ギルティクラウン~The Devil's Hearts~   作:すぱーだ

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本作の時系列は、

3→1→アニメ→ダンテが集を拾う→4→本編→2?

といった具合です。
本作は4の七年後という設定です。


……こういうことはもっと前から言っておくべき事であるような気もしなくは無い




#28夏日〜spiritual home〜

7月も後半に入り、世間は夏休みに賑わっていたが、葬儀社の日常に大した変化はなかった。

レジスタンスに休みがないのは当然とばかりに、全員いつも通りの緊張感を持って過ごしている。

実際、メンバーで夏休みを楽しもうとしている者はいない。

 

「綾ねえ!どの水着がいいと思う?」

 

約1名は全力で楽しむ姿勢だが……。

 

「ちょっとツグミ、遊び行くわけじゃないのよ?」

 

「え〜?だって観光客に扮して行くんだよ?楽しもうっていうスタイルじゃないと、浮いちゃうんじゃない?」

 

「……それは、そうだけどーー」

 

ツグミのいうことにも一理ある。レジスタンスに限らず、潜入する者にとって目立たないことは最低限の事柄だからだ。

 

「だからさ〜ずばっと気合い入れて行こうよ!綾ねえがその気になれば道行く人々の目も釘付けなんだから!」

 

「……てっそれ、結局とけ込めてないじゃない!!」

 

どこから持って来たのか、ツグミは足元のダンボールからビキニやらフリル付きやワンピースタイプの水着を引っ張り出す。

 

綾瀬はそれをため息混じりで見ていた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「…………」

 

「…………」

 

集と涯はお互いに向かい合い、チェスの盤上を睨んでいた。

 

集は夏休み前から時間を作っては葬儀社のアジトに顔を出し、ビリヤードやボードゲームで涯と対戦している。

 

「………」

 

「ーーっ!」

 

涯が駒のひとつを摘み、盤上を移動させると、集の顔があからさまに引きつる。

 

ビリヤードやボーリングならいざ知らず、ボードゲームやカードゲーム等で集が涯に勝てた回数は皆無に近く、集は苦汁を飲まされる結果となった。

 

どうやら今回もその例にもれないようだ。

 

「……ねえ」

 

集は顔を上げる。

 

「どうした?」

 

「いや、改めて考えたら少し気になったから聞きたいんだけど。ルーカサイトについてさ………」

 

「なんだ改まって」

 

「いや…ルーカサイトって必要なのかな?って……」

 

「どういう意味だ?」

 

「そのままの意味だよ。涯は言ったよね。ルーカサイトはウイルスに感染した日本人を外へ出さないための檻だって」

 

「それが?」

 

「確かに…あれなら" 人間 "の出入りなら防げると思うんだ。だけど海の水は?魚は?鳥は?空気は?ルーカサイトは確かにすごい兵器だけど…それだけでウイルスを完全に閉じ込めるなんて不可能だと思うんだ。他になにかウイルスに対する手段があるか…それとも…」

 

 

「あれはウイルスを閉じ込める檻以外になにか役割がある。つまりはそう言いたいわけだな?」

 

集は頷く。

涯はしばらくアゴに手を当てて考え込む。

 

「……そうだな、お前には話しておこう……」

 

「?」

 

「あくまでウワサ程度のものだが…。GHQを影で操っているという秘密結社が存在するらしい」

 

「秘密結社って…フリーメイソンとかイルミナティとかああゆう?そいつらがルーカサイトに関係するの?」

「それは分からん。" ダアト "という。結成人数も目的も、それどころか本当に存在するのかどうかも一切が謎に包まれている」

 

「………」

 

意外だった。涯がここまで不確かな情報を話すのは、しかし涯の表情を見ると、とてもダアトとやらの存在を疑っているようには見えない。

 

少なくともなにか感じているのだろう。

 

(もしかして悪魔達もその" ダアト "が……?)

 

 

「そう深く考えるな。あくまでウワサ程度だと言っただろ?それより次の任務のことだがーー」

 

「大島のことでしょ?大丈夫だよ、涯の言った通りみんな来るよ。颯太もね……」

 

「ならいい」

 

涯はふっと笑みを浮かべと、手に摘んだ駒を集のキングの駒の前に音を立てて置いた。

 

「チェック」

 

「あれ!?」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「いのりちゃんとルシアちゃんの水着を買いに行きましょう!」

 

集が部活の合宿で大島へ行くと聞いた春夏の第一声はそれだった。

そういうわけで集は今、母といのりとルシアの四人でショッピングモールに来ていた。

 

「ごめんね?母さんのわがままに付き合わせちゃって……」

 

「いい」

 

いつもの調子でそっけなく返すいのりだが、なぜかこちらを見ようとしない。

集が例のクルーズでミサイルとマリオネットの軍団を撃退した後から、ずっとこんな調子だ。

返し方と声のトーンはいつもの通りだったが、いのりは話す時や話しかけられたりすれば、必ず目を見て話そうとする。

 

前に回り込んで顔を覗き込もうとすると、逃げるように顔を背ける。

 

(なんか怒らせるようなことしちゃったかな…?)

 

「あっ、そうだ。集はその辺で座って待ってて」

 

「え?なんのために来たの僕……」

 

「荷物持ち」

 

「さいですか」

 

「まあまあ、後でたっぷり見せてあげるから」

 

春夏的にはドッキリファッションショーかなにかのつもりなのだろう。

 

「別にそういうつもりでーー「いいから、いいから」

 

春夏は強引に集を手近なベンチに座らせると、楽しみにしててね〜と手を振りながら去って行った。

 

「はあ、母さんは…」

 

ため息をつきながらも、集は春夏に言われるままにベンチにもたれかかる。

 

(母さんとツグミが遭遇したら一瞬で気が合いそうだろうなぁ……)

 

きっと、さぞ面白おかしくいのりや綾瀬達を着せ替え人形にすることだろう。

 

そして綾瀬の憂さ晴らしか、なんらかの形でとばっちり受ける未来が見える。

 

(絶対に会わせちゃいけない地雷コンビだ……)

 

「シュウ……」

 

「ーん?いのり」

 

声を掛けられた方を見ると、紙袋を手に提げたいのりがいた。

 

「もういいの?母さんとルシアは?」

 

「ハルカはルシアの服を選んでる」

 

そう言いながらもやはりいのりは集と目を合わせようとしない。

 

「………座れば?」

 

集は ほら とベンチの右側へ寄り、左側を空ける。

 

「…………」

 

集の言葉にいのりは小さく頷くと、ベンチの左側へ腰かける。

 

「…………」

 

「…………」

 

視線を感じた集は隣に座るいのりを見るが、いのりは顔を背けるように反対側を見ている。

 

(気のせいか……)

 

視線をいのりから前へ戻す。

 

また視線を感じる。

 

いのりを見るが相変わらずそっぽを向いている。

 

顔を前へ戻す。

またいのりから視線を感じる。いのりを見る。また戻す。視線を感じ、また見る。フェイントを掛ける。

 

(やっぱり怒らせるようなことしちゃったんだろうなぁ)

 

数回それを繰り返した後で、集はやはりその結論を達した。

 

「いのり!」

 

何度記憶を探っても思い当たることが見つからないが、自分に原因があるのなら謝らなくてはいけない。

 

「シュウ」

 

「「ごめんなさい」」

 

「「……え?」」

 

二人で頭を下げ合い、お互いに顔を見合わせる。

 

「なんでシュウが謝るの?」

 

「いや…その話しかけてもなんていうか…前と比べるとすごく素っ気ないっていうか。目も合わせようとしないから、なにか怒らせるようなことしちゃったのかな?って」

 

「えっ?ち…ちがーー」

 

「もし…僕といるのがイヤになったなら、僕から涯に言っておくから……」

 

「ちがうの!」

 

「え?」

 

「シュウは悪くないの。その、私はそのことを謝りたくて…。ずっとシュウの事無視してごめんなさい」

 

「怒ってたんじゃないの?」

 

頷くいのりに集はますますわけが分からなくなる。

 

「怒ってたんじゃないなら、どうして……」

 

「それはーー」

 

なぜかいのりの顔がどんどん紅潮していく。

 

「なにを話したらいいのか分からなくなって。それで、シュウが話しかけてくれても頭が真っ白になって……それで…」

 

「なにかあったの?前までそんなことなかったのに…」

 

そう尋ねると、いのりは赤い顔のまま頭を真下へ向けていた顔を集へ向ける。

 

「気付いたの……シュウ…私、わわ私、シュウのことー「おまたせ〜いや〜ごめんね待たせちゃって」

 

「母さん、ルシア。………ル ルシ……ア…??」

 

集は駆け寄ってくるルシアの恰好に目が点になる気分になった。

 

ゴスロリというのだろうか。やたらヒラヒラとした賑やかな飾りが施されたドレスのような服装のルシアが駆け寄って来た。

 

「ルシア…その恰好って……」

 

「どう?なかなか可愛いでしょ?」

 

その後ろからやたら得意げ表情をした春夏がやって来た。

 

「水着探してたんじゃないの?」

 

「そう固いこと言いっこなしよ」

 

半眼で自分を見る集に春夏はあっけらかんと返す。

 

「いのりちゃんはどう?これ可愛いと思わない?」

 

「え?…は はい」

 

「うんうん。いのりちゃんならそう言ってくれると思ってたわ。安心して、いのりちゃんにもお揃いがあるから!」

 

春夏は目をらんらんに輝かせ、手に提げた紙袋からルシアが着ているものに酷似した服を襟のところまで引っ張り出す。

 

「それで、もう買い物は終わったの?」

 

「うん。じゃあ荷物お願いね」

 

「はいはい。そういえばいのり、さっき何て言おうとしてたの?」

 

「え?……あ、な なんでもない!」

 

「ん?でも……」

 

「忘れて!」

 

(……怒ってるわけじゃないのは本当なんだ……)

 

いのりは顔を真っ赤に染めながら集の背中をグイグイ押す。

集はいのりの今まで見た事のない行動に驚きながらも、いのりが怒っているわけではない事に安堵していた。

 

「あらあら、邪魔しちゃったかしら?」

 

「じゃま?」

 

春夏はルシアを両腕に包むように抱きながら、いたずらっぽい笑みを浮かべた。

 

 

(やっぱり他人の空似ね…。あの子とは纏ってる雰囲気が全然違うわ……)

 

「かあさん?」

 

ルシアが集の真似をした呼び方で春夏を呼ぶ。

 

「何でもないわ。行きましょう」

 

そんなルシアに春夏は微笑むと集達の後ろを追った。

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「うひゃー着いた着いた!」

 

船から下りた颯太は興奮の声を上げる。

 

高校二年の夏休み、集達は大島へやって来た。

 

集以下部員達には夏休みの合宿ということで、実際には涯からの任務である。

 

ちなみにメンバーは集、いのり、祭、颯太、花音、そしてルシアだ。

 

部活の合宿といった手前、部員では無いいのりとそもそも高校生ですらないルシアがいる。

いのりは颯太が被写体にしたいという熱い希望により、参加が認められることに。

 

ルシアは集が夏休みの思い出を作ってあげたいと言ったらあっさりokが出た。

 

晴れ渡る空からの日差しを浴びながら、部活メンバーは集の親戚の別荘(捏造)に到着した。

「………」

 

そして当の本人が一番面食らっていた。

 

いのりとルシア以外の他のメンバーは立派な別荘を見て、口々に感嘆の声をもらす。

 

「うおーひれー」

「桜満君の親戚って何をしてる人なの?」

 

「えっ?な ナンテイッテタッケナ〜ワスレチャッタナ〜」

 

集は面食らっていた分花音の質問にすぐに対応出来ず、不自然な棒読みで返答してしまった。

 

それでも花音は「ふーん」と軽く返すだけであまり深く追求しなかったので、集はホッとため息をついた。

 

「どうしたのこのお屋敷?」

 

「涯が供奉院グループから手配した」

 

集といのりがひそひそと声を潜めているとーー、

 

「また二人仲良くして〜家だけにしてよ!」

 

「はあ!?いきなりなにをーー」

 

「だって二人一緒に住んでんでしょ?」

 

「「ぶっ!!」」

 

「何?どういうこと?」

 

颯太の言葉に集と祭が同時に吹き出す。もしお茶でも口に含んでいたら緑色の霧を噴射していただろう。

ただ一人花音だけは話が見えずに首を傾げている。

 

「俺見ちゃったんだよね〜二人が一緒に家へ帰っていくところ!」

 

「ちょーー」

 

「じゃあインタビューしちゃいましょう!二人のなれ初めは?」

 

「ーーーっ!!」

 

「ちょっと、颯太君!」

 

颯太が空気を読まない性格なのを知って、付き合って来た集。

多少のことには目をつぶって来た集もさすがにこれには怒りが湧いた。

 

「ちょっとやめてよ!いのりとは何もないって!」

 

「またまた〜」

 

「ふざけるのもいい加減にしなよ!いのりにまで迷惑掛けるって分からないの!?」

 

「ほらもうケンカしないの!」

 

火がつく寸前で花音が仲裁に入る。

 

「あっ…」

 

集はしまったと思い、沈黙する周囲を見渡した。

 

「ごめん…」

 

「いいよ。ほら、気持ちを切り替えて楽しもう」

 

「魂館君もあまり人のプライベートに首突っ込まない」

 

「俺はただーー「はいもういいから、海行くよ!」

 

花音がぱんぱんと手を打ち鳴らし、みんなを急かす。

 

「あっごめん。僕ちょっと用事が…」

 

「用事?」

 

「父さんの墓参りに」

 

「そっかそういえば大島って集の故郷だったね」

 

「うん。昔住んでたことがあってね」

 

春夏からそう聞かされていた。

 

「先に行ってて」

 

「うん。私達も後でご挨拶に行くね」

 

「ありがとう。きっと喜ぶよ…」

 

祭達は先に海辺に向かい、集はコンクリートで舗装された坂を上っていた。

 

ふと手の平を見ると、爪が食い込んだ痕が残っている。

颯太に対して怒りが湧いていた時に強く手を握りしめていたために出来た痕だ。

 

「……」

なんでもないただの痕。

集はその痕をしばらく眺めていた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

入り口の辺りで参りの花を買い、集は墓地へ入る。

 

去年の記憶を頼りに父親の墓を探す。ここの墓地は地元のためのものと、十年以上前の隕石落下による犠牲者のためのものと二つに分かれており、父親の墓は前者の区画にあった。

 

集は墓前に立つと手も持っていた白い花の束を供える。そして静かに墓石を見る。

 

「……」

 

「桜満玄周≪おうまくろす≫博士か…」

 

「知ってるの?父さんのこと……」

 

「旧天王洲大学の教授であり、アポカリプスウイルス研究の第一人者だ」

 

「そう……だったんだ…」

 

「なぜお前が知らん。アポカリプスウィルスの研究をしている者が近くにいれば、いやでも耳に入る名だぞ?」

 

涯の声に呆れの色はないが、少し意外そうな感情が入っている感覚がした。

 

「それ母さんのこと?母さんとはあまりそういう話をしないんだ」

 

集はいまいちど大島の空を見上げる。

 

「ここにも昔住んでたらしいけど……記憶にないから実感もわかなくて……父さんに至っては顔も知らないんだ…」

 

「本当になにひとつ憶えていないのか?」

 

集は涯の言葉に小さく頷く。

 

「日本では母さん以外には話してないんだけど……僕、十年より前の記憶が全然なくて……。僕のこと調べたなら知ってるでしょ?十年前に五年間留学してたって…」

 

「ああ…確かにそう記録にあった」

 

集は一度深く息を吸った。緊張は無かった。

涯なら真剣に話を聞いてくれるという不思議な安心感があった。

 

「おかしな事言ってると思われるかもしれないけど…涯は魔界って…悪魔って信じる?」

 

「………」

 

悪魔の話は春夏にも欠片も触れたことがない話だ。

涯は突然切り出された奇妙な言葉に、反応に困っているのか険しい表情になる。

 

「この世界とは違う、魔界っていう世界があるんだ。その世界では多くの悪魔達が日々この世界を奪おうといつも人間達を狙っている…」

 

一際強く吹く風が、二人の髪をさらう。

 

「僕はそいつらに誘拐された…。たぶんロストクリスマスの災害に巻き込まれた時に…。奴らにとって…あのパンデミックは都合が良かったんだ。あれ程の惨事なら、行方不明者の十人や二十人増えたところで誰も不自然には思わない……」

 

集はあの時感じた希望の光を思い出すかのように顔を上げる。

 

「だけど救われた…。一緒に捕まった子供達はみんな死んだ。だけど僕だけは彼にーーーダンテに救われたんだ……」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

「あれだ」

 

「あれは…神社?」

涯にしめされた先を見ると、丘の下で道路を挟んだ向こう側にある鳥居と長い階段だった。

 

集は涯に手渡されたスコープで鳥居を覗いた。

するとその階段の至るところに赤外線センサーのラインが見える。

 

「はじまりの石。今俺たちが最も手に入れなければならないものだ……」

 

「なんなのそれ?」

 

「文字通りだ。ここに落ちた隕石の破片にある少女が接触したことによってーーその少女はアポカリプスウィルスの第一感染者となった」

 

「っ!!」

 

集の呼吸が凍るように止まる。

 

「それがはじまりの石。今回の任務はそれを手に入れることが目的だ」

 

「それに颯太のヴォイドが必要と?」

 

「そうだお前は時間に指定の場所にあいつを連れてこい」

 

「うーんだけど颯太って自分に興味のある事じゃないとなかなか…」

 

「あるじゃないか」

 

「え?」

 

「エゴイストのファンだと聞いているが?」

 

途端に集は苦虫を噛み潰したような顔になる。

 

「……いのりを使えと?」

 

「不満か?」

 

「……不満しかないけど、分かったよ」

 

実際集にはそれ以外いい案が無い。

 

「決まりだな。お前は戻って時間まで思い出作りでもしておけ。友達は大切にな」

 

涯はそう言い残すとどこかへ去って行った。

 

「ーーー」

 

集は丘を下り終えるまで胸の中のムカムカが消えずにいた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「おーい集!!遅かったな!」

 

集が浜辺に着くと真っ先に颯太が手を大きく振りながら駆けて来た。

 

「颯太…ゴメンみんなは?」

 

「向こうで待ってるぜ。ほら早くしないと日が暮れる!」

 

「まだ昼前だよ?」

 

集がと笑いながら颯太の後に続こうとした時ーーー、

 

 

「シュウじゃない」

 

「え?」

 

声のする方を振り返ると、黒髪のショートヘアで鼻に傷がある外人の女性が立っていた。

「ーーあっ!」

 

女性がサングラスを取り、その顔をしっかり見せる前に集はその女性の正体が分かった。

 

「久しぶりね。しばらく見ない内にたくましくなったんじゃないの?」

 

そう言って女性はそのオッドアイの瞳を集に向ける。

 

ーーその女性は集の親と師の一人であるーーー、

 

 

 

「レディさん!?」

 

「最初分からなかったわよ?シュウ。こんなに大きくなってるんだもの」

 

レディは集の頭をガシガシと撫でる。

 

「久しぶりですレディさん。そちらはお変わりないようで」

 

集は心の底から込み上げてくる、懐かしさと嬉しさに目頭があつくなる。

 

「もう固いわね?昔の方が心開いてる感じがしたわよ?」

 

「いいえ、嬉しいですよ。まさかこんなところで会えるなんて思って無かったんですから」

 

そこでふと集に気になることが浮かんできた。

 

「あの…レディさんはどうしてここに?」

 

「ん?依頼よ。ここにある極秘施設をテロリストから守るっていう」

 

「…………え?」

 

それを聞いた途端集の頭の中は一気に真っ白になった。

 

「あくまで念のためらしいけど。GHQのお偉いさんを助けた事があったから、たぶんそのルートからなんでしょうけど…あっ、そろそろ行かないと。それじゃせっかくのバカンス、楽しみなさいよ!」

 

レディは集の肩を力強く叩くと手を振りながら去って行った。

 

「あ……はい。レディさんも頑張って……」

 

集は気の抜けた声でなんとか声を返すが、その心理状態はそれどころではなかった。

 

(え……違うよね……。まさか今回の目標の場所とは違う場所だよね……?)

 

しかし何度考えても出て来る解答は同じだ。

 

「おーい何してんだよ集!早く来いよ!」

 

 

「……………」

あんな質問をしたことを激しく後悔しながら、集はゾンビのような足取りで部員達の元へ向かうのだった。

 




何気なく最初に投稿してから一年経ってるのと、さりげなく二十万pv突破してて二重にビックリ。

やっぱりみなさんGCとDMC好きなんですね。

これからもみなさんのその愛に応えられるよう頑張ります。
至らないところだらけですが、私も全力を注ぎます。

これからも応援お願いします。

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