ギルティクラウン~The Devil's Hearts~   作:すぱーだ

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ダンテ回です。

皆さんお待ちかねのダンテ回です。
これでいいのか?という思いでいっぱいで、正直、皆さんの反応が怖くて仕方ないですけど、よろしくお願いします。



【挿絵表示】


勢いで描いた。
反省も後悔もしてないけどゆるしてね

追記
トリッシュの戦闘を追加して、他もちらほら修正しました。


#27狩人〜DANTE〜

目の前で黒い異形の影が倒れ込むと、赤にも緑にも見える奇怪な色をした液体が靴にかかる。

しかしそんなこと目の前の光景に比べれば些細なものだった。

 

「よお嬢ちゃん」

 

さっきまで自分に襲いかかっていた異形の獣達を斬り伏せた大剣を肩にかけた長身の男が自分に歩み寄ってくる。

 

「今日はいい勉強になっただろ?子供がこんな遅くに遊んでたらこういう奴らに狙われちまうぜ」

 

「……あ…」

 

月の光がわずかに漏れ、男の姿をようやくはっきり捉えることが出来た。

 

紅いレザーのロングコートに銀髪、碧眼そして彫刻のような整った顔立ち。どう見ても日本人ではない。

 

「あなたは……だれ?」

 

「なに、ただの通り過がりの便利屋さ」

 

男は不敵な笑みを浮かべた顔に、さらに深い笑みを作る。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ダンテだと……?」

 

高層ビルの一室で、顎にヒゲを蓄えた男が眉間にシワを寄せ不機嫌そうに椅子を軋ませる。

 

「なぜあの男がここにいるんだ!」

 

男は不機嫌さを隠そうともせず、電話に向けて声を荒げる。

 

周囲の世界から隔絶されたように広く、無機質な部屋で男は音を立てて椅子から立ち上がる。

 

「母親はもう始末したんだ!!あとはあの娘さえ消せば遺産は私のものになるんだ!!」

 

息を切らしながら、乱暴に机を殴る。

 

「………ああ、殺し屋は足がつく…前と同じように悪魔を利用しろ」

 

男は電話の向こうにそう告げると、受話器を置く。

 

「…ここまで来たのだ……。デビルハンターだか知らんが、便利屋なんぞに邪魔はさせん」

 

椅子に座りなおした男は手の平に深く爪を食い込ませた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

少女、伊野原ミカの家はオフィス街の外れの空き家を買い取った武家屋敷のような家だった。

 

「こいつか?」

 

「はい!ありがとうございます!」

ダンテは小柄のミカでは、ハシゴでも使わなければ届かない押入れの高い位置の箱を、軽く手を伸ばして取る。

 

「これで足りますか?報酬……」

 

ミカは小さな鍵で箱を開けると、中の物をダンテに見せる。

 

箱の中身には大量の千円札が束ねられていなくても、丁寧に入れられていた。

 

「これは……?」

 

「小学生の頃からお小遣いを少しづつ貯めてたんです」

 

ミカは千円札を一掴み取り出し、ダンテに差し出した。

 

「これで…お母さんが帰ってくるまででいいので、私を守って下さい。……便利屋さん……」

 

「………いいぜ。その依頼、引き受けた」

 

ダンテはミカからそれを受け取った。

 

「前金です。よろしくお願いします」

 

ミカは屈託のない笑顔をダンテに向ける。

 

その時、一際強い風が部屋を通り抜ける。

 

「きゃ」

 

ミカが小さく声を上げ、部屋の隅の机の上に積んであった書類大の紙束が部屋に散らされ、その内の一枚がダンテの足元にも運ばれる。

 

「これは…?」

 

「うひゃあああ!!」

 

ダンテがその紙を拾い上げようとすると、ミカが奇声を上げながらベースを取ろうとする野球選手のように畳の上をスライディングして紙を乱暴に奪い取った。

 

そのまま這うように方々へ散った紙を拾い続ける。

 

「……そいつは、マンガってやつか?」

 

「………見られちゃってましたか…」

 

「嬢ちゃんが描いたのか?」

 

「は…はい」

 

ミカは顔を朱に染めて両腕の紙束を抱え込んでうつむく。

 

「その…夜に外へ出ちゃダメだって事は分かっていました。けど、昨日は資料集めしてたらついウトウトして、公園でちょっと休もうと思って………」

 

「気付いたら夜だったと?」

 

「はい。お母さんは家の中なら安心だって。家に居れば怖いお化けも入ってこれないからって……」

 

「そういやあいつらに襲われたのは昨日の今日ってわけじゃねえんだな?」

 

彼女は先ほども、母が帰ってくるまで護衛を依頼した。

それにあれだけ恐ろしい目にあったのに妙に冷静だ。

 

「一カ月くらい前から、私とお母さんの周りにはああいったものがついてまわりました……。でもお母さんはいつも不思議なおまじないで追い払ってくれていました。ある日、お母さんは私に家の周りにかけるおまじないを教えた後で、"夜は家から出ちゃダメ"って。その後は大事な用事があるからって出かけました。それが一週間くらい前です……」

 

「…………よお」

 

「はい?」

 

ダンテはミカの手元に指を指す。

 

「それ見せてくれよ」

 

「そ そんな!だ だめですよ、こんな人に見せるようなものではーー」

 

「見られたくないのか?」

 

「い いえそういうわけでも………」

 

「煮え切らねえなァ……」

 

「ご ごめんなさい。人に見せたことがないので、なんか慣れなくて………」

 

「ふうん、まっ無理にとは言わないさ」

 

ダンテは畳に置いてあったギターケースを背負う。

 

「もう遅えから、あとの事は俺に任せてお嬢ちゃんは早いとこ寝てな」

 

「は はい!おやすみなさい」

 

ダンテは背を向けたまま軽く手を振ると、ふすまを開け、玄関へと歩いて行く。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

真上の月が地上に影を落とし、都市部の光がまるで土ボタルのように密集した色彩を放っている。

 

ダンテは丘の上で都市部からかなり離れた場所にある武家屋敷に視線を向けている。

 

「…………」

 

あかりの消えたその屋敷の周りで、黒い影がウロウロと徘徊している。その数は時間が経つにつれ数を増している。

いつでも飛んで行って、残らず斬り伏せてもいい。

しかしダンテだっていつまでもここにいるわけにはいかない。彼女自身が相手に対する対抗策を持たなければ、遅かれ早かれミカは死ぬことになる。

 

(つっても魔除けは本物みたいだな……)

 

ミカの話から考えれば、彼女の母はかなり前から悪魔の存在を知っており、その対抗手段も彼女のために残しておいたのだ。

 

最優先で確認すべきことをその目で確認したダンテは、ならばとケースから身の丈もある銀の剣" リベリオン "を出すと、背中に背負う。

 

「……トリッシュか」

 

ふと、背中から感じる気配に声をかける。すると夜闇を掻き分け、長い金髪に黒いレザーのスーツで身を包んだ美しい女性が姿を現した。

 

「" トリッシュか "じゃないわよ」

 

トリッシュは本気で呆れたと言いたげにため息をつく。

 

「こんなところで何油売ってるのよ。東京に行くんでしょ?」

 

「ああ、日本なんかめったに来れる場所じゃねぇからよ、この機会に隠れ家に閉じこもって安心しきってるクズ共をまとめて掃除してやろうと思ってな」

 

「あんた" 日本のことはシュウに任せる "とか言ってなかった?」

 

「んなこと言ったか?」

 

トリッシュは眉間を押さえ、また深くため息をつく。

 

「で、本当のところは?」

 

「本当のところって?」

 

「なに先延ばしにしてるのって言ってるの。あんたなら喧嘩吹っかけた連中のところに真っ先に乗り込むでしょ。日本で悪魔狩りなんてそれが済んだ後で十分でしょ?」

 

「……………」

 

ダンテはずっとトリッシュの方を見ず、屋敷を凝視している。

 

「あんた……シュウに後ろめたい事でもあるんじゃないの?」

 

「なんでそう思うんだ?」

 

ダンテはトリッシュに背を向けたまま、頭をかく。

 

「だってあの子、優し過ぎるわ。ハンターには一番向かないタイプよ……。もし、あの子がどんなに強くなってもーーーー、

 

ダンテは静かにトリッシュの言葉を背中に受け止める。

 

ーーーきっと、長く生きられないーーー

 

 

「つまり、俺があいつを" 普通の人間 "みてえに生きて行けるようにしてやれなかったのを後悔してるって言いたいのか?ーー考えすぎだ。あいつは自分の意思で俺について来たんだ。自分の意思でな………」

 

ダンテはそう言うと、リベリオンの柄を軽く握ると地面を蹴って屋敷に向かって飛び降りた。

 

「………考えすぎ?……そうかしらーーーー」

 

(ならダンテ…、あなたはどうして必要以上に過酷な修行ばかりシュウにさせてたの……?)

 

例えダンテがどれだけ子供嫌いだとしても(パティと集の件もあるので実際のところは分からないが…)、その程度の区分くらい付けられる男だ。だというのに、ダンテは集に肉体的にも精神的にも強く負担のかかる高難易度の修行を受けさせていた。

 

(待ってたんでしょ?シュウが戦いから逃げるのを…諦めたらすぐに自分の身から離して、戦いに触れることが無い場所に移す。だけど計算が狂ったわよね……)

 

集が弱音を吐くことはついぞ無かった。血ヘドを吐こうが骨が折れようが、集は強く噛み付いて来た。

 

普通なら身体が先に壊れかねない修行でも、わずかに混じったダンテの血のおかげか集は乗り越えてみせた。

 

(師弟同士変なところが似ちゃったわよね……。こっちの苦労を知りもしないんだから……。)

 

トリッシュは小さくため息をついた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

早朝、昨夜の静けさが嘘の様に青空は朝日を降り注がせていた。

 

ダンテは朝食のために座敷の座布団に座ろうとするが、背の高いダンテではどのような座り方をしても、机に足がぶつかってしまう。

 

「叔母さん?」

 

ガタガタと座り方を調整しながら、なんとか朝食を済ませることが出来たダンテは、空の食器を片付けるミカに視線を向ける。

 

「はい。お母さんがいない間に私の面倒を見てくれてる人です。お母さんの妹の菜穂子おばさんです。そろそろ来るころだと思います」

 

ちょうどその時インターホンが鳴り、ミカは応えながら玄関へ駆けていく。

 

ダンテも慣れない座り方から足を伸ばしつつ立ち上がる。

 

「おはようございます!菜穂子おばさん!」

 

「おはようミカちゃん」

 

ふと菜穂子という眼鏡を掛けた髪の長い女性が、ミカの後ろに立つダンテに気付く。

 

「……えっと…」

 

武家屋敷には不釣り合いの装いをするダンテに菜穂子は戸惑いを隠せない。

 

「どうした。俺がいい男だから見惚れちまったかい?お嬢さん」

 

「あっ、すみません。あの伊野原 菜穂子と言います」

 

「ダンテだ」

 

「ダン…テ…?」

 

「どうだい?今夜は俺と食事でもーー」

 

「す すみません。今夜は用事が……」

 

菜穂子は申し訳なさそうに頭を下げる。

 

一方でダンテは ふられちまった と、大して気にしていない様子で肩をすくめる。

 

菜穂子はミカと少し他愛ない雑談をすると、すぐに仕事があると言って帰っていった。

 

「優しい人でしょう?」

 

ミカは自慢気に微笑みながらダンテを見る。

「昔からお母さんとも仲が良くて、いっつも三人で遊んでました。それでこの間もーーー

 

 

嬉しそうに話続けるミカにダンテは そうかい… と短く返した。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ええいそんなこと知るか!どっちにしろあの娘が家を出た絶好の機会を逃したのはお前の方だ!報酬は減額させてもらう!!」

 

伊野原 権剛 は電話の相手に大声でまくし立てると、乱暴に受話器を叩きつけた。

 

「ちっ、術師などという胡散臭い輩を信用したのが間違いだった!」

 

吐き捨てるように呟いた時、ドアをノックされる。

 

「失礼します社長」

 

「菜穂子か…どうせスポンサーが抜けるなどという下らぬ話なのだろ?そんなことで一々報告に来るな」

 

「兄さん……」

 

「貴様とは兄妹の縁を切った!!何度も言わせるな!!」

 

「でもーー「出て行け!!」

 

菜穂子は少し躊躇いながらも、頭を下げ、ドアを閉める。

 

権剛は何度も拳を机に叩きつけながら毒付いた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

足元に好き放題伸びる雑草を踏み分け、ダンテは指定された場所へ向かうと、呼び出した本人はすでにそこに立っている。

 

「よお。こんなところに呼び出して、デートする気になったのかい」

 

菜穂子に山の中で会いたいと言われたダンテはフェンスで区切られた公園に足を運んだ。

 

「ごめんなさい。私のワガママを聞いてくれたこと……感謝しています」

 

「なに気にするこたねェさ。いい女に振り回されるのには慣れてる」

 

ダンテは両手を上げ、大げさな仕草をする。

 

「それで?デートのお誘いじゃないなら、何の要件なんだ?」

 

「お話したいのです……あの子のこと、あの子の母である私の姉のこと……そして、ーーー

 

菜穂子はグッと唇を噛む。

 

「姉とその夫を殺した……私の兄、伊野原 権剛のことです」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

『ーーーー』

 

声が聞こえた。ゆっくりと目を開ける。

 

漫画を描いている途中で寝てしまっていたようで、机に突っ伏していた頭を上げる。

 

「お母さん?」

 

聞こえた声は母に似ていたような気がする。

 

『ミ…カ…』

 

「お母さん!!」

 

勢い良く立ち上がり、外へ向かって駆け出そうとする。

一瞬、空を見上げる。太陽はまだ沈んではいない。しかし、空はオレンジに染まり、端を見れば、その一部が暗い藍色に染まってきている。

 

(お母さんを見つけて…すぐに帰ろう!そうすれば夜までには帰って来れる!)

 

ミカは意を決して玄関門の敷居を飛び越える。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

「……なんだって兄が妹を殺すことになるんだ?」

 

「兄は…昔からとても欲の深い人間でした。反対に姉は、とても心優くて自分より他人の幸せを願う、とても素敵な人でした」

 

菜穂子の表情は昔を思い返し、わずかに綻ぶが、すぐに険しい表情に戻る。

 

「兄は家の遺産を受け継いだ姉の夫婦を良く思いませんでした」

 

「なるほど遺産を受け継いだ嬢ちゃん達を消して、あわよくば自分が遺産をぶんどろうと?」

 

菜穂子は頷く。

 

「兄は加減を知りません。しかし、元来とても臆病な性格でもあります。姉夫婦をただ殺すだけでは、自分が疑われる。そんな時、兄は悪魔の存在を知りました」

 

「…………」

 

「術師の力を借りて、悪魔の力を手に入れた兄は姉の夫を殺しました。それが1年前です」

 

「あんたはどうやってそれを知ったんだ?」

 

「兄の情報経路を利用しました。悪魔を除ける術を…そして悪魔を狩るハンターがいることも知りました。その中でもダンテさん……あなたの事も知りました」

 

「……はっ、俺も有名になったもんだ」

 

軽口を叩くダンテだが、声のトーンにふざけた色は無い。

 

「だからお願いします!私ではたいしたお礼も出来ませんが……私はどうなっても構いません!だからあの子だけは……姉が残したあの子だけは……」

 

「分かってるさ……安心しな、もうミカに同じ依頼を受けた。……それよりどォもさっきから場の空気を読めねえ連中が騒いでやがる……」

 

「!!」

 

ダンテの言葉で、菜穂子は周囲の影に紛れた悪魔達の存在に気付いた。悪魔と二人の距離はもう目と鼻の先、一瞬あれば爪も牙も届く。

 

しかしダンテはなに食わぬ様子で悪魔達に近付いていく。

 

「もっと遊んでいたいところだが、これ以上は教育によくないんでなァ」

 

ダンテは腰に掛けた二丁の拳銃を構える。

 

「ラストダンスと洒落込もうか…来いよ!」

 

『ゴオオオオオオオッ』

 

ダンテの挑発に応えるように、悪魔達は一斉に吼えると、口から唾液を撒き散らしながら飛び掛かる。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「はあはあ…」

 

声を頼りに坂道を登る。夕方でもジメジメとした熱気が残り、背中の汗でシャツが張り付く。

 

気がつくと、山の上にある教会の外人墓地にたどり着いていた。

 

目を凝らせば、墓地の中で1人立つ女性の影がある。

 

「お母さん…?」

 

「……ミカ?」

 

聞き間違えるはずもない。ずっと待ち続けた母の声だった。

 

「お母さん!!」

 

「ミカ!!」

 

駆け寄ったミカを母は強く受け止める。

ミカは目に涙を浮かべ、母親の胸にすがるように顔を押し当てる。

 

「お母さん…私待ってたよ?お母さんの言うことちゃんと守って……」

 

「そう……えらかったわねミカ……ーーでも、

 

 

『ーーー夜に外へ出ちゃダメっていう言いつけは守れなかったみたいねーーーー』

 

「え?」

 

突然、母の纏った空気が変わったのを、ミカは肌で感じた。

暖かい雰囲気が、冷たい凶暴なものにーー、

 

「ひっ」

 

ミカは母の姿をしたものを、引き剥がそうと力を込めるが、相手の拘束は微動だにしない。

 

「きゃっ!?」

 

突然相手が手を離し、ミカは地面に倒れこむ。

 

『言う事聞けない悪い子はお仕置きしなくちゃ……そうでしょう?』

 

母の姿をした悪魔はニタァと下品な笑みを浮かべる。

 

「ああ、ああ……」

 

恐怖で声が出ない。

 

悪魔の人間の手に似た手は刃のように鋭く尖る。

『オホホーーハハハハハァァァ!!!』

 

「いやあああああ!!」

 

悪魔はそれを耳障りな笑い声と共にミカの首を目掛けて振り下ろす。

 

しかしそれがミカの首を跳ねることは無かった。

 

『ギイィ……!?』

 

雷鳴のような音と共に銃弾が悪魔の額を撃ち抜いたのだ。

 

「……え?」

 

「危なかったわね。お嬢ちゃん」

 

「……誰…?」

 

ミカは背後に立つトリッシュを呆然と見つめる。

 

「相棒よ。ダンテのねーー」

 

トリッシュは二丁拳銃" ルーチェ&オンブラ "を手に、ミカに微笑みかける。

 

『ヴォ…ガア!!』

 

トリッシュに眉間を撃たれた悪魔は再び起き上がり、ミカに飛び掛かる。

 

「悪趣味な奴ね…悪いけど、優しくは殺してあげないから」

 

しかし、それをトリッシュが許すはずが無く、黄色い雷光を纏った蹴りで吹き飛ばされる。

 

『ゲイィィィ!!』

 

悪魔は地面を転がり、また顔を上げる。

 

『!!』

 

「チェックメイト」

 

トリッシュは顔を上げた悪魔にルーチェを突きつける。

 

引き金を引くと、電雷を纏った銃弾が悪魔の頭を粉々に吹き飛ばした。

 

「さて……」

 

塵になる悪魔の死骸を尻目にトリッシュは周囲を見回す。

赤、青、緑、黄色と様々な色をした目の光が二人を取り囲んでいる。

 

「いいわよ。ちょっとだけ相手してあげる」

 

トリッシュは女神のような微笑みを浮かべながら、銃を構える。

 

悪魔は次々に飛び掛かる。

 

「ハア!!」

 

トリッシュは飛び掛かる悪魔を空中で黄電纏う脚で次々に打ち払う。 二丁の拳銃も次々に弾丸を吐き出し、悪魔の頭を次々に穿っていく。まるで墓地にのみ雷雲が出来たかのように、次々と雷が墓地で奔る。

 

「ーーーきゃっ!」

 

あまりの光景に気付かぬうちに、身を乗り出して見入っていたミカの真横に巨大な剣が突き刺さる。

何処から現れたのか、トリッシュとは違う蒼い雷を纏う大剣が突き刺さった根元には、頭に貫かれた悪魔がいた。

 

死角からミカの間近まで迫っていたのだ。

 

「死にたくなかったら、その剣から離れちゃダメよ」

 

「は…はい」

 

トリッシュの言葉にミカは" アラストル "の近くまで身を寄せる。

 

「ーー」

トリッシュは微笑むと、両手に握りこぶしを作る。その両手と両脚には焔を纏った籠手の魔具" イフリート "が装備されていた。

 

「ちょっと派手にいくわよ?」

 

周囲の悪魔にそう告げると、両手の籠手を互いに打ち付ける。まるで爆発のように一際大きな火の粉が上がる。

 

「は あ あっ!!」

 

トリッシュは右の拳で悪魔の一体を吹き飛ばし、炎で軌跡を描きながら回し蹴りを背後の悪魔の側頭部に叩きつける。

トリッシュの攻撃がぶつかる度に炎が爆ぜ、多くの悪魔を巻き込む。さらには雷のおまけ付き、炎から逃れられても閃光と共に疾る雷により、悪魔の身体は丸焼けになる。

 

トリッシュは到底人間の身体能力では出せる筈のない速さで拳と足技の連撃を悪魔達に叩き込み、手にも脚にも触れていない悪魔達すらも炎と雷撃でまとめて吹き飛ばす。

 

「……悪いけど、もう時間切れよ」

 

そう言ってトリッシュは再び魅力的に微笑むと、天高く跳躍した。

 

そして右拳を強く握り引き絞る。イフリートはそれに応えるように纏う炎がさらに増していく。

 

そして解放ーー。

 

蓄えられた威力はトリッシュが隕石の様に地面に衝突すると同時に解き放たれた。

 

二十近くの悪魔を纏めて塵にしたトリッシュは空を仰ぎ見る。

 

すると、空から飛行機が飛ぶような空気をつん裂く音が響いてくる。

「遅いわよ、ーーーー

 

その音が地上まで届いた時、大量の土が空中へ舞い上がった。

 

ーーーダンテ…」

 

土煙が晴れると、そこに菜穂子を抱えたダンテがいた。

 

「………」

 

ダンテに抱えられて飛んで来た菜穂子は、恐怖を通り越して放心状態になっていた。

さっきまで自分たちが居たのとは反対側の山に一瞬で到着したのだ。

 

ダンテは菜穂子の頬をペチペチと叩き、意識を回復させる。

魂が戻った菜穂子はすぐさまミカの元向かった。

アラストルに守られていたミカは、トリッシュの雷撃やイフリートの炎が届くことなく、無傷だった。

 

「嵐がひどくてな」

 

「雷が怖いなんて言うんじゃないでしょうね?」

 

ダンテは鼻で笑うと、トリッシュと代わるように前へ出る。

 

「ミカ、目ェ閉じてな…」

 

一瞬足を止めるとミカにそう呟く。

 

「え?」

 

「こっから先はR指定だ」

 

背中のリベリオンを引き抜いたダンテは、さらに悪魔達へ歩み寄る。

 

「よォお前ら…ようこそ ーーーー

 

新たな獲物を目にした悪魔達は牙と爪を打ち鳴らし、ダンテを見据える。

 

 

ーーーーー 俺のエサ場へ ーーーー 」

 

 

 

ダンテは目の前の悪魔より悪魔らしい凶悪な笑みを浮かべて開幕を告げる。

 

ダンテの背後へ迫った悪魔の頭部をダンテは左手で鷲掴みにし、逆方向から飛び掛かった悪魔に叩きつける。

 

二体は他の悪魔も巻き込みながら吹き飛び、バラバラに砕ける。

 

振り返りざまにリベリオンを斬りはらい、新たに飛び掛かった悪魔を真っ二つする。

 

「ハァ!!!」

 

リベリオンを振り上げ、悪魔を空中へ打ち上げる。

 

ダンテも飛び上がると、空中で何度も打ち上げられた悪魔を切り刻んだ。

 

そのまま真下の悪魔に兜割りを振り下ろす。

 

その光景はまさに竜巻だった。

 

牙を剥き出して飛び掛った悪魔を、ダンテは身体を180度反らして牙を躱す。その体勢のままリベリオンを地面へ突き立てると、それを支えに空中へ身体を浮かせたまま、柄の上でコマの様に回転し、周囲の悪魔を次々に空中へ蹴り上げる。

 

「イイィヤアアァ!!!!」

 

着地したダンテは剣を引き抜くと、空中でダンテの周囲一列に並んで落ちる悪魔を一気に切り払う。

すべての悪魔が一度に真っ二つになり、二つになった身体が地面を跳ね、塵に変わる。

 

ダンテの周囲に花の様に広がった血の海も、数秒後には綺麗に無くなる。

 

「…………すごい……」

ミカはその光景に圧巻された。

すべてが夢ではないかと思うほどに一瞬の出来事だった。

 

「さて……、お次はどいつだ?」

 

銀髪の髪が紅く染まるほどの血の雨の中、剣を肩へ担ぎ、ダンテは残った悪魔達を見据える。

乱暴で悪夢の中のような光景……しかし、ミカにはダンテが優雅で雄大に見えた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

権剛は術師が自分の元へ来るのを待っていた。

昨晩、術師から娘を始末した。早朝に報酬を受け取りに行く。という内容の連絡がきた。

 

(しかし、ダンテという男も大した男ではなかったようだな…、所詮ウワサはウワサか……)

 

椅子を揺らす。

 

肩の荷がおりた気分だった。

 

(まあいい……これで遺産は私のものだ…。これで私の将来はーーーー、

 

そこまで考えた時、豪快な音を立てて扉が破壊された。

 

「よお、邪魔するぜェーーおにいさま……」

 

生理的にカンに触る声が聞こえたと思った時、真紅のコートを羽織る奇妙な男が現れた。

 

「……なんだ貴様は…」

 

「あん?とっくにご存知だろ?」

 

「……………まさか、貴様がダンテか!?」

 

ダンテは大げさに手を打ち鳴らし、拍手する。

 

「ハァ!ジャックポット!大正解。ご褒美はハグがいいか?それともキスか?……いやキスはやっぱなしだ」

 

「っ!!!」

 

どこまでも人の感情を逆なでする男だ。しかし、それよりも権剛には確認しなければならないことがあった。

 

「貴様は術師の悪魔共に喰われたはずだろう!!」

 

「術師ィ?それってコイツの事かァ?」

 

ダンテが親指で示す先を見ると、金髪の女がボロボロになった男の襟首をつかんで立っていた。

 

「こんな三流を雇うたァ…よっぽど金に困ってたんだなァ?」

 

「……兄さん……」

 

壁の影から、見知った人間が顔を出すのが見えた。

 

「菜穂子……そうか、お前がコイツらを呼んだんだな……」

 

「……自首してください……」

 

「はっ!自首だと?私は何もしていない。やったのは悪魔だ。なにもしていない善良な市民をどうやって裁くというのだ?」

 

権剛は勝ち誇ったように言う。

 

「たとえ裁けたとしても……ここで貴様らを消せばいい話だ!」

 

権剛は机の引き出しから、魔法陣が描かれている羊皮紙を突きつける。

 

「ははは見たか!貴様らでは到底太刀打ち出来ない大悪魔を召喚する魔法陣だ。よく見ていろ!!」

 

権剛はなにか不気味な呪文を唱え出す。

 

「兄さん!」

 

「やめときな。後悔するぜ……?」

 

「はっ!後悔するのはお前の方だ!ダンテェ!!」

 

権剛の狂った様な笑い声と共に、魔法陣に浮かぶ光は徐々に強まっていく。

その時、魔法陣に触れる権剛の腕に変化があった。

 

「なっ なんだこれは!!?」

 

みるみる右手が変形していく。肥大化し、右腕に収まらず身体全体に広がっていく。

権剛の悲鳴も、肥大化する自らの肉体に呑まれ、消えていった。

 

「ほらな……言っただろ?三流ですらねェビギナーが手を出すからそういうことになるんだ」

 

権剛の身体を乗っ取り、この世への顕現に成功したビルの二階分はあるであろう悪魔は、ダンテに向けて拳を振り下ろす。

 

「ダンテさん!!」

 

拳を打ち付けた先から鮮血が飛び散り、二階分に相当する悪魔がいてもまだ余裕があるほど広い部屋はみるみる真っ赤に染まっていく。

 

「まっ、こっちの方がいいけどな……」

 

『!!』

 

振り下ろした先から声が聞こえた。

そこで悪魔はようやく自分の手首から先が消失していることに気が付いた。

 

傷口から噴き出す血のシャワーの向こう、そこに銃の標準を眉間に向けたダンテのシルエットが見えた。

 

「懺悔だったらあっちで聞いてもらうんだな」

 

銃声。

 

眉間を貫通した銃弾は、頭蓋を抜け、窓ガラスを突き破る。

 

悪魔の身体も、銃弾に引っ張られるかの様に窓ガラスを突き破り、地上へ落下した。

 

しかし、コンクリートに叩きつけられる前に、悪魔の身体はボロボロと崩れ、朝日に溶かされたかの様に消滅した。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

「色々とありがとうございます」

 

北へ、次の県境へ繋がる道の上に立つダンテとトリッシュに、菜穂子は深々と頭を下げる。

 

「本当にもう大丈夫なのか?」

 

「はい。後の事は心配なさらず。お二人は東京へ向かってください」

 

「そうかい、あんたがそう言うならそうするぜ?」

 

ダンテがきぶすを返し、歩き出そうとした時ーー

 

「ダンテさん……」

 

ミカの声でダンテはそのままの状態で立ち止まる。

 

「行っちゃうんですね……」

 

「ああ、この後大事な用があるんだよ。言わなかったか?」

 

「………言ってないです」

 

「……そうだったか?じゃあ今言ったわ」

 

クスリとミカは笑う。

 

「無茶苦茶な人なんですね。ダンテさんって……」

 

「俺の事よりお前は大丈夫なのか?」

 

「…………まだ正直踏ん切りがつかないです。でも、いつかきっと立ち直って、天国のお母さんの分も強く生きます」

 

目元を赤く腫らしていても、ミカは目に強い意志を込めて、はっきり口にする。

 

「そうか…ならいい……。ああ、それから……」

 

ヒュッとダンテの手元から投げ出された物が、大きく弧を描きながらミカの胸に飛ぶ。

 

「……え!?」

 

ミカはそれを手で受け止め、声を漏らす。

それは自分がダンテに報酬として渡した千円札の束だった。

 

箱で見た時はたくさんある様に見えたが、束にしてみれば大したことが無くて、少しガッカリしたのは記憶に新しい。

 

「あのこれーー「俺の金なんだろ?ならどういう使い方しても俺の自由ってわけだ」

 

ミカはポカンとダンテの後ろ頭を見る。

 

 

「それで納得できねェなら、次会う時はサインの用意でもしててくれ」

 

「え?」

 

「期待してるぜ?未来の大作家様…」

 

「………はい。必ず!」

 

ダンテはようやく東京に向け、歩を進め始める。

 

ミカはダンテのこれからを想像し、思いをはせた。

 

そして、見えなくなってもその背中を見送り続けた。

 

 

 

 

 




正直ダンテが一番難しい!!

今回は本当に苦労しました。書き始める段階から話がほとんど決まってなかったので、出来も凶悪なことになってるんじゃないか心配で見直すことすら怖いです。

気付いた方は多いと思いますけど、今回アニメ版のオマージュらしき要素があったりします。





あと関係ないけど、ウルトラマンXって皆さま的にはどうですか?
私は好きだけど、身の回りの評価が案外低くて……。もしかしたら私が変なのかなって悩んで暇人してます。

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