クロスアンジュ 天使と竜の輪舞~デバステイター~ 作:Mr.エメト
迫りくる時空とトリアングルムを追い払ったその日の翌日。
風呂に入っているアンジュはサラにミスルギ皇国に侵攻の話を聞いて、アンジュはそれに問う。
「私に戦線に加われっとでも言うつもり?」
「まさか、貴女は自由ですよ?この世界に暮らす事もあちらの地球に戻る事も……。
我々と共に戦っても貰えるとなればそれ程心強い物はありませんが。
明日の出撃の前に貴女の考えを聞いて置きたくて…」
「私の…?」
アンジュはそれに頭を傾げ、それにサラは頷く。
「あなたとリュガは、民を救っていただいた恩があります。出来る事なら何でもお手伝いしますわ」
アンジュはそれを聞いて少しばかり考えた。
◆◆◆◆
「そっか……。アンジュもその話しをしていたんだね」
「そっちも?」
「ああ、俺とタスクはシュレディンガーとゼランディアからアウラの事を聞いた」
「アウラを取り戻せばエンブリヲとカノープスの世界に大打撃を与えられるのは間違いないからね」
「本当に、それでいいのかしら………」
アンジュのその言葉にリュガとタスクは振り向く。
「信じられないのよ……」
「サラの言葉にか?」
「何もかもが………」
アンジュは空を見上げながら……これまで起きたことを思い出す
「ドラゴンが人類世界に侵攻してくる敵だって言うのも嘘。
ノーマの戦いが世界の平和を守るってのも嘘。
あれもこれも嘘ばっかり………もうウンザリなの」
ジルは最初にそう言ってたが……全くの嘘だった。
父親、仲間の天才たちから本当の事を知り、同族殺しをしたのだ。
けど、過去をやり直すことはできない。
「誰も分からないよ。何が正しいかなんて…
大切な事は、今までの過去ではなく。これからの未来を考えよう。
失敗してもやり直せるからよ。どんなに、時間がかかっても……」
タスクが突如その事を言い出し、それにアンジュとリュガは振り向く。
「大切なのは、何が正しいかじゃなくて、君がどうしたいか…じゃないかな?」
笑顔で言うタスクにアンジュは心をゆさぶられ、聞いていたリュガは笑っていた
「君は自分を信じて進めば良い、前にも言ったけど…俺が全力で支えるから!」
「くくくく、タスク。こんな太陽が昇っているうちに告白か?」
「えっ!?」
リュガのからかいにタスクは思わず振り向きながら驚く。
アンジュは少し頬を赤くして髪をいじくる。
「バカね……そんな自分勝手な理屈が通じる訳ないでしょう?」
「えっ?そう?」
タスクはそれに振り向き、アンジュは安心するかの様な雰囲気を見せる。
「でも救われるわ、そう言う能天気な所」
「フッ、お褒めに預かり。光栄で──」
良い雰囲気なのに……石にぶつかりタスクはアンジュの方へと倒れ―――。
「うわああああああっ!?」
「えっ!?きゃあああああああ!!」
アンジュを巻き込んで倒れ込んで、そこに運悪くヴィヴィアンがやって来た。
「皆!皆!お母さんがお礼したいって!」
煙が晴れると、そこにはアンジュがタスクに上になって、頭に自分の股を当ててる風な感じだった。
ヴィヴィアンは頬を少し赤くして、可愛らしいポーズをとる。
「っ~~~~!!この、A級発情期がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
――――バコッ!!
アンジュの鉄拳がタスクを吹き飛ばし―――場外へ飛んで行き、崖の下の川に落ちてしまった。
「………あいつ、ラッキースケベの星のもとで生まれたのか?」
◆◆◆◆
夜―――。
川から無事救助されたタスクはあちこち包帯を巻いており、両手が使いない状態だ。
アウラの民の女たちがタスクにお肉を食べさえていた。
「はい、あ~ん♪」
タスクが食べてくれた事にその女たちは喜んでいた。
「うわ~!食べてくれた~♪」
「男の人って可愛い~!」
「えっ?そ…そう…」
「タスク、鼻の下を伸ばしているとアンジュに殴られるぞ」
肉をムシャムシャと喰いながらタスクに注意するリュガ
「あ、それは……」
「―――楽しそうね」
タスクとリュガは運悪くアンジュがその場にやって来た事に固まる。
アンジュの右手に何やら見覚えのある形をしているバーベキューのお肉串を持っていて、
その先端のキノコを思いっきりかぶりつく。
――――ガブッ!!
その光景を見てタスクは股をおさえ、流石のリュガも真っ青になり後ずさりする。
女たちは悲鳴をあげてその場から逃げて行く。
それにアンジュは鼻で笑い飛ばし、タスクのそばまで行って隣に座る。お肉を差し出す。
「はい、あ~ん」
「えっ?」
「何よ?いらないの?」
アンジュの行動にタスクは少々戸惑いを隠せない。
「えっ?……な、何で?」
「手、使えないんでしょう? 少しやり過ぎたわ」
アンジュは頬を赤くして、申し訳ない表情をしながら謝る。
「このくらいどうってことないさ。アンジュの騎士は不死身だからね」
「あの高さから落ちたのに両手ですむとか……体頑丈だな」
「そういうリュガも私を助ける時に車とか持ち上げてブン投げたじゃない」
「あの時は、自分がドラゴンだって知らなかったしさ……。そう、俺は……」
――バケモノ。
アンジュやタスクとは……全く違う。
あの時、吹っ切れたかと思ったけど、ダメなのかもしれない。
「悪い……一人で飯食ってくるわ」
リュガは無理な笑顔を作り、その場を逃げるように去る。
◆◆◆◆
「……なにやってんだろうな、俺は……」
仰向けで星空を眺めるリュガ。
暗くなったのかと思いきやサラがやって来た。
「此処に居ましたか」
「サラか…」
サラはリュガの隣に座り、問いかける
「何を考えていたのですか?」
「俺は……人間なのかドラゴンなのか解らなくてね……。
半人半竜、中途半端な存在、混ざりモノ。
情けないなぁ、この前はあんだけ泣いて、神を倒すといった男がこんなんだと……」
「生きている物は悩んで苦しんで、それを乗り越えて前に進むものですよ。
リュガ、貴方は独りではありませんわ。
私もいます、ゼラもいます……。だから、頼ってもいいのですよ」
サラは頬を赤くして、リュガに言う。
リュガは上半身を起こして、サラと正面から向き合い抱きしめた
ギュっと強く強く、離さまいと抱きしめる
「……リュガ?」
「ありがとう……。なんか凄い、嬉しい……」
サラは微笑んでリュガを抱きしめて背中を優しく撫でる。
その光景を見ている三つの影―――。
「サラマンディーネ様も安泰ですね」
「ああ、リュガなら任せられるな」
カナメとゼランディアはうんうんと嬉しそうに頷くがナーガは、今にも飛び出しそうだがゼランディアが抑えている。
「離してください!!あの狼藉者を叩き斬って……!!」
「駄目だ。サラの将来の相手を斬るんじゃない。まったく……、気づかれんうちに帰るとするか」
ナーガを抑えたまま去るゼランディア、その後に続くカナメ。
夜空に輝く星々はリュガとサラを優しく見守っている。