ギルティクラウン~The Devil's Hearts~   作:すぱーだ

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今回のルーカサイト編で、DMC側のキャラを登場させます。
集やいのりに並ぶ重要なメインキャラにする予定(あくまで予定)。


あっダンテでは無いです……。


ー追記ー
ごめんなさい。肝心なことを言い忘れてました。

あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。




#18檻~leukocyte~

補給隊を壊滅されて二時間後、集達はそれぞれ複数のバスに乗り目的地の周辺へ向かっていた。

 

涯はそのままの足で目的地へ向かい、準備を進めている。

四分儀は一足先に涯と合流しその手伝いをすると言っていた。

 

向かう場所は集にも分かる、ルーカサイトのコントロール施設……つまりはあの衛星の心臓だ。

 

メンバー達の空気は作戦実行前ともあってピリピリとした空気が漂っていた。

しかし同時にどこか悲哀じみた感情も行き場を無くした蛇の様に辺りを這い回っていた。

その悲哀じみた空気を流している張本人こそ集であった。

 

「…………」

 

「……ちょっと いつまでそんな顔してんのよ」

ピリピリとした緊張感というより、涙を流さず泣いている様な顔で座席に座っている集に厳しい言葉を投げた。

 

「………綾瀬……」

 

集の真向かいで車椅子を固定している綾瀬に顔を上げる。

その顔はまるで初めて綾瀬の存在に気付いたかのような顔をしていた。

 

「しっかりしなさい、気にしても仕方ないでしょ?泣いてる暇なんて私達にはないのよ」

 

「いや……分かってるよ……ただ……」

 

どうしても思い出してしまう……。

言葉を交わし 一時歩み合った人間を失った時は、いつも集の脳裏には幼い頃、集が彼の元へ行く前……あの教会にいた頃苦楽を分かち孤独を埋め合いながらも明日も強く生きれることを 集と共に信じていた少年の姿が浮かぶ……。

 

……その少年が死ぬ瞬間を……。

 

……" 集の手にかかり殺される少年の顔 "を……、

 

集は何度も思い出す。

まるで集を咎める拷問のように、あの時 感じた、悲しみや苦しみ、そして絶望が、自分を責める感情がまるで咳が外れた様にあふれ出すのだ。

 

その感情から叫び出したい衝動に駆られるが、集は必死にそれを抑える。

 

周りに誰もいなければ、集はみっともなく泣き叫んでいただろう。

 

「………ただ…なによ…?」

 

「……………」

 

集はまた黙り込み、うつむく。

 

「ばっかみたい……仲間ごっこにそんな真剣になっちゃてさあ………」

 

集は声のする方へ、目を向けた。

 

一人の少年が立っていた。

少年は集をまるで興味が無いという風な目で見る。

 

「城戸 研二……あんたが施設から助け出した人よ」

 

「……えっ?」

 

「仲間ごっこ……って、どういう意味ですか?」

 

綾瀬は研二を睨みながら問いかける。

 

「言葉通りの意味に決まってんじゃん。そいつときたら…ガキが一人死んだくらいでメソメソメソメソと鬱陶しい、たかがチビが一匹死んだくらいでなに騒いでるんだか……」

 

「なっ!!?」

 

研二のあんまりな言葉に綾瀬が抗議を挟もうとした時、集が席から勢いよく立ち上がった。

 

集はゆっくりと陽炎のように揺れながら、研二に近付く。

 

「ちょっと やめなさいってば!!」

 

綾瀬が集の手を掴もうとするが、空を切る。

 

「……今なんて言った……」

 

集が低い声で言う。

 

「……………」

 

「取り消せ…」

 

「はあ? なにかそんな悪い事言った?」

 

集は奥歯が砕ける程 歯を食いしばる。

集の口の中に血の味が広がる。

 

「 当たり前だ!! 仲間だろ!!! 」

 

 

 

車両に乗っているメンバー全員の視線が二人に集められる。

 

「………」

 

「……ふん」

 

睨む集に研二は興味無さそうに見返す。

 

「集 落ち着いて下さい」

 

今にも研二に殴りかかりそうな怒気をはらんだ集に、大雲が集の肩を捕まえてなだめる。

 

「城戸もいい加減にしろ」

 

アルゴが研二を咎める。

 

研二は ハイハイと言い、肩をすくめながら座席に戻っていく。

「……………」

 

「さっ 集も……」

 

まだ研二を睨み続ける集に、大雲は座席に座ることを促す。

 

「………大雲さんは…悔しくないの……!?」

 

「……………」

 

「……仲間をあんな風に言われて…悔しくないの!!?」

 

振り返らず叫び続ける集に大雲は、答えることが出来ない。

 

「 いい加減にしなさい!! 」

 

耐え切れなくなった綾瀬が集に怒鳴り声を上げる。

 

「 今 争ってもどうにもならないでしょう!!? 」

 

「はあ…はあ…はあ…はあ………はあ……」

 

集は上昇する頭の熱を無理矢理鎮火させると集からみるみる怒気が消えた。

大雲は集から手を離す。

 

「……目標があるんだもんね…綾瀬達には……」

 

「…………」

 

「日本を救うっていう大きな目標があるから…例え仲間が死んで悲しくても……我慢しなきゃならない……」

 

「それは理解できるし、悪い事とも思わない……だけど………」

 

集が痛みに耐えるように、自分の心臓の位置で服を鷲づかむ。

 

「……僕には…これしか無いから……、これが無くなったら……僕にはもうなにも残らない……」

 

「なにが……言いたいの……?」

 

集は綾瀬に微笑みかける。

 

「……そうなろう って、僕は誓ったんだ……」

 

集の言葉の意味は、綾瀬には分からなかった。

ただ集の笑顔に形容し難い不安を覚えた。

まるで、ヒビの入ったガラス細工を力任せに握るような危うさを感じたのだ。

 

 

 

 

車両に揺られて集達が到着した場所は、ダム周辺の森林地帯だった。

 

普通の人間ならばまず迷い込まないその場所で、集達はカモフラージュの加工が施された大型テントに着いた。

 

「そろったようだな」

 

テントの入り口に立っていた涯は一言そう呟き、背を向けテントの中へ入っていく。

メンバー達はそれに続いた。

 

 

「今回の作戦目標は月の瀬ダムの底、ルーカサイトのコントロール施設だ」

 

メンバー達をテント内のベンチに座らせ、涯は説明を続ける。

 

「ここの最深部に潜入し、コントロールコアを停止させる。 ツグミ 」

 

ツグミは一言、アイ と答えキーボードの上で指を躍らせると、プロジェクターに宇宙空間に漂う衛星の映像が現れた。

 

「これがルーカサイトだよ。これは地上からの量子暗号システムでコントロールされてるの。で ダムの地下二百メートルに……はい ドーン!」

 

映像が切り替わり、透明なケースの中に発光する球体が浮いた物体が映し出される。

 

「これがそのコントロール装置。コアは超電導のフロートゲージに浮遊する形で格納されてて、物理的な刺激を受けると自閉モードに切り替わっちゃうの。こうなったらもうお手上げよ。外部からの操作を一切受け付けなくなっちゃうの」

 

おまけに とツグミは続ける。

 

「ルーカサイトはネットワークからは切り離されてて、ここのコントロールルームからしか命令を受け付けないの。つまり、破壊する事もハッキングする事も出来ないってこと……」

 

ツグミはお手上げっといった感じで両手を上げる。

 

「だから停止信号を送るには、コントロールコアを" 触れず "に操作するしかないのよ」

 

「つまりこの作戦の鍵は鍵となるのは、集の王の能力と、研二の重力操作のヴォイドだ」

 

ベンチから離れた場所で立つ集と、ベンチの上で膝を組む研二の二人に視線が集まる。

 

「今は三つめの衛星は軌道遷移中、それが終わったらコントロールコアは封印されちゃうわ。そうなったらもう手出しは出来なくなるの」

 

「ルーカサイトが完成すれば、日本から出ようとするものは全て撃ち落とされる" 檻 "が完成する…。止られるのは今だけだ」

 

メンバー達から「よっしゃ やってやる」という声があちこちから上がる。

 

「人員が足りません」

 

大雲が手を上げる。

 

「分かっている。ツグミ」

 

涯はツグミにメモリーを渡す。

ツグミがキーボードにそのメモリーを差し込むと、スクリーンに中のファイルを表示させた。

 

「これが作戦案だ。各自で共有しろ」

 

「……損害予測が五パーセントから三五パーセントに跳ね上がってるな…」

 

「つまり…三人に一人は犠牲になるって事か……」

 

「!!!」

 

アルゴの呟きで集の顔色が変わる。

 

「三人に一人だなんて…そんな!!」

 

「今止めなくてはいずれ国中に被害が及ぶ。俺たちが食い止めるほか無い」

 

集の叫びを涯は冷たく返す。

 

「だけど!!三人に一人僕らをコントロールルームに送るために死ぬなんてーー」

 

「いやいや、集ちゃんさ。それはちょっと自意識過剰じゃない?」

 

集の言葉に研二が横やりを入れた。

 

「…… どういう意味?」

 

「君のため?そんな訳無いじゃん。この国のためだよ。まいったなあ空気読もうよ。ちょーと自分が特別な力を手に入れたからって、大事な人間って勘違いしちゃった?」

 

「………」

 

「どうしたの?なんか言ったら?」

 

集は目を伏せる。

 

「……違う、そんなんじゃない……僕はただみんなに死んで欲しく無いだけだ」

 

「…………」

 

集にメンバーの視線が全て集められる。

 

「みんな…すごくいい人達だ。……そんな人達が今日死ぬかもしれないなんて想像したくない……」

 

集の言葉をメンバー達は静かに聞く。

 

「もし…みんなが死なずに済むのなら……。代わりに僕が死ぬ事になったとしても……僕なんかーー」

 

「ああ!もう分かった。君はそういう人種か……」

 

研二は集を軽蔑するように睨む。

 

「ますます、気持ち悪いなあ。やっぱり君は自分を特別だと思ってるわけだ」

 

「はっ?」

 

何故そうなるんだ と集は思った。

 

「だってそうでしょ?要するに君は自分が傷つけば誰かが助かると思ってるわけだ。君はそういう自虐的なお花畑ちゃんって事だろ?」

 

「なっ!?違う!!僕は自分が傷つけば全て解決するなんて思った事なんか無い!!」

 

「じゃあどうして。僕" なんか "なんて言葉が簡単に出るんだい? もしそれを本気で言ってるんなら…ーー

 

ー……君は他人の気持ちなんか、これっぽっちも考えた事が無いんだろ?」

 

 

「っ!!!」

 

 

 

集の脳裏に 自分をGHQに売った瞬間に、モノレールの扉の隙間から見えた谷尋の表情。

 

そして悪魔に呑まれ、自分をも呑み込もうと迫る。今は亡きかつての親友の顔が浮かんでは消えていく。

 

 

「!!」

 

集の目が火に炙られたかのように熱くなり、視界が水中に潜ったように曇る。

 

集はテントから飛び出し森の中へ消えていった。

 

「シュウ!!」

 

いのりが飛び出した集の後を追って立ち上がる。

 

「………」

 

涯は黙ってテントから飛び出すいのりを見つめる。

 

「研二…ーー」

 

「はいはい分かってるよ。よけいな事言うなだろ?」

 

咎める四分儀に研二はどこ吹く風といった感じに返す。

 

(……集…お前は…今までどこでなにを………)

 

涯はしばらくの間、テントの入り口を黙って見ていた。

 

 

いのりはなぜテントを飛び出し、集を追っているのか自分でも分からなかった。

集と出会う前は、涯からなにか言われなければ自分からなにかしようとは、決して思わなかった。

 

( どうして私はこんなにシュウが放って置けないの?)

 

「シュウ…!」

 

集は木の根元の大きな岩の上で、こちらに背を向け雨に打たれながら座っていた。

いのりの声に気付いた集はゆっくりいのりを視界に収める。

 

いのりの姿を見ると集は顔に微笑みを浮かべる。

 

「大丈夫だよ……少し頭冷やしたら、すぐ戻るから……。どこにも逃げたりしないから……」

 

「シュウ……」

 

「あいつの言う通りかもしれない。僕はいつも他人の顔色ばかり伺ってばっかりいて……。涯やみんなはすごいなあ」

 

集は雨雲を仰ぎ見た。

 

「死ぬかもしれないのに誰も怖がらず、涯を信じて……」

 

「…………」

 

「涯も…仲間の命をあれだけ背負ってるのに……、涯の強さは僕じゃ絶対手に入りそうに無い……」

 

集は涯が自分が目指すものとは違う、指導者としての強さを持っている事はこの数日でよく分かった。

 

「……いや、それとも仲間の命は道具とか踏み台としか思ってないから平気なのかな……?」

 

集は涯を指導者としては、すでに信用している。

だが、人間性においては涯は自分の仲間を対局を操作する駒として見ているのではないかと思っていた。

 

彼は使えるものは何でも利用し、集のような一般市民をも研二を奪還するためにワザとGHQに逮捕させた。

 

「 涯は梟君の死になにも感じてないのか?」

 

集は嫌悪と怒りといった感情が、ここにはいない涯に対して浮かべていた。

 

もし涯が集の思い浮かべる通りの人間ならば、馬が合うはずが無かった。

 

涯は指導者としての強さを手に入れているとするならば、集の目指すものは、あらゆる災厄や邪悪なものから出来るだけ多くの人間を救うヒーローだからだ。

 

「平気じゃないよ」

 

「……えっ?」

 

「ガイは強くない」

 

集はいのりの言葉が理解できなかった。

 

あれだけ大勢の人間を率い、GHQという強大な敵と戦うような男が弱いはずが無い。

 

「なにを言ってるんだ?いのり…涯が強くないなんて……」

 

「来て?見せてあげる」

 

いのりは集の手を引きながら言った。

 

 

 

いのりに手を引かれ、集は一番奥のテントに連れて来られた。

 

集が疑問の言葉を発しようとした時。いのりは鼻に指を当て『静かに』のジェスチャーをしたので、集は口をつぐんだ。

 

「ガイ」

 

いのりはテントの中に入り、その中のついたてに声をかけた。

 

( 涯…?)

 

いのりについたての側に座るように促されたので、集はそれに従う。

 

「いのりか……」

 

ついたての向こうから涯の声が聞こえた。

 

「久々に堪えた……。今日の悪夢も飛び切り最悪だったよ。俺の作戦のせいで死んだヤツらが出る所まではいつも通りだったが、その中に梟がいた 」

 

(涯?なにを……)

 

いのりはテントの外に出て行くが、今の集の意識には入って来なかった。

 

「ルーカサイトの攻撃を受けた時、梟はまだ生きていた。笑っていたよ俺が無事で良かったと…死ぬのが自分で良かったと…」

 

集はまばたきさえ出来ず、固まっていた。

 

「いのり…恙神涯は、彼らに報いることが出来る男か?」

 

涯のそれはいのりにと言うより、自分に問い掛ける様だった。

 

「こんな俺でいいのか?」

 

集はついたてのカーテンを開けて、簡易ベッドの上に座りながら輸血を受ける涯の前に立った。

涯は集の靴音に顔を上げ、集の顔を見て一瞬目を見開いたが、すぐに集の顔を睨みつける。

 

「盗み聞きとは趣味が悪いな……」

 

「……ごめん……」

 

「ふん 幻滅したか?」

 

集は少し顔を伏せる。

 

「いや……そうだね…正直残念っていう気持ちと、嬉しいっていう気持ちが半分ずつあるよ……」

 

「………」

 

「僕は今まで、ずっと君を目的のためなら手段を選ばない血も涙もない奴だと思ってて、ずっと好きになれなかった。……だけど逆にそこを尊敬もしてた」

 

「…………」

 

涯はなにも言わない。

ただ黙って集の言葉受け止めている。

 

「僕は ずっと誰かを一人でも多く助けようって、それだけを目標にして……それだけを生き甲斐にしてた。だから君の様な生き方は想像も出来なかった」

 

「………」

 

「僕が守ることが出来るのは、自分の近くにいる人達だけだ……。けど君は国そのものを救おうとしてる。正直すごいと思った。僕じゃあ絶対立てないような場所に、君はいるんだから……」

 

「……見てのとおり俺はちゃっちで真っ先に淘汰されてもおかしくない男だ。葬儀社のリーダー恙神涯は虚像に過ぎない。だが それで皆が戦えるなら、俺は幾万の亡霊と罪を背負ってでもその虚像を演じてやる」

 

「……うん、…そうだね……」

 

集は涯の言葉に共感できた。

 

「君は人間だった……、他の誰よりも優しい人間だったんだ」

 

「……話はここまでだ」

 

「だから嬉しかった!君も人間だって分かって!!君も悲いんだって!!」

 

涯は立ち上がり、テントから出ようとする。

集は涯の肩を掴んだ。

 

「離せ集……」

 

「涯…君は知ってるんじゃないか?

 

、 ロストクリスマスの真相を……」

 

「!!」

 

涯は目を見開き集を見る。

 

「君はあの時、パンデミックの中心にいたんじゃないの?だから何故あんな事が起こったか知ってるはずだ」

 

「黙れ…」

 

「他人のヴォイドが見えるのも…それが関係してるんじゃないの?」

 

「集…三度は言わないぞ」

 

涯は集を怒りの混じった眼光で睨みつける。

 

「 " 離せ " 」

 

「っ!!………」

 

集自身なぜあんな疑問が自然と口に出たのか分からず、頭の中で 『なんだそれ』と自身を嘲笑した程だった。

 

しかし涯のこの反応で確信した。

 

 

涯は間違いなくなにかを知っている。

 

「涯は…なにを隠してるの?」

 

「お前こそなにを隠してる。桜満集」

 

「えっ?」

 

「お前のその回復速度、それにあの姿……。ヴォイドゲノムの力という誤魔化しが俺に通じるはずが無いだろう」

 

「そ…それは……」

 

答えを渋った集を聞く気が無いという感じに、涯はテントから出ようとする。

 

「っ!! 待って!!」

 

集は涯から離れた手で、また涯の肩を掴んだ。

 

ゴッ

 

涯のこぶしが集の頬に突き刺さる。

 

「があ!!?」

 

集は床に仰向けに倒れた。

 

「言ったはずだぞ集……、三度は言わないと」

 

(……ああそうか……)

 

集はなぜ涯を嫌悪していたのかようやく分かった。

 

(要は同族嫌悪だったんだ……)

 

集はゆっくり立ち上がる。

 

(似すぎてるんだ。僕と涯はウンザリするほど……)

 

集は地面を強く蹴り、涯に殴りかかった。

 

「ぐっ!!」

 

集の右拳は、先ほど集が殴られたのと同じ場所に打ち当たる。

涯は呻き声を上げながら背後の電子機器に激突した。

涯は殴られた口元を拭いながら、集を睨みつける。

 

「…………」

 

集はその視線に、ボクサーの様にこぶしを構えて答える。

 

涯はまるで今までの鬱憤を晴らすかのような、技術も経験も詰まっていないメチャクチャなこぶしを集に叩きつけた。

 

集もそれをガードも、避けることもせず。

それに負けないくらい、デタラメなこぶしで応戦する。

 

 

数分間そんな事を続け、二人はボロボロの身体で肩からゼーゼー息をしながら向かい合った。

 

「ぐっ!……うっ」

 

涯は傷を抑え、膝を着いた。

 

「……涯っ、……どうしてそこまでするんだ……」

 

涯は息を切らしながら集の顔を見る。

 

「……俺には…命に変えても叶えたい願いがある」

 

「っ!!」

 

「他の連中もだ。お前もだろ?」

 

「………」

 

集は眉を寄せて、涯の顔を見る。

 

「俺のことはどうでもいい。だが、あいつらの願いを叶えるためにお前が必要なんだ。力を貸してやってくれ」

 

集は床に落ちた涯の鎖付きのロザリオを、拾い上げた。

 

「研二曰く気持ち悪い人間らしいよ?僕ら……」

 

集は鼻で笑いながらそう言うと、涯に手のひらにロザリオを乗せて差し出した。

 

「僕も手を貸すよ…君を信じる」

 

「…………」

 

涯はしばらくその手と集の顔を見比べると、ロザリオごと集の手を握った。

 

「ありがとう」

 

集はその言葉を合図に涯を引き起こした。

 

 

 

 

「ふうー…いてて。そういえばなんで僕ら殴り合ってたんだ?」

 

集がそう言うと、涯は呆れたようにため息をついた。

 

「お前の一方的な嫉妬だろう……。好きなんだろ?いのりが…」

 

「なななっ!?い…今は関係ないだろ!!それに最初に殴ったのは涯じゃないか!!」

 

涯はふんと笑う。

 

「関係ないか…。いのりが俺の部屋に入るのを、さぞかし気にしてるように見えたが?」

 

「へっ?気付いてたの?」

 

涯は集の言葉を全く意にかえしない。

 

「断っておくが、俺といのりは特別な関係でもなんでもない」

 

「えっ!そうなの?じゃあなんで……」

 

「理由は話せない。しかし まあ」

 

「?」

 

「部屋に入る前に視界の隅に見えたお前の表情ときたら……、あんなに笑うのを我慢するのが大変だったのは久しぶりだったよ」

 

そう言って、涯は小さく笑う。

 

「……僕に盗み聞きは悪趣味とか言えないじゃないか……」

 

集の不貞腐れた顔に涯はさらに笑った。

 

(そのまま笑い死んでしまえ……)

 

集が軽く呪詛を飛ばしながら、ズボンのポケットから手を出すと、例の不釣り合いなボールペンがこぼれ落ちた。

 

「? 集それはなんだ」

 

「虚界って人からもらったんだけど……。なんでも君が近くにいる時にボタンを押せば、相応しい罰を与えるとかなんとか」

 

「……ちょっと見せてみろ」

 

集は涯にボールペンを渡した。

 

「…………」

 

涯はボールペンを見ながら、考えにふけった。

 

「お前が持ってろ。なにかの役に立つかもしれない」

 

「え?いいの?」

 

涯はボールペンを集に投げ返し、テントの出入り口を目指し歩き出した。

集もてっきり没収されると思っていたボールペンをズボンのポケットにしまいながら、その後を追った。

 

 

 

 

「あれ?いのり?」

 

綾瀬は涯のテントの前に立ついのりを見て声をかけた。

 

「いのりん何してんの?」

 

「しー」

 

横のツグミがいのりに近づくと、いのりが鼻に指を当てて『静かに』のジェスチャーをする。

 

「………」

 

「………」

 

綾瀬とツグミは目を丸くして、二人共いのりを思わず二度見する。

 

しばらくすると、テント内から物凄い音が響いてきた。

 

「なっなに!?」

 

「涯っ!大丈夫!?」

 

テントの中に飛び込もうとする二人を、いのりが手を伸ばしてそれを制止する。

 

もうしばらくすると、テントから二人の人間が出て来た。

 

「涯っ!?それに集!?」

 

綾瀬とツグミは二人の姿を見て、驚愕する。

二人の顔はあちこち鬱血してボロボロになっていた。

この分だと顔以外も同じ状態だろう。

 

「ふっ 二人共!!なにがあったの!?中で何やってたの!?」

 

ツグミの叫びに、二人はお互いに目配せするように目を合わせた。

 

「「………」」

 

そして二人同時に言った。

 

 

「「喝の入れ合い」」

 

「「はい?」」

 

呆然とする綾瀬とツグミの横で、いのりが満足そうに微笑んでいた。

 

 




あっネロでもないです。

なんかたくさん文章書いてると、自分が何書いたか分からなくなる……。


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