「さて、うまくやってるかな?」
防衛でアリーナの扉が閉まる前に、先に建物の外に出たキノがつぶやく。
周りでは避難してきた生徒や、扉を開けようとしている教員たちが騒ぎキノはアリーナから離れていく。
一方で、アリーナに突如侵入した謎の機体ことエルメスは、片腕を上げレーザーを撃ち一夏達に攻撃していた。
(それにしても、お兄さんを強くするためにゴーレムを使うのはいいけど。学園のシステムをハッキングしたりすごいことするね)
束からの指示で「一夏の特訓」のため大がかりな事をした彼女に対し、ゴーレムに意識データを組み込まれたエルメスが内心つぶやく。
本来このゴーレムと呼ばれる機体は、史上初の無人機なのだが、何故かモトラドの構造を熟知していた束の手により多少時間がかかったがエルメスの意識を移すことで、エルメスは初めて「体」を手に入れることになった。
(まぁ、こっちは試運転できるからいいか)
レーザーをわざと狙いを外し、一夏と鈴を見る。
「なぁ? 鈴。さっきからあいつ動きが変だぞ?」
「はぁ? 何言ってんのよ?」
二人のやり取りを聞きながらも、エルメスは二人の機体の残存エネルギーを確認し、
もう少しだけなら戦えると判断し、その場から動かない。
「ここから狙えるか...くっ!!」
一夏がカノンを取り出し、引き金を引こうとするが狙いを定める前にゴーレムからのレーザーが飛び慌てて回避し鈴は援護のため肩の砲口から空気の弾丸が放たれるが、
エルメスはブースターを吹かせ回避する。
「くっ!! 動きが早い!!」
二人の攻撃を難なく回避し二機と一機の戦いが続くが、一夏の鈴の機体からアラームが鳴りエネルギー切れを起こしかけていた。
エルメスも、二人の様子には気づいておりそろそろ撤退しようかと考えた時ーー
「一夏!! 何をしている!!」
二人と一機が声をした方を向くと、指令室にマイクを持った箒の姿があった。箒は、声を張り上げ一夏に喝を入れる中
(あ~今の内に逃げようかな?)
と、背中を向けると一夏が「逃げるな!!」と叫びブースターを全力で吹かせ雪片を振り上げる。
「うおぉぉぉ!!」
雪片をゴーレムめがけて振り落とすが、エルメスはブースターを最大にして横に回避し一夏の渾身の一撃をかわした。
「なっ!?」
急速な動きで避けたゴーレムに鈴が驚きの声を上げた。あんな無理な動きをすれば、中にいる操縦者に大きな負担がかかるはずなのだが、ゴーレムはそんな様子もなくアリーナから飛び去っていく。
「逃がすか!!」
一夏が後を追おうとしたが、そこで白式の限界が来てしまい飛ぶどころか動くこともできなくなった。鈴の方も同様で、二人は飛び去っていく黒い機体の後ろ姿を見ることしかできなかったーー
(さて、ここらへんでいいかな?)
アリーナから離れた倉庫の裏にてエルメスは着地するとすぐに待機状態である指輪に姿を変え地面の上に落ちた。
「お疲れ、エルメス」
そこにキノが現れ、指輪を拾い声をかけるとエルメスも返事をかえす。
「どうだった? 初めての戦いは?」
「まぁまぁかな...と」
エルメスは言葉を切り黙り、キノが上を見ると青い機体が飛んでいるのが見え静かにその場から立ち去ったーー