やはり俺の幼馴染と後輩がいる日常は退屈しない。   作:あべかわもち

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第6話 やはり俺はなるべくして彼女と出会う

あれは昼休みの前半のことである(後半は一色に振り回されて終わったので話が前後しているが)。

 

俺は授業終わりに平塚先生に捕まり、とある教室まで連行されてしまった。

 

先生はその教室の扉を豪快に開け、俺を中に放り込む。

 

全く抵抗できないところがなんとも恐ろしい!

 

 

「というわけで紹介しよう。彼女は、雪ノ下雪乃だ」

 

 

これは驚いた。

 

窓際の机に座っている雪ノ下雪乃とはこの学校で最も有名な女子生徒だ。

 

眉目秀麗、才色兼備、深窓の令嬢といった言葉がピッタリで、流れるようなストレートの黒い髪は美しく、どこか儚げな雰囲気も相まって、告白した男の数はつゆ知れず。

 

といっても玉砕も同数であるらしいが。

 

また、噂では彼女の父親は県会議員であるという。

 

まさしく生まれながらの勝ち組ってやつだ。

 

それゆえの悩みもあるのかもしれないが、俺なんかじゃ理解できないだろうな。

 

なぜ俺がこんなに詳しいかというと、三浦が俺に雪ノ下について語ることがよくあるからだ。

 

なぜか毎回「あーしも黒髪にしようかな?似合うかなー」と呟いている。

 

そのままでいいと思うが、一度くらいは黒髪も見てみたいものだ。

 

決して俺の趣味ではない。

 

 

「・・・先生。入る時にはノックをしてくださいとお願いしていたはずですが。それと、『というわけ』では全くわからないのですが」

 

「右に同じく」

 

「・・・誰ですか?この腐った魚みたいな眼をした男は?」

 

 

怖!ちょっと話に乗っかっただけで腐った眼呼ばわりされるとは流石の俺でも初めてだぜ・・・銀色の天パ侍の気持ちが少しわかった気がする。

 

 

「気にするな雪ノ下。彼の眼は元からだ」

 

「あっ、ごめんなさい。私としたことが唯一のコンプレックスを突くようなことをしてしまったわ。私ってこう見えても思ったことを喋る主義だから」

 

 

俺の代わりにこたえてくれたのはありがたいですけど、全くフォローになってませんよ?

 

あと雪ノ下も俺の眼がコンプレックスだとなぜわかったのか。

 

見ればわかる?そうですね!

 

そう言えばあの番組が終わってから、昼休みにTVを見る人は何を見てるのだろう。ちょっと気になる。

 

 

「それでだ雪ノ下。今日から彼、比企谷八幡をこの部活に参加させて、彼の腐った根性を少しでも改善させてほしい。見ての通り、彼は憐れむべき悲しい奴なのだ」

 

たしかにとでも言いたげに頷く雪ノ下。なぜ初対面なのにすぐ同意しているのか、その理由を俺の代わりに作文にまとめてほしい。なにを書かれるのか、八幡気になります!

 

 

「そんな話、寝耳に水なのですけれど」

 

「今初めて言ったからな」

 

「お断りします。彼の腐った眼をみていると、身の危険を感じるので」

 

「安心したまえ。彼はこう見えても小心者でね。犯罪になるようなことは思ってもできない小悪党だ。私が保障しよう」

 

 

信用してくれるのは嬉しいですが、なんで犯罪になるようなことを考えると思われてるんですかね。やっぱり信用されてないじゃないか。

 

 

「そもそも、私が部長ですから彼の入部届けを受理しない限り、ここで活動できないはずですが?」

 

「大丈夫だ。その手間を取らせないために、私が代理で受理しておいた。顧問の許可があるのだから問題あるまい」

 

「・・・」

 

 

うわー。

 

この人笑顔で何言っちゃってんの?

 

それ、ただの職権乱用じゃねえか。

 

というか俺の意志は全く無視ですか。そうですか。

 

あと雪ノ下さんもなんで悔しそうなんですかね?

 

 

「あの、そもそそも俺部活なんてやりたくないんすけど」

 

「ほぉ?あのふざけたリア充へ向けた犯行声明文を理由に停学くらいにはできるのだがな?ほら、私って『生活指導』も担当しているから」

 

 

やっぱり職権乱用じゃねえか!

 

 

「俺に選択肢はないんですね・・・」

 

「よくわかってるじゃないか」

 

「わかりました。なにを言っても無駄のようなので、彼の入部を認めましょう。じゃあ、すぐに退部届を書いてちょうだい」

 

「私が受理するとでも?」

 

「はぁ」

 

 

雪ノ下は額に手を当て、首を左右に振って、やれやれと言わん顔をしている。

 

そこまで拒否らなくてもとは思うが、俺自身もこの部活に入りたいわけじゃないから別に構わないのだが。

 

 

「よし!話は決まったようだな。では比企谷。早速今日の放課後から活動を始めたまえ。少しはそのふざけた生活態度もマシになるだろう。ここはそういう部活だからな」

 

 

平塚先生はキメ顔でそう言って、颯爽と部屋を出ていった。

 

間違いなく内心してやったりと思っているのだろう。

 

ガッツポーズをしてるまである。

 

平塚先生が出て行ってから、雪ノ下は俺の方に顔だけ向ける。

 

 

「よろしく、比企谷くん」

 

「あ、あぁ」

 

 

彼女、雪ノ下雪乃は、全くの嬉しさの欠片がない表情をしているが、俺も負けず劣らず引きつった顔をしていることだろう。

 

この部活でやっていけるか、不安しかない。

 

逃げたら平塚先生に今度こそ三途の川に放り込まれるだろうし。

 

やれやれ。

 

こうして俺達は出会ってしまった。

 

どこかの脱力系主人公の言葉を拝借することにしよう。

 

しみじみと思う。偶然だと信じたい、と。

 

 


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