ギルティクラウン~The Devil's Hearts~ 作:すぱーだ
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さみしい・・・・(←本音
少女…いのりはGHQの兵隊に連れられながら、後ろ手に手錠を掛けられ、腰ヒモに括られて車両に連れられた。
いのりはさらに目隠しと猿轡をさせられ車両に押し込まれた。
そんな状況でも、いのりの頭からあの名も知らぬ少年の事が離れなかった。
彼は、無事だろうか…‥。
殴る蹴るより、酷い事をされていないだろうか…‥。
なぜ、見ず知らぬ少年の事がここまで気になるのかは彼女自身にも分からなかった。
ただ、いのりは少年の無事を祈り続けた。
「 全機に告ぐ! 」
っと 車両の外から兵達と一緒に、いのりを連行して来たあの白コートの男の声が聞こえて来た。
「 作戦区画の全住民を『感染レベル4+』と認定!
全火器使用自由! 防疫行動を許可する! 」
言葉の意味はいのりにも分かった。
彼等はここの住民ごと『自分達』を駆除しようとしているのだ。
「あの娘の扱いは?」
「戦闘開始後に始末しろ 」
いのりの目の前にいる兵士が、銃の安全装置を外す音が聞こえた。
ーーーーーーーーー
「ーーさて、君も死人かな? 」
降りて来た長髪の男は、不敵な笑みを浮かべながら集に顔を向けた。
ちなみに先程のチンピラ達は、数十人規模の武装した集団に囲まれた威圧感に耐えられず逃げ出した。
「そっちが質問する前に、こっちに対する質問の答えをまだ貰って無いんですけど。ーーえっと、あなたが ガイ なんですか? 」
長髪の男は、集の顔を暫く眺めた後。
「違うと言ったら、君はどうする ?」
「えっ…」
なんと答えたら良いのか分からず、集が言葉に詰まっていると…‥。
「ーーでは逆に ”そうだ “と言ったら君はどうするのかね? 」
「・・・・・からかってるんですか? 」
集が不機嫌そうに言うと。
長髪の男は、軽く肩をすくめ自重気味に笑った。
「 いや、すまない。少なくとも君は先程の男達と比べ、数段 " 生きて " いるようだ。 」
「 …‥はあっ、アリガトウゴザイマス…‥。」
褒め言葉なのかよく分からない事を言われたが、集は取り敢えず礼を言って置いた。
そして、改めて男の容姿を確認する。
長髪の男は、集から見てもかなり整った容姿をしていた。
ガッチリと一目で鍛えられていると分かる体躯、そこらの男性モデルが裸足で逃げ出す鼻筋の通った作りものの様にさえ見える顔、全て冗談のような非の打ちどころのないプロポーションだ。
なにより一番目の行く、金色の長髪…‥、あの鮮やかで黄金を吸収したかの様な雅な髪がサラサラと流れていた。
「 ・・・・・。 」
不思議と集は彼に始めて会った気がしなかった。
男がただ居るだけで、空間の全てを支配している気がした。
それだけ男は、圧倒的な存在感を放っていた。
なるほど彼が ガイ ならば、いのりがあそこまで命を懸けるのは、集にも分かる気がした。
一瞬、集の胸の奥になぜかチクリと痛みが走った。
「ーーねえ」
ふと、横から来た少女に声を掛けられた。
集がそちらを見ると、黒いボディスーツで身を包んだ黒髪ロングの少女が立っていた。
美人と言うより可愛い印象の少女だ。
そのつもりがあるのかどうか分からないが、少女の頭には黒くメカメカしい猫ミミが乗っている。
「"ふゅーねる"返してくれる?」
そう言って、少女は集に両手を迎える様に差し出した。
集はそれにおとなしく従った。
「さっきの中々見ものだったぞ、少年!」
少女は去り際にいたずらっぽく笑いながらそう言った。
「 礼を言わせて貰おう、我々への協力感謝する…。そして改めて名乗らせてもらう、ーーー俺の名は
「つつがみ…がい‥ 、えっと桜満集です。
よろしくお願いします。」
名乗られた集は同じく名乗り返した。
そして本来の目的を思い出した集は慌てて、涯に話を切り出した。
「そうだっ、いのりっ!涯さん"ふゅーねる"といた女の子ー…」
「 そうだ、あれと一緒にいた娘…彼女はどうした?」
集の言葉に、涯が入り込んだ。
「 そっ…そうです、いのりが… !」
「我々は、あれと彼女を待っていたのだ…。」
「ーー見捨てたのか 」
集が凍り付く…。
彼の先程までの紳士的な態度とは、打って変わって冷たい刃を纏ったような…何者も近付かせない冷たい雰囲気を纏っていた。
集の心臓に刃が突き刺さる…、
ただ冷たく見下ろされているだけなのに…、全身を氷の刃物で切り刻まれている気がした。
その時廃墟となった街の中で、凄まじい轟音と火柱が立った。
「 ・・・っうわ!! 」
集が思わず悲鳴を上げる。
「 何事だ ! 」
涯も声を上げた。
「 ガイ、白服達が街に!! 」
涯と集の元におぼつかない足取りで駆け寄って来た人影が集の足元に倒れ込んだ。
「 ガ…ガイ…、逃げてくだ…。」
駆け寄って来た男は、その言葉を最後に絶命した。
「 なんてことだ…。」
「くそっ!警告も無しにあいつら…。」
「このままじゃ皆殺しにされちまう!!」
辺りはパニック状態になっていた。
全員取り乱し、悲鳴を上げ逃げ出す人間も少なく無かった。
「 うろたえるなっ!!! 」
涯の一言で全員の動きが止まり涯の方に注目した。
「 死にたく無ければ俺の指示に従え!」
取り乱していた者も、逃げ出そうとしていた者も全てが涯の言葉に雄叫びを上げた。
( すごい・・・・。 )
集はパニック気味になっていた者たちを一瞬でまとめ上げる涯のリーダーとしてのカリスマ性に驚嘆していた。
しかし今はそのことに気を取られている場合では無い。
「涯 っーーー!! 」
反転し奥の先程の少女の元へ向かう涯のあとを、集は人ごみに揉まれながら必死に追った。
「ツグミ、綾瀬達はどうしている? 」
「 アイアイ 。」
少女と涯の話し声が聞こえる…。
「涯待って!いのりがまだ捕まってるんだ!」
集の叫びは・・・、
「左方に敵影 !! 」
少女の叫びと建物の破壊音に掻き消された・・・。
集と涯と少女達は爆風に晒された。
涯は集の方に目を向けると、
「シリンダーを渡せっ!! 」
っと叫んだ。
集が、涯へ振り向こうとした時、倒壊した建物の瓦礫が二人の間に落ちてきた。
「 逃げろっ!桜満集そいつを絶対手放すな!
今度はしっかり守ってみせろ!! 」
瓦礫の向こうから、涯が叫んだ。
「それと、その道の突き当たり右を行くと大通りの横断歩道に出る、そこに戦闘に参加していないGHQの車両がある。どうするかは、お前が決めろ!」
集は、涯の意図を察し「ありがとう」と声を掛けると一目散に道を走った。
後ろで涯が フンッ っと鼻を鳴らしたのが分かった。
ーーーーーーーーーーー
「始まったか…。」
いのりは目の前の兵士が呟く声を聞いた。
兵士の言葉どうり、遠くの方から度々爆発音と振動が伝わってくる。
「悪いな、これも命令なんだ。」
兵士が目隠しをされたままのいのりのこめかみに、銃身を押し付ける。
「成仏しろよ?」
ッチキ っと兵士は引き金に力を込める。
その途端いのりと兵士を乗せた車両は爆音と共に大きく横転した。
受け身の取れないいのりは体のあちこちを打ち付け転がった。
目隠しと猿轡が外れ、いのりはようやく感覚の自由を手にした。
ふと横を見ると、頭を打ったのか…兵士が気を失っていた。
兵士の腰の辺りに鍵束を見つけ、いのりは芋虫の様に這って鍵束を手にした。
ーーーーーーーーーーー
「って、突き当たりまで結構あるな…。」
涯と離れてから、かれこれ2分が経過しようとしていた。
ランニングと違い、集はずっと全力疾走で一瞬もペースを落とさなかったがそろそろ息が上がってきた。
ふとっ、ようやく道の突き当たりを見つけ集はさらにペースを上げた。
涯の言葉通り右へ曲がると、道先にフェンスが見えて来た。
集がフェンスに駆け寄ると。
見覚えのある後ろ姿を見つけた。
( いのりっ!良かった無事だった。)
集はいのりが無事だった事に喜び安心した。
直後に、いのりの周囲に広がる光景を見て血の気が引いた。
いのりの周囲には四、五体の"エンドレイヴ"が取り囲んでいた。
集はその光景に思わず後退りしそうになった。
ッドス
歯を食いしばり、集は両膝に両拳を打ち付け…、
「ーー何してるんだ…、
助けるって決めたばかりだろ!! 」
叫んだ。
フェンスを飛び越え、脇目も振らずいのりの元に駆け寄った。
「いのりっーーーー!!」
集の声にいのりは振り返った。
「……っあ … 」
その後ろで、"エンドレイヴ"が銃器をいのりに向ける…。
「 やめろ !!」
集は、いのりと銃器の間に割り込んだ。
集の胸ポケットに入った『シリンダー』から、パキンッと鈴にも似た音が聞こえ、直後に集の視界は銃口からの閃光に埋め付くされた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
単刀直入に言って、最初にいのりが連れて行かれた時、集には兵達の不意を突き、いのりを助ける選択肢が集の中でしっかり実現可能な物として存在した。
集にとってGHQの兵隊は決して勝てる相手というわけでは無いが、『奴ら』に比べればまだ良心的だ。
あの上官らしき男を人質に取れば、その場から逃げ切れるくらいは出来た筈だ。
実現の可能性は置いといて実際、集にはそんな無謀な自信があった。
しかしあの白コートに殴られた時に、集の頭に祭や谷尋、颯太達、友人の姿がよぎった。
もし、いのりを連れて逃げられても、自分はあの気のいい友人達に二度と会えなくなるのでは無いか。
いや…もしかしたら、彼等は自分達の権力を笠に着て友人達に災難を振りまくのでは無いか…。
あの時はそんな "当たり前な不安"が、集の心と体を縛り付けていた。
『ーー見捨てたのか 』
涯は何処かであの出来事を把握しているのだろう…。
きっと彼には、全てお見通しなのだ…。
そう思えてしまう様な、眼光と気迫を彼は持っていた。
そうだ『見捨てた』、助けられるだけの力があると思っておきながらながら、集は彼女を見捨てたのだ。
自分の日常を壊したく無いがために…。
研究会部室で地図を見せられた時…、集は腹をくくった。
(今度こそ彼女を救おう…、自分がどうなろうとも…。)
・・・・・・・・・・・
目を開けると集はいのりと共に奇妙な空間に立っていた。
全面が蛍光灯の様な真っ白な空間に黒や銀で点や線、円と言った何処か規則性のある記号の世界で、まるでコンピューターの仕組みを視覚的に表現した様な空間だった。
「これは…一体…。」
呆然と呟く集の周りを回っていた"線"が、一瞬二重螺旋状になって縄のように集の右腕に絡み付いた。
「……いたっ!」
集は思わず呻き、右腕を見た。
「なんだ…!?これ…。」
右手の甲に奇妙な紋様が浮かび上がっていた。
「ねえ、お願い…。」
集の腕の中にいたいのりが口を開いた。
「 私を・・・使って 」
いのりの周りに赤い二重螺旋が円になって取り囲んでいた。
取りなさい
シュウ
今度こそ…
誰かの声が聞こえた。
いのりに似た少女が、
助けを求めながら結晶に包まれ
呑み込まれていく情景が集の頭によぎった。
これは力、
人の心を紡いで形と力に成す……
『
集は右手をいのりの胸元に手を伸ばし…。
そのまま腕が中に潜り込んだ…。
「 ……っあ」
いのりが顔を紅潮させ歪ませる。
手の先に何かが触れる。実体の無いはずの魂が手に絡み付く感覚を感じ、集はそれを掴むと、いのりの中に入り込んだ右手を引き抜いた。
到底いのりの"中"に収まる筈の無い、結晶の巨大な塊が集の右腕と一緒に引き抜かれた。
集がそれを頭上に高く持ち上げると、結晶が砕け散り中から、巨大な剣が姿を現した。
集といのりの周囲が白い閃光に包まれた。
・・・・・・・・・
いのりが意識を失いかける、ほんの一瞬
集の髪が銀髪に、
鬼灯色に変わった瞳の色が更に濃く深い
血のような瞳の色に変わったのが見えた。
しかし、直ぐに髪も瞳も元の色に戻ったのを見たのを最後に、いのりの意識は完全な暗闇へ落ちていった。
次回もっと遅くなると思う。