ギルティクラウン~The Devil's Hearts~   作:すぱーだ

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DMC1ってバイオ4を作る過程で出来ただけの事はあって、結構雰囲気不気味ですよね。
バイオっぽいというかなんというか…。

今やってもとても素晴らしいゲームです!(力説&宣伝)

……なんでや……なんで僕の身の回りは、こんなにDMCの知名度が低いんやあああ!! ( 泣き )

というわけで14話です


#14隠滅~jet black~

薄暗い部屋の中……茎道が眺める複数のモニターとその中心に設置してある大型のモニターには、日本地図とその上を八の字を描く線に沿うように光点が移動している。

 

『無事に打ち上がったようだな……これで全て君の"思うがまま"か茎道……』

 

「恐れ入ります」

 

『ふん…』

 

その日本地図に僅かに被さる形で映り込むヤン少将は面白くなさそうに鼻を鳴らすと、早々に通信を切った。

それと入れ替わる形で虚界が通信を繋ぐ。

 

『順調なようですね、" ルーカサイト計画 " ……見えない壁。好きですよこういう"籠"も……』

 

「報告を聞こう」

 

『葬儀社の諸君はどうやらリーブ・ネイションズと接触しているようですね』

 

「国連脱退国…アフリカ周辺だったか……」

 

茎道は ふむ と顎に手を当てしばらく考え込む。

 

「……最近導入された "生物兵器" とやらの方はどうだ?」

 

『例のウロボロス社の製品ですね…拝見させて頂きましたが、いやあ中々ああいう悪趣味な物も私の好みに合うかもしれませんねえ……』

 

「…………」

 

『アリウス社長が言うには、今回葬儀社の迎撃にあたった生物兵器は" 最も弱い試作品 "らしいです』

 

「……そうか…」

 

楽しそうに笑う虚界を茎道は無表情で見つめる。

 

「ところで…君が放った楔はどうかね?」

 

『さあ?発動の可能性はよくて三割程ってところでしょうね……』

 

「なに?……君にしては随分と自信なさげではないかね?」

 

茎道は虚界の言葉に眉をひそめる。

 

『まあ色々と感触は得ましたからね……少し話をして彼の人格もよくわかりました。発動の可能性が無いにしても、彼が簡単にあれを捨てるとも思えません』

 

虚界は獲物を目の前にした獣のような鋭い目つきで、笑う。

 

『待ちましょう…映画の続編を待ち望む子供の様に……』

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

集は、重く身体にのしかかる冷たい水が身体を包んでいる事に気が付いた。

 

(まさか、あの夢の続き!?)

 

昼間は忘れていたはずの悪夢を鮮明に思い出し、集は思わず身震いする。

その後から、まるで本物の水中にいるかのような息苦しさを感じ、そこから逃れるように慌てて身体を起こす。

 

「ぶあ!…はあ…はあ…はあ……」

 

幸運な事に身体を持ち上げれば、すぐに水面から顔を出せた。水は浅いが妙に流れが早い……集がそう思った時、初めて自分のいる場所の異常さに気が付いた。

 

集を取り巻く水の流れが早いのは滝となっている川にいるためだが、なぜ滝の真上にいるかなど集には問題ではなかった。

 

「なんだ……ここ…?」

 

集のいる滝は洞窟のようで、周りを鍾乳石で囲まれている。

滝壺があるであろう水が流れ落ちる底には、一寸先をも見通せない闇が広がっていた。

そして最も目を引くのは空中に浮かぶ空間の穴だ。周辺をオレンジ色に近い光が取り巻き、その中に黒い穴がまるで、こちらを見つめる巨大な瞳のように見える。

 

この異様な光景も、漂う雰囲気もどう考えても人間が住む世界には存在するはずのないものだった。

集はまるで金縛りにあったようにこの異様な景色に固まっているとーー。

 

「………?」

 

川の轟音に混じって、金属を打ち合うような音が聞こえる事に集は気が付いた。

昼間にアルゴとナイフをぶつけ合った時の音と似ているが、あれとは比較にならない程はるかに重く響く音だ。

しかも、際限なく途切れる部分が無い程、連続で響く。

 

集は辺りを見渡し、音の発生源を視界に捉えることが出来た。

 

「……えっ?」

 

そこには、二人の男の姿があった。

一方が赤いロングコート、もう一方が青いロングコートを着ている。二人の男はお互いに、お互いの命を狩ろうと各々が持つ剣を打ち合っており、そのたびに重い音が空間を支配する。

あまりの速さで男達の持つ剣が、どのような形か全く把握出来ない。ただ銀の軌跡が男達の周りに現れ、それがぶつかり合うたびに太陽の様に明るい火花が二人の姿を照らす。

 

しかし集が言葉を失ったのは、そんな理由では無かった。

 

「……ダン……テ?」

 

殺し合う男の内の一方……、赤いロングコートを着た男の方が集の良く知る人物に似ていたのである。

 

だが集の知っているダンテと比べると、若く、身長が一回り低いように見えた。

なにより……いつも集に見せていた彼では、想像出来ないほどに歪み、苦痛の表情を見せている。

 

そのせいで一瞬見間違いだと思ったが、風貌といい、集の動体視力で捉える剣の形状は、見間違いのよう無く彼の愛用している リベリオン そのものである。

 

彼がダンテであることは、疑いようが無い。だがなぜここまで表情の歪んだ彼が自分の夢に現れているのか……、集にはあんな表情のダンテは見たことが無いし、想像も出来っこない。

ここまで鮮明でリアルな触感が伴う夢で、ダンテは今集の目の前で真剣な殺し合いをしている。

 

(……本当に…ただの夢…なのか……?)

 

集はダンテと相対する青い男に、視線を移す。

 

「え……?」

 

その男はダンテに瓜二つだった。違う点を上げるとすれば、コートが青いということと髪型がオールバック、そして常に無表情という点くらいだ。

彼の振るう剣は、あまりの速さで残像すら捉えるのが難しい。しかし集にはその剣の正体がすぐ分かった。

「あれは……閻魔刀……なのか……?」

 

なぜ青い男がネロの持っているはずの魔剣を持っているのか……だが集にはダンテと青い男の戦いに目が奪われていてそこまで考えが及ばない。

まさに熾烈だった。

この数秒間で何号の命のやりとりがあったのか……集に知る術は無い。

 

集の足元を赤く染まった水が、カーペットのように満たしていく。

 

ひたすら壮絶で……、残酷な命の奪い合いがそこにはあった。

 

だがなぜか集の胸の中に浮かんだ感情は、恐怖でも怒りでもなく……、深い悲しみと寂しさだった……。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

暗い部屋の中で集は目を覚ました。

一瞬、自分がどこにいるのか分らなかった集に生暖かい空気が集の意識と思考を回復させる。

 

「……そうか…、葬儀社にいるんだった……」

 

自分自身の頭に理解させるように、集は現状を口にする。

集はもぞもぞと身体を起こし、息を吐く。

 

と その時…ーーー、集の眼から大粒の涙が溢れ出す。

 

「あ…あれ……?…なんで?」

 

集が涙を拭き取っても、涙は後から後から流れ落ちる。

しかし集には、涙の理由が止まっても分からなく、ただひたすら胸に押し寄せる悲しみに嗚咽をもらすだけだった。

 

 

涙も嗚咽も止まってしばらくして、集は部屋から出ると。あても無くアジトを歩き回っていた。

すると通路の一部に広いスペースがあり、大きな窓がある場所を見つけた。窓からはひとつとして明かりの無い六本木と、その向こうに人々の息吹が感じられる街の明かりが地平線を覆っている。

その中心を、GHQやアンチボディズの本部である建造物が見える。

 

集は意味も無くその建造物を見つめる。

巨大な塔を中心に、その塔を支えるかのようにピラミッド型の骨組みが取り囲む。蜂の巣のような規則的な骨組みの穴もあいまって、巨大ななにかの巣に見える。

 

集はダンテと、彼にまつわる話を思い出す。

 

魔剣士スパーダの伝説……、

彼は元々は魔界最強の剣豪であり、魔界の王 " 魔帝 ムンドゥス " に仕える腕利きの側近であった。

 

二千年前、ムンドゥスが人間界に侵攻に侵攻する時もスパーダのチカラが大きく貢献したという。

普段はチカラと支配と殺し合う事にしか興味が無い悪魔達からも、多くの尊敬の念を集めていたスパーダだったが…、ある日突然 魔帝や、悪魔達を裏切り人間界の味方となり魔界を敵に回し戦った。

 

なぜ彼が主である魔帝を裏切ったのか、その理由ははっきりしていないが、その後、みごと魔帝を退け、魔界を封じたスパーダは数百年間人間界の行く末を静かに見守ったという。

 

一連の出来事は世界のあらゆる文献に記され人間界を救ったスパーダは英雄として讃えられた。二千年経った今でも人々の頭に彼の存在が焼き付いている。( とはいっても二千年前の出来事なので、ただの伝説という認識が一般的なのは当然の事だと言える。)

しかしスパーダが姿を消して、何十年と経った今でも悪魔達は影に紛れて人々を襲い続けている。

 

そんな存在を同じく影に紛れて狩る、世界でも数えるほどしかいない狩人(ハンター)達……。

 

その中でも、集が一線を画す最強の悪魔狩人(デビルハンター)と認識している男……ーー

 

 ーーダンテーー

 

彼こそ、かの 魔剣士スパーダ の息子であり、人間の母を持つ悪魔と人間の混血である……。

 

にわかには信じられない話だが、集はこの話を信じている。

その理由として集が自分を救い、守り、導いてくれた彼らを心の底から信頼しているという理由がひとつ。

 

そしてダンテは魔剣士スパーダの愛用していた剣、" 魔剣 スパーダ " を彼が所持しているという理由がひとつにあった。

 

魔剣士スパーダの伝説と、ダンテがその息子だという話を集が疑う余地はもう無い。

しかしそんな集にもひとつ気になる点がある。

本当に自分の中にダンテの…ひいてはスパーダの血が入っているとして、自分はそのチカラを使えるようになるのか?ということだ。

 

トリッシュ曰く "そんなことはありえない" らしい。

なんでも瀕死の自分を救うために、血の魔力は全て使い果たされるよう量を調整して集の身体に投与し、その適量も寸分違わず適切な量の投与に成功したという。

 そもそも元来悪魔と一切関わりの無い一般人に、魔力が適合すること自体稀らしいもの

 

にもかかわらず、集は過去に何度か魔力を放出させた。

 

今までは完全な無意識下によるものだったが、六本木での作戦時…二発の銃弾が穿った右足と、額と頭蓋を削った決して軽くない大怪我をごく短時間で再生させた回復力……。

きわめつけは施設での戦いにて、スケアクロウに心臓を貫かれた直後に感じた感覚……ーー

 

ーーー あれは、紛れもなくーーー

 

 

「シュウ?」

 

床に座り、窓から外を眺めながら自分の世界に入り込んでいた集に声をかける少女がいた。

 

「こんばんは。いのり」

 

「シュウ、こんな時間にどうしたの?」

 

微笑みながら言う集に、いのりはなぜか心配そうに言う。

 

「はは、ちょっと目が覚めちゃって…」

 

「……サムカワ……ヤヒロのこと……?」

 

「えっ?」

 

いのりの口から以外な人物の名前が出たことに…集は驚く。

集は自分の隣りに腰掛けたいのりの顔を呆然と見つめた。

 

いのりは集の目を怒ったような表情で見つめる。

いや…ようなでは無くいのりは間違いなく怒っている……、どうやらその怒りの矛先自体は集には向いていないようだが、それでもこんなに睨むように見られると、さすがに居心地が悪い。

 

「……いのり、なんで…君が怒ってるの……?」

 

「……怒ってない……」

 

などと言いつつ、いのりの目はしっかり釣りあがっている。声色こそ普段と変わらないが、それでもあからさまに不機嫌なオーラを感じる。

 

「…いのり実は僕はあまり谷尋に怒って無いんだ」

 

「なんで?」

 

いのりはずいっと顔を集に近付ける。

集が答えに迷っていると、いのりの眼はさらに鋭くなりさらに顔を近付ける。

集はいのりの怒気に圧され、腰を下ろしたまま ずるずる と後ずさる。

 

「いや…たいした理由じゃないから……」

 

「……………」

 

「………はい、…ごめんなさい……」

 

集は頭を掻きながら少し困ったような表情をした。

 

「……谷尋は谷尋なりに背負ってるものが分かったから……かな?」

 

「……………」

 

「……………」

 

「…………えっ、それだけ……?」

 

いのりは鋭く尖らせた目尻から一転……、大きく目を見開き呆然と集の顔を見つめる。

 

「えっ?そうだけど……」

 

「…シュウを裏切ったんだよ?」

 

「?。いや、だからその理由が分かったからいいんだって……」

 

「……?…?…?……」

 

いのりは集の言葉の意味が分からず、口をポカンと開け集の顔を凝視した。

 

「……それよりいのり、近い……」

 

顔を赤くして言う集に気付き、いのりは慌てて集から距離を取る。

 

「……ごめん……」

 

いのりも頬を染めているが、夜の暗さで集は気が付かない。

 

「ううん。いいよ……」

 

「ふふ」

 

集はなぜかおかしくなって、吹き出してた。

 

「………っ?」

 

「ああごめん……、笑っちゃって」

 

集は自分を落ち着けるために、ふう と深呼吸して窓の外に広がる夜景に視線を移した。

いのりもそれにつられ、夜景に目を移す。

 

「…………」

 

「…………」

 

しばらくの間 ……集といのりは、静かな空気にひたった。

 

集は隣りに座るいのりに目だけを動かし、視線を移す。

 

空の星と遠方の街の光がいのりの白い肌を鮮やかに照らし出し、彼女の顔が月のように輝いて見える。

 

集はそのこの世のものとは思えない光景にしばし見とれた。

 

「いのり……どうして葬儀社にいるの…?」

 

「……えっ?」

 

(あれ…? …僕……どうしてこんな事を……)

 

集は無意識に口にした言葉に戸惑った。

この系統の質問は相手の心の中に土足で踏み込むと、理性で抑え込み控えて来たはずなのに、気付けばふと湧いた疑問を出していた。

 

ごめん今の忘れて! 集はそう言おうとして……ーー

 

 

 

「ガイが、いるから……」

 

 

 

「………えっ…………?」

 

ーーいのりの答えに固まった……。

集の頭の中が真っ白になる。

 

集はなにも言えずいのりの顔を見る。

 

「涯が私に名前をくれた……なにも無かった私に生きる意味をくれた……世界を与えてくれた……。」

 

いのりは、まっすぐに集の目を見つめる。

 

 

「だから、私はここにいるの……」

 

 

そう言うといのりは音も無く立ち上がる。

 

集になぜか胸に内側から引き裂かれるような痛みが繰り返し襲う……。

 

「……そう……なんだ……」

 

集はそれを隠そうとして、必死で平静を装うとしたが……、声は震え…目には痛い程の血液が集まる。

 

集はいのりの顔が見れなかった。

 

それでも集はこれだけは尋ねたい……確かめたい……という想いが込み上げてきた。

 

 

「……いのり、どうして……僕を助けてくれたの……?」

 

あれも、もしかしたら自分を仲間に引き入れやすくするための涯の作戦だったのかもしれない……、だからいのりが涯の命令を無視したというていで、いのりが動いたのかもしれない……集はその可能性を恐れた……なぜか分からなかったが、集にはそれが恐ろしくて堪らなかった。

 

だからこそ……、一縷の希望に望みを託していのり本人の口からそれを否定出来る要素を求めているのかもしれない……。

 

 

「…………おやすみなさい………」

 

いのりはそのまま立ち去ろうとする……。

 

「いのり!待って!!」

 

集がその手を掴もうとした時、ーーー

 

「 さわらないで ! 」

 

その手をいのりの強い拒絶の言葉が止める……。

 

「……あまり…近付かないで……」

 

いのりは振り向かずに言う……、そのまま立ち去るいのりを集は止める事が出来なかった。

 

もしここが誰もいない自分の自宅だったら…間違いなく自分は大泣きしている。

集の眼球は、そう自覚出来る程熱を帯びていた。

 

「いのり!!待ってお願い!!」

 

集はそこから立ち直る前にいのりの後を追った。

このままにして置きたくない……、きっとお互いに誤解しているだけなのだ……。

 

込み上げる胸の痛みの意味も、涙の欲求の理由も集には分からなかった。ただこのまま終わらせたく無かった……。

彼女も既に集の帰る場所のひとつになっているのだ。

 

 

失いたくない。

 

集はその一心でいのりの後を追い、すぐに後悔した。

 

いのりの横に、上半身裸の涯がいた。

涯はいのりを目の前の部屋に誘い込むと、二人で同じ部屋へ入っていった。

鍵が掛かる音が、集の耳にやけに強く残った。

 

 

 

 

気付けば集は通路を走っていた。

なにかから逃げるように……なにかを振り払うように……。

 

なにからそんなに逃げているのだろう……。

彼女とは最初から生きている世界が違う……。

始めから一緒になれるはずが無い……。

 

集は自分にそこまで言い聞かせて、ようやく気付いた。

 

「そうか、僕はいのりが好きだったんだな……」

 

自分は男として、女性としての彼女に惹かれていたのだと……。

 

気付けば緩やかな歩行に変り、遅すぎる自分の鈍さと自覚の無さ加減に頭を叩いた。

 

(どんな間抜けだよ……、終わった後に気付くだなんて……)

 

早く寝てしまおう……こんなこと早く切り替えないと……、引きずっていてもロクなことにならない……。

 

集は自分にそう言い聞かせながら、自分の部屋を目指して歩いて行く。

「あれ……? あんたこんな時間になにやってるのよ」

 

そんな集に声をかける人物がいた。

 

「うわっ綾瀬さん!」

 

「うわ…、てなによその反応……」

 

綾瀬はそう言いながら車椅子を引き、集を睨みつける。

 

「で どうしたのよ、こんなところで」

 

「……い…いや 別に散歩してただけですし……」

 

そう言いながら集は無意識に視線を涯の部屋に向いている。

 

「……ほほう……」

 

綾瀬はそれだけで全て察したのか……、ニヤリと顔に笑みを作る。

 

「……なんですか?」

 

「……見たんでしょ? 涯といのりが一緒に部屋に入っていくとこ……」

 

「………………」

 

「あんた、いのりの事好きだったのよね。御愁傷様。」

 

綾瀬は黙ってソッポを向く集に けらけら と笑いながら言った。

 

「あの二人ね、月に二・三度はああやって夜を二人で過ごすの、みんな見ないふりしてるけどね」

 

綾瀬は 残念でした と、また笑う。

さすがに集もこれは面白くない。

 

「……綾瀬さんこそいいんですか?」

 

「えっ……?」

 

「好きなんでしょ? 涯の事……」

 

集はせめてもの反撃をする。

 

「ーーーーーー」

 

急に黙りこくる綾瀬に、集は視線を向けた。

綾瀬は顔を耳まで真っ赤に染め目を見開き、口をパクパクあけたり閉めたりを繰り返している。

どこからどう見ても図星をつかれた人間の反応だ。

 

綾瀬は何度か口の開け閉めを繰り返すと……。

 

「 なに言ってんのよ!!なにを根拠に……!! 」

 

激昂しながら集に勢いよく車椅子を近付け、胸ぐらを掴み上げる。

「 でっ !? 」

 

足にタイヤがぶつかり、集はうめき声をもらす。

 

「ってえ…だってそんなあからさまに反応されたら……」

 

「っ!好きとか、嫌いとかじゃないのよ!」

 

そう言うと綾瀬は集の胸ぐらを放り出すように離したので、集は少し後ろにつんのめった。

 

綾瀬は、 はあ と息を吐く。

 

「……尊敬してるのよ。私…涯のこと……」

 

綾瀬は年相応の暖かな表情で言う。

 

「……尊敬…か……」

 

「 っ ? どうしたのよ……」

 

「僕には……分からない……涯を……信用していいのかさえ……」

 

綾瀬はそういう集の顔を見つめた。

 

「 ……いいんじゃない? 今はそれで……」

 

「……えっ?」

 

「六日後の模擬戦であなたが勝てば、あんたは仲間として認められる。そうすれば きっと 見えてくるものがあるはずよ……」

 

「 見えてくるもの…… 」

 

集は綾瀬の言葉を胸に刻み付けた。

 

「…さっ もう寝なさい……明日はもっとビシバシ訓練するからね!」

 

「はは 、お手柔らかにお願いします」

 

集と綾瀬はお互い微笑み合った。

 

「じゃあ また明日……」

 

「ええ おやすみなさい 」

 

綾瀬に背を向け、自室に戻ろうとした集は ふと 思いたち立ち止まると、再び綾瀬に顔を向ける。

 

「 綾瀬さん 。昼間はごめんなさい。 それと、 ありがとうございます 」

 

綾瀬は一瞬驚いた顔をしたが、集に微笑みながら手を軽く振ると すぐに車椅子を集の歩く場所とは反対方向に転がして去っていった。

集も綾瀬の姿が見えなくなるまで見送ると、足早に自室へと向かっていった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

チンピラや麻薬売人が徘徊するような、貧困街の一歩手前のような場所にある質屋がある。

まず普通の人間は近付かないし、一般人が喜ぶような物もここには置いていない。

 

そんな質屋にたびたび訪れる 赤いレザーのロングコート を着るこの男も当然ただの男ではない。

 

「 おい、エンツォはいるか」

 

この店の持ち主の男の名を呼びながら、ダンテは質屋のドアを乱暴に開けると 店内の悲惨な光景に唖然とした。

普段から歩くスペースが無いほど妙な物体が散乱していた店内だが、今は一目見ただけで異常と分かるほど荒らされていた。物はいくつも壊され 。店の柱や椅子までもが無惨にも真っ二つにへし折られていた。

 

「 おい エンツォ ! いたら返事しやがれ!」

 

ダンテは珍しく焦った声で 何度も店長の名を叫ぶ。

すると店内の一角で物が ガタリ と動いた。ダンテはそこに駆け寄り ガラクタになった棚や骨董品を退かすと、その下から地下への入り口となっている、扉が バンッ と音を立てて開きその中から小太りの小男が姿を現した。

 

「 ぶはあ ! ああひどい目にあった 」

 

エンツォは咳をしながら、身体や服に付いたホコリや蜘蛛の巣を払い落とした。

 

「なにがあった?」

 

「 知らねえよ、いきなり変な連中が入ってきて 店を荒らし始めたんだよ!」

 

エンツォは店の惨状に頭を抱えながら言った。

ダンテは急いで二階へ駆け上がると物置部屋として使用されているドアを開けた。

 

「っ……嫌な予感はしたんだが……」

 

部屋の中はもぬけのからだった。ここにはダンテが手に入れた様々な魔具が保管され、他の客に貸し出されていた。それが今や全て正確に言うとダンテの物だけが無くなっていた。

 

「 おいダンテこいつらは無事だぜ!」

 

二階から戻ってくるダンテに、エンツォはそう声をかける。レジなどが置いてあったカウンターに、風呂敷に包まれた二つの物体が置かれていた。

 

「 へへ こいつらはたまたまレンタルから戻ったばかりでな…俺の隠れてた地下に一緒に持って入ってたんだよ」

 

ダンテが二つの風呂敷を開ける。

 

「“アラストル”と“イフリート”か……」

 

そこでダンテはひとつ気付いた。

 

「おい、エンツォ 盗られた物は俺の物だけか?」

 

「んっ? ああ どうもそうみたいだな……他は全部放り出されたか、壊されたかのどっちかだ 」

 

エンツォのその言葉を聞いた瞬間、ダンテはアラストルとイフリートを掴むと猛スピードで店を出る。

 

「おいっ テメーのもん守ったヒーローにお礼もなしか?」

 

エンツォの悪態は耳から耳へ素通りする。

 

質屋を襲った犯人が魔具を目的としていたのならば、ダンテの持ち物 以外の 他の魔具に一切手を付けていないのは妙だった。つまり、始めからダンテを狙った犯行である可能性があるのだ。

 

 

" デビルメイクライ " に着いたダンテはさっそく店内に悪魔の存在を感じ、扉を蹴り開けた。

扉は バキッ と音を立て、床に落ちる。

 

いつもダンテが座っている机の前に人影があり、人影の前で " 魔剣 スパーダ " 空中を浮いていた。

 

「 悪いがそいつは貸し出しして無いんでね。早いとこお引き取り願おうか 」

ダンテが人影に声をかけると、全身を黒いローブで包み込んだ人影が振り返った。

 

『 魔剣士スパーダの息子……ダンテか…… 』

 

エコーがかった奇妙な声が人影から響く、典型的な悪魔の声だ。

 

「ご存知とは光栄だね 、だけど人の物を借りる時は本人に一言かけてからにして欲しいもんだ 」

 

ダンテの言葉に悪魔は笑う。

 

『ーーほう。まるでスパーダが自分の物であるかの様な言い方だな? 』

 

「 …………」

 

『気付いとらんわけが無かろう? 貴様は魔剣に選ばれてはおらん。つまり貴様は魔剣スパーダの真の後継者ではない』

 

ダンテは黙って2丁拳銃 " エボニー&アイボリー " を目の前の悪魔に向ける。

 

『そして、質屋に預けていた魔具達も既に貴様の物では無い。今はもう存在すら感じまい…なぜか分かるか? 』

 

悪魔は老婆のように楽しそうに笑う。

 

『繋がり……つまりは契約が切れたのだ…、もうどんなに呼ぼうが貴様のもとに来る事は無い…… 』

 

ドンッ

 

ダンテは無言で ククク と笑う老人の悪魔に発砲した。

 

悪魔は弾に当たる直前、空気に溶けるようにスパーダと共に姿を消した。

 

『 ーー奪われた眷属を取り戻したいか? 』

 

『 ーー父の形見を取り戻したいか? 』

 

『 ならば我々を追うがいい。我が名は黒き賢者 " トリスマギア " 。我らが主の名は " アリウス " 』

 

どこからともなく笑い声に混じり、そんな声が聞こえた。

 

そして声と共に気配も消えていく。

 

ダンテは手の中で銃を軽く回しホルスターに収めた。

 

「 はんっ 挑戦状というわけか……。いいだろレンタル料の用意をしとくんだな 」

 

ダンテは獰猛な笑みを浮かべながら、デビルメイクライをあとにした。

 

 




さあ皆さんお待ちかね、回想じゃないダンテだよ!

もうあとしばらく出番無いけどな〜あはははは………

………ホントにゴメンナサイ………

なるべく早めに出せるようにします。


次回はオリジナル回、集と葬儀社の面々のからみを書くよ!

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