ギルティクラウン~The Devil's Hearts~   作:すぱーだ

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また遅くなってしまいました。
皆さんごめんなさい。

まだ忙しい期間は続くので、当分はずっとこんなペースだと思います。

本当に申し訳ない


劇場版ウルトラマンX見に行きました。
最高でした。ティガ世代は絶対行った方がいいと思います。



#31際会〜keystone〜

 

心臓の鼓動音が澄み切った意識の中へ流れ込む。

表現に困る感覚だった。恐れているのか、高揚しているのか、集は目の前で悠然と佇むレディの姿を視界に収める。

 

「ーーーー」

 

レディも集を静かに見据えている。

その立ち姿は集のように防御も、攻撃の構えもしていない。だというのに考えなしに飛び込めば命は無いと、確信出来る。

 

それが彼女が元からある生まれついての才能なのか、彼女の長い戦いの中における経験によるものなのかは、知る術はないが。

 

「ーーー構えは完璧ね。気迫も十分」

 

だけどとレディは続ける。

 

「緊張しすぎよ。身体が硬くなってる。集中力があるのは結構だけど、度が過ぎるわ。そんなんじゃ突然の状況の変化に身体も心も付いていけなくなるわよ?」

 

集は言われた通り、身体から僅かに力を抜く。

無意識の内に寄せていた肩が少し下がるのが分かった。

 

「………」

 

まるで十年前からの修行の続きをしているようだった。

だが今から行うのはそれとは勝手が違う。

 

レディが手を抜く気が無いのは、すでに集も分かっている。

 

それは集も同じだ。

相手が格上である以上は手を抜くことなどあり得ない。

 

レディは相変わらず構えない。先手を集に譲るつもりなのだ。

 

「ーーーっ!」

 

自分の中にある意識と呼吸が強く噛み合った瞬間、集はためていたバネを解放する。

 

「 は あ あ あ!!」

 

集は宙に飛び上がり、レディの頭上に回し蹴りを放つ。

 

「ーーーー」

 

レディは僅か半歩下がり顔をそらす。たったそれだけの小さな動作だけで集の攻撃をかわす。

集は不発に終わった足でそのまま地面を蹴り、逆の足から次の蹴りを放つ。

が、やはりそれも少し動きで避けられる。

 

「ふぅん…。サボってはなかったみたいね」

 

レディは集の攻撃を避けながら、満足そうに笑いながら言う。

 

「どう も っ!!」

 

集もレディの軽口に乗りながら、右手のナイフで喉元を狙って突く。それもレディが僅かに顔を傾げるだけでかわされてしまう。

 

「ちぃっ!」

 

「惜しい、けど躊躇いは無いみたいね……安心したわ」

 

次の瞬間、レディの右足が跳ね上がり、集の左耳に叩きつける。

 

「ぐっ」

 

集はとっさに左腕を盾にしてそれを防ぐ。

レディは次にカリーナ=アンが下方から鈍器のように集の顎を捉えようとする。集は後方へバク転しなんとかそれを回避する。

レディは集が着地するのを待たず、レディはカリーナ=アンの先端に装着されているダガーを斬りつける。

 

「ぃ…っ!!」

 

集は空中で身体を捻り、ダガーをかわし、地面に両手両足を付けて着地した。

それを再びレディのダガーが地面ごと串刺しにする勢いで、白い彗星を描き襲い来る。

 

集は地面を転がってそれを避けると、その勢いのまま起き上がり壁に向かって駆け出す。

 

レディも集を追い、ダガーの射程内にまで追い付くと同時に勢いを付け、集の背中に斬りつける。

次の瞬間、集は一瞬壁を駆け上がる。

 

集の背中に斬りつけられたダガーは壁のコンクリートを削り、長い傷を付けた。壁を蹴った集はレディの背後に着地する。

レディはまだダガーで壁を削った体勢のままだ。

 

(よし、後ろを取れた!)

この二度は来ないであろう機会を逃す手は無い。集がそう考える前に集のナイフがレディの身体に吸い寄せられるように動く。

 

次の瞬間集の視界に映ったのは、集のナイフをあっさり防ぐのでも、ましてや傷付くレディの姿でもない、集の視界の全てを覆う洞穴だった。

比喩ではなく、本当に小さな洞穴が集の目の前にあった。

 

「!!」

 

その正体に気付いた集は全力で背後に倒れ込むように飛び退いた。

火薬が炸裂する音と共にレディの肩に担がれたカリーナ=アンの砲口から集の頭を狙いロケット弾が噴き出る。

 

「ぐ ーっ ぁ あ!!」

 

砲筒から解放された火薬の衝撃と、自分の腹と鼻先を掠めるロケット弾の勢いに吹き飛ばされ、集はもんどり打って地面を転がった。

「っーー!!」

 

集は体勢を立て直そうと足を地面に擦らせる。

靴から地面にゴムの跡を僅かに残し、ようやく止まる。

 

「おぉっ!!」

 

ロケット弾が着弾した轟音を背に、集はこのまま逃してなるものかと、レディに突進する。もう僅か一歩で集の攻撃が届く範囲内に来た時、レディの手から何かがこぼれ落ちるのが見えた。一瞬ギョッとした集が足にブレーキをかけようとしたが、花火のような音と共に集とレディを包んだのは炎などではなく白い煙幕だった。

 

(ーーっ!!スモークボム!?)

 

白い煙は一瞬で集の周りを包み込む。

 

「くっそ!!」

 

当然その煙はレディの姿を集から覆い隠す。

集はさっきまでレディのいた場所をナイフで薙ぎ払う。が、とうにレディの姿は跡形も無く消えていた。

 

(落ち着け…落ち着け……)

 

集は呼吸を整え、高ぶる感情を抑え、周囲に神経を集中する。

 

レディはすぐに動いた。

 

「!!」

 

空気を弾くような音と天井に何かが突き刺さる音を集の耳は同時に捉えた。

レディとの付き合いが長い集にはその音が何かすぐに気付いた。

 

上空を仰ぎ見る。

そこではレディが天井にカリーナ=アンのダガーから伸びるワイヤーに掴まり集の頭上を振り子運動のように通過する最中だった。

 

「くっーー」

 

集はレディに接近しようと、レディが着地するであう場所に走りだろうとした時、レディが再び集に向けて何かを放った。

 

それが地面に落ちた瞬間、強烈な閃光が集の視界を覆った。

 

「うぅーー!!?」

 

集から血の気が引く。

閃光で視界を封じられたからではない。自分の足元を取り囲むように手榴弾が落ちていることに気付いたからだ。

 

レディがこれを地面に放って何秒たっているのか、集は眼と耳を押さえながらその場から全力で逃げ出した。

集が煙幕から抜けた瞬間、凄まじい轟音と衝撃が幾つも折り重なって集を襲う。吹き飛ばされた集は石が水を切るように、何度もコンクリートの上を跳ねる。

 

「がーーはっ!!」

 

耳を押さえていたにもかかわらず、轟音は容赦なく聴覚から他の部分を奪いにかかる。眼を開けると、頭蓋が割れそうなほどの痛みが襲う。

 

「うーぎぃーー」

 

耳を押さえていなければ鼓膜がズタズタになっていたかもしれない、眼を押さえていなければ眼球が飛び出ていたかもしれない。

「なに?その顔……」

 

「ーーっ!!」

白い煙幕をたちどころに吹き払った黒い黒煙の中から、レディの声が聞こえた。

集はなんとか立ちがろうとするが、ぐちゃぐちゃに乱れた三半規管は簡単には直らない。足がもつれて、何度も倒れそうになる。

 

「まさか接近戦なら爆発物は使わないとでも思ったの?」

 

「………」

 

集は肩で激しく息をすると彼の身体に出来た火傷が、息を吹き返すように集の身体を攻め立て始める。じっとりと滲み出た汗が煤を吸って集を灰色に汚す。

 

「9度…。今の戦いの間に私はあなたを9回は殺せるわ」

 

そう言いながらレディの眼は静かに集に問いかける。

 

ーーー『まだ戦えるか?』とーー

 

集はナイフを強く握り直し、今度こそしっかり立ち上がる。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「シュウ…」

 

背後から立て続けに起こる爆発音が、いやでもいのり達耳にも届く。

集がレディと対峙する前、集は彼女のことを一番知っているのは自分だと言って囮役を買って出た。

 

「師匠…」

 

集は彼女のことをそう言っていた。

 

レディという女性と集はどのような繋がりなのだろう。いのりの中で疑問と興味が混じり合い、集のことをもっと理解したいからこそ彼の過去を" 知りたい "という想いが次第に強くなっていく。

 

「いのり、集中しろ。目的の場所に着いたぞ」

 

「ーーっ!」

涯の声に眼を上げる。

いのり達が立っているのは彫刻のように滑らかで、ブルーライトで照らした様に不気味な色をした長方形のブロックがまるで三人の行く手を阻むように天井、床、壁とあらゆる場所から生えている。

 

「いのり、撮れ」

 

「うん」

 

異様な空間に立っているのも気にも止めず、涯はその長方形型のブロックが組み合わさって壁を形成している場所、つまりは一番奥の壁に向けて顎を軽く振って命じる。

いのりは命じられた通り、その壁に向けてヴォイドのシャッターを押した。

すると、辺りにあったブロックが一斉に壁や天井、床の中に引っ込んでいきさっきまでの光景が夢か幻のように、何の変哲も無い通路に姿を変えていく。

当然、ブロックで形成された壁もまるで虫に喰われていくように、しかし規則性のある動きでみるみるその姿を崩し、封印されていた更に奥の部屋が姿を現す。

 

その部屋は部屋の中央に試験管の入ったカプセルと、あとはその後ろで心電図の様な図を表示したモニターがあるだけの部屋だった。

 

もしこの場に集が居たのなら、トレジャーハンターの映画に出てくるような宝物を守る部屋を連想しただろう。

いかにもそれが重要な物だと自己主張するような部屋の造りだった。

涯が部屋の中央に近付く。いのりと集と別れてからひたすら沈黙しているルシアがその後に続く。

 

試験管の中にはこぶし大の青紫色の結晶の様な石が鎮座している。

アポカリプスウイルの感染者が発症した時に生じるキャンサーの結晶に非常に似た物だった。

 

(これが…はじまりの石)

 

いのりはその石を見た瞬間、胸の内から何かが飛び出してくる様な、ザワザワと落ち着かない気分になる。

 

(…私は" これ "を知ってる…)

 

歌が聞こえた気がした。

 

とたんに自分の中で見えない何かが暴れ出す様な恐怖感を覚え、いのりの足が石のように固まる。

始めての感覚では無い、自分の中にある別の誰かの心が語り掛けてくる様な…。

集と出会ってから久しく忘れていた感覚だった。

そんないのりを責めるように、その感覚は容赦なくいのりを襲う。

 

 

ーーーコレは…アノ人のーーー

 

 

「いのり」

 

グッと裾を掴まれ、我に返る。

見下ろすと、ルシアが自分の服を掴んで真っ直ぐこちらに見ていた。

 

「ーーーーっ」

 

不思議だった。

その眼を見ただけでいのりの中にあった不快感は消え去っていくのを感じた。さっきまでしつこくいのりを苦しませていたのが嘘のように晴れていく。

まるでルシアの小さな手が悪夢からいのりを引っ張り上げられたかのように、いのりの意識は明瞭なものになる。

 

「キモチわるい?」

 

「ーーううん、大丈夫。ありがとう…ルシア」

 

「ん」

 

「………」

 

ルシアは短く返事をすると、いのりの服から手を離す。そしてこちらの様子をうかがっていた涯にも大丈夫だと目で答える。

「目標を発見。確保する」

 

涯は改めてはじまりの石に向き直ると、更に部屋の中央の物に手が届く場所まで歩いていく。いのりの変化には気付いていない様子である。

 

「ーーー」

いのりは黙ってその様子を見守る。

 

 

「ーーっ、いのり!!」

 

涯がカプセルに手を伸ばした瞬間、ルシアが大声で警告を発した。

瞬間、何かがいのりとルシアの横を素通りして、真っ直ぐ涯の方へ向かっていく。

 

「涯!!」

 

「!!」

 

地面から魚のような姿をしたものが飛び出す。いのりの声に気付いた涯がその場から飛び退き、魚のような悪魔から身をかわす。

 

その魚の悪魔は『カットラス』といい、人の身の丈程の巨体で、異常な長さの背びれと尾は刃のように鋭くなっている。

当然、敵に対しての主な攻撃方法も背びれと尾の刃による" 斬撃 "だ。

 

しかしカットラスの持つ最大の特徴は刃の背びれや尾などではない。

 

カットラスはイルカか何かのように飛び出すと、はじまりの石をカプセルごと口から吞み込む。そして、コンクリートを砕くことなく地面へ潜ると、サメ映画のように背びれだけ見せながら" 泳いでいく "。

 

「ーー!?」

 

涯は眼を見開いてその光景を見る。

地面を掘るのでは無く、文字どおり地面の中を水の様に泳いでいる。

 

「くっ、石を奪われた!追うぞ!!」

カットラスの背びれが出口に向かって泳いでいく。涯は弾ける様にその後を追い始める。

 

いのりもルシアも涯に続くが、別の三っつの背びれが石を呑み込んだカットラスが部屋を出たのと入れ違う形で現れる。

 

「!!」

 

三体は部屋を出た一体とは違い、一直線に三人の方へ泳いでくる。

途端に三つの背びれが赤く発光すると、急速にスピードを上げ三人に体当たりをして来た。

 

三人は背びれの刃をそれぞれ別の方向へ回避する。

 

「くっ!」

 

涯は石を呑み込んだカットラスの去った方を見ながら、食いしばっていた歯をさらに強く噛み締めた。

 

だがカットラスが考える暇など与えてくれるはずがなく、三体は涯の方に狙いを定める。

 

「涯!!」

 

「ーーふっ!」

 

辺りにいのりの声がこだまする。

同時にルシアが一呼吸吹いて駆け出すと、涯とカットラスの間に割って入る。

 

二振りの短剣を抜いたルシアが涯の前に立つと、短剣を盾として構える。

 

大きな火花と耳触りな金属の擦れる音が爆ぜる。

 

「ぐっーー」

 

カットラスの怪力はルシアの小柄な身体をいとも容易く押し退ける。

ルシアも何とか押し返そうと踏ん張るが、瞬発的な力ならばいざ知らずルシアの体重ではそれも上手く活かしきれない。

ルシアの身体はやはりどんどん後ろへ押されていく。

 

涯は側方へまわり、背びれに向かって銃を撃ち込む。しかし、カットラスの背びれには火花と弾丸が弾かれる音が立つだけで、大して通用してはいない。

はたと涯は気付く。

 

「他の二体は何処へ行った…?」

 

ルシアが抑える一つの背びれを見て、そう呟く。

 

「下っ!!」

 

「!!」

 

僅かに離れた場所にいたいのりの声に、涯はバッと地面を蹴る。

 

ちょうどそのタイミングでカットラスは地面から飛び出すと、尾の鋭い刃で涯の胴体を真っ二つに切り上げる。

 

「ーーーしっ!」

 

涯は空中で咄嗟に身を捻る。

刃は涯の胸ポケットの端を切るだけで、涯の身体にはかすり傷ひとつ付けられなかった。

 

涯は体勢を崩すことなく着地する。

 

素早く銃をカットラスに向けるが、カットラスはすでに地中に潜った後だった。

 

「ちっ、面倒な…」

 

物理法則に縛れない能力を持っているのは知っていた。だが知っていてもそれに即対応出来るものをこちらは持っていない。

 

ルシアの後方から別のカットラスが地面から飛び出す。

後方のカットラスはルシアと鍔迫り合いをしている背びれと挟み込むように尾を斬りつける。

 

「!!」

 

後方のカットラスに気付いたルシアは右手の短剣で前方の背びれを押さえ込みながら、左手の短剣で後方から切り上げられた尾の刃を防ぐ。

 

尾の刃は防げたが、左手の短剣は弾き飛ばされて宙を舞う。

 

防御の力が抜けたのが幸いとばかりに、鍔迫り合いをしていたカットラスは急激に力を強める。

 

「うあぁっ!!」

 

ルシアはとうとう力勝負に負け、はね飛ばされて壁に激突する。

「くっ…」

 

『ゴギイィィィ!!』

 

カットラスがルシアが立ち上がるのを待ってくれるはずがない。

 

「!!」

 

カットラスは地面の中から跳ね上がると、ルシアの喉笛を噛み切るために口を大きく開けて牙を剥き出す。

 

銃声が数発。

ほぼ硬い鱗に弾かれるが、銃弾の一発はカットラスの目に命中する。

 

『ーーィィィーー!!』

 

カットラスはルシアの目の前に落ちる。

今度は地面に潜ることなく、地面に打ち上げられた魚と同じように地面の上で尾と胴体を叩きつけて暴れる。

 

「ーーっ!」

 

ルシアがすかさずカットラスの喉元を右手の短剣で掻き切ると、カットラスは一度大きく痙攣すると動かなくなった。

 

ルシアはふーっと息を吐くと、カットラスの目に銃弾を撃ち込んだ涯に目を向ける。

 

涯は銃をリロードすると、すぐ他の二体を探し始める。

 

ルシアも涯から目を離し、周囲を警戒する。

 

すぐにカットラスは見つかった。

しかし二体とも今度は地面ではなく壁を泳いでルシアに向かってくる。

 

「いーーった!!」

 

逃げようとした時、ルシアの足に痛みがはしる。

見ると足から血が流れているのに気付いた。

傷口そのものは深くは無いが、動きを阻害するには十分な傷。

カットラスが地中から飛び出した時に切りつけられたものだ。

 

「逃げろ!!」

 

ほんの一瞬、傷の痛みに気を取られた時にはもう遅い。

 

カットラスは壁から跳ね、上からルシアを丸呑みにする様に大きく口を開けて迫る。

 

ガッ

 

視界がぶれる。

自分より大きなものがぶつかったせいで、身体は吹き飛び周囲の光景は形を失う。

 

獲物を見失ったカットラスが地面へ飛び込むのをルシアは視界の端に捉える。

 

「………」

 

しばし呆然とした。

どれだけ速く動こうが、助かるようなタイミングではなかったから。

 

「大丈夫!?」

 

ルシアは自分に覆い被さるいのりに目を向ける。

いのりとルシアはいのりが押し倒した状態で地面に転がっている。

 

「うん、ありがとう」

 

ルシアはすぐにいのりに助けられたのだと理解した。いのりは傷口を確認すると自分の服を破き、ルシアの右足にきつく巻き付ける。

ルシアは足をトントンと踏み歩いて調子を確かめる。

 

「……なんとか動ける…」

 

「ルシアあいつを地面から出さないと…」

「…………」

 

カットラス達は様子を伺う様にいのり達の周囲を回る。

このままいれば嬲り殺しにあうのは分かりきっている。

 

「これ以上、時間は掛けられん…」

 

涯はそう呟くとズボンのベルトから細いワイヤーを引っ張り出す。

 

「援護しろ。こいつで奴らを引っ張り出す」

 

「まって」

 

いのりがうんと返答しかけた時、ルシアが涯の手を制する様に掴む。

 

「" それ "わたしがやる」

 

「……」

 

「…涯、ルシアなら出来る」

 

「……分った。任せよう」

 

「ん」

 

ルシアは涯からワイヤーを受け取ると、自分の右手に二巻き巻き付ける。

ルシアは弾き飛ばされたもう一振りの短剣を拾い上げると、片方のカットラスに向かって全力で駆け出す。

 

いのりと涯はルシアと正反対の方向へ向かって駆け出していた。

 

涯はカットラスの背びれに向かって銃を撃ち込む。

攻撃を受けた背びれは赤く発光し、涯に向かって突進する。

 

涯は難なく背びれを地面を転がって避ける。

 

『キイイイ!!』

 

カットラスは金属を引き裂くような金切り声を上げ地中から跳ね上がり、真横に避けた涯に牙を剥き出す。

 

「せぇ!!」

 

『ーー!!』

 

いのりの靴がカットラスのエラの辺りにめり込む。

 

カットラスは再び地中へ姿を消す。

 

涯もいのりも息を切らしながらも必死にカットラスと対抗する。

 

「こっちの攻撃が全然通用しない…」

 

「ああ、だが奴を引き付けることぐらいは出来る」

 

カットラスの背びれが再び赤く発光し、いのりと涯を捉えようとする。

 

 

獲物が大きな動きをしたためか、カットラスもルシアに向かっていく。

 

ルシアは走りながら短剣の柄の先端にあるリングにワイヤーを掛ける。

そしてルシアは突進するカットラスの背びれを高く飛び越えると、その背びれにもワイヤーを掛ける。

そのままルシアは短剣を天井に投げつける。

短剣は一直線に天井へワイヤーを伸ばしていくと、ガッと天井に深く突き刺さる。

 

「せああああああ!!」

着地と同時に両足を地面に深々と突き刺す。

ルシアは雄叫びを上げ、右手に握ったワイヤーを思い切り引っ張り上げる。

 

するとカットラスは一本釣りの様に背びれから伸びるワイヤーに釣り上げられる。

 

『!!』

 

「ーーっ!」

 

当然、カットラスは激しく抵抗する。

ワイヤーは背びれの刃によってプツプツと切れて、ほつれ始める。

しかし筋力においてはカットラスよりルシアの方が勝っている。

 

さらにルシアは自身の軽すぎるため筋力を活かしきれなかった弱点を、両足を地面に縫い止めることで補った。

 

「いのりぃぃーー!!」

 

「!!」

 

いのりは状況を確かめる前にルシアの元まで駆け出す。

 

いのりは走りながら、カットラスの目を狙って銃を撃ち続ける。

 

『ギィィ!!』

 

カットラスの抵抗が弱まる。

ほつれていたワイヤーがついに限界が来る。ブツンという音と共にワイヤーが背びれの刃によって切断される。

ルシアは短剣をいのりに投げ渡す。

 

いのりは短剣を受け止めると、宙を舞っているカットラスの心臓部に突き刺す。

カットラスといのりはそのまま地面に倒れ込む。

 

『ゲギョギィィカァァ!!』

 

「ーーくうう!!」

 

カットラスは青と緑色の不気味な体液を流しながら、メチャクチャに抵抗する。

いのりは短剣をさらに奥へ押し込みながら何度も捻る。

 

それを何度も繰り返してる内に、カットラスは一度大きく痙攣するとパタリと動きが止まる。

 

「はぁ…はぁ…」

 

いのりは短剣を刺したままカットラスが息絶えたことを確認しようとした時、カットラスの身体がボロボロと崩れ落ちる。

 

何度か見たことがある。

これは悪魔が完全に息絶えた時に起こる。

 

いのりは短剣を引き抜くと、カットラスを一人で相手をしているであろう涯に視線を移す。

 

その目の前を三体目のカットラスが素通りする。

二体目がやられたタイミングで、いのりもルシアも涯も無視して三体目は出口に向かって泳ぎ去っていく。

 

すると壁の中から別のカットラスが合流した。

 

最初にはじまりの石を奪い取った個体だ。

二体はお互いに位置を交代したり、何度も地面を潜ったり、まるで遊んでいるかの様に逃走する。

 

「ーーっ!どこまでも悪知恵の働く連中だ!」

 

そうやってどちらが石を持っているのか混乱させているのだと、涯はすぐその意図を読み取った。

「いのり、ルシア行くぞ!」

 

「うん」

 

涯はすぐにその後を追い出す。

いのりもすぐにその後を追おうとした。

「いのりーいのりー!!」

 

「なに?」

 

ルシアの声に振り返ると…。

 

「ぬ 抜くの手伝って…」

 

「………」

 

自分で埋め込んだ両足を抜こうと悪戦苦闘するルシアがいた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ーーくぁ…ぐ」

 

レディの爪先が集の額を掠める。

レディがカリーナ=アンのダガーを水平に切るのを、集は屈んで避ける。

集はレディから転がるように距離を取る。

 

「なに、威勢がいいのは最初だけ?」

 

「はぁ…はぁ…」

 

「もっとしっかりしなさいよ。本当にそれだけなら…そろそろ終わらせるわよ」

 

地面に転がる集にレディの眼光が鋭く光る。

 

(隙を見つけて半魔人化…?奇襲をかければどうにか…?

 

バカか僕は !!)

 

集は立ち上がると、再び強くナイフを握り直す。

 

(なにが半魔人なら勝機があるだ!!そんなの使ったって勝てる訳がない!彼女は僕なんかより何倍も強い相手と何年も戦っているんだ…今さら僕ごときーー)

 

レディの両手に特注のハンドガンが握られる。

(ーー落ち着け…。勝つことは出来いなんて分かってただろう…。今は出来るだけ隙を見つけることをーーー

 

瞬間、レディの姿が消えた。

 

「 ーー っ !!う お おおお!!」

 

集はほぼ直感で右前方を思いっ切り切りつけた。

 

しかし、その腕をレディはあっさり捕まえる。

 

「へぇーー、よく分かったじゃない」

 

そう言いながら、レディは無造作に集の手首に銃口を押し当てる。

 

銃声。

 

「ガ ア アア!!?」

 

「…へぇ…」

 

右腕電気ショックでも受けたかのような凄まじい衝撃を受け、集の口から絶叫が上がる。

右手首を抑え、もがく集にレディはまた" 感心 "する。

 

「そのコスチュームも特別ってわけね…」

 

集の着る葬儀社の服を見て言う。

レディの銃はダンテやネロのものと比べると小口径でコンパクトだが、それでも特殊部隊などで使用されているものだ。

 

人間の腕など重傷どころか再起不能な大穴を空けることなどわけない。

 

しかし、実際は集の腕だけでなく、服の袖も破れていない。

 

「いえ…これはちょっと…」

 

集は右腕の激痛に耐えながら、ナイフを左手に持ち替えて立ち上がる。

確かに葬儀社の服には防弾加工が施されている。しかしそれは急所となり得る胴体部分だけで、袖の部分は単に生地の厚い冬服といった感じだ。

そもそもその防弾加工も数発銃弾を受け続ければ耐え切れない。

 

集は修行の一環として衣類や銃や弾などと言った物品に魔力を注いでいた。

大きな目的は魔力を細かく制御するための修行で、銃弾を弾ける程の実用性のある防御力を衣服に与えるという目標を最終到着点としていた。

集はその目標のため、必死で魔力を服の繊維の1本1本に流し込んだ。

毎晩徹夜の甲斐あって結果、集の想像を遥かに上回る防御力を得た。

 

(正直、ちょっとした魔具レベルだな…これ)

 

もっとも、いつまでもつか分からないただ硬いだけの魔具など格下もいいところだが。

 

それでも自分でやっておいて集もこの結果には驚いていた。

 

魔力量は無くとも元の魔力が上等だからか、集の細かい作業が実を結んだのかは定かではないが。

 

「……分かりました」

 

「?」

 

「見せますよレディさん。どうせ中途半端な小細工じゃ通用しないでしょうし…」

 

「…へぇ、やっぱりなにか出し惜しんでたのね」

 

「本当は隙を見つけて逆転…てのを狙ってたんですけど。このままだとそうなる前にこっちに限界が来そうなので……」

 

集は目を閉じ、自分の内側に集中する。

「デビルトリガー…」

 

言葉をスイッチにゾッと集の纏う空気が変わる。

集の身体と魂が切り替わる。

レディは集の雰囲気が変わったためか、余裕の表情を消す。

集から赤い魔力が溢れ、銀髪紅眼に変わる。

そこで初めてレディが表情に驚愕の色が浮かぶ。しかし動揺というほどのものではない。

 

「驚いた…あなたいつの間にそんなこと出来るようになったの?」

 

「……行きます」

 

「ーーー」

 

レディからの質問にも会話にも集には応えてられるほどの時間がない。

集は両足から力を解き放つ。残像を残し、集はレディを肉迫する。

 

「!!」

 

突然目の前に現れた集にレディは目を見開く。しかし動揺に固まるようなことはなかった。

レディは集の突きを、身体を背後に限界まで反らすことで回避する。そのままの勢いで、レディの足が集の顎を捉えようとする。

集は突進した姿勢と勢いを保ったまま身体を反らし、レディの足を避ける。

集の身体は冗談のような勢いのまま、壁まで飛んでいく。

集は壁を蹴ると、再びロケットのようにレディに突進する。

 

レディは集の突進を回避すると同時に、集は地面を踏み割り自分を中心に何本もの亀裂を作るのと同時にお互いの武器をぶつけ合う。

二人はお互いに何度も武器をぶつけ合い、その度に閃光のような火花が散る。

集もレディもお互いの攻撃をぶつけ合いながら、お互いに致命的な隙を見逃すまいとしている。

 

「ごっーーく!!」

 

レディの左脚が丸太のように集の脇腹にめり込む。

集は込み上げる吐き気を抑えながら、レディの左脚を抱えるように掴む。

 

「ぜぇええ!!」

 

そのままレディを投げ飛ばす。

が、レディは地面に叩きつけられる前に手の平を地面に着け、身体を支える。

 

「!!」

 

レディは両足を集の首に絡ませ、逆に集を投げ返す。

集は両足を振り解くと、地面に転がるように着地する。

 

レディはカリーナ=アンのダガーを集に向けて薙ぎ払う。

 

集は高く跳びダガーを飛び越えると、天井を蹴るとレディに向かって飛ぶ。

レディが再びダガーで斬り付けるのを集はナイフで防ぐ。

 

「甘い!!」

 

「ぎぐーっ!!」

 

レディは集の着地を待たず、回し蹴りが集の右頬を捉える。

 

集はレディに蹴り飛ばされながらも、何とかバランスを取り戻しながら着地する。

 

「ーーっ」

 

蹴り飛ばされた右頬が熱を持つ。

口内で千切れた頬の肉の感触が血の味と共にする。

 

顔を上げると、レディの手の平に手榴弾が握られているのが見える。

 

「またか!!」

 

「ほら、上手く逃げなさいよ!!」

 

レディはピンを外すと、手榴弾を集に向けて蹴り飛ばす。

 

「ーー!!」

レディは手榴弾に空中で銃を撃ち込んだ。

当然、手榴弾は空中で爆発する。

 

「ぐっーー!」

 

手榴弾の爆炎と轟音に一瞬集の感覚が塞がれる。

 

「……ーーっ!!」

 

飛んで来る破片を魔力で防ぎながら、集は数歩遅れて気付く。

 

無数の小型ミサイルが自分を目掛けて飛来するのをーー、

 

「しまっーー!!」

 

完全に先手を取られた。

カリーナ=アンに三つの武器が付いている。正面の砲筒からのロケットランチャー、ワイヤーの付いたダガーを射出する砲筒の下部。後方のポッドから発射する小型ミサイル。

 

ミサイルが飛来する向こうで、レディはカリーナ=アンのダガーを地面に突き立て、後方のハッチを開いている。

 

「くっ!!」

 

集は最初に目の前に来たミサイルをバク転で避ける。

 

ミサイルはそのまま地面で爆発し、コンクリートを砕く。

 

集は続けざまに飛んで来るミサイルを同じくバク転や、屈む、ジャンプ、身体を反らすなど、持てる回避技術をもって避け続けるが、ミサイルは意志でもあるかのように集を追い詰めていく。

 

「ぐあっ!!」

 

飛んで来た破片が集の足に直撃する。

半魔人化のおかげでダメージは少ないが、そのせいで完全に集は次の動きに出遅れた。

集の逃げ道をふさごうとしているかのように、数発のミサイルが集を取り囲む。

 

「ーーはあ!!」

 

集は自分の周囲にヴォイドエフェクトを発生させ、周りのミサイルの軌道を歪める。

ミサイルはあらぬ方向に飛んで行き、爆発する。

 

ふーっ と集は息を整える。

 

「ーー!!」

 

塵と煙の向こうから急速に接近する気配に気付く。

集は煙幕の向こうから飛び出して来たダガーの突きを素手で摑まえる。

 

「さっきのは偶然じゃあ無いみたいね…。安心したわ、随分腕を上げたじゃない」

 

「…………」

 

集はダガーを強く握りカリーナ=アンを固定する。

 

それからレディの額に向けてナイフを投擲しようと、ナイフを振りかぶる。

 

レディはカリーナ=アンから手を離し、後ろに飛んだ。

 

「ーー!?」

集はレディの動きに目を見開いた。

レディがカリーナ=アンを手放すのは予想外だった。

てっきりダガーのワイヤーを伸ばして、そのままカリーナ=アンでの攻撃に移ると思っていた。

さらに言えばカリーナ=アンはレディの主戦力であり最も長く愛用している武器でもある。

自身の母親の名を付けるほどで、もはやレディの半身と言っても過言ではない。

しかしレディの顔は武器を手放す苦渋の決断をした人間の顔では無い。余裕に満ちた目をしている。

 

なにか企んでる。

集は直感的にそう感じたが、すでにナイフの投擲はもう止められない。

 

ふと、レディが左手で妙な動作をした。

 

まるで糸でも引くようなーーー、

 

「!!」

ナイフがレディに向けて飛ぶ。

それと同時に集はカリーナ=アンを放り投げる。

レディのこめかみに吸い寄せられるように飛ぶナイフをレディは顔を軽く傾けるだけでかわす。

 

集は放り投げたカリーナ=アンのトリガーに、細いワイヤーが結んであるのが見えた。

 

カチンッという引き金が引かれる音が聞こえた気がした。

 

カリーナ=アンの砲筒からロケットランチャーが発射される。

ロケットランチャーは集の真上の天井に命中し、爆発する。

 

「があーーっ!!」

 

大量の瓦礫が集に降り注ぐ。

巨大な破片が背中にいくつもぶつかり、骨が軋む。半魔人化してなければ骨が何本折れていたか分からない。

瓦礫が額の皮を削り取り血を噴き出させる。

 

集は必死に降り注ぐ瓦礫の雨から抜け出る。

 

ジャキッ と聞き慣れた撃鉄が上がる音が聞こえた。

 

「ーーっ!!」

 

両手をクロスさせて顔の前に盾にする。

ヴォイドエフェクトを出す余裕はなかった。

 

既に用意している鎧を盾の代わりにする。

 

まるで機関銃のような速度で2丁拳銃が連射される。

鉛玉は顔の前に覆っている腕の袖で弾かれる。

 

「ーーーあづっ!!」

 

鉛玉が腕にぶつかる度に、集の脳に芯まで激痛が響く。

弾かれた弾丸が肩や脇腹を裂き、血が溢れる。

 

「くっ!」

 

袖も徐々にズタズタに裂けていく。

歯を食い縛って耐える。

 

「言ったでしょ?集中力があるにしても度が過ぎるって」

 

「え?」

 

ほぼゼロ距離からレディの声が聞こえた。

 

「ぐがっーー」

 

直後に腹部に衝撃を受け、集は瓦礫の近くまで吹き飛ぶ。

 

集を蹴り飛ばしたレディはカリーナ=アンを回収する。

 

「あぁ…がっ!」

 

集は身体中の激痛に悶えて初めて自分の半魔人化が解けていることに気付いた。

 

「まぁ、なかなか楽しめたわよ?」

カリーナ=アンを背負い、手の平で銃をクルクルと弄びながらレディは集に歩み寄る。

 

「ーーぐっーー」

 

集は身体を起こそうとするが、両腕は血で染まり、両袖と同じ様に傷やアザでズタボロになり全く思い通りに動かせない。

指先を少し動かすだけで耐え難い痛みが押し寄せる。

 

「ーーああああ、ぐぎぁあーー!!」

「……どうする?今諦めて降参すれば、五体満足で捕まえてあげるわよ?」

 

「!!」

 

レディは静かに尋ねる。

集は痛みに耐えながら、身体をゆっくり起こす。

 

「………」

 

そして言葉の代わりに、目で伝える。

戦いに負けたというのに心でも負けたら、この先ダンテにも目の前のレディにも合わせる顔が無い。

額から血を流し、両腕は使い物にならないほど傷だらけ、それでも折れるわけにはいかない。

 

「そう…」

 

言葉がなくとも集の意志ははっきりレディにも伝わった。

目を閉じると、また静かに開く。

 

「じゃあ、命があることを祈るのね」

 

集の足がまた強く地面を踏む。

 

 

 

「…?」

 

「…なんだ?」

 

ふと集は通路の向こう側から近付いてくる音と気配に片眉を上げる。

 

シャーという氷の上を滑るような音だ。

(涯…?いやーー、)

 

レディもその気配に気付き、背後を振り返る。

 

音はだんだん近付いて来る。

 

「……あれは!!」

 

そして目視出来る距離まで二つの背びれが来たところで、二人はその音の正体に気付く。

 

「くっ!!」

 

「ふっ!」

 

二人は左右反対の方向へ飛び退く。

 

レディは難なく回避したが、ほぼ体力が限界のうえ両腕がまともに動かない集は着地と同時に転倒する。

 

カットラスは二人の間を素通りすると、集の背後にあった瓦礫を両断しながら通り過ぎて行く。

 

「あれは、カットラス…?

ーーっ!いのり、涯、ルシア!」

 

「待ちなさい!」

 

よろよろと立ち上がり、カットラスが来た方向へ走り出そうとする集をレディが呼び止める。

 

「あなた…"どこまで "知っているの?」

 

「……詳しいことはまだ何も…。ただこれだけははっきりしてます。

GHQの中に悪魔を利用している人間がいる…。僕はそれを突き止めたい…」

 

「………」

 

レディは少し険しい表情で集を見る。

 

「シュウ!」

 

「集!」

 

「しゅう!」

 

いのり、涯、ルシアの声に集の顔が綻ぶ。

たった数分の別れだったが、もう何年も聞いていなかった気がした。

 

「みんな…無事でよかった」

 

「シュウ、ひどい怪我!」

 

「ヘーキ…じゃないけど……、大丈夫だよ。みんなは怪我は無い?」

 

「ん、かすり傷」

「そっか、無理しないでね。

…作戦は?」

 

「はじまりの石は奴らに奪われた。奴らは地面に潜る。

何か見なかったか?」

 

「うん、そいつらならさっき通り過ぎたよ」

 

「そうか、ならすぐ追ーー「行かせると思うの?」

 

「え…?」

 

「………」

 

集がレディに振り返ると、レディは四人の退路を断つように通路の真ん中に立ち塞がっていた。

 

「…レディさん、どうして!?」

 

「………」

 

「さっき言ったじゃないですか!GHQに悪魔を利用する奴らがいるって!!レディさんも見たでしょ!?」

 

「ええ…そうね、でもそれは今は関係ないわ」

 

「か 関係ないって…。どういうことですか!?」

 

「言葉通りよ。依頼主が何者だろうと、何をしてようと、何を企んでいても今は関係ないわ」

 

レディは銃をまっすぐ集を突き付ける。

 

「個人的な感情で引き受けた依頼を途中を投げたりしないわ。

それは依頼主への裏切りよ…そこの尺度は弁えてるつもりよ」

 

「………っ」

 

集はもう何も言えなかった。

レディに何を言っても彼女は折れない。

 

「そうゆう事よ。覚悟しなさいシュウ」

 

レディの引き金に掛ける指先に力が込もる。

 

「!!」

 

「シュウ下がって」

 

「………」

 

「そっちこそ覚悟してもらおう…。手加減は出来んぞ」

 

集を庇うようにいのりとルシアと涯が前に出る。

1秒後には殺し合いが起こってもおかしくないほど、ぴりぴりと張り詰めた空気が場を支配する。

 

ピピピピ

 

沈黙には不釣り合いの電子音が辺りに響き渡る。

 

レディは無言でポケットから携帯を取り出すと耳に当てる。

 

「………」

 

数秒間そのまま耳に当て続けた後、レディから震えるような闘志が消える。

レディは集達から銃を下ろす。

 

「行きなさい」

 

「えっーー?」

 

「どういうことだ?」

 

レディの突然の言葉に集と涯は眉を寄せる。

「依頼主から連絡があってね。

依頼は終了、私の仕事は終わったわ。

後は好きにしなさい」

 

「「「「………」」」」

 

四人は顔を見合わせる。

 

最初に涯が走り出し、その後をルシアといのりが続く。

集も後に続こうとし、レディの側を通り抜けて振り返る。

 

「レディさんはこの後どうするんですか?」

 

「………」

 

レディと悪魔には浅からぬ因縁がある。

悪魔が絡めばレディも我関せずという訳にはいかなくなる。

 

しかし、この件に関われば葬儀社のようにレディもGHQから追われる身になる可能性がある。

 

「私の仕事は終わったわ…」

 

レディは振り返らずに言う。

 

「だから、ここからは個人的に動かさせてもらうわ」

 

「…………」

 

相変わらず飄々とした言い方だったが、その言葉には怒りの感情と不屈の意志が入っているような気がした。

 

集は前に向き直ると、いのり達を追って走り出す。

 

レディの方へはもう振り返らなかった。

 

 

 

 

 




あっ、
今さらですけどギルティクラウンのBlu-rayBOXの発売されましたね。

おめでとうございます

まだ観てないよって方は是非

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