ハーメルン様、これからよろしくお願いします。
アットノベル様にもマルチ投稿させていただいてます。
マルチ投稿のルールもちゃんと守っている…、……と思います。
何はともあれ、これからよろしくお願いします。
第一話『一夏の惨劇』
□一夏(ひとなつ)の惨劇
俺の両親は最悪だった。
対外的には誰もが羨む理想の家族。だが、蓋を開けてみればそれはただの虚空でしかなかった。
育児に興味を示さず、ただそこにある家具と同じようにしか俺たちを扱わない母親。
酒を飲んでは酔っぱらって帰ってくるたびに、癇癪を起こし、俺に暴力ばかりをふるう父親。
そんな両親にはさまれ、俺はいつも泣いてばかりいた。
俺の味方はただ一人。ただ唯一の本当の家族である姉さんだけ。
姉さんは、母親に冷たくされ、父親に殴られるたびに、泣いていた俺をただ抱きしめてくれた。
「ごめんな…ごめんな…一夏…」
強く。息が苦しくなるくらい強く、震える手で俺を抱きしめてくれた姉さん。その苦しみから解放されたとき、俺の肩がぬれていたのを俺は今でも覚えている。
それが姉さんの涙と気が付いたのは、俺が小学3年生のときだった…。
だけど、その年。世界は震撼する。
世界のバランスを崩す出来事が起こった。
そう、IS(インフィニット・ストらトス)が開発されたのだ。
幼馴染の姉が開発したIS。それは、世界に存在したほとんどの兵器を凌駕する力を持っていた。
そして、それと同時にISはもう一つ。世界の構想を根本から大きく変えた。
それは、男尊女卑だった世界をたった数か月で女尊男卑の世界に変えてしまったこと…。
ISは“女性”にしか動かせなかったのである。
だが、世界は知らない。
このIS開発には、隠された秘密があったことを…。
ISの開発により、一人の少年の人生が失われてしまったことを…。
ひどく、蒸し暑い夏の日だった。
当時、俺の遊び場はもっぱら篠ノ之神社だった。家で遊べるわけもなく、学校には友達なんかいない。だから、俺はいつも幼馴染の箒(ほうき)とばかり遊んでいた。
その日も、俺は才能の欠片もなかった剣道の稽古の合間をぬって、神社の中を駆け巡っていた。
それが俺にとっての不幸だとも知らずに…。
「…白い…、…騎士?」
いつの間にか入ってしまっていた部屋。
それは、篠ノ之束の研究室だということを俺は知るよよしがない。
訳も分からない機械だらけの部屋。いくつもの謎の機械の中、まるで君臨するかのようにそれはあった。
白い…病的なまでに、美しい純白の鎧。
それは、まるで夜のよう。真っ暗で、何も見えない漆黒の虚無。なぜそう思ったのかはよく覚えてはいない。もしかしたら、何も考えてなんかいなかったかもしれない。
でも、俺は、その美しさに惹かれ、一歩…一歩…と、それへと近づき、手を伸ばした。
「っ!? いっくん!! それに触っちゃダメ!!!!」
そのとき、背後から聞こえた束さんの叫び声。
だが、そのときには何もかもが手遅れだった…。
俺は激しい光に包まれ、その白い鎧を身に纏う。
男性として、初めてISを動かした瞬間だった。
*
それから一週間後。俺の家に黒服の男がやってきた。
何も知らない両親が彼から名刺を受取り、驚愕の顔をする。
幼かった俺でも、両親のかしこまった態度から、その黒服の男がかなりえらい人なのだとわかった。
そのあとの会話は正直、覚えていない。
だが、気が付いたときには、俺は両親の間に座らされ、まるで値踏みをするような黒服の男の視線を感じながら、恐怖していた。
黒服のその目を俺は知っていた。
あの目はほかでもない。人を道具としてしか見ない…。
両親と同じ目だった。
「…この子は、何円で売ってもらえますか?」
…冷たい声。子供ではなく、商品を扱うかのような…冷たい声だった。
子供ながらに、俺はある程度悟っていた。
これは、俺自身を商品とした買い物なのだと…。
「…一億で…どうですか?」
そして、それが黒服に対する両親の言葉だった。
その言葉で、俺の中で何もかもが壊れた気がした。
俺は売られたのが。たった…、…、一億で。
翌日。俺は泣き叫びながら暴れる姉さんの声を聞きながら、車に乗せられた。
俺も、姉さんの声を聞き、自然と涙を流す。
なんとなく、わかっていた。もう…、姉さんには会うことができないことを…。
俺の地獄の日々が始まることを…。
*
それからのことは、正直思い出したくもない。なぜなら、それは本当に地獄だったからだ。
あの日以来、俺は日本中をたらい回しにされ、大人に玩具のごとく扱われた。
いろんな機械につながれた。訳の分からない薬を何度も打たれた。
そんな生活の中で、俺な涙は自然と枯れていき、表情を失い、幻聴を聞いた…。
『世界と契約する気はないか?』と…。
そして、気づいたとき。俺はメチャクチャに破壊された機械の上で、姉さんに抱きしめられていた。
「ごめんな…、ごめんな…、一夏…」
そう言って、俺を抱きしめる姉さんはあの頃と何も変わってはいなかった。
あの夏の日に見た、白い鎧を身に纏っている以外は…。何も…、何も…、変わってなど…いなかった…。
「…千冬…姉…? その目…、どう…した…の…?」
「…大丈夫。大丈夫だ、一夏。安いものだ…、腕の一本、目玉の一つくらい…、お前を救い出す代償に比べれば…、足りない…くらい…だよ…」
姉さんの瞳から、あふれ出る涙が俺の頬を濡らす。でも、姉さんの右目からは、血の涙が流れていた。
それに、俺は抱きしめられているはずなのに、姉さんの左手の手のひらの感触を感じない。
まるで…、手首から先がないかのように…。信じたくない事実が、そこにはあった。
それでも、姉さんは綺麗だった。
父親に暴力を振るわれても、まず何より先に俺を抱きしめていた気丈な姉さんは、そこにはいなかった。そこにいたのは、ただ弱弱しく泣きじゃくる一人の女の子…。
今まで見たことのない姉さんがそこにいた。
だけど、その美しさはあの夏の日から変わらない。
たとえ右目が潰れていても、たとえ左手がなくても、姉さんは誰よりも…、綺麗だった。
だが、積み重なる非人道的な実験の結果、涙が枯れた俺はその姉さんの姿を見ても、地獄から解放されたと安心しても、泣くことはできなかった。
地獄の日々から解放されたというのに…。ただ、唯一の家族に会えたというのに…。
俺は泣くこともできず、姉さんにただ抱きしめられるだけ。
俺は…そのときすでに、壊れてしまっていた。
感じる…頭の中で鳴り響く、俺の声を…。感じる…心の中に生まれる、俺の世界を…。
世界と交わした契約。それは、一人の少年の新たな人生の幕開けとなった。
彼は自らの命が尽きるそのとき、世界の守護者となる。そして、彼の人生が終わるそのときまで、彼は世界の英雄とならなければならない。
たとえ、優れた能力はなくても…。たとえ愛する者を失うときが来たとしても…。彼は英雄であり続けなければ。その身が朽ちた後も、永遠に…。その英雄の名は…。
大空の英雄…織斑一夏(おりむらいちか)…。
あの夏の日、止まっていた時が再び動き出す。終焉の日が来る、その日に向かって…。
「…さあ、帰ろう一夏。私たちの…家に」
姉さんの言葉とともに、姉さんが身に纏う純白の鎧の翼が開く。
姉さんに抱きしめられた俺は次の瞬間、空へと舞い上がった。
太陽の光を見るのは、いったい何か月ぶりになるだろうか。あんな大きな入道雲を見たのは、もしかしたら初めてかもしれない。
初めて飛んだ大空は、どこまでも遠く。遥か彼方へと続いていた。
その中を飛翔する…『白い騎士』
俺は、その姿を永遠に忘れないと思う。
確信はない。だけど、どこまでも続く大空…Infinit Stratosを飛翔するその姿は、俺の心の中に激しく焼きついた。
遥かなる空の彼方…、Infinit Stratos…。
俺は、頭の中に響いた“俺自身の声”で紡がれたその言葉を呟いてみる。
すべてはここから始まった。
俺の復讐。英雄としての人生。世界への…戦い。
そのすべてが、ここから始まったのだ。頬を触るような優しい風に吹かれながら、俺は虚ろな目でどこまでも続く空の彼方を見つめる。
その先にある、未来に向かって…。
「My dream is Infinit Stratos…」
わが夢は…遥か空の彼方へ…。
*
あの日から、六年。俺は、遥かなる空(Infinit Stratos)下で生きている。
この腐った世界の上で…。
さて、第一話ということで、一夏の過去をダイジェストに流させていただきました。
正直、一夏の話だけは長ったらしく書くことができないので割愛せざるを得ません。それをご了承いただいたうえで、話を読んでいただけたなら幸いです。
さて、次回はこの事件の後。鳳鈴音の話となります。
次回からは一話ごとにそれなりに長くなると思いますので予めご了承ください。