ギルティクラウン~The Devil's Hearts~   作:すぱーだ

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お久しぶりです皆さん。

またまたお待たせしてすみません。
ゴールデンウィーク中に更新したかったんですけど、携帯とpcが、同時に破損してしまいてんてこまいでした。

これから忙しくなるので、ますます遅くなる可能性が大。


#24隔意~temptation~

豪華な装飾も、蝋燭のみの光源のおかげで広く薄暗い部屋では亡霊のように浮かんでいる。

 

亜里沙と向かいに座る男女は、上座に座る彼女の祖父に必死に言い訳を続ける。

 

バカな人達だと、亜里沙は表情にも出さず思った。

 

この男にとって、自分以外のあらゆるものは道具に過ぎない。

孫である自分ですら、この男の操り人形に過ぎない。

 

他人の苦しみも、努力も、この男には唾棄すべき廃棄物となんら変わらない。

 

「出来ない言い訳はいい。次は結果を持って来い」

 

自分にとっては予想どうりの返答を、向かいに座る男女は飛び上がるように驚き、必死に頭を下げる。

 

この男女は祖父に逆らうと、どれほど恐ろしい死に方をするかよく分かっている。

 

なにしろ自分に反抗する者は、実の息子とその妻共々抹消する様な男だ。

 

亜里沙は、自分の両親は交通事故によるものだと聞かされているが、本当の原因はわかっている。

 

全てはこの男がやったことだ。

 

 

「亜里沙」

祖父の呼ぶ声に、顔を上げる。

 

「明日のパーティには、同行してもらうぞ」

 

「はい。お爺様」

 

「いずれ裏の仕事もお前に任せる。そのつもりでな」

「はい。わかっています」

 

亜里沙は祖父に学校の生徒会長として以上の、笑顔を見せる。

 

 

ただガワと表面に塗り固めただけの、偽りにまみれた笑顔を…。

 

ーー ワカッテイマス、ワタシハ供奉院亜里沙デスカラ……。ーー

 

亜里沙は日々、自らを縛る呪いの様にこの言葉を繰り返す。

 

自分はきっと道具の様に使い尽くされ、捨てられる。

過去も、今も、未来の全てをこの男に利用される。

 

自由に恋することも許されず、決められた男と結婚させられる。

 

当然だ。

 

自分はこの男が、王として君臨する王国の奴隷の一人に過ぎないのだから……。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ふう…、よし!」

 

祭は一度、深く深呼吸して、玄関の呼び鈴に手を伸ばす。

 

考えてみれば、こうして集の自宅に訪れるのは数年ぶりだ。

 

同級生達の中で、集と一番付き合いの長いのは自分だが、初めて会ったころだって中学一年の時、とっくに恋人でもない男友達の自宅に気楽に訪れるような歳ではない。

 

呼び鈴のベル音が、ドアの向こうに響くのが分かる。

 

花音からの「お見舞いに行けば?」という一言がなければ、祭はここに来ようという発想すら浮かばなかったかもしれない。

 

普段の祭ならば照れから拒否したかもしれないが、突然現れた楪いのりというライバルに祭は少し焦っていた。

 

しかも、いのりと集の距離は何故か妙に近く感じる。

 

今までのペースでゆっくりなどと、言ってる場合ではなくなった。

(今の立場に甘えてなんていられない……。これからは積極的に行かなきゃ!)

 

そんなこと考えている間に、玄関の鍵が開き、集が顔を出した。

 

「あっ!集、元気になったんだね!」

 

「は ハレえ!?」

 

「あっ、ごめんね?急に何も言わないで…」

 

「えっあ…ああいいんだ。で、どうしたの?」

 

集はたどたどしく答える。その内心、

 

 

(まずい…もしハレにいのりと同居してることがバレたら……)

集は祭に悟られないよう、扉を狭めて自分は外へ一歩出る。

 

「うん、え…えっと。あっ、こんばんは」

 

「あ、うん。こんばんは」

 

たどたどしいのは向こうも同じようで、集の行動に気付く気配も無い。

「その…お見舞いにって…。あっこれ学校の課題」

 

「あ、ありがとう。おかげ様で午後からは元気になったよ」

 

「本当?よかった…」

 

祭はそう言って胸をなでおろすと、

 

「あっ」

と声を上げた。

 

「?」

 

祭の目線を追うと、自分の傍から顔を覗かせるルシアの顔があった。

「あなたは…」

 

「るっ…ルシア!?」

 

祭は屈み込み、ルシアの顔を覗き込む。

 

「あっ、祭…これはその…!」

 

「ルシアちゃんって言うんだ。私は校条祭っていうの」

「は…れ?」

 

「そう。よろしくね」

 

「………」

 

「この子、集が留学先の知り合いとか?」

 

「う…ううーん、えっと」

 

集が答えに迷っていると、祭がルシアの肩越しに見たものに、先ほどよりさらに目を見開いた。

 

「ゆ…楪さん!?」

 

「えっ!?」

 

祭の声に後ろを振り返ると、いのりがおぼつかない足取りで廊下を歩いていた。

 

「いのり!?まだ歩き回っちゃダメだって!」

 

「…ーーんっ…」

 

「集、どうして楪さんがここにいるの!?」

 

ふらつくいのりを支える集に、祭は混乱した様子で問いかける。

 

「それは…その……」

 

集も混乱しているため、咄嗟に返答することが出来ない。

 

 

「……まさか、い一緒に住んでる…とか…」

 

いのりを協力して支えながらベットに寝かした後、祭はついに核心を突いて来た。

 

「…………うん、実は…そうなんだ」

 

「ーーっ!!?」

 

「わ 訳があるんだ!!」

 

集は春夏に話したのと同じ、意地悪ないのりの兄から匿っていると話した。

 

「…………」

 

「だから、別に不埒な事は無いから。ーーうん」

 

「……事情は分かったよ。ありがとう話してくれて」

 

「ううん。僕の方こそ黙っててごめん」

 

「しょうがないよ。こんな事、ほいほい言い回ってたら大変な事になるよ?」

 

そう言って、祭は集に笑いかける。

 

「はは…それもそうか」

 

「……………」

 

「…ハレ?」

 

急に祭は黙り、考え込む。

 

「ーー………うん、決めた」

 

長い長考を終え、祭が顔を上げる。

 

「集!今日は私も泊まる!」

 

「……はあっ!!?」

 

覚悟を決める様な真剣な表情で言う祭に、集から変な声が漏れた。

 

「泊まって、楪さんの看病を手伝う!」

 

「ちょっ、ちょっと待ってよ。そんなこと言ったって祭、明日の学校は!?おじさんとおばさんには何て言うの!?」

 

「大丈夫、明日は日曜だし、お父さんとお母さんにも上手く言っとくから」

 

「で…でも……」

 

「じゃあ集は楪さんの身体拭けるの?」

 

「うっ……。なんか、今日のハレは意地悪だね……」

 

「えへへ。今日だけじゃなくこれからは、もう遠慮したりしないって決めたからね」

 

祭は弾けんばかりの笑顔を見せる。

 

「遠慮って…?」

 

「さ、さて今からタオルを準備しなきゃ!」

 

祭そそくさといのりの部屋から立ち去って、洗面所へ向かった。

 

「……また、迷惑かけちゃったかな…?」

 

「……シュウ……」

 

「あっ、いのりごめんうるさかった?」

 

「ううん。ねえシュウ、…校条祭もシュウには大切な人?」

 

「えっ、それはもちろん」

 

集は面食らいながらも、迷いなく答える。

 

「どれくらい?」

 

「え?そうだなあ。少なくとも、学校の友達の中では一番かな?」

 

「……そう……」

 

いのりはその後すぐに、目を閉じ眠りについた。

 

(なんだ…?いのりはどうして急にそんなことを……)

 

 

『ひゃああああ』

 

「あっ……」

 

いのりの様子に頭を捻っていると、洗面所の方から可愛らしい悲鳴が響いて来た。

 

「……水道の蛇口が壊れてる事…言うの忘れてた…」

 

 

 

 

「ごめんね?床濡らしちゃった」

 

「いや、ちゃんと言わなかった僕が悪かったんだから……」

 

祭がびしょ濡れの髪をドライヤーで乾かしながら言うのを、集は申し訳なさそうに返す。

 

濡れた制服はベランダに干し、代わりに集の祭には少し大きめのパーカーとジャージの下を貸した。

 

一応、いのりが眠ったことを伝えると、二人はテーブルに向かい合って座ってた。

ちなみにルシアはわれ関せずと、ソファの上でテレビに没頭している。

しかし、今しがたあんな会話をした集には、少し複雑な気持ちでその様子を見ていた。

 

「それにしても、楪さんも大変なんだね」

 

「いのりもあれで結構苦労してるところがあるからね」

 

「………よく知ってるんだね…。楪さんの事……」

 

「んっ、ま まあね」

 

一瞬、祭の胸元に目が行ってしまい、集は慌てて目線を逸らした。

 

「あっ」

 

祭はその目線に気付き、顔を真っ赤に染めながら自分の胸元を両腕で抱き込むように抑える。

 

それがかえって胸元を強調することになってしまい、集はさらに視線を泳がせた。

 

「……集のエッチ……」

 

(わあわあ~〜。私なに言ってるんだろう!)

 

祭もさらに頭の中がパニックになりながら、顔面の温度も上昇させていく。

せっかく自分が望んでいたはずの憧れの男の子と二人っきり、という状況に対して祭は頭が真っ白になってパニック状態になっていた。

 

(どうしよう、せっかくのチャンスなのになにも思いつかないよお!)

 

 

ピーンポーン

 

「はうあ〜!!」

 

「うわっ!」

 

気まずい沈黙が流れている中、突然鳴り響いた呼び鈴に、祭は驚きのあまり奇声を上げると、それが恥ずかしくなって、真っ赤な顔はさらに赤く染まった。

 

「あ…、わ 私が出るね!!」

 

「う うん、ありがとう」

 

玄関に素早く駆けていく。

 

(なんか変だな…今日のハレ…)

 

それをボンヤリ見送りながら、集はふと思った。

 

(なーんか、忘れてるような……)

 

『やっほー、集いのりん襲ったりしてなーー…』

 

『ちょっとツグミ。玄関で止まらないでよ、入れないじゃーー…』

 

ドアが開く音が聞こえ、それと同時に二人の少女…ツグミと綾瀬の声が聞こえて来た。

 

「あっ…、助っ人頼んだんだった……」

 

玄関は、時間が止まったような静寂が流れていた。

 

 

 

 

「ちょっとあんた。これどういうことよ」

 

一応、いのりの友達に看病の手伝いを頼んだのだと、嘘では無いが全てを語らない形でザックリ祭に話すと部屋に上げてもらった。

 

「学校の友達が手伝いに来てたなら、私達いらないじゃない」

 

「いや、涯に頼んだ後に来たんだよ」

 

「ひょっとして、集の彼女さんかな?ん?ん?」

「いえ、彼女とかまだそういう……」

「ほう?" まだ "ということは、いずれはそういう関係になるつもりはあると……」

「はえ!?そ…それは、ーー」

 

ツグミが祭の気を引いてくれているおかげで、集は綾瀬と難なく内緒話をすることができた。

 

「とにかく、あんたは今すぐ近くの海岸公園に行きなさい。そこで涯とアルゴがボートを止めて待ってるから」

 

「分かった。……ボート?」

 

「そうよ、ボート」

 

「……まっ、いっか。あーハレちょっと外に出るけど……しばらく待っててくれる?」

 

ヒソヒソと声を潜めながら話し終えると、集は祭に外出の旨を伝えた。

 

「え?うん分かった。いってらっしゃい」

 

「お願いね。すぐ戻るから!……1日以内には……」

 

集は駆け足で綾瀬が言った、近くの海岸公園へ向かった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

集が海岸公園に着くと、綾瀬の言葉通り涯とアルゴが待っており、三人はろくな会話もないままボートで目的の大型クルーザーへ向かった。

船内に潜入した集と涯の二人は、更衣室でバッグに入っていたパーティー用のスーツに着替えていた。

 

「集、シャツの上からこれを付けろ」

 

そう言って涯が投げ渡した物は、パーティーには到底相容れないような厳ついホルスター付きのベルトだった。

 

「これは?」

「念のためだ」

 

「いざって時は人質でもとれと?」

 

「ふっ、使い所は任せるさ」

 

冗談めかしに言う集に、涯も笑みで返す。

 

集はコンパクトなナイフの収まったホルスターを背中に、ベルトの端と端を身体の前に止めると、その上からスーツを着る。

 

試しに鏡で自分の姿を横から見て見たが、ナイフがコンパクトのおかげか、違和感はほぼ無い。

前屈みにならない限り大丈夫だろう。

「でっ、船上パーティーに潜入してどうしたいの?」

 

集は窓から指のサインで、アルゴにボートと一緒に身を隠すように指示を出す涯に向かって尋ねる。

 

「話したい相手がいてな。しかしなかなか表舞台に出て来ない相手でな」

 

「だから強引に押しかけようって事?怒ったりしない?」

 

「そんな短気な様では、裏の世界で長くやってられないさ」

 

「…そう言われればそうかもしれないけど…。あっ涯ネクタイ曲がってるよ」

 

「……細かいなお前は…」

 

涯はそう愚痴りながら、ネクタイの形を正す。

 

「ここ十年くらい、ガサツな人達とばっかり暮らして来たからね。自然としっかりしなくちゃって思うようになるんだよ」

 

軽口もそこまでに、集と涯はパーティー会場へ向かう。

 

会場に出ると映画くらいでしかお目に掛からない、豪邸のような豪華な装飾の広々とした空間に、どう少なく見積もっても八十人強はいるスーツとドレスを着飾った男女が互いに談笑している。

 

「結構広いんだね」

 

「こういう場所は初めてか?」

 

「んーいや、一回だけ知り合いのお母さんに、ホームステイ先の人達と一緒に豪華クルーズに誘ってもらったけど…。ひどい目にあったから、あまり思い出したくないんだよ……」

 

昔、パティの母親が豪華客船で行われるオークションで、競りの対象になる物品の警護をダンテに依頼し、その付き添いで豪華クルージングに参加した事があったのだが、その中に百体の悪魔を封じた箱だという物が紛れ込んでいて、何かの拍子でその箱が開放され船内中に百体の悪魔が解き放たれるという、悪夢のような出来事が起こったのだ。

当然、その悪魔達はダンテの手で全て討滅されたが、それでも五百人乗客の三割程が惨殺された。

 

あの事件以上に無力感を味わった事は、集には無い。

 

(僕は…なにも出来なかった……。殺されていく人達を目の前にして、パティとニーナさんを口だけで励ますことしか出来なかった……)

 

『お前が二人を守ったんだ』

 

全てが終わった後、ダンテにそう言われた。

 

『あなたのおかげよ。ありがとう、シュウ』

 

パティとその母親にも、そう言われた。

 

(なんで……僕はなにも出来てないじゃないか!悪魔を倒して、人々を助けたのは、全部ダンテ!僕は助けられたかもしれない人達を、むざむざ死なせただけじゃないか!)

 

まだ幼かった自分は、その叫びを胸の中に封じ込めた。

 

 

「なにをボケとしてるんだ集」

 

涯の声で、集は現実に戻される。

 

「ごめん」

 

「まあいいさ。あれが目的の人物だ」

 

涯が目線で示す場所に目をやると、ドレスを着た女性と話す老人の姿があった。

 

集は老人ではなく、老人と話す女性を見てギョッとする。

 

「げっ、母さん…」

 

「桜満春夏か」

 

「ごめん涯、ちょっと僕は隠れてるね」

 

そう言って集は、春夏が何かの拍子でこちらを向く前に、その場を立ち去る。

 

(まずいぞ、母さんが言ってたパーティーって、この事だったのか!)

 

集はほとんど走るような歩きで、人が壁になる場所に飛び込む。

しかし急いでいた拍子に、人の影に隠れていた女性にぶつかってしまった。

 

「きゃっ」

 

「あっ、すみません」

 

「いいえ、こちらこそ……桜満君?」

 

「え?」

 

よく見るとぶつかった女性は、白いドレスを身につけてはいるが間違い無く、集の学校の生徒会長である供奉院亜里沙だった。

 

「なんであなたがここに……」

 

(ま、まずい!まさか会長までここにいるなんて!!)

 

集は無言で回れ右して、素早く亜里沙から距離を取る。

 

「まっ、ちょっと!」

 

今度は早歩きなどでは無く、完全に走っていた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

沿岸の防波堤に波が何度も打ち寄せる音が、夜の停泊場。

 

そこに四人の男の姿があった。

ダリルに、嘘界、ローワン、そして白い歯を大きく見せて笑う、ダン・イーグルマン大佐。

 

嘘界は目の前の男に興味無さそうに携帯をいじっており、他の二人は気怠そうな表情を浮かべている。

そんな三人のことを知ってか知らずか、ダンは無駄に爽やかな笑顔を三人に見せる。

 

「格好つかないだろ?着任したからには、一発で決めないとさ!三人は今日付けで俺の部下になったんだから、ガッツ出して行こうぜ!!」

 

仮面とマントでも着ければ、そのまま一昔前のアメコミのヒーローのになりそうな鍛え抜かれたボディに、これまた無駄にでかい声を張り上げてダンは言う。

 

「お言葉を返すようですが。イーグルマン大佐」

 

「ダン!!親しみを込めてダンと呼んでくれ!!」

 

「は…はあ……、あのミスター・ダン」

 

ローワンはダンのアメリカン独特のテンションに若干引きながらも話しを続ける。

 

「このドラグーンは地対空ミサイルでして、洋上の艦艇を撃つようには……」

 

ローワンは後ろのミサイルを積んだ数台の大型車両を示しながら言う。

 

「俺が自由に出来るミサイル砲と言ったら、ここにあるドラグーンだけだからね!でも大丈夫さ、上に上がるなら…横にだって飛ぶからねっ!!」

 

「……………」

 

「……………」

 

「その標的となる艦艇というのは?」

 

虚界は相変わらず携帯から目を離さない。

 

「ナイスな質問だスカーフェイス!!」

 

「嘘界です」

 

「GHQに反抗的な日本人が船上でパーティーをする。おそらく防疫指定海域外でテロリストと取り引きするつもりなんだね」

 

ダンは黒く塗り潰したような海と、若干雲のかかった星空の境にある水平線を指しながら言う。

 

「ちょっと待ってください!民間人が乗る船をもろとも爆破するつもりなんですか!!」

 

「確かに…だけど、日本と今後の世界のためにテロリストは確実に排除しないといけないんだよ。彼らには可哀想だけど、尊い犠牲になってもらうことになるね」

 

「ーーーーー」

 

ローワンは今後こそ絶句した。

まさかこの男がここまで頭でっかちだとは想像していなかった。

 

「どこからそのような情報が?」

 

「善意ある市民からの通報でね!」

 

ダンは三人に爽やかなウインクをして言った。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「では私はここで」

 

「うむ」

 

春夏の言葉に、老人は短く答える。

 

「桜満春夏 君」

 

立ち去ろうとする春夏を、老人は呼び止める。

 

「あれは、事故だよ。哀しい事故だ。君が背負う必要はない」

 

「……いいえ、あれは私自身にも責任のあることなので……」

 

失礼しますと、おじぎをして春夏は今度こそ、その場を後にした。

 

「……………」

 

あの女性は今後も、自分の息子にした罪を背負い、さらにはその罪の要因となった物に自ら近づき、さらに罪を重ねるのか。と老人は他人事ながら、女性を哀れんだ。

 

「人間とは……、全くもって業深い」

 

「同感です。供奉院 殿」

 

春夏と入れ違いに老人の前に立った男に、ボディガード達は懐の銃に素早く手を伸ばす。

しかしそれ以上の行動を老人の手が納めた。

 

「君を招いた覚えはないな…、葬儀社の恙神涯 君」

 

「残念。ですが次のパーティーには、招待していただけると思いますよ」

 

「ほお葬儀社≪きみら≫と繋がれと…。して 儂に何の得がある?」

 

「買っていただきたいのです。日本の未来を…」

 

 

 

「もう、どこへ行ったのかしら…」

 

会場を出た集は自分を探し回る亜里沙をやり過ごすために、通路の脇に置いてある大きめの瓶の、そのさらに後ろにあるカーテンの裏に身を隠していた。

 

(まだ諦めてくれないのか…)

 

集はほぼ密着状態にあるガラス張りの窓の反射から、亜里沙の姿を確認した。

 

「今晩は供奉院さん」

 

辺りを見渡し、一向にその場を離れそうになかった亜里沙に数人の男性が声を掛けた。

 

「今晩は皆様。楽しんでいますか?」

 

亜里沙からさっきまでの気配とは一転、あっという間にお嬢様としての顔になる。

 

男性と食事の共に誘われた亜里沙は、少し後ろ髪を引かれるような様子で、その申し出を受け入れる。

 

「はあー」

 

亜里沙の姿が見えなくなると、集は止めていた息を思い切り吐き出した。

 

危なかった、見つかるのはほとんど時間の問題だったから、打つ手が尽きていた。

 

「セフィラゲノミクスの桜満です」

 

カーテンの裏から出ようと頭を出そうとした集は、急いで引っ込める。

 

(今度は母さんか…、くそ〜会長もいつ戻って来るか分からないのに!!)

 

「その節はどうも、おかげで研究予算が減らされることは無くなりました」

 

「…………」

 

春夏は眼鏡の知的そうな男性と話している。

 

(そう言えば…母さんが仕事してる様子って、初めて見たかも…)

 

家にいる時とは全く違う姿だ。

しっかりとしていて、頼り甲斐のある、普段のダラけた姿は全く想像出来ない。

 

なんとも言えない感覚になっていると、胸ポケットに入った携帯のバイブレーションが、集の脈を若干乱す。

 

「もしもし?」

 

『集、急いで涯に伝えて!ドラグーンがその船を狙ってる!!』

 

相当に切羽詰まったツグミの声のが耳を激しく打つ。

 

「ドラグーン?」

 

ツグミの声が春夏に聞かれるのではないかと、本気で心配になりながら、集は聞き返す。

 

『戦術ミサイル!商業用の船なんか紙同然よ!』

 

「なっ、戦術ミサイル!?」

 

『早くその船から脱出して!!アルゴのボートをそっちに送るからそれでーーーー』

 

(っーー、母さん…)

 

集は談笑する春夏を見る。

ほんの僅かな後に、春夏は船と、他の多くの人々と一緒に海に沈む。

このまま脱出すれば、いつだって無遠慮でだらしがなく、どんな時にも集に笑顔を見せることを止めようとしなかった母が家に帰ってくることは、二度と無くなる。

 

『ちょっと集!きいてるの!?』

 

「っーー!!」

 

そんなことになってたまるか!春夏も、集には出来ないやり方で、家族を守ろうとしている。

なら、自分も春夏を守らなければ。

春夏自身では守れないものからは、自分が守らなければ。

 

また、家族を失っていいわけがない。

 

「…僕と涯でなんとかする。今この船を守れるのは、僕達だけだ」

『そ、そんなこと言っても…』

 

「この事を涯に伝える。一回通信を切るよ」

 

『え ちょっ、待っーーー』

 

ツグミの声を最後まで聞く事無く、集はツグミとの通信を切ると、涯の無線機に繋げる。

念のためと教えられていたものが、役に立った。

 

「涯!GHQのミサイルがこの船を狙ってるってツグミが!」

 

『船ごとやるつもりか…、大胆なのか単なる馬鹿だな』

 

「命令しろ、涯。この船を守る方法を教えるんだ」

 

『ーーーーー』

 

集は涯からの言葉を待った。

 

 

 

洋上、何かが飛び出して来そうな程の塗り潰されたような闇色をした夜の海の上を、いくつもの赤い彗星のような物が通過していく。

 

赤い線を描き、ミサイルは船に向かって無慈悲に向かって行く。

 

 




いのり、祭、綾瀬、ツグミ、ルシアのあれやこれは、また番外編でやりたいと思います。


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