ギルティクラウン~The Devil's Hearts~ 作:すぱーだ
すごく面白かったです。(死にまくりましたけど…)
次は3に挑みたいと思います。
集の便利屋時代などの過去話については番外編とかで後々掘り下げられたらいいなと思ってます。
第10話です
その街は誰に聞いてもスラム街と答えそうな程荒んでいた。
真っ当な職に就いているとは思えない入れ墨だらけの屈強な男達が、昼も夜も関係なく歩き回っており、夜になると目に痛いネオンが町中を照らし出す。
そんな場所を走る東洋系の少年はさぞかし浮いていたことだろう。
赤みがかった黒髪に琥珀色の瞳を持った、まだ幼い背丈と容姿を持った少年は…彼に冷ややかな視線を送る男達を尻目に街の奥へと向かう。
少年もこの場所に着いたばかりの頃は、しょっちゅう彼らに何かしら因縁を付けられていたが、ゴロツキ達は少年が" あの店 "の住人だと知った時からは少年に近付く者は誰もいなくなった。
少年が今まさに向かっている最中の店の店長は、この街随一の" 変人 "だった。
便利屋を経営しているその男に手を出す者は、その男の事をよく知っている者からしたら愚か者そのものである。
天井高く積み上げられた報酬でも、男が気に入らなければ決して引き受けないくせに、胡散臭い依頼はタダのような報酬だろうが引き受けた。
その依頼も" 悪魔 "や、" 魔術 "が絡むような薄気味悪い依頼ばかりだった。
この街のゴロツキ達が大金を積まれても近づかないような店のドアを、少年は躊躇い無く引き開ける。
「 だから何度も言ってんだろ。その依頼は受けねえって…。」
ドアを開けた少年を最初に迎えたのは、時代遅れなダイヤル式の電話の受話器に向けて言い争いをするこの店の店長の姿だった。
「 どうしてもだっ、悪いが他を当たってくれ。」
その言葉を最後に男は受話器を電話器に置く。
「 誰から?」
男の電話が終わるのを待って、少年がソファに座り背負っていたリュックから本や束ねた紙を取り出し、前のテーブルに広げながら男に尋ねる。
「 ああっ?エンツォの野郎だよ" もう仲介手数料を受け取ったから依頼を引き受けてくれ "だとよ。」
男は自分の机に足をかけ、雑誌を広げながらぶっきらぼうに答える。
それを聞いた少年は深くため息をつく。
「 ダンテさあ…、もう悪魔関連の仕事しか引き受けないのやめなよ。」
少年にダンテと呼ばれた男は、うるせえな と雑誌から目を離さず言う。
「 ピザ屋のおじさんに" ツケがたまってんぞ "って毎日ヤジ飛ばされる僕の気持ち分かる?」
「知るか。お前が払っとけ」
ダンテは相変わらず雑誌から目を離さない。
「パティにまで心配かけてたよ?それにしっかり仕事しないとトリッシュさんやレディさんとまたもめるよ」
「その時はおめえを盾にするから大丈夫だ」
少年はダンテの言葉にしかめっ面をする。
その時、古めかしい電話からけたたましい呼び出し音が鳴り響く。
ダンテは雑誌から目を離そうとしない。
「出ないの?」
少年が尋ねても、ダンテは無反応だ…。
少年は先ほどよりも深いため息をつきながらダンテが足を乗せる机に近付き受話器を取る。
「はい、" デビルメイクライ "です」
『おおっ!坊主かダンテは?』
受話器から男の声が聞こえる。
少年の頭に、小太りで片腕の無い脂ぎった男の顔が思い浮かぶ…、エンツォからだった。
彼はやけに慌てた声で依頼の内容を早口で少年に伝える。
なにか怖がっているような印象だった。
依頼の内容は、前に少年とパティがダンテにしっかり仕事をさせようと画策し、パティが用意したものと一致した。
確か彼女は自分の実家にいる使用人にエンツォづてにダンテに依頼をさせると言っていたはず、そしてその使用人の中にマフィアの様な強面の大柄の男性がいたはず…。
少年がそこまで思い返したところで、ダンテの方に目線を向ける。
彼の瞳が目に入った。
この国ではたいして珍しくない青い色をしている。
少年は過去に一度だけ、ダンテの瞳の色が血の様に赤く染まったところを見た事がある。
少年が彼に救われた時だ。
少年は今では見間違いだったと思っている。
ずっと赤い空間で絶望的な時間を過ごした自分は現実には無いものを見たのだと。
「なんだ?人の顔ジロジロ見て…」
少年の視線に気付きダンテが声をかけた。
少年はなんでもないっと首を横に振り言った。
「報酬悪くないよ?」
「だから言ってんだろが俺はーー」
ダンテが言い終わるのを待たず…。
「はい、引き受けました」
「おいっ!何勝手に……」
「ダンテっ!世の中なんでも自分の思い通りに行く仕事なんて無いんだよ?」
少年がダンテを咎める。
「 エンツォさんだって色んな事を一生懸命…ーー」
「 ああっ!もう分かったよ……負けたよ…。」
ダンテが雑誌を机に放り投げ、椅子から立ち上がる。
少年は頷き、机の横にある床下収納スペースを開き、自分の荷物を取り出す。
ダンテは赤いレザーのロングコートを着て、巨大なギターケースを背負ってドアの前に立っていた。
ギターケースの中身がギターでは無い事くらい、少年はとっくに理解している。
「遅えぞっ、シュウっ…」
「急にやる気出さないでよダンテ…」
集とダンテは言い合いながら両開きのドアを押し開けた。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
随分と懐かしい夢を見ていたな…真っ白で殺伐とした部屋で集は目を覚まし、そう思った。
集の服装は学校の制服から、白く簡素な服に着替えさせられている。
身体を起こそうとして、ふと自分の右手首に嵌められた手錠が目に止まる。
右手首から腰の皮のベルトに繋がれた簡単な拘束だが、左手の使えない集には十分だった。
それに加え両足を繋ぐ鎖で集はほぼ動けなくなっていた。
あのGHQの嘘界という男に連行された集は" GHQ第四隔離施設 "の一室に拘束されていた。
おそらくこれから集に対して尋問が行われるだろう。
(谷尋…どうして…)
昨日集は彼と初めて真の意味で親友になれたと思っていた。
しかし彼は集を裏切り売った。
今はいくら考えても答えなど出るはずがない、集はそう考え頭を冷やすためにいったん思考を打ち切った。
(あれは…いつの頃の夢なんだろ……)
自分が流暢に英語を話せるようになったのは大体半年ほど経ってからだった。
だから、あの記憶はそれ以後という事になる。
集はぼんやりとそんな事を考えていた。
ふっ、と集が笑みを浮かべる、先日集は祭に対して今いるここも五年前までいた場所と同じくらい大切な場所だと言ったはずなのに、今このように思い出すのは大切な友人達では無く" 彼 "の事である事に対する自重的な意味を持つ笑いだった。
(あれだけ格好つけた事言ったのに…ハレには知られたらなんて言うかな……。)
集はなんだか祭に申し訳なくなってきた。
「よく眠れましたか?」
集が声を掛けられた方を見る。
あの嘘界という男だった。
「そろそろ尋問のお時間です。準備はよろしいですか?」
集に嘘界の後ろにいた兵士が近付いてきた。
「さてっ、この男が恙神涯…葬儀社のリーダーです」
取り調べ室に着いた嘘界は集と机を挟んで向かい合って座り、涯の写った写真を見せながらそう言った。
「知ってますよ。テレビでさんざん見ました」
「そしてこちらが君の友人が送ってくれた写真です」
嘘界はそう言って今度は集と涯が一緒に写っている写真を見せた。
集はやはり表情一つ変えずそれを見ていた。
「何故君の様な少年がこの日ここにいて涯と話す事になったのですかね」
集は眼を動かし、嘘界を見る。
人を喰い物にしてる人間の目だ それがこの男に対する集の第一印象だった。
このような目の人間は集は五年前まで嫌というほど見て来た。
実際に集自身は過去に何度もこのての人間に命を奪われそうになった。
「その" 恙神涯 "に確認してみて下さい。おそらく他人の空似だと分かるでしょうから…」
(この状況でよくここまで落ち着いていられますね…。)
嘘界は変な人間に絡まれたというような表情の集にそんな感想を抱いた。
たとえ無実の人間でも、この状況に陥いれば不安と恐怖で落ち着かなくなるはずであるが、目の前の少年にはその影が一切見られない……。
まるでこの程度なんでもないかの様に…。
「しかし桜満君、君のその左腕…どの病院に問い合わせても君を治療したという病院が一切見当たらないのですが、君は一体どこで治療を受けたのですか?」
集はその質問を沈黙で返す。
「……桜満君ここの食べ物は美味しくないよ?パズルが解けるまで君はここから出られません。」
嘘界はそう言うと、後ろの兵士に集をもとの部屋に戻すよう命じた。
「……全く、これは案外時間がかかるかもしれませんねえ……」
一人で取り調べ室に残った虚界はそんな事をつぶやいた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「集がGHQに逮捕された!? 」
朝のHR前の教室に颯太の声が響く。
「なんであいつが…」
「私もビックリして先生に聞いたけどなにも分からなくって…」
花音と颯太の会話は祭の耳にも届いていた。
「 ……嘘…、集が…捕まるなんて…。」
祭は呆然と呟いた。
「本当だよ」
いのりが祭に言う。
「楪さんも見てたの!?なんで集が捕まったか知ってる?」
「なにも…」
祭の言葉にいのりは首を振る。
祭は そんな と悲鳴の様な声を小さく上げ両眼からぼろぼろと大粒の涙が溢れだす。
( この子…泣いてる……。)
いのりは肩を震わす祭を見て、なんともいえない痛みが胸に広がった。
( またっ、この痛み…シュウが撃たれた時も……。
これが悲しいって気持ち…? )
いのりには何も分からなかった。
ーーーーーーーーーーーーー
『桜満博士の息子を拘束しただと?』
「葬儀社に関与した容疑で拘束しました」
モニター越しの茎道の言葉に虚界が答える。
「お気に入り触りましたか?」
茎道は一瞬目を横に向ける。
おそらく桜満春夏の様子を伺ったのだろう。
『時間は稼ごう…。ところで君の心証は?』
「クロです。彼が葬儀社に関わっているのは間違いありません」
茎道の質問に虚界は楽しそうな笑みを作りながら言った。
「 とはいえ…リーダーの名を呼び捨てにしたり、テロリストにありがちな思想に固まった感じは今のところ感じません…、ただのメンバーではなさそうです」
そうか と茎道は頷いき虚界のモニターに映像を写した。
『見たまえ、七分前に様々なニュースポータルに一斉送信されたらしい。』
映像には涯による犯行予告の映像だった。
『明日、我々葬儀社はGHQの第四隔離施設を爆撃する。』
虚界は顎に手を当ててその映像を見ていた。
『抵抗は無意味だ…。我々は必ず" 同志 "を救い出す』
しばらくその映像を見ていた虚界はニヤッと笑った。
「…局長、一つ閃いたのですが」
その顔は集が見ていれば、背筋に寒気が走るような笑みだった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「切れ込みくらい入れてよ……」
集はブツブツぼやきながら右手一本でソフトメンと格闘していた。
集が勉強を教わっていた修道院でも食べた覚えのある懐かしいものだったが、あの時も袋を開けるのにやたら時間がかかったうえに今回は片腕で開けなければならない。
集がソフトメンの袋を歯で噛み切ろうとしていると…。
GHQの職員が部屋のドアを開けた。
( また尋問か…。)
集は少しうんざりしながら席を立った。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「どこへ向かってるんですか?」
車の中で集は隣に座る嘘界に尋ねる。
部屋を出た集に嘘界が状況が変わった と言い、集と共に車に乗車した。
「少し君にお見せしたいものがあります。」
集の質問に嘘界はそう答えた。
車は集のいた施設と同じ敷地にある建物に着いた。
「どうぞ?」
虚界はそう言って集に手を伸ばしてきた。
集はそれを無視して車から降りた。
さすがに露骨過ぎたかな? 集はそう思い虚界の顔を見るが虚界は特に機嫌を損ねた様子も無く歩き出した。
建物に入る虚界に集も続いた。
「見せたいものがあるって何ですか?」
集が尋ねると虚界は振り向かず答える。
「寒川君がなぜ君を売ったか…その理由です。」
「……っ!! 」
集の顔が嘘界と会って初めて大きく変化した。
「彼は中毒患者では無く売人です、あの日六本木にいたのもその取引のため…。
彼にはどうしてもお金が必要な理由があったのです」
「…ここはどこですか?」
「隔離用の病棟ですよ…。ご覧なさい」
嘘界は集にガラスの向こうの空間を示す。
ガラスの向こうは広い空間で集達の立っている二階まで吹き抜けになっており、下の一階にはたくさんのベッドが所狭しと並んでおりその全てのベッドの上で人が寝ていた。
そのうちの一つのベッドのそばに……。
「ーー谷尋っ?」
ベッドで寝ている患者の少年の手を谷尋が握っていた。
「彼の名は、寒川 潤≪さむかわ じゅん≫……。
谷尋君の弟です。」
集は谷尋の弟『潤』の姿を見て凍り付いた。
彼はアポカリプスウイルスに感染している様だが、その姿はまさに異形と化していた…。
顔の半分と右腕は完全に結晶に覆われ、もはや元の形がどのような形か判別できなかった。
「ーー初めて見ますか?ステージ4まで進行したアポカリプスの患者です。」
言葉を失う集に虚界が言う。
「ここは不慮の事故や、ワクチンが体質が合わずに発症してしまった人々を救済するための最先端の施設でもあるのです。」
虚界の言葉で……、
( そうか…谷尋が僕を売ったのは……弟の治療費のため…。)
……集は全て把握した。
彼はずっと苦しんでいたのだ…集と出会うより前からずっと一人で…。
集や他の生徒達を助ける中で、谷尋はいつ潰されてもおかしくない絶望の中でずっと戦っていたのだ…。
言って欲しかった…犯罪に頼るより前になぜ自分達を頼ってくれなかったのか…。自分になにか出来る自信は無いが、それでもなにも知らずのうのうといつも来る日常を甘受するよりは遥かにましだ、集はそう考えた後歯を食いしばった。
たとえそうなっても、それはただ集自身の自己満足にしかならない自分になにか出来ることがあるとはとても思えなかった。
集の目からぼろぼろと涙が溢れて来る。
この涙がどんな意味を持って流れてくるのかは集にも分からなかった。
嘘界はその集を黙って横目で見ていた。
ーーーーーーーーーーーーー
集は同じ建物の中の一室に通された。
「十年前のロストクリスマス以来、この国は狂ってしまった……」
集に紅茶を差し出しながら嘘界は話した。
「しかし我々GHQの尽力のお陰でアポカリプスウイルスを抑え込む事に成功し、世界は一定の秩序を取り戻しました。」
既に集は元の無表情に戻っており…嘘界の話をちゃんと聞いているのか分からない。
「 ですが、あの患者達が物語るようにロストクリスマスはまだ終わっていないのです、我々は現在も戦っている。善意を押し売るつもりはありませんが大義ある戦いだと思っています。」
「だから許せないのです。我々が必死で守ろうとしている秩序を乱そうとする葬儀社が……」
(さて、これ以上の仕込みは無駄なようだ……なら導くとしましょう)
嘘界はなんの表情も見せない集を見てそう思った。
「桜満君、私には分からない…なぜ君のような賢い少年が彼らに手を貸し…我々の" 善意 "を踏みにじろうとするのか?」
(あれのどこが善意だ……。)
集は六本木での事を思い出しながらそう反論しようとしたがなんとか抑え付けた。
この手の輩は感情的になるとつけ込まれる。
堪えるしか無い何を言われようとも……。
( まさかここまで頑なとは…、ここで食いつく予定だったのですが…。)
虚界は集の精神力に改めて驚嘆した。
しかしあの親友のもうひとつの悲しい姿を見た時の集の涙を思い出し虚界は心の中でほくそ笑む。
「 あなたは恙神涯を救世主だと思っているようですが、ならばなぜ!市民を大量虐殺した犯人を解放させようとするのですか!?」
「 ……どういうことです…?」
集は相変わらず険しい表情で嘘界に尋ねる。
「実は昨日葬儀社から『同志』を奪還するという声明が発表されました。」
「……同志…?」
「
嘘界は集の目を真っ直ぐに見て言う。
「 こんな爆破魔を助けようとする男が正しいと心から言えますか?」
「……僕と彼は関係無いです何度言わせる気ですか」
嘘界は多少集の涯への不信感は芽生えただろうと考えた。
その証拠に" 無表情に険しい顔 "だったのが" 苦痛に堪える様な険しい顔 "に変わっていた…無論、集は無意識だろうが。
「桜満君ひとつお願いが…」
嘘界はそう言うとひどく無骨なボールペンを取り出した。
「これは発信機です。恙神涯と一緒の時『青・青・赤』の順に押して下さい…それで彼には相応しい罰が下るでしょう……たとえどこに居ようとね…。」
集は微動だにせずそのボールペンに目を向ける。
「ーー楪いのりさん…有名なwebアーティストらしいですね…。」
いのりの名を出した途端、集の身体がビクッと震えた。
「もし君が拒むのなら…次は彼女に頼まなければならなくなります。」
……殺す………
はっきりそう聞こえそうなほど濃厚な殺気を集が纏った。
嘘界は今度こそ本気で驚愕した。
資料で彼の事を調べたが確かに普通の学生だったのだ、それがここまで冷たい殺気を放てるはずが無い。
(ーーこの少年は何者なのでしょう……。)
嘘界はゾクゾクとした興奮に秘かに胸を躍らせた。
ーーーーーーーーーーーーーー
『ーーーーー、ーーーーーーー。』
映研の部室に『EGOIST』の曲が響き渡る。
いのりは集の作ったpvを見ていた。
「…シュウ…」
いのりの胸は痛みと寒さに支配されていた…。
『失った時は胸が…心が痛いんだ』
集の言葉が思い出される。
( ……これが…心が…痛い…?)
「…シュウなら…分かる?」
いのりの呟きは廃墟の静けさに溶けていった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「ーー出ろ、弁護士の接見だ…」
集の部屋に警備員がやって来た。
警備員は集の右手に手錠をかけ面会室へ連れて行った。
「やあ集君はじめまして」
集はその人物を見て、しばし呆然とした。
椅子に座らされて手錠を外される。
「私が君のお母さんの依頼を受けて君の弁護を担当する。メイスンだ…。」
「…はい?」
集から思わず間抜けな声が漏れる。
涯だった…。付け髭を付け伊達眼鏡をかけ変装をしていた。
集が見た涯からは想像出来ないほど冴えない雰囲気だった。
「ーー安心していい僕がすぐ家に帰してあげるからね。」
絶句する集を無視してメイスン改め涯は話し始める。
『カメラとマイク潰したよ』
集の耳に僅かに涯の耳に付けた通信機からツグミの声が聞こえて来た。
「よし、全員スタンバイ開始」
涯の顔が集の知っている涯のものとなる。
涯は付け髭と伊達眼鏡を外し足を組み、集を冷たく見る。
「いいざまだな…」
「……あなたがここいるという事は、こうなる事は予測済みだった…という事ですね」
「…ここに捕らわれてるある人物を脱出させる。」
涯は集の言葉を無視して話し始める。
「……木戸研二…ですね…。」
「そうだ。これから大雲達が襲撃をかける…お前はここを出たら直ちに地下独房の木戸と合流し奴のヴォイドを取り出せ。」
涯はスラスラと集に作戦を告げる。
「…待って下さい僕はあなたに従っていいんですか?」
「……何が言いたい…」
涯が集を睨みながら言う。
「…分かりませんか…?」
集はそれに怯む事無く問い続ける。
「ーー僕はGHQを信用してなければ、葬儀社…いや‥あなたの事も信用していないと言っているんです 」
「……なにを吹き込まれた…」
「…誰に何を言われたかなんて関係無い!これは紛れもない僕の中にくすぶっていた疑問だ!」
集は涯の目を真っ直ぐに見据え問う…。
「……涯、葬儀社の…とか関係無く、あなたの目的あなた自身の戦う意義を……リーダーとしてじゃなくて恙神涯として答えてくれ!!」
集の言葉に涯は目を細めた。
その時部屋の電気が消え、補助照明に切り替わった。
「作戦を開始する。」
涯が通信機に向け言葉をかける…それからすぐ集に向き直った。
「何故そんな事が知りたい…?」
涯の言葉に集は一瞬目を伏せ言った。
「……僕は知りたいんだ。涯の事を…、なにも知らないまま恨んだり甘えたりしたくない…。」
「 ………………」
涯はしばらく黙っていた。なにか答えようとしているのか、質問を無視して命令しようとしているのかは集には判別出来なかった。
外から建物内から爆音が聞こえる中集と涯は無言で睨み合っていた。
『シュウ…聞こえる…?』
涯が机に置いた通信機から声が聞こえて来た。
「っ!…いのり!?」
『 よかった。待っててねシュウ…今行くから…。』
集が聞き間違えるはずは無かった。
たった一日聞いていなかっただけのはずの声が、なぜか集にはひどく懐かしく感じ胸いっぱいに安堵感が溢れて来た…。
集の目頭が熱くなる。
「待機だと命じたはずだ!なぜお前が!」
涯の声に集の意識は戻される。
( いのりが涯の命令を無視した?…どうして…。)
『いのりんは集を助けに向かったのよ!』
「 っ!! 」
集の疑問をツグミの声が晴らした。
「ーー涯っ!!いのりはどこに向かってるんだ! 」
集は涯に詰め寄る…。
「…………」
涯は再び集を黙って見つめた。
「ーー答えろ!涯っ!! 」
集はガラスを叩き苛立ちを隠そうとはしなかった。
いのりを助けなければ! その想いだけが集の頭の中で渦巻いていた。
ーーーーーーーーーーーーー
「ーー予告通り来たか……」
ヤン少将がモニター越しに煙を上げる第四隔離施設を見つめる…建物のあちこちから度々閃光が走るのが見える。
「ーーでは手はず通りに頼みますよ…。」
ヤン少将は後ろに立つ男に声をかける。
男はオールバックの黒髪に鼻の下に髭に、アンチボディズと同じ白い服だったが西洋貴族風の服装だった。
「 ウロボロス社 社長、アリウス殿…」
「ええお任せ下さい必ずや少将殿のお気に召します故、我が社の製品その威力…とくとご覧あれ……」
アリウスはそう言い…口端を歪めた。
次回ついに
" 奴ら " が姿をあらわす!
回想のダンテ…アニメ版のを参考にしたけどあれでいいのか?