ギルティクラウン~The Devil's Hearts~   作:すぱーだ

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久々の更新で、小説の書き方自体を
忘れかけていたクソ作者。

オーブの最終回、最高でした。
劇場版も公開初日に観に行く予定。





#34訪問〜the bustling guests〜

************

 

「ふぁ〜」

 

早朝の桜満家。

集は大あくびをしながら朝食のしたくをしていた。

 

「しゅう眠そう」

 

「ん〜?昨日夜更かししちゃったからね。あ、ルシア小麦粉出して」

 

「ん」

 

「シュウ、私は?」

 

「いのりは……」

 

集は小麦粉を出すルシアと、自分の作業している鶏肉へと目を移す。

 

ポーン

 

その時、呼び出しの電子音が鳴り響いた。

 

「あっー」

 

「私が出る」

 

集が何かを言う前にいのりは玄関に駆けて行った。

 

いのりは玄関の扉の前に立ち、覗き穴から訪問者の姿を確認しようとするが、それらしき人影は無い。

「?」

 

出来るだけ早く来たつもりだったのだが、いたずらだろうかと思ったが念のため外を確認しようと鍵を回した。

 

「シュウーー!!」

 

「むぐっ」

 

突然柔らかくぬくよかな感触に顔をつつまれ呼吸を止められる。

 

「もう久しぶりさびしかったよ」

 

「ふぐぐぐぐぐっーー!?」

 

「あら、髪染めてるの?ピンク色は似合わないと思うわよ」

 

「んんんん〜〜!!」

 

「ん?シュウじゃないわね」

 

「ぶはぁ!!」

 

ようやく解放されたいのりは改めて自分を窒息させていた主を見た。

金髪でそばかすの活発そうな大人の女性だった。

 

「ーーーーー」

 

「ーーーーー」

 

女性はいのりの顔をまじまじと見つめる。いのりも女性を観察する。

とりあえず敵意は無さそうだ。

集の事を知っているということは、集がアメリカにいた時の知人なのだろうか。

 

「シュウの知り合い?」

 

「え、ええそうよ。シュウがアメリカにいた時、面倒を見てたの」

 

「そう」

 

「いのり、どうしーーてっ、パティさん!?」

 

「あ、シュウーー!」

 

パティは奥から顔を出した集を見ると顔を輝かせると、靴を脱いで集に飛び付くと思い切り抱きしめた。

 

「久しぶり!わー大きくなったわね」

 

「ぶふぅ!久しぶりです。びっくりしたよ来るなら来るって言えばよかったのに…」

 

「ふふふ、びっくりさせようと思ってね」

 

そう笑うパティはいのりに顔を見る。

 

「あなたはシュウのガールフレンド?」

 

「え?」

 

「い、いや違うよ!!いのりとはそんなんじゃーー」

 

「慌てて否定する辺り、脈ありとみたわ」

 

「ゔっー!」

 

「あいっ変わらず分かりやすいんだから」

 

言いながらパティは靴を脱いで玄関に上がると、ずいといのりの耳元へ寄る。

「気を付けてね。この子、行く先々で女の子引っ掛けてくる超磁石男だから」

 

「………そこ詳しく……」

 

「ーーおっ、大人しそうに見えて結構ハングリーな子?」

 

「ちょっと、いのりに変な事吹き込まないでよ!」

 

良からぬ空気を感じて、慌ててパティに口止めしようとする。

しかしパティはあっけらかんとした態度で集を見る。

 

「だって本当じゃない。特にサラサちゃんとか」

 

「いや、サラサとは仕事仲間だってパティさんも知ってるでしょ!」

 

「え〜〜?四六時中一緒に居たじゃない。手を握り合ってた時もあったしーー」

 

「!!!!」

 

「ちょっ、あれ見てたのか!!?」

 

突如いのりから例えようのない悪寒を感じ、集は彼女と目を合わせないようにした。

念のために言うが、集に後ろめたいことは無い。やましい事は無いので事実を言えばいいのだが、今は何を言っても燃料を注ぐような予感があった。

 

「ーーーーーー」

 

しかしそんな事情を知るはずの無いいのりは、ただ集に視線で圧を加え続ける。

 

「ただいまーー!って何してんの?」

 

そうこうしている内に帰宅した春夏が密度の高い玄関に面食らって立ち止まる。

 

「おかえり母さん」

 

「……お帰りなさい」

 

「ハロー、久しぶりハルカさん」

 

「パティちゃんじゃない!!わー久しぶり、上がって上がって!」

 

春夏がパティを部屋へ案内するところを見送りつつ、集は話がうやむやになってくれた事に安堵して息を吐いた。

 

「シュウ…後で……ね?」

 

「イ、イエッサー」

 

とりあえず後が怖いなと思った。

 

 

************

 

「遊びに行きたい」

 

「…………はぁ」

 

朝食を食べ終わった直後に、パティは集にそんな事を言い出した。

「なんでまた…」

 

「だって、来週になったら新社長としてまた準備やらなんやらに追われるのよ?無理してやっと休み手に入れたんだから、めいっぱい羽伸ばしたいじゃない」

 

「だから来る前に一言言ってくれれば、こっちも計画の立てようがあったのに…」

 

「うぐっ、だって……」

 

「ルシアどこか行きたい場所ある?」

 

「遊びにいくの?」

 

いのりがルシアへ答えを委ねる。ルシアん〜と腕を組んで考え込む。が、なかなか答えが出せずにいる。

 

「んじゃぁ、お祭り行く?」

 

「お祭りって、夏祭り?」

 

「うん、昼間は街で遊んでさ。夜に花火を見に行くついでにお祭り少し回ろうよ」

 

「それいいわね!せっかくだからシュウの住んでる街を見て回りたいし!」

 

「うん、わたしもそれでいい」

 

「よし、じゃあ着物を仕立ててあげないとね」

 

と春夏が手を叩いて言う。

 

「着物って…いのりやルシアの?今からで間に合うの?」

 

「大丈夫よ。任せなさい」

 

善は急げと言いながら春夏は足早に出掛けていった。

 

「じゃあ僕らも準備してから行こう」

 

こうして急遽夏休みらしい休日が始まった。集は内心いのりの着物姿にワクワクしながら自室へ戻った。

 

 

*********

 

 

数十分後、集・いのり・ルシア・パティの四人は駅前近くのショッピングモールへ繰り出した。

ここは服屋から本屋、電気屋、レストラン、ゲームセンターらがそれぞれ数店舗さらに屋外には遊園地やスポーツセンターまでと、規模としては非常に大きな場所だ。集の自宅からモノレールに乗って15分程度のほど近い場所にある。

 

暇つぶしにはピッタリだし、買い足しも出来る。

そういう事で昼間の遊び場所に決定。夕方に一度家に戻り、夏祭りが行われる神社へ向かう。予定としたらこんな感じだ。

 

 

 

 

「……着いて数分でこれとは………」

 

そこには両手一杯に荷物を抱え、首や頭まで袋を下げた集が呆れ半分といった顔をしていた。

 

「あはは、ごめんね?めったに来れない日本だからつい…」

 

「いいよ。駅のロッカーに預ければいいし」

 

「そう?じゃあこれもお願い」

 

「………」

 

以降、集は似たようなやりとりを二時間の間に三、四回繰り返した。当然、駅のロッカーには入りきらず、受付にも預けることになった。

そんなこんなで買い物に満足したパティはゲームセンターの筺体に釘で付けになっていた。

お世辞にも上手いとは言えないその腕前、集はボンヤリとーー

(そういえば、ポーカーで巻き上げてる所は見たけど、ビデオゲーム系をやってる所は見た事無かったな……)

ちなみに、言うまでもなく巻き上げられる対象は例の赤い人だ。

 

いくつもの硬貨を溶かしながら、しまいにはいのりを引っ張り回り出す。

 

「イノリ、シューティング上手ね〜〜」

 

「…………」

 

いのりがちょっと疲れた顔をしている気がするのは気のせいだろうか……。

 

「これは長引きそうだな…」

 

パティは負けん気が強い。

今のままでも余裕で夕方まで時間をつぶせるだろう。

 

「ん?」

 

ふとルシアの方を見ると、彼女はUFOキャッチャーの筺体の中にあるぬいぐるみを食い入るように眺めていた。

 

「ルシア、ぬいぐるみが欲しいの?」

 

「んっしゅう、これ買って」

 

「これは買う物じゃなくて取る物なんだ」

 

「とる?」

 

「そっ、こうやって…」

 

集はUFOキャッチャーに二百円入れると、ボタンを押す。

筺体から電子音のファンファーレが流れ、ルシアはビクッと飛び退く。さっきまで静かだった物から突然大きな音楽を流したので驚いたのだろう。

 

「この上のアームを動かして、下の商品を取るんだ」

 

「へ〜〜」

 

ルシアは電飾で飾られたアームをしげしげと眺める。

 

「んじゃ、始めるよ」

 

「ん」

 

 

 

〜〜ーーーーー

 

 

非常に厳しい戦いだった。

 

賞品は取れたので、苦労は報われたと言っていい。

だが、目的のぬいぐるみを取るまで、までじつに千四百円消費した。見かねた定員さんが、ぬいぐるみを取りやすい位置に置いてくれたのが幸いだった。

あれがなければ、有り金を全て消費しても辿りつけなかっただろう。

 

「ん、ありがとう」

 

ルシアはそう言ってシマウマ柄のクマのヌイグルミを大事そうに抱える。

 

「かわいい」

 

「良かった。気に入ってくれて」

 

「あ〜、遊んだ遊んだ」

 

「パティさん、いのりもお疲れさま」

 

「いい。さすがに機械叩き始めた時はどうしようかと思った……」

 

「ほ、ほんとにお疲れさま」

 

「ごめんねいのりちゃん。昔から熱くなるとつい周りが見えなくなっちゃって」

 

パティも恥ずかしそうにいのりに謝る。

 

「いい、私も楽しかった」

 

「それじゃあ、一回家に戻ってから。神社に向かおう」

 

ーーーーーーー

 

 

みんなで家に戻ってから、集は一足先に神社へ着いていた。

どうせならお祭りを背景に初お披露目しようと、春夏が提案したのだ。

集は鳥居の脚にもたれ掛かり、四人を待つ。

暇なので周囲を観察する。

 

祭りには多くの人が来ていた。

赤、青、緑、黄色、紫などの多くの鮮やかな色に彩られた着物で着飾る女性と少女達。

かと思えば、集と同じで私服の人達もいる。

 

暇を持て余しながら十分後、ようやく四人がやって来た。

 

「お待たせ、集」

 

水色の中に白い花の柄の着物を着た春夏が手を振って集を呼ぶ。

 

「ーーーー」

 

集は彼女達を見て、しばし言葉を失った。

 

パティは白をベースに様々な大きさの紺色の玉の柄が入っている。(おそらくシャボン玉をイメージしたデザインなのだろう。)

 

ルシアは黒の鯉の柄。鯉は赤と白と黒の割とリアルな色彩だ。よく見ると黄色のコブのある鯉が小さく刺繍されていたり、遊び心も入っている。

 

そしていのりは、緋色で彼女の髪の色より少しだけ明るい桜色の蝶と水蓮の柄が入った柄だ。とても幻想的な綺麗な刺繍だ。

 

「……ね。どうなの?」

 

「え?」

 

「どうなの?わたし達の着物姿!」

「あっうん。みんなよく似合ってるよ」

 

「そっかー。うんうん」

 

「良かったー。奮発したかいがあったよ」

 

「ん、うれしいけど。前に着たやつより動きづらい…」

 

ルシアの言葉に苦笑を浮かべながら、いのりの方へ向く。

 

「いのり」

 

「なに?」

 

「その……似合ってる。綺麗だよ」

 

瞬間にいのりの顔が真っ赤に紅潮する。

のぼせたような顔で、いのりは集から顔を背ける。

 

「………ありがと」

 

「……っあ、あはは…」

 

いのりに釣られ、集も気恥ずかしさのあまり笑みをこぼす。

 

「あらあら、みんなとは違う" 似合ってる "ねぇ?」

「あららら、でも笑って誤魔化したわ。ヘタれたわ」

 

「っ!……い行こう!」

 

若干イラッとするテンションで囃す春夏とパティをスルーして、集はスタスタと歩き出す。

 

 

 

 

 

屋台の上部に掛けてある提灯が暖かく淡い、しかし明るく夜闇を照らす。

灯りの下では老若男女、大小様々な人々が行き交う。

屋台では焼きそばやお好み焼きなどの香ばしい匂いや、綿あめやチョコバナナなどの甘い匂いなどが人々を誘う。

 

 

「おーシュウ!タコ焼きよタコ焼き!現物見たの初めてだわ!!」

 

パティは興奮しながら、今度はルシアを引っ張り回しながら二人で屋台を回る。

 

「買ってあげるって言ってるけど…絶対自分が食べたいだけだよね……」

 

「うん」

 

春夏の姿を探すと、いつの間にかおじいちゃんやおばあちゃんに囲まれてビールをあおっていた。

 

「あっちはあっちで楽しんでるし…」

 

だが、これはいいタイミングかもしれない…。

 

「いのり、ちょっと来て」

 

「え?」

 

集はいのりの手を引いて走り出す。

人垣を掻き分け、スピードを一切緩めず器用に隙間を縫ってやや広い場所に出た。

 

「ふー」

 

「シュウ?急にどうしたの?」

 

いのりは少しだけ息を切らしながら集に尋ねる。

「えっと、たいした理由じゃないんだけど…」

 

いのりの問いに集は頬をポリポリかく。

 

「最近は…その、二人でいられる時間ってなかったじゃない?大島以来さ」

 

「……うん」

 

「だからさ。たまには二人で花火でも見ようかなって…」

 

「…ルシアがまた仲間はずれにされったて怒る…」

 

「ん〜昼間の分でチャラにしてくれないかな……」

 

ふいに上空からのまばゆい光とドーンッという轟音が覆った。

集といのりは同時に上空を見上げる。

 

連続して空は色鮮やかな花で夜空を彩った。

轟音と共に大小様々な花火が咲き乱れる。

 

「いのり…今日はお疲れ様。いつも感謝してるんだよ?」

 

「…うん」

 

「これ、日頃の感謝のしるし…たいしたものじゃないけど」

 

「これは?」

 

集から渡されたのは、小さな箱だった。

箱はブレゼント用の丁寧な包装と花のシールが飾られていた。

 

「開けてもいいよ」

 

「分かった」

 

ビリビリと包装の紙を裂き、箱を開ける。

箱の中には、ロールに纏められた純白のリボンが入っていた。

 

「リボン?」

 

「昼間の服屋でさ…定員さんにいのりにあいそうなアクセサリーを聞いたんだよ」

 

心臓がバクバクと音を立てる。

気に入ってくれるだろうかという不安が一気に押し寄せる。

 

「それで…それでこれを…僕もいのりに似合うと思う」

 

その不安感を見透かしているかのように、いのりの微笑みが花火の明かりに照らされた。

「シュウ、ありがとう」

 

「いや、たいした物じゃなくてごめん」

 

「そんなことない。すごく嬉しい」

 

でも、といのりは続ける。

 

「一つ間違い…」

 

「え?」

 

「感謝しなきゃいけないのは私…。シュウには毎日毎日、たくさんのものを貰ってる」

 

いのりは手元のリボンへ、視線を移す。

 

「ありがとう。大切にする…」

 

「……良かった。ありがとう」

 

一際大きな花火が上がり、周囲の人々から歓声が上がる。

集といのりもその大きな光に吸い寄せられる様に上空を見上げる。

 

 

 

 

 

 

夏も終わりが見え始めている。

今日という日も終わり、過去へ流れ出す。

だが、決して消え去ることは無い。

この日のことを、二人は決して忘れることは無いのだから…。

 

 

 

 

 

 

 

 

************************

 

 

 

 

大陸沿岸部。

そこには周辺の近代国からは距離を置くその街は古くから、ある言い伝えがあった。

曰く、人間界を狙い続ける悪魔の世界が存在する。

曰く、はるか昔の人間界へ悪魔が侵攻したと。

曰く、侵略者だったはずの悪魔が人間のために戦ったと。その悪魔の名は『スパーダ』。

 

そして平穏を取り戻した後、悪魔は人々の長となりその平穏を見守ったという。

 

『 城塞都市フォルトゥナ 』それがその街の名前だ。

 

彼らは『魔剣教団』という信仰組織を立ち上げ、スパーダを神として崇めた。

同時にスパーダ以外の悪魔は憎むべき対象として永きに渡り、悪魔を退治しながら街を収めてきた。

 

 

そして7年前、彼らにとって運命とも言える時が訪れた。

 

当時教皇の座に就いていた男が、自らの歪んだ欲望を叶えるために街の人々へ牙を向けたのだ。

結果、多くの尊い命が失われることとなったその教皇の野望は、ある二人の剣士により永遠に鎖されることとなった。

 

その後、時たま事件が起こりながらもフォルトゥナは平穏の時に包まれていた。

 

 

 

そして、再びその平穏は血で染められた。

 

異変はまだ多くの人々が寝静まる早朝から始まった。

突如、街の一角から幾つもの火柱が立ち昇り、消火に向かった多くの住人がズタズタに引き裂かれて殺された。

それが悪魔の手による物だと気付いた時には、既に多くの悪魔が街へなだれ込んでいた。

そしてものの30分で街の大部分が占領されてしまった。

 

炎と血と臓物の地獄絵図その真っ只中を青年ネロが駆けていた。

彼は最初に爆音が鳴り響く数分前に違和感に気付き、出どころを探ろうとしたが間に合わなかった。

 

火柱が立った場所に真っ先に駆けつけ、住人を切り刻もうとする悪魔をまとめて斬り伏せた。

 

しかし直後に街のあちこちに破壊が起こり、あっという間に悪夢の様な有り様になってしまった。

 

(こんなことなら最初に違和感を感じた時点で、教団騎士に掛け合うべきだったか…)

 

そんな後悔がネロの中で湧き上がるが、すぐに頭を切り換えた。

 

たとえ騎士に報告しても襲撃には間に合わなかっただろう。

そもそも敵が既に先手を打たれていた現状、後手後手に回っていては救えた命も救えなかっただろう。ネロはそう考えることにした。

 

「ネロさん!!」

 

足を止め、声のした方を振り返ると、教団騎士の年若い青年が駆けてきた。

 

「俺に用か?」

 

「はい、奥さんを無事保護したので、その報告を…」

 

「…そうか」

 

ネロからひとまずの安堵が漏れる。

襲撃が始まってから、ネロは真っ先に妻キリエの身をあんじた。

二人で自宅を飛び出し、数人の騎士と合流した。

その直後、背後から大量の悪魔が押し寄せ、ネロは悪魔達を食い止めるため殿を務めた。

 

その後、彼女達の安否が分からなかったが、ようやく懸念が一つ消えた。

 

教団騎士は魔剣教団が独自に持つ、悪魔と戦うことに特化した軍隊だ。彼らに任せておけば、拳銃を持った警察より安心だ。

 

「ネロさん!他にもまだ、避難出来ずにいる者がいます!」

 

若い騎士はネロに深々と頭を下げて叫ぶ。

 

「どうか…我々に力を貸して下さい!!」

 

「……分かった…。任せろ、見つけたらお前らと合流する様に言っておく」

 

「っ……感謝します!」

 

彼がそう声を返す前にネロは地面を蹴って、住宅の屋根へと飛び移る。

屋根を駆けながら、ネロは五感全てを研ぎ澄ませ、逃げ遅れた住人を探す。

しかし、ネロが走っている所には、住人はおろか悪魔の姿もほぼ見当たらない。

 

「ーーっ」

 

ふと建物の陰から、悪魔の気配を感じた。

しかし、何かが他と違う。

 

ドゴンッという轟音と共に、民家の壁をぶち抜いて砲弾が飛んで来た。

ネロは飛んで来た物体を危なげなく躱す。

砲弾は建物の屋根を破壊する。

 

「…おいおい、どっから引っ張り出して来やがった?」

 

ネロは砲弾が飛んで来た方向を睨む。

そこには奇怪な輪郭をした戦車がいた。

 

大きなキャタピラと砲塔。

しかし、その大部分は肉塊に覆われ、巨大な眼球が周囲を睨み付けている。

キュルキュルとキャタピラと本体を擦らせた様な音を立て、戦車型の悪魔は前進する。

 

ギッと戦車は車体を止め、照準をネロに向けて来た。

 

「ーーーー」

 

しかしネロは鼻を鳴らしてそれを見ていた。

 

その事に憤った様に戦車は車体をネロに向けて轢き殺す勢いで突進する。

走行を続けながら、砲塔が火を噴く。

 

ド ォォォォン

 

凄まじい轟音と共にネロに命中した砲弾が炎と瓦礫を巻き上げる。

 

「ーーはぁっ!少しは面白くなって来たな!!」

 

しかし、そこには無傷のネロがいた。

 

ネロは異形の右腕で、砲弾を鷲掴みにしている。

受け止めた衝撃で、手袋も袖も吹き飛んでしまったが、青い不思議な光を放つ右腕は無傷だ。

 

「ほら、返すぜ!!」

 

ネロは悪魔の右腕『デビルブリンガー』を振りかぶり、戦車に向けて投げ返す。

 

砲弾は見事にキャタピラに命中し、片脚を失った戦車は数メートル車体を引き摺った後、動かなくなった。

 

ギギ ギ リリリ…

 

戦車は苦しげに音を立て、再びネロに照準を合わせようとする。

「はっ!とろいんだよ!!」

 

しかしネロは戦車の車体に飛び乗っていた。

 

「口を開けろ!」

 

ネロは青く光を放つ右腕で戦車の搭乗口の蓋を引き剥がす。

戦車の中身も蠢めく肉塊で詰まっていた。

完全に戦車を自分の身体としている。

 

「おら、味わいなぁ!!」

 

ネロはそう叫ぶと、その中に背負っていた剣『レッドクイーン』を深々と突き刺した。

更にネロは剣の柄のグリップを捻る。

 

ヴ オ オ オオンーー

 

剣に内蔵された仕掛けが、唸りを上げて推進剤を燃やし赤々と燃え上がる。

 

『ギィィィイイイイイ!!!?』

 

戦車から、金切り声が上がる。

 

ネロは戦車から剣を引き抜くと、真上に高く飛び上がる。

右腕を引き絞ると、光はますます大きくなり、元の何倍もある巨大な腕を形成した。

 

「るあァァァァ!!」

 

ネロは雄叫びを上げながら、その巨大な腕を戦車に叩きつけた。

 

戦車は見事にひしゃげ、ミシミシと音を立ててプレスされる。

 

「思ってたより脆いな」

 

爆発炎上する戦車を尻目に、ネロは住民を探すべく再び駆け出した。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 





怪獣娘の二期も見たい

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