ギルティクラウン~The Devil's Hearts~   作:すぱーだ

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すみません

リアルの事情でお休みさせてもらっていました。

ゴメンなさい。
これから、前程のペースは保てないと思いますが、出来るだけ早く更新出来るようにします。

今回は、オリジナル要素満載です。

粗しかないと思いますが、生温かい目で見守ってください。



過去編:「三度死ぬ少年 前編」

米国の西海岸に程近い、その街は昼も夜と変わらない程人気が無く、ホームレスやゴロツキがウロウロ徘徊する、地元でも有名な" 危険区域 "だ。

 

そのせいか、建築百年を越える歴史ある建造物もどこか生気の無い錆びれた雰囲気を醸し出している。

(毎度思うが……、ここに足を運ぼうとする人間もよっぽどの悩みの持ち主か、じゃなかったら相当の物好きだな……)

 

自分の事を完全に棚に上げ、かつての繁栄を納めた街に、そんな感想を抱きながら、顎に髭を生やした中年の男が目的地に向けて車を走らしていた。

 

そして目的地である建物の前で、車を止めると、ネオンで描かれた店の看板を一瞥し、店のドアを叩く。

 

返事は無い。

無論男も返事は期待していない。

 

「ダンテ、入るぞ」

 

男は店の扉を開けて、中に踏み込む。

 

奥の机に足を投げ出し、雑誌を広げていた店主である、銀髪の男が扉の方向に顔を上げる。

 

「何だ、お前かモリソン……」

 

「ダンテよお…、もうちょっと客を迎えようとする心意気を見せても、罰はあたらんだろ?」

 

モリソンの小声に、ダンテはうるせえよと素っ気なく返す。

 

「お前好みの仕事を持ってきてやったぞ。俺の腐れ縁の警官から息子を手伝って欲しいって言って貰ってきたものだから、謝礼も期待出来るぜ?」

 

モリソンはそう言うと、数枚の書類をダンテの机の上に放った。

 

モリソンは情報屋だ。

時々、ダンテの好む系統の仕事も、裏を取った上でダンテに紹介する事がある。

 

ダンテはモリソンの言葉に顔を上げ、机の書類を見る。

 

「なんだこれは?」

 

「とある街でな?全身から血を抜かれた死体がこの数日で何体も発見されてんだ。捜査は難航、猫の手も借りたい現状らしい」

 

それで俺が期待できるお前を紹介するってわけだ。とモリソンは付け加える。

 

「その犯人をぶっ潰せってとこか…その街ってのは?」

 

モリソンはニイっと口端を上げる。

 

「おめえさんもよく知ってるとこだよ」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

その少年の産まれは、何処にでもあるような、酷くありふれたものだった。

 

そして少年は産まれた田舎の村で、両親の仕事を手伝いながら、育っていった。

 

その内、母の事業が成功し、大きな会社となり、少年と両親は自分達の牧場を売り、都会に引っ越した。

 

父も、大手会社の幹部に昇進した。

 

しばらくは、都会の新居でなに不自由無く過ごした。

 

しかし数年後、少年が三つ時、父は酔った勢いで、自分の部下と上司の二名を殺傷、その後、極刑を言い渡された。

 

発端は、本当に些細でくだらない口喧嘩だった。

 

母は少年を連れ、逃げる様に昔居た場所より、さらに田舎へ移り住んだ。

 

当然、母の会社の株価は暴落、親子は父親がいない現状で、またゼロからやり直しになった。

 

母はボロ小屋の様な家で、寝る間を惜しんで働いていた。

 

少年が覚えている母の姿は、夜中でも、昼間でも、机に向かい働く母の後ろ姿だ。

 

『ごめんね。ごめんね。』

 

母は息子に、何度もそう謝った。

 

自分達の勝手に、巻き込んでしまった事を、母は我が子に何度も謝っていた。

 

母は頑張っていた。

息子と過ごす時間も極力取った。

 

少年は嬉しかった。

 

短いながらも、母と二人の時間に寄り添うことが出来るのだから。

 

しかし、その時でも、母は少年に謝ることを止めようとしなかった。

 

『ごめんね』

 

食事をしている時も、外で遊んでいる時も、母は息子に、父と自らの罪を謝り続けた。

 

『ごめんなさい』

 

一日たりとも母が謝罪しなかった日は無い。

そして休日は一日中、息子に許しを求めていた。

 

 

ーー違う……ーー

 

 

少年が五つになった日、母と暮らしていた家が放火で全焼した。

 

犯人は父親に殺された被害者の遺族達だった。

母はその火災で死亡、生き残ったのは、自分だけだった。

 

母はそれでもなお、少年に謝り続けた。

 

自身の身体が焼かれていく痛みに叫びながら、何度も、何度も。

 

『ごめんなさい。ごめんなさい。許して…許して…』

 

 

ーー違うんだよ、母さん…

 

 

ーー僕が欲しいものは、そんなものじゃ……

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「おい、ルキナ!いつまで寝てんだよ!」

 

窓から射し込む日光と、友人の声でルキナは目を開けた。

 

朝食を食べた直後、教会の礼拝堂の座席の上で、うたた寝してしまっていたようだった。

 

ルキナは、一度思い切り伸びをすると、友人達の声へ向かう。

 

ルキナ含め、この教会にいる子供達は全て、失ったか、捨てられたかのどちらかだ。

 

「ごめんごめん」

 

「ホント日が暮れるかと思ったよ」

 

文句を垂れる仲間に平謝りしつつ、ルキナは輪の中に混ざった。

 

ルキナがこの教会へ入って、一週間程経つが、元から気さくな性格であることが幸いし、あっと言う間に友達が出来た。

 

「ん?」

 

外で遊んでいたルキナは、ふと遊びに混ざっていない子供がいることに気が付いた。

 

花壇の隅で、屈んでなにかしている。

 

「ねえ、あの子は遊びに誘わないの?」

 

「……いいんだよ…、あいつは……」

 

「え?」

 

周りを見ると、他の子供達も遊びに誘おうしない。

 

それどころか、あの子供を怖がっている様にさえルキナには見えた。

 

「…どうして?」

 

子供はしばらく言いづらそうな表情をしながら、やっと口を開いた。

 

「………あいつ…、日本人だぜ?」

 

「……??」

 

「ルキナ知らないの?」

 

ピンと来ないっという表情をするルキナに、他の子供が口を開く。

 

「神父様が言ってたよ。日本で変な病気が飛び回って、日本人全員がそれに感染ちゃったって」

 

「その病気に身体に入られると、身体がガラスみたいになって死んじゃうんだよ。僕、テレビのニュースで見たもん」

 

「………」

 

口々に言う子供達の言葉を、ルキナは聞きながら、日本人の少年だという子供に視線を移す。

 

少年は先程と変わらない位置で、花壇に向かいしゃがみ込んでなにかしている。

 

「きっと、あいつに近付くとその病気が感染っちゃうんだぜ?」

 

子供達の中から、そんな声まで聞こえ始める。

 

「……っ!」

 

ルキナは子供達が制止するのも聞かず、日本人の少年に向かって駆け出した。

 

特にたいした理由も思い浮かばないが、孤独を感じさせるその背中に、なんとなく少し前の自分を想起させ、無視をすることなど出来なくなっしまった。

 

 

 

「こんな所で何をしてるの?」

 

花壇のカマキリや、ダンゴムシをボンヤリと観察していると、突然背後から声をかけら、振り向くと金髪の少年が微笑みかけていた。

 

「え…?」

 

「僕はルキナ。君の名前は?」

 

「……集…」

 

「シュウか…よろしくね」

 

呆然とする集に、ルキナは手を差し伸べる。

 

集はその手と、ルキナの顔を見比べながら、戸惑いの表情を見せる。

 

「…いいの?」

 

「何が?」

 

集は怯えた様な様子で、ルキナの背後の少年達を見る。

 

「だって…、僕に触ったら変な病気になるって…」

 

集の考えている事を理解したルキナは、構わず手を伸ばし続ける。

 

「いいよ。僕はシュウと友達になりたいんだ。迷惑?」

 

「……」

 

集はルキナが伸ばす手を、恐る恐る握る。

 

「よかったあ…、じゃあ皆の所に行こう!」

 

その言葉を聞いて、集はうつ向きながら頷いた。

 

ルキナに手を引かれ、集は子供達の前に歩み寄る。

 

「ほらっ」

 

と、ルキナは集を促す。

 

「あ…あの…」

 

集はおずおずと、子供達の視線を集めながら、口を開く。

 

「ぼ…僕も、仲間に…入れてくれませんか?」

 

「……」

 

子供達は、お互いに顔を見合わせる。

 

「ぼ…僕に触ったくらいじゃ…変な病気になんかならないから……、だから…」

 

集がそこまで言った時……、

 

子供達の中から、どこからともなく飛んで来た石が、集のこめかみ辺りにぶつかる。

 

「…え……」

 

「ーーー…」

 

集もルキナも、突然の出来事に唖然とする。

 

集のこめかみから血が溢れ出し、二人はようやくなにが起こったか理解出来た。

 

「どっか行けよ…この疫病神!お前が居ると俺達全員死ぬんだよ!」

 

その言葉を合図に、子供達は地面から石を拾い上げると、集に罵声を浴びせながら、次々と石を投げつける。

 

「そうだ!」

「さっさと死ね!」

「こっち来るな!」

 

「ーー」

 

それらの言葉も、降り注ぐ石も、集は無言で受け止める。

 

「ーー…」

 

ルキナも、目の前の光景から目が離せない。

 

今、集の状況が、少し前の自分と母の姿に、完全に重なっていた。

 

結局、騒ぎを聞きつけたシスターが駆け付けるまで、その罵声と石の雨は続いた。

 

 

昼になり、シスターから傷の治療を受けた集は、一人、教会と隣接した森の中で腰を下ろしていた。

自身の呼吸と、木の葉が互いを打ち合う音以外の音は存在しない。

 

「ーーー」

 

集の心は、不気味な程落ち着いていた。

 

他の子供達への怒りも無く、仲裁の遅れたシスターへの憤りも無かった。

 

「ここに居たんだ」

突然、声を掛けられた集は顔を上げる。

 

「ルキ…ナ?」

 

ルキナが自分の顔を覗き込んでいる事に、気が付いた集は、また顔を伏せる。

 

「…分かったでしょ?ぼくの居場所は…ここには無い…」

 

ルキナは集の前に屈み込む。

 

「ぼくなんかと一緒にいたら…君までひどい目にあうよ?」

 

「……放っておけないんだ…、君から…僕と同じようなものを感じる。たぶん、君と僕はすごく似たもの同士だと思う。それに言ったでしょ?」

 

「?」

 

ルキナの手が集の頬を拭って、集は初めて自分の目から、涙がこぼれている事に気が付いた。

 

「僕は…君と友達になりたいんだ。シュウ…」

 

「!?ーー」

 

今度こそ、集の視界は涙で歪んだ。

しかし、さっきまでとは違い、胸の奥から温かいものがこみ上げてくるような涙だった。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

「ビンゴだな…」

 

ダンテはとある街の裏路地に来ていた。

全身から血を抜かれた5件目の被害者の遺体が発見された現場である。

 

「なあ、あんた…本当にこの事件を解決出来るんだろうな…」

 

後ろから、ねずみ色のコートを来た若い男が声を掛ける。

父がモリソンという男に秘密裏に、事件を解決出来そうな人物を根回しした刑事で、ケインという男だ。

 

しかし現れた人物は、想像以上に胡散臭い男だった。

 

銀髪に真っ赤なレザーのロングコートと、巨大なギターケースのせいで、いかれたロックンローラーにしか見えない。

 

ケインは凄まじく不安な気分だったが、最初の事件が発生してからなんの成果も挙げられないまま既に二週間余り、若く、経験が浅いが故に、藁にも縋りたいという焦りと苛立ちがケインの心を蹂躙していた。

 

「たくっこれでなにも出なかったら、部長にクビにされちまう」

 

信頼できる人物から、彼を紹介してもらったと、父から言われたケインだったが、このダンテという男は、いまいち信用ならない。

 

「おい、あんたなにか分かったんなら…」

 

「昼メシにするぞ。代金はお前持ちでな」

 

ケインは、重たいため息をつく。

 

 

 

ダンテとケインはジャンクフード店で向かい合い、ケインはコーヒーを飲みながらダンテを睨む。

 

ダンテはそんな視線も、どこ吹く風といった感じで受け流し、ピザにかぶりつく。

「そろそろ教えてくれてもいいだろ?何か気付いた事があるんじゃないか?」

 

「落ち着けよ、坊ちゃん。いい男ってのは、どんな時でも取り乱さないもんさ」

 

「余計なお世話だ。それに俺はこんな所でおまえとのんびり食事するつもりなんか無い!」

 

ケインの言葉を、ダンテは鼻で笑う。

 

「気が合うじゃねえか…。綺麗な経歴に傷を付けたくねえってか?いいだろ、教えてやるよ」

 

ダンテの挑発めいた軽口に、ケインはまた血管が切れそうになるが、ダンテの気が変わらない内に話を聞こうと、なんとか抑える。

 

しかし…、

 

「だが、今じゃない…」

 

「……は?」

 

ダンテの言葉に、ケインは目が点になる。

 

「おい!それどういう意味だ!!」

 

ケインの怒鳴り声で、店内中の視線が二人のテーブルに集まる。

 

しかし、ダンテは相変わらず飄々としている。

 

「まあ落ち着けよ。すぐお望みの犯人と会わせてやる」

 

ケインは周囲の視線に気付き、渋々腰を下ろす。

 

(なにも見つからなかったら、そのケツをぶっ飛ばしてやる…)

 

ケインは自分の事を棚に上げ、心の中でダンテにそう毒付いた。

ーーーーーーーーーー

 

ルキナが教会に入って、二週間程立った。

 

集の危惧通り、ルキナはグループから外され、無視されるようになっていた。

 

ルキナからは、負い目を感じる必要は無いと言われたが、そんなに直ぐ割り切れる程、集は器用では無い。

 

(やっぱり…僕のせいだよね…)

 

そう思わずには居られない。

 

「シュウ、また虫の観察?」

 

花壇の端に腰掛けていると、後ろからルキナがやって来た。

 

「ううん。花の水やりと手入れが終わったから、少し休んでただけだよ…」

 

集は花壇から腰を上げ、ジョウロを掴む。

 

「へー、よくあいつらに潰されなかったね…」

 

ルキナの言う" あいつら "というのは、集を特に目の敵にしている子供のグループの事だ。

一応、シスターが目を光らせているが、彼等は隙を見ては集にちょっかいを掛けて来る。

 

シスターマリーという人が、積極的に集を守ろうとしているが、それでも一日中見張ることなど、土台無理な話だ。

 

「僕の育ててる花に触ると、感染すると思ってるからね…」

 

「……そっか…」

 

二人の間に、しばらく沈黙が流れる。

 

「ああっそうだ!あのさシュウ、このあと時間ある?」

 

突然、ルキナが切り出して来た。

 

「え?うん…いいけど…」

 

「ちょっと渡したい物があるんだ。ここだとあいつらに見つかるかもしれないから、ちょっと移動しよう」

 

ルキナに促されるまま、集はルキナの後に続く。

 

ルキナに連れて来られた場所は、普段立ち入りが禁じられてる塔の最上階にある鐘の近くだ。

 

ルキナが言うには、神父でもこの場所には滅多に近づかないらしい。

 

「わあ…すごい…」

 

「?そうかな…?」

 

「うん、こんなに高い所…来たの初めてだよ…」

 

集の言葉に、ルキナはクスッと笑う。

 

「変なシュウ、これぐらいの高さなら、すぐ登れる場所なんかいくらでもあるよ?」

 

「えっ!?そうなの?」

 

ルキナは集の反応に、どことなく違和感を覚えた。

 

「うん、変なの…日本にだってここより高い場所なんか、どこにでもあるでしょ?」

 

「…分からないよ…。僕、日本の事なんか全然覚えて無いし…家族が生きてるかどうかも…」

 

「シュウ…もしかして君…記憶が…?」

 

ルキナの言葉を、集は無言で頷く。

 

「うん…、僕…自分の名前以外、なにも憶えて無くて…」

 

「そっか…」

 

はっきり記憶がある自分と、どっちが不幸なのか…、ルキナには計ることが出来ない。

 

「ねえ、家族ってどんな感じなのかな…」

 

「……さあ、正直僕の家族はあまり家族らしいことが出来てなかった気がする。だから、僕にもよく分からない。だけど…これから少しずつ分かって行けばいいと思うよ?」

 

「?」

 

首を傾げる集の前で、ルキナは何かをポケットから取り出す。

 

「はい、これ」

 

そう言って集の手のひらに乗せた物は、ガラスで出来た小さな馬の彫り物だった。

 

ブリキのような不格好な外見をしている。

 

「シュウ…もし君がよかったら、君の兄の代わりになっていいかな?」

 

「え?」

 

集はルキナの顔を、呆然と見つめる。

 

「やっぱり…僕なんかじゃ…ダメかな?」

 

「……」

 

集はルキナの言葉を首を振って否定する。

 

「ありがとう」

 

二人は夕暮れまで、教会で一番高い所で語り合っていた。

 

 

 

「じゃあ、またねシュウ…」

 

「うん、おやすみルキナ」

 

夕食を終わらせた集とルキナは、他の子供達に混じり、それぞれのベッドに潜り込む。

 

(…兄さんか…。ルキナからは…本当に貰ってばかりだな…)

 

集は手の中のガラス細工を見る。

 

(僕が…ルキナのためにしてあげられる事…)

 

結局答えが出ないまま、集のまぶたは重くなって行くだけだった。

 

 

ーーーーーーーーー

 

ジュルジュルと、" それ "は食べ物の中を飲み干す。

 

タバコと酒で味が潰れて、最悪な味わいだったが、こんな物でも喰わなければ" それ "は生きていけない。

 

もう中身がなくなり、干からびた様になっても、"それ"は空腹のあまり、限界まで吸おうとする。

 

突然、ボゴンッという火薬の炸裂音と混ざった破壊音と共に、真横の壁に巨大な風穴がうまれる。

 

「よお、お楽しみのとこ邪魔して悪いな…」

 

振り向くと、獣のように獰猛な笑みを浮かべた男が、自分に銃口を向けていた。

 

ーーコワイーー

 

" それ "が、産まれて初めて喰われる側の恐怖に捕らわれていた時、胸に鋭い痛みが走った。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

「ひい!!」

 

ダンテが、一連の事件の犯人の胸元に一発、銃弾を浴びせると、さっきまで呆然としていたケインが声を上げる。

 

銃弾を受けた犯人は、ドサリと音を立てて崩れ落ちる。

 

「ん?終わりか?締まらねえな…」

 

ダンテはやはりいつものペースを崩さず、余裕の表情を見せている。

 

「なんなんだよコイツ!この化け物はなんだよ!!」

 

対照的にケインは、現実とは思えない光景を目にして、すっかり取り乱していた。

 

ダンテはケインを無視して、血を吸う悪魔に近付く。

 

今まで出会った悪魔の中でも、塵の様な小さい気配しか感じない。

 

弱すぎて、こうして近付いても分かりづらい程だ。

 

これ程、弱い存在が人間界で命を保つには、依り代が必要なため、ダンテはその依り代の正体を確かめるべく、悪魔に近付く。

 

「ん?」

 

化け物は触手の様な物で、覆われていたため、シルエットだけでは、正体を看破するのは困難だったが、小さな腕が触手の間から投げ出されていた。

 

「…子供?」

 

その腕は、どう見ても十歳以下の子供の物だった。

 

ダンテのその本当に小さな隙を狙うかの様に、悪魔の触手が一斉に持ち上がり、ダンテを突き殺そうと突き出される。

 

ダンテはそれを半歩移動して避け、素早く銃口を悪魔に向け発砲する。

 

銃弾は地面を穿つが、既に悪魔の姿はそこには無く、到底人間には不可能な動きで建物の壁を登り、姿が見えなくなった。

 

「ここの事は頼んだ。刑事さん」

 

ダンテはケインに一言そう言うと、ケインが何かを言おうとする前に、悪魔が登った建物の屋上に、ひとっ飛びで跳び上がる。

 

しかし、既に悪魔の姿は無く、気配を探ろうにも、弱すぎてほとんど何も感じない。

 

「……」

 

悪魔に取り憑かれた子供…。

 

「…こいつは…、思ったより厄介だな…」

 

薄黒い雲に覆われた夜空の下で、ダンテはそう呟いた。




今回はここまでです。

漫画家さんや、小説家などのクリエーターの方達を本当に尊敬します。

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