ISS 聖空の固有結界   作:HYUGA

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 『どこから始めようか?』






第三話『 Where shall I begin? 』

 □Where shall I begin?

 

 

 ママがいなくなって、ボクは一人ぼっちになった。

 

 

 それはもう、遠い遠い昔の記憶。だから、ボクは大好きだったママの顔もおぼろげにしか覚えていない。寂しくなかったといえばもちろんウソになる。

 いや、違う。ボクは寂しかったんだ。今となってはそう、確信持って言える。

 ボクは、1人になるのが怖かった。

 誰もボクに興味を持ってくれない。そんな世界が怖かった。

 だからボクは、父のもとにいったんだ。ボクを見てくれる人間の元に―――。

 けど、その気持ちも次第に消えて行った。

 

 父は、ボクをさらに孤独な存在にした。ヒトとしてのボクを、父が殺したんだ。

 

 そこには、ボクの望んだ温かいものなんてなかった。家の人間も、会社の人間も、街中ですれ違うヒトも、みんなみんな、ボクを人間として見てくれなかった。

 ボクを化け物として見ていたんだ。ボクをそうしたのはあの男。

 

 だからボクは、あの男の人形でしかないんだ。

 

 

 

 

 

 

          *

 

 

 

 

 

 

 そんなどん底だった日々の中、ボクは彼の存在を知った。

 きっかけはもう何だったか覚えていない。

 けど、彼の存在を知ったとき、ボクは心の底から喜んだ。一人ぼっちだと思っていた。ずっとずっと一人だと思っていた。

 けど、ボクと同じ存在。ボクと同じ化け物がこの世にいる。

 その事実を知って、ボクは少しだけ救われたような気がした。

 そして同時に、彼に会いたいと思った。ボクと同じ、孤独な存在である彼に―――。

 

 けど、その思いは粉々に崩れ去った。

 彼は決して、孤独な存在じゃなかったからだ。

 

 彼には家族がいた。誰より強く、誰より誇らしい自慢の姉が。

 彼には幼馴染がいた。彼を受け入れ。彼の存在を否定しない優しい女の子が。

 彼には友達がいた。彼を認め、いつでも味方になってくれる頼もしき男の子達が。

 彼は、ボクとはまったく違う存在だったのだ。

 憎い。憎い憎い憎い憎い憎いにくいにくいにくいにくいニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイ―――。

 その事実を知った瞬間、ボクの感情は爆発した。だからボクは―――。

 

 ボクは憎い。この世界が。

 ボクは憎い。ボク自身が。

 ボクは憎い。この現実を。ボクの理想を。夢にまで見た幻想を。そのすべてを持っている…あの男が。

 ボクと同じ人形のくせに…。ボクと同じ汚れたヤツのくせに…。

 ボクが欲しいものを全部持っているあの男が。

 

 ボクは、憎い。憎くて憎くて…仕方ないのだ。それこそ、殺してしまいたいくらいに―――。

 

 

 

 「…織斑一夏。」

 

 

 

 彼の名前は織斑一夏。

 世界で最も、ボクに近く…。そして、世界で最も、ボクに遠い存在―――。

 

 

 

 

 

 

          *

 

 

 

 

 

 

 賑やかな繁華街から少し離れた下町。

 鈴によって繁華街のど真ん中に置きざりにされた数馬。それに所用でどこかに電話をするらしいシャルロットを覗いた一夏、鈴、弾の三人は、その一角にある小さな店の前にいた。

 そこはどこか趣があり、懐かしい匂いもする老店舗。

 けど、この店によく訪れる一夏にとって、ここは第二の家とも呼べる、一夏が本当の意味で気の許せる数少ない場所の一つだった。

 

 鈴がおもむろに店の扉を開ける。

 お世辞にも褒められる行動ではないが、ここなら何の問題もない。

 なぜなら、ここは彼女の両親が経営する中華店の店舗なのだから。

 

 

 

 「は~い。いらっしゃいませ~…ってあら? 鈴音じゃない? おかえりなさい」

 「うん。ただいま、ママ!」

 

 

 

 活発な彼女らしい元気な言葉。

 すると、近所でも評判の美人である鈴のお母さんの穏やかな声が迎えてくれる。鈴はそんな彼女の胸元に人目もはばからず思いっきり飛び込んだ。

 

 

 

 「わっ。もうこの娘(こ)ったら…、いい加減子供じゃないんだから家に帰ってきた途端に私に抱き着くのはやめなさい?」

 「はーい。次からは気を付けま~す」

 

 

 

 そうは言いつつも、鈴は母親の胸の中から離れる気はないらしく、幸せそうに抱き着いている。

 彼女の家族の仲の良さがうかがえる微笑ましい日常のワンシーンだ。

 そんな親子の温かい風景を目の当たりにしながら、一夏達も鈴同様に店の敷居をまたいだ。時刻は一時台の半ば。お昼のピーク時をわざとはずし来たのはどうやら正解だったようだ。

 

 

 

 「…。こんにちは、おばさん。その…お邪魔します」

 「こんちは~おばさん!!おっじゃまっしま~す!!」

 「あらまぁ、一夏君、それに弾君も。いらっしゃい。もう、最近来てなかったからずっと心配してたのよ~。いつもは週一でご飯食べに来てくれてたから~」

 「…。あ、いえ、その…。今、千冬姉が帰ってきてて、それで―――」

 「まぁ!!千冬ちゃんも帰ってきてるの!!今は確か…ドイツだったかしら?もう、水臭いんだから!今度、姉弟でうちに来なさいよ。うちの人が命一杯ご馳走してあげるから!!」

 「…。え…、じゃ、じゃあ…今度」

 「うんうん。楽しみに待ってるからね~」

 

 

 

 正直に言うと、一夏はおばさんのことがちょっと苦手だったりする。

 もちろん、好い人だってことは分かっている。

 こんな風に話してくれるおばさんに一夏は感謝すらしているのだ。それでも、一夏にはこの人の高いテンションが苦手だった。

 さすがはあの鈴の母親である。この親あっての鈴だった。

 

 

 

 「おう!おうおう!なんだなんだ、誰かと思ったら織斑の坊主と、弾坊じゃねーか。どした?娘はやらんぞ?」

 

 

 

 そんな冗談紛いのことを言いながら奥の厨房から現れたのは鈴の父親だった。

 元は真っ白だったと思われる真っ黒に汚れた衣装を身に着け、まるで子供みたいにニッと笑顔を浮かべるそれは、どことなく鈴の笑顔のそれに似ている気もする。

 一夏は、そんな人の良さそうなおじさんの笑顔眺めながら、もう何度目になるか分からないため息を落とした。

 一夏がここに来はじめて早二年、いつの頃からか、彼と一夏の挨拶はこの形で定着してしまっていた。

 

 

 

 「…。こんにちは、おじさん。あと、そのセリフ完全に俺専用の挨拶になってますよね?」

 「かはははっ!!気にすんな!どうせ迷惑ってわけでもないだろ!!」

 

 

 

 そう豪快に笑う鈴の父親の姿に、一夏は鈴のどこか男らしい様を見た気がした。

 が、それでも一夏にはどうしても言いたいことがあった。

 

 

 

 「…。いえ、迷惑です。ものすごく迷惑です」

 「なにぃ!?おい坊主!!まさかうちの鈴音が嫁なんて迷惑って言うんじゃないよなぁ?あ゛ぁ!?」

 「…。いや、おじさん。そう言う意味じゃありませんって…。」

 

 

 

 そして一夏は1つため息を吐き出し、目線を後ろへと移した。

 

 

 

 「なっ…なっ…何言ってんのよパパ!だ、だいたい誰が一夏になって嫁入りするもんですか!こんな甲斐性なしの朴念仁なんてこっちから願い下げなんだからね!バーカ!バーカ!鈍感!」

 「あらあら。一夏君、うちの子を貰ってくれるの?乱暴で女の子っぽくない子だけど、これから末永くお願いね~」

 「もう!ママまで何言ってんのよ!?」

 「この野郎…一夏。てめー…親公認とかふざけんなよ。何だかんだ言いながらも鈴も乗り気みたいな流れになってるし…マジ爆ぜろ!」

 「はぁ!?ちょっと弾!!あんたもあんたで何言ってんのよ!?ちょっと表に出なさい!!この$#”+‘?_#M+*$(*」

 「…。ね?こうなるんですから…」

 

 

 

 それはもう、ホントに見るに堪えない罵詈雑言の嵐だった。

 この様子に、一夏は疲れたように息を吐き、鈴の父親は盛大に大笑いする。この人は本当に困ったものだ。一夏はカウンター席に腰掛けながらそう思った。

 なぜなら、鈴の父親たる彼は、どうしようもないくらいの“喰えないタヌキ”なのだから。

 

 

 

 「…。はぁ…おじさん。こうなること分かってて、鈴のこと煽ってますよね?」

 「ははは!!おじさんは、楽しければそれでいい人間だからな!!いや~毎回毎回楽しませてもらってるよ!!照れる娘がまさかこんなに可愛いなんておじさん、一夏君に会うまで思いもしなかったよ!!」

 「…。くっ、このタヌキ親父が」

 

 

 

 これでもか、というほどの清々しい笑みに、一夏は思わず呟く。

 その射抜かんばかりの視線を、鈴の父親たる彼は涼しげな顔で受け流していた。

 

 実は一夏は、彼に一度も勝てたためしがない。一夏の言葉の通り、ここ最近では一夏に対する鈴の父親である彼の挨拶は固定化されつつある。

 つまり、一夏が店に来るたびに、この抗争は起こっているのだ。

 これに関しては単に鈴のせいとも言えよう。もう何度目になるかも分からないこのやり取りに、未だに顔を真っ赤にする鈴。純情にもほどがあった。

 だから、このタヌキ親父につけこまれるのだ。一夏は少しだけ唇を噛む。

 その様子に、鈴の父親は一夏の心を見透かしたように、盛大に笑いだした。

 

 

 

 「だっはははは!!相手の悪い所を受け入れてこそ、男としてのワンランクアップに繋がるんだぜ?そうでもないと、結婚生活なんてやってられないからな~」

 「…。少なくとも、俺はあなたと結婚する気はありません。鳥肌が立ちます。やめてください」

 「あぁ。もちろん。おじさんおそんなの絶対にやだね!!だからね一夏君。ぜひ、うちの娘を貰って―――」

 「…。却下です(即答)」

 「なにぃ!?おい坊主!!まさかうちの鈴音が嫁なんて迷惑って言うんじゃないよなぁ?あ゛ぁ!?」

 「…。おじさん。それってさっきと言ってることまったく同じですよね…?」

 「はははは!!一夏君。無限ループって、怖くね?」

 「…。そうですね。怖いですね。だからやめてください」

 「よし一夏君!!嫁の尻に敷かれる気持ちを一緒に分かち合おうではないか!!

  お~い!!りんい~ん!!一夏君がお前をな―――」

 「…。すみません。マジでごめんなさい!!」

 

 

 

 そして結局、一夏は今日も白旗を上げるのだった。

 少しだけ、ほんの少しだけ悔しそうに拳を握りしめる一夏。その様はどこか人間らしさを感じさせる。鈴の父親である彼は、そんな一夏の様子をどこか優しげに見ていた。

 彼は変わった。娘に連れられ、初めて店に来た当時に比べ、彼は少しずつ、少しずつだが、確かに変われてきていた。それは、鈴の父親である彼には、とても嬉しい事だった。

 

 なぜなら彼は、織斑一夏は。彼の娘たる凰鈴音が初めて好きになった男の子なのだから。

 

 だから鈴の父親たるこの男は嬉しいのだ。

 

 

 

 「…。おじさん。バーボンをロックで」

 「はいはい。餃子定食ね」

 

 

 

 少なくとも彼が、こんな冗談を言い合えるまでになったのだから―――。

 

 

 

 

 

          *

 

 

 

 

 

 

 幾年もの間、苦しみ続けた。

 幾年もの間、彼女は地獄の中にいた。

 デュノアという名の鳥籠の中で、父親と言う名の飼い主に飼われて。 

 

 それは決して他人に理解などできない苦しみだった。

 人間ではない。化け物としての苦しみ。

 だから、この苦しみを理解できる人間などいない。その、はずだった…。

 

 そう、ただ一人。同じ苦しみを味わったことのある彼―――織斑一夏―――を除いては。

 

 

 

 「はい…はい…そうです。計画は順調に行っています…」

 

 

 

 人通りの少ない道の脇。彼女、シャルロット・オルヴォワールこと、シャルロット・デュノアはそこで電話の向こうから聞こえてくる無機質な声にあいづちをうつ。

 日本に来てもう何度も聞いたその声は、いつ聞いても冷たい印象しか覚えない。

 その理由は聞かなくとも分かる。電話向こうの男もまた、彼女のことをただの道具、人形としか思ってないからだ。

 

 あるいは、自分たちとは違う、“化け物”としか―――。

 

 別段、そのことについては構わない。彼女にはもう、慣れたことだった。

 だから、彼女が今許せないのはたった一つだけだ。

 そう、たった一人。織斑一夏だけだった。

 

 その光景は、あまりにも彼女の日常とかけ離れたものだった。友達に囲まれ、家族に囲まれ、幸福な時を過ごしている彼の姿は、彼女にはあまりにカルチャーショックな映像だった。

 自分と同じ存在のくせに。自分と同じ化け物のくせに。

 

 “普通の人間”のようにのうのうと生きている彼の姿は。

 

 

 

 「それでは予定通り…お願いします」

 

 

 

 だからこそ、彼女はその“幸せ”を壊そうと思った。

 壊して、潰して、二度と立ち上がれないまでに叩き潰し、自分と同じところまで堕とそうと思った。

 だって彼は―――織斑一夏―――は、自分と―――シャルロット・デュノア―――と同じ存在。

 

 人の住むこの地に絶対にいてはいけない。“化け物”なのだから―――。

 

 

 

 「…じゃあ、一時間後。よろしくおねがいします」

 

 

 

 そして、シャルロットは通話を切った。

 その瞬間、彼女の中に激しい虚無感が襲ってくる。

 それは罪悪感なんて生易しいものではない。そんな、人間らしい感情などでは、決してなかった。

 この感情は何か?答えなど、言わなくても分かっている。シャルロットは自分自身でよく分かっていた。この感情は、何の意味ももたない。

 

 ただの心の叫びだということを。

 

 

 

 「…狂ってる。ボクも…この、世界も…」

 

 

 

 虚しさだけが、心の中に残っていた。

 こんな事したって、何の意味もない。そんなこと、誰でもない彼女が一番分かっている。

 分かっている。分かってはいる…が、その現実に感情は追いつくことはなかった。

 

 そこまで分かっているからこそ、彼女はもう、絶対に後戻りできなかった。

 

 

 

 

 

 

         *

 

 

 

 

 

 

 「は~い。いらっしゃいませ~。お席はどこにしますか~?」

 

 

 

 聞いた道順の通りに進むと、なんとか迷うことなく聞いた店の名前の店舗にたどり着けた。

 そのちょっと立てつけの悪そうなドアを開けると「あぁ、この人があの娘の母親なんだなぁ」って思える女性が、すごく優しい笑顔で迎えてくれる。

 ボクは一瞬、その人の笑顔が、いつの日かの“ママ”の面影と重ねてしまってドキリとしてしまう。自分でもなんてバカなんだろうと思ってしまう。

 けど、無意識の感情はどうしても無視できなかった。

 そんなボクを現実に戻したのは、ほかならぬ、彼女の娘の言葉だった。

 

 

 

 「あ!ママ!その子、あたしの友達なの!」

 「あら?そうなの?いらっしゃい。何もない所だけどゆっくりしていってね~」

 

 

 

 娘の言葉に、そう返す彼女の顔はどうしようもなく、母親の顔だった。

 ボクじゃなく、彼女―――凰鈴音―――の母親としての顔。

 

 (なにを、期待してるんだか…)

 

 ボクは思わず湧いてしまったボク自身の感情を軽蔑した。

 だって、そんなことは絶対に有り得ないんだから。

 

 

 

 「んあ?お!オルヴォワールさん!こっち!こっち!

  ちょっと小汚い店だけどここの中華は最高なんだぜ!おすすめはチャーハンかな」

 「ちょっと弾!小汚いのは認めるけどあんたが言うな!

  だいたいあんたんちも似たり寄ったりでしょ!?」

 「え!?い、いや…まぁ…う、うちは…ほら、蘭という看板娘がいるし…」

 「ここにはあ・た・し・がいるでしょう!?」

 「ふふ。鈴音。そういうことはまともに店の手伝いをしてから言いなさ~い」

 「ま、ママ!?」

 「あら?事実でしょ?」

 「え…だ、だって…私、まだ中学生だし…」

 「蘭ちゃんは小学生でしょ?」

 「そ、それは…えっと…。……うぅ~…いちか~…」

 

 

 

 ボクにとって、その光景は絶望的なまでに眩しいものだった。

 

 かつて、ボクが失ったモノ―――。

 ずっと、ボクが持ってなかったモノ―――。

 そして、父がボクから奪っていったモノ―――。

 

 そのすべてが。ぼくの憧れが。そこには全部揃っていたのだから。

 ずっとずっと夢に見た理想。

 ボクが欲しくて、欲しくて、渇望し続けた幻想。

 それが今、ボクの手がすぐ届くそこに、太陽や月の様ににキラキラと広がっていた。

 

 空の上の星の様に、見えるのに決して届かない現実(リアル)として、そこに広がっていたんだ。

 

 

 

 「…。鈴。食事中にしゃべるなとは言わないが、泣きついてくるのはアウトだ。危うく餃子落としかけたじゃないか…」

 「うぅ~…だって~…いちか~…」

 「…。それに、お店の手伝いをしないお前にも十分非はある。だから、俺はお前の味方は出来ない。すまないな」

 「え…そ、そんな~…いちか~…ぐすん。

  そっか。ぐすん…そうなんだ。一夏もあたしのこと…見捨てるんだ…。これまで何度も助けてあげたのに…。友達を作ってあげようとあんなに必死で頑張ったのに…。

  結局、友達が出来た瞬間、あたしはポイ…。

  あぁ!一夏にとって、あたしは結局、都合のいい女だったってことね!」

 「…。やめろ!冗談にしては性質(たち)が悪すぎだ!

  それにこんなこと言ったら―――」

 「おうおう一夏君やい。

  うちの娘が都合のいい女ってどういうことだい?あ゛ぁ?

  ちょっくら店の裏で話そうか?」

 「…。ほら見ろこうなった」

 「あははは!さっきの仕返しよ!バカ一夏!」

 

 

 

 そう言って、ベーっと可愛らしく舌を出す凰鈴音の姿は、お世辞抜きにも可愛らしかった。次いで、彼女の父親らしき男も豪快に吹き出し笑い出す。

 五反田弾は、からかわれた織斑一夏の頬を指でつつきながら追い打ちをかけ、そのまた後ろでは、凰鈴音の母親が静かに笑っていた。

 

 

 

 「…。たく、鈴はいつまでたってもお子様なんだから?」

 「あれ一夏?今の言葉、もう一回聞いていい?

  だ~れ~が~お子様貧乳ペチャパイ体系ですってぇ?」

 「…。言ってない。俺はそんな事言ってないっ!」

 「問答無用よ!ふかー!」

 「っ…!こらっ、鈴!噛むな!」

 

 

 

 まるで猫みたいだった。

 凰鈴音の口が、織斑一夏の腕を捕らえる。が、それは、決して喧嘩ではなく、第三者から見たらただじゃれ合っているようにしか見えない。

 二人の仲の良さがひしひしと伝わってきた。

 しだいに鳳鈴音は笑顔になっていく。織斑一夏も表情こそはピクリとも動かないが、少し穏やかな雰囲気を感じた。楽しそうに笑う。表情はまったく変わらない。けど、彼は雰囲気で笑っていた。

 

 世界で最もボクに近く。世界で最もボクに遠い存在である彼―――織斑一夏―――は。

 無表情とはいえ、楽しそうに笑う人たちの真ん中に確かにいたのだ。放っておくと、何をするか分かったものじゃない鎖から逃げ出した怪物が、のうのうとそこで生きていたのだ―――。

 

 まるで、【人間】みたいに。

 

 

 

 「…すみません。みなさん。少し、いいですか?」

 

 

 

 ボクは許せなかった。

 だから、壊そうと思った。ボクと同じ怪物である彼の幸せを、ボクは否定する。

 

 

 

 「ん?シャル?どうしたの、改まって?」

 「いえ、鈴さん。楽しげなとこ申し訳ないのですが…少しだけお時間をいただけないでしょうか?」

 「え?あたしと?」

 「いえ、残念ながら…。私は少しだけ、彼とお話ししたいんです」

 

 

 

 だって、どんなに優しい怪物だって、怪物は怪物。

 

 

 

 「少しだけ、お時間いいですか?一夏さん?」

 「…。……あぁ、いいぜ」

 

 

 

 【人間】には、絶対になれないんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

7




 やっと、投稿できました。
 自分の文章力のなさを恨みたいです。

 さて、今回は前回の反省を踏まえて、一応シャルロットメインで話しを組んだつもりなのですが、まだ、いまいちシャルが目立ってない気がします。
 ていうか、このままではいつこの話が終わるかわかりません。
 だから、次はもっと早く投稿できるように頑張ります。

 次回はやっと話を動かします。起承転結の【転】です。
 ま、どうなるかは大体みなさんのお察しの通りです。
 文章力がなくごめんなさい。

 それではまた次回。

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