ギルティクラウン~The Devil's Hearts~   作:すぱーだ

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皆さんあけましておめでとうございます。

と言うべき時期はとうに過ぎ去り、寒風吹き荒れる肌寒い時期。
いかがお過ごしですか?
風邪などに気を付けて過ごしましょう。


感想のところで" 嘘界が虚界になってます "という指摘をもらい、早速直そうと思ったのですが…あまりにもその量が多いこと多いこと。

次から気をつけるので、今のところはそれで許して下さいお願いいたします。




#30心愛〜Luna〜

 

GHQ本部のクリスマスツリーのような形をした骨組みだけの建築物がよく見えるビルの階層で、ダリルは白いタキシードを着て貸し切ったレストランの席に座り、父の到着を待っていた。

 

今日はダリルの誕生日だ。ダリルが父と二人で過ごせるのは自分か父の誕生日くらいだったが、去年は父の仕事が忙しくなり、今年こそはと約束したのだ。

 

(まだかな…)

 

そそっかしい父は毎年自分へのプレゼントを忘れてしまうのだが、今年こそはプレゼントを用意してくれるだろうとダリルは思っていた。

 

「お客様」

 

ダリルは無邪気な子供のように、父の到着に無邪気に胸を躍らせていると、ビルの支配人が険しい表情でかがんでダリルに囁いた。

支配人が告げた言葉にダリルの瞳が大きく見開らかれる。

 

「ご注文はありますか?」

 

「……いらないよ」

 

ホテルのスタッフは一礼すると下がっていった。

 

ダリルは静まり返った広々としたフロアのテーブルの下で、膝に置いた手を強く握りしめた。

 

「………っ!」

 

手の甲に強く噛んだ唇から血が滴り落ち、滑り落ちた雫が白いズボンを赤く滲ませた。

 

「本当によろしいのですか?ご子息との約束を反故されて…」

 

耳から携帯を離すヤン長官に、後ろの秘書官の女性が尋ねる。

 

「なにかまわんさ。アレの母親はよくない女だった。君と違ってな」

 

秘書官は まぁ とわざとらしく驚き、ヤン長官の手に指を這わせる。

 

「アレの尻拭いはもうたくさんだ。どうせなら母親と共に死んでくれればよかったのだ」

 

「いけませんわ。そんなことを言っては」

 

秘書官はどこか勝ち誇ったように言うと、踵を上げ、ヤン長官の唇に自分の唇を近付けた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

大島の山頂上近くに、集がいのりと颯太を呼び出すポイントとして指定した展望台がある。

そこからそう離れていない場所に今回の目標である神社に偽装された研究所がある。

 

集はそこに植えられた木の根元にルシアと共に隠れている。

その視線の先に颯太を待ついのりがいる。颯太が来たら、ここからいのりが涯に指定されたポイントに連れ込むことになっている。

 

涯には何故二人を直接そこに呼ばなかったか訊かれたが、『夜暗い神社に呼び出すのは不思議だと思ったから』と漠然とした返答をした。

 

本当の理由は違う。本当は" 彼女 "に感づかれるのを集が恐れたからだ。誰にも話していないが今、集は尊敬する師の一人と敵対しているのだ。

彼女のことを知らない人間に話しても、数だけで見れば、" たかが一人の兵士 "だ。作戦の変更はありえない。

 

警戒し過ぎてし過ぎてということはない。集は少しでも彼女に感づかれるリスクを減らしたい。

 

「ーー…」

 

集は意識をいのりに向ける。

 

颯太はまだ来ない。

ルシアは待ち飽きたのか、指先で土いじりを始めた。

この位置からではベンチに座るいのりの後ろ頭くらいしか見えない。

集は別荘を出る前の事を思い返した。

 

 

 

食堂でメンバーと共に食事した後の事。

集は腕によりをかけてメンバー達に料理を振る舞ったが、食堂は終始重い空気だった。

颯太だけは興奮しているのか、どんな服や髪型がいいか集に仕切りに聞いてきた。

 

何度かいのりに話しかけるが、いのりは必要最低限のことしか答えない。心なしか口数も少ない気がした。

 

(これは本当に怒らせちゃったな……)

 

少し前にも似たようなことがあったが、さっき足を強く踏まれたので、今回は間違いなく怒っていると集は思っていた。

 

「ねえ集…」

 

食器の片付けをしていると、祭が耳打ちをしてきた。

 

「さっきから様子がおかしいけど…いのりさんに何かしたの?」

 

「うっ……」

 

言葉につまる集を見て、祭はやっぱりと半目で集を睨む。

 

「どうせ自分が何やったかよく分かってないんでしょ?…(いっつもそうなんだから……)」

 

「……う…うん。なんで怒らせちゃったかな…?」

 

最後の部分は集はよく聞き取れなかったが、聞き返せる空気ではなかったので、頭を掻きながら祭に助言を求める。

 

「えっ?」

 

すると祭は目を点にして集に顔を見る。

 

「怒ってる?」

 

「?」

 

「悲しそうに見えたんだけど…。集には怒ってる様に見えたの?」

 

「……え?」

 

祭の言葉に思わず、さっきいのりが出て行った食堂の出入り口を見た。当然、すでにいのりの姿は無い。

 

祭にどういうことか聞きたかったが、聞くことが出来なかった。

誰かにたずねてはいけない気がした。

 

 

 

 

「しゅう…来た…」

 

隣のルシアの声が集の意識を引き戻す。

ルシアの指す方向を見ると、颯太らしき人影が見えた。

 

ベンチに座るいのりに視線を移す。

相変わらず後ろ頭しか見えない。祭に言われた事を確かめたいが、変に動くとさすがの颯太も気付くリスクがある。

 

「………」

 

集は動きたいのをぐっと堪え、事の成り行きを見守る。

 

「いやーごめんごめん。待った?」

 

颯太は片手を上げながらいのりに駆け寄る。

 

「待ってない…」

 

いのりは静かに答える。

 

 

 

「………」

 

いのりの様子がいつもと違うのは分かる。

しかし祭の言う様に悲しんでいるのかどうかはよく分からない。

 

(悲しそうか…)

 

 

「ほ 星が綺麗だよね…。東京じゃあ滅多に…ってここも東京か…」

 

「………」

「いのりさんに見せたいものがあるんだ」

 

颯太はいのりの隣に腰掛け、できるだけいのりと密着するように接近すると、ポケットから端末を取り出す。

 

「俺、EGOISTのpv見てすごく感動してさ。自分で作ってもみたんだ」

 

そう言うと颯太は端末を操作して、映像を再生させると端末から流れるいのりの歌声が静かに空気を震わせる。

 

「いのりさんの曲に合わせて編集してみたんだ。どうかな?」

 

「………」

 

「いのりさん…?」

 

「…うん、綺麗だと思う…」

 

 

 

『これ…あなたが…?』

『…そっ、そうだけど』

「………」

 

集の頭の中に、いのりと初めて出会った時に交わした言葉が記憶の中から蘇る。

 

『きれい…』

 

「ーー…っ!」

 

その時にようやく集の中で祭の言葉が実感として形になった。

 

あの時と違う…。

いのりの声にとても寂しそうな色が刺している感覚がする。

 

自分は涯をはじめとする葬儀社のメンバーと比べれば、まだいのりと接した時間も短い。それでもいのりの事は十分理解したつもりでいた。

 

「馬鹿か…僕はっ…!」

 

膨らみ続ける怒りを抑えきれず、僅かに自分への罵倒が口からあふれる。

集は叫びだしそうな衝動を、右手で胸を抱くように抑え込む。

 

ーーーいのりならきっと颯太を上手いことはぐらかしながら、任務を果たすだろう。彼女ならこちらの意思を察して、これは任務だと理解し最良の選択をするだろう。ーーー勝手にそう思い込んでいた。

 

集は当たり前に分かっている事を、肝心なところで理解出来ていなかった事にようやく気が付いた。

 

いのりはエゴイストのボーカルであり、レジスタンス組織の葬儀社のメンバーであり、

 

そして、何処にでもいる普通の少女だ。

祭や綾瀬達と何も違わない。ただの17歳の女の子なんだ。

 

 

 

 

「い…いのりちゃん!!」

 

颯太は立ち上がると、いのりの前に立つ。

いのりは颯太を見上げ、次の言葉を待っている。

 

「俺…いのりちゃんの事まだ良く知らないけどさ、歌っている君にすっごく感動したのは本当なんだ!!」

 

いのりの瞳には颯太が写っている。しかし颯太を見ている訳ではない。

いのりはまだあの廊下での出来事が、彼から離れていく時に見えた夜空の光景が見えていた。

任務だと自分に言い聞かせ、時間が経つにつれ、彼の顔を見るたび胸を裂くような痛みが強くなっていった。

彼への気持ちに気付き、その事を考える度に感じていた高揚に近い鼓動とは正反対の気持ちだった。

 

『これは、なんなのだろう』

そう考えるだけで眼球が溶けそうになる程熱くなり、喉に何かがせり上がってくる。

 

「いのりちゃんの事もっと知りたい!!」

 

 

 

「っ!!」

 

颯太の声が聞こえた。

 

行かなければ。

今何もしなければ、いのりとは二度と心を通わすことが出来ない。

そんな予感があった。

 

「しゅう…?」

 

木の陰から飛び出した集はそのままいのりと颯太の方へ走り出した。ルシアはそんな集を見て疑問符を浮かべる。

 

「お俺…いのりちゃんの事が……す……すーー」

 

「待って!!」

 

声のする方を見ると、集が息を切らしながら立っていた。

 

「なっ!集!!」

 

「え…?」

いのりは瞳を見開いて集を見る。

「お前なんで…!!」

 

「颯太!ごめん!!」

 

「ぐ…うわああ!?」

 

集はそう言うと、ヴォイドの紋様が浮かび上がった右手を颯太の胸に差し入れた。右手は銀色の閃光を瞬かせながら颯太の身体の中に沈み込む。

見慣れたヴォイドを取り出す時の現象だ。

 

右手を抜くと、銀色の糸状のものが形を成し、意味を内包させる。

光が収まると、集の右手にはロボットの頭部のような形をした颯太の" カメラ "のヴォイドが収まっていた。

 

「………」

 

「……シュウ、どうして……」

 

集はしばらく倒れた颯太を罪悪感のこもった目で見た後、いのりに向き直る。

「いのり、ごめん!!」

 

「え?」

 

集はいのりに向かって頭を深く下げる。

 

「僕、勝手にいのりの事理解したつもりでいた!自分の事ばかりで、いのりならこうだろう、いのりはああやるだろうって、勝手に決め付けて、それでいのり事分かったつもりでいた!!」

 

「ーーー」

 

「いのりの気持ちなんか全然考えてなかったんだ!自分勝手に僕だけの価値観でいのりを計って、それで満足してた!!」

 

「シュウ…」

 

いのりはベンチに座ったまま、集のうなじを見つめる。

 

「馬鹿だった。ごめん!僕は…いのりの事をもっと知りたい!!」

 

「…!」

 

いのりの瞳が僅かに潤みを帯びる。

胸からさっきとは違う熱さが溢れてくる感覚がする。

言おう、何か口に紡げば…きっと何か伝わる。

 

いのりは集の言葉に何か応えようと口を開こうとした時、草木を揺らす音で現実に引き戻された。

 

「あ!」

 

「ん?」

 

見るとツグミが木に逆さにぶら下がりながら、ニヤニヤとこちらを見ていた。

 

「へ、ツグミ…?なんで?」

 

「" ボクは!いのり事を!もっと知りたいんだ〜!! "」

 

「いーー!?!?」

 

ツグミは両手を組み合わせ、わざとらしく芝居がかった口調で先ほどの集のセリフを復唱する。

 

「ま…まさか…、どこから…?」

 

集は羞恥で顔を真っ赤にしながら、どのような答えが返ってくるか分かっていながら、集はツグミに尋ねる。

 

「さ・い・しょ・か・ら!!」

 

ツグミの代わりにヤケクソ気味の声が何もない空間から響いた。

 

「え、綾瀬!?」

 

声のした方へ視線を送ると、綾瀬が仏頂面でステルス迷彩のマントを脱ぎ捨て、姿を現した。

 

「まる聞こえだったわよ…」

 

そう言って集を睨み付ける。

 

「おい何やってんだ!こんなところで引き抜いてるんじゃねえ!」

 

「アルゴ!?大雲さん!?」

 

暗闇からアルゴと大雲を先頭に葬儀社メンバー達が姿を現す。

全員、集に向けて口笛や手を叩いて冷やかす。

 

「想定外の事態です。どうしますか涯?」

 

「プランの変更は無しだ。このまま行く、いいな?」

 

更にどこからともなく涯と四分儀が姿を現す。

 

「が…涯?四分儀さんまで…」

 

「情に流された行動は感心しませんね」

 

「罰だ。そいつはお前が運べ」

 

涯が颯太に顎を向けて言う。その後すぐメンバー達の元へ歩いて行くとキビキビと指示を与える。

涯の背中を見ながら集は全力で海に飛び込みたい衝動にかられた。

 

「ま…まさか、みんな聞いてたんじゃ…ーー」

 

「当たり前でしょ?」

 

脂汗を顔中に浮かべる集に綾瀬が冷たく言い放つ。

 

「………」

 

「ーー!」

 

いのりに助け船を求めて視線を送るが、いのりは集と顔が合いそうになると、顔を背けて背中を見せてしまった。

 

(…なんか振り出しに戻った気がするのはなんでだろう……)

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「はぁ〜〜」

 

階段を登りながら、集は憂鬱気味なため息をついた。

もちろん背中の颯太に対してでは無く、さっきの自分の失態に対する物である。

 

「………」

 

その前をいのりが歩く。

やはり後ろ姿では今の彼女が何を思っているのかを知るのは困難だ。

 

「その…いのり…さっきは任務の邪魔してごめん。どうしても…っていうか…我慢出来なくなって…」

 

「なんで…?」

 

「なんでって……えっとーー」

 

" 今度は怒ってるかな…? "と集はいのりの様子を慎重に探りながら話しかける。

 

「ーーーいのりが何処かに行ってしまう気がした…からかな?」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

「…………(何か言ってくれ!)

 

沈黙の気まずさに耐え切れなくなった集は心の中で叫ぶ。

 

「えっと、いーー「行かないよ?」

 

集の言葉を半ば遮るように言ういのりに集は思わず立ち止まり、彼女を見上げる。

 

振り返り、淡い月明かりに照らし出されたいのりは、初見なら幽霊と見間違いかねない程に現実感のない幻想的な雰囲気に包まれていた。

 

「私は、どこにも行かないよ?」

 

「ーーーーー」

 

そう言ってくれる彼女に、集は何一つ言葉を返すことが出来なかった。

見惚れていた。

触れたら消えてしまいそうな透明感は、彼女のシミ一つない白い肌がさらにその雰囲気を強調させている。

 

「…私、シュウのそばから…離れたりしないよ」

 

そう言って彼女は自分でも無意識の内に集に微笑みかけていた。

 

純白だった彼女の両頬に薄く刺す朱と、柔らかな笑みで、彼女は確かに存在する少女なのだと集は強く実感することが出来る。

 

「……うん、ありがとう」

 

集もいのりに微笑み返す。

月明かりの下、まるで二人しかいないような世界があった。

 

 

 

 

「う〜〜」

 

「!」

 

集のお尻の下から仔犬のうなり声のような声が聞こえ、集が下を見下ろすとヴォイドのカメラを持ったルシアが二人を恨めしそうな目で睨んでいた。

 

「ど…どうしたのルシア?」

 

「………分かんないけど…なんか面白くない」

 

「え?」

 

「今のしゅうといのりを見てると…なんかちょっとイヤな気分になる」

 

「イヤな気分?」

 

「しゅうにはあまり感じないけど…いのりを見てるとなんかイヤ……」

 

「私?」

 

ルシアの言っていることがよく分からず、集といのりはお互いに顔を見合わせて首を傾げる。

 

「ほら…また、やっぱりムカムカってする」

 

「僕にもする?」

 

「ううん。やっぱりいのりにする」

 

「…私、なにかした?」

 

いのりは困惑の表情を浮かべる。

 

「いのりと一緒に居たくないっとかは思わないけど……。しゅうといのりが話してるところを見ると…なんか……イヤ」

 

「あっ、ルシア!!」

 

ルシアの言葉が後半になる程小さくなっていったかと思うと、ルシアは突然、猛スピードで階段を駆け上がっていった。

 

「なんなんだ?」

 

二人はやはり一緒になって首を傾げた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

施設の前に見張りは無く、涯や集達は想像以上に楽に玄関口に立つ事が出来た。

 

ちなみに意識の無い颯太はここから少し離れたメンバー達の車両で休ませている。

これも変に目撃者を出すことや颯太自身の身体に気遣ってのことだ。もちろんヴォイドを返す時は何事も無かったかのように振る舞うのだが…。

 

「警備の目は問題無い。が、問題は内部だ…。集そのカメラでゲートを撮れ」

 

「うん分かった」

 

集は涯の言う通り、カメラを施設の扉に向けて構え、シャッターを切る。

 

パシャッというシャッター音と共に、カメラから閃光が放たれると、ロックが外れる音がしたかと思うと、さっきまで厳重なロックがかかっていたはずの扉は何の抵抗も無く開いた。

 

「これがこのヴォイドの能力…?」

 

「そう、魂館颯太のヴォイドは閉ざされたものを開くヴォイドだ」

 

涯は行くぞと手で合図すると扉をくぐる。その後を集といのりとルシアが続く。

 

その後も封鎖された扉が現れたが、カメラのヴォイドのおかげで難なく通ることが出来た。

 

(なんで颯太からこんなヴォイドが出たんだろう…)

 

集はヴォイドを使っていく内にそんな疑問が湧き始めた。

しかし、今はそんなことを考えている場合では無いと集は神経を集中させながら施設の奥へと進んでいく。

 

「………妙だな」

 

やがて涯がポツリと漏らす。

 

「なぜ内部に一人も見張りがいない…。兵士は何処へ消えた…」

 

「罠?」

 

「かもしれない…」

 

いのりの言葉に涯は立ち止まり、考え込む。

出直すかどうか考えているのだろう。

 

しかし集には見張りがいない原因が分かる。

" 彼女 "が他の兵士を除かせたのだ。

確信があった。何故なら彼女の隠そうともしない闘気が奥から流れて来るのを感じるからだ。

過去に何度も浴びた記憶のある、ダンテに勝るとも劣らない圧倒的な存在感。

 

「……」

 

ルシアに目を向けると、ルシアは落ち着かない様子で周りを見渡している。

彼女も何か感じ取れるのだろう。

 

「…涯このまま行こう…。この先に待ってる見張りは一人だ」

 

「なに?」

 

「シュウ?」

 

「たぶんその人は僕の師匠だ」

 

集は怪訝な顔で集を見る二人に振り返り言った。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

歩くたびに" 彼女 "の気配が近付くのが分かる。

もうロクに離れていない。

作戦の目標がある場所も、そこからいくらも離れていない。ここに来るまで、散々横道に通じる用のない通路を目にしたが、そこにたどり着くには絶対に避けて通れない合流地点のようなものがある。

 

集の予想通りーーー、

 

 

「こんばんは" ソウギシャ "。あなた達も運が無いわね…」

 

彼女はそこに悠然と立っていた。

 

「今日、ここに来てしまうなんて…」

 

「……レディさん」

 

集が一歩前へ出る。

 

「……こんばんはシュウ、やっぱりあなたが来ると思ってたわ。会った瞬間にね、なんとなくそう感じたわ」

 

「……じゃあ、僕が何しに来たかも分かってますよね?」

 

「………」

 

あまりにも静かだった。耳が聞こえなくなったのかと思う程、周りも静まり返り、ひたすら緊張だけが場を制圧する。

 

「私に勝つ気?」

 

「勝てるなんて思ってません」

 

集が腰に収めていた長めの刃渡りのナイフを抜と、レディに向かって構え、腰を落とす。

 

「……全然、そんな風に思ってるように見えないわよ?」

 

レディは集に微笑みかけながらそう言う。微笑み、飄々とした佇まいだったが、その眼はギラギラと光を放つ狩人そのものだった。

 

「涯、今の内に…。一秒でも長く持たせるから…」

 

「全然足りん。10分はもて」

 

「ーー、了解」

 

涯とそう短くやり取りした直後、集は全身のバネから力を解き放ち、電車にもひけを取らない速さでレディを肉薄する。

 

レディに向けて振り抜いたナイフは、彼女が背負うランチャー『カリーナ=アン』に容易く防がれる。

 

レディはそのまま集を押し退け、集もそのまま距離を放す。

 

その後ろを涯といのりとルシアが走り去る。

 

「…勝機はあるって眼ね」

 

集はレディとの修行で、彼女のほとんどの手は知り尽くしている。

彼女がそう簡単にスタイルを変える人では無い事は、集が一番よく分かっている。

おそらく彼女の方もそう思っているだろう。

だが、今の集にはヴォイドそして半魔人化≪デビルトリガー≫がある。

 

と言っても今の集ではヴォイドエフェクト以外にヴォイドの力は無い、さらに半魔人化に関しても真正面からぶつかっても、簡単に押し負けるだろう。

 

やはり半魔人化を発動するタイミング、奇襲が成功するように発動しなければ勝機は無い。

 

ヴォイドエフェクトは盾や足場にはなるが、もし考えなしに使用してレディに" 他にも何かあるかも知れない"と警戒されれば半魔人化の奇襲は成り立たない。

やはり使うにしても半魔人化と併用する形になる。

「見せてみなさいシュウ、五年間のあなたを」

 

「っーー!」

 

レディのそれは、集に対する期待の言葉だった。

 

 

 




今回のあのシーン…
集さんは祭の指摘が無かったら、終始いのりは怒ってると思ったままで終わってたでしょうね。

やったね!バッドエンド回避!

次回は負けイb ry)

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