やはり俺の幼馴染と後輩がいる日常は退屈しない。   作:あべかわもち

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第15話 幼馴染には頭が上がらない

 

新~しい朝がきた!

希望のあs・・・おや誰か来たようだ。

 

え!ちょっま!・・・嘘やろ・・・

 

 

今日も今日とて朝から喜びに満ち溢れつつ、またしても、まどろみの中での睡魔との熱戦を楽しみながら、至高の朝を満喫する俺である。そのうち、究極の朝と対峙するような日が来るのだろうか。ぜひとも味わいたいものではある。

 

さて、そんな俺の楽しげなバラ色の朝タイムを絶望の色に染めあげる元凶は着実に近づいていたらしい。らしいというのは全くその気配を感じることができなかったからだ。そのため、奴の侵入をやすやすと許してしまったことが全ての敗因であったと言える。

 

 

 

「せんぱーい!朝ですよ!起きてください!」

 

 

バン!という扉が勢いよく開く音に驚きつつ、声の主が誰か判断すると不思議に俺は冷静であった。まぁいつも急に入ってくるやつらの一人なのだから、今さら無断で部屋に入ってきたことにはもう驚かない。あれだ、慣れってやつだ。

 

ただ、今日は困る。今の俺は非常に困る状態なのだ。一色さん早く帰って!という意思表示のため、さらに掛け布団の中に潜り込み、布団の端を強く握りしめる。いや、そっちを握るんじゃない!ちょっと!

 

 

「もう!春眠何とかって言いますけど、さすがにそろそろ起きないと学校に遅刻しちゃいますよ?平塚先生の鉄拳が飛んできますよ~」

 

 

ゆさゆさと掛け布団の上から俺を揺さぶってくる一色。頼むからやめてくれよ・・・

 

 

「むぅ。なんで反応がないんだろ?いつもならさすがに・・・は!まさか!」

 

 

何かを察して布団を捲ろうとする一色に抵抗するため、俺はさらに布団をきつく握りしめる。

 

 

「・・・先輩。その反応でだいたい察しましたけど、今なら私の買い物に一日付き合うだけで許してあげますよ?」

 

「・・・断ると言ったら?」

 

 

すでにはっきりと俺の目にも見えてる未来が、もしかしたら変わってくれるかもしれない、そんな一縷の望みにかけて俺は一色にお伺いを立てる。あぁ神よ!

 

 

「雪ノ下先輩に言いつけます」

 

「はぁ」

 

 

神はいなかった・・・逃げ場はないと観念した俺は、のそりと布団を這い出る。あっさりと出てきた俺に普通に接する一色。その態度が逆に怖いです。一色さん。俺の姿勢だって?もちろん土下座ですよ。身体が勝手に反応してしまった・・・やっぱ静かに怒る女子はこえーわ・・・誰かさんみたいに泣かれるのも困るけど。

 

 

「おはようございます。先輩。朝からこの私に起こしてもらえるなんて、先輩はなんて幸せ者なんでしょうね」

 

「はいわたしはしあわせものです」

 

「あれ?雪ノ下先輩の電話番号はっと」

 

「一色いろはさんみたいな年下の幼馴染に朝から起こしてもらえるなんて、比企谷八幡という男はなんて幸せなんだ!」

 

「美少女が抜けてますよ?」

 

「は?美少女っていうのは性格だっ「雪ノ下先輩の」とんでもない美少女でしたね!いやー俺って世界一幸せ者だわ。いやマジで」

 

 

俺の言葉に満足したのか、大仰に頷いてみせる一色。なんでそんなにドヤ顔なのか気になるがまぁいい。それよりもなんで自分で言わせて顔が赤いのか。表情なんて緩んでるぞこいつ。恥ずかしいなら無理に言わせる必要なんかないだろうに。一色への抗議の声を乗せた俺の視線に気づいたのか、ジトっと俺を睨んでくる。だがその表情には迫力が全くなく、ちょっと強がってる妹みたいで可愛かった。

 

 

「おほん・・・さて、せんぱーい?質問してもいいですか?なんで、せんぱいは起きているのに、布団が盛り上がっているんでしょう?」

 

 

声のトーン自重して!俺の精神力をゴリゴリ削るような低い声はヤバい。具体的にいうとまるで俺を蔑むような・・・あれ?いつも受けてるから大丈夫じゃないのか俺?

 

 

「・・・」

 

 

と、いつもなら華麗な突っ込みを一色に食らわせるところだが、今の一色にそんなことをしたら一発でレッドカードとなり、雪ノ下への通報というおまけ付きで俺をこの世間という枠組みから退場させることは間違いないだろう。いや、もしかするとすでに雪ノ下には伝わっているかもしれない。あいつ、なぜか俺がやってきたこととか、考えていることを知っているんだよな。身体のどこかから漏れてませんか俺の個人情報。

 

 

「茶番は終りですね・・・とりゃあ!!」

 

 

俺のベッドの上の不自然に盛り上がっている掛け布団が一色の手によって捲られる。

 

そしてそこには制服姿で小さくなってる三浦がいた。これが不自然に盛り上がってた布団の正体である。

 

てか、なんで胸元のボタンが開いてるのか。こいつ特盛だよなぁ。しかもスカートの状態がやけに際どいところを突いてくる。彼女の健康そうなすらっとしたその白い脚はとても眩しくて、思春期の男子には色々と刺激が強い。眼福なのだが、このまま見続けるのは危険と八幡のアホ毛に偽装したレーダーが告げている。俺はその警告に従いさっと視線を逸らす。もしこの状態だとさっき知ってたら俺だって・・・げふんげふん

 

 

「あ、あはは」

 

「おはようございます。三浦先輩」

 

 

今日の一色の迫力の前には、さすがの女王様もなす術がないようで、気まずそうにベッドの上に座り込んでいる。俺?引き続き土下座に決まってんだろ。言わせんな恥ずかしい。

 

 

「どうして、三浦先輩がせんぱいの布団の中にいたんですかぁ?私、気になります」

 

 

どこぞの好奇心旺盛なお嬢様のセリフをとらないであげて。てか、なんでお前知ってんの?そして土下座中の俺とベッドの上で罰が悪そうな三浦にチラチラと視線を送らないで。突っ込みが欲しいなら別の機会にボケてくれよ頼むから。

 

 

「えっと、あーし、寒がりじゃん?」

 

「その格好でよく言えますね」

 

「八幡の部屋に入って声かけたけど返事がなくて」

 

「はい」

 

「・・・布団を触ったら、とっても暖かそうで、その、つい、中に・・・」

 

「”その”とか”つい”で高校生男子の布団に潜り込むんですね。三浦先輩は。さすがの私もびっくりですよぉ」

 

「は、はぁ!?こ、こんなこと八幡だけ!勘違いすんなし」

 

「うふふ。焦った三浦先輩も可愛いですね・・・ごめんない。さすがにからかいすぎました。三浦先輩をからかえるチャンスなんてあまりないものですから、私も、つい」

 

 

そういってテヘって舌を出すこいつはやっぱりあざとい。俺なんかよりお前の方があざといぞ。あざとい5段はあるのではないだろうか。

 

 

「も、もう!いったいなんなんだし!それもこれも、暖かそうな八幡が悪いし!」

 

「は?いやなんだよそれ?」

 

 

なんだよそれ?八つ当たりいくない。

 

 

「そうですよねぇ。まるでせんぱいからは甘い蜜でもでてるんじゃないですか?・・・私も三浦先輩と同じように潜り込もうとしてましたし」

 

「ん?いろは?」

 

「え?いやいや!なんでもないですよ!なんにしても、せんぱいには罪を償ってもらいますからね!」

 

「はいはいわかったよ。どうせ拒否権はないんだろ」

 

 

一色がなにをつぶやいたのかよく聞こえなかったが、三浦のジト目をみるにろくでもないことを言ったらしい。まぁどうでもいいけど。

 

 

「で、せんぱい?三浦先輩の抱き心地はどうでした?」

 

「ちょ!?いろは!?」

 

 

ニヤニヤとした表情で問いかけてくる一色。自分の腹黒さを隠せていないじゃないか。これではまるで黒いろはだ。

 

 

「ほんと勘弁してくれませんか?」

 

 

どうやらこいつに頭があがることはしばらくなさそうだ。

 

 

 




こんな朝を迎えたいものですねぇ

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