やはり俺の幼馴染と後輩がいる日常は退屈しない。 作:あべかわもち
「お兄ちゃん、結衣さんのこと知ってたの?」
由比ヶ浜の依頼が一色の犠牲のもとでお開きとなり、皆が帰宅した後、いつものように(最近ご無沙汰ではあったが)小町と二人で夕飯を食べていたら、いきなり小町から由比ヶ浜のことが話題に出た。
「知ってたもなにも同じクラスだからな。といってもそのことを知ったのは今日なんだが」
「今日まで同じクラスと気づかないお兄ちゃんって…」
なんかとても残念な子を見る眼をしている。
「いやいや仕方ないだろ?向こうだって今日まで知らなかったと思うぞ。いや、クラスの連中皆知らないまである。普段ステルス機能を展開しているからな。…まあ三浦は例外だが。あと一色」
そういえば、由比ヶ浜の暗黒物質(クッキー)によってノックアウトされた一色は、「うぅ~せんぱい謀りましたね…」とうなされながら、三浦に連れられて自宅に帰っていったっけ。
ちょっと、なんで俺が悪いようになってるんだ?
「うーん…三浦先輩といろは先輩が出てくるのは義妹としては嬉しい限りなんだけど…でも結衣さんもきっと…」
なんかぶつぶつと呟いている。妹の字が違う気もするが気のせいだろう。
「よくわからんが最初の質問に戻ると、由比ヶ浜のことは今日知ったということになるな。クラス内で見かけた気がしないでもないが話したのは初めてだ」
「はぁ…結衣さん…」
おれの答えに対して頭を抱えてしまった小町。どんな表情でも可愛いのはやはり小町が天使だからだろう。小町愛してるぜ!
「あぁはいはい小町もアイシテル」
「なんで当たり前のように心を読めるんだよ!?というか棒読みはやめてね傷つくから」
どうしておれの周りには読心術を心得てるやつばかりなんだろ?こえーっての。
「それで、結局、由比ヶ浜がどうしたんだよ?」
「どうもしないよ?ただ、お兄ちゃんはゴミいちゃんだなって」
あれれ?なんで罵倒されてるの?
「小町的にはお義姉ちゃんが増えるのはすっごく嬉しいんだけど、まさか一度も話したこと無い人に手を出すとは思わなかったというか」
「手を出すってなんだよ?俺が手を出すとかどんな無理ゲーだよ。俺が女子に声をかけるだけで、瞬間的に悲鳴をあげて逃げられるまである」
言っててなんか悲しくなってきた…
「いつも自虐に走って凹むのやめてよね。こっちまで凹んじゃうから。でもでも、小町はそんなお兄ちゃんを応援してる!あっ今の小町的にポイント高い!」
「はいはいありがとよ」
そういって小町の頭に手を伸ばしてぽんぽんと撫でる。こうしてなんだかんだ言って励ましてくれる小町はやっぱり天使だ。ポイントさえなければだが。
「お兄ちゃん」
「どうした?」
少しトーンを落とした真剣な声色に、こっちも身構える。
「小町は、どんなときでもお兄ちゃんの味方だからね。だからなにかあったらいつでも相談して」
「…」
「絶対だよ?」
「あぁわかったよ」
小町の真剣なお願いだ。
おれのことをなんだかんだ言いつつも心配してくれてるんだろう。
小町、ありがとよ。
「小町も、その、なんだ。なにか悩みとか、そういうのがあったら相談しろよ。話くらいは聞いてやらんでもないから」
これだけ小町が心配してくれるのだから、兄として少しでも、力になれるのであればってやつだ。結構恥ずかしいんだからな!こういうセリフ!
「あっそれは間に合ってます。お義姉ちゃん達に相談するので」
「!?」
幻の左に匹敵するであろう突然の左ストレートなカウンターでノックアウトされた俺は、ガラガラとその場に崩れ落ちる。
小町ちゃんそれはないだろう…
燃え尽きたぜ…真っ白にな…
「…いつもこれくらい素直だったら、小町達の苦労は少ないのに」
真っ白に燃え尽きた俺には小町の呟きは届かなかった。