ギルティクラウン~The Devil's Hearts~   作:すぱーだ

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すごーい!君、更新が遅いフレンズなんだ〜



ださーい


ネロ回です。


#35戦場〜the War Zone〜

 

 

夏の太陽はとうに真上に登り、地面の上を燦々に照らしあげる。

街の人々が本格的に動き始める時間帯である。

普段ならばあちらこちらから働く者や遊び回る子供達、観光客が行き来する光景が広がる。

 

しかし今や花に注がれる水は血に変わり、暖炉で木々を燃やす煙は人々を焦がす業火へ変わった。

 

そんな地獄をネロはただ歩いていた。

 

ネロが狩り続けていた異形の者たちは忽然と姿を消し、今はただ惨劇の跡地を進んでいるだけだ。

 

「ちっ、嫌な予感がするぜ」

 

あまりにも静かすぎる。

まだ悪魔たちは大勢残っているし、奴らの獲物である人間もまだ多く生き残っている。

 

姿を消すのもあまりにも突然すぎる。

今までと違う…。その確信を持って、ネロは先を急いだ。

 

 

 

************

 

生き残った住民達が集まっている臨時的な避難所へ、ようやくたどり着いた。普段は図書館である建物の出入り口の両側を見慣れた白い鎧が固めていた。

 

「………」

 

かつてキリエをさらい、あの教皇のしもべとしてネロやダンテに立ち塞がった鎧騎士。

鎧の中身を人ではなく、小さな悪魔達で詰め込まれた悪意の発明。

あの時と姿形一寸違わぬ鎧騎士はネロを一瞥するとーーー

 

「……通れ」

 

「どーも…」

 

ガチャと鎧を鳴らしてネロに道を譲った。

あの時とは違い、中身は血の通った人間だと実感出来る。

 

「待てっ、隠して行け」

 

「ん?あぁ、分かったよ」

 

自分の右腕を指す騎士に、ネロは右袖を伸ばし悪魔の右腕を隠す。

7年前の事件以来、ネロの右腕を毛嫌いする人間は少なからずいる。

 

それにこの状況で異形の腕を剥き出しにして歩けば、無意味に刺激してしまうだろう。

 

右腕がほぼ隠したネロはドアを開ける。

中では多くの人々が広い図書館で、足の踏み場がないほど集まっていた。

ほとんどの人が傷つき、包帯を血で濡らしていた。

座ってさえいられない程の怪我人も多くおり、中にはカーテンを集めて作った布団で寝ている者さえいた。

 

「ネロ!!」

 

「キリエ!」

 

ネロの側に一人の女性が駆け寄る。

彼女の無事な姿にネロは安堵する。見たところ怪我もないようだった。

 

彼女見つかるまで街中の避難所を回るつもりでいたが、直ぐに無事を確認出来て幸運だった。

 

「大丈夫か?」

 

「ええ、ネロも無事で良かった。だけどこんなにケガ人がーー」

 

「ああ、街の外もひでぇもんだ」

 

「どうして…こんなことに…」

 

「キリエ…」

 

目に涙を浮かべるキリエをネロは優しく抱き寄せる。

 

「ごめ…んなさい…。もう大丈夫だから…」

 

キリエは目元を拭い、微笑んだ。

彼女は気丈な女性だ。か弱く見えてもその実、強い芯を持っている。

 

それ故に他人を優先し、他者を包み込める修道女でいられる。

ネロも何度彼女に救われたかわからない。

 

「ここは大丈夫だから…ネロは自分の仕事をして?」

 

「……ああ分かった。騎士長はどこだ?」

 

「二階の会議室」

 

「そうか、ここは頼む」

 

「いってらっしゃい」

 

キリエの見送りを背にネロは会議室へ向かう。

彼女が人々の心を救うのならば、ネロの役目は彼女の帰る家を守ることだ。

 

それが彼女の騎士になるとずっと前に誓った者の役目だ。

 

 

 

***********

 

 

会議室のドアを開けると、髭をたくわえた厳格な雰囲気を纏う男と目が合った。

彼がキリエの兄クレド亡き後、騎士長の役に着いた男だ。

彼の周りの騎士達もネロへ振り返る。

彼らは街の地図が広げられた長机を囲むように立っていた。

 

「生きていたか…」

 

「残念か?」

 

「なにをバカな。人手が足りないと嘆いていたところだ」

 

「そりゃどうも。それで、孔の場所は分かったのか?」

 

「ああ、南西の海岸と北東の森林の二箇所に大型の孔がある事が分かった」

 

「…そんな所に孔なんざあったか?」

 

地図の 森林と海岸、それぞれ一点にあるばつ印を見てネロは顔をしかめる。

 

「その通りだ。その場所には元々孔など無かった。痕跡もな」

 

「突然デカイのが出たって事か…」

 

この街で魔界の孔が出現することは珍しい話ではない。

しかし前兆も無しに大規模な孔が出現することはまず無い。もっとも何者かが手を加え、無理やり押し拡げれば話は別だが。

 

「何者かが裏で手を引いてる可能性は高い、だが犯人を追う前にこの状況を打開しなければ話にならん」

 

騎士長は周囲の騎士達を見渡す。

 

「我々は二手に分かれ、孔の対処へ向かう。慎重にだが死力を尽くして奴らを一体でも多く道連れにしろ!!」

 

「「「おおおおーーー!!!」」」

 

「ちょっといいか?」

 

「どうしたネロ、君はキリエ殿と街の者を守ってくれてればいい」

 

「気持ちは嬉しいが、俺はここに残るつもりは無い」

 

「なに?」

 

「俺も孔を閉じるのに参加する。この二つの内の一つをな」

 

 

************

 

会議室から己の役目を背負った騎士達が次々と退出する。

各々が覚悟に満ち、恐怖を浮かべる者は一人もいない。

しかし、そんな中に一人だけ不安の表情を隠せずにいる者がいた。

 

「無茶ですネロさん!」

 

「お前か…」

 

悪魔を狩るために駆け回っていた時に会ったあの若い騎士だ。

 

「無茶ってなんの事だ?」

 

「一人で孔を潰すっていう話ですよ!!一つだけとはいえ無謀過ぎます」

 

「その話か…」

 

それが会議で決まった方針だった。

海岸の孔を騎士の一班が、森林の孔をネロが一人で、森林に行くはずだった一班は市民護衛の任へとつくこととなった。

 

「別にこれぐらいなんてこたねぇよ。ハイキングに行くようなもんだ」

 

「……僕も行きます」

 

「お前の役目はここの守護だろ?」

 

「分かってます!でも敵の本拠地がはっきりしているのにただ待っているなんて出来ません、僕だってきっとお役に立ってみせます!!」

 

「ーー騎士の役目は敵を殺すことだけじゃねぇだろ?」

 

「それは…」

 

街の凄惨な光景を目の当たりにし、頭に血が上っていた彼は悪魔達を殲滅することにこれ以上ない程の使命感を感じている。

その気持ちは分かる。

 

ふと騎士の後ろにケガ人や子供達を診るキリエの姿が目に入った。

 

「……」

 

彼女の両親も悪魔によって奪われた。

本当の家族ではないネロにも暖かく接し、魔剣教団の熱心な信者だった彼らはあっさりとその命を散らせた。

 

その日からネロとキリエの兄クレドは、彼女を守るために強くなることを誓った。

 

騎士長にまで上り詰めたクレドに反して、ネロははぐれ者の一匹狼となった。やっかい者扱いされたネロには様々な汚れ仕事を押し付けられてきた。

しかし、そんな事ネロには彼女を守れればどうでもよかった。

 

その頃の自分は、この若者の眼と同じ眼をしていたのだろうか?

 

「…分かったよ…」

 

「えっ、じゃあ!」

 

「あぁ、全力で飛ばすから死ぬ気でついて来い」

 

「はい!!」

 

若い騎士が意気揚々と返事をしたのと同時に、彼はパァーンッと凄まじい突風に吹き飛ばされた。

 

「!!!???」

 

起き上がった騎士は、訳も分からず辺りをキョロキョロする。

そして、ネロの姿が消えている事に気付いた。

慌てて外へ出てもネロはすでに影も形も無かった。

 

ただ、石畳を踏み割って出来た足跡を除けば。

 

 

 

************

 

「悪いな…」

 

森林の中へと入ったネロは心から彼に詫びた。

 

彼を巻き込まず戦える自信がネロには無かった。

はっきり言ってネロは団体戦向きでは無いし、その経験も浅い。

慣れない戦い方をして、死人を出すなどまっぴらだった。

 

「さてと…、いい加減どんちゃん騒ぎも飽きて来たな…」

 

ネロは背中のレッドクイーンに手をかけるとーー

 

「 幕引きにさせてもらうぜ!! 」

 

『 ごおおぉぉぉ!! 』

 

飛び掛ってきた物に叩きつける。

するとその悪魔の身体はトマトの様に潰れ、一声も上げる事なく地面に崩れ落ちた。

 

「 オラオラァ、ビビってんのか!?ドンドン出て来やがれ!! 」

 

昼間でも夜の様に暗い森の中、ネロは次々と現れる悪魔を叩き伏せて行った。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

そうして進み続けてようやく、孔の在り処が目前まで迫って来た。

近付けば近付くほどザワザワした感覚が強くなる。

「そろそろ終点か?」

 

そしてネロは魔界の孔の全貌を視界にとらえた。

 

家を二軒分まるまる飲み込めそうな程巨大で、黒々とした闇が果てしなく続いている。

 

普段は木々の葉が太陽を覆い隠し、昼間でも夜の様な場所なのだが、孔に木も草も全てのまれてしまっている。よく見れば近くを流れる川の水も干上がっている。

 

しかし、ネロの視線は孔には無い。

 

「てめぇが門番ってとこか?どうやらーー」

 

孔の前に、ネロを待ち構える様に立っている人影が見える。

輪郭だけで見れば鎧を着た人間に見える。

 

しかし、その姿を正確に捉えれば人だと言う者は居ないであろう。

 

半分欠け落ちた髑髏に、骨から作られたかの様な歪な鎧の全身、そして空洞の身体の中から不気味な白い光が漏れている。

 

魔界の戦士『 ボルヴェルク 』。

 

それがその悪魔の名だ。

 

『 ウォォオオオオオオオオオ!! 』

 

「ーーこっちが " 当たり " みてぇだな」

 

ボルヴェルクは咆哮し、ネロ目掛けて突進する。

ネロはレッドクイーンをボルヴェルクの剣に叩きつけた。

ボルヴェルクの突進が止まり、鍔迫り合いで互いに睨み合う。

 

ネロはレッドクイーンのグリップを捻る。レッドクイーンは唸りを上げて推進剤を燃やした。

 

「 づああぁらあぁ!! 」

 

ネロはイクシードの火力と腕力で強引にボルヴェルクの剣を弾いた。

しかしボルヴェルクは体勢を崩さず、そのまま突きをネロの腹に繰り出す。

 

ネロは突きを飛び越え剣の上に足を掛け、ブルーローズを抜くと同時にボルヴェルクに弾を打ち込んだ。

 

ボルヴェルクは二発の弾丸を首を傾げて避ける。

次に眼を狙って振られたレッドクイーンも、ボルヴェルクの手の平を削るも止められた。

ボルヴェルクはレッドクイーンの刃先を掴むと、自身の剣でネロの胴を薙ぎ払った。

 

「 しっ!! 」

 

ネロは悪魔の右腕をボルヴェルクの顔面にぶち当て、反動で距離を取る。

 

「 はっ!やるじゃねぇか! 」

 

『……』

 

ネロはレッドクイーンを一払いすると、背中に担いで挑発する。

ボルヴェルクは腰を落とし、剣を右脚の後ろに隠すように構える。

 

「?」

 

その姿に、ネロはなぜか一瞬あの男の姿がダブって見えた気がした。

なぜかは分からない。

目の前の悪魔とあの男の戦い方は似ているようで違う。

 

(…気のせいか)

 

その一瞬の隙をボルヴェルクは逃さない。

地を抉り一瞬でネロに接近する。

凄まじい速さで繰り出された横薙ぎを、ネロは焦る事なく飛んで避ける。

 

剣はネロの足元の地面を木々ごと削り取る。

 

「 はぁ!! 」

 

空中でネロの右腕を突き出すと、青い影が巨大な右腕となってボルヴェルクの剣を掴んだ。

ネロの身体は右腕に引き寄せられ、一瞬でボルヴェルクの頭上に到達した。

 

「 鈍いぜ!! 」

 

ボルヴェルクの頭上からネロはレッドクイーンを突き立てる。

 

しかしボルヴェルクは背中を弓の様に曲げ、レッドクイーンを避けた。さらにすぐ側に落ちて来るネロを蹴り飛ばそうとする。

ネロの悪魔の右腕がさらに強く発光する。

拳を握り締めると、ボルヴェルクの脚を力任せに殴り付けた。

ボルヴェルクは大きくバランスを崩し、片膝を付く。

 

「 ブッ飛べ !! 」

 

『!!』

 

ネロは着地と同時に、レッドクイーンを胴体に一文字に斬りつけた。

ボルヴェルクは吹き飛ばされ、地面に深々と溝を作りながら止まった。

 

『 ーーーーー 』

 

片膝をつきながら、ボルヴェルク怒りに息を荒げながらはネロを睨む。

 

「どうした、そんなもんか?もっと本気出しな!!」

 

『…ヴゥゥゥ、 オオオオオオオオオオ!! 』

 

ネロの挑発に応えるかのように、ボルヴェルクから魔力が爆発的に溢れる。

 

「やっとその気になったか?ねぼすけ野郎」

 

ボルヴェルクは剣を構え、ネロを見上げる程低く身体を屈めた。

ネロもレッドクイーンの柄を何度も捻り、推進剤を熱し続ける。

 

「………」

 

『………』

 

両者はお互いの距離を保ちながら、出方を伺っていた。

 

「……?」

 

しかし、突然ボルヴェルクから魔力が薄れていくのが分かった。

魔力だけでなく構えも解き、ネロに対して興味を失ったかの様に背を向け歩き始めた。

 

「おい!ケツまくって帰んのか!?」

 

ネロはブルーローズを抜いて挑発するが、ボルヴェルクは一度だけネロの方を見ると、すぐに白い光となって姿を消してしまった。

 

 

「ちっ、つまんねぇな…」

 

周囲を見回しても姿を探せなかったネロは舌打ちをするとブルーローズをしまい、門番のいなくなった孔に向けて足を進めて行った。

 

 

 

 

 

 

************

 

 

「なんだよこれ…」

 

図書館に戻ったネロは絶句した。

図書館は荒らされ、壁も屋根も崩れ落ちてほぼ原型を留めていなかった。生存者は図書館の外へ連れ出されていた。

恐ろしい事に人々の数も、ネロ達が孔へ向かう前の半分以下だ。

どれくらいの人が犠牲になったのか、そして誰が犠牲になったのか。

 

「ーーーっ!!」

 

ネロの脳内に恐ろしい想像がよぎる。

 

「キリエ!!キリエ!!どこだ!!」

 

ネロは愛する者の名を呼び続ける。

 

しかし、返ってくるのは泣き声や呻き声。

どれだけ耳をすませようが、ネロが望んだ声は返って来ない。

 

(キリエ…まさか…)

 

 

「ネロ……さん…」

 

「!!」

 

かすかに聞き覚えのある声が聞こえた。

周りの人々に気を付けながら、素早く声の主に駆け寄る。

それは、ネロの予想どうりあの若い騎士だった。

 

彼の胸には深い裂傷が痛々しく血を流している。

 

「ネロさん…。すみません…」

 

「…よう、無理すんな。すぐ良くなる」

 

目がよく見えないのか、騎士の目ははネロに焦点が当たっていない。

どう見ても助かるはずの無い傷だ。

ネロは奥歯を噛みしめる。

 

「すみません…奥さんを…キリエさんを守れません…でした」

 

「っ!?キリエがどうなったのか知ってるのか!?」

 

「ーーー」

 

騎士は弱々しく頷く。

 

「…キリエさんは、奴らに…ーーがっごほ!」

 

「もういい!!喋んな!!」

 

吐血してもなおネロになにかを告げようとする騎士を、ネロは慌てて制する。

 

「ーーー…」

 

騎士の指が震えながら、図書館の崩れた壁の一部を指しながら、既に呼吸すらままならない口で何かを告げる。

 

「………」

 

言葉が聞こえずとも、なにを言っているのか分かった。

 

『行ってください』

 

彼はそう告げたのだ。

それを最後に彼は事切れた。

 

「…分かった。お前は十分戦った…ゆっくり休め」

 

ネロは騎士の見開かれたまぶたをそっと閉じてやる。

そして崩れた壁の向こうを睨む。

 

「後は、俺がやる」

 

 

 

************

 

ネロの中で我を忘れて暴れ狂う程の怒りが、胸の中に渦巻いていた。

しかしネロは比較的冷静だった。

 

彼の中にある無意識が最短で敵を見つけ、叩く方法を探ることにのみ集中している。

 

足を動かしながら感覚を研ぎ澄ませ、キリエを探す。

結果はすぐに来た。

 

「いた!!」

 

地面を蹴り、上空へ舞い上がる。

 

超人的な視力で8キロ先に複数の鳥型の悪魔をはっきり視界に収めることが出来た。

一匹の脚に一人の女性が掴まれているのも見える。

 

「キリエ…!」

 

キリエはぐったりとして意識がないようだった。

 

「ちっ!!」

 

ネロは屋根から屋根へ凄まじいスピードで鳥悪魔達に距離を詰める。

まだスナッチの範囲外の上、銃を使って落ちたキリエを安全につかめる距離にもいない。

 

だが、もうすぐ十分な距離を稼げる。

そこまであと少しのところで、突如轟音が響く。

 

「!!?」

 

ネロが目を向けると、鳥型悪魔より巨大な影が傾きかけた太陽を背に飛来する。

 

「ヘリだと!?」

 

プロペラ音の轟音と共に軍用の武装したヘリコプターが、ネロ目掛けて迫っていた。しかしよく見るとシルエットがどこかおかしい。

 

「あの戦車と同じか!!」

 

ネロが察したのと同時に、悪魔に寄生されたヘリは銃器やミサイルを乱射して来た。

 

横に転がって避けたネロは屋根を飛び降り、下の道路へ着地する。

 

キリエの方へ目を向けると、彼女と鳥型悪魔の集団は豆粒ほどの大きさになっていた。

 

「ーー待ちやがれ!!」

 

駆け出そうとしたネロを阻むように、銃弾が目の前のコンコリートに降り注いだ。

 

「ちっ!!」

 

ヘリは低空でホバリングしながら、ネロと対峙する。

その後ろでキリエや鳥型悪魔達が赤い魔法陣の中に消える。

転移したのだとネロにはすぐに分かった。

 

「お前ら…覚悟は出来てんだろうな?」

 

怒りが頂点に達したネロの身体から、青色の魔力が吹き荒れる。

魔力を解放したネロの右手に、日本刀が握られていた。

 

しかし、変化はそれだけでは無い。

 

ネロの背後に影が現れた。青く半透明で角のようなものも見える。

人とはかけ離れた姿をしているためか、半透明にもかかわらず、確かな存在感があった。

 

ヘリは何発ものミサイルをネロに向けて掃射する。

 

『 るぁアア !! 』

 

ネロが空中を水平に切ると、背後の影がネロの動きに連動して水平斬りを放つ。

 

その衝撃で全てのミサイルが空中で炸裂した。

 

衝撃と爆風を斬り裂き、ネロはヘリを肉薄する。

 

『 失せな 』

 

エコーがかった声でたった一言そう言うと、音も刃に反射する光すら置き去りにしてヘリを一太刀で両断した。

 

ヘリは一瞬何が起こったか分からないかのように動きを止め、真ん中から左右にズレた。

 

 

墜ちたヘリには目もくれずネロはキリエの姿を探したが、上空には既に影一つなかった。

 

 

 

 

************

 

突如発生した二つの孔と、そこから発生した悪魔達は騎士達の尽力により収まった。

しかし、犠牲は少なくなかった。

結果として、7年前の教皇による暴走に並ぶ程の市民が犠牲になってしまった。

笑顔を浮かべる市民は居らず、全員が疲れ切った顔をしていた。

 

「……」

 

ネロは教会の椅子に座り俯いている。

多くの遺体を見た。

 

知っている人間も、知らない人間も両手の指では足りない程死んだ。

 

あの若い騎士の遺体も見て来た。

彼の母親らしい女性と、恋人らしき若い女性が縋り付き泣いていた。

キリエのために戦ってくれた彼になんと感謝を示せばいいのか分からない。

 

「ネロ」

 

「なんだ騎士長…。部下達見てねぇでいいのか?」

 

「彼らなら言われなくとも、自分の役目を理解しているさ…」

 

「そうかい…。

 

「…今回はずいぶん堪えているようだな」

 

「……何の用だ?」

 

「君にこれを見せようかと思ってね」

 

そう言って騎士長が紙を一枚手渡して来た。

 

「こいつは?」

 

「手掛かりさ。それは君が墜とした機体の写真だ」

 

写真を見ると黒く焦げ、原形を留めていないヘリの残骸が写っていた。

 

「そこの装甲の文字が読めるか?」

 

「……『ウロボロス』…?知ってんのか?」

 

「ああ、世界規模の巨大企業だ。兵器を悪魔に奪われた哀れな会社……だと思っていた」

 

だが、と騎士長は続ける。

 

「風の噂で聞いたんだよ。巨大な組織が悪魔と手を結んだと」

 

「ありきたりな話だ」

 

「そうだが、奴らが兵器を盗んだ事件など、少なくともここ10年間起きていない。さらに、この機体が製造されたのは2年前だ」

 

「会社の信用が関わるから公表してないだけだろ?」

 

「私もそう考えた。しかし、『ウロボロス』が日本のGHQ支部にある生物兵器を投入した話を知っているか?」

 

「生物兵器だと?」

 

「これもまだ一般には公開されていないが…。" ねっと "とは便利な物だな」

 

そう言ってポケットから写真が印刷された紙を広げる。

それを見たネロは目を見開いた。

 

「こいつは!」

 

「この写真が偽物ではない事は、奴らの姿を知る我々だからこそ分かることだ」

 

そこに写っていたのは、見覚えのあるシルエットだった。

『ブレイド』という悪魔によく似た物だ。

 

「……」

 

ネロは聖堂のドアに向けて歩き出す。

 

「行くのか?」

 

「…ああ、この街を守るのはあんたらの仕事だ」

 

「………」

 

「今度こそ逃がしゃしねぇ。一匹もな…」

 

ネロはそれだけ告げると再び歩き出す。

怒りと後悔、そして愛する者を救おうとする確固たる意志を胸にーー、

 

 

ーーー最も若き英雄は立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ウルトラマンやらSAOやらキングコングやら、色々映画見ました。
全部最高だった。

ひとつひとつ感想言いたいくらい。


そしてボヤボヤしてたら、新ウルトラマンが発表されるという……。

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