ドイツ軍基地の射撃所にて。
パンッ
一発の銃声が鳴り、的の真ん中に綺麗な穴が開く。
「あの距離を正確に...」
ラウラの隣に立つ女性クラリッサがつぶやき、他の隊員達も一人の人間の射撃を見て驚く。
「...やりづらい」
キノは借りた軍服を着て、フルートの弾倉を再装填する。
「どんな時も平常心」
首に鎖を通して下げている指輪から、エルメスが小声で言い、キノは返事を返さず一発、また一発と発砲し、これもまた命中させた。
何故キノはIS学園でなく、遠く離れたドイツにいるのか。それは、昨日の昼時ーー
「え? ラウラ、ドイツに帰るのか?」
「あぁ、一時的にな。ISの整備やら、隊の者達にも報告があってな」
食堂にいた一夏達は、ラウラが明日から三日間IS学園を離れる事を告げられ、少し驚いていた。
「そうか、少し寂しくなるな...」
「なっ、だ、大丈夫だ!! 何かあればすぐに戻る!! お前は、私の嫁なんだからな!!」
一夏のつぶやきに必死になるラウラ。箒達がにらみ、周りの視線が集まるが一夏は気づかす、ラウラをなだめる。
本当なら、一夏を連れて行き二人で旅行。とも考えたが、一夏は男性操縦者で、世界中から狙われているし、IS学園から勝手にでる事はできない。
例え明日から連休が始まるといえど、生徒は担任から許可書のサインをもらわなければならない。
箒達はさっそく、一夏をどうやって誘うか悩む中。ラウラは、
「さて、クラリッサ達の土産はどうした物か...」
日本のアニメグッズは買い占めた、しかしそれだけでは物足りない と考えた時。食堂の端で見覚えのある人物を見かけ、ラウラが向かう。
「キノ、お客さんだよ」
「ん?」
キノが顔を上げると、ラウラが「獲物を見つけた」ような目をしてーー
「ちょうどいい、お前の実力を見てきたい」
と一言告げられ、ドイツへの同行を言い渡された。いきなりの事でキノは断り、書類がない事を告げるが、ラウラが無理やりキノを連れ職員室に入り、さっそく千冬に事情を伝えると、ほんの数秒でサイン入りの許可書が返ってきた。
その時の千冬の顔は、かつて盗賊から金品を巻き上げた時の師匠と同じ目をしており、キノは何も言えず、そのままの流れでラウラと共にドイツに入国して数時間後。
迎えにきた軍車両に乗り、軍の施設に二人が入る。
「お待ちしておりました、隊長」
ラウラが隊長をしている部隊の女性たちが敬礼し、キノとラウラを出迎える。副官であるクラリッサと言う女性が、キノの事を聞きラウラが「ライバル」だと答え、その場に衝撃が走る。
「そ、それはどういう事なのでしょうか!?」
「ら、ライバルとは!?」
隊員達の質問にキノは「友人です」と答え、落ち着くのに時間がかかる。
その後、射撃場に案内され、キノはラウラから撃つように言われ、カバンの中に入れていた「カノン」と「森の人」を出し、簡単な整備をする。
「隊長、彼の実力は確かなのですか?」
「ずいぶん古い銃ですが?」
隊員のが聞き、黙って見ている事を告げる。後、性別の訂正を告げると、隊員達がさらに驚く。
「さて...」
右手にカノンを持ち、遠くにある的に向け発砲する。轟音が響き、弾は真ん中に命中し、続けて5発とも同じ所が当たる。
次にキノは、腰に吊っている森の人を素早く左手で抜き。これも、的確に当てる。
「最近練習してなかったけど、腕は鈍ってなくてよかった」
キノはつぶやき、カノンと森の人の弾を装填していると、隊員達が駆け寄り
「す、すごい...ほとんど命中率している」
「あ、あの。一体その銃はどこで手に入れたのですか?」
キノの腕を見て、隊員達が質問攻めをし、いつの間にか周りには人が増えていた。
代表候補であるラウラが連れたきたというのもあるが、先ほど見せた射撃を見て人が増えていた。
その後も、二丁の練習をしたキノは、カバンから折り畳み式のライフル「フルート」を組み立てる。
「そんなライフル初めてみた、どこで手に入れたんだ?」
と、ラウラが聞き「旅をしている時にもらいました」とキノが答え、フルートで射撃をした。そして、フルートの射撃をしているうちにギャラリーたちに見られ今に至る。
三丁の射撃が終ると、隊員だけでなく一般の兵達がキノに駆け寄る。
どこで、その銃を手に入れたのか?
どこの国の所属で、訓練をしてきたのか?
よければ、軍に来ないか?
など、声をかけられ。さらに、キノの持つ三丁の内どれかを譲ってくれと言われるが、キノは丁重に断りながら質問に可能な限り答える。
銃は一時、家族と旅行した際にどこかでを購入したとごまかし
自分は日本出身で、知り合いに銃に詳しい人がいて教えられた事
今、IS学園に所属しているため軍には入れない事を告げる。
やがて、質問の波が収まった頃
「...疲れた」
案内された腰のベッドに横になりキノがつぶやく。
「お疲れ、こんな風に質問攻めなんて、あの国いらいだね」
「あぁ、そうだね」
キノが短く答え、しばらく沈黙になる。
「あぁ、そういえば」
キノが何かを思いだし、端末を開く。
「ドイツってなにが有名なんだろ? 何かおいしい食べ物とかあるかな...」
「食いしん坊、お昼にあれだけ食べた癖に」
「ここの料理はもちろん美味しかったよ、けど、せっかく外国に来たんだから堪能しないと」
「キノ? お姉さんたち、キノの性別知った後も驚いていけど、食べてる所見ててかなり驚いてたよ?」
「特にお腹おさえながら」とエルメスが付けたし、キノは「ごはんが足りなかったのかな?」と首をかしげるが、エルメスは「そんなに食べてなんで太らないのか?」と女性たちの心の声を察知していたが、キノには伝えなかった。
ドイツでの滞在は3日。残りの2日で、キノとエルメスが予定を話し合い、時間が過ぎていく。