全部くっちまうぞ」

 

集が去って行った方を見ながら、

ダンテは笑みを浮かべた。

 

 

 

*************

 

「茎道局長。いったいどういう事ですか!」

 

空港の休憩所から飛行場を見つめていた茎道に、春夏が詰め寄る。

「私からのメッセージを受け取ったか?」

 

「ええ、受け取ったわ。どういう事なの?

『はじまりの石』を盗み出したって!

しかもその石をヤン少将に譲渡するなんて!!」

 

「本当は私の手で盗み出す気でいたんだがな。

アリウス殿が用意した『生物兵器』の能力を見てみたかったのでね」

 

『生物兵器』の話は春夏も存在だけ知っていた。

ウイルスの類ではなく獰猛な姿をした恐ろしい怪物だという、にわかに信じがたい話も聞いている。

しかし、春夏には茎道が胸ポケットから取り出した物の方に目を奪われた。

「それは、あの人のーー」

 

「そう、玄周のIDだよ。

もっとも私には必要なかったがね」

 

「なぜあなたがそれを…!」

 

「大島で懐かしい顔を見たよ。

大きくなったものだな」

 

「っ!集を巻き込まないで!!」

 

「もう遅い。あの子供は王の力を継承した」

 

「えっ?」

春夏は茎道の言葉に愕然とした。

 

「楪 いのり。

あの顔、あの姿の少女が近くにいる事が偶然だと思うか?」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

いつもは多くの人で賑わっている空港は、ただならぬ緊張と静寂に包まれている。

空港にいる人間も兵士や軍関係者しかいない。

涯達にとっても空港を閉鎖してくれたのはありがたかった。

一般人や空港職員を巻き込む心配する必要が無いのは、喜ばしい環境だ。

「コマンダーより全ユニットへ、目標の輸送機が離陸するまであと三十分だ。それまでに俺たちが機体を奪取する」

 

涯は全メンバーへ通信する。

いのり はそれを横で聞きながら、足を進めていた。

ふと、左手を柔らかな温かさが包んだ。

 

「いのり…顔色悪い」

 

ルシアがいのりの顔を覗き込む。

「大丈夫。

それより本当によかったの?

シュウと一緒に行かなくて…」

 

ルシアはふるふると首を横に振る。

 

「…いのり が1人になっちゃう」

 

「それに、シュウが安心するには、

いのりが無事じゃなきゃダメ」

 

「……ありがとう」

 

いのりはルシアの手を握る。

 

入り組んだ迷路のような入り組み、壁や天井や床にも血管の様に配電線が走っている下水や施設地下を監視カメラを警戒しながら壁に沿って進む。

 

警備の人間はそう多くない。

目を掻い潜るのは難しくなかった。

 

地上へ出ると一気に機体へ近付く。

運悪く顔を出した兵士をアルゴがナイフを投擲し黙らせる。

 

機体の貨物室は空いている。

中央には厳重に閉ざされた箱が積んである。

(この中に『はじまりの石』が…。

だが、なんだ…簡単過ぎる)

 

しかしもう後には引けない。

涯はアルゴと大雲にコックピットを制圧するよう指示する。

 

ところが扉を爆破してすぐに二人が戻って来た。

 

「ダメだ。コックピットは無人だ!」

 

その言葉が聞こえると同時に、

貨物室の天井に備え付けられたモニターが、

激しいザッピングを始めた。

元からある物では無く、後から付けられた物だろう。

 

『おめでとう恙神涯。ここが天国だ』

 

英語でそんな文字が浮かび上がると同時に。

貨物室の扉がひとりでに閉じた。

機体が激しい振動と共に動き出す。

 

「罠か!」

 

機体は海に向けて動き始める。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

『例の輸送機の準備はどうだね?』

 

『はっ!

スカーフェイスの指示のもと準備は完了!

いつでも飛び立てます!』

 

そんなヤン少将とダン・イーグルマン大佐の会話が聞こえて来る。

 

(役者は揃いましたね)

 

「カメラのチャンネルをG7に」

 

嘘界は薄い笑みを浮かべ携帯を畳み、

傍の兵士に指示を出す。

 

「あの…そのような回線は存在しませんが?」

 

「知ってます。今私が付けたのですから」

 

兵士の困惑する顔を楽しそうに眺めると、自分でモニターを操作する。

カメラが一斉に切り替わり、地下、駐車場など潜んでいる葬儀社の姿が次々と映し出される。

あれで隠れているつもりらしい と嘘界はまたクククと笑う。

 

「中継の用意は?」

「都内のGHQ管理下の全回線から出力されます」

 

嘘界はよろしくと薄い笑みを浮かべたまま頷く。

 

「親愛なる全アンチボディズ諸君に告ぐ。

こちらは嘘界少佐。ワクチンDを摂取せよ。繰り返す。ワクチンDを摂取せよ」

 

周りの兵士も、放送を聞いた全兵士も一斉に無針注射器を腕に押し当てる。

自分はもう済ませてある。そしてここにいる兵士と、放送を聞いた兵士は元アンチボディズのみ。

それ以外の人間は死ぬ。

だがそんな事興味は無い。

何人死のうがどうでも良い。

 

「…茎道局長。これでよろしいのですね。

僕は知りませんよ?」

 

嘘界は茎道から渡された歌のデータを機器に挿し込み、

再生ボタンを押した。

 

そしてモニターと無線機に耳を押し当て、歌の効果を待った。

 

世界が激変する瞬間を今か今かとーー。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

「ツグミ!遠隔操作を切れ!」

 

涯は操縦席に素早く座り、操縦桿を握り必死に力を込める。

 

『ほい!遮断完了!』

 

「よし!」

 

操縦桿がふっと軽くなる。

エンジンを切り操縦桿を捻り、滑走路からずらそうと試みる。

機体はゆっくり回り方向を変えていく。

 

しかしその時ーー

 

「ぐあっーー!?」

 

身体の内側から全身を貫かれる様な不快感を感じ、

涯は胸を押さえて操縦桿に突っ伏してしまった。

機体は再び制御不能の鉄の塊と化す。

 

(バカな!茎道の奴『石』を発動させたのか!)

 

「涯!どうした!

くそなんなんだこの気持ち悪りぃ歌は!」

 

「みんなどうしたの!?いのり!」

 

ルシアは状況の変化に付いて行けず、

いのりに振り返った。

 

「…違う…この唄じゃない。

この唄じゃダメ…」

 

いのり は床に身体を丸め震えていた。

 

「いのり…?」

 

「……あの人が…起きてしまう……」

 

「 伏せろおおおおお !!」

 

アルゴの叫びの直後、コックピット全体を揺らす衝撃が何度も涯達を殴打した。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

「…これは…何?歌?」

 

春夏が歌に気を取られているスキを突き、

茎道は春夏の腕を掴み無針注射器を押し当てた。

 

「なっ!」

 

春夏がそれに気付く頃には、

既にプシュという空気音と共に注射器の中身が体内に取り込まれた後だった。

 

「慌てるな。ワクチンだ。

お前にも見せてやる春夏。人類の未来をーー」

 

 

 

******************

 

涯達が罠に掛かる少し前、

祭は集の到着をソワソワと待っていた。

 

突然集から連絡が入り、部室である倉庫の前に来て欲しいと言われたのだ。

訳は聞けなかったが、昨夜に比べかなり様子が違い明るくなっていた。

 

「ハレ!」

 

「集!もう大丈夫なの?」

 

「うん。色々ありがとうハレ。

迷惑かけてごめん」

 

「いいの。戻ってくれてよかった」

 

すっかり戻った様子の集を見て、

祭は安堵のため息を吐く。

 

「でっ、さっそく別の迷惑を掛けるんだけど…聞いてくれる?」

 

「へ?別の迷惑?」

 

「その前に他にも呼びたい人が居るから、

集まってから説明をーー」

そこまで言いかけた時だった。

突如ズンとした重みが心を打った。

まるで重力が突然増えたかの様な感覚だった。

しかも波を打つ様にそれが続く。

 

「……歌……?」

 

鉛色の曇天を見上げて集はそう呟いた。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

同じ頃、ダンテ達もこの異変に直面していた。

 

「ダンテ…」

 

「ああ…。奴さんが動き出したみてぇだな。

やれやれ着いたばっかりだってのに、

せっかちな奴らだ」

 

スンスンとダンテは犬の様に鼻を鳴らす。

 

「……ビンゴだ。俺の魔具をくすねた盗っ人。

それに火薬の匂いだ」

 

「“ 葬儀社 ”ってのが暴れてるのかしらね?」

 

「だろうよ。

まっ、好きにやらせてやるさ。

うちの“ 弟子 ”も世話してもらったしな」

 

「ふふ、テロリストに手を貸すの?」

 

「まっ…聞こえはあんま良くねぇが、

相手が悪魔だってんなら勝手が違いすぎるからな。

やれやれ。難儀なもんだ」

 

「早く行きましょう。

やる事なんて、どうせ決まってるんでしょ?」

 

トリッシュが突然銃を抜き、

ダンテの横顔に向けて発砲した。

 

『ガッーーゴェ!?』

 

ドンッという発砲音と共に銃弾が発射され、

ダンテに飛び掛かっていた悪魔の顔面に命中する。

 

いつの間にか周囲に無数の悪魔が出現していた。

ダンテは周囲を見渡し、野獣の様に笑う。

 

「ハッ!前菜はお前らか?」

 

ダンテとトリッシュを取り囲んでいた

悪魔達が一斉に飛びかかった。

 

「満足出来そうにないがなーー!!」

 

 

ーーーーーーーーー

 

空港のカフェテリアでアリウスは

カップを片手に足を組み、くつろいでいた。

 

空港を封鎖したため、

当然ホールにもキッチンにもいつもの様な従業員はいない。

 

「……始まったな……」

 

“ 歌 ”をbgmにアリウスはコーヒーを啜る。

 

「舞台は整った。後は役者だ。

もっとも、まだほんのリハーサルだがね」

 

チップをテーブルに置き、席を立つ。

席を立つと鳥に似た面を被った、

数人の奇妙な女性達を引き連れカフェテリアを去る。

 

「ーー魔剣士にその意思を継ごうとする少年。

会うのが楽しみだよ。シュウ・オウマ」

 

これから訪れる素晴らしい出会いに薄く笑みを浮かべながら、

アリウスは暗闇へ消えていった。

 

 

 

 


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