ギルティクラウン~The Devil's Hearts~   作:すぱーだ

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ギルクラは、全編サウンドノベルの多分岐あるゲームとして売ればこんな叩かれる事は無かったんじゃないかと割と真剣に思うのは私だけでしょうか。

前からしつこいと思われるかもしれませんが、誤字脱字や文章がおかしい間違ってる、矛盾してる点などがあれば容赦なくご報告下さい。それと同時に意見と感想の方もお待ちしております。

みなさんどうかこのアマチュアに温かいご指南を…。

図々しいようですがよろしくお願いします。

それでは13話どぞー


#13訓練~preparation~

 

気付けば腕も足も痛かった。

 

目を開けると、自分は両手を掴まれた状態で足を引き摺られ暗く陰鬱な通路を両側の人影によって無理矢理進まされている。

 

 

ーーー いやだ ーーー

 

通路は異様な程暗く先が全く見渡せない。

さらに、思わず咳き込む程の錆びた鉄の臭いが執拗に鼻を刺す。

 

 

ーーー いやだ ーーー

 

 

さらに自分の両腕を人影が両側から掴み、足を引き摺るのも構わず自分を暗闇の中へと連れて行く。

その人影から感じる手の感触もザラザラな布に包まれ、その布越しになにかぬるぬると生の魚介類のような感触が自分の腕に伝わる。

 

不快などという次元では無い。

 

腕を振り解こうともがいてもわずかに身体が揺れるだけで、人影の手はビクともしない。

 

ーーー いやだ ーーー

 

廊下の奥に目を向ける。

赤錆でできた様な通路を進むごとに、暗闇から無限に新しく通路が産まれる様な錯覚さえおぼえた。

 

 

ーーー いやだ ーーー

 

 

しかし自分は確実に廊下の奥へと連れて行かれている。

 

 

ーーー 怖い ーーー

 

 

なにか……とても恐ろしい場所へーーーー、

 

ついに通路に終わりが見えてきた。

奥に小さく…しかし巨大だと分かる扉が見えた。

 

下半身を引き摺られた状態で、手足をバタつかせ激しく抵抗する。

その抵抗も虚しく、真っ赤な扉は次第に近付き巨大になっていく。

それはまるで自分を飲み込もうと大口を開け、待ち構えているように見えた。

 

恐怖にかられパニックになり、さらに激しく抵抗する。

しかし人影の手は自分を戒める鉄の枷の様に重くギッシリと、両腕に食い込む。

 

扉が重い音を立て、開いてゆく。

その中は今までが太陽の下だったのではと思う程、まるで奈落を覗きこんでいるような濃く重い闇広がっていた。

 

人影は躊躇いなくその闇に、自分を引きずりながら踏み込んでいく。

 

生臭い臭いが鉄の臭いと混ざり合い、形容しがたい悪臭となる。

しかし自分には、もはや咳き込む元気も無かった。

 

人影はある程度部屋に入ると、自分を放り出す。

なんとか自由になった手足を動かし、立ち上がろうとする。

その時、背後からこの世の存在とは思えないほど巨大で歪で邪悪な存在が自分を見下ろすのを感じた。

 

理解出来ない存在に引き寄せられる様に、ゆっくりと振り返る。

 

 

 

ーーー もう見たくない ーーー

 

 

 

巨大な黄色い眼が自分を見つめていた。

 

その時、自分の右手と両足から血が噴き出す。

赤く焼けた鉄の縄に縛り上げられる様な痛みが溢れ、脳を突き刺す。

黄色い眼が持ち上がると同時に自分の身体も、一緒に持ち上がる。

巨大で鋭い牙で食い上げられたと気付くのに、そう時間がかからなかった。

 

叫んだ。

 

痛みから来るものなのか、食べられる恐怖から来る絶叫なのか、もう自分にそれを考えていられる余裕はなかった。

 

自分を運んでいた二つの人影が、遥かに下に見えた。

 

口の唾は絶叫で絞り尽くし、喉から黄色い胃液が溢れ出し口の中が嫌な苦味に支配される。

気付けば空中に投げ出されていた。

下を見ると自分をひとつの黄色の目で見つめ、その目の下にはスイカをくり抜いた様に真っ赤な口が大きく開き、自分が落ちてくるのを待っていた。

 

再び絞り尽くしたはずの絶叫が、自分の口から響く。

 

真っ赤な口は自分が吸い込まれるにつれ、真っ黒な闇に変わる。そして生温かい息と熱いぬるぬるとした肉壁に包まれる。

闇へ吸い込まれる身体を食い止めようと、なんとか肉壁につかまろうとするが、肉壁を包む粘液に指を取られ指を食い込ませることが出来ない。

嗅覚が胸の中に練乳でも流し込んだかのような、甘ったるい悪臭に支配される。

不快な水音を立てながら闇の底へ、滑り落ちていく。

 

自分の絶叫が肉壁に反射し、管楽器の様に響く。

 

そうこうするうちに、ひたすら闇しかない空間に投げ出された。いや闇の中にはなにかがいる。

 

 

はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは

 

 

 

それらはゾッとするような笑い声で、自分を迎える。

ボロボロと自分の身体が崩れてゆく。

自分の指が指先から崩れてゆくのを見て、底無しの恐怖が襲った。ふと自分の腹を見ると腹から腸が、まるで胎児と母を繋ぐへその緒の様に長く伸び暗闇と繋がっているように見えた。その腸も端から崩れ落ちていく。

肉体のくびきから解放され、清々しい気持ちになる。先程まで恐怖を感じていたのがバカバカしくなり笑った。

同時に自分を肉体という牢獄に縛り付けていた世界が憎くなり、怒りの雄叫びを上げる。

不思議な事にその笑い声も怒りの雄叫びも、既に崩れて無いはずの喉から同時に上がった。

 

 

はははははははははははははははは

 

 

気付けば、自分も周りのもの達と同じ存在となっていた。

 

ある日また一人、恐怖と痛みで絶叫を上げながら闇に落ちてくる肉体があった。

 

悶え苦しむ様子が可笑しくて、自分は大声で笑った。仲間達と一緒に笑った。

 

悶え苦しむ肉体も、肉体が崩れ落ちると同時に絶叫が笑い声に変わる。

 

また一人仲間が増えることが嬉しかった。

 

自分は、新しい仲間を精一杯の笑い声で迎え入れた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ーーーウ!」

 

「ーーシュウ!!」

 

自分の名を呼ぶ声で集は飛び起きる。突然目を開けたため、照明と太陽の光が目を刺し、一瞬 目が眩む。

 

「…はあ…はあ…はあ…」

 

震えが止まらず、ぐっしょりと濡れた額と首筋の汗を手で拭う。

「使う…?」

 

いのりがタオルを差し出してくる。

 

「あっ…ありがとう」

 

集が受け取ったタオルで、首筋と脇の下を中心に全身の汗を拭き取る。タオルは冷水で冷やされており、ひんやりと心地いい冷たさに集は思わず深いため息が出た。

 

「これも…」

 

そう言っていのりは、今度は水の入ったコップを集に差し出した。

 

妙に喉が渇いていた集はコップに飛びつくように受け取ると、喉を鳴らして水を飲み干しカラカラに乾いた喉を潤した。

その様子をいのりはじっと見つめていた。

 

「…なにいのり?」

 

その視線に気付き、集がいのりに声をかける。

そこで集はようやくいのりの服装が、あの赤い金魚の様な大胆な服装ではなく、集の家にいる時にも着ていた黒いワンピースである事に気が付いた。

「…よかった……」

 

いのりが微笑みながらそう言う。

集はその笑顔を見た瞬間なぜか顔が熱くなり、視線を逸らす。

 

「よっ…よかった て?」

集が赤い顔に話題が行くのを防ぐため、いのりに尋ねる。

「シュウ…ずっとうなされてたから」

 

「たいした事ないよ。ちょっと…いやな夢を見てただけだから」

 

集はいのりに笑顔を返しながら答える。

するといのりは首を傾げながら問い返す。

「いやな夢?」

 

「…まあ、どんな夢だったかもう忘れちゃったけど…」

 

これは本当だった。集は叫び出したいほどの悪夢にうなされていたが、起きた瞬間全て忘れてしまっていた。

思い出そうとすると、頭全体に痛みが走り思考が中断されてしまう。

ロストクリスマスやそれ以前の事を思い出そうとする時同様、まるで脳が思い出す事を拒否しているかの様だった。

 

「…っ!……僕どれくらい寝てたの?」

 

頭痛に耐えながらいのりに尋ねる。

 

「丸一日…」

 

「丸一日!?」

 

あくまで端的に答えたいのりに思わず声を上げる。集は頭痛がひどくなった気がした。

「いつまで話してんの!!起きたんなら早く部屋から出なさい!!」

 

綾瀬が音を立てて部屋のドアを開け放ち、車椅子のタイヤを転がしながら凄まじい勢いで接近してきた。

 

「うわっ!綾瀬さん!?」

 

「あんた一日無駄にしてんだから休んでる暇なんか無いの?、分・か・る ? 」

 

綾瀬は車椅子を転がし、ずいずい集に近付いて来る。

集はベッドの上で後ずさる。

 

綾瀬は集が顔を少し前に出せば、唇が触れるのではないかと思うほど接近し集を睨み付ける。

 

「分かったら返事!!」

 

「はいい!」

 

顔にかかる綾瀬の吐息に、どぎまぎしていた集に綾瀬から大声で容赦ない叱咤が飛ぶ。

 

「シュウ…これ…」

 

と 横にいたいのりが集に声をかける。集がそちらに目を移すと、いのりはベッドの近くに置いてあったテーブルに四つ折りにした黒い服を置いた。

 

「着替え…、ここに置いておくから…」

 

いのりはそう言い残すと、二人揃って呆然と見守る集と綾瀬を残し部屋から立ち去っていく。

 

「………着替え……?」

 

いのりの言葉に、集は自分の身体を見下ろした。

 

裸だった。

もっといえば下着すら履いていなかった。さらにいうとベッドの上で後ずさったため、集の上にかかっていた毛布もものの見事にめくれ上がっていた。

 

「ーーきーー」

 

集に釣られ、同様に集の身体を見下ろしていた綾瀬が顔を真っ赤にしてぷるぷると震え出す。

 

「あっ…綾瀬さん…これは不可抗力ーー」

 

 

「 き ゃ あ あ あ あ あ あ ーーーー 」

 

綾瀬は集が言い終わる前に甲高い悲鳴を上げ、集の頬に平手打ちを繰り出した。

頬を打つ音が、アジト中に響き渡る。

 

 

 

「ひどい…理不尽だ……」

 

集がいのりから受け取った葬儀社の服を着込み、真っ赤な紅葉マークのついた左頬をさすりながら綾瀬に向かって不満を漏らす。

 

綾瀬は、ふん と不機嫌そうに鼻を鳴らす。

 

「当然の報いよ。乙女にあんな…け……穢らわしいもの見せておいて」

 

「だから、あれは不可抗力だったんだって!」

 

「どうでもいいわよそんな事。そんな事よりあんた覚悟しなさいよね。もう丸一日潰してるんだから、もう休んでる時間はありませんから!」

綾瀬は、一文字一文字語気を強めて言う。

 

「いいですよ別に、やっても意味無いし…」

 

こう見えて人一倍鍛錬を積んでいるし、くぐった修羅場も並大抵の質や量では無い、訓練なんか受けなくても葬儀社のメンバー達にも負ける事は無いと、集は自負していた。

しかし綾瀬は集の言葉を違う意味で受け取って、ジロリと集を睨む。

 

「私だっていやよ!だけど涯からあんたを見ろって命令されたんだからしょうがないじゃない…!」

 

(……?)

 

集はなんとなく、綾瀬が涯の名を呼ぶ時のトーンが柔らかく感じた。

 

( ……あれ?ひょっとしてこの人って涯の事…)

「ほらっ、もう行くわよ時間は止まってくれないんだから」

 

綾瀬が車椅子を転がしながら集に向かって手をコイコイと振り招く。

集はその手…正確には手の中にある物を見て凍り付いた。集が虚界から受け取った、あのボールペンだった。

 

「あっあのぉお!!」

 

「……なによ」

 

突然激しく挙動不審に慌てる集に、綾瀬は訝しげに視線を向ける。

 

「そのペンって…どうしたんですか?」

 

「うん?拾ったのよ、ひょっとしてあんたの?」

 

「ええ…、あのー…返してもらえると嬉しいんですけど…」

 

集は一縷の望みにかけて、全力で愛想笑いを浮かべて言う。

 

「だめ」

 

集の愛想笑いが、額に汗を浮かべた苦笑いに変わる。

 

「いい事考えた ちょうどいいわ。六日後あんたが葬儀社のメンバーに相応しいかテストする予定なの。合格出来たら……返して あ・げ・る ?」

 

「テ…テスト?」

 

綾瀬は心底楽しそうに笑いながらウインクした。

 

 

 

「じゃあまずは、ごくごく簡単な訓練から受けてもらうから」

 

集は綾瀬にそう言われ連れて来られたのは、酒瓶がたくさん棚に置かれたやけに小綺麗なバーの様な場所に付いた。

気付くと集の後ろに葬儀社のメンバーが集まって来ていた。その中にいのりも紛れているのが見える。

メンバー達は集を物珍しく見ながら、なにやら笑ったり耳打ちしたりと思い思いに見物していた。

 

「……」

 

集はなんだかいやな予感がして来た。

と バーのカウンターの上に腰掛けていた、髪の側面以外を金髪に染めた不良っぽい様相をした男が集にぶつかりそうな距離まで近付いてきた。

 

「龍泉高校二年の 月島 アルゴ≪つきしま あるご≫ だ」

 

「えっ…同い年?!」

 

てっきりハタチは越えているだろと思っていた集は、素直に驚く。

 

「名前は?」

 

アルゴは鋭い眼光でズイッと集に顔を近付けて問う。本人が意識しているかどうかは分からないが、威圧感たっぷりだ。

「お…桜満集です……」

 

「知ってるよ」

 

「………」

 

「アルゴは白兵戦…ないしはケンカのプロね」

 

なんともいえない表情になる集をよそに綾瀬は、手の中でペンを回しながら言った。

 

「ホントに殺す気でかかって来い」

 

「はい?」

 

アルゴは集の手にナイフを握らせる。その鈍い輝きや重さは、どう見ても調理用に扱う代物ではない。

久々に握る戦うために産まれた武器に、集は自然と手になじむのを感じた。

 

「本物…ですよね」

 

「ああ だから?」

 

集はナイフを握ってから、少しづつ思考がクリアになり身体が軽くなっていくような気がした。

レディの容赦ない、武器を使った特訓が頭をよぎる。

自分が泣こうが吐こうが構わず立ち上がらせ、武器を握らせた…自分の願いや想いを真の意味で理解し、厳しくも暖かいあの手を……。

「葬儀社の看板は重てぇぞ!この程度でビビんなよ!」

 

アルゴの言葉は集の耳には届かなかったが、ナイフを振るアルゴの腕の動きは、はっきり見えた。

 

金属を打ち合う音が部屋中に響き渡る。

 

「っ!」

 

はじめから集に避けさせるつもりで大振りにナイフを振り下ろしたアルゴは、攻撃を弾かれた時に即座にバックステップで集から距離を取る。

ざわついていたメンバー達に沈黙が流れる。

 

集はナイフを右手と左手と持ち替えたり、手の中で回転させたりして、ナイフの感触を確かめる。

 

「お前……素人じゃねえだろ」

 

やけに手慣れた手つきで、ナイフを扱う集を見てアルゴはそう言った。

 

「うん、だから?」

 

集は先程のアルゴの口調を真似て言い、ニイと笑みを浮かべた。

 

「!……っ上出来だ!」

 

アルゴはそう言うと同時に床を蹴り集を肉迫した。

集も同じように床を強く蹴り応戦する。

 

何度も金属同士を打ち鳴らす音が響く。

集の五年間のブランクは、かなり集の腕前を鈍らせていた。それを補っているのは、普段から鍛えていた体力と動体視力だ。

例えば列車の中流れていく風景を、例えばゲームで、例えば秋に空中を漂う枯れ葉の地に落ちる順番やタイミング目視で計算するなど、という風に普段から集は目の鍛錬も欠かさず行っていた。

 

それも全て悪魔達のトリッキーで変幻自在な攻撃に、対処するためだ。

 

アルゴもいのりと比べ見劣りはするものの、葬儀社の前衛を務めるだけの事はある。

実際腕力やナイフの腕前だけで勝負したら、集が圧倒的に不利だ。

 

しかしこれぐらいなんとか出来ないと、悪魔達に立ち向かう事など永遠に不可能だ。集はそう考え、神経を張り巡らせる。

 

「っちい!!」

 

アルゴも集の反応速度や対処の速さに、へたな攻撃を仕掛けられないでいた。

腕力で押し切ろうと力を込めてナイフを振るっても、集は防いだはしからナイフ寝かせ逸らす、そのせいで力が分散され集の体勢を崩すことが出来ない。

 

「ちょ……ちょっとアルゴ!そんな奴なんかに押されないでよ!気合いを入れなさいよ気合いを!」

 

(ちっ簡単に言ってくれるぜ…)

 

綾瀬の叱咤にアルゴは、集の突きを避けながら毒づく。

 

「ふっ!」

 

集はアルゴの一瞬の隙を見逃がさずナイフを横に振る。

アルゴは身体を屈めてそれを躱す。

 

(こいつ…まじで殺気込めてやがる!)

アルゴが屈む前まで首があった場所を集のナイフが通り過ぎるのを見て、アルゴの額に汗が浮かぶ。

しかし先程の攻撃で集に致命的な隙が出来る。それを知ってか知らずか、集はアルゴに追撃の突きを放とうとする。

 

「甘えよ!」

 

アルゴは渾身の力を込めて、叩きつけるようにナイフ振り抜いた。

集は自分のナイフを盾に、真正面からその攻撃を受けて吹き飛ばされる。

集がカウンターにぶつかるのを待たず、アルゴは集に向かって駆ける。

 

カウンターに激突すれば集は大きく体勢を崩し、反撃する時間も、避ける時間も無く勝負は決まる。

しかし集は背中を打ち付ける前に、左手のひらカウンターに叩きつけた、途端に集の身体はピンボールのピンの様に勢いよく跳ね上がり、集は片手逆立ちでカウンターの上に静止した。

 

「……っ!」

 

アルゴは集の予想外の動きに驚愕しながらも、集に接近し続けた。

 

集はカウンターの上で、片手で身体を支えたまま空瓶の山を蹴り上げた。

何本もの瓶が空中に浮かび上がるなか、集はその内の一本に足を掛けて、バットでボールを打つかの様にアルゴに向かって瓶を蹴り飛ばした。

 

「甘えつってんだろ!!」

 

アルゴは少しもスピードを落とさないまま、ナイフのグリップで飛んで来た瓶を殴り飛ばし弾いた。

 

「しゃあっ!」

 

アルゴはカウンターの上に乗った集の左手を切りつけた。

しかしその寸前に集は空中に跳び上がり、ナイフはなにも無い空間を切った。

 

集は空中でアルゴに向かってナイフを振り下ろし、アルゴはそれをナイフを頭上に掲げることにより防いだ。集は着地してすぐナイフを横薙ぎに振った。アルゴはバックステップでそれを躱すと、集が着地から体勢を立て直す前に床を強く蹴り全体重をかけた突きを放つ。

 

アルゴの狙い通り、集はアルゴの攻撃を回避できずナイフを寝かせ、真正面から受けた。

アルゴはそのまま集を突き倒そうと、もう一度床を蹴る。

その瞬間集は空中で逆手に持ち替えたナイフのグリップを思い切り手のひらで殴り付け、身体を横にずらす。

 

「なっ!?」

 

アルゴが勢い付けた自分の体重に引っ張られ、つんのめった。

 

「っおおお!!」

 

振り返りざまにアルゴは、集の胸の高さにナイフを振る。

集はそれを高くジャンプして避け、空中から強烈な兜割りを振り下すーーーー

 

寸前で止めた。

メンバー達は固唾を飲んで一連の光景に見入っていた。

覚悟を決め目を閉じていたアルゴは、集のナイフが首筋スレスレで止まっている事に気付き、ゆっくりと目を開け集に視線を向ける。

 

「まだ続けますか?」

 

無表情で淡々と言う集に、アルゴは一瞬キョトンとした後、フーと笑みを浮かべながらため息をつきナイフから手を放した。カランと軽い音をたててナイフは床に転がる。

 

「まいった…降参だ」

 

アルゴが言うと同時に観戦していたメンバー達から、ワッと歓声が上がる。

 

「アルゴさん…」

 

集はアルゴに自分の使っていたナイフを、刀身を自分にグリップの方をアルゴに差し出した。

 

(負けた事より……こいつがほとんど息乱して無い事の方がショックだな……)

 

アルゴはゼーゼー息を切らせながら、ナイフを受け取った。

呆然としていた綾瀬は、周囲の騒ぎで我に返った。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「どーいう神経してんのよあんたはああああ!!」

 

射撃演習場に綾瀬の怒りの叫びが響く。

 

「全弾上手く当たったんだから、いいじゃないですか!」

 

「そーいう問題じゃないの!このお馬鹿!!」

 

アルゴとの訓練を終えた集は、綾瀬といのりにこの場所に連れて来られ射撃の訓練を受けることになった。

まずはいのりに見本として、奥にあるマトを撃ってもらいその後で集に拳銃が渡された。

集は他の武器同様、拳銃に触れるのも久々(当然だが)で初めは不安だったが……五年間で身に染み付いた教えは簡単には落ちることは無かったようで、集は問題なく銃を扱う事が出来た。

綾瀬も苦虫を噛み潰した様な顔をしながらも、一応は合格点を付けてくれたようだった。

 

ここまでは良かったのだが……集は昔からずっとやりたかった" あれ "を、試してみたい衝動を抑えられなくなってしまった。

 

集はおもむろにもう一丁の拳銃を引っ張り出し、腕を交差させたり、背中を向け肩越しや脇の下から二丁の拳銃をまるでマシンガンのようにメチャクチャな速度で弾を乱射したのだ。

 

「ちょっ……!」

 

あまりの光景に呆然と綾瀬はそれを見ていた。

いのりは特にたいした反応を示すことは無かった。

 

さらに意外なことに、集がメチャクチャに撃った弾丸は全てマトに命中した。

 

「よし!」

 

勢いでダンテの真似をした集だったが、予想以上に上手くいった事に思わずガッツポーズをしたところに、綾瀬からボードでチョップをもらい今に至るのだった。

 

「あんたには常識がないの?こんな無茶苦茶な撃ち方、どんな素人でもやろうとさえ思わないわよ!壊れ無かったのが奇跡よこのおたんこなす!」

 

「むっ…そこまで言うことないでしょ?そりゃあ壊れるような撃ち方したのは僕だけど……」

 

「いいえむしろ感謝して欲しいわ!本当は疫病神って呼ぶつもりだったんだから!」

 

「や…っ…!?なんだよ疫病神って!散々僕を巻き込んでるのはあんた達じゃないか!!」

 

「なによ文句あるの?この疫病神!!」

 

「傍若無人っ!!」

 

 

「………」

 

 

「ワガママ小僧!!」

 

「乱暴者っ!!」

 

「……シュウ…、アヤセ…」

 

 

「「なに!?」」

 

お互い一歩も引かず、珍しく熱くなる集と綾瀬の言い合いを傍観していたいのりの声に同時に答え、お互いにそれが気に入らないのかまた睨み合う。

 

「もうすぐ次の訓練の開始時間だわ…」

 

「……分かったわよ……」

 

しかし今度はお互い適当なところできりあげ、次の目的地へ向かう。

 

 

(って言うか、あんな無茶な撃ち方してジャムりもしないって…地味にすごいな……)

 

と集がズレた感想を抱いたのは別の話だ。

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 

「おっ…来たね。じゃあさっそく始めよう……ってうわすんごい空気悪い…!?」

 

綾瀬と集そしていのりの姿を見たツグミは直後に思わず半歩後ずさりする。

いのりの前を歩く集と綾瀬は、お互いにそっぽを向きしかめっ面を浮かべている。お互い顔を見たくないという、意志がありありと伝わってくる。

 

「綾ねえ謝るんじゃなかったの?なんで関係悪化してるの?」

 

「ツグミ余計な事言わなくていいの!」

 

「謝るなんて高尚な心掛け…綾瀬さんが持ってるなんて、驚愕の事実ですねえー」

 

「っ!!……ツグミ!気遣いは無用よノルマを倍にしてやりなさい!!こいつの根性叩き直してやる!!!」

 

集と綾瀬はお互いの吐息がかかる程、間近で睨み合う。

二人のぶつかる視線の中心から、火花が飛び散るのを幻視してしまいそうだ。

 

「もう綾ねえも子供なんだから……」

 

ツグミからやれやれとため息が出る。

 

「…んっ?…あっ何度か会った……」

 

「おっ…?うん こうして落ち着いて話すのは初めてだね!」

 

集はようやくツグミをハッキリ視野に入れた。

 

「ツグミだよ!よろしくね 桜満集 君!」

 

「はいっよろしくお願いします!」

 

「ツグミ!喋ってないで始めるわよ!」

 

「あっれー?綾ねえもしかして妬いてるのー?」

 

「ツグミ!!」

 

「アイアイ!」

 

一通り綾瀬とツグミのやりとりが済むと、集をアジトの外へ連れ出した。

外には廃墟と化した六本木の風景が広がっていた。

集のノルマはここを4時間全力で、ペースを落とさず走り続けること、ようは持久走だ。

 

 

『はいっしゅーりょー』

 

「ふう…さすがに疲れたな……」

 

約四時間後、背中に乗ったふゅーねる越しからのツグミの合図で、集は足を止め額の汗を拭った。

毎朝ジョギングや時間を見つけては鍛錬を行っていた集にもさすがに四時間もペースを落とさず持久走は強い疲労を感じた。

 喉もカラカラだし、足腰も笑っている。

 

「綾瀬さんどうだった?」

 

「………」

 

綾瀬は俯いたまま集の言葉に応えない。

 

「……綾瀬さん?おーい」

 

「聞こえてるわよ!今日は終了!お疲れさま!」

 

(さっきまでの事、まだ怒ってるのか?まあ僕も確かに大人気なかったけど……今日は、そっとしておいてまた明日朝一で謝ろう……)

 

走って頭が冷えた集はこれ以上綾瀬を刺激しないためにも、早々にこの場を立ち去った。

 

 

「私は認めないから……あんたなんか……」

 

集が立ち去り、空も茜色から夜に変わりかけ、星もチラチラ瞬き出す。

その中で綾瀬はポツリとつぶやいた。

 

『……………』

(ホントはもう認めてるくせに……意地っ張りだな…綾ねえは……)

 

ふゅーねるを通じてその様子を見ていたツグミは、心の中で呟いた。

綾瀬は手元のボードに目を落とした。そこには今日一日の集をチェックした様子が書かれた用紙が貼ってある。

 

「っ……!」

 

綾瀬はその用紙に集の物だというペンで、

でっかく 『 クソガキ 』と書いた後、いい気味だと言わんばかりに鼻を鳴らす。

 

それで気が済んだのか、綾瀬は車椅子を転がしアジトへの帰路につく。その後ろをふゅーねるが追った。

 

 

 

 




中途半端ですが今回はここでおしまいです。
ほんと毎回毎回、話を切る場所に一番困るんですよね。

戦闘シーンとホラー的描写を練習してみました。
難しい!

それと今回、集の原作との基本スペックの違いがはっきり分かったと思います。
やりすぎと思われるかもしれませんが、これぐらいじゃないと集はあっと言う間にミンチです。

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