やはり俺の幼馴染と後輩がいる日常は退屈しない。 作:あべかわもち
「緊急事態です!!」
授業を終えた私は急いで荷物をまとめて教室を後にする。向かう先は奉仕部の部室。三浦先輩が教えてくれていたので迷うことなくたどり着きました。
途中同じサッカー部のマネージャー女子とすれ違った気もするけど今はそれどころじゃないんです。え?私もマネージャー行かないのかって?なんですかそれ知らない子ですね。
奉仕部の部室についた私は勢いよくその扉を開け放ち、冒頭の言葉を告げる。
部屋の中には三浦先輩が結衣先輩の髪を結んでいる姿があってまるで姉妹のようでした。
テーブルを挟んで向かいの椅子には雪ノ下先輩が指をこめかみにあてて、やれやれといった感じです。あとせんぱいは隅の方で読書してるようですね。何読んでいるんでしょう?
「一色さん・・・だったわよね。あまり大きな声は出さないでもらえるかしら。あとノックを忘れているわよ」
「ご、ごめんなさい」
「まぁまぁゆきのん。それよりいろはちゃんやっはろー!今日はどうしたの?」
「や、やっはろーです?結衣先輩」
その挨拶はなんですか結衣先輩・・・さすがの天然さんで可愛いですけど。うぅなんでだろ?結衣先輩見てると頭が・・・いやいやそんなことより!
「そうでした!緊急事態なんですよ!」
「一体どうしたの?あれ?ヒッキーどこ行くの?いろはちゃんがせっかく来てくれたのに」
「あ、いや、そのなんだ。急用を思い出してな。悪いがあれがそれだから帰るわ」
「全く意味わかんないし!?」「八幡?その反応はいろはの話と関係ありそうだし。座りな」「いや、あの、だから」「座れ」「はい」
三浦先輩がいてくれてよかった。ただ、最近せんぱいの察しがよくなってきてるような?少しやり方変えないといけないかもですね。
「なんだかよくわからないのだけど、一色さんも座ったら。いま紅茶を淹れるわ」
雪ノ下先輩はすっと立ち上がり、この部屋にあって明らかに私物とわかるくらい高級そうな器具を駆使して、お客様用のカップ(ケースにでかでかと書かれてるもしかして結衣先輩が?)に紅茶を注いでくれる。その優しい匂いは私を少しだけ落ち着かせてくれる。
「雪ノ下先輩。ありがとうございます!頂きます・・・うわめちゃめちゃ美味しいです!」
「そう。お口に合ったようでよかったわ。それで、そろそろ本題に入ってはどう?そこに座ってるうちの備品がなにかやらかしたのかしら?」「もしもし雪ノ下さん俺を備品扱いしないでくれます?」「「もう!八幡(ヒッキー)!話が進まないから黙って(てよ)!」」「・・・はい」
「まったく比企谷くんは仕方ないわね。じゃあ一色さん?」
「はい。じつは昨日・・・」
そして、私は昨日の顛末を皆さんに話し出しました。
まず発端の部分はたまたま、そう!たまたま偶然一緒にショッピングセンターに行ったことを告げた瞬間に-3度。
せんぱいが困ってる女の子を助けに行ったことに+3度。
その女の子が知り合いの女の子の中で一番可愛いと言ってナンパした瞬間に-6度(せんぱいが否定してきましたが三浦先輩の睨みで押し黙ってますちょっと盛りすぎたかな)。
女の子の探し物を見つけて駅まで送り届けたところまで話して+6度。
私の話に合わせて部屋の温度が変動しているみたいですけど、この人達なんで地球環境まで操作できるんでしょうか。
なんか恐いです。せんぱいなんか温度が下がる度に怯えちゃってちょっと可愛い。
「うーんいろはちゃんの話を聞いてると、ヒッキーが真面目に働いてたってことだよね。たしかに驚きだけどきんきゅうじたい?とは思えないんだけど。むしろいい話なんじゃないかな」
「そうね。今のところロリコン疑惑は晴れないけれどそこまで慌てる事態とは思えないわね」
「・・・」
うんここまで聞いただけだと、ただせんぱいが頼りになるいい話なんですよね。
でも三浦先輩はなにか気づいたみたいです。さっきからずっとせんぱいを睨んでますし。あ、せんぱいのシャツの端を摘まんでる。
「えっとですね。話はここからが本番でして・・・じつは」
私はこの場の全員が共有しなければならない事実を告げる。
「その栞ちゃんが去り際せんぱいにキスしたんです!!」
私の絶叫が室内に響き渡る。
皆呆然としているなか三浦先輩は確実にせんぱいの脇腹をつねってますね。せんぱいの顔が苦悶に充ちてます。自業自得です。
「比企谷くん」
「っ!な、なんだよ?」
「私の知り合いに優秀な弁護士がいるから執行猶予はつくと思うわ」
「有罪確定じゃねえか」
「残念だけれどこの腐った眼をしたロリコン野郎を無罪にするには世界改変レベルの力が必要よ。法に従う無力な彼らではあなたを救うことはできない。ごめんなさい」
「罵倒したいのか謝りたいのかハッキリしてくれないですかね。反応しづらいだろ」
「ひ、ヒッキー!ほんとうに、き、キスしたの?」
「ちょっと由比ヶ浜さん?おれからした訳じゃないからね?向こうが勝手に・・・!?」
「したんだ」「有罪確定ね」「・・・」
その後のせんぱいは延々と正座をさせられて、三者三様のお説教を受けていた。
雪ノ下先輩はロリコンがどれだけ世の中にとって悪なのか延々と語り、結衣先輩は栞ちゃんをどう思っているのか誰に似ているのか延々と聞いていた(あれ?普通)、三浦先輩は無言で睨み続けてそのうち照れてしまったのか俯きながらチラチラせんぱいを見つめていた(なにそれ可愛いじゃないですか!)
「それで、せんぱい。結局のところ、あの子と面識は本当に無かったんですよね?」
「当たり前だろ。あんな天使が小町以外にもいたとか、知っていたら可愛いがり過ぎて通報されているまである」
「通報されるのは確定なんですね・・・でもそれじゃあ、これから先、あの子に会うことはないですよね?ね?」
「・・・あぁ」
なんですか?その間は。
「まぁでもまだ小学生のようだし、ちょっと背伸びしたかっただけなのかも?」
「由比ヶ浜さんの言う通りかもしれないわね。海外だとキスはスキンシップの範疇ではあるし。頬へ唇をあてるのは日本の文化なのだけれど、ご両親がしているのをみて覚えていた可能性もあるわね」
「ふーん。さすが雪ノ下さん」
「さすがもなにもないわ。私帰国子女だから。それだけよ」
「うへえ!?ゆきのんきこくしじょだったの!というか、きこくしじょって?」
「由比ヶ浜まじか」「結衣さすがにあーしもフォローできないし」「結衣先輩・・・」
「もう!みんなして酷い!」
結衣先輩のおかげ?で場が和んだようです。私もあまりのことに少し気にしすぎてたのかもしれませんね。
たとえでもありえないですけどあの子がせんぱいに興味を持ったとしても、まだ小学生ですし、私達との繋がりもないんですし。あれ旗が見えるような?
「あ!そういえばその栞ちゃんって苗字はなんていうの?」
結衣先輩が突然思い出したように私に尋ねてくる。そういえば、かいつまんで話していたから、栞ちゃんとしか言ってなかったっけ。
「えっとですね。たしか」
「城廻って言うんじゃないかな?」
「そうなんですよ!よくわかりました・・・え?」
私のかわりに栞ちゃんの苗字を当てたのは奉仕部のメンバーではなく、教室の入り口に立つ一人の女生徒でした。
ポワポワした雰囲気とふわりとした髪型がマッチしていて、彼女の少し垂れぎみの大きな瞳からとても温和な印象を受ける。なんていうかめぐりっしゅ!とかいって癒してくれそうです。
特徴としては前髪を髪留めでまとめているところですかね。この学校には本当に美少女多いですよねえ。あれ?前髪の髪留め?
「まさか雪ノ下さんの部活にこんなに人がいるとは思わなかったよ。いつの間に部員が増えてたの?」
「城廻先輩。お久しぶりです。あの、すみませんがこれからはノックしてから入ってもらえますか?あと部員のことは平塚先生に聞いてください」
「あ!ごめんねぇ。つい栞のことが話題になってたから飛び込んじゃった」
てへへと笑うこの人をみた瞬間、私はこの人は天然物だと確信する。女子はこういったことを察知することに長けているんです。でもだからこそ、この人のことは苦手かもしれません。
「はじめましての人が多いよね?私は3年の城廻めぐり。さっきまで皆が話していた栞のお姉ちゃんです」
えっへん!という効果音がつくように胸を張るポーズをとるめぐり先輩。
かくいう私はこの前せんぱいの横で観ていたボクシングの試合でいうところの、鐘が鳴った瞬間にKOされた気分です・・・マジですか
「補足するとうちの学校の生徒会長よ」
「皆これからよろしくね」
ニコニコと胸の前で手を合わせて挨拶するめぐり先輩と対照的に私の気分は昨日に続いてまたもや沈んでしまう。
あぁ!信じられません!またもや誰かの策略にのせられたなんて!
これからどういうことが起こるのか検討がつきませんけど、少なくともこの城廻姉妹に振り回されることだけは確信できました。
もうなんなんですか一体・・・
どうしよう。本編進めたいのに城廻姉妹が溢れだす。