ギルティクラウン~The Devil's Hearts~   作:すぱーだ

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前回までのあらすじ……

風邪は天敵。以上

ひどい悪夢を見ました。みなさんも気をつけてくださいね。


今回 ちょっとだけ、オリ設定入ります。


#17模擬戦~trigger~

集は地下の広大な空間に連れられた。

トンネルの様な線路が地面にはしり、集の前方には綾瀬とシュタイナー、その後方には小型の車両が配置してある。

 

「模擬戦を始めるわ。ルーカサイト攻略作戦のシナリオDー14を下敷きに、あなたが単身エンドレイヴと対峙しなければならなくなった場合の想定よ」

 

綾瀬は集の顔を引き締まった顔つきで見る。

 

「りょーかい」

 

集は準備体操をしながら、改めて周囲を見回す。

やたら広い空間の割りにはシュタイナーと、小型車両以外でさらに後方の大型トラックぐらいしか置いてある物が無い。

 

(元から訓練用として使われてるのか……)

 

所々に床と、柱に砕けた部分があり、柱も途中で折れて倒れている部分がある。

確かにこれだけ広ければ、ちょっと派手に暴れたくらいではビクともしないだろう。

 

「おーい。頑張れよー!」

「期待してるぜー!」

 

集が声の方を見ると、メンバー数人が集に向けて声援を送っていた。

集はあまりこの様な状況に慣れておらず、ぽりぽり と頬を掻く。

 

ふと いのりと目が合う。

 

いのりはいつもに増して真剣な顔で集を見ていた。

 

「私のシュタイナーを抜いて、後ろにある車両に駆け込めたらアンタの勝ちよ。ただしペイント弾でも当たれば、気絶くらいはするわ 集中して!」

 

綾瀬の言葉に集は向き直る。

 

「よく分かってるよ。普通のゴム弾でも、肋骨を折るくらいわけ無いからね……」

 

綾瀬は集の言葉に小さく鼻を鳴らすと、車椅子を返し大型トラックの方へ向かっていく。

 

 

 

「よお 集」

 

「アルゴさん……」

 

アルゴが集にサブマシンガンを差し出して来る。

 

「綾瀬の機体を抜けるのは 俺でも無理だが、お前なら出来ると思うぜ」

 

「はいっ、ありがとうございます」

 

集はアルゴから受け取った、サブマシンガンをチェックしながら ふと呟いた。

 

「あれ? これ……メンバー加入の通過儀礼じゃないの?」

 

呟いても その疑問に返答する者はいなかった。

 

 

 

『綾ねえ シュタイナーになってから、さらに速くなったからね〜。だれかさんに気を取られてると、すぐ勝負がついちゃうよ〜』

 

「……………」

 

床を走る奇妙な四足走行の物体から スピーカー越しでも、ニヤニヤ笑っているのがよく分かるツグミの声が聞こえる。

 

『綾ねえ 接続よろし?』

 

『やって』

 

綾瀬の声を合図に シュタイナーの目の部分に光がはしる。

 

『始めましょうか!』

 

「待ってました」

 

シュタイナーの外部音声からの綾瀬の声に 集は答える。

 

『それじゃあ!レディーーゴーー!!』

 

ツグミの合図に 先ずは集が後方へ全力ダッシュで動き出す。

 

シュタイナーの機動力は施設での戦いの際に、いやという程目にした。

 

正面突破では簡単に回り込まれ、格好の的だ。

 

集は後方の柱の影に滑り込む。

 

『へえー セオリーは理解してるのね。けど そんな消極的で、私を越えられると思わないでよね!』

 

シュタイナーの弾が、集の隠れた柱を黄緑色のペイントで染める。

 

( ……っ ここもすぐ回り込まれる!)

 

間髪入れず集は次の柱へ向け、駆け出す。

綾瀬は狙いを定めながら撃ち続ける。

 

ペイントが集の走った場所を足跡の様に染めていく。

 

途中、集が屈むと、一瞬後 集の頭があったであろう場所に弾が前髪をかすめて通り過ぎる。

 

集はそのままスライディングで次の柱へ身を隠す。

綾瀬のシュタイナーをまいて、目的地へ到達する方法は物影に隠れながらの移動以外 集には思い付けなかった。

 

だが 綾瀬がそれを許すはずが無い。

 

「……っ!!」

 

集は柱の影に回り込んで来た、シュタイナーの頭部に向けて発砲する。

シュタイナーはあっさりと 集の弾を屈んで避けてみせた。

 

『ほら!さっきまでの威勢はどうしたの!?』

 

「綾瀬さんこそ、調子悪いの?全然当たらないよ!!」

 

集は自分とシュタイナーの間に柱を挟む形を維持すべく、柱の周りを走り続ける。

狙い通りシュタイナーの弾は柱に阻まれて 、集に当たる事は無い。

しかしこれでは集が勝つのも難しい。

 

集がそこまで思考を巡らしていた時。

 

『ああもう。こそこそしてんじゃ無いわよ!!』

 

綾瀬はそう言うと、柱の影にシュタイナーの腕を突っ込ませて来た。

 

「うわっ ちょっ!!直接攻撃あり!?」

 

集は腕を避けるが、綾瀬はその先に先回りして銃口を向けた。

 

「くっ!!」

 

集は撃たれる前に サブマシンガンをシュタイナーに発砲する。

しかし シュタイナーはまるで人間の様な柔軟性で弾を躱す。

 

集はシュタイナーからの反撃の弾丸をなんとか 別の柱に走り込みやり過ごす。

何度か集の身体を弾が掠め肝を冷やした。

 

(くそ、このままじゃジリ貧だ!)

 

柱の影に隠れながら、集は自分の右腕を見つめながら、人からヴォイドを抜き出す瞬間をイメージする。

 

すると 集の右腕から、あの銀色の幾何学的な模様が浮かび上がる。

 

集はこの模様を " ヴォイドエフェクト " と呼ぶことにしている。

 

(よしっ!これだけでも、自由に使えるようになれてよかった)

 

「……っふ!」

 

集は自分の足元にヴォイドエフェクトを展開させた。

 

 

『ほらいい加減 観念したらどう!?』

 

綾瀬は苛立ち気に集に呼びかける。

集が柱の影から動き出した瞬間に一斉掃射しようとしていたが、全く動きが無い。

 

綾瀬はため息をつくと、ゆっくり柱に近付く。

 

そして 柱に近付くと、一気に柱の影に飛び出し銃口を向けた。

 

『はっ?』

 

柱の影に集の姿は無かった。

別の柱に隠れたのかと一瞬思ったが、綾瀬は集がこの柱の影に隠れた瞬間から目を光らせていたのだ。

 

なにか動きがあれば気付かないはずが無い。

 

『!!』

 

頭上で気配を感じて上を見上げた瞬間、綾瀬は慌てて上空に発砲した。

集が上空でヴォイドエフェクトを蹴って、ペイント弾を避ける姿が見える。

 

『なによ それノーマルで自在に使えるなんて聞いて無いわよ!』

 

「慣れたもんでしょ?」

 

集は空中のヴォイドエフェクトの上で、不敵に笑う。

『面白いじゃない!!』

 

綾瀬は再び集にペイント弾を打ち込む。

 

集のエフェクトから足を離すと、足を上に蹴り上げ頭上に展開されたエフェクトを蹴り飛ばした。

 

集は下方に急降下し集のいた場所をシュタイナーのペイント弾が掠め飛ぶ。

 

集は落ちながらシュタイナーに向けペイント弾を撃つ。

 

『くっ!!』

 

綾瀬はシュタイナーを操り、縦線状に放たれた弾を躱す。

 

自然 、集とシュタイナーの間に柱が挟み込まれる。

 

集は着地すると、後方の車両に向けて駆け出した。

 

『させないわよ!!』

 

「!!」

 

集は横に飛び退き、ペイント弾を避ける。

 

「ちぇっ、やっぱりそう簡単にはいかないか……!!」

 

集は急いで近くの柱に飛び込む。

飛び込むと同時に集と同じ射線上に入るシュタイナーの姿が目に入った。

 

『残念だったわね、これで終わりよ!!』

 

綾瀬は着地の体勢でいる集を撃つ。

 

この体勢の悪い状態で避けても、簡単に動きが読まれてしまう。

例え また柱の反対側に飛び込んでも、こうしている今でもシュタイナーは集に接近しているのだ 回り込み第二射で沈めることはわけない事だと、綾瀬は踏み勝利を確信していた。

 

しかし次の瞬間綾瀬が見たのは、集の予想外の行動だった。

 

集は避けようとしないばかりか、着地の状態のまま背後にサブマシンガンを撃つ。

その瞬間 空中でペイントが四方八方に飛び散る。

 

集の周囲でもペイントが飛び散るが、集はほぼ無傷だ。

 

『はあ!!?まさか!!』

 

集は自分に当たる弾だけを撃ち落としたのだ。

 

『どんだけ デタラメなのよ!アンタは!!』

 

集は自分にぶつかる勢いで突進して来るシュタイナーをヴォイドエフェクトを蹴って飛び越える。

シュタイナーの頭上を飛び越えた集は、そのまま柱に全身を打ち付ける。

 

べしん という鈍い音を立てて柱に激突し 逆さまに張り付く集を綾瀬は呆れ半分で見る。

 

『なにやってんのあんた… っは!!』

 

綾瀬はそう叫ぶと、シュタイナーの腕を逆さに柱に張り付く集の胴体目掛けて振りかぶる。

 

「ほいっと」

 

集は軽い声を出し 柱を抱きかかえると、逆しの字に身体を曲げる。

シュタイナーの腕は何も無い柱を掴む。

 

集は両脚でシュタイナーの腕を抱え込みと 両手を柱から離し、振り子運動の要領で身体を揺らし、両脚を離すと空中で弧を描きながら地面に着地した。

 

『さ……猿か あんたは!!』

 

綾瀬は集の動きに呆気に取られながらも、そう声を上げて叫ぶ。

 

その瞬間 集は両手を上に添える様に上げて軽く飛び上がる。

 

『?』

 

綾瀬は集の奇妙な行動に疑問を感じた瞬間、上空から集の手の中にサブマシンガンが収まったのを見て ギョ とする。

 

集はシュタイナーの頭上を飛び越えた瞬間に、放り投げていたサブマシンガンをシュタイナーに向け発砲した。

 

シュタイナーは腕を盾にして、頭部を守ると 集から距離を取りながら回り込み、集と車両の間に割り込む。

 

『……っ! やるじゃない今のはヒヤッとしたわ!!』

 

(……くそ 不意打ちでもだめか!)

 

集は息を切らしながら、舌打ちをする。

 

ヴォイドエフェクトまで使用したのに、状況は一行に好転しない。

 

むしろ体力的に生身の人間である集が押されつつある。

このままシュタイナーと格闘を続けても、集が先にダウンするのは明白だった。

かといって 真っ直ぐ車両を目指しても、シュタイナーの弾幕を遮蔽物無しで躱し切る自信は、集には無い。

 

( ……使うか…" あれ "を……)

 

集は握り拳を作り 目を一度固く閉じると、覚悟を決めて立ち上がった。

 

 

 

『……?』

 

堂々とシュタイナーの前に立つ集に、綾瀬は眉を寄せる。

 

(……なにか策があるっていうの……?)

 

綾瀬は集の次の動きに警戒し、身構える。

 

すると集の手からサブマシンガンがこぼれ落ち、集はゆっくり両手を上に上げる。

 

『……どういうつもり?』

 

「…………」

 

(まさか ここに来て降参するつもり……?)

 

他のメンバー達も同じことを考えているのか、観戦している集団から失望が混ざったため息が聞こえる。

 

『悪いけどこれ、どっちかが勝つまで終われないのよ。覚悟しなさい』

 

綾瀬は冷徹にそう告げると、集のこめかみに狙いを定め発砲した。

 

計六発のペイント弾が、集に殺到する。

 

その一瞬前、集は" スイッチ " として決めた合言葉を唱えた。

 

 

「 " 悪魔の引き金 (デビルトリガー)" !!!」

 

 

集の頭に撃鉄を打つ音が響き、集の身体は半ば人間以外のものへと変化しようとする。

 

全身から赤いオーラが吹き荒れ、髪は一瞬にして銀髪に染まる。

目を開ければ、血が噴き出したと 見間違うほどの真っ赤な光が、瞳から漏れる。

 

綾瀬やメンバー達が、息を飲むのが分かる。

 

 

( 悪魔の力を使い続けたらこの先どうなるかは分からない。死ぬかもしれないし、全く使い物にならないかもしれない。けどそれでも 知りたい……。

……自分がどこまで出来るのか…… )

 

集は剛速球で飛来するペイント弾を見据える。

 

集には弾は苛立つ程鈍い速さで飛んでいる様に見えた。

おもむろに最初に到達する一発を掴む。

 

ゆっくりに見えていても、弾の速さは変わっていないため、集の腕はもろに衝撃を受ける。

 

集はその衝撃に逆らわず、身体ごと腕を回して弾の衝撃を和らげて進行を止める、続けざまに飛来する残り五発の弾も同じ要領で掴んだため、集の身体は凄まじい勢いで何回転も回る。

 

やがて 回転が止まった集が両手のひらを開くと、そこから左右三発ずつペイント弾がこぼれ落ちた。

 

『…………』

 

今度ばっかりは綾瀬も絶句する。

 

「じゃあ、綾瀬さん。早いとこ終わらせよう……」

 

集のこの言葉は挑発では無く、本当に早く終わらせる必要があった。

集の" 半魔人化 "は四日間の修行のおかげで、発動はほぼノータイムで行えるが持続時間が致命的な欠点だったのだ。

 

もって三十秒……、それが今の集の限界だった。

 

初日に四時間経過しているように感じたのは、じつは単に集が魔力酷使で気を失っていただけなのだと、集は後日気が付いた。

 

もっと正確に言うなら、三十秒が集の後の活動に支障が無いギリギリのラインであった。

 

「………っ!!」

 

噴き出る膨大な魔力が自分の魂を押し潰そうとするのを、集は歯を食いしばってなんとか耐える。

 

そして 地面を強く蹴る。

 

足下のコンクリートが砕け散り、集の身体を人間の限界を軽く超越して銃弾と同じスピードで押し出す。

 

『……っ!!』

 

凄まじい勢いで接近する集を綾瀬は殴り付けた。

しかし弾丸のスピードは捉えられなかった。

 

集はシュタイナーのこぶしを常軌を逸した速さで、くぐり抜けと、シュタイナーのこぶしは集の背後のコンクリートを砕いた。

 

集はシュタイナーの脚に手のひらを当てると、足から胴そして腕にねじ回りに力を伝え強力な"寸撃"を放つ。

 

シュタイナーはまるで、地面のコンクリートを砕きながら氷の上で滑ったかの様に足を滑らせバランスを崩す。

 

『……ぐっ!!』

 

綾瀬がうめき声を上げている隙に、集は一気に車両に駆け抜け中に飛び込んだ。

 

「はあ……はあ……っ」

 

中に飛び込んだ集から赤いオーラが消え、髪も瞳の色も元に戻る。

 

「はあ、これで……いいの……か?」

 

息を切らしながら集は足に力を込めて、なんとか立ち上がる。

ふらふらとおぼつかない足取りで車両の外に出る集をメンバー達の拍手喝采が迎える。

 

「やったなー」「頑張った よくやった!」

などのメンバーの声が聞こえる。

 

「…………」

「なにぼさっとしてんのよ」

 

「綾瀬さん……」

 

綾瀬が車椅子を引き集に話しかける。

 

「あんたは勝者なんだから、もっと堂々としてなさい。あんたはあんたの個性を生かして勝利を掴み取ったんだから……」

 

そう言って綾瀬は集に微笑みかける。

 

「はい ありがとうございます綾瀬さん!!」

 

集は綾瀬に直角に頭を下げ、礼を言った。

 

「綾瀬 でいいわよ」

 

「えっ?」

 

「あんたは今日から、私達の仲間なんだから。そんなに遠慮することは無いわよ」

 

「仲間……」

 

「ええそうです」

 

四分儀がメンバーの中から現れた。

 

「テストは無事合格……、これで晴れて貴方は我々の正式なメンバーになりました……」

 

いのりがメンバー達の間から微笑みかけているのを、集は見付けた。

 

「おめでとう 桜満集君……、我々 葬儀社はあなたを歓迎します」

 

四分儀が言い終わると同時に、再び大きな拍手が集を包み込む。

 

集は自然と頬が緩み、笑みが浮かぶのが自分でも分かった。

 

「ほら これ」

 

「えっ?」

 

綾瀬は集が虚界から受け取ったボールペンを集に差し出していた。

 

「合格したら返すっていう約束だったでしょ?」

 

「あっ……はい ありがとうございます」

 

集は一瞬迷ったが、結局綾瀬からボールペンを受け取る。

 

「んっ」

 

ボールペンを受け取った集に、綾瀬は右手を差し出して握手を求めた。

 

「はは」

 

集は少し気恥ずかしそうに笑うと、差し出された右手を握った。

 

その瞬間、集の全身から力が抜け綾瀬の方へ倒れ込む。

 

(……なんで!?? デビルトリガーの使用時間は三十秒ジャストだったはず!?

……いや、そうか。考えてみれば当然だった…。いつもは全く動かない静止状態での使用だった。だけど今回はほぼ本格的な戦闘での使用だったから……)

 

集の意識は綾瀬とメンバーの声を聞きながら、眠りに落ちて行った。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

数分前………、

 

 

「涯さーーん」

 

乗ってきた車を降りた涯は、自分を呼び掛ける声の方を見る。

涯は自分を呼び掛ける梟に歩み寄る。

 

「見張りの結果!問題ありません!!」

 

梟は涯に力強い敬礼をする。

 

「そうか……ご苦労だった」

 

涯の言葉に梟は嬉しそうに笑う。

 

「………」

 

涯は額に脂汗を浮かべ少しふらつく。

 

「涯さんお体の具合でも?」

 

「いいや お前の声で目が覚めた。四分儀の通信で起こされるよりずっとよさそうだ。今後はお前にモーニングコールを頼もうかな…」

 

「僕はもっと皆さんのためになる仕事がしたいんですよ〜!」

 

梟はむっとなって言う。

 

「そろそろか……」

 

涯は空を見上げて呟く。

 

「涯も気になるんですね!模擬戦っ!!」

 

「………そっちじゃない……」

 

「ああ!一個中隊です!」

 

涯は空を飛ぶ数機の大型輸送機を見上げて、笑みを浮かべる。

 

「時間通りだな。OAUにリーブネイションズ…律儀な奴らだ……」

 

「来ましたね!…そういえば涯さん!」

 

「なんだ?」

 

「僕 集さんと話しました!一緒にご飯も作ったんですよ!」

 

「……そうか」

 

「今日の朝ご飯だって集さんと一緒に作ったんです!色々な話もしたんですよ 学校とか!」

 

「そうか、お前もじきに行けるようになるさ……」

 

梟は一瞬ぽかんと涯の顔を見ると、ふふ と笑う。

 

「?……どうした?」

 

「集さんにも同じ事を言われました……!」

 

「………」

 

「集さんて凄いですね!最近まで普通の高校生だったのにあんなに涯みたいに強くて優しいなんて!さすが涯の選んだ人ですね!」

 

興奮気味に話す梟を涯はフッと笑みを作る。

 

 

その時 二人の上空で太陽光さえ塗りつぶす、強力な光が襲った。

 

まるで太陽そのものが落ちたかのような光は上空の輸送機を焼き潰し、二人に降りそそいだ。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

「………っ」

 

「シュウ、大丈夫?」

 

「んっ? いのり……」

 

目を覚ますと集の横にいのりが心配そうに集の顔を覗き込んでいた。

 

周囲を見渡すと葬儀社の作戦会議室で、中央のモニターにメンバー達が集まっている。

集は部屋のすみに置いてある、ソファーの上で寝かされていた。

その奥で涯に必死に呼び掛けるツグミの声が聞こえた。

 

「いのり……僕どれくらい寝てた?」

 

「ほんの二、三分……」

 

「何があったの?」

 

「ポイントデルタにルーカサイトが発射されたんです」

 

四分儀が集に歩み寄りながら集の疑問に答える。

 

「ルーカサイト……?」

 

「対地攻撃衛星の事です。ルーカサイトは三機の準天頂衛星で構成される衛星コンステーションです。完成すれば二十四時間死角なしで常に日本上空から任意の目標を撃てるようになる」

 

「なんでそんな物を……」

 

集は立ち上がりながら言う。

もう体力は回復しており、集は手を貸そうとするいのりを手で制した。

 

『 " 日本人を抹殺するための兵器 "……ここまでとはな……』

 

「涯っ!?」

 

中央モニターから涯の声が響き、会議室はにわかに騒然とする。

 

「!!」

 

集はいのりと共にモニターに駆け寄る。

 

「涯っ!怪我は無い!?」

 

綾瀬が声を上げる。

 

『かすり傷だ…。だが増援は全滅、補給物資も回収不能だ……。もう一刻の猶予も無い……』

 

「っ!! 涯っ!!」

 

集はツグミから通信機を乱暴に奪い取り、絶叫する様に声を上げる。

 

「涯!!梟君は 梟君は無事なの!!?」

 

『行動を開始する……』

 

「 涯 い ! ! ! 」

 

『…………』

 

涯は一瞬息を詰まらせる様に黙り込む。

そして口を開いた。

 

 

 

 

 

『………運が無かった………』

 

 

 

自分の呼吸が止まるのを集は感じた。

 

 




今年最後の投稿

皆さん良いお年を!

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