ギルティクラウン~The Devil's Hearts~   作:すぱーだ

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遅くなってすみません。

できれば週一更新、最低でも一ヶ月に一回更新出来たらなと思っております。

出来なかった時はごめんなさいという事で…。(保険)


#20仮面~life and death~

「 ずっ…!!」

 

空中の仮面の少女と短剣とナイフで打ちつけ合い、集は腕に襲う痛みに近い衝撃に声が漏れる。

 

集と打ち合った少女は、確かに小柄で小さな幼い少女のはずなのに、ぶつかった衝撃はまるで自動車にでも突進されたようだった。

 

(っ…嘘だろ!?腕にターボでも仕込んであるのか!!?)

 

そうこうしてる間に少女は着地すると、再び集に飛び掛かった。

 

集は地面を蹴って首を後ろに逸らし、少女から距離を離しながら短剣をかわす。

 

少女はもう片方の短剣を集の首へ向けて振り抜く。

 

集は首を逸らした勢いのままバク転で二撃目を避ける。

 

(強い!)

 

少女は裏拳を放つように右手の短剣を集の首目掛けて薙ぐ。

 

「…っ!!」

 

集はナイフを左手に持ち替え、頭の後ろに腕を通し右耳の位置で短剣を防ぐ、打ち付けられた勢いを利用して少女目掛けて横切りを放つ。

 

少女は難なく集の腕を掴み、あろうことか集を背負い投げた。

 

「なっ!!」

 

集はあまりの事に思考が一瞬止まった。

 

集はこうしてる今も半魔人化している。

そうでなくとも集は仮面の少女の二倍以上の体格差があるのだ。

つまり少女は半魔人の状態の集の抵抗と体重を、力尽くで振りはらったということになる。

 

ドーピングでもしてるのかと集は思ったが、それでも少女はいのりを遥かに凌ぎ、悪魔の力を借りた集と同等かそれ以上の身体能力を持っているのはいくらなんでも異常だ。

 

(この子…本当に人間か?)

 

「ごはっ!!」

 

少女に思い切り地面へ叩きつけられた集の口から肺に詰まった空気が押し出された。

 

少女は間髪入れず地面に仰向けに倒れる集に短剣を集の眉間に振り下ろす。

 

「っ!!」

 

集は少女の手首を掴み、短剣を止める。

 

短剣にたいしてリーチが無いのが幸いして、刃先は顔の表面ギリギリで止めた。

 

「………」

 

「ぐっ!」

 

少女がさらに力を短剣に込める。

刃先が集の頬を浅く裂き、熱い液が頬から滴る。

 

「あ…づ…!」

 

熱湯をかけられるような痛みに、集はうめき声を上げる。

 

骨がキリキリと軋む。

 

少女はさらに凄まじい怪力で短剣を刺し込む。

 

一瞬でも気を緩めたり半魔人化を解除すれば、集の顔には巨大な風穴が空く。

 

「……」

 

少女は無言でもう片方の手に握る短剣を振り上げた。

 

ダンッ!ダンッ!

 

発砲音が響き、集の顔を穿とうとしていた少女の短剣が弾き飛ばされ地面に突き刺さった。

 

少女は二発目の弾丸を後方へ空中で宙返りで飛び退き避ける。

 

弾丸は少女の仮面をかすめた。

 

「…ぐあっつ!」

 

集が半魔人化を解いたことで集の髪と瞳の色が戻る。

時間的には数秒の事だったが、集には数分間戦っていた気分だった。

 

もう精神的にも体力的にも限界だった。

 

少女の強さもそうだが、なにより集はこんな幼い少女に武器を振るうことそのものに引け目を感じている。

 

「シュウ!大丈夫?」

 

「あ…ありがとういのり」

 

少女に向け銃弾を撃ち放ったいのりは少女に牽制しながら集に駆け寄る。

 

少女は繰り返し撃ち出される銃弾を飛んでは跳ね短剣で弾いたりして防ぐ。

 

ふと少女の仮面が先程弾丸を掠めた部分からヒビが入り始めるのが、短剣で弾を弾くことで発生する火花で照らされる。

 

カチカチッ

 

いのりの銃が弾切れになり、軽い金属音が辺りに響く。

 

それとほぼ同時に少女の仮面はビシビシという破壊音と共に砕け地面へ落ちる。

 

集は露わになった少女の顔に見入った。

褐色の肌に赤毛で、背丈と相応した幼い顔付きをしており、それでも整った綺麗な顔なのが遠くからでも見て取れる。

 

集は少女が見た目から推測出来る年齢に不相応な無表情な顔で、短剣を握っていない左手が背中側の腰へ伸びたのが見えた。

 

(まずい!)

 

いのりの装填が完了したのと少女が投げ矢をいのりに向けて放つのはほぼ同時だった。

 

いのりは少女に銃を構えるが間に合わない。

 

「いのり!!」

 

集は反射的に投げ矢の軌道といのりの間に飛び込んだ。

 

ドチュッ

 

焼けるような痛みと共に液体音が混じった鈍い音が集の左腕から鳴った。

 

「い…じあ!」

 

少女は四・五本の投げ矢を放ったが、同時に突き刺さったためか響いた音はひとつだけだった。

 

そして痛みも何本もの針に刺されたというより、一本の刃の厚い刃物に刺されたような感覚だった。

 

「シュウ!?」

 

少女はいのりが叫ぶ間に天井のダクトに飛び込み、音だけが遠ざかっていった。

 

「集、大丈夫か?」

 

「う…うん、なんとか」

 

逃げる少女を警戒してダクトに銃口を向けていた涯は音が遠ざかると分かると、集といのりの元へ駆け寄る。

 

「いやーなかなかの見世物だったよ。ゴクローサン集君」

 

その後ろから研二があっけらかんと言う。

 

「……はあ…どうも」

 

左腕に走る痛みに耐えながら集は言った。

 

「だいぶ時間を取られたな。先を急ぐぞ」

 

涯は集達にそう告げると通路の奥を目指して走り出す。

 

「シュウ…」

 

「大丈夫だよ。…いこう」

 

ふといのりの銃弾が弾き飛ばし床に突き刺さった、少女の短剣が目に入った。

集はそれを拾い上げるとズボンのベルトにそれを刺した。

 

集は左腕を抑えながら涯の後に続いた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

森林地帯はものの数分で火の海と化した。

あちらこちらで爆発音や発砲音が響きさらに木々を焼いていく。

 

綾瀬のシュタイナーは木々を掻き分け、森林地帯を疾走する。

 

その後ろからダリルのゴーチェが乱暴に木々をなぎ倒しシュタイナーを追う。

 

『いつまで逃げてんだよお!!』

 

ダリルは叫ぶと、両肩のハッチからミサイルを発射してシュタイナーを追尾する。

 

シュタイナーは器用に機体を滑らし、ミサイルを避け切る。

ミサイルはシュタイナーの足跡のように地面に土砂と爆炎を巻き上げ大穴を空ける。

 

(もっとみんなからコイツを遠ざけないと…)

 

綾瀬は仲間達のいない空き地にダリルを誘い出そうと疾走する。

 

『あれ?』

 

ダリルのゴーチェの姿を確認しようと後ろを振り返ると、背後にはミサイルで出来た大穴以外何もなく、ゴーチェの姿も無かった。

 

『あいつはどこ行ったの?』

 

『綾ねえっ上!!』

 

ツグミの警告に綾瀬が上を見上げると、ゴーチェが真横の崖を空中で蹴り、シュタイナーに飛びかかる光景が目に入る。

 

『嘘っ!本当に旧型のゴーチェなの!?』

 

『潰れろおおお!!!』

 

ダリルは叫びながらダガーをシュタイナーの顔面目掛けて振り下ろした。

 

『くっ!』

 

綾瀬も左アームからダガーを出し、ゴーチェの攻撃を防ぐ。

シュタイナーはギリギリと押され、アームと脚から火花が出始める。

 

(ぐっこのままだと本当に潰される!)

 

『あははは!無様だね。お前をグチャグチャにしたらすぐ仲間もミンチにしてやるよ!!』

 

『さっ…させるもんですか!!』

 

シュタイナーはゴーチェを弾き返そうと力を込める。

 

『はっ!無駄だってまだーー』

 

『ダリル少尉っコアルームに侵入者だ!』

 

ローワンがダリルに通信を繋いだ。

 

『接続を切り替える。443機へスワップする!』

 

『はあ!?なにを勝手にーー…!』

 

ダリルが抗議の言葉を挟もうとしたが、あっと言う間に視界が暗転する。

 

『ちっいい所だったのに…。世話が焼けるなあまったく!』

 

その言葉を合図に集や涯のいるコアルームに一番近いゴーチェの目に明かりが灯る。

 

 

『?』

 

突然組み合っていたゴーチェの両肩が力無く垂れ、綾瀬は思わず怪訝な表情を浮かべる。

 

『スワップしたみたいだよ』

 

『みたいね…どの機体かは考えるまでもなさそうね』

 

『どうするの?』

 

『……どうするもなにも。このまま陽動続けるわよ。あの変な化け物共が仲間の所へ向かってるみたいだからね』

 

『…ん?綾ねえなんでそう思うの?』

 

『………』

 

なぜと尋ねられてもはっきりとした返答をツグミに返すことが出来ない。

しかしなにか首筋が泡立つような気配が仲間の元へ向かっているのが綾瀬にははっきり感じ取れる。

 

施設から集と研二を奪還した直後に聞こえた、あの不気味な声を聞いた時と酷似した気配が仲間達の所へ迫っている。

しかし綾瀬はそれをツグミになんと伝えていいのかが分からない。

 

『とりあえず皆と合流するわよ』

 

『わかった誘導はまかせて!』

 

そんなやり取りのあと、シュタイナーはひときわ激しく炎と煙の立つ場所目指して走り出す。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

「これがコントロールコアか…」

 

集は研二の銃のヴォイドを持ち、作戦会議の時写真で見たガラスの筒の中央に光る球体が浮かぶ物体に近づく。

 

「研二を頼んだぞ」

 

「うん…」

 

その後ろでヴォイドを抜かれ気を失った研二が壁に寄りかかり座らされている。

 

「この球の中心を狙えばいいんだね」

 

「そうだコアの回転を止めろ。慎重に行けよ」

 

「…分かった」

 

集は疲労と痛みで重く感じる腕をやっとの思いで持ち上げる。

 

「……っ…はあ…!」

 

腕から脳に針金を通すような鋭い痛みが、電気が走るように伝わる。

 

「代わるか?」

 

「いいっ…これぐらいやってみせる!」

 

「………」

 

涯はそれ以上なにも言わない。

 

集はコアの中心に狙いを定め、引き金を引く。

 

フォン…

 

静かな音が響き、小さなシャボン玉状の球体がコアの中心へ吸い込まれる。

 

光る球体はゆっくりと回転を止めた。

 

「やった…!」

 

「よし…後は停止信号を書き込めば完了だ…」

 

涯がふゅーねるからコードを引き、コアに繋がる装置に接続させて作業を始めさせる。

 

「どれくらいかかる?」

 

「あと少しだ」

 

ガガガガガッ

 

「!?」

 

その時、銃声と共に集と涯の周囲で轟音と火花が弾け飛んだ。

 

『ハロー会いたかったよ。恙神涯!』

 

左方の大型のエレベーターから発砲したゴーチェからダリルの声が響く。

 

『さんざん僕をコケにした報いを存分に受けてもらおうか…!』

 

「涯っ!」

 

「ガイっ!」

 

「二人とも動くな!集、お前はコアに集中しろ!」

 

涯は集といのりにそう告げると、ゴーチェに向けて駆け出した。

 

『そこおッ!!』

 

『ダリルっそこにはコアがあるんだ!やり過ぎるな!』

 

ローワンの声を聞いてか聞かずか、ダリルは接近するダリルに何発も銃を撃つ。

 

涯は袖からワイヤーを放ち、ゴーチェの頭上にあるパイプに巻き付ける。

 

涯は床を蹴ると、振り子運動の要領で身体を揺り動かし、銃弾を避ける。

 

銃弾はすでに目標のいない床を、火花を散らしながら削る。

 

「集っ!いのりっ!目を閉じろ!」

 

涯はそう叫ぶと、ゴーチェの目の前に閃光手榴弾を放る。

 

バアアン…! という炸裂音と共に閃光が辺りを真っ白に染める。

 

『まぶし…!』

 

ダリルの視界が回復した時、周囲に涯の姿がなかった。

 

『ああ?どこ行ったあ…!?』

 

ダリルが目を眩ませている間に、涯はすでにゴーチェの肩に飛び乗っていた。

 

ガンッガンッガンッ!!

 

涯は首筋の、頭部から離れた場所にいるパイロットの命令を胴体へ送る脊椎にあたる部分に銃口を向け発砲する。

いうならそこがエンドレイヴの急所だ。

 

『ぐがあっ!!このやめろおくそがあああっ!』

 

もがくダリルは思わず辺りに無差別に銃弾を撒き散らす。

 

「うあっ!」

 

集の目の前にあるコアにも銃弾が命中し、集は思わず声を上げる。

 

「大人しくしろ…」

 

涯はゴーチェの首筋にもう一発銃を撃ち込む。

 

それでゴーチェは完全に沈黙し、ダラリと両腕が垂れる。

 

「すごい…。動きに全然無駄が無い…」

 

涯の戦う姿に集は感嘆の言葉を漏らす。

 

「……!!?」

 

集が再びコアに視線を戻すと、コアに異変が起こっていることに気が付いた。

 

ダリルの無差別に放った銃弾がコアに損傷させ、スパークを放ちながら奇妙に震えている。

 

「涯っ!!」

 

「!!…ツグミっ!」

 

『大変よ!涯っ!ルーカサイト・ワンの様子がおかしいの!』

 

涯は状況を確認しようと、ツグミに通信を繋ぐ。

 

「どうゆうことだ?」

 

『たぶんコアが破損したせいで姿勢制御が誤作動を起こしたんだと思う…!どんどん軌道を下げてるわ!』

 

「それでどうなるの!?」

 

尋常では無い状況を感じ取った集は、焦りのあまり自分の耳元に着いている通信機の存在を忘れて、涯の通信機に飛び付く。

 

『このままだと…。ルーカサイト・ワンは質量のほとんどを保持したまま……ーー

 

ツグミの声は震えていた。

 

ーー東京に落ちるわ!!』

 

「被害予想は…?」

 

『……東京都市部は間違いなく壊滅…。都市にいる人達はまず助からないわ……』

 

 

「うそ…だろ?…そんな…!」

 

集は無意識の内に、地下から見えるはずの無い空を見上げる。

地上から遥か上空には、人々を都市もろとも焼き尽くす程の物体が今まさに降り注ごうとしている。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

集達は地上へ向かうエレベーターの扉の前で、ふゅーねるが扉を開けるのを待っていた。

 

「これからどうするの?」

 

集は研二のヴォイドを片手に、辺りを警戒しながら涯に尋ねる。

 

「………」

 

涯はしばらく考えると、集に左手を差し出す。

 

「集っあのペンを出せ…」

 

「えっ?うん分かった」

 

集はポケットから虚界から受け取ったペンを取り出し、涯の手のひらに乗せる。

 

「気付かれていましたか…」

 

「っ!…あなたは…」

 

集が声のした後方を振り向くと、件の虚界が歩いて来ていた。

 

「どうやら押さずに済んだようですね。桜満集君」

 

「あなたはもっと僕を信用させるべきだったんですよ。それにあなたは、一言も僕の身の安全を保証する言葉を言わなかった……」

 

「なるほど。次回の参考にしましょう」

 

本気か冗談か分からない事を、虚界はくっくっくと肩を揺らしながら言った。

 

「その話は後だ。貴様が虚界か」

 

「初めましてミスター涯」

 

涯の睨みを虚界はひょうひょうと受け流す。

 

「取引だ。こいつで衛星をなんとかしてやる…」

 

「!?」

 

虚界にペンを突きつけながら言う涯の言葉に、集は驚く。

 

「その代わり一連の事件で得た桜満集に関するデータを全て抹消しろ」

 

集の後ろで作業中のふゅーねるを抱きかかえながら聞き耳を立てていた、いのりも目を見開く。

 

「…いいでしょう…」

 

虚界はいつものように爬虫類を連想されるような、不気味な笑みを浮かべた。

 

「……涯…?」

 

「行くぞ集っ」

 

涯は扉の開いたエレベーターに研二を支えながら乗り込んだ。

 

「……」

 

集はなぜかエレベーターに乗り込む涯の背中から目を離せず、動けなかった。

 

 




ちょっと戦闘あっさりすぎるかな…?

ブレイドも爪ミサイルばっかりで大人しいですし…。

次回もうちょっとがんばった方がいいですかね?

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