トレンチコートと白銀鎧   作:キョウさん。

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爆殺フィストの撃鉄やグリーズド・ライトニングの核分裂電池設定なんですが、実際に作中明確になっているわけでなく、英wikiや旧作の設定を見てこれはこうなのか、と作っています。

例えば爆殺フィストはFallout:Tacticsでショットシェルを使っていたパンチガンの設定と、Newvegasでもそうしたかったけどゲームエンジンがサポートしていなかった話を基にしています。


第二章:パラダイス・フォール 2話

 意識が夢うつつから戻り、目蓋が開くと共に開け放たれた窓から注ぐ光が目を直撃する。

 ちょっとだけ鬱陶しそうに目を閉じ、薄めを開け目を慣らせた後、眠気眼(ねむけまなこ)のロイズはまず肌の感覚だけで自身が置かれている状況を分析してみた。

 

 重力が正面から降り注ぐ、これは自分が今寝ているということ。だが以前のような後頭部に突き刺さる雑草の痛みはなく、むしろとても柔らかな感触が頭を受け止め、身体を優しく包み込んでいた。

 頭の後ろへ手をやる。着ていたパワーアーマーは脱がされていたため、すんなりと肩が曲がった。

 後頭部から優しく受け止めてくれるそれは、やわらかな生地で出来た枕。次いで身体を覆う感覚をひょいと手に持ちひらひらと振る、身体を包んでいたものも、滑らかな生地で出来た布団だった。

 

「ここは・・・」

 

 身体は動かさず、頭だけを動かし周りを見る。

 天井は自分が住んでいた地下バンカーよりも低く、ところどころ木材が使われているものの天井や壁の素材は石材、レンガが多くを占めていた。

 小さな鏡台には花瓶が飾られていて、置かれた棚には読めもしない文字が書かれた瓶が並んでおり、形も色も不揃いだったがわずかに中に入っている粉末や液体が見てとれた。

 

「医務室・・・?」

 

 未だだるさの抜けないままの身体を起こし、体育座りの姿勢になると一度上半身を大きく伸ばす。

 つられて大きなあくびが漏れてしまい、再び眠気が襲ってくるのを頭をぶんぶんと振って振り払った。

 

 同時、左手に見える木製の扉のノブが、ことり、と小さな音を立てて回される。

 ロイズはそれに気づくと目を細め警戒し、目だけを動かして周囲の使えそうなものを探す。

 

 そしてすぐに扉がぎぃ、と間抜けな音を立ててゆっくりと開かれる。

ロイズはいっそう警戒を強くするが、扉が半開きになったころには部屋に入ってきた人影を見て拍子抜けし、手を頭の後ろで組むと、ぼふっと勢い良く枕に頭を降ろし再び寝そべった。

 

「おっ!おはようだな相棒!起きてたか!いやぁーお前がすっ倒れたせいで俺は眠れぬ夜を・・・」

「先にここがどこか教えてくれよグール、あと寝てる間に服脱がしたのお前か」

「相変わらずキツイな相棒・・・まあちょうどいいさ、それに関しちゃ適任者がちょうどいる。 ―――アルレットさん、このキツい兄ちゃんが俺の相棒ですぜ」

 

 ティコが扉を開け、先に入ると共にくるり扉の裏に陣取り開けたままにする。扉の向こうから更に強烈に差す光にロイズが片手で目を覆いながら見ると、扉をくぐり一人の、紫色のショートヘアをした女性が部屋に入ってきた。

 

 年の頃は20を越えしばらく、だろうか。紫の髪は小さな飾りのついた赤いカチューシャで綺麗に整えられていて、同色のフチをした眼鏡が切れ長の目と、落ち着いた表情と合わさり知的な印象をのぞかせる。

 そしてその体には、金色で鳥を模したマークが塗装された銀色の胸甲をベースに、各部に青いパーツを組み込んだ軽装鎧と、鞘に収められた長剣が装着されていた。

 

 彼女、アルレット・アルケインが部屋に入りきったのを確認しティコが扉をぱたんと閉じたあと、彼女はつかつかとベッドから見ていたロイズのそばへ歩み寄り一礼した。

 

「王立騎士団、サンストンブリッジ支部団員兼隊長秘書のアルレット・アルケインと申します。お噂はかねがね聞いております。ロイズさん、ですね?」

「おっ、あっ、はい、ご丁寧に・・・オレが、いや自分がロイズ、です」

 

 アルレットが深々と一礼するのを見、ロイズも慌ててベッドに正座するとお辞儀しかえす。

 その滑稽な様子にティコはぶふっと吹き出すと、ロイズは彼を睨みいーっと嫌そうな顔を向けた。

 

「昨日の魔獣騒ぎで、あなた方二人はあの熊の魔獣・・・私達がベビ・ベアと呼んでいたあれをいとも容易く屠ったと聞き及んでいます。そのすぐあと、倒れたあなたはあわてて周りの人々に運ばれてきたんですよ」

「てーことは・・・」

 

 ロイズは左腕のPip-boyのディスプレイを見る。

 

「14時間も寝てたのか・・・」

 

 言葉に起こしてみると存外に長い時間、自分は眠り続けていたと聞かされ驚く。

普段なら長く寝られて9時間がいいとこであった彼、それが14時間となると、もはや睡眠というよりは意識喪失に近かった。

 

「V.A.T.S.はかなり負荷がかかるって聞いたけど、まさかぶっ倒れるまでだとは思わなかった・・・いや、元々疲れてたからか?」

「医師の調べではただの疲労だそうですが・・・バッツ?とはなんでしょう?」

 

 ロイズの漏らした一言にかわいらしく首をかしげ食いつくアルレット。

 

「まあ、オレの切り札みたいなもんさ、つまり・・・」

「超速くなって、超目が良くなって、超疲れる、そんなもんさ。昔の俺の相棒もそうだった・・・アイツは規格外だったがな」

「人のセリフを・・・まあ、そんなもんだ・・・です、アルレットさん。こいつに搭載された機能で、熊のヤツを仕留めたのもそれで、倒れた原因もソレです」

 

 左腕にはめ込まれたPip-boyをよく見えるようにし、(ゆび)()しくるくると腕を回して見せるロイズ。アルレットは興味深そうに目をぱっちりとさせ、それを身を乗り出してしばらく見ていた。

 

「魔道具、でしょうか?そんな特殊なもの、見たことがありません。医師も左腕に完全にはまっているのだと取り扱いに困っていた様子でしたが、なんともないんですかロイズさん?その、痛みとか」

「戦前の科学力ってヤツですかねー、全然大丈夫ッスよ!なんか神経と完全に接着されてるみたいで、取り外せなくなっちゃってますけど」

「装着すると、一生取り外せないんですか?呪いの道具にそのようなものがあると聞いていますが・・・」

「こんな呪いなら悪くもないッスけどねー・・・軽くて邪魔にならないし、なにより便利ですから、ホラ」

 

 ロイズがつまみとボタンをいくつかいじると、音楽が流れ出す。このファンタジーな世界観に似つかわない、戦前20世紀のオールディーズであったが、ロイズの腕についていた小さな道具から音楽が流れるのを聴き、アルレットは口の前で手を合わせ驚きにさらに目をぱっちりと見開いていた。

 

「すごい・・・!蓄音貝ならたまに見かけるけど、こんなに長く音を記憶しておける魔道具なんて聞いたことがない・・・他にも、他にもあるんですか!?」

「もちろん!シナトラにプレスリーだってあるし・・・ここにマップ機能、メモ帳に今はつかないけどラジオだってあるぜ!」

「文字は分からないけどこれほどの文章・・・それにこの城壁内の地図まで自動で・・・すごい!」

「あー、お二人さん、盛り上がってるトコ悪いんだが、その・・・」

 

 Pip-boyから流れる軽快な音楽に耳を傾け、ついにはベッドに乗り上げて一緒にディスプレイを眺めていたアルレットとノリノリのロイズにティコがやりにくそうに声をかける。

 それでようやく気がついたようで、ロイズは想像以上に近くにいたアルレットにどきりとし慌てて飛び退き、アルレットもアルレットで自分が醜態を晒していたことに顔を赤くしごほん、とわざとらしく咳払いをしてから再びロイズの座るベッドの脇に構えた。

 

「・・・お見苦しいところをお見せしました、今回ロイズさんには魔獣討伐の件に関してのお礼を隊長秘書として述べたかったのと、並んで騎士団からの報酬、それとあなたに命を助けていただいたと、交易商の方から金一封頂いているのでそちらを渡そうと」

「交易商・・・ボクソムさんか、別にいいって言いたいけどオレら思えばお金無かったしなー、ありがたくもらっておこうかな」

「そうだぜ相棒、善意は受けられるだけ受けておくもんさ・・・それでアルレットさん、もう一つ話がしたいって聞いていたが?」

 

 いつしか備えられていた木椅子に腰掛け、アルレットにもどうぞと対になっていたもう一つを差し出すティコ。彼がアルレットに質問すると、彼女は一礼述べ木椅子に腰掛け、姿勢を整えると二人に交互に目をやった。

 

「実は二つなんですが、一つはあなた方の身分です。今はモートは厩舎に預けてありますが、荷物の多さから旅商人と思ったのですが・・・お互いの荷物に許可証はないし、身分を証明するものも見当たりませんでしたので」

「まあ確かにな・・・商売するのに身元がわからん、てなりゃドラッグ売ってると勘違いされかねん」

「もし許可証が無い場合、それだけでここでの商売はできませんから正式に手続きをすることになるのですが・・・それも身分証が無ければどうにもならないので」

 

 困ったような顔をするアルレットに、つられるように困った顔をする二人。

パワーアーマーを脱がされていたロイズはもとより、事前に教えていたのか今はヘルメットを脱ぎその焼けた顔を晒すティコも腕を組みうなだれていた。

 

「そしてもう一つです。 ―――我が騎士団に入隊しませんか? ・・・通常ならそう簡単にはなれないものですし、ティコさんは大やけどで最初は敬遠されるかもしれませんけど、ロイズさんも、おふた方相当な実力をお持ちのようですから、儀礼さえ身につけてもらえればすぐに正式採用もできると・・・」

 

 背筋を伸ばしたまま話すアルレット。この問いに、ティコはうなだれていた首を横にかしげる形に変え、ロイズの方も腕を組んでうんうんと答えを探し始めた。

 

そしてほんの一分か、その程度の時間が経った頃、ティコが口を開く。

 

「・・・まずはそうだな、一つ目――― 俺らがどんな奴か、これから答えるか・・・いいな?相棒」

「・・・まあ、そうなるよな」

 

 両者が視線を合わせ、了解する。

そのあと、ティコは組んでいた腕を降ろしアルレットへと視線を送り、視線を受けたアルレットのまた、真剣な目線を送った。

 

「あの荷物はそもそも売りに来たワケじゃないのさ、本来は輸送でね・・・まあ、そこが問題なんだが・・・。飛ばされたんだ、俺達」

「飛ばされた?もしや時空の裂け目に?でもあれはせいぜい数kmから数十kmがいいところのはず・・・」

「だろうな、だが俺らはそんな比じゃない、数百、数千・・・いや、もっと遠い、そんなところから飛ばされた」

「数千・・・!?そんなこと、聞いたことが」

 

ティコが話す言葉に驚きを隠せず、つい姿勢を前のめりにするアルレット。

 

「カリフォルニア、NCR、Brotherhood・・・遠く、遠く、離れた場所さ、大陸を超えてもまだ着かない。だから今は、そこに帰るために旅をする羽目ってことさ」

「なんとしてもオレは帰る、オレの生まれたBrotherhood(騎士団)に、だから」

 

手のひらを握りしめ、表情を固くする。

 

「そっちの騎士団(Brotherhood)には入れない」

「俺は帰るとかはどうでもいいんだが・・・コイツを送り届けてやらんと気が済まなくてな、悪いがそういうことさ」

「そう、ですか・・・」

 

 少し残念そうに、眉の端を落とし息を吐くアルレット。

その様を少し気まずそうに見ると、ティコは立ち上がり、脱いでいたトレンチコートを羽織りヘルメットをかぶった。

 

「悪いな、騎士(ナイト)の姉ちゃん!あんまり長居するのも悪い気がするからよ、早いとこ俺らは出て行くさ!ほら、準備しろ相棒!」

「オレまだ寝間着のままだし・・・あっ!パワーアーマーどこやった!?」

「あっ、あの・・・報酬も後ほどお持ちしますし、身分証もこちらでご用意致しますから、もうしばらくはここにいていただいた方が・・・」

「だとよ、気が早いんじゃないのか?相棒」

「お前もうくたばれ!」

 

 聞いた途端いつのまにかトレンチコートとヘルメットを脱いでいたティコと、ベッドの上でやいのやいの騒ぐロイズ。

どこか咬み合わなくて、どこかぴったりに見える間の二人。

 

 アルレットはそんな二人をもう一度見ると、席を立ち一礼し、用があるからと扉を開いて一人外へと出て行った。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「失礼します」

 

 木製の扉を叩き、「入れ」と返答があったのを聞き届けると彼女、アルレットはノブに手を掛け、ゆっくりと開き中に入ると閉ざす。

 そして一礼すると、つかつかとそのがっしりとした石造りをし、ひと目にも質のいい調度品の並ぶ部屋の窓際に鎮座する、大きな執務机に歩み寄り静止した。

 

 執務机には一人の茶髪の男。軽装鎧を着たアルレットとは対称的に事務仕事がしやすいよう上等な布製の私服を着ている王立騎士団サンストンブリッジ支部長、エルヴェシウス・F・レスター、彼が座っていて、アルレットが目の前まで来ると筆をインク瓶に突き刺し彼女に目を向けた。

 

「おつかれレット。それでどうだった?”ティコ”と”ロイズ”」

 

 どうぞ、と近くにあった椅子を指さし、傍にあったポットから紅茶をカップに注ぐとアルレットに手渡す。アルレットはどうもと一言言ってから椅子を引き座り、紅茶を一口飲むとその味に微笑み、机にカップを置いてから口を開いた。

 

「騎士団に誘いましたが、断られました」

「そりゃ残念・・・それで、彼らは何者で、どこからやってきたか聞き出せたか?」

「はい・・・彼らは運びを生業とする者だそうですが、輸送の途中に時空の裂け目に巻き込まれてしまい・・・信じられないことに、大陸を隔てて飛んできたそうで・・・」

「大陸を?そりゃ確かに信じられんな・・・だが仮に本当だとしたら世界の旅人事情が変わるぞ」

 

 驚きの中に好奇心が混じったような表情を見せるエルヴェ、アルレットも予想通りの反応だとばかりの顔をすると、話を続けた。

 

「ただ、カリフォルニア、エヌシーアール、ブラザーフッド・・・全く聞き覚えのない地名でしたので、深く追求しないままここへ戻ってきたのです。騎士団に嘘をつくほど愚かではないでしょうし、あれだけの魔道具の数々・・・それに魔獣を二人で仕留める程の実力、ただの小悪党でもないでしょう」

「確かにそうだな、聞き覚えのない地名だ・・・。それに小悪党ならとっととあの魔道具を売っぱらっちまうだろうしな、あれだけありゃ一生困らないぜ、つい手が出そうになった」

「もし手が出ていたら、今頃この報告は出来なかったかもしれませんね」

 

 怖いこと言うなよ、とおどけたように言い、ぬるくなった紅茶を一口飲むエルヴェ。アルレットもまだ熱いままの紅茶を飲むと、ほぼ同時に机に置いた。

 

「それで、人柄はどうだった?もし小悪党どころか大悪党だったら、目をつけておかなきゃいかんからな」

「“ティコ”は噂通り大やけど、それも顔全体が焼けただれていましたが、性格はとても気のいい男でした。危険な輸送の仕事をしているのにも、その辺りの事情があるのでしょう」

「なるほどな・・・苦労してるんだろう、かなり身体もがっしりしてるって兵士が噂してたしな。それで、”ロイズ”は?」

 

 インク瓶から羽ペンを引き抜き、引き出しから一枚の小さな紙――― 身分証の用紙を取り出し、書き込みながらエルヴェが聞く。

 

「悪人ではありません。少し礼儀作法がなっていないようですが、18歳という歳を考えるとまあ、特段おかしい点はないでしょう・・・それと彼、左腕に呪われた魔道具を取り付けられているそうです」

「呪われた・・・?あの死ぬまで離せないとか、使ったら死ぬとかいう物騒なヤツか?なんでまた・・・」

「詳しい事情は聞けませんでしたが、取り外せないかわり本人に負担は無く、なおかつ高度なもののようです。彼が寝ている間に自動で城壁内の地図を書き込み、数十分に及ぶ音声を蓄音可能なもの・・・確認できただけでそれだけです」

「そいつはまたとんでもなく値が張りそうな・・・いや、呪われてたならそうでもないか」

 

一枚目の紙に判を押し横へやり、もう一枚に筆を走らせる。

 

「ともあれ、だ、悪人じゃなくても目をつけておいたほうがいいかもな。まあ張り付くほどでもない、巡回の兵に、彼らが問題を起こしたら慎重に対処するよう伝えてくれ」

「了解です、隊長」

「昔みたいにエルヴェお兄さんでいいってのに・・・。ほら、これを彼らに渡してくれ。それと今日はもう非番でいいぞ、色々内密に聞いてもらったからな」

「もうそんな歳でもありませんし・・・では、私は失礼します」

 

 

 エルヴェが判を押した紙の身分書を手に取ると、アルレットは立ち上がり一礼し、扉を開けると出て行く。エルヴェは一人残されると、椅子から立ち身体を伸ばしあくびをすると窓から見える街の風景を一望する。

 

「大やけどをして、呪いの魔道具をつけた運び屋、ねぇ・・・」

 

 

ふと見上げた空には、大きな積乱雲が見下ろしていた。

 

 

「ひと嵐、来るかもな」


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