やはり俺の幼馴染と後輩がいる日常は退屈しない。 作:あべかわもち
追:閑話が続いてるのでタイトルをちょっと修正しました。
―19時30分
―城廻家
生徒会の仕事を終えて帰宅した私は、玄関で靴を脱いだあとダイニングに直行する。
そこにはソファに座ってリビングのテーブルを凝視している妹の栞を心配そうに見つめるお母さんの姿があった。
お母さんはとても私と栞を産んだとは思えないほど若々しく、いつも笑顔を絶やさない人だ。
この前も栞と三人で買い物に行った時、お店の人に「美人3姉妹」と言われて照れまくり、私よりはしゃいでいたくらいだしね。
そんなお母さんが珍しく思案顔になっているの。
どうも変だなと思いながらも、今は疲れた身体を癒すべく冷蔵庫から大好きな武蔵野牛乳をとりだす。
本当ならお風呂上りの一杯がいいんだけどね。
まずは一杯でのどを潤した私は、お母さんの向かいの椅子に座り、同じように栞を見つめる。
栞は私の5つ下で、その可憐な顔だちも、行動の一つ一つさえも愛おしく、本当に可愛くて仕方ない。この世に天使がいるのならきっとこういう子に違いない。
ちょっと大げさ?いやいやそんなことはないよ。だって可愛いもん。
うん?でもいつもとなんか様子が違う?
「ねえお母さん。栞どうかしたの?さっきからずっとスマホと睨めっこしてるよ」
そんな栞を見ていて、ふと気付いたことがそのまま口をついて出てきた。
同じ疑問をお母さんも持っていたようで、すぐに答えてくれた。
「やっぱり気になるわよね。じつは、それがよくわからないのよ。帰ってきたと思ったら、いきなりソファに寝転んでクッションに顔を埋めて足をバタバタさせて。もうはしたないわよって注意したら足バタバタをやめてくれたの。でもとっても可愛かったからちょっと残念だったわ。あぁ、もう一度足バタバタしてくれないかしら」
「へぇいつも栞は大人っぽくしているけど、まだまだ子供なんだね」
栞がクッションに顔を埋めて足バタバタしている光景を想像してみる。
うん。
とっても可愛いかも。今度お願いしてみようかな?
・・・いやいや
「話が脱線しちゃってるよお母さん」
「あらいやだ。そうだったわね。それが聞いても理由を教えてくれなくて。めぐり、ちょっと聞いておいてくれない?私はさすがにそろそろ夕ご飯を用意しないといけないし」
「いいよ。やってみる」
私は椅子から立ち上がって、ソファに座る栞の横に座って話しかける。
「ねえ栞?」
「めぐちゃんお帰り。どうしたの?」
「うんただいま。えっとね。今日学校でなにかいいことあった?」
「学校はいつも通りだったよ」
おかしい。
栞は学校であったことを毎日なにかしら楽しそうに話してくれるんだ。なのに「いつも通り」と言う。これは他に大きな出来事があったに違いないよ。
名探偵めぐりはそう結論付ける。
「じゃあ、どこかでなにかあったのかな?」
私がそういうと、それまでスマホだけ見ていた栞が私のほうをみた。
その顔の表情からは伝えたいけどどうしようという彼女の葛藤が見て取れるようだった。
「どうしたの?」
私はちょっと意地悪く、先を促す。
ごめんね栞。
いつもだったら聞き出そうとは思わないんだけど、今日はお母さんも気にしていたし、なぜか私もとても気になるんだ。
「うん。でも・・・まずはこれあげる。めぐちゃんへのプレゼント!」
「え、これって・・・」
「めぐちゃんが髪留め変えようかなって言ってたから、いつものお礼に買ってきたの」
「し、しおりいぃぃ!!」
「あぅ。く、苦しいよめぐちゃん・・・」
やばいやばいやばいどうしよう。これはもう本当にやばい。どれくらいやばいかと言うと、まるで世界中の幸福が今私の元に集まってきたくらい嬉しい!
いや世界中の幸福を集めたらどうなるか全く想像がつかないんだけどね。
嬉しさがストップ高してしまった私は栞を全力で抱きしめる。
そのおかげでソファに栞を押し倒す格好になっているけど仕方ないよね。もう本当に可愛いんだから!
当初の目的をすっかり忘れてしまって、私は栞に感謝の言葉を返す。
「本当にありがとう!栞、一生大事にするね!」
「う、うん。喜んでくれてよかったよ!めぐちゃん」
若干私を見る目に脅えがあるような気がしないでもないんだけど、たぶん気のせいだよね。
だって栞が私にそんな目を向けるとかもう私生きていけないよ。
いやさすがに言い過ぎかも。
「あ、あの、それでね?続きを話してもいいかな?聞きたいこともあるし」
「うん?あぁそうだったね。どうぞ」
「えーと、実は今日ね・・・」
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夕食後、お風呂上がりにダイニングに来た私は、やっぱり武蔵野牛乳でのどを潤しながら、さっきの栞の話を思い返していた。
『たしか、比企谷八幡って言ってたんだけど、めぐちゃん知っている人?いろはお姉ちゃんの制服がたしかめぐちゃんと一緒だったから同じ学校だと思うんだけど』
どうやら、栞が今日お世話になった人の名前らしい。
ちなみに女の子と一緒に居たようでそっちの子は一色いろはさんと言うみたい。
よくよく聞いてみると、栞はその比企谷くんの話をする度にテンション高く顔を赤くしていた。
しかも一色さんとの関係について話すときは『やっぱり恋人同士なのかな・・・』とこの世の終わりと言わんばかりに凹んでいた。
しかもその比企谷くんには連絡先を教えたらしい。どうやって教えたのかは、なぜか教えてくれなかったけど。
もうこれだけ状況証拠がそろえば、なんで栞がスマホと睨めっこしていたのか、わからない方がおかしいよね。
どうやら栞は比企谷八幡くんという人に好意を抱いたようだった。初めての恋に戸惑ってる栞がとてつもなく可愛い。
だから彼から連絡がくるのをその可憐で細い首を長くして待っていたのだ。
私は愛くるしい妹の成長が嬉しくて、そう確信した瞬間、栞をまた抱きしめた。『お姉ちゃん苦しいよぉ』もうなんて可愛いの!また抱きしめる。しばらく抱きしめていたが、解放した瞬間、栞に可愛く怒られた『もう!嬉しいけど苦しいんだからね!』また抱きしめたくなったけどさすがに自重する。私ももう高3だもんね。
「いつの間にか栞も恋を覚えるお年頃になったんだなぁ」
しみじみと妹の成長を噛みしめる。
でも飲んでいるのが牛乳なのはちょっと締まらないかも。でもコーヒーとか苦いから苦手だしなぁ。
―バン!!
ギョッとして音のした方を向くと、リビングに繋がる扉が乱暴に開けられて壁にぶつかる音だったようだ。
その扉の前には、ピンクのふわふわしたパジャマ姿の栞(もう可愛くてどうしよう)が今にも泣きそうな顔をして立っていた。
「お、お姉ちゃん!どうしよう!本当に連絡がきた!なんて返せばいいのかなぁ」
私の姿を見つけた栞はトテテテとやってきて私の胸に抱き付いてくる。
「・・・どうやら今日は長い夜になりそうだね。お姉ちゃんに任せなさい!」
「ぐすん。あ、ありがとう」
そんな反応を示す栞を微笑ましく思いながら、彼女の髪の毛を撫でる。
同じ女の私からみても栞の髪は柔らかくていつまでも撫でていたくなる。あぁなんて(以下略)
それにしても我が家の天使である栞をたった半日足らずでここまで魅了した比企谷くんに興味が沸いてきた。あとは一緒にいたという一色いろはさん。
明日学校に行ったら生徒会によく顔を出してくれる平塚先生にでも聞いてみようかな。
なんだか楽しくなってきた。
いつの間にか浮足立っていた私は自分の口から漏れ出た言葉には気づかなかった。
「・・・比企谷八幡くんか」
その日、彼女の家のリビングの明かりは朝方までずっと灯っていたという。
めぐり先輩めぐりっしゅの原点はここにあるのかな