やはり俺の幼馴染と後輩がいる日常は退屈しない。 作:あべかわもち
「へぇー雪ノ下さんもその小説読むんだ?」
「あなたも?こういった類のものを読むとは思っていなかったから、正直意外ね」
「八幡の部屋にあったから借りたのよ」
「そう。仲いいのね」
「べ、べつに仲いいわけじゃ・・・あるかも?」
「なぜそこで疑問形ですかね。いやわかっていたけども」
仲いいというか、ただの腐れ縁のようなものだしな。
八幡、勘違いしないよ?
「なにを意識しているのかしら自意識過剰くん。彼女はあなたと幼馴染であることに疑問を持っただけで、生理的に極めて普通の反応よ?」
「自意識過剰だったのは昔で、今は自意識不足なくらいなんだが」
「・・・もう少し過剰でもいいのに」
「過剰になったらどうなるかわかってるだろ?・・・もう、あんな悲劇を起こしたくないんだ」
俺の悲劇ではなく俺の友人の悲劇だが。
「はぁ・・・わかってるわよ。これだから八幡は・・・」
「三浦さん、諦めた方がいいわ。この男に女心をわかれというのは酷よ」
「八幡を悪く言われるのはアレだけど、その通りだから溜息しかでないし。はぁ」
奉仕部への入部から1週間。
初めはどうなるかと思っていたが、不思議なもので、水と油のような関係だと思っていたこの二人はなんだかんだ仲良くやっている。
心底意外だ。
まぁ俺は空気なんですがね。
そんなこんなで、今日の部活も依頼なく、平和に(俺の心のダメージは除いて)終わるのかと思っていたら、急にドアが開き信じられないことに依頼者がやってきた。
「あのーここは奉仕部ですか?」
「ええそうよ」
「あれ?結衣じゃん」
「えーー?なんで優美子がいるの!?わ!ひ、ヒッキ―まで!!??」
「うん?ひっきーってまさか俺のことか」
なんという驚愕のネーミングセンスだ。
有吉先生に弟子入りして鍛えてもらえよ。
門前払いだろから、それで現実がわかるだろうけど。
「あなた、すごく素敵なアダ名を持っているのね。とても似合っているわよ?」
「これを素敵だなんて言うお前のセンスを疑うんだが」
「結衣、八幡に変なアダ名つけんなし。せめてヒキオくらいに」
「三浦さんも十分おかしなセンスですね」
ここには俺しかまともな人間はいないようだ。
そのまともな人間が変なアダ名というのも皮肉ではあるが。
「あはは。みんな仲いいんだね・・・」
なぜか凹んでいるアホッぽい子(仮)。
みんなって誰だよ。
うん?そういやどっかでみたような気はするんだよな。
「それよりも結衣。あんた、この部活に用だったんじゃないの?」
「そ、そうなの。でも、ヒッキ―もいるし、別に急ぎってわけでも・・・」
「・・・わかりました。比企谷君、出て行きなさい」
いきなり何を言い出すのかと思ったが、よく考えたら女子だけの方が話しやすいことはあるわな。特にすることもないんだし、お言葉に甘えさせてもらうとするか。
「・・・小町が待ってるから帰るわ」
「は?一人で帰るとか認めるわけないし。30分くらいしたら、ここに戻って来るんだし」
「私としては帰ってもらってもいいのだけれど」
「いいから。戻ってくること。わかった?」
「へいへい」
こいつの旦那は尻に敷かれるな。可哀そうに。
さて、仕方ないので、時間つぶし。
こういう時はマイベストプレイスに行くに限る。
と思って意気揚々と向かったのだが、なぜか先客がいた。
「なんだ来てたのか、一色」
「せ、せんぱい!?なんでここに?まだ部活じゃないんですか?」
そう言いながら、一色の少し横に腰掛ける。
一色はジャージ姿だったが、学校指定のものではない、ピンクのストライプの入った紺色のジャージを着ている。
「そういうお前も部活中だろうが」
「さぼりですよ?」
「さも当たり前のように言うなよ・・・」
今頃、サッカー部のやつら探しているんだろうな。
噂では、サッカー部の約半分はこいつがマネージャーをすると知ってからの入部希望者だったらしい。
どんだけ~。
「せんぱい、古いです」
「古いからこそ良いんだろうが。というか心を読むなよ」
「そのネタがいいかは別ですけどね」
あれ、スルーされたあげくに、論破されてしまった。
「とにかく、ばれたら大変なので、私を隠してくれませんか?あっでもその運動不足の身体だと私は隠せないですよね。もっと鍛えてくださいよ」
「なぜ運動不足だと?」
「せんぱいをいつも見てるからですけど?」
さも当たり前と、キョトンと首をかしげる一色。
どうしよう。
あざといと知りながらもキュンとしたじゃねぇか。
運動不足ってのは締まらないがな。
「よく恥ずかしげもなくそういうセリフが言えるな。さすがあざとい」
「ふふん。そのセリフはもう私には効きませんよ?」
「なんでだ?」
「だって、せんぱいの『あざとい』は照れ隠しですよね?」
「は?何言ってのお前?俺が照れてる?そんなことあるあわけないっしょ。この自意識不足の俺からすればお前のあざとさくらい問題ないし」
「せんぱい、口調が三浦先輩になってますよ?」
「おほん。つまり、照れてないということだな」
「はいはい。そういうことにしておきます」
そう言って、にやにやしながら俺の肩にもたれ掛かってくる一色。
いつの間に接近してきたんだ。
「おい、そんなにくっつくな。変な噂になったら困るだろうが」
「嫌です♪むしろ噂になればいいのに」
「おいおい・・・」
「どうですか?」
「なにがだ?というか顔が近いんだが」
「ちょっとは、ドキドキしますか?私のこと、意識してくれていますか?」
「それは、その、だな」
くそ!自意識不足な俺には、こういう時どうするのがいいのかわからない。
誰かマニュアルをくれマニュアルを。アマガミのでもいいぞ。
「あはは。なんか恥ずかしくなってしまいました。答えてくれなくていいです」
そう言って顔を少しだけ離してくれた。
よかった。なんとか持ちこたえた。
主に俺の理性が。
「恥ずかしいならさっさと離れてくれないか?」
「嫌です♪せんぱいは私に抱きつかれていればいいんです」
「なんだよそのとんでも理論は・・・」
結局、俺を探しに来た三浦によって強制的に引きはがされるまで、一色は俺にくっついたままだった。
やれやれ。
さて、これで終わりかと思っていたら、そうは問屋が卸さないようだ。
「で?」
「あれは一色が勝手にだな」
「あぁん?」
「いえ、なんでもないです・・・」
部室に戻ってから、三浦による尋問が続いている。
かれこれ2時間くらい。
いや言いすぎか。
30分くらいだ。
なぜこうなっているのか。さっきの件ですね。わかります。
ちなみに、この件の主犯である一色は部活があるとグラウンドに戻っていった。
ひきょう者!
「ね、ねぇ優美子、もういいんじゃないかな?ヒッキ―も反省してるみたいだし・・・」
「反省ってなんだ「あ?」・・・はい、反省しています」
その目はアカンだろ。。。
おもわずジャンピング土下座してしまったぞ。
「あーし達が一生懸命、部活動の責務を果たしている時に、八幡は後輩の女の子と不純異性交遊をしていた。間違いないよね?」
「不純異性交遊ってなん「・・・」・・・はい」
もはや意見すらできないのか。
というか不純異性交遊っていまでも使うやついるのか?
「じゃぁ、覚悟はできてるんだよね?」
さっきから三浦さんの口調が怖いです。
近寄って来る三浦さんのオーラがやばくて体が動かない。
メデューサかなにかですか。
「はいそこまで」
そんな三浦さんを止めたのは、意外や意外。
雪ノ下雪乃。我らが部長だった。
「盛っているクズガヤくんに時間を割いていたら、由比ヶ浜さんの依頼ができないわ」
そうだそうだ。
依頼が重要だよな。
さすがわかっているじゃないか。
俺への暴言は聞かなかったことにするから、そのままなんとか有耶無耶に。
「部活中にやる必要はないのでしょ?」
ん?
あれ雲行きが。
「・・・わかったわよ。じゃぁ、帰ってからたっぷり、ね?八幡?」
「あら、そんなつもりではなかったのだけれど」
ニヤつきながら言っても説得力ねぇよ!こいつわかっててやってやがんな。
これだから女ってやつは!
「あはは・・・ヒッキ―どんまい?」
こいつはこいつで頼れなさそうだしな。
やっぱり小町しかいないな。
後で助けてもらうとしよう。
「話はついたようね。では行きましょうか」
「行くってどこにだ?帰るんじゃないのか」
「話してなかったわね。由比ヶ浜さんの依頼よ」
「依頼?」
「そう。由比ヶ浜さんの依頼を相談した結果、お菓子をつくることになったの」
「そうか。いいじゃないか」
実に女の子らしい依頼だ。
ただなぜ全員で移動する必要が?
「だから、行くのよあなたの家に」
「はい?」
「ヒッキ―、よろしくね!」
「お菓子作りの会場はあなたの家に決まったから」
「えぇぇ!?」
どうやら今日という日はまだ終わってはくれないようだ。
読んで頂いてありがとうございます。
あべかわもちでございます。
久しぶりの投稿です。
おかしいな。昨日初詣に行った気がするのに。
時間は残酷ですね。細々と続けていきます。
これからもよろしくお願いします。