やはり俺の幼馴染と後輩がいる日常は退屈しない。 作:あべかわもち
「ごちゃごちゃ言ってないで早く着替えるし!」
「お前がもっと早く俺を解放すればよかったじゃねぇか」
「そ、それはそうだけど」
「はぁ。とにかく三浦は先に下に行ってろ。どうせ一緒に行くんだろ?」
「うん。早く来なさいよね」
そう言い残してあいつは部屋を出ていく。まったく困った幼馴染みだ。俺はいつものようにゆっくりとベッドから這い出るとさっさと学校の制服に着替えてダイニングのある1階に向かう。
ちなみに三浦の家は俺の家の隣にあり、俺の部屋は2階なのだが、まったくの偶然ながら、三浦の部屋も2階にあって俺の部屋の真向かい。窓の位置まで同じってどういうことだよ。
さらにはベランダまで同じ位置にあるので行き着まで容易のご都合設計である。
俺から三浦の部屋に行くことはないがあいつは度々俺の部屋にやってくる。
特に最近は朝早くにやって来て、俺のベッドに潜り込んでくるようになった。
最初に入ってきた時には驚きすぎて悲鳴を上げてしまったくらいだ。
心臓に悪いからやめてくれと言ってるのに、ここんとこ毎朝やってくる。まぁ慣れ始めている俺もどうかとは思うのだが。
もやもやと朝の出来事について考えながらダイニングに通じるドアを開ける。
「先輩!おはようございます!」
ドン!と大きな音を立てて開けたばかりのドアを反射的に閉じる。どうやら部屋を間違えたようだ。いや、家を間違えているのだろう。
もはや猶予はない。さっさと学校に行かなければ!俺は決意を新たに玄関に向けて歩きだす。
「ちょっと先輩!なんで閉めるんですか!?ていうかどこ行くんですか?」
リビングの扉が開いたと同時に後ろから誰かが抱きついてきた。
「家を間違えていたみたいだから、さっさと学校に行くんだよ。問題になったらあれだろ?えっと、ちなみにどちらさんでしたっけ?」
「どこから突っ込んだらいいのかわかりませんけど、あなたの可愛い後輩の名前を忘れるなんて、とってもショックです・・・」
「はぁ。全く。あざといんだよお前は。てか、なんで一色がここにいるんだ?」
「朝ごはんを食べるためですけど?」
「そうじゃなくてだな」
「もうお兄ちゃん、昨日話したでしょ。いろは先輩のお母さんが町内会の旅行で出かけているから、しばらくいろは先輩も一緒にごはん食べることになったって」
「なんだよその説明口調は・・・とにかく事情はわかった。ただな一色」
「はい?」
「俺から離れろよ。これじゃなにもできん」
「嫌です!」
そう言って俺を抱きしめる力を強めてくる。なんでこうも女子はいい匂いをしてるんだ?匂いフェチではない俺でも気を抜くとクラっとしてしまう時がある。俺クラスだと気を抜くことはないけどね!
それにしても三浦といい、お前といい、なんでこうも俺の意見を無視するんですかね。俺の人権はどこをほっつき歩いているんだよ。早く帰ってきてくれ。
「いろは、ほらこっち来な」
「はーい」
三浦に呼ばれて一色はリビングのソファに座り、なにやら話し混んでいる。朝からゆるゆり的展開は居心地が悪いからやめてね?というか俺やっぱり先に学校に行ってたほうがよくないですかね。
「お兄ちゃん、なに考え込んでるのか知らないけど、早く食べないと遅刻するよ?」
「あぁ。そうだな」
小町に促されてダイニングで朝食を食べながら、リビングでゆるゆりを繰り広げているあいつらとのことを思い返す。
三浦と一色は俺の幼馴染と言っても差し支えはないだろう。近くに住んでいることもあって(三浦は隣だが)、小学校の頃からの付き合いになる。
高校生になったらこの関係も変わるだろうと思っていたが、三浦は小町を使って俺の志望校を聞き出していたらしく、いつの間にか同じ高校に行くことになった。
一色は『先輩と同じ高校に行きたいので、勉強教えてください』とその辺の男子なら勘違いしてしまうような、あざといことを言ってきた。
まったくこいつは仕方ない(決してあざとさに屈したわけではない)ので、去年は一色の勉強を見ていたが、その集中力はたいしたもんで、正直受かると思ってなかった総武高に受かりやがった。
『これも愛の力ですね!』なんて満面の笑みで言ってきたものだから、やはりこいつはあざといとその認識を改めたんだっけな。
「あ!今日、日直当番だったの忘れてた!」
「いろは先輩もなんですか?実は小町もなんですよ。一緒ですね!」
なんで小町はそんなに落ち着いているんだよ。俺なら前日からどうやって当番の相手と喋らないで済むかをシミュレーションしすぎて、いつもより30分は早く行くけどな。なんなら全てを俺がやるまである。
「ちょっと八幡いつまでのんびり飯食ってんの?もう行くし!」
「わかったから、後ろから引っ張るなって!」
バタバタと玄関に向かうこいつらの後を少し間をあけて追う。今日も慌ただしく学校に向かうことになりそうだ。平穏な日々への郷愁にかられながら、少し楽しくなってる自分に気づく。
なんだかんだ言っても、たぶん俺はこいつらのいるこの日常が嫌いではないんだろう。
正直、退屈はしないですむからな。