ギルティクラウン~The Devil's Hearts~   作:すぱーだ

10 / 68
デビルメイクライとのクロスと、ボーボボのクロスとの選択肢に悩んでいたのはここだけの話…。

結局ギャグが書けなくてボーボボは断念、

今となってはよかった………のか?


今回、話を切る所を調節するため長めです

第9話です


#09捜索~sugar~

「 以後葬儀社に関する件は嘘界(せがい)少佐の担当とします。」

 

モニターの光だけが部屋の情景を垣間見える暗い部屋の中で、茎道の声だけが響く。

 

『 何者かね。』

 

正面のモニターに映るヤン少将が問いかける。

 

「 ノーマージンはご存知ですか? 」

 

『ーー最近流行しているジーンドラッグだ、違ったかねドクター桜満……』

 

モニターの男が茎道の後ろに立つ女性に話をふる。

 

「はい。アポカリプスのワクチン開発時に偶然発見されたものです。」

 

桜満春夏は男の問いに答える。

 

「その密売ルートを嘘界少佐に追わせたところ、一週間で解明してしまいました。」

 

 茎道の言葉にヤン少将は「ほう…」と素直に感心したような表情を浮かべた。

 

「彼は相応しい獲物を与えれば全力で狩り…、そして吊るす。」

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

「 失礼っ、仕事のメールでした。えっとどこまで進んだんでしたっけ? 」

 

高層ビルの一室で紫色の髪をし、前髪を真ん中から分けた男が携帯を覗きながら言った。

左眼と額に妙な刺青のような傷跡があり、義眼である左眼の瞳には歯車のようなものが見える。

 

「ーーああっ、" 喋るべきか死すべきかそれが問題だ "辺りでしたっけ。」

 

男ーー嘘界は、正面で逆さ吊りにされた男を見ながら蛇が纏わり付いたと錯覚しそうな程不気味な笑みを浮かべた。

 

「まいていきましょう」

 

 自分の目前に迫る未来に恐怖し、逆さ吊りの男は布が詰められた口でくぐもった叫び声を上げた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「ーーノーマージンっ?あの最近出回ってるドラッグを六本木に買うか売りに来てた人がウチの学校の生徒ってこと? 」

 

「そうだ。そいつにお前と俺たちのことを目撃されたかもしれない、取り引きの時は" シュガー "を名乗っていたらしい…探し出せ。」

 

涯が集の顔をあのリーダーとしての表情で見る。

 

「ーーそんな事言ったて…、手がかりはなにも……」

 

「 いやある、ヴォイドを取り出せ」

 

涯は集の疑問を予め予測してたかのように言った。

そこで集は涯の持っている能力に気付くことができた。

 

「ーーそうか…、涯には分かるんだね…。

他人のヴォイドが…」

 

「 分かってなきゃ、手がかりゼロの生徒を見付けるなんてこと涯にだって簡単なはず無いし…。それに六本木の作戦だって実行は不可能なはずだ…。」

 

集の言葉に涯が笑みを浮かべる。

 

「 理解が早くて助かる…。」

 

「 確かに俺にはヴォイドが分かる…、俺は六本木で俺たちを目撃した人間がいるのを感じ、そいつのヴォイドを俺は見た」

 

涯の蒼い眼に…、自分のなにもかもが見られてる気がした集は思わず唾を飲む。

 

「現状この国にテロリストに人権は存在しない…」

 

「 目撃者に特定されればお前も無事では済まない…、それこそお前が最も恐れる事態に発展しかねない…。」

 

自分の一番弱い部分を突かれた気がした集は、涯を睨み付ける。

 

「いのりにヴォイドの形状を教えてある。お前に大切なものがあるなら自分で守ってみせろよ桜満集…」

 

その言葉を最後に涯は背を向け歩き去って行く。

 

集に選択の余地は無かった。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

自宅に戻った集はソファに座り込んだ。

時刻は七時を過ぎた頃でまだ寝るには早いかなと集は考えた。

 

「 どうしようかな……。」

 

このままでは落ち着かない気分だった集は、机の上に乗っている谷尋が持って来た映画のパッケージが目に入った。

集はそれを手に持つと向かい合って座るいのりに声をかけた。

 

「 いのりってホラーものとか大丈夫? 」

 

いのりは集の言葉に首を傾げた。

 

 

 

 

映画はホラーサスペンスもので鋏で人々を切り刻む凶悪な連続殺人鬼と、それを追う刑事の物語を描いた物語だった。

殺人鬼が手に持つ巨大な鋏で被害者を殺害するシーンで、集は昔巨大な鎌や鋏を持った悪魔に追い回され斬りつけられた事を思い出し…思わず鳥肌が立った。

 

「 シュウ…怖いの? 」

 

横にいるいのりが集の様子を見て声をかけてくる。

 

「 いやっ…別に怖いわけじゃ……ーー。」

 

集が言いかけた時、テレビから大音量で音楽が鳴り始めた。

ホラー映画だったらお約束の演出だが、集は思わず体が跳ねてしまった。

 

「 やっぱり怖い? 」

 

いのりが集の顔を覗きこむ。

服の胸元からいのりの谷間が目に入った集は慌てて顔を背ける。

 

「 今度は恥ずかしい? 」

 

集はギクリと肩が跳ね、慌てて言い訳を探す。

 

「 いやあ、この歳でホラー映画を怖がるのはちょっと…ね…はは。」

 

集は誤魔化すために愛想笑いを浮かべる。

 

いのりはそんな集をしばらく きょとん と見つめた後、ふっと微笑み言った。

 

「 当たった…。」

 

集はまた顔が熱くなって来た。

 

視線をテレビに戻す。

映画はそろそろ中盤に入ろうとしていた。

いのりはそれ以上なにも言わず映画に集中していた。

 

 

そのまま集といのりは二人で映画に見入っていて気が付くと映画はエンドクレジットが流れ出した。

 

「 うーん、けっこういい映画だったなあ…。」

 

映画を見終わった集が思いっきりのびをする。

 

「 ラストシーンの主人公がヒロインをかばうシーンはちょっとグッときたなあ…。」

 

「 僕もーー

 

こういう風に誰かを守れたらな と言いかけ、集は口を閉じた。

なんとなく人に聞かせる様な言葉では無い気がしたのだ…、なぜかは自分でも分からなかった。

 

「ーーー?」

 

急に黙った集をいのりはじっと見つめる。

 

「 ……っん?いやこんな人の心を動かすような作品作れたらなって……。」

 

いのりの視線に気付いた集はとりあえず言葉を繋げいのりに微笑みかけた。

そこでふと集は忘れ物に気が付いた。

 

「 ってそうだコンクール用のビデオ作るの忘れてた。」

 

もう期限も間近に迫っている…、早く完成させる必要がある。

 

「 しょうがない…、いのり、とりあえずもう寝ようか。」

 

明日、シュガー探しの合間に作るしかない…集は早めに寝て明日は早めに出ることにした。

っと ここでも集は重要な事に気が付いた。

 

「 そういえば、いのりはどこで寝るの? 」

 

いのりは黙ってソファの上に転がった。

 

「 ……いやあ、それだと風邪引くかもしれないし…ちょっと待ってて」

 

母の部屋に寝かせられたら一番いいのだが、さすがに家族といえど無断で他人を留守の人の部屋に入れるのは気を咎めた。

集は自分の部屋にとんでいき部屋を簡単に片付けてから、洗ったばかりの予備のシーツと布団を抱えていのりのとこに戻って来た。

 

「 ソファは僕が使うから、いのりは僕の部屋を使ってよ。」

 

いのりは軽くうなずくと集の部屋を目指し歩いていった。

 

「 ……さてと…。」

 

集も持って来た毛布に包まるとソファの上に横になり早速寝ようとしたが……。

 

( …………眠れない………)

 

最近まで、ネット動画越しで憧れていた少女が同じ部屋にいるのだ。

思春期真っ只中の集が気にならない筈が無かった。

 

( …っていうか今、いのりは僕のベットで眠ってるんだよな…)

 

 臭かったらどうしようと考えた次に、ベット下の『お宝』の存在を思い出し、今すぐ処分したい衝動にかられた。

だが、いくら自分の部屋だからといって、今少女のいる部屋に突入するわけにもいかなかった。

 

 彼女が『お宝』を見付けない事を祈るしかない。

 

集は必死に眠ろうとしたがいくら頑張っても眠気は一向に襲って来ない。そうこうしてる間に夜明けの時間は刻一刻と迫っていた。

 

 なお、集がお客様用のやや狭い部屋の存在を思い出すのは朝になってからだった。

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

廊下でいのりと話してる最中、集は思わず疲れたため息をはく。

 結局昨日の晩は一睡も出来なかった。

 

「 シュウっ?きいてる?」

 

集が眠い目をこすっていると、いのりが声をかけて来た。

 

「 ああごめん、ちゃんと聞いてたよ。」

 

その声に集は答える。

 

「 ヴォイドのルール覚えた? 」

 

いのりの言葉に集はうなずく。

 

「ーーヴォイドは十七歳以下の人間からしか取り出せない。理由は不明もしくは僕には教えられ無い…」

 

集はいのりから聞いた話を復唱する。

 

「 ヴォイドを抜かれた人は? 」

 

いのりが次の質問を集に投げかける。

 

「 取り出された人間はヴォイドを取り出される前後の記憶を喪失する。これはイントロンの記憶野が強制的に解放されたショックだかなんだか。」

 

集の解答にいのりは首を頷かせる。

最後の理屈の部分は集にはさっぱりだが、要するにヴォイドを取り出されれば取り出される瞬間の事を忘れてしまうのだ。

これは集にとって都合がいい、とりあえず集は最初のターゲットで実験すべくあまり人の来ない図書館の廊下にある曲がり角の前に来ている。

集はその最初のターゲットが図書委員で、だいたい人の姿がまばらな朝は図書館で委員の活動をしている事を知っている。

だからここでそのターゲットの待ち伏せを行っている…、善意につけ込むようだが彼女なら例え失敗しても笑って許してくれるだろう。

 

集は頭の中で、何度も彼女に謝った。

今までヴォイドを取り出して来た時は全て絶対絶命的な状況で、集も必死だった。

だからヴォイドの引き出し方を少しはしっかりと目と体で把握しておきたかった。

 

( 今度、クレープ奢って上げよう…)

 

彼女は、 食べ物でつろうだなんて っという感じで怒るだろうがなんだかんだで嬉しそうにご馳走になるに違いない。

 

「ーーシュウっ、来た」

 

考え事をしていた集にいのりが声をかけた。

 

集が廊下を覗くと…、最初のターゲットである校条祭がやって来るのが見えた。

 

( ハレとは中学生時代からのつきあいだ。きっと失敗しても許してくれる………、悪意は無いとはいえほんとゴメン!!ハレ!! )

 

足音が近づいて来る間も集は目を閉じ、必死に祭に謝った。

 

( よしっ!ここだ!! )

 

そして足音が集から一定の距離に来た時、集は廊下に飛び出し右手を祭の胸元に突き出した。

 

すると集の手に感じた感覚は、ヴォイドを取り出す時の中に通過する感覚ではなく……。

ふにっ とした柔らかい感覚だった。

 

( …………あれ………? )

 

期待していたような感覚とは真逆の感覚を感じた集は、ゆっくりと目を開けてみた。

 

集の右手は女子の胸を鷲掴みしていた……。

さらに付け加えると最初にターゲットにしていた祭でも無かった。

その女子はクラス委員長の草間花音だった。

 

花音は集に鷲掴みされた自分の胸を見て硬直している。

 

「 ……っわわあ!ゴメン委員長!! 」

 

集は慌てて花音の胸から手を離す。

当初の目的である祭は花音の後ろで一連の光景を見て呆然としていた。

 

「 ……お・う・ま・しゅ・うーー?これはどういうことー? 」

 

やっと硬直から解放された花音が胸を抑え集を睨み付ける。

花音のマジな殺気を正面から受け、集は思わず後ずさる。

 

「 いやあ…そのお…あのね、いのりさんがね不審者撃退のために護身術習ってるらしいんだよ。」

 

集が一応頭の中で考えていた言い訳を使う。

集の良心がギリギリと音を立てて締め上げられていくような痛みを発して集を咎める。

 

「 護身術う? 」

 

「 そうそう、あのさ昨日いのりがチンピラに絡まれてるとこを助けてこの怪我をしたって言ったでしょ? 」

 

集の頭の中では、今度は花音に対しての謝罪の嵐が荒れ狂う。

 

「 それが? 」

 

花音が腕を組んで集の話を聞く。

 

「いのりがもっと楽にチンピラを撃退する方法があるって言うからちょっとレクチャーを……。人は来ないだろうと思って油断しちゃったんだ、本当にゴメン!! 」

 

集は花音に深々と頭を下げて謝った。

 

( ホントにゴメン委員長!! )

 

当然、本当の意味でも謝っておいた……。

 

花音は集をしばらく眺めてから……。

 

「 本当っ?楪さん……。」

 

いのりに真偽を確かめた。

 

「 ……ほんとう…。」

 

いのりの答えに花音は低く唸る。

そして、深々と頭を下げる集を見て長いため息をつくと……。

 

「 分かったわよ…、桜満君がこんな事を悪意を持って故意にやるとは思え無いし…。」

「 顔を上げなさいよ……、信じてあげるから…。」

 

言われた集が顔を上げる…。

 

「 あっ…ありがとう委員長…。」

 

( それと本当にゴメンなさい。)

 

「 誤解なんでしょ?ならもっと堂々としてなさい。」

 

花音がさっきとは打って変わって優しく集に言う。

それを聞いた集が強く頷く。

 

「そうそう誤解なんだよ、ほんとはハレを……。」

 

「 ええ!!? 」

「 はあっ? 」

 

「 …あっ……」

 

顔を真っ赤に染める祭と、素っ頓狂な声を出した花音の声で集は自分の失言に気が付いた。

 

集の背筋に冷たい汗が流れる…。

おそるおそる花音の方を見る……。

 

笑顔だった……が、先程より濃厚で強烈な殺気が含まれているのが集にも分かった。

 

「 …あのー委員長?誤解なんです……。」

 

集が無意識に愛想笑いを浮かべながら言う。

 

「 うんっ、分かってるよ桜満君…私のじゃなくて祭の胸触りたかったんだよね? 」

花音は爽やかに笑う。

 

「 ……あの委員長ーー「 桜満君…、私も小学生くらいまで柔道習ってたんだ」

 

集の言葉に食い気味に花音が話し始めた。

 

「 久々に練習したくなったから、桜満君付き合ってよ? 」

 

花音が笑顔のまま言う…。

 

「 あははあ……、おっお手柔らかに…。」

 

集が言い終わると同時に、花音は普段机に向かっている姿では想像出来ない程完璧な回し蹴りを集のアゴにくらわせた。

 

集は蹴りをモロに受け仰向けに吹き飛んだ…。

地面に倒れた集は意識を失いそうになった時ーー、

 

「 ……颯太…、なにしてるの……? 」

 

目に入った一人の生徒の姿で意識を引き戻された。

 顎の痛みに涙目になりながら、無感情で尋ねる。

 

カメラを構えた魂館颯太の姿だった。

 

「 へへっ、撮ったぞ最初から最後まで……。」

 

颯太がニヤニヤ笑いながら言う。

 

「 せっかくだから集が委員長の胸揉んだとこ、ネットに流してやろ。」

 

集は思わず バッと身を起こす。

颯太の言ってる事は本当か嘘か分からないが、やるなっと言う事を平気でやるのが颯太という少年である。

 

集は笑い声を上げながら逃げる颯太を追いかけた。

 

「 ちょっ、ちょっと桜満君待ちなさい! 」

 

蹴りが完璧にきまったはずの集があっさり起き上がり、走り出したのを見て花音も走り出した。

 

「 ……集っ…私のを…」

 

「 …………」

 

残された祭はなぜか嬉しそうで、いのりはそんな祭をなんとなく見ていた。

 

 

集と颯太の距離はグングン縮まっていた。

集は左手を吊っていても日々修練を積んでいた分はしっかりと現れていた。

後ろから集を追っていた花音はいつの間にか引き離していた。

 

「 はあっ…はあっ…お前え…なんでそんな足速えんだよ……。」

 

息ひとつ乱していない集に対して、颯太はすでにグロッキー状態だった。

 

「 そーうーたあー…? 」

 

ついに足が止まった颯太に集が迫る。

鬼神のような気配を纏って迫る集にさすがの颯太も恐れを成した。

 

「 待て集っ!本気にすんなよ冗談だって!! 」

 

集は颯太を睨みながら迫る。

 

「 全部っ!忘れろー!! 」

 

叫んだ集は颯太に右手を突き出した。

右手はすんなり颯太の体に閃光を発しながら沈み込んだ。

 

「 おぐあああああ!! 」

 

叫んだ後、颯太は気絶した。

 

集は引き抜いた右手に持った物を見つめた。

 

「 出た……けどなんだこれ? 」

 

右手にある物は、ロボットアニメにでも出て来そうなロボットの頭部のようだった。

やたらと派手なハイテク感のある装飾があり、物体の真ん中にはひとつのレンズが嵌めてある。

 

「 これ…もしかしてカメラ……? 」

 

集がその" カメラ "をマジマジと見ていると、横からいのりが歩いて来るのが分かった。

 

「 涯が言ってたのはこれ? 」

 

「違う」

 

集の言葉にいのりは短く答える。

 

「 …まっ、颯太のはずが無いか……、でもなんで颯太のは出せて委員長のは出せなかったんだ? 」

 

「 目…かも。」

 

集の疑問にいのりが呟く。

 

「 目っ?」

 

集は、初めていのりからヴォイドを出した時、" 万華鏡 "を出した時の事を思い返してみる。

 

「ヴォイドを出す時…相手に見られたと思う事が重要だってガイが言ってた。」

 

いのりの言葉には合点がいくものがあった。

 

「なるほど…そういう制約があるのか…、っとなったら早いとこ次行こう! 」

 

ここでダラダラ過ごしていたらどれだけ時間がかかるか分かったもんじゃ無い。

集はそう思い、" カメラ "を颯太の中に戻そうとしたが…。

ふと思い立って颯太のヴォイドでは無い方の普通のカメラからメモリーだけを抜き取って靴で踏み潰し、近くのドブに捨てた。

 普段の彼の行動には大分振り回されていたので、あまり心は痛まなかった。ろくな素材も撮って来ないのに、他人の失敗や恥部にはやたらカメラを回すのだ。

 

 

 

 

目が覚めた颯太は、『私はドコ?、ここはダレ?』というヒネリの無い事を呟きながら去って行った。

 

「 さて…、だいたい要領は分かったかな? 」

 

集は右手をグーパーで調子を確かめ、次行くか と気持ちを切り替えて移動した。

その集の後ろをいのりがトコトコ着いて行く。

 

それから集は何人かのヴォイドを抜いた、" ペンチ "、" ブラシ "、" 虫眼鏡 " 、" ハンガー "など様々な物があったが、いのりはその全てに首を振った。

 

気付けばもう放課後になっていた。

集はいのりと自分の分の缶ジュースを持って、いのりのところに戻るといのりが通信機で誰かと連絡を取っていた。

 

「 涯から? 」

 

戻って来たいのりに集は右手に持った缶ジュースを渡しながら通信機の相手について尋ねた。

 

「 目撃者がカメラで撮影してたって……」

 

「 うへえ…、それ僕を陥れる材料はどうとでもなるって事か…。」

 

集は右腕の脇の下に挟み込んだ缶を器用に取ってふたを開けた。

 

「それが嫌なら急げってガイが……」

 

もし涯の言う事が本当なら、いつネット上でその写真が拡散するか分からない。

まだそうなって無いという事は、目撃者はもし自分達に見つかった時のために取引きの材料にするつもりなのかもしれない。

「 聞き忘れてたけど、どんなヴォイドを探すの? 」

 

集が腰かけるといのりもその横に座り、缶ジュースを開ける。

 

「 " ハサミ "……」

 

「 ……" ハサミ "か…、本当にヴォイドって色々あるな…。」

 

集はふと頭に浮かんできた疑問を、横でジュースを飲むいのりに投げかけた。

 

「ヴォイドって何が形を決めるの?涯は心を形にするって言ってたけど……。」

 

いのりが集の言葉に頷く。

 

「ヴォイドの形や機能は持ち主の恐怖やコンプレックスを反映してるって…」

 

「 なるほど……だから心の形…か……。」

 

例えばあの" 万華鏡 "は持ち主のあの男が何者の善意を弾き飛ばす性格、または逆に彼の善意がどうしても特定の人物に届いていないから…あらゆるものを反射させる" 万華鏡 "なのだろう……、集はそう考えた。

 

 

( あれ…?なんでいのりは" 剣 "なんだ……? )

 

集は疑問を口に出そうと思ったが、やめておいた……。

踏み込んでいい領域なのか分からなかったからだ。

 

「 いたー!桜満集っ!! 」

 

「 っ!委員長まだ諦めてないのか!! 」

 

集は朝から休み時間に入る度に、逃げ回ってるいる花音の姿を見て呻く。

 

「 集こっちだ!」

 

集達がしばらく逃げていると体育館のドアから谷尋が声をかけて来た。

集達は体育館に逃げ込んだ。

 

「 ふうー助かったよ谷尋……」

 

なんとか花音をまくことが出来た集は谷尋に礼をした。

谷尋は気にすんなと笑った。

 

「はあ、なんかこの前からやたら走り回ってるな…。」

 

体育館二階は座席がズラッと並んでいて、集と谷尋は前の席の少し離れたフェンスにもたれかかった。

 

「 " 葬儀社に入ったら "そんなもんじゃすまないだろ。」

 

「はは……。全くだ…ね……。」

 

谷尋があまりにも無造作に…、さりげなく言ったため集は危うく聞き流しそうになった。

 

「委員長も、しばらくすれば頭も冷えるだろからさ…そしたら謝りに行こうぜ。」

 

「 ……でも許してくれるかな?鋏で身体を切られちゃったりして…………。」

 

集は嘘であって欲しい…、見当違いであって欲しいと願った。

しかし頭の冷静な部分が既に確信していた。

 

「 何?映画の話?」

 

「 ……前から思ってたけど谷尋の趣味ってちょっと変わってるよね、別に変だって言ってるんじゃなくて人って中身と外見が結構違うよねって言いたいんだ。」

 

「 ……集…? 」

 

集は一度大きく息を吸い静かに言った。

 

 

「 " シュガー " っ 。」

 

谷尋は何も言わなかったが、纏っている雰囲気が明らかに変わった。

先程までとは比べものにならないほど冷たい目をして、谷尋は集を睨み付ける。

 

「 やっぱり…、あれはお前だったんだな……。」

 

「谷尋…なんでだ、……どうして……ノーマージンなんかに……。」

 

集はぐっと唇を噛んで谷尋に問いかける。

 しかし、谷尋はそんな集を睨み付ける。

 

「うるせえよっ!!お前には関係ないだろ!!お前が俺をシュガーって呼んだ時点でもう全部終わってんだよ! 」

 

しかし谷尋はそれを冷たく突き離し、集を睨みながら近付いてきた。

 

「 お前みたいなのが俺を無害と決め付けるから……、俺はそういう奴で居続けなけりゃならないんだ! 」

 

谷尋が集の胸倉を掴み、後ろの柵に叩き付けた。

 

「俺じゃない誰かを演じ続けなきゃいけないんだよ!! 」

 

集にはその叫びが、誰かに助けを求めている様に聞こえた。

 

「 シュウっ! 」

 

いのりが集の助けに入ろうとするのを集は目で制した。

 

( 大丈夫だから…。)

 

集は口には出さずそういのりに言った。

 

「ーー全部っお前の所為だ!! 」

 

谷尋は叫び、集に右こぶしを振り下ろした。

 

ゴッ と骨を打つ鈍い音が館内に響き渡った。

集は右頬にこぶしを受け、横に倒れた。

 

谷尋はこぶしを振り下ろした体勢から 動かなかった。

集は立ち上がり、右頬を赤く腫らして ゆっくり谷尋を振り返った。

 

「 ……なんだよ怒ったのか? 」

 

谷尋は苦笑いを浮かべた顔で、集に言った。

 

集は怒ってるのか、悲しんでるのか判断が難しい表情で谷尋を見つめていた。

 

「 ……なんだよ、文句あるなら言えよ!! 」

 

表情を変えず何も言わない集に、谷尋は激昂した。

 

「 ……そんなものか…? 」

 

「 はっ? 」

 

「 ……君の怒りは…、悲しみと憎しみは…。」

 

集はやはり表情を変えずに言う…。

 

「 …あんなこぶし一発で満足出来るものなのか?」

 

「…っ!! 」

 

集の挑発とも取れるその言葉に谷尋は歯を食いしばり、再び集の右頬を殴り付けた。

 

再び骨を打つ音が館内で響き渡る…。

 

集の右頬に貼ってあった絆創膏が、二度目の殴打で剥がれ飛ぶ。

 

集は衝撃で横を向いた顔を戻すと、鋭く谷尋の目を見つめた。

 

「 …っ…!! 」

 

谷尋はそれを見てさらに歯を強く食いしばり、左頬にもこぶしを浴びせた。

 

そして集の顔が元の位置に戻るのを待たず再び右頬に殴打、また左手で また右手で と次々にこぶしを集に叩き付けた。

 

館内に雨音の様に、皮と肉 そして骨を打つ音が繰り返し響き渡った。

 

 

 

 

「 …はあ…はあ…はあ…。」

 

どれほど時間がたっただろう…。

館内に逃げ込んだ時はまだ青空が見えていたが、今は限りなく夜に近いほど暗くなっておりほんの一部だけを茜色の光が暗い空を染めていた。

 

息を切らしている谷尋のこぶしは、かなり暗い館内でも分かる程血で赤く染まっており… 、その血は既に集だけの血では無くなっていた。

 

しかし集の顔はさらに惨憺たる状態だった。

 

両頬は大きく膨れ上がり、唇と右のまぶたも腫れ上がりそのせいで右目は半分閉じた様な状態になっていた。

 

集は顔中に青紫色のアザを作ったり流血したりしていて、制服の白いシャツと左手を吊った布は赤い斑点模様で染まっていた。

 

「 ……っ満足かよ…あっ?そうやって自分だけが傷付いた面しやがって、明日には全部終わったみたいな面ができれば……それで満足かこの偽善者っ!! 」

 

谷尋は叫ぶと再び集の顔を殴った。

 

「 ……うっ! 」

 

谷尋が手を押さえて呻く…、谷尋のこぶしは既に谷尋自身も傷付けるようになっていた。

 

 

「 お前はいつもそうだ…、そうやっていらねえ事に首を突っ込んで……ボロボロになって、解決したって面しやがる…。」

 

しかしそれでも谷尋は心の底に封じ込めていた感情をぶつける事をやめようとはしない。

 

「ーー余計なお世話なんだよ!いつもいつも!! 」

 

谷尋はもうほとんど力が入らず、まともに立っていれて無かった。

 

「 ・・・・・・・・。」

 

それまで何度殴られても微動だにしなかった集が谷尋に歩み寄った。

 

「 ……谷尋…っ、もう休め…。」

 

集は谷尋に穏やかな声でそう言うと、右手を谷尋に突き出した。

「 うっ…がああ!? 」

 

集の右手が光を発しながら谷尋の身体に潜りこむと、谷尋は声を出した。

 

集が谷尋から右手を引き抜くと、集の右手には谷尋のヴォイドが握られていた。

 

 

いのりはそれを" ハサミ " と呼んでいた…、しかし今集の手にある物は、ハサミと呼ぶにはあまりにも巨大で歪だった。

 

巨大な両刃は上向きに曲がり、赤い模様が入っている。

 

まるで処刑用の道具として作られたみたいだ…と、そんな考えが浮かびそうになり、集は慌てて首を左右に振った。

 

「 …いのりっ、なにしてるの?」

 

集は振り返らず後ろのいのりに声をかけた…。

 

「 彼が目撃者で確定よ…」

 

無表情に言う彼女の手にある拳銃は、既に谷尋に向けられていた。

 

「…谷尋を撃つの?」

 

「…そう、目撃者は消すようガイに言われた…」

 

「…ダメだ、それは君でも許さない」

 

集はいのりの目の前に歩み寄り、発砲を防ぐ。

 

「 シュウどいて…」

 

いのりは銃口の目と鼻の先に立つ集に言った。

集は動こうとせず、ボロボロの顔でいのりの目を真っ直ぐ見つめた。

 

「…どうして庇うの?そんなにされたのに……」

 

いのりの顔が疑問で歪む。

 学校に来て初めて大きく表情が動いた。

 

「 いのり…僕の顔だけじゃなくて、谷尋の手も見て…」

 

 「?」

 

集に言われた通り、いのりは谷尋の手に目を向けた。

 

集の顔程ではないが、腫れ上がり皮が破けめくれ上がり、そこから血が溢れ出し、集の血と共に谷尋の手を真っ赤に染めていた。

 

「 谷尋は自分の手がこんなになるまで僕を殴ったんだ……、それだけ彼は苦しんでたんだ、薬に手を出した理由だってきっと軽いものじゃないと思う……。」

 

集はいのりを、すがる様な視線で見つめ言った。

 

「 だからお願いだいのりっ!僕は谷尋の事を何も知らずに…こんなところで終わらせたくない!! 」

 

いのりは銃口を下ろした。

 

「 …分かった、シュウがそこまで言うなら…。」

 

 

 

 

 

「傷…見せて」

 

そう言って救急箱を持って来たいのりに、集は激しいデジャヴを感じた。

 

谷尋にヴォイドを戻した集は、彼が目覚めるまで座席に座らせ、自分も通路を挟んで横に座っていた。

 

その横にいのりが座り、集の顔を治療し始めた。

 

すぐ近くまでいのりの顔が近付き、照れ臭くなった集は目を背けた。

 

「…シュウ…、シュウはヤヒロの事を知りたい……? 」

 

いのりに尋ねられ、集はしばらく考えた後……。

 

「……いのり…、手を動かしながらいいから聞いて欲しいんだ。」

 

いのりが頷くと、集は ありがとう と一言お礼を言って話始めた。

 

「 僕ね…十年くらい前から、五年くらいの間まで外国に留学してたんだ」

 

もちろん真実は留学などという生易しいものではないが、書類上そうなっているので、集もそれにならう。

 

「 そこでね…一人の友達がいたんだよ……、名前はルキナ……。」

 

「 ルキナ=アンダーソン…。それが友達だった子の名前だよ。」

 

集が " 彼 " に拾われてから、ほんの短期間だけ教会で数人の子供達と共に暮らしてた事があった。

しかしその生活は集にとって安寧とは程遠いものだった。

 

「…でも十年前は、ロストクリスマスがあったでしょ? 」

 

「だから、東洋人…特に日本人に近付くとアポカリプスウイルスに感染するなんて言われて、僕と遊んでくれる子なんかいなかったんだよ」

 

教会のどこに行っても石を投げられ、罵声を浴びせられ、自分の居場所なんて集にはどこにも無かった。

 

「 だけど…、ルキナがいてくれたから僕の毎日を楽しいものになったんだ。」

 

自分と同じ孤独な少年…死刑囚の父親を持ち、母が死んでから集と同じ教会へ引き取られた。

しかし犯罪者の親がいることから少年は、周りの子供達から強く弾圧された。

 

彼にとっても集は唯一孤独を忘れさせてくれる存在だった。

 

「 ……けど僕は彼の中の心の闇に気が付け無かった。」

 

彼の中には、魔が潜み彼もそれに魅了されて行った。

 

そして…その末路はーー、

 

「彼はやってはいけない事をして…その結果…、様々なものを失った……自分の命さえも…。」

 

ルキナは多くの儀式を使い、" 魔 " を召喚した。

彼がまだ幼い事もあって呼び出せたのは、塵芥に等しい小さな存在だった。

 

しかしそれは少年の中に巣食い、少しづつ大きくなっていった。

 

最終的に、それは少年の身体ほぼ全て喰らい尽くし…、残ったのは幼い集の手の平に収まる程の身体の一部だった。

 

ルキナの葬式で…集は " 彼 " に戦い方を教わるため、五年間共に" 便利屋 "として生活する事になった。

 

 

「 僕は…、きっとルキナの時の事を今回の谷尋の件と重ねてるんだと思う……。」

 

「 ……シュウ…口開けて…。」

 

「…へっ?……あん…。」

 

話終わった集にいのりから唐突なお願いがあり、集は一瞬戸惑ったが、いのりの指示通りにした。

 

次の瞬間いのりが突然、集の開いた口に指を突っ込んだ。

 

「 っ!?ほぼお!!」

 

いのりの指が集の口内の傷口をヒンヤリしたなにかで一通り撫で回した後に指を抜いた。

 

「 傷の治療…全部済んだ…。」

 

集が咳き込む後ろでいのりが淡々と告げる。

 

その言葉に集はようやくいのりが口内の傷に薬を塗ってくれたのだと気が付いた。

いのりの大胆過ぎる行動に集の心臓はドキドキ脈打った。

 

「あっ…ありがとう…、あと話聞いてくれてありがとう。ちょっと楽になったよ。」

 

集の言葉にいのりは いい と首を振った。

 

「 あっビデオ制作の事忘れてた…。」

 

集はシュガーを探す合間にするつもりであった作業の事を思い出した。

 

「 ビデオ…?映像作りたいの…? 」

 

「 うん、ああもう外真っ暗だ…。」

 

集が外を見るともうほぼ夜だった。

 

「…私…手伝うよ…? 」

 

「 …えっ?」

 

いのりの言葉に集がいのりを見る。

 

「 …それって…、被写体に…カメラの前に立ってくれるって事…? 」

 

集の言葉にいのりは頷く。

 

「 それは嬉しいけど…いいの? 」

 

集の問いにいのりは首を傾げる。

 

「シュウなら…いいよ…? 」

 

集は今が暗い時間である事に感謝する程、自分の顔が赤くなっていることが分かった。

 

「 …そっか…、じゃあお願いしようかな…?……はは…いっ!? 」

 

集がそう言い照れ隠しに、うっかり腫れた頬を掻いてしまい思わず呻いた。

 

それを見ていのりが クスッと小さくふきだした。

集もつられて笑ってしまった。

 

暗い館内で小さな笑い声が二人分、ほんの数秒だけ響いた。

 

 

 

それから、集は谷尋の手も治療して欲しいといのりに頼み、いのりは少しイヤそうにしながらもそのお願いを聞いてくれた。

 

治療が終わってからしばらくして谷尋が目を覚ました。

 

「 起きた…?」

 

集は体育館に逃げ込んだ時より大きく、大量になった顔の絆創膏や湿布に敷き詰められた顔で谷尋に声をかけた。

 

「 集っ…お前……。」

 

谷尋が包帯を巻いてある、両手に気が付いた。

 

「 いのりがやってくれたよ…」

 

「 集っ、俺は……」

 

谷尋はなにか言葉を出そうと必死に探した。

 

「…谷尋っ…!」

 

その前に集が谷尋に声をかけた。

 

「 ……僕は…なにも言わないよ…。この先どうするかは谷尋が選択する事だ…」

 

谷尋はしばらく集の顔を見て、ふと微笑んだ。

 

「ーー集っ」

 

谷尋は集に声をかけると、なにかを集に投げた。

集がそれを受け取ると…、それはカメラのメモリーだった。

 

「お前と葬儀社を撮影したメモリーだ…」

 

谷尋はそう言うと微笑んだ。

 

「…ありがとな、集…。」

 

 

こうして集と谷尋はお互いの事を話さない事を誓い合い。

さらに二人だけ(いのりも可)の時はお互いの本音を出し合う事を約束した。

 

集はお互いの関係が一皮剥けた気がした…。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

『いのりんからの報告っ。目撃者の件は解決 今後は手出し無用…だって』

 

『いいの?』

 

ツグミがモニター越しで涯に報告する。

涯はその報告を聞き笑みを浮かべた。

 

「ーー好きにさせてやるさ」

 

涯はツグミにそう答えた。

ツグミは アイアイ と短く答え、通信を切った。

 

涯はしばらく笑みを浮かべたままだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

「うーん」

 

「 私…いけなかった?」

 

「あっ…ゴメン!いのりが悪いわけじゃないんだ。」

 

集といのりは撮影のためにマンションの屋上に上がっていた。

 

「 星が見えたら…、イメージピッタリなのになって思って。」

 

屋上からは東京の風景を一望でき、元お台場の二十四区の中に骨組みのピラミッドの真ん中に巨大な塔がそびえ立つように貫いた一際目立つ建造物が見える。ボーンクリスマスツリーと呼ばれる、GHQの本部だ。

 

街は地上に星があるかの様に輝いているが、そのせいで空の本当の星が見えなくなっている。

集にはそれが不満なのだ…。

 

「 でも…きれい…。」

 

「……そうかもね…。そういえばいのり聞いていい? 」

 

撮影を続けながら集はいのりに話しかける。

 

「なにっ? 」

 

「いのりは、なんで歌を始めたの?」

 

「ガイが…歌えって…」

 

「……へえー…」

 

「でも…、歌は好き…楽譜の時は記号でも音になると心が見えるから…」

 

いのりは両手を胸に当て歌うように言った。

 

「色んな人のたくさんの気持ちが集まってくるみたいで…」

 

(その時だけは……私も他の人と同じ…? )

 

「シュウは人の気持ちが分かる? 」

 

「分かるわけじゃないよ、なんとなく察する事は出来るけど…」

 

集は頭を掻きながら答える。

 

「今の私…どう見える…? 」

 

集はカメラ越しと肉眼でいのりを観察してみる。

 

 

「 楽しそう……かなっ? 」

 

少し考えてから集は答える。

 

 

 

「うん……」

 

いのりは集の好きな柔らかな笑顔を浮かべた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

リビングのソファの上で眠っている集の絆創膏と湿布だらけの顔をいのりはなにをするでもなく見つめていた。

 

いのりの視線は自分の右手に移った。

 

それは集と初めて出会った時、ガラス片を握って切った手だ。

先程集が治療のお返しと言い、巻き替えた包帯がある。

それを見ていのりは自然に口の端を軽く持ち上げ、笑みを作った。

 

っと いのりの端末から呼び出し音が鳴り響いた。

いのりが端末に出る。

『 あいつはどうだ、何か" 変わった "はないか? 』

 

涯は挨拶も無く本題を切り出した。

 

「ーーシュウは面白い…。」

 

涯は少し目を細めたがそれ以上表情に変化を見せなかった。

 

「……それに…、一緒にいるとあったかい気持ちになる……」

 

涯はやはり黙ったままだ…。

 

「 ねえガイ…これってなに? 」

 

『 ……さあな…』

 

涯は答える気が無い様な声をだす。

 

『そうだ…、集にこう言え』

 

そして涯がその言葉を言う。

 

いのりは一瞬涯がなにを言っているのか分からなかった。

涯はそんないのりに構わず話を続ける。

 

『 あいつもやる気を出すだろう…、面倒だが王の力が在ると無いとでは…ーー』

 

 「ーー違う…」

 

いのりが涯の話に割って入る。

 

「 ……シュウは自分の世界が壊されそうになった時、初めて本気を出すの…」

 

涯は口を閉じ、いのりの言葉を黙って聞いた。

「……こんな言葉じゃ彼の心はーー」

 

『 …種は蒔いた方がいい…。頼んだぞいのり…。』

 

涯はそう言い残すと通信を切った。

 

室内は再び静寂に包まれた。

 

いのりは集のボロボロの身体に眼をやり、自分の新しい包帯が巻かれた右手にも眼を向けた。

 

 

「 ねえシュウ…あなたは私の事どう思う? 」

 

「 私の事…ちゃんと人間に見える…? 」

 

いのりは自分の中にある…あの剣を思い浮かべた。

 

いのりの疑問に答えを出すものは無く、部屋の中は相変わらず静寂に包まれていた。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

左腕の痛みもかなり引いて来た気がする。

まだ吊っているし、あまり激しく動かすと痛みがはしるので、まだ全快には程遠いがそれでも一日二日でここまで回復出来るのならば包帯が取れるのも遠い未来では無い気がした。

 

「 ……ねえ…、シュウ…。」

 

モノレールに揺られている集の、横に立ついのりが声をかけてきた。

集がいのりに眼を向ける。

 

「 ずっと側にいていい? 」

 

「 えっどうしたの急に…? 」

 

「 …知りたいのシュウのこと……、みんなのこと……。…だから……。」

 

「 ・・・・・。」

 

いのりの言葉は正直言って集にはかなり嬉しかった、今のところ集といのりを繋ぐものは葬儀社しか無い…、それを抜きにいのりとこれからも一緒にいられるのは集にとって歓迎すべき事だ…。

だがいつも通りに見えるいのりに集はなぜか違和感を感じた。

 

なんとなく悲しそうに見えたのだ…。

 

「 ……ねえ…いのり……。」

 

集が声をかけても、いのりはこちらを見ようとしない…。

やはり何か様子がおかしい…、今までも確かにいのりは反応が薄い少女だったが、それでもこちらの目を見ることくらいはしようとした…。

 

集は話しを続けた。

 

「 ……なんで、そんなに悲しそうなの? 」

 

いのりが集を驚いた目で見つめる。

「 いや、勘違いならいいんだけど。…なんか今のいのり…言わされてる感じがしたからさ………」

 

集はいのりの目を真っ直ぐ見つめて言った。

 

「 もし僕の勘が正しいなら、聞きたいな……いのりがどう思ってるか、僕はいのりとは色々な事を抜きにして、一緒にいたい。これは紛れもない僕の本心だよ……。」

 

「 ………シュウ……、…私は…ーー。」

 

いのりが答えを口に出そうとした時…、モノレールの車両が突然急ブレーキをかけた。

 

集もいのりも前につんのめりそうになった。

 

集が車両の外を見ると…。

 

「 っ!GHQ!?」

 

外ではGHQの兵士が横一列に並んでいた。

 

ドアが開いて集は後ろから人の近づく気配を感じた。

VIPでも降りるのか? そう思った集が道を開けようとした瞬間、何者かが集の背中を突き飛ばした。

 

「 ……えっ!? 」

 

集は完全に不意打ちだったのと、左腕を吊っていたせいでバランスが取りづらかった事など様々な事が原因で車両の外に出てしまった。

 

集が自分を突き飛ばした相手がいるであろう方へ、顔を向けると………、

 

谷尋が立っていた…。

 

谷尋が自分を突き飛ばしたのだ。

 

「 悪いな。」

 

谷尋がそう言うのと同時に車両のドアが閉まり、発車した。

 

車両のドアの窓にいのりが心配そうにこちらを見ていた。

 

「 ……えっ…? 」

 

集は走り出したモノレールを呆然と見たまま状況が掴めずにいると…。

 

「 桜満 集くん。」

 

後ろから声を掛けられ集がそちらを見ると、紫色の髪に前髪を真ん中で分け、額と左眼に血のような模様があり、左眼の瞳が歯車のようになった奇抜な男が携帯を片手に軽やかな足取りで近付いてきた。

 

「 あなたを逮捕します。」

 

集のすぐ目の前に迫った男は、集にそう告げた。

 

 

( …………そんな、…谷尋これが君の選択なのか……? )

 

 

集の右手に冷たく、重い金属の輪が嵌められても集にはそれが目に入らなかった。

 

 

 

 




まさか一万文字いくとは思わなんだ。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。