「...まさかエネルギー切れで負けになるなんて」
一夏の試合が終わり数分後、キノは一人で寮の屋上でエルメスと先ほどの試合について話していた。既に日が傾き、夕日の光で輝く海を見ながらキノは手すりに体を預ける。
「お兄さんの持ってた剣は、エネルギーをだいぶ使う武器だったんだよ。
まぁ、本人は知らなかったみたいだけど」
「ふ~ん」
「けど、一応。うさぎのお姉さんにも連絡したけど、怒ってなかったし。
それに訓練もしてあげたからキノの株も上がって一石二鳥だね」
「…あれ、間違えてない」
「失礼な」
キノは軽く笑いながら、指輪になっているエルメスを軽くこする。
「結果はどうあれ、あの人との約束は少しは果たせたかな? 」
「そうだね、ISがあれば襲われても自分で…」
とエルメスが言葉を切り黙ってしまう。キノは眉をひそめ指輪をしまって立ち上がり、屋上の出入り口のドアを警戒するとーー
「そんなに警戒しないでよ~~」
ドアが開き、一人の女生徒が姿を表した。
その女生徒は、簪の姉である楯無で扇子を口元を隠しながらキノの前まで近づいてきた。
「こんなところで一人で何をしていたの?」
彼女に質問にキノは、落ち着いた様子で風景を見ていたと告げるが楯無は目を細めてさらに話しを続けた。
「そうなんだ? 最近、簪ちゃんの様子が変わったみたいなんだけど一体何があったのかな? できれば、教えてほしいの」
「えと、ボクは簪さんのISの制作の手伝いをしているだけですよ、それに他の整備の人達にも…」
「ふ~ん、そうなんだ…ところで、織斑君に銃器の使い方を教えたって君だって本当? どこで使い方を学んだの?」
楯無の目が変わる。キノは楯無が何かを聞き出そうとしている事に気づき、教科書やネットで調べたとごまかすが、盾無の疑いの目は変わらない。このまま夕食の時間ですので と言ってその場から去ろうかとキノが思っていたその時。
「キノさん…っ!?」
屋上に出てきたのは簪だった。簪は、キノと盾無を見て固くなるが、すぐに怒りの表情を露にキノの手を取る。
「キノさん、行こう」
「か、簪ちゃん!!」
盾無が声をかけるが、簪は無視し早足でキノと共に階段を降りていってしまう。残された盾無はその場で俯きやがて日が落ていくーー
場所は食堂に移り、二人席でキノと簪が食事を摂っていた時だった
「ねぇ、キノさん…姉さんと何を話してたの…?」
簪の質問にキノは、盾無から最近の簪の様子を聞かれただけと答える。
上着のポケットに入れてあるエルメスが小声で「姉妹喧嘩かな?」と呟くが、誰も答えない。
その後、二人は夕食を終え今夜も簪の専用機の作成作業の予定のため二人が整備室に行こうとすると
「あ、キノさん」
一夏に声をかけられ、キノの隣にいた簪の目が険しくなる。
一夏は、試合に負けた事の謝罪と銃器の練習の礼を伝えた。
さらに、この後食堂でパーティがあるとの事で、キノは誘いを丁重に断り整備室にいく。
「….」
「簪、落ち着きなよ。ここでお兄さんを恨んでもどうしようもないじゃないか」
辺りに人がいないため、キノの首にかけていた指輪のエルエスが簪をなだめる。
「じゃ…」
「ん?」
「また、調べさせて、そうしたら、落ち着くかも…」
簪の言葉を聞き苦笑するキノと、うんざりした声を出すエルメス。やがて整備室に入ると既に準備ができており、作業は深夜まで行われたのであったーー